聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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IN THE MAZE 1
それはまだ、彼らが人間界で本格的に活動を始めて間もない頃。
御互いの想いが、完全に結びついていると言う自信が、まだ持てなかった頃。
ほんの些細なことがきっかけで、絆は脆くも壊れそうになっていた。
とある任務で急遽魔界に戻ったゼノンは、その帰り道に、偶然にも恋悪魔の姿を見かけた。
「…ライ…?」
つぶやいた声さえ、届かない。それはまるで、何かに隠れるかのようにひっそりと目立たないようにしているようで。
勿論、それはゼノンの思い過ごしであるのだが…いつにないその状況は、猜疑心を生むには十分な状況だった。
自分の恋悪魔と肩を並べるのは…後姿しか見えないが、恐らくは同族の者。ふと見せた恋悪魔の表情は、ゼノンですら滅多に見ないような、安心しきった微笑み。
一瞬、どうして良いのかわからなかった。ゼノン自身、こんなことで動揺するとは思ってもみないことだったから。
得体の知れない感情が、ゼノンを占めるのに時間はかからなかった。
その日の夕刻過ぎに人間界の屋敷に戻って来たライデンは、出迎えた姿に思わず首を傾げた。
「…あれ?ゼノンは…?」
いつもなら出迎えてくれるはずの姿がない。出迎えてくれたのは、入り口に一番近い部屋のルーク。奇妙な顔をするライデンの姿に、ルークもまた首を傾げた。
「あぁ、夕方前に帰って来たんだけど、報告書を纏めなきゃいけないとかって言ってたよ。いつもなら、あんたが帰ってくれば、顔ぐらい見せるのにね…そんなに忙しいのかな…?」
ふと背後を振り帰ったルークは、ゼノンの部屋の入り口を見つめた。
ライデンが帰って来たことに、気付いていないはずはない。何せ、ゼノンの部屋の前で話をしているのだから。それに、例え声が聞こえていなくても、ゼノンが恋悪魔の気に気付かない訳もない。
「魔界で、何かあったのかな…?」
ルークのその言葉に、一瞬、ライデンの表情が曇ったような気がした。
「心当たり、あるの?」
その一瞬を、ルークが見逃すはずもない。ふと問いかけた声に、ライデンは慌てて首を横に振る。
「…特にないけど…」
その様子を怪訝に思いつつも、ルークは敢えて深入りはしなかった。
「…まぁ、暫くすれば出て来るんじゃないの?直に食事だし」
くすっと小さな笑いを零すルーク。
「…だと良いけど…。荷物置いて、風呂入るね」
ライデンはルークにそう言うと、階段を昇って自室へと向かう。
溜め息を吐き出しつつ二階へと昇るライデンの背中を見送ったルークもまた、ヒト知れず小さな溜め息を吐き出していた。
その日の夕食は、いつになくひっそりとしていた。
デーモンとエースはそれぞれ仕事に出たまま、まだ戻って来ていない。ライデンはルークと共に食卓に着いてはいるものの、もう一名…ゼノンは、未だ自室に閉じ籠ったまま、出て来ないのだ。
ライデンが声をかけても、「後で食べる」の一言を、背中越しに言われただけ。その表情すら、見せてはくれなかった。
「…ゼノンの奴、やっぱり何か変だよな?」
同意を求めるつもりで発した、ルークの言葉。けれど、ライデンから返って来る答えはなかった。
「…ライデン?」
俯いたまま、黙々と食事を口に運んでいたライデンは、ルークがかけた声さえ、どうやら届いていないようだった。
「ライデンってばっ」
「へ?…あぁ、何…?」
慌てて顔を上げたライデン。その途端、眉を潜めるルークの視線をぶつかった。
「あんたも変だよ?」
はっきりとそう言ったルークに、ライデンはその眼差しを伏せた。
「…御免…」
「…別に謝らなくても良いけどさぁ…」
思わず零れたライデンの言葉。そして、ルークの大きな溜め息。
「ねぇ…ホントに、魔界で何もなかったの?ゼノンもあんたも、魔界から帰って来てから変なのはわかってるんだよ?何で、黙ってるのさ」
