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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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IN THE MAZE 4
こちらは、本日UPの新作です
ちょっと前のお話、と言うことで…。(苦笑)
 4話完結 act.4

拍手[3回]


◇◆◇

 屋敷を抜け出したゼノンは、文化局の直ぐ近くの森へとやって来ていた。
 ここは、初めてライデンと会った場所。多分…そのことを、ライデン以外の他の構成員は知らないはず。だから、追いかけて来られることもない。
 "その場所"に腰を下ろし、空を見上げる。
 木々の緑の間から見える空は青。
 そう。あの日と同じ、青い空。
 素直になれなかったのは、自分に正直になることが怖かったから。
 今は、何の問題もないかも知れない。けれど、今のままの関係を続けていれば、必然的に将来を考えざるを得なくなる。その時自分は…どうなるのだろう?その答えが、どうしても見付からないのだ。
 相手は、雷神界の皇太子殿下。自分は、今は文化局の局長ではあるものの、将来はわからない。当然…その差は歴然。その身分差を忘れてはいけない。夕べ、幾度もそう思い返したはず。
 そして…正直なところ、結論には辿りつけなかった自分がいる。
 大きな溜め息を吐き出し、そのままごろりと草の上に横たわり、目を閉じる。
 風が渡る音が聞こえる。木々がざわめく音が聞こえる。
 囀る鳥たちの声。小さな、羽ばたきの音。
 …小さな……否、その音は次第に大きくなり…そして。
「…うわ…っ!!」
「…っ!?」
 何かがばさりと落ちて来る音に、ゼノンは慌てて飛び起きる。
 そこに落ちていたのは…紛れもない…恋悪魔の姿、だった。
「…いった~…」
 落ちて来た時に、木の枝にぶつけたのだろう。辺りに散乱する鳥の羽根と木の葉の間で、腰をさする姿は…あの時と同じ。
「…どうしてまた落ちて来るかな…」
 思わずつぶやいた声に、その眼差しが自分を見つめる。
「…どうしてだろうね…ホント、不思議」
 くすっと、小さく笑う姿。そして。
「御待たせ、ゼノン」
「…待ってたよ、ライデン。御前なら、ここに来てくれると思ってたから…」
「うん。魔界に着いたら、そんな気がして…」
 そう言ったライデンは、そこでふと口を噤む。
 そこまでわかり合えているのに…どうして、すれ違ってしまったのだろう。
 途端に変わった表情で、ゼノンもその気持ちを察したのかも知れない。小さな吐息を吐き出すと、ライデンを自分の隣へと促す。
 そして、一晩考えた末の答えを、ゆっくりと口にした。
「…今回のことは…俺が勝手に嫉妬しただけのことだったはずなのにね。ほんの些細なことが…引き金になるとは思わなかった」
「…嫉妬、って…あれは、フィードだし…浮気なんか、する訳ないじゃん…」
 俯いたまま小さくつぶやいた声に、ゼノンは小さく笑った。
「ホントにそうだよね。冷静に考えればわかることだったのに…何でだろう、自分が…凄く嫌なヤツに思えてね。勝手に嫉妬して…勝手に逃げ出して…みんなを巻き込んで。何より…御前を、傷つけた」
「…ゼノン…」
「…御免ね。正直、答えは出てない。これから、どうしたら良いのか…俺にもまだわからないんだ。今は誰も何も言わなくたって、俺たちの身分の差を考えればいつかは誰かからクレームが来ると思う。その時俺は…どうするべきなのか」
 そっと、隣のライデンの様子を伺い見るゼノン。
 ライデンは…と言うと、顔を上げ、空を見上げたまま。
「…だから…影響の少ないうちに別れるって?」
 ふと零したライデンの言葉。
 それも、考えなかった訳じゃない。勿論、選択肢の一つとして、出て来たことは間違いない。
「…もし…俺がそう言う答えを出したとしたら…それを、受け入れてくれる…?」
 問いかけた声に、ライデンは小さく笑った。
「そうだな…今の俺なら、多分……却下する」
「…ライ…」
 ライデンはその視線をゼノンへと向ける。その表情は、とても真剣。
「当たり前、でしょう?それが本当にあんたの出した答えなら…きっと、ここでは話さない。だってここは、俺たちが出逢った場所でしょう?別れ話をするところじゃない」
「……」
「俺も、一晩考えた。多分、あんたがそう言い出すんじゃないか、ってことも想定して。だけど…俺が雷神界の皇太子だってことは、最初からわかっていたはずでしょう?あんただって、それをわかっていて…俺を好きになってくれたんじゃなかったの?俺は、そうだと思っていたのに…そうじゃなかったの…?」
「勿論、そのつもりだったよ。だけど…」
「だけどって何?」
「…だから…答えは出てないんだって…」
 大きな溜め息を吐き出したゼノン。
「答えを出さないことがずるいって言うことはわかってるよ。でも…直ぐに結論を出すことが良いことなのかどうか、俺にはわからなかったんだ。今回はこうして、勝手に距離を置いてしまったけど…それじゃ、何も始まらないことはわかった。例え、結論が出なくても…俺は、ライデンと一緒にいたいんだ」
「…ゼノン…」
 エースに対し、"自分は素直ではない"と言ったゼノン。だからこそ…今まで聞いたこともないような逃げ道が、素直な答えだったのかも知れない。
 自分を見つめる碧の眼差しは、とても柔らかい。そして、真っ直ぐな気持ち。
 ゼノンは、ライデンの手の上に自分の手を重ねた。
「言いたいことは、溜め込まずにはっきり言うよ。そうしないと…いつかホントに、別れることになるかも知れないしね」
 くすっと、小さく笑ったゼノン。少なくともその顔は、先の未来に悲観はしていない。
 今を、精一杯愛せたら。きっと…未来も、悲観しなくても良いはず。それが、唯一見つけた答えだったのかも知れない。
 ゼノンは、ライデンをそっと抱き寄せると、その耳元で囁く。
「…黙って、何処かに行かないで。例え、フィードでも…俺は、嫉妬するよ」
「…わかった。御免ね…」
 ライデンは小さくそう返すと、ゼノンの身体に腕を回し、抱き返す。
「今は、答えが見つからなくても…いつか…将来のことを真剣に考えなきゃいけなくなった時にも…一緒にいられる様に、前を向いてようね」
 愛されているから…嫉妬されるのだ。ライデンは、それを身を以って実感して…そして、最愛の恋悪魔の結論を、受け入れた。
「俺も言いたいことははっきり言うよ。そうしたら、あんたも何処にも行かないよね…?」
「…確証は持てないけど…精一杯、頑張るよ」
「…もぉっ!そこは素直に、うん、でしょ?」
 思わず、頬を膨らませるライデンに、ゼノンはくすくすと笑った。
「うん。何処にも行かないよ」
 にっこりと笑って、そう言い直したゼノンに、ライデンもにっこりと微笑んだ。そして、再びゼノンを抱き締める。
「あんたを…信じてるからね」
 耳元で囁く声。その言葉に、安堵の溜め息が零れた。
「…有難う」
 小さく言葉を零し、ライデンの背中を抱き締める。
 今は、それで良い。それが最善なのだと、御互いに納得出来たこと。それが、嬉しかった。
 抱き締めているライデンの、規則正しい呼吸のリズムに、まったりと仕掛けた時。
 ふと、気が付いた。
「…ちょっ…ライ?」
 その奇妙な沈黙に、思わず声をかけたゼノン。けれど、やはり返事はない。
 抱き締めていた身体をそっと引き離して、顔を覗き込んでみて…ゼノンは思わず溜め息を一つ。
 ライデンは、眠っていたのだ。とても安らかな顔で。
「…ったく…何でここで寝るかね…」
 そう零したものの…ゼノンの表情も満更ではない。
 これで良いのだ。これで、いつもの関係に戻れる。
 安堵の表情で眠るライデンを抱き上げ、ゼノンも晴れやかな表情で、自分の屋敷へと戻って行った。

