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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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IN THE MAZE 2
こちらは、本日UPの新作です
ちょっと前のお話、と言うことで…。(苦笑)
 4話完結 act.2

拍手[3回]


◇◆◇

 ゆっくりと階段を上り、デーモンの自室の前までやって来たエース。念の為ライデンの部屋を覗いてみると、どうやら落ち着いて眠っているようだった。
 再びデーモンの部屋の前へ立ち、軽くノックしてみる。だが、それに返って来る返事はない。
「…デーモン、開けるぞ」
 小さく声をかけ、そっとドアを押してみると、鍵はかかっていなかった。更にドアを押し、中を覗いてみると、ベッドに凭れ掛かるように床に胡坐を掻いて座り、俯いているデーモンの姿が見えた。
「…寝てるのか?」
 表情は見えない。だから、一応そう問いかけてみる。すると、デーモンは少しだけ顔を上げた。
「…起きてる」
「…ちょっと入るぞ」
 デーモンの返事を聞きもせず、エースは部屋の中に踏み込む。そして、デーモンとは少し離れ、デーモンの姿をなるべく見ないように横を向いて、ベッドの上に腰を降ろす。だが、デーモンの姿勢は変わらない。
「…ルークから、話は一通り聞いた」
 エースの方からそう切り出すと、伏せたままのデーモンの口元から、小さな嘲笑とも取れる笑いが零れた。
「吾輩…ルークには、何も話していないのにな。聞いてたのか」
「彼奴も馬鹿じゃないからな。そう言うところはしっかりしてる。御前の、参謀だろう?信頼しろよ」
「そうだな…」
 その言葉の後、暫しの沈黙。そして、再び口を開いたのはデーモン。
「…悪かったな。御前にまで怪我をさせて…」
「いや…たいした怪我じゃない。直撃を喰らった訳じゃないしな」
 確かに、雷撃が掠めただけなのだ。けれど、どうやらライデンは本気でデーモンを狙っていたのだろう。掠めただけとは言え、衣類と皮膚の表面が焼け焦げる程の威力があったことには間違いない。それだけ、感情が高ぶっていたのだ。
 それを察したのだろう。デーモンは、小さな溜め息を吐き出す。
「…吾輩は…ライデンと長い付き合いだが…あんなに怒るのは初めて見たんだ。あそこまで怒らせたのは、吾輩が至らなかったから。ゼノンを護ろうとして、ライデンを蔑ろにした訳ではないし…ルークを、信用していない訳じゃない。ただ…一足飛びに全部は解決出来ないだろう?だから、順を追って、と思っていたんだが…結果、引っ掻き回しただけだな…」
 顔を伏せている為、どんな表情をしているのかはわからない。ただ、珍しく落ち込んでいるのはわかった。
 奇妙な沈黙が続いた。エースも口を開かず、デーモンも顔を上げず、ただ、時計が時を刻む微かな音だけが聞こえていた。
「…別に…全部が全部、御前の責任じゃないさ」
 やっと口を開いたエースの言葉。
「ルークだって、いつまでも本気で怒っている訳じゃない。今はただ拗ねているだけだ。ライデンだって、御前の気持ちは本当はわかっているさ。ただ急にゼノンが消えたから、戸惑っているんだ。落ち着けば話し合える。俺の怪我だってたいしたことはない。今だってこうして、平然としていられるんだ。気にすることじゃない。それに、何より…御前は、ゼノンに安息を与えたんだろう?だったら、それで良いじゃないか」
「…エース…」
 僅かに顔を上げたデーモン。
 いつも、自分を敵視していたエース。決して怒り以外の感情を見せず、常に本心を隠し通して仮面を被っていた。それは、魔界でも、人間界に来てからも同じだった。けれどそれが、今はほんの少し…優しく思えて。
「一度に何もかもをやり遂げようとしたって、それは無理なことだ。誰がやったって、結果は同じだったかも知れないしな。そんなに自分を責めることはない」
