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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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LOST 2
こちらは、本日UPの新作です
 4話完結 act.2

拍手[4回]


◇◆◇

「……ノン……ゼノン…っ!!」
 叫ぶような声。頬を叩く衝撃に、ふっとその意識が戻った。
 心配そうな表情で覗き込んでいた眼差しが、安堵感で柔らかくなった。
「ゼノン、大丈夫ですか…?」
「…クーヴェイ…?」
 ぼんやりとした視界に映った顔。どうして彼がここにいるのか…状況がわからず、横になっていたベッドから起き上がる。と、その途端周りの様子が目に入った。
 自分の部屋ではないその室内は…あちこちに深紅の血が飛び散っている。そして自分が横になっていたベッドも血塗れで。当然、自分の両腕も血塗れ。身体の上にかけられているシーツも、あちこち血で汚れていた。ただ、何処も痛くはないので、それは自分の血ではないことは確かなようだった。
 となると…答えは一つしかない。
「……ホリィは…」
 問いかけた声は、微かに震えていた。
「…生きて、いますよ」
 ゆっくりと答えたのは…ここにいるはずのない、レイラ=クーヴェイ。
 彼はそのまま、言葉を続けた。
「彼は…テオ=ホリィは、自分でわたしに連絡して来ましたよ。病院へ連絡して欲しい旨と…貴方のフォローを。わたしがここに来た時には意識は怪しかったですが、肢体は全て揃っていましたし…重傷ですが、多分生命は大丈夫です。わたしが来る前に、貴方に気を使って身体にシーツがかかっていましたし…曲がりなりにも…彼は"鬼"の仲魔、ですから」
「…そう…」
 話を聞きながらも、頭が割れるように痛い。両の手でこめかみを抑えて苦悶の表情を浮かべたゼノンに、レイラ=クーヴェイは小さな吐息を一つ。それからそっと、ゼノンの頬にそっと手を触れた。
「頭痛も多分、"鬼"の能力が急激に解放された影響だと思います。意識が落ちたので、"鬼"も身の内に戻ったみたいです。わたしも、同じでしたから。取り敢えず…わたしの部屋へ、行きましょうか。ここでは…血の匂いが充満していますから、身の内に戻ったとは言え…"鬼"が、落ち着かないのだと思いますよ」
 実に冷静に、レイラ=クーヴェイはシーツに包まったままのゼノンを促して、別棟の自分の部屋へと連れて行く。流石に遅い時間なので、廊下で誰かに会うこともない。もし誰かに会っていたら…ゼノンの姿に、一騒動になっていただろうが。
 促されるまま、ゼノンはレイラ=クーヴェイの部屋で熱いシャワーを浴びる為に浴室へと向かった。そして、洗面台の前で包まっていたシーツを下ろすと、鏡に映る自分の姿を初めて見た。
 深紅の血に染まった顔。そして、身体。まるで浴びる程の返り血に塗れたその姿に…背筋がゾクッとした。そして…改めて、実感した。
 自分は…血を好み、肉を喰らう"鬼"なのだ、と。
 大きな溜め息を吐き出すと、ゼノンはシャワーを浴びに行く。
 念入りに身体を洗い、血の匂いを落とす。そして漸く浴室から出た。
「…服は、今貴方の部屋へ行って取って来ました。それから管理魔に状況を伝え、テオ=ホリィの部屋の清掃を頼んで、貴方の外泊の許可も貰いました。今日は、ここで寝てください」
 淡々と状況を熟していく。ゼノン一名では、頭が回らなかったが…そこにレイラ=クーヴェイがいてくれて助かった。素直に、そう思ったのだが…考えてみれば、レイラ=クーヴェイが儀式の時は…自分は、何もしなかった。何もわからず…ただ、過ぎた状況だけを、テオ=ホリィに聞いただけだった。