◇◆◇

 玄関のドアを開けて入って来たゼノンを出迎えたのは、既に本来の姿に戻っていたレプリカであった。
「御帰りなさいませ」
「あぁ、ただいま。みんなは、予定通り…?」
 ライデンを抱き抱えたまま、客間へと向うゼノンの後ろについて来るレプリカに問いかける。
「閣下とルーク様は、予定通りでございます。エース様は書斎に」
「やっぱり、エースは無理だったか」
 くすくすと笑いながら、客間のドアの前まで来ると、レプリカはすっとそのドアを開け、先に部屋の中に入ると、ベッドを整える。
「良く…眠ってらっしゃいますね」
 レプリカの手を借り、ライデンをベッドへと降ろす。けれど、ライデンは一向に目覚める気配すらないのだ。
「夕べは寝てなかったみたい。全く起きないし」
 ゼノンは、ベッドに横たえたライデンに上掛けをかけてやりながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「今の俺には…未来のことまで確証は持てないよ。だけど…ライデンはそれでも良いと言ってくれた。それでも…俺を、信じてくれるって」
「そうですか。でしたら、もう大丈夫ですね。わたくしも安心致しました」
 レプリカも、安心したように目を細めて微笑む。まるで…主の幸せは、自分の幸せだと言わんばかりに。
「御前にも、心配かけたね」
 ぽつりとつぶやいた声に、レプリカは小さく笑う。
「いいえ。わたくしも…信じておりましたから」
 その言葉に、ゼノンも小さく笑いを零していた。

 書斎にいたエースは、そのドアをノックする音に、読んでいた本から顔を上げた。
「はい」
 声をかけると、そっとドアが開く。そして覗いたのは、見慣れた碧の瞳。
「ただいま」
「…御帰り。ライデンは?」
「うん、眠ってる。徹夜なのに、気を張っていたんだろうね。話が終わったら、安心したみたいで爆睡」
 くすくすと笑いながら部屋に入って来た主。密かに気配を探っていたエースであるが、話の内容からしてもどうやら本物らしい。
「…で?答えは?」
 手に持っていた本を閉じ、背中で戸を閉めた主を見つめる。
「うん。もう心配しないで。今の俺たちなりに、ちゃんと結論は出したから」
 にっこりと微笑む相手に、エースは小さな吐息を吐き出す。
 眠り込んだライデンと言い、昨日とは違って、この主の頗る機嫌の良いことと言い…どうやら、悪い結論ではなさそうだ。それは、小さな救いでもあった。
「…なら、帰って来るんだろう?」
 問いかけた声に、小さく頷く。
「御免ね。心配かけて」
「いや。俺の心配なんかたいしたことはない。でも、他の奴等にはちゃんと謝るんだぞ」
「うん。わかってる」
 とても素直な主に、エースの方が多少拍子抜けしたようだった。けれど、勿論そんなことはおくびにも出さないが。
「…その気になれば、素直になれるんじゃないか」
 小さくつぶやいた声に、苦笑する相手。
「御前もね。頑張って」
「ばぁ~か」
 その言葉の指す意図を考えながら、エースも苦笑する。
 けれど、そんな何気ないやり取りが、とても心地良かった。
 先のことなど、誰もわからない。けれど…今が、幸せであるように。
 そんな意識が、エースが感じ取った結論だった。