 何故、今日のエースがこんなに優しく思えるのか、デーモンにはわからなかった。ただ…ほんの少し、気持ちが和らいだことは言うまでもない。
 だからこそ…その言葉を、問いかけてみようと思ったのかも知れない。
「…エース…もしも、吾輩も魔界へ帰りたいと言ったら…どうする?」
 その問いかけには、エースも暫く口を閉ざす。けれど、小さな失笑と共に、口を吐いて出た言葉。
「…知るかよ。帰りたければ勝手に帰れば良いだろう?俺の知ったこっちゃない」
「…だよな」
 くすっと、デーモンからも小さな笑いが零れた。それは、先程聞いた嘲笑じみた笑いではなく、多分、安堵の笑い。
「…引き留めて貰いたかったとでも?」
 ふと、エースも問いかけてみた。
「いや。御前なら、そう答えるだろうと思って聞いたんだ。引き留められたところで、帰りたいと思う気持ちは募るだけだろうし…だったら、帰れば良いって言われる方が、ずっと気が楽だ」
 そう。自分の気持ちを汲んで貰うことが、何より安心する。自身の中で、それは帰るか、帰らないかの選択肢ではなく、既に決定事項だったのだから。
 そう、だから……。
「ゼノンも…同じ気持ちだっただろうな。御前に、気持ちを汲んで貰えて…安心したんだろう。ここに、もう一度帰って来る場所がある。少なくとも、そこに御前が待っていてくれると言う確証があったから。そうだろう?」
「…そう思っていてくれると良いけれどな」
 ゼノンがそう思っていてくれるのならば、尚更…自分が弱音を吐く訳にはいかない。
「…で、御前も本当に魔界へ帰るのか?」
 改めてそう問いかけられる。
「…吾輩は、帰らない。こっちでやらなければならないことが、まだ沢山あるんだ。魔界で休んでいられる程、暇じゃない」
「そうか。まぁ、御前がどうしようと、俺には関係ないからな」
「だろうな」
 くすくすと笑うデーモン。エースとこんなに穏やかに話したのは初めてだったかも知れない。だからこそ、ちょっと胸が熱くなった。
 デーモンがそう思った瞬間、不意にその頭の上に載せられたエースの掌。
「くよくよすんなよ。らしくないから」
 その言葉と、載せられた掌が、とても暖かかった。
「…あぁ。サンキュー」
 エースはそのまま、部屋から出て行った。
 一度もデーモンの顔を見ることはなかったが…それでも、心配をしてくれた。ただそれだけのことが…嬉しかった。

 リビングに戻って来たエースは、ソファーに座ってコーヒーを飲んでいたルークに迎えられた。
「あんたも飲む?」
 コーヒーのカップを軽く掲げ、問いかけた声に、エースは首を横に振る。
「いや、いらない。今から魔界へ行って来る。ゼノンの様子を見て来るから、デーモンとライデンが降りて来たらそう言っておいてくれないか?」
「今日は妙に熱心だね。デーさんの事だって、あんたがそんなに親身になっている姿なんて、初めて見たけど?どう言う風の吹き回し?デーさんと仲直りでもする気になったの?」
 いつもの様子からは考えられない程、デーモンに優しいエースの姿に、思わず問いかけたルーク。けれど、エースから帰って来たのは、いつものつれない返事、だった。
「ばぁ~か。生憎だが、デーモンに対しての思いは変わらない。だが、今回は俺のこととは関係ないだろう?御前もいつまでも拗ねてないで、いい加減デーモンを宥めてやれよ」
 そんなエースの言葉に、ルークは笑った。
「そうね。そろそろ機嫌直さないと、デーさんに嫌われちゃうしね。まぁ、気をつけて」
 にっこりと微笑むルークに見送られ、エースは小さな溜め息を吐き出しつつ、魔界へと出発した。
 その溜め息の真意は如何に…。

◇◆◇

 ふと気が付くと、日は高く上っているようだった。慌てて時計を見てみれば、既に昼を回っている。どうやら、一番有り得ないと思っていたエースから理解された、と言う安堵感からか、眠り込んでしまったようだ。
