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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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IN THE MAZE 3
こちらは、本日UPの新作です
ちょっと前のお話、と言うことで…。(苦笑)
 4話完結 act.3

拍手[2回]


◇◆◇

 ドアから出て行った背中を見送ったエースは、溜め息を一つ吐き出していた。
「…御前さぁ…何でそんな大事なこと、黙ってる訳…?」
 思わず零した言葉に、ゼノンは苦笑する。
「だって最初の時に、俺はちゃんと御前に紹介したでしょう?ウチの局にも勤めてるレプリカって」
「…レプリカが仮面師だ、ってことは言わなかったぞ?」
「だって、レプリカは仮面師としての名前じゃないもの。今回は俺が無理を言って仮面を被せたけど、彼奴は仮面師であることを放棄したんだ。"レプリカ"は俺が、仮面師と区別する為につけた名前だもの」
「…じゃあ、何で今、御前の仮面を被せた訳?」
 やっと状況がわかって来たようで、エースも気持ちを落ち着かせて話を切り出した。
「会いたくなかったから」
「…御前なぁ…」
 ゼノンに即答され、エースも呆れ顔である。けれど、その後に続く言葉には、いつまでも呆れている訳には行かなかった。
「デーモン以外の誰かが来たら、必ず言うでしょ?『帰って来い』って。だから、身代わりを立てた訳。まぁ、あっさり見抜かれたけどね。エースvsレプリカじゃ、勝ち目ないもの。傷物にされても困るし。だから俺が出て来た訳」
「身代わりを立てた、ってことは…帰るつもりはないのか?」
 そう、問いかけた声。その声に、ゼノンは僅かに口を噤んだ。そして、ゆっくりと目を伏せる。
「帰るつもりはあるよ。でも、もう少しだけ…そっとして置いて欲しいな…まだ、気持ちの整理が出来てないんだ…」
 そうつぶやいた声は、とても低い。
 けれど、そこで引き下がっては、ここまで足を運んだエースの苦労も何にもならないのだ。
「…御前の気持ちも、わからないでもない。だが…そんなに結論を急がなくても、良かったんじゃないのか?まぁ、焚きつけたのはデーモンかも知れないが…その結果、ルークは拗ねるし、ライデンは爆発して、俺もこの様だ。まぁ、デーモンも落ち込んでいるしな、正当な判断は無理だと思ったから、俺が様子を見に来たんだ」
 そう言いながら、ゼノンの様子を探る。
 その気は、思ったよりは安定したものの…それでも、不安定極まりない。そこまで追い詰められているゼノンを見たのは…ライデンが人間界に行く前の、あの騒動の時以来だ。
 そう思いながら、エースは再び口を開く。
「俺は、御前を追い詰めるつもりで来た訳じゃない。だけどな、言うべきことは言わせて貰う。それが俺の役目だと思っているからな」
「…全く、適任だね」
 小さくつぶやいたゼノン。そして、小さな嘲笑を零す。
「御免ね。みんなに迷惑かけてるのはわかっているんだ。でも…デーモンは、俺に魔界に戻る、って言う選択肢を与えてくれた。デーモンは自分でも、極論だし、ライデンが怒るって言うこともわかっていたんだよ。それでも、俺たちのこれからの為にも、今きちんとした方が良いって…。でもだからって、一名でライデンの怒りを全部受け留める必要はなかったのにね」