「んん~…」
 大きな伸びと欠伸と共に、うっすらと開いた目。そしてその直後、その身体がぐらりと揺れる。
「…ぃったぁ…」
 ドスンと床に叩き付けられ、やっと意識が覚醒する。そして辺りを見まわし、自分がソファーから落ちたことを認識した。
「…あれ?吾輩、どうしたんだ…?」
 窓から差し込むのは、どうやら夕日らしい。自分が何時間眠っていたのかも良くわからない。ついでに言えば、頭が鈍く痛むのはどうしてだろう。
 視線を巡らせてみれば、横のソファーには毛布を被ったルークが眠っている。恐らく、自分も同じ状態から床へと落ちたのだろう。
 ゆっくりと立ち上がって窓へと向うと、そのガラス戸を開けてテラスへと出た。
 多少冷たいが、吹き込んで来る風がとても気持ち良かった。
 そうやって風に吹かれているうちに、少しずつ頭の中がクリアになって来た。
「…こんなに眠り込む程、寝不足だった訳ではないはずなんだが…」
 部屋の中に、エースはいない。ソファーにも寝ていた形跡はない。と言うことは、エースは眠ってはいなかったと言うことだろう。
 エースが寝ていなくて、自分とルークだけが眠ってしまった。それが、酷く奇妙で…妙に引っかかる。
「…まさか…」
 珍しく香りの良いコーヒーと言い、鈍く痛む頭と良い、無駄に長時間眠り込んだことと言い…その答えは一つしかなかった。
「ゼノンのヤツ…やってくれたな…」
 思わず、笑いが込み上げて来る。
 そこまで手立てを整えていたのだから、恐らくもう全て片付いているのだろう。無理を言って付いて来たものの、やはり自分もルークも、この場には必要なかったのだ。
 そう想いを巡らせながら、それでも何だか穏やかな気分で大きく息を吸い込むと、何の前触れもなくその部屋のドアが開かれた。
「…あぁ、起きていたのか」
 テラスにいるのデーモンを見るなり、そう口にしたのはエースだった。
「あぁ。どうやら、ゼノンに一服盛られたようだ。御前には効かなかったのか?」
 くすくすと笑いながらそう零すデーモンに、エースは小さな溜め息を一つ。
「あれしきの酒で俺を眠らせようったって、そうはいかないさ」
「そう、か」
 苦渋顔のエースとは反対に、デーモンはとても機嫌が良い。その上機嫌が尚のこと、エースの表情を強張らせる。
「…ゼノン、戻って来たんだろう?」
 エースから視線を外し、再び外へとその眼差しを向けたデーモン。
「…あぁ」
 何処までを察しているのかはわからないが、その言葉の問う意味はわかっていた。だから、エースも素直に頷く。
「仲直り、出来たんだろう?」
「…多分な。俺も全てを問いかけた訳じゃないが…否定はしなかったし、彼奴らなりの結論は出したみたいだしな。もう大丈夫だろう」
「…そう、か。良かった」
 安堵の溜め息を吐き出すデーモン。その背中を、エースは真っ直ぐに見つめていた。
 今まで、拒み続けて来た存在が、今目の前にいる。その無防備な背中に近付くのは容易なこと。
 一つ、エースが息を飲んだ。
 今回のことで、自分から歩み寄ろうと思った訳ではなかった。勿論、素直に胸の内を晒し出すことなど、以ての外。けれど…いつもとは違う雰囲気であることはわかっていた。
 ゆっくりと、ルークへと視線を向けるエース。その規則正しい寝息は、まだ深い眠りの中にいるようだった。
 今なら、言えるだろうか……否、言うなら今しかない。
 エースはルークを起こさないようにそっと歩みを進めると、テラスへと出る。そして、デーモンの横に立つと、その口を開いた。
「前に…言ったことがあったよな?俺はいつか、御前を殺すと」
「…あぁ、聞いたな」
 エースの声に、デーモンは記憶を手繰り寄せ、少しだけ緊張する。
 それはまだ、地球任務に参加する前。デーモンは、エースにそう宣告されている。否…デーモン自身、その生命をエースにくれてやると言ったはず。
 だがエースは同じ任務に参加している今に至るまで、それを口にしたことはなかった。それが今、不意に口にしたと言うことは…エースに、何らかの心境の変化があったのだろうか。そんな思いを抱きながら、デーモンはエースの言葉を待った。