 どうしようかと暫し躊躇したあと、身支度を整えて廊下へと出る。隣のライデンの部屋からは何の物音も聞こえなかった。壊れたドアが、夕べのことが事実であったと物語っている。
 ドアが壊れている為、部屋の中の様子はちょっと覗き込むだけで見ることが出来た。けれど、そのベッドにライデンの姿はない。多分、階下にいるのだろう。
 小さな溜め息を一つ吐き出し、意を決したように階段を降りて階下へと向かう。そして、リビングまでやって来ると、ソファーに座ってコーヒーを飲みながら本を読んでいるルークの姿があった。
 ルークは、足音で気が付いたのだろう。ふと顔を上げ、リビングに入って来た姿に目を留める。
「あ、デーさん、おはよう。コーヒー飲む?」
 にっこりと微笑むルーク。その姿に、一瞬戸惑いの表情を浮かべる。
「…っと…その……」
 その、戸惑う表情を前に、ルークはくすっと小さな笑いを零すと、キッチンへとコーヒーを淹れに行く。
「サンドイッチ作ってあるんだけど、食べる?」
 キッチンから顔を覗かせて、ルークは更に問いかける。
「…あぁ…」
 思わず、そう答えた後、然程お腹も空いていないことに気が付いた。けれど、上機嫌なルークを前に改めて断る訳にもいかず、小さな溜め息を吐き出すだけに留めた。
 そして、暫しの後。コーヒーのカップと、サンドイッチが載った皿を載せたトレーを持って戻って来たルークは、未だ立ち尽くしているデーモンを見て、再び笑いを零した。
「座ったら?」
「…あぁ…」
 ルークに促され、ソファーに腰を降ろす。と、ルークはその前にカップと皿を置いた。そして、小さく一言。
「夕べは御免ね」
「…ルーク…」
 思わず顔を上げ、その表情を見入ってしまう。
 ルークはにっこりと微笑んだまま、再びソファーへと腰を降ろした。
「俺も、大人気なかったね~。エースにも言われちゃった。でもね、誰も相談してくれないって、悲しくなったのはホント。俺は、デーさんに信用されてないのかな~って、不安にも思ったしね。だけどさ、ゼノンとライデンを心配するデーさんの気持ちはわかるよ。だから、一晩寝たら謝ろうと思ってた。そしたら、夕べの騒ぎでしょう?エースなんか、一睡もしないまんまゼノンの所に行っちゃうしさ。俺も結局、ここのソファーでちょっと寝ただけ。ライデンもさっき起きて来て、シャワー浴びてる」
「…そう、か」
 ルークの言葉に、僅かに安堵する。そして、ルークに対しては素直に口を開いた。
「…吾輩も悪かった。何があっても、御前は、吾輩の片腕だから。信用してないとか、そんなことは絶対ないからな」
「うん、わかってる。良く考えればわかるんだけどね。ちょっと、拗ねてみたかった訳よ。今度はちゃんと、俺も混ぜてね」
「御前って奴は…」
 くすっと、デーモンも笑いを零した。その表情を見て、ルークはまた微笑む。
「良かった。デーさんが笑ってくれて」
 ルークはルークなりに、心配していてくれたのだ。その気持ちが嬉しくて。
 けれど、手放しに喜んでばかりもいられないのが実情。ルークとは和解したとは言え、まだ何も解決はしていないのだから。
「ライデンとは、話はしたのか?」
 コーヒーに口を付けつつ、デーモンはルークに問いかける。
「今回のことに付いてはまだ何も。さっき、コーヒーとサンドイッチを無言で食べて、そのままシャワーに直行したもん。ただ、エースがゼノンのところに様子を見に行った、ってことだけは話したよ。それについては、何も答えなかったけどね。夕べみたいに爆発することはもうないだろうけど、まだ燻ってるみたい」
「そうか…」
 どう、伝えれば良いだろう。そんなことを考えながら、デーモンもサンドイッチに手を伸ばす。余り空腹を感じていなかったにしては、気が付けば全部平らげていたりする。デーモンにしてみれば、如何に自分の状態を理解していなかったか、と言う自己分析にもなった。
 そんなデーモンの様子を眺めつつ、ルークはゆっくりとコーヒーを飲んでいる。そして、デーモンの食事が一息ついた頃、ゆっくりと口を開いた。