「…御免ね、迷惑、かけて…」
 身体を拭き、服を着たあとぽつりとつぶやいたその声に…レイラ=クーヴェイは小さく笑った。
「何を今更。わたしたちは…今までも支え合って、一緒に歩いて来たでしょう?わたしの方が一歩、先を歩いたので…"後始末"もわかっていただけのことです」
「でもお前は…俺に何も、助けを求めなかった。全部…一名で、やったんでしょ…?相手の…その…"事後処理"も、部屋の清掃を頼むのも…心の整理も…全部」
 真っ直ぐに向けられた碧の眼差し。向かい合う同じ色の眼差しが、すっと細められる。
「えぇ…わたしは貴方と違って…彼を、喰らいましたから。自分の中の"鬼"を否定もしません。だからこそ…寧ろ、冷静だったのかも知れません。時間はかかりましたが…流石に貴方には、見せたくはなかったので…」
 ゼノンが目覚めた時、テオ=ホリィの姿は既になかった。多分、既に病院へと連れて行かれたのだろう。どんな姿だったかはわからないが…ゼノンの身体の返り血を考えると、かなりの傷を負っていたはず。そして、意識を落とすことも出来ず…恐らく、かなりの苦痛を伴っていたことだろう。
 だが、それでもテオ=ホリィは生きていた。確かにそれだけは…ゼノンの救いだったのかも知れない。
 もし、目覚めた時…そこに、既に息絶えた相手がいたのなら…しかも、"喰われた"のなら…どんなに惨い姿だったか。それを思うと、溜め息しか出て来ない。
 落ち込んだ表情のゼノンに、レイラ=クーヴェイも溜め息を一つ。そしてその手を取り、自分のベッドへと座らせた。
「わたしのことは、大丈夫です。今は、貴方のケアを…」
「違う!」
 思わず、拒否を示す声を上げる。
 今、求めているのは…そんなことではない。自分のケア以上に…今、必要なこと。
 手を伸ばしたゼノンは、そのままレイラ=クーヴェイの身体を抱き締める。
 力一杯…息が苦しいくらい、目一杯の力で。
「ちょっ…ゼノン!?」
 思いがけない行動に出たゼノンに、当然レイラ=クーヴェイは唖然としてされるがまま。
「…御免…傍に、いられなくて…助けて、あげられなくて…」
「……ゼノン……」
 きつく抱き締められたその耳元で、絞り出すような声。
 それは…とても、苦しそうで。
「…こんなに…苦しいとは思わなかった…誰かを傷つけることが、怖いとは思わなかった…物理的なことだけじゃなくて…心が、痛いとは…思わなかった…」
「…ゼノン…」
「…お前も…ホリィも……俺には、大事な仲魔なんだ…だから…」
「大丈夫だから」
 ゼノンの言葉を遮るかのように、声を上げたレイラ=クーヴェイ。
「わたしは大丈夫。ちゃんと乗り越えました。テオ=ホリィも、ちゃんと生きているから。だから、ゼノン…貴方も、ここを、乗り越えて」
「…レイラ…」
 緩んだ腕の力。身体を離したレイラ=クーヴェイは、ゼノンの顔を覗き込む。
 初めて見た、泣き顔。両手でその涙を拭ってやり、にっこりと微笑む。
「貴方の、その優しい心は大好き。心配してくれて、とても、有難いと思う。でも…わたしは、多分貴方とは違う道を進む。"あのヒト"と一緒に戦いたい。だからわたしは…貴方を、頼らなかった。それが、わたしが選んだ道、なんです。そしてテオ=ホリィは…多分、優し過ぎる貴方が心配だったんだと思う。だから、貴方の相手に自ら申し出た。貴方が、儀式の相手を喰い殺したと、トラウマを背負わないように。でもね、ゼノン…貴方が上を目指すつもりなら…ここは、きちんと乗り越えなくては駄目。例え、この儀式で何があったとしても…みんなが越えなくてはいけない"壁"だから。綺麗事だけでは済まされないことはわかってる。でも貴方なら…越えられるから」