問い質すようなルークの言葉に、ライデンは暫し口を噤んだまま。けれどやがて、小さな言葉を吐き出した。
「…俺…ゼノンに対して、疚しい事なんか何もしてないから…」
「…は?」
眉を潜めたルークの顔を見ずに、ライデンは席を立った。
「…もういらない。御馳走様…」
そう言うと、自分の分の食器を片付けて、階段を駆け昇って自室へと戻って行った。
「…ったく…」
たった一名だけ取り残されたルークは、訳もわからずに溜め息を吐き出すしかなかった。
その日の夜遅く…直に日付も変わろうかと言う時間になり、やっと戻って来たデーモン。
静寂を破らないように、そっと玄関のドアを開けて入って来たものの、丁度その時部屋から出て来たゼノンと鉢合わせた。
「…あぁ、御帰り」
「…ただいま…」
いつになく、ぶっきらぼうに聞こえるゼノンの口調。当然、デーモンは奇妙に眉を寄せた。
「エース、まだ帰れないって。鍵は持ってるから、チェーンキー以外はかけておいて良いって、さっき電話があったよ」
「…あぁ…」
まるで、伝達事項を伝えただけ、と言うゼノンの姿。その姿はそのままキッチンへと向かっている。
玄関の鍵を閉め、デーモンもキッチンへと向かうと、ダイニングテーブルの上には、ラップのかかった夕食が三人前、残されていた。
「誰か、食べてない奴いるのか?」
今日仕事に出ていたのは、自分とエースだけだったはず。だから、残されている食事が三人前、と言うのは当然数が合わないのだ。だからこそ問いかけた声に、ゼノンは冷蔵庫から缶ビールを取り出しながら、ぽつりとつぶやいた。
「…俺の分。食べてないから」
「具合でも悪いのか?」
「別に。ただ、食欲がないだけ」
「…なのにビールか?」
缶ビールを持ったゼノンの手を押さえ、デーモンはゼノンの顔を覗きこむ。
明らかに、いつものゼノンではない。そうわかっていながら、放って置くことも出来ず。
「何か、あったんだろう?話して楽になったらどうだ?」
「何もないよ」
平然とそう言ったゼノン。けれど、その言葉とは裏腹な表情に、デーモンは溜め息を一つ吐き出した。
「嘘付け。なら、御前のその顔は何だ?そんな酷い顔して、何もないってことはないだろう?」
真っ直ぐに見つめる、デーモンの金色の眼差し。その視線から逃れられないと察したゼノンは、大きな溜め息を一つ。
「…誰にも聞かれたくないのなら、裏庭に行くか?吾輩一名なら、話せるだろう?」
「…デーモン…」
これ以上、デーモンを避けることは出来なかった。
小さく頷いたゼノンを促し、デーモンも缶ビールを片手にリビングを抜けて裏庭へと向かった。
その日は、月の綺麗な晩だった。
大きな木の幹に凭れ掛かり、デーモンとゼノンは暫くの間言葉もなく、ただ空の月を見上げていた。
そして、二名が持って来た缶ビールを飲み終える頃、デーモンはやっと言葉を紡ぎ始めた。
「何でも聞いてやるぞ。御前の腹の中に蟠っているもの、全部吐き出してみたらどうだ?」
「…敵わないね、御前には」
くすっと、小さな笑いがゼノンの口元から零れた。そして、その笑いに促されるかのように、言葉を続けた。
「…ねぇ、デーモン…デーモンは、俺よりも前からライデンのこと、知っているんだよね?」
「…まぁ…な。でも、御前の方がライデンのことは良く知っているんじゃないのか?」
奇妙なことを聞かれた。そんな意識が、デーモンの中にあった。けれど、それ故に尋常ではないと察したのだろう。大きく息を吐き出すと、ゼノンが発するであろう言葉を待った。
ゼノンも、気持ちを落ち着けようとしているのだろう。大きく息を吐き出すと、何かを堪えるかのように顔を上げ、空の月を見上げた。
そして、ゆっくりと吐き出した言葉。
「…俺ね…初めて、嫉妬したのかも…」
「…ゼノン?」
再び、くすっと笑いが零れた。
「今日ね、急に任務が回って来て、魔界に行ったんだ。そしたら…ライデンを見かけた。顔は見えなかったけど…多分、雷神界の奴だと思うけど…一緒にいてね。向こうは、俺に気が付いていなかったと思う。だから、何を話しているのかはわからなかったけれど…凄く、安心しきった笑顔を見せてた。それを見たら…何だか、悔しくてね…」