「そうするしかなかったんだろう。自分が言い出した手前、他の誰にライデンを抑えろって言える?」
「そう、か。デーモンらしいね。ホント、頭が下がるよ」
 伏せられたままの、碧色の眼差し。
 そんな姿を見つめたまま、エースは再びゆっくりと口を開く。
「…冷静になればわかるだろう?あんなに御前に一途なライデンが浮気をする訳はないし、御前が見た相手だって、雷帝からの遣いで来たんだろう?全部を報告する義務はない、って…彼奴はデーモンに言ったらしいが、それは当然だ。色々絡めば、言えないこともある。そのくらい、俺にだってわかることだぞ?御前がわからない訳ないだろう?」
「…冷静に考えればね。でも…冷静でいられない時だってあるでしょう?」
「確かにな。だが、だったらどうしてライデンに直接問いかけなかったんだ?一言聞けば済むことだろう?」
 その問いかけに、ゼノンは暫く口を噤んでいた。
 暫しの後、小さな溜め息を吐き出したゼノン。そして、小さく零れた一言。
「俺は…素直じゃないんだ。自分でも良くわかってる。嫉妬した、って素直に言えるのなら…色々悩まない」
「……」
 思いがけない答えに、エースも二の句が告げない。
 それから暫く、ゼノンはまた口を噤んだままだった。そしてエースもまた、言葉を見つけることが出来なかった。
 エースは今まで、ゼノンは誰よりも冷静だと思っていた。けれど、冷静=素直にはならないことは当たり前。自分の感情を素直に出せないからこそ、冷静を装うのだ。
 エースとて、自分の感情を隠す為に、冷静さと冷酷さの仮面を被っていた。素直に感情を晒け出したのは…大切な相棒を失った時だけ。後にも先にも、それ一度。その相棒は、ゼノンの同属で、大切な仲魔でもあったはず。けれどその時でさえ、ゼノンは冷静にその事態を受け止めていた。否…素直に感情を現すことが出来なかっただけだったのかも知れない。
 誰よりも冷静なゼノンは…誰よりも不器用だったのだ。だから……。
 ゆっくりと想いを巡らせながら、エースは小さな溜め息を吐き出した。
 今のこの感情を、どう、言葉にしたら良いだろう。どんな言葉にすれば、ゼノンは素直に受け留めてくれるだろう。
 そんなことを考えながら、魔界へ帰ることを勧めたデーモンを思い出す。
 素直になれないゼノンを知っていたから…無理をせず、魔界へ戻したのだろうか?
 デーモンとゼノンの付き合いの長さは、エースとゼノンの付き合いの長さと大差はなかったはず。同じだけの時間を過ごしたにも関わらず、デーモンはエースよりも、ゼノンのことをよく知っていたのかも知れない。
 再び溜め息を零すエース。そして、迷った末に、やっと言葉を紡ぐ。
「…デーモンが、御前を帰した理由が…俺にもやっと見えたな…」
「…エース…?」
 怪訝そうに顔を上げたゼノン。その碧色の眼差しと、エースの琥珀色の眼差しが行き合う。
 ほんの少し…エースも、歩み寄れたのかも知れない。
「今夜一晩…御前に時間をやる。その代わり、明日になったら、俺はここにライデンを連れて来るからな。それまでに…結論、出せるな?」
「……一晩?」
「そう。今夜一晩は、ライデンもゆっくり考える時間だ。それなら平等だろう?」
 小さく微笑んだエース。その眼差しは…とても、優しかった。
 それが、本来のエースであることは明確だった。
「…有難う」
 そうつぶやいた、ゼノンの言葉。今は、それ以上の言葉は見つからなかった。