 その柔らかい口調で紡がれる言葉が…とても痛い。
 身体と心を結びつける。それが儀式の本当の目的ならば…多分、まだ壁は乗り越えていない。けれど…乗り越えろと言われたら、意地でも乗り越えなければ。それが……自分が背負った、運命なら。
「…お前は…ホントに、強いよね…」
 手の甲で頬を拭いながら零した言葉に、レイラ=クーヴェイは再び笑う。
「一名では、強くはなれませんでしたよ。ずっと、貴方が一緒にいてくれたでしょう?それに…多分、"あのヒト"の隣に立ちたいと思う目標が出来たから、かも知れません。自力で、上まで行くつもりですから」
「…そう。想う気持ちは偉大だね」
 呼吸を落ち着け、やっと感情の起伏が収まって来る。
「…貴方もいつか…きっと、巡り合えますよ」
「期待はしないよ。俺は…恋愛には向かないと思うから」
「またそんなことを…士官学校を卒業さえすれば、魔力の制御も許可されます。そうすれば…」
「そんなに簡単じゃない、でしょ?卒業さえすれば、っていう問題じゃないもの。"鬼"の能力は一生のモノ。制御したって、安心して気を抜いたら最後だから。それに、封印の知識や魔力はともかく…まず金銭的に、先立つものがない」
「…それはそうですけど…」
 否定的な言葉に、小さな溜息を吐き出すレイラ=クーヴェイ。
 士官学校にいるうちは、まだ誰もが成長段階の為、魔力の制御は認められない。けれど、卒業して入局をすれば、その規則からは外れることとなる。平均値を遥かに上回り、必要以上に魔力の放出を嫌う傾向にある"赤の種族"に多いと聞いているが…封印を施す呪を必要とする為、封印の知識と能力を抑えられるだけの魔力がないと難しい。そして何より主に封印に使われる法具が高額と聞いている。つまりは、卒業したての身では、到底手の出しようがない。結果、能力を上手く制御出来ずに、実力を存分に発揮出来ない者も数多くいるという現実があった。
 ゼノンもその状況は十分把握している。自分たちが法具を手に出来るのは、果たして何年先になることか。そう考えると、期待など最初からしない方が無難なのかも知れなかった。
 ここに至って、漸く頭がすっきりとして来た。
 大きな溜め息を吐き出したゼノン。
「取り敢えず…魔力の制御の話は、今は必要ない。今後、必要になったと感じた時に考えるから。それから……例えお前が、俺と別の道を歩くとしても…仲魔であることには変わりないよ。お前には…俺は、もう必要ないのかも知れない。でも…俺は、お前の仲魔でいたい。何かあったら、いつでも手を差し伸べられる存在でありたい。それが…同じ"鬼"を背負った、仲魔…でしょう?お前が、俺を助けてくれたように…俺も、お前が必要だと思った時に、いつでも助けられるように…」
「…ゼノン…」
「ホリィも、そう。俺は…ホリィに救われたんだと思う。だから…ちゃんと、償いはする」
「…償い?彼は、死んだ訳ではないのに?」
 思いがけない言葉に、レイラ=クーヴェイが首を傾げる。
「例え、生命を落としてないとしても、俺が傷つけたことには変わりない。いつか、ホリィが困った時に…俺は、必ずホリィを助ける。助けたいんだ」
 ゼノンの言いたいことはわかった。
「なら…まず顔を、見に行かないといけませんね。テオ=ホリィにも…ちゃんと、貴方の想いを伝えないと」
「…そう、だね…」
 ゼノンは、テオ=ホリィがどんな姿で病院へ行ったのかはわからない。肢体は揃っているが、重傷、とのことだが…それはあくまでもレイラ=クーヴェイの主観であって、実際の診断はどうなのかはわからない。
 自分が何をしたのか。それを、きちんと認識しなくては。
 ふと、窓の外へと視線を向ける。薄っすらと明るくなり始めた空に、ゼノンは溜め息を一つ。