「…そんなこと、気にすることじゃないだろう?」
「…そうなんだけれどね。でも…魔界に行ったことも、誰と逢っていたのかも、何も言わないんだ。それが疚しいことじゃなかったとしても、隠されると尚更、疑いたくなるじゃない?只単に、雷神界からの伝言か何かを聞いていただけだったとしても…話の内容がわからない俺には、素直に受け留められなかった。それが…自分自身、まだ消化出来てないんだね」
「…そう…か」
珍しく弱気なゼノンの言葉に、デーモンもどう返して良いのかわからなかった。
多分ゼノンが見たのは、ライデンに昔から付いていた宮廷官吏のフィードと言う若者だろう。デーモンはその存在を知っていた為察しは付いていた。勿論、ゼノンも知っているはずだが…顔が見えなかったのなら、確証はないのだが。
多分、ライデンはゼノンが嫉妬するだなんて思ってはいない。だから、敢えて言い訳じみた説明もしなかったのだろう。そんなこと、ちょっと考えればわかることなのだが…今のゼノンは、酷く不安そうで。
ゼノンは、ライデンを心底愛しているはず。勿論、ライデンとてそれは同じこと。けれど、自分の知らない姿を見せつけられ、ゼノンも戸惑ってしまったのだ。
大きな溜め息を吐き出したのは、デーモン。
「…ライデンのこと、信じていない訳じゃないんだろう?」
小さく問いかけた声に、ゼノンは小さな吐息を吐き出す。
「勿論、信じてるよ。でも、だったらどうして言ってくれなかったんだろう、って…そこが引っかかって仕方ない。俺から問い質すのも、信じてないって言ってるようなものだし…混乱してるんだろうね。こんな感覚は、初めてだから…」
ゼノンの気持ちは、デーモンにも良くわかっていた。他の誰かが口を挟んだところで、その不安が納まる訳ではないことも。
ならば…方法は、一つしか思い浮かばなかった。
「…なら…一旦、魔界に戻ってみるか?」
「…デーモン…?」
その言葉の指す意味が良くわからず、ゼノンは怪訝そうに首を傾げた。
デーモンは…と言うと、ただ、空の月を見上げているだけだった。
「御前の気持ちが落ち着くまで、離れてみても良いんじゃないかと思う。まぁ、極論だとは思うけどな。どうせ、何でゼノンを魔界へ帰した、って怒鳴られるだろうが…吾輩が怒鳴られれば済む話なら、それで良い」
「…ホント、極論だよね。普通はそこまで考えないよ」
思わず笑ったゼノンに、デーモンもちょっとだけ笑いを零した。
「そうだな。でもな、ライデンはきっと悪いとは思っていないんだ。だから、御前には何も言わなかったんだろう。そんなことで御前が嫉妬するだなんて、想像もしていないと思うぞ。勿論、ライデンの気持ちもわかる。素直にちゃんと向かい合えるならそれで良いんだが、御前の気持ちが混乱したままで、ちゃんとライデンに向かい合えないんだろう?だったら、ニ、三日でも離れてみて、御前の気持ちにきちんと整理をつけろ。そうしないと、多分…今後の仕事にも影響するぞ」
ライデンとの付き合いよりも、ゼノンとの付き合いの方が期間は長い。だからこそ、デーモンは敢えてそう提案したのかも知れなかった。
「ライデン…怒るだろうね」
もしもそれで、絆が崩れたら。そう、思わなくもない。
「怒るだろうな。でも、先はまだ長いんだぞ?御前の気持ちを置き去りにして、上手く行くはずはないだろう?御互いに素直になれなければ、ずっと一緒にいられないと思うぞ」
「…まぁ、ね」
自分も素直になれないクセに…。
ふと、そんな思いが過ぎって、ゼノンは小さな笑いを零す。まぁ、それは敢えて口にはしないが。
「ライデンのことは、心配するな。我々がちゃんとフォローするから。だから御前も、ゆっくり休んで来い」
笑いながらそう言ったデーモンに、ゼノンも笑いを零した。
「有難う」
その一言には、沢山の想いが詰まっていた。