◇◆◇

 結局エースは、ゼノンを魔界へ置いたまま人間界へと戻って来ていた。
 屋敷に戻ると、時刻は夕方。ルークは丁度買い物に出たようで留守。デーモンはリビングのソファーで眠っているようだったので、静かに二階へと階段を登る。
 そして、二階のライデンの部屋を覗くと、ベッドに寝転んだまま、ぼんやりと天井を眺めているライデンがいた。
「…ただいま」
 廊下から小さく声をかけると、その視線がゆっくりとエースへと向く。そしてその存在を認識すると、慌ててベッドから起きあがった。
「ゼノンは…っ!?」
「あぁ…そのことだけどな…」
 ルークから話は聞いていたのだろう。エースの帰還=ゼノンの帰還と思っていたのかも知れない…と思いつつ、エースは小さな吐息を吐き出す。そして、ベッドの端に腰を下ろし、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「…今夜一晩は…ゼノンをそっとして置いてやろう。明日になったら、一緒に魔界へ行ってゼノンを迎えに行こう。それで良いか?」
「…どう言うこと?まだ会えないってことっ!?」
「そうだ。今夜一晩は、御前もゼノンも、ゆっくり考える時間だ。そして明日になったら、今夜一晩考えた、御前の素直な気持ちを伝えれば良い。きっとゼノンも、素直な気持ちを吐き出してくれると思う。まぁ…それがどちらに転ぶかは、俺には断定出来ないけれどな」
「……」
 言葉もなく、ライデンは真っ直ぐにエースを見つめていた。
 その目に…一杯の、涙を溜めて。
 エースが言った言葉が指す意味は…ライデンにも多分、わかっている。だからこそ…考える時間が、必要なのだ。
「…ゼノン…言ってたぞ。自分は素直じゃない、って。彼奴も自分でちゃんと、わかってはいるんだ。でもきっと…今回のことがあったから、改めて自分を見つめ直せているんじゃないかと思う。今回のことで見えた"ゼノン"と言う存在は…俺でさえ、きちんと理解出来ていなかったと思った。多分…本当にきちんと"ゼノン"と言う存在をわかっていたのは…デーモンだけだったのかも知れないな」
「…デーさん…?」
 エースの口から零れた、思いがけない言葉。こんなに素直にデーモンを肯定した姿を、ライデンは初めて見たのかも知れない。
「そう。デーモンはゼノンをわかっていたから…だから、彼奴の想いを汲んで、魔界へ返したんだと思う。一見、勝手なことに見えたかも知れない。だけど、ゼノンと言う存在をきちんと理解しているからこその判断だったんだと、俺はゼノンと話してみてそう思った。だから俺も、御前や俺たちと離れている時間を、彼奴に与えた。彼奴が…もう一度、自分をコントロール出来るようになる時間をな」
「……」
「だから御前も、ゆっくり考えてみろよ。今回のことだけじゃなくて、どんなことでも良い。御前のこと…ゼノンのこと。もう一度、思い返してみても良いんじゃないのか?」
 エースを見つめたままのライデン。エースの琥珀色の瞳も、真っ直ぐにライデンを見つめている。その眼差しは、とても優しい。そして…その瞳の中にある、小さな光。それは、もしかしたら…エース自身にも未だ未開の地、なのかも知れないと、ライデンは無意識に感じていた。
 そして、ポツリと零れた、小さな囁き。
「…あんたも…素直になれば良いのに…」
「…ライデン…?」
「…何でもない」
 そうして、小さく笑うライデン。
「一晩で足りるかな…?」
「別に良いぞ?一晩じゃなくたって」
「…それはヤダ…」
 そう零すライデンの表情は、先程までと随分違う。何かを吹っ切ったような…そんな、清々しささえ感じられる。その表情に、エースも安堵の笑みを零していた。
「…有難うね、エース」
 にっこりと微笑んだライデンは、そう言葉を零した。
「安心するなよ。明日になってみないと、結果はわからないからな?」
「うん」
 微笑むライデンに、エースもやっと肩の荷が少し降りたような気がしていた。

 エースがライデンの部屋から出て来ると、階段に座っているデーモンの姿が見えた。当然、背中を向けているデーモンに、エースの姿は見えない。
 声をかけようかと思ったものの、ドアが壊れているライデンの部屋まで筒抜けになるだろう。そう察したエースは、後ろからそっとデーモンの肩を叩き、振り向くデーモンに向け、"静かに"と言うことをジェスチャーで伝えた。デーモンもそれを察したのだろう。小さく頷き、エースが促す通り、階下へと降りた。
 リビングへとやって来ると、徐ろにエースが口を開く。
「いつから聞いてたんだ?」
「…最初から…御前が、階段を登る足音が聞こえて目が覚めたから…その……様子を見に…黙って聞いているつもりはなかっただが…まだ、ライデンとは話せていないし…」
「…そう、か」
 小さな吐息を吐き出すエース。そしてそのままソファーへと腰を下ろす。デーモンは…と言うと、エースの様子を伺いながら、エースの正面へと、控えめに腰を下ろす。
「…まぁ…説明する手間が省けたから良いんだけれどな」
 エースはそう言いながら、上着のポケットから煙草を取り出すと、その一本を口に銜えた。
「吸わせて貰うぞ」
 一言声をかけると窓辺へと行き、窓を開けて火を付ける。そして大きく吸い込み、紫煙を吐き出すと、やっと言葉を紡ぎ始めた。
「ゼノンのことは、まぁ大丈夫だろう。ライデンにも話した通り、明日になったらライデンを連れて魔界へ行って、きちんと話をさせる。結果は…多分、最悪にはならないと思う。だから、そんなに心配はしなくても良い」
「…そうか。なら良かった」
 安堵の表情を浮かべたデーモン。その答えを聞くまで、安心出来ずにいたのだろう。だが、安堵したのも束の間。ここに来てやっと、エースの置かれていた状況を思い出したようだった。
「悪かったな。徹夜だったのに…」
「いや…これからシャワー浴びて、少し休ませて貰えば大丈夫だ。ルークにもそう言って置いてくれ」
「あぁ、わかった」
 煙草を一本吸い終わったエースは、そのまま自室へと向かう。その背中を見送るデーモンは…疲れ切った表情のエースを見つめながら、問い掛けられなかった言葉が頭の中でずっと巡っていたのだが…敢えてその言葉を飲みこんだ。
----御前の本心は…何処にあるんだ?
 奇妙な程、柔らかくなったエースの表情に、デーモンはそんなことを考えていた。