「悪いが…あの時の想いは、今も変わらない。今まではチャンスを待っていたに過ぎない。だが、今回のことで…彼奴等に俺も素直になれと言われた。だからと言う訳じゃないが…それでも良いかなと思い始めた」
 そう言いながら目を伏せたエース。真っ直ぐ前を向いているデーモンにも、エースの表情は良く見えなかった。
 そして、エースの口から零れた言葉。
「今なら…素直に、御前を殺せるかも知れない」
 その言葉に、デーモンはその視線をエースへと向けた。だが、その表情は悲観している訳でもなく、驚いている訳でもない。
 その言葉を、デーモンはずっと待っていたのかも知れない。恋焦がれた相手からの、愛の告白のように。
 ふっと、デーモンが微笑んだ。
「あぁ、良いぞ。御前がそうしたいのなら…吾輩は、いつだって御前の刃を受ける覚悟は出来ているんだ。地球任務は途中になってしまうが…今なら…吾輩も、御前に殺されても構わんよ」
「…本当に良いんだな?」
 もう一度、エースが問いかける。
「…あぁ。いつでも良いぞ」
 デーモンは目を閉じ、大きく呼吸を整えた。
 これで最後になっても、悔いはない。それが…エースの刃なら。
 すっかり無防備になったデーモンを前に、エースはその右手に一振りの剣を呼び出す。後は、その剣をデーモンの胸に突き立てるだけで良い。それだけで…エースの想いは成就する。
 けれど…その右手が動かなかったのは、どうしてだろう。
 魔界に於て、百戦錬磨の兵と称されていたエースが…覚悟を決め、目を閉じたデーモンの前で動けなかったのは、どうしてだろう。
 暫し…エースは、その顔を見つめていた。
 彼は…どうして、そんなに穏やかな顔をしているのだろう。それすらも、良くわからなくて。
 ただ…あの時感じなかった居心地の良さは…確かに、そこにあった。
 やがて大きな溜め息を吐き出し、気持ちを落ち着かせる。
 そして。
「…ばぁ~か…」
「…エース…?」
 思いがけない言葉に、デーモンは思わず目を開ける。
 エースは…右手の剣を身の内にしまい、大きな溜め息を吐き出していた。
「殺さないのか…?」
 思わず問いかけた声に、エースの眼差しが一瞥する。
「…今、御前を殺しても…それを堪能する間もなく、俺はルークに殺されるからな。だったら…もう少し待ってやる。だが、忘れるな。俺は必ず、御前を殺すから」
 そう言い残し、エースは部屋へと戻ると、真っ直ぐにドアから出て行った。
 その背中を見送ったデーモンは、小さな溜め息を吐き出す。そして、ソファーで眠っているはずのルークへと、視線を向けた。
「…どうしてこう言う時にタイミング良く起きるかな…」
「…バレてた…?」
 くすっと小さな笑いが零れ、むくっとルークが起き上がる。
「それにしても、妙な関係だよね、デーさんとエースって。俺が起きなかったら、ホントに殺されてたかもよ?」
 先程までの様子を盗み見ていた感想なのだろうか。呆れたような溜め息と共に吐き出された言葉に、デーモンは小さく笑う。
「別に良いんだ。覚悟はしているから」
「…ったく…それが副大魔王の言葉かね…」
 呆れた溜め息吐き出すルーク。けれど、デーモンの微笑みは変わらない。
 それで良いのだ。例え、殺意であれ…エースの中に自分がいると言うことだけがわかっていれば。
「…ま、その時は俺もあんたを護る為に生命を張る覚悟は出来ているけどね」
「…ルーク…」
 困ったようなデーモンの表情に、ルークは笑いを零した。
「まぁ…さ。そんなこと、ない方が良いけどね。ゼノンとライデンも仲直りしたみたいだし。誰も文句がなければ、これで丸く収まったって訳?」
「そうみたいだな」
 くすくすと笑うデーモンにつられ、ルークも微笑む。
 今は、結論を急がなくても…これで良いのだと。
 それは、ゼノンとライデンに限らず…デーモンとエースの関係にも、言えることだった。