立ち上がったゼノンの姿は、直ぐに消えてなくなった。
「…さて、これから大仕事だ…」
自ら背負ってしまった大仕事に、デーモンも苦笑するしかなかった。
全ては、総帥として…仲魔として、仲魔を思うが故。
ゼノンが姿を消してから暫くしてリビングに戻って来たデーモンは、薄暗い部屋のソファーに腰を下ろす一つの姿を見つけた。
「…ルーク。まだ起きていたのか?」
「ん…ちょっと眠れなくてね。デーさんも帰ってたんだね。御免ね、気が付かなくて」
小さな笑いを浮かべた表情でそう返され、デーモンは小さな吐息を一つ。
その姿に、ルークは真っ直ぐにデーモンを見つめ、問いかける。
「ゼノンの気配、感じないんだけど…彼奴に、何を焚きつけたの?」
「…ルーク…」
息を飲んだデーモンを見つめる、ルークの黒曜石の瞳。それは、暗闇の中でも深い色に輝いていた。
「…水臭いじゃない。何にも言ってくれないなんてさぁ…ゼノンもライデンも、俺には何にも話してくれないんだもんな…」
小さな溜め息を吐き出すルーク。その眼差しは真っ直ぐにデーモンを見つめていた。
「ねぇ…俺って、そんなに信用ない?」
一瞬、不安げに揺らめいた眼差し。
「そんな訳ないだろうが。優秀な参謀だろう?」
フォローするつもりでそう言った言葉に、ルークはその眼差しを伏せた。
「優秀な参謀だからって、信用が置けるとは限らないじゃない。ヒトとしてどうか、って問題。俺はね、使用魔でもなければ、留守番係でもないの。何も話して貰えなくて…平然としてろって言う方がどうかと思うよ」
そう言い放つと、ソファーから立ち上がって踵を返す。
「御休み」
「おい、ルーク…」
呼び留めた声にも、振り返らない。いつもよりも乱暴に閉めたドアの音が、その答えであるかのようで…デーモンも、溜め息を吐かざるを得なかった。
ライデンだけではなく、ルークまでも怒らせてしまうとは…まぁ、ルークに関しては、直接的にデーモンが怒らせた訳ではないのだが…最終的に回って来たターンが、デーモンだった、と言うことで。
どう考えても、エースも自分の味方になってくれるはずもなく。
いつの間にか、四面楚歌に陥っていたデーモン。もう、溜め息しか出て来なかった。
当然食欲が出る訳もなく、デーモンは食事を取らずにシャワーだけ浴びて、自室へと戻って来ていた。
気になるのは…隣の部屋のライデン。物音は聞こえないが…起きているだろうか…?
ルークですら、ゼノンが消えたことに気付いているのだから…ライデンが気づいていないはずはないだろう。ただ、眠ってしまっていれば話は別だが。
大きな溜め息を吐き出したデーモンは、意を決したようにライデンの部屋のドアを叩いていた。
「ライデン、起きてるか?」
小さく問いかけた声に、物音が聞こえた。
そして、開かれたドアの向こうに、ライデンの姿。
「御帰り。どうしたの?こんな時間に…」
気付いているのかいないのか…ライデンの表情から、その答えは見えない。
「話があるんだが…良いか?」
「…良いよ」
小さな溜め息と共に吐き出された言葉。それだけで、ライデンが察しているのはわかった。
部屋の中へと促され、椅子を進められる。
「…ゼノンのこと?」
ライデンはベッドへと腰を下ろすと、ふと、口を開いた。
「…あぁ…そうだ」
答えを返したデーモンに、ライデンは再び溜め息を吐き出す。
「何か…怒ってるでしょ?ゼノン…」
その言葉で、その真意はわかった。
率直に真実を告げるとしたら、確実にライデンを傷付けることになるだろう。けれど、幾らオブラートに包むように遠まわしに言ったとしても、その意味さえ察した時には、結果は同じなのだ。
溜め息を一つ吐き出したデーモンは、ゆっくりとその言葉を紡いだ。
「…御前…今日、何処にいた?」
「…今日…?」
一瞬、ライデンの表情が強張ったような気がした。
「今日は…魔界にいたよ。それを黙ってたから…それで、ゼノン怒ってたの?」
「誰といた?」
「……何で?」
ライデンの顔は、明らかに不機嫌そうな表情である。
「言えないのか?」