 エースは自分で言った通り、シャワーを浴びに降りてきたがその後はまだ自室に戻り、寝てしまったようだった。
 それから三十分程してルークが買い物から戻って来る。
 デーモンは夕食の仕度を手伝いながら、エースとライデンの話をルークに伝えた。
「…ふぅ~ん…」
 話を聞き終えたルークは、暫し手を止めてそう相槌を打つ。
「ふぅ~ん…って…それだけか?」
 思わず問いかけたデーモンに、ルークは小さな溜め息を吐き出す。
「それだけ。それで十分じゃない?」
「…また拗ねてるのか…?」
 嫌に棘のある言葉に、デーモンは様子を伺いながら問いかける。
 するとルークは、再び溜め息を吐き出す。
「別に拗ねてる訳じゃないよ。だけどさぁ…あんたもエースも甘いな、って思ってさ」
「どう言う…」
「甘いでしょうよっ。ゼノンを強制的に連れ戻すことをしないんだからっ」
「…それはだな…」
 困ったように眉を寄せるデーモン。そんな表情に、ルークは呆れたように言葉を零す。
「…全く…これが、副大魔王閣下と情報局長官だと思うと、甘っちょろくて涙出そうだよ…」
「……」
 最早この状況で、デーモンに弁解の言葉も見付からない。呆れ顔のルークの前に、どう説明して良いのかもわからない状況に陥っているのだ。
 勿論、ルークはそんなことは百も承知。もしも自分が同じ立場だったら…恐らく、同じ行動をするであろう事も。だが、それに同調していてばかりでは、どうも流されるだけのような気がして。
「…"素直じゃない"って言い放ったゼノンがさぁ、素直に戻って来ると思う?」
 ふと問いかけた声に、デーモンは更に眉を寄せる。
「戻って来ないと?」
「いや、そうは言わないよ。だけどさぁ…そう簡単に素直になれて、自分の気持ちを口に出来るんだったら、もっと早くやってるんじゃないの?ゼノンは自分でそれを自覚している訳だしさぁ」
 手に持っていた菜箸を振り回しながら言葉を放つルーク。
「ならば、どうしてエースは納得して戻って来たんだ?」
「だからそれは、エースも同じだって事」
「…は?どう言う…?」
「だから………もぉ、皆まで言わせないでよねっ」
 思わず苦笑するルーク。どうやら、この状況に気が付いていないのは…デーモンと、エース自身だけのようである。
「あんたたちも、素直じゃない、って言うことっ」
 そう言い放ち、ルークは再び料理へと向かう。
「…あんたたち…?」
 その傍らで…デーモンは尚も首を傾げている。
「…ったく…鈍感なんだから…」
 デーモンにも聞こえないくらい、小さな囁きを零したルーク。
 果たして、それは誰に向けた言葉だったのだろうか…。

 その日の夕食は、前日同様、実に静かだった。
 エースはまだベッドの中。様子を見に行ったルークが声をかけても無反応だったと言うことで、そのまま寝かせておくことにしたらしい。
 前日の立ち回り以来、顔を合わせていなかったデーモンとライデンは、この時やっと顔を逢わせることとなった。けれど、流石に気まずいのだろう。どちらからも口を開くことはない。
 ルークを含めた三名が静かに食卓を囲む。そして、無言のまま食事を終え、先に席を立ったライデンが食器を片付けてダイニングを出て行こうとするその背中に、デーモンが言葉を向けた。
「なぁ、ライデン…明日、吾輩も一緒に魔界へ行っても良いか…?」
 その言葉に、ライデンは足を止める。するとデーモンは、ここぞとばかりに言葉を続ける。
「夕べのことは、吾輩が悪かった。ゼノンを勝手に行かせたことも、御前に悪かったと思っている。結局、吾輩が引き金なのだから、最後まで責任を……」
「もぉ良いから」
 デーモンの言葉を遮るように、ライデンは口を挟む。
「別に、デーさんのこと…今も怒ってる訳じゃない。きちんと話を聞かなかった俺も悪かったんだし。エースに怪我もさせちゃったし…今は、素直に反省中。それに……俺、デーさんのこと…大好きだから」
「…ライ…」
 ライデンは、ほんの少しだけ振り返った。その表情は、何処か照れ臭そうに小さく笑っている。
「…心配してくれて有難う。明日は…デーさんも、ルークも…みんなで、一緒に行こうね」
「…あぁ」
 にっこりと微笑むデーモン。その隣で、ルークも小さな笑みを零していた。
 自室へと戻って行くライデンの背中を見送りながら、デーモンが小さくつぶやく。
「…明日…全てが丸く収まってくれれば良いんだけれどな…」
「あんな健気なライデン見たら、泣かせたくないよね」
 同調の意を唱えるルーク。彼も心底から心配していることは言うまでもないことだった。