 出来ることなら…なるべく早く、状況を確認したい。けれど流石にまだ早過ぎる。
「朝になったら、一旦学校に行って…学長に、外出の許可を貰えるように話をして来るよ。そうしたら、病院に…ホリィに、会って来る」
「お見舞いであれば、外出の許可が出るかはわかりませんよ?無理して今会わなくても、退院して来たら会えるのでは…?」
 既に研修が始まっている彼らであれば、外出も許可される。だが、それは休暇に生家に戻ったり、街へ出たりと一般的な外出の許可であって、怪我をさせた相手の見舞いに行く為の許可が出るかどうかはわからない。そこには個人情報に関わる壁があるから、なのだが…ゼノンもそれを理解しているはず。だが、今のゼノンには…どうしても行かなければならない、と言う思いで一杯だった。
「確かに…状況を考えたら、俺はホリィに会うことを止められると思う。もしかしたら俺は、ホリィの将来を駄目にしたかも知れないからね。でも…待っているだけでは駄目だと思う。今の状況を、自分でちゃんと見届けたい。俺が、何をしたのか。ちゃんと…確認しないと…俺は、前へ進めないと思う…」
 そこまでの想いは、ゼノンだからこそ。"鬼"であっても、"鬼"になり切れない。それが将来、どう影響するのか…それはレイラ=クーヴェイにもわからない。ただ…良い方向であって欲しいと、願うだけで。
「…わかりました。もし、許可が難しければ、わたしも口添えします。聞いて貰えるまで…何度でも」
「…有難う」
 その言葉だけで、十分。このことに関しては、ゼノンはレイラ=クーヴェイに助けを求めるつもりはなかった。
 自分で、乗り越えなければ。
 それが、今しなければならないことならば。

◇◆◇

 結局ゼノンもレイラ=クーヴェイも一睡もしないまま、登校時間を迎えた。
 レイラ=クーヴェイは通常通り授業に参加し、ゼノンは真っ直ぐに学長室を訪れていた。
 招き入れられた学長室で、一歩踏み込んだゼノンは、深く頭を下げた。
「…この度は、お騒がせしてしまって申し訳ありませんでした」
 その言葉に、深い呼吸が一つ。そして、ゆっくりと紡がれた声。
「…"鬼"ならば、通る道だからね。問題は、君がそれを乗り越えられるかどうか、だよ」
 顔を上げると、真っ直ぐにゼノンを見つめる学長の眼差しとかち合う。
「稀有な能力を持つ者たちは、大抵何度かは躓くものだ。"鬼"の種族は純血ならば特にその能力はとても偉大だ。ただしそれは、その能力を受け入れられれば、の話だ。君は、テオ=ホリィやレイラ=クーヴェイとは違って、自分の運命も能力も、未だ受け入れられていない。違うかな?」
「…学長…」
 学長が向ける、紫色の、柔らかな眼差し。その眼差しは、ゼノンがまだ知らない未来を見透かしているようで。
「理想と現実は大きく違う。期待だけが大きいと、現実に潰される。だが、そうならない為には、どうしたら良いと思う?」
 問いかけられ、思いを巡らせる。
「…現実を、真っ直ぐに見るしかないと思います。その上で、強くなって…上を目指すしかないと…そうすれば、現実が理想に近づくのではないかと……先輩に、教わりました」
「成程」
 くすっと、学長が笑う。
「それは懸命だと思う。自分の理想に現実を近づける為に強くなろうと思うことに異論はない。だが、それは実力のある者が言う言葉であって…今の君には、まだ無理だろう?」
 その言葉に、ドキッとする。
 学長の言葉通り…今のゼノンには、まだ自分の能力に向き合えていない。それを、見抜かれている。
 小さな溜め息を一つ吐き出す。その姿に、学長は言葉を続ける。
「君は…運が良い。相手がテオ=ホリィだったからこそ、殺さずに済んだ。だがそれは、君