「ライデンのこと…少し、そっとして置いたら?」
「…ルーク?」
「エースが帰って来るまでさ、あんまり言及しない方が良いよ。ライデンだって、考える時間が欲しいだろうし…まぁ、それまでは気まずいかも知れないけど、ゼノンだって考える時間が欲しいんでしょ?エースだって、様子見たら帰って来るんだろうし。慌てないで、ちょっと様子を見ようよ」
「…そうだな。それが良いかも知れないな…」
 確かに、落ち着いて来たとは言え、まだ燻っている状態ならば、下手に手を出せばまた爆発しかねない。燻りがもう少し落ち着くまで様子を見る方が御互いの為にも良い方法だと思った。
 そんな話をしていると、バスルームからライデンが出て来た足音が聞こえた。だがその足音はリビングへは向かわず、そのまま階段を登って行く。
 その足音にデーモンがソファーから腰を上げかけた時、ルークがそれを制した。
「俺が行くよ。待ってて」
 ルークのその申し出を、デーモンは素直に受けることにした。そして、リビングを出て行く背中を見送り、小さな溜め息を吐き出していたのだった。

 ライデンの様子を見に二階へ上がって来たルークは、その部屋の前で立ち止まり、壊れて立てかけてある状態のドアを軽くノックする。
「入って良い?」
 ドアは開いた状態なのだから、部屋の中は見えているのだが…念の為そう声をかけ、ライデンの返答を待った。当のライデンは…と言うと、着替えの途中だったのだろう。辛うじてズボンは履き終えていたが、上半身はまだ裸のままであった。
「良いよ」
 相手がルークだと確認し、安心したのだろう。頭からTシャツをかぶりながら答えを返す。
 その声に促されるように部屋の中へと足を踏み入れたルーク。
「…どっか行くの?」
 ふと目に止まった服装は、いつもの格好ではない。Tシャツの上に戦闘服を着こみ、人間界を出歩く格好ではないのだ。
「魔界に行く」
「…何しに?」
「ゼノンに会いに」
「ちょっ…」
 真剣な顔でそう答えるライデン。当然、面喰らったのはルークである。
「エースが帰って来るまで大人しくしてろって言ったじゃんよぉっ!」
 思わずそう声を上げたルークに、ライデンはとても悲しそうな表情を見せた。
「何で?何で待ってなきゃいけないの?揉め事の原因は俺でしょう?だったら、俺がちゃんと話をして…」
「あんたと顔を合わせたくないから、ゼノンは魔界に行ったんじゃないのっ!追っかけて行ってどうするんだよぉっ」
「だって…」
「…まぁ、ちょっと落ち着きなって…」
 ライデンをベッドに座らせ、ルークもその隣に腰を降ろす。
「…あんたが物凄く不安で、辛いのはわかるよ。だけど、今追いかけて行っても、何にもならないんじゃない?かえって、ゼノンを追い詰めるだけなんじゃないの?」
 その言葉に、唇を噛み締めるライデン。
 切ない気持ちは、とても良くわかる。けれど、今追いかけて行ったら、ゼノンはまだ何処かへ行ってしまうかも知れない。肝心のゼノンが、既に落ち着いているとは考えられないのだから。
「今は、エースを待とうよ。それからでも遅くないでしょう?」
 ライデンの背中をぽんぽんと軽く叩きながら、ルークはその様子を伺う。
「うん…」
 小さく頷いたライデン。だが、心底納得していないことは明らかだった。
「…無茶して失うのは嫌でしょ?ゼノンのこと、まだ好きなんでしょ?だったら、勇み足はやめようよ。デーさんだって、それを心配してたんじゃない?ゼノンは大丈夫。きっと、戻って来るから。ね?」
「…わかった…」
 渋々ではあるのだろうが、ライデンは納得せざるを得なかった。
 全ては、失わない為に。その為に、必要だった距離。それを噛み締めながら、現実を受け止めるしかなかった。

◇◆◇

 さて、こちらは魔界である。
 寄り道をせず、真っ直ぐにゼノンの屋敷を目指してやって来たエースは、その屋敷の玄関のドアをノックする。恐らく、エースの来訪を知っていたのだろう。そのドアから顔を覗かせた使用魔は、困ったような、奇妙な顔をしていた。