 翌日の朝。
 結局エースは夕方ベッドに入ったまま、朝まで起きずにいた。
 ライデンは約束通り、一晩ゆっくり考えていたようで、殆ど眠っていない状態。
 デーモンとルークは、一応ベッドには潜りこんだものの、眠ったのか眠っていないのか、良くわからないような状態で朝を迎えていた。
 何はともあれ、一番最後にリビングに下りて来たエースは、すっかり身支度を整えて待っていた三名を見て、小さな溜め息を吐き出す。
「…御前等も行くのか…?」
 当然、その言葉はデーモンとルークに向けられている。
「勿論。ライデンから許可は貰ったからね~。ね、ライデン?」
 にっこりと微笑むルーク。すると、同意を求められたライデンは、小さく頷いた。
「うん。どうせなら、みんなで行った方が良いかなと思って…迷惑、かなぁ…?」
「…いや…御前が良ければ良いんじゃないか…」
 諦めることが懸命だと思ったのか、エースは渋々と言った表情で、そう答えを返した。
 そして。
「じゃあ、良いか?」
「OK」
 デーモン、ルーク、ライデンがソファーから立ちあがる。そして、皆で魔界へ向かって出発したのであった。

◇◆◇

 こちらは魔界のゼノン。
 人間界にいる仲魔が魔界へ入って来たことは、感じる気配でわかった。そしてそれが、予定通りのエースとライデンだけではなく…デーモンとルークも一緒であったことも。
「…御節介と言うか…心配性と言うか…」
 小さく溜め息を吐き出したゼノン。その姿に、その背後から声がかかる。
「皆様、心配なさってのことですよ」
「そうかな。俺には単に面白半分で来てるようにしか思えないんだけどね…特にルークは…」
 その言葉に、くすっと小さな笑い声。そしてゼノンはその姿を再確認するかのようにゆっくりと振り返る。
 そこにいるのは、もう一名の自分。
 振り返ったゼノンに、向かい合う相手はすっと表情を戻した。
「本当に…わたくしがここで、皆様の御相手をしても宜しいのですか…?」
「うん。ライデンなら…きっと来てくれると思うから。御前からは何も言っちゃ駄目だよ。良いね?」
「それは心得ておりますが…」
 そう口を開く相手に、ゼノンは小さく微笑む。
「じゃあ、宜しく」
「…御意に」
 ゼノンの姿が消えるまで、その相手はじっとゼノンを見つめていた。
 主の行動の意味を、考えあぐねながら。