「…フィードが来てた。親父から、言伝があるって言うから…それに、ゼノンも魔界に行ってたでしょ?帰りに会えるかなと思って…魔界に行った」
問えば、素直に話してくれるのに。それが出来なかったゼノンは…どんな気持ちでいたのか。
再び溜め息を吐き出したデーモンに、ライデンは眉を寄せる。
「何なのさ?フィードと会ってた事が、ゼノンの怒りを買ってるって言う訳?ゼノンだって、フィードのことは知ってるじゃん」
「…ゼノンだってな、別に御前が疚しいことをしているとは思っていないんだ。ただ、後姿でフィードの顔は見えなかった。誰かはわからなかった。ただ、御前の楽しそうな顔しか見えなかった。その状況で、御前は、それを不安に思わないと…?」
「……そんなこと言われたって…じゃあ、俺にどうしろって言うのさ…っ!」
食って掛かるライデンに、デーモンは真っ直ぐにその視線を向けた。
「一言、言っても良かったんじゃないのか?」
その言葉に、ライデンはぐっと唇を噛み締めた。そして大きく息を吐き出すと、目を伏せ、つぶやくように言葉を零す。
「俺は…もう子供じゃない。あんたたちに、行動の一つ一つを全部報告する義務はないはずだよね?それを、顔も見ないで閉じこもったゼノンのところに押しかけて行って、全部報告しろって言うの?ゼノンが勝手に誤解してるのに?」
「…それはそうだ。わかってるさ。だがな…」
「それで、ゼノンは逃げたの…?」
「ライ…」
デーモンに向けたライデンの眼差しは、寂しそうな色を浮かべていた。
「逃げたんでしょ?"ここ"に、ゼノンの気はない。それくらい、俺にだってわかる。彼奴だって、俺に黙って出て行ったじゃん!なのに、俺だけ責められるのは可笑しいじゃないかよ…っ!」
既に、ライデンの感情は正常ではない。辺りには、無意識にライデンが放電した電流の一部が、青白い火花を散らし始めている。
「あんたは、全部わかってんでしょ?!俺が疚しいことなんて何もしてないって、わかってんでしょ?!なのに、何で変にゼノンを焚きつけた訳?!仲裁を買って出て、俺を宥めて、彼奴の気持ちだけを大事にして!じゃあ、俺は何だよ…っ!」
「そう言うことじゃない。ただ、今のゼノンには御前と向かい合うことが出来ない状態だったんだ。だから…」
「そんな言い訳なんて聞きたくない…っ!!!」
瞬間。
ライデンの気が高まり、その怒りと共に青白い火花は雷撃となってデーモンに向かった。
「……なっ…!?」
慌てて防壁を張ろうとしたが、もう間に合わない。思わず目を覆った瞬間、雷撃とは違う圧力に押されて跳ね飛ばされる。
床にぶつかった痛みはあったものの、それは雷撃を受けた衝撃ではない。ゆっくりと目を開けてみれば、デーモンが跳ね飛ばされた為、雷撃はドアを直撃したことがわかった。そして、今だ火花を散らすライデンを抱き締めて押さえているもう一名の姿が目に入る。
「…御前等、何やってんだよっ!!屋敷をぶっ壊したいのか…っ!?」
「…エース…」
雷撃の衝撃の一部を受けたのだろう。エースが着ている服の左肩から下は、焦げた生地が纏わりつくだけの状態になっている。勿論、その腕も負傷はしたのだろう。焼け焦げたような赤黒い傷が、その証拠だった。それが、デーモンを庇ってのことであることは間違いない。
思わぬ事態に、流石にルークも様子を見に来たようだ。階段を駆け登る足音と共に、呆れたように溜め息を一つ。
「…ったく…夜中に何やってんのさ…」
「それを聞きたいのはこっちの方だ。帰って来た途端、この騒動だ。いらない怪我までさせられて…」
こちらも、溜め息を吐き出すエース。
ライデンはと言うと、多少は感情が落ち着いて来たのだろう。周囲に飛び散っていた火花は収まり、エースの腕の中で、大きく息を吐き出す。
「…騒いだことは謝る。エースにも怪我させて…御免…」
そう口にするライデン。その瞳には見る見る涙が溢れ、ぽろぽろと零れ落ちる。
「わかったわかった。泣くなよ」
困ったように、ライデンの頭をぽんぽんと叩くエース。その頃やっと、デーモンは大きく息を吐き出して辺りを見まわした。