「エース長官…いらっしゃいませ。御無沙汰しております」
「あぁ。主(ゼノン)はいる?」
 見知った顔が、奇妙な表情で現れたことを怪訝に思いつつも、そう問いかける。すると、その使用魔から返って来た答え。
「あの…どなたにも御会いにはならないと申しておりまして…」
「……会わないって、そう言ってるのか?ゼノンが?」
 奇妙な表情の訳が、やっとわかった。
「はい。申し訳ありませんが、御引取りを……」
「あぁ、そう…そう言うこと」
 そう言葉を返すと、控えめに頭を下げた使用魔は、エースの目の前でそのドアを閉ざした。まぁ、ゼノンの命令ならば仕方のないことなのだろう。けれど、エースとてこのまま帰る訳にも行かず。
「…強行突破しろと、言ってるようなモンだよな…?」
 そうつぶやき、辺りを見まわす。幸いにも、屋敷の周りに使用魔の姿はない。
 エースはゆっくりと裏手へと回り、ゼノンの書斎がある真下までやって来る。そして、その背中に漆黒の翼を呼び出すと、大きく羽ばたくと、あっと言う間に書斎のテラスに到着する。その窓から書斎の中を覗きこんだが、中には誰もいない。そして、その窓に鍵もかかっていないようだった。
「…会いたくないと拒否する割に、全く警戒してないんだから…」
 呆れたような溜め息を吐き出しつつ、翼をしまうと、ゆっくりとテラスの窓を開けた。そして、何の苦もなく屋敷内への潜入に成功する。
「ったく、無用心だな」
 更に溜め息を零しながら、エースは書斎の中を見回した。
 ドアと窓のある壁を除いた二方の壁は、ぎっしりと書物で埋め尽くされている。その背表紙を眺めていたが、自分の興味範囲ではなかったようだ。直ぐに書物に対する興味を失ったエースは、廊下へと続くドアをそっと押し開ける。
 廊下には、誰の姿もない。
 恐らく、ゼノンは自室にいるのだろう。そう思い、廊下を進み始めたエース。すると、直ぐ隣の部屋のドアが開き、そこから出て来た姿に思わず足を止める。
「…エース?」
「…よぉ」
「よぉ、って…何でここにいるの?」
 怪訝そうに眉を潜め、エースを見つめる碧色の眼差し。
「御前に会いに来たに決まっているだろうが」
 開き直ったエースは、そう言葉を放つ。そして、目の前のゼノンの様子を、用心深く探り始める。
「誰にも会わないって、聞かなかった?」
「そうだったか?悪いな、覚えていなくて」
「…全く…」
 小さな溜め息を吐き出したゼノン。恐らく、エースの行動が読めたのだろう。けれど状況が状況だけに、エースも悪いことをしたとは思っていなかった。
 その時、目の前のゼノンの眼差しが、ふとエースの左腕に向いた。
「…怪我したの?」
 ぎこちない仕草に、ピンと来たのだろう。
「あぁ…ちょっとな。ルークに手当てして貰ったし、たいしたことはない」
「そう。それなら良いんだけど…まぁ、来てしまったんだから仕方ないね。どうぞ」
 呆れたような溜め息と共に、書斎へと促される。促されるまま、再び書斎へと入ったエースであるが…自分の後から書斎に入って来たゼノンに向け、険しい眼差しを向けていた。
 そして、そのドアが完全に閉まると、不意にエースは呼び出した剣の先をゼノンに向けた。
「御前…誰だ?」
「…何、急に…」
 思いがけないエースの問いかけに、その胸元に剣先を突きつけられたゼノンは、苦笑する。
「良い度胸してるじゃないか。御前、ゼノンじゃないだろう?俺を欺こうだなんて、一体どう言うつもりだ?」
 その言葉に、ゼノンも笑いを止める。向かい合った二名の眼差しは御互いに背けることもなく、真剣そのものだった。
 けれど、その状況を打ち破る声が、ドアの向こうから聞こえた。
「…もう良いよ」
「………」
 聞き覚えのある声。その声に、目の前のゼノンもハッとしたように、ドアへと眼差しを向ける。エースも状況を理解出来ず、同じようにドアを見つめていた。
 やがて開かれたドアから姿を見せたのは…もう一名のゼノン、であった。