 その頃、廊下の片隅で壁に凭れて立っているエースと、その向かい側の壁に寄りかかるゼノンがいた。
「…ルークが起きなかったら…本当に、デーモンを殺す気だった…?」
 デーモンとのやり取りを廊下で聞いていたゼノンは、エースにそう問いかける。
 エースは…と言うと、大きな溜め息を吐き出しつつ、その視線はずっと伏せられたまま。けれど、赤い口元は僅かに綻んでいた。
「…さぁな。だが…折角御前らが仲直りして人間界の活動も今まで通りに進められるって言うのに、その総帥を殺すのもどうかと思ってな。まぁ、俺が本気なら、そんなことは気にもしないけれどな」
「…成程ね」
 くすっと、ゼノンが笑った。
 前のエースは、もっと悲壮感に満ちていた。それが今は、物騒なことを口にしている割には楽しそうにも見える。
 エースの胸の内も、きっと何かが変わり始めているのだろう。
 ならば、これで良いのかも知れない。
 将来のことは…自分とライデンのことも含め…何の確証もない。しかしそれはある意味、どんな道も切り開いて行けると言うこと。デーモンとエースも…もっと違うカタチの結論が待っているかも知れない。
 それを待ってみるのも、また一興。
「…ライデンが起きたら、みんなで食事にしようね」
 そう言ったゼノンの声に、エースはくすっと笑う。
「ライデンなら、食事の匂いがすれば起きるさ」
「…かもね」
 くすくすと笑う二名。それはまさに、穏やかな笑いだった。

◇◆◇

 すっかり日も暮れた頃。ゼノンの屋敷の食堂には、五名の構成員が勢揃いしていた。
 全てが、元通りに戻っている。だから、多少の愚痴は零すものの、誰も文句など言うものはなかった。
 誰も、ゼノンが出した答えを聞き出そうとはしない。そんな答えを聞かなくても、彼の恋悪魔の笑顔が見られればそれで必然的にわかることだったから。
 未来の確証など、なくても良い。それは、これから作っていくものだから。
 それは、誰に対しても言えることであった。

 かくして、再びいつもと変わらない時間がそこに戻っていた。
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プロフィール
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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