怒りの感情をぶちまけた反動で、今度は泣き出したライデン。自分を庇って怪我をしたエース。そして、先程の余波の所為か、呆れた表情で自分たちを見ているルーク。
状況としては…最悪だった。
「…悪かった」
ぽつりとつぶやきを零し、デーモンは溜め息を一つ。
そんなデーモンの姿に、ルークは目を伏せて大きな溜め息を一つ吐き出すと、デーモンへと手を差し伸べる。
「…怪我はない?」
その声に、デーモンは首を横に振る。
「大丈夫だ…」
そう零すと、ルークの手を借りずに立ち上がる。
「悪かったな…大騒ぎして…」
そして項垂れたまま、ライデンの部屋を出て、自分の部屋へと戻って行った。
その後姿を見送ったルークは、差し伸べた自分の手を眺めながら、再び溜め息を吐き出す。
「…一体、どうなってるんだ?」
ここに至るまでの状況が全くわからないエースは、複雑な表情を浮かべるルークに問いかける。
するとルークは眺めていた手を下ろすと、エースへと視線を向けた。
「…ま、説明はおいおいするとして…ライデン寝かせて、あんたの手当てが先、かな」
「デーモンは?良いのか?」
「一名になりたいんでしょうよ。そっとしといたら?」
いつになく、刺々しいのは…何故だろうか。
「…訳わかんねぇ…」
ぽつりと零した言葉。それが、エースの心境の全てだった。
興奮冷め遣らぬライデンを何とかベッドに押し込んで寝かしつけ、リビングに移動してきたエースがルークから手当てを受け、状況を説明され終わった頃には、既に夜明けの薄日が差し始めていた。
「…ったく…」
話を聞き終わったエースの最初の一言はそれだった。
「ほんっと、呆れて溜め息しか出ないよ。もし、あんたが戻って来てなかったら、ライデンはどうするつもりだったんだろうね?あんな至近距離から雷撃打たれちゃ、デーさんだって無事じゃ済まないだろうよ。ま、デーさんだって、自分で蒔いた種だろうけど」
呆れたように言い放つルークに、エースは溜め息をもう一つ。
「御前も、相談されなかったぐらいで拗ねるなよ。御前は副大魔王付きの参謀だろう?デーモンの生命を護るのは御前の役目だろうが」
その言葉に、ルークは一瞬、ぐっと息を飲み込む。そして、先程差し伸べた自分の手を再び見つめた。
その手を取って貰えなかったのは…自分が拗ねてしまったからか。それとも…本当に、必要とされていないのか。
「…俺だってね、たまには拗ねたい時だってあるのっ」
掌をきつく握り締め、拗ねたようにそう吐き出した言葉。
「じゃ、勝手に拗ねてろ」
そう言いながらソファーから立ちあがるエースに、ルークは思わず声をかける。
「何処行くの?」
呼び留められ、エースは僅かにルークを振り返る。
「…様子、見て来る」
「デーさんの?」
「ライデンは寝てるだろう?」
「へぇ。珍しいこともあるもんだね。夕べの救出劇と言い…」
いつもと違う雰囲気のエースに、ルークは興味津々で笑いを零す。
魔界にいる当時から険悪だったデーモンとエース。今この頃に至っても、エースは自分からデーモンに歩み寄ろうとする姿はなかったのだ。それが、この一件から急に積極的になったエースの姿に、ルークはにやにやと笑いを零すのであった。
「何だよ、気持ち悪いな…」
「べっつに~。行ってらっしゃい」
「…ったく…」
何はともあれ、エースは意味深な笑いを零すルークをリビングに残し、デーモンの部屋へと向かったのである。
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プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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筋金入りのオジコンです…(^^;
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