「いらっしゃい、エース。御願いだから、物騒な物はしまってくれる?怪我魔の分際で、そんなもの振り回されても困るんだ」
「…ゼノン…っ?」
 目の前に、全く同じ姿のゼノンが二名。その状況に、エースも思わず目を丸くする。
「…ゼノン様…」
 最初からエースの前にいたゼノン(仮にゼノンαと呼ぶ)が口を開く。すると、呼びかけられたゼノン(仮にゼノンβと呼ぶ)がにっこりと微笑んだ。
「もう良いよ。エース相手じゃ適わないとは思っていたもの。御前が殺されても困るしね」
 ゼノンβが、ゼノンαにそう口を開く。
「ちょっ…」
 状況が掴めず、思わず言葉を挟んだエース。
 最初に自分が会ったゼノンが偽者だと言うことは察していた。けれど、どうやらそれが、本物のゼノンの差し金であるらしい。そして、その本物そっくりの偽者の正体がわからないエースは、ゼノンの意図すら、掴めずにいたのだ。
 きょとんとしているエースを前に、ゼノンβ(どうやら本物らしい…)がくすっと笑いを零す。
「そんな、ハトが豆鉄砲喰らったような顔してないでよ」
「…悪かったな、ハトが豆鉄砲喰らったような顔で…」
 大きな溜め息を吐き出したエース。訳がわからないまま、手にしていた剣をしまう。その表情を眺めながら、ゼノンβはエースに問いかける。
「その怪我…もしかして、ライデン…?」
「…まぁな。直接、俺を狙った訳じゃないからたいしたことはないけどな。彼奴、デーモンを本気で狙ったぞ」
「…そう…」
 吐き出した言葉に、ゼノンβは大きな溜め息を吐き出した。
 想像していなかった訳ではないけれど…思っていたよりも、事態は最悪の方向に向かったのかも知れないと、後悔の想いが過ぎっていた。
 けれど、それよりも気になったこと。
「ねぇ、エース…どうして彼(ゼノンα)を偽者だと見破ったの?限りなく、"俺"であるように仕立てたんだけど…」
 その問いかけに、エースは僅かに考えを巡らせる。そして、ゆっくりと口を開いた。
「…勘、だな。医者として、怪我をしている奴を前に、その理由を"問いかけない御前"ってのを、見たことがなかったからな」
 一瞬、ゼノンβの目が丸くなる。確かに自分は、エースに怪我の理由を問いかけていた。けれど、偽者であるゼノンαも、怪我のことを問いかけても理由を問いかけると言うところまでの意識はなかったのだ。
 本魔でも無意識なその"行動"を、エースは良く覚えていたのだ。付き合いが長い分、騙すには相手が悪過ぎたのかも知れない。
「そう。そこまで気が付かなかった」
 くすくすと笑うゼノンβ。その姿を横目に、エースはゼノンαへと目を向ける。
 確かに、見た目も仕草も、纏う気配も、殆どオリジナル(ゼノン)に相違ない。けれど、その小さな配慮不足が、エースの直感を刺激したのだ。
 けれど、ゼノンと同じ存在がもう一つあるはずがない。ゼノンαは明らかに偽者なのだ。
「…誰なんだ、こいつは…?」
 思わず問いかけた声に、ゼノンβはゼノンαを振り返る。
「あぁ…レプリカだよ。知ってるでしょう?」
「…レプリカ…?御前のとこの、使用魔の?」
「そう」
「え…?まさか…レプリカって…あの時の"仮面師"…?」
「そう。言わなかったっけ?」
「…聞いてないぞ…」
 溜め息を吐き出したエース。
 まだ、エースもゼノンも一介の局員だった頃、"仮面師"についての研究の話を、ゼノンから聞いたことがあった。けれど、その"仮面師"がゼノンの屋敷の使用魔で、しかも自分も見知った"レプリカ"であったなんて…初耳も良いところである。通りで、エースが屋敷に来た時に、違う使用魔が出迎えたはずだ。
「もう下がって良いよ。エースは俺が引き受けるから」
「…御意に」
 そう言うと、ゼノンαは書斎を出て行った。その背中を、エースは奇妙な表情で見つめていた。
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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