 魔界に降り立った四名。そのままゼノンの屋敷へと向かう道を歩いていたのだが、不意にライデンが立ち止まった。
「…どうした?」
 問いかけたエースの声。けれど、ライデンはその声も聞こえないかのように、何かを捕らえようと気配を探っているように見えた。
「…ライデン?」
 改めて声をかけると、その視線がエースへと戻る。
「どうした?」
 問いかける声に、ライデンは暫く何かを考えているようだったが、やがてその言葉を放つ。
「悪い…ちょっと、先に行っててくれる?」
「はぁ?」
 思わず声を上げたのはルーク。
「御免。直ぐに追いかけるからさ。ちょっとだけ先に行ってて。お願いっ」
 両手を合わせてそう懇願されては、流石に拒否する訳にも行かず…。
「わかったよ。先に行ってれば良いんだろう?直ぐ来るんだぞ」
 最初に根を上げたのはエース。渋々、デーモンとルークも納得せざるを得ない。
「有難う!後から直ぐ行くからねっ」
 そう言い残し、ライデンは今来た道を駆け戻る。
「…何処に行くんだ?彼奴…」
 溜め息交じりで見送ったデーモンの声。
「さぁね。ま、そのうち来るでしょう。先行こうぜ」
 あっさりとそう言い返したルークの声につられて、デーモンもエースも歩き出す。
 そして、ゼノンの屋敷へと到着した訳である。
 出迎えた使用魔に促され、リビングへと通される。そして少し待つように言われ、コーヒーが用意された。
「…あれ?これ、何か良い匂いしない?」
 コーヒーのカップを手に、くんくんと鼻を近づけるルーク。
「本当だ。ゼノンの屋敷にしては珍しいな」
 普段と違うコーヒーを楽しみつつ、主の到着を待つ三名。そして、暫しの後に現れた主の姿に…エースは思わず溜め息を吐き出す。
「…またかよ…」
 小さく零した声。
「どしたの?」
 エースの声を聞きつけ、声をかけるルーク。デーモンも、不思議そうにエースを見ている。
 だがしかし。
「いらっしゃい。わざわざ総出で来て貰って申し訳ないね。で…ライデンは?」
 主の態度は、いつもと何ら変わりはない。その姿を目で追っていたエースは、不意に主が小さく目配せをしたことに気が付いた。どうやらそれは、エースに黙っていろ、と言う合図らしい。
 溜め息を吐き出しつつ小さく頷いたエース。まぁ、ゼノンの考えに同調してやろう、と言うことだろう。
「あぁ、ライデンね…ちょっと遅れて来るって。直ぐに来るよ」
「そう…なら、良いんだけど…」
 そう言いながら、主は彼らと向き合うようにソファーへと腰を下ろす。
「…で?結論は出たのか?」
 そう問いかけるデーモンの声に、主は無言で頷く。
「なら、良いんだが…まぁ、これ以上無茶はしないと思うんだが……」
 と言いつつ、大きな欠伸を零すデーモン。それにつられたように、ルークも大きな欠伸を零す。
「何か、急に眠くなって来たね~…」
「…あぁ…」
 デーモンとルークは、相次いで欠伸を零す。
「…ライデンが来るまで、少し休んでる?」
「うん…そうさせて貰おうかな…ねぇ、デーさん?」
「あぁ…」
 ゼノンの提案に、デーモンもルークも、欠伸を零しながら目を閉じる。そしてものの数秒で、すっかり眠りに落ちたらしい。小さな寝息が零れ始めた。
「…何したんだよ…」
 一名、正気を保っているのはエース。
「いえ、特別には。ただちょっと、コーヒーに味付けを…」
「…ったく…ゼノンの命令か?」
「えぇ」
 くすくすと笑いを零す主…否、その正体をエースは知っていた。
 ゼノンの姿をしている彼が、この屋敷の使用魔…レプリカであることを。
「やはり気が付かれました?」
 問いかける声は、既にゼノンの声ではない。
「当たり前だろう?昨日の今日だぞ?気が付かない訳ないだろうが…ゼノンも、どう言うつもり何だか…」
 溜め息を吐き出しつつ、エースはカップのコーヒーに口を付ける。
「やはり、エース様には効きませんか?」
 興味深げに問いかける声。
「悪いな。夕べ…と言うよりも、昨日の夕方から今朝まで、たっぷり眠ったからな。これしきの酒じゃあ何ともない。まぁ…デーモンとルークはあんまり眠ってなかったみたいだからな。効きも良かったんだろう。ブランデーと、まだ何か入ってるな?」
「えぇ。ウォッカを少々。強めに、との御指示で」
「…良い性格だよ、御前の主は」
 エースは呆れ顔で笑いを零した。
「で?ゼノンは何処に行ったんだ?」
 先程から感じる気配では、屋敷にゼノンの気はない。と言うことは、自分が留守にする代わりに、レプリカを代役にしたのだろう。
 問いかけた声に、相手は首を横に振る。
「どちらに御出かけなのかは存じません。ただ、自分が帰るまでは、御客様の相手をわたくしに頼むとだけ…」
「帰っては来るんだな?」
「はい。そうおっしゃっておりました」
「…そう、か。じゃあ、気長に待つことにしようか」
 エースもすっかりくつろぎモードに入ったらしい。大きく伸びをすると、徐にソファーから立ちあがった。
「書斎、借りるぞ」
「どうぞ」
 にっこりと微笑む偽主に見送られ、エースはゼノンの書斎へと向かった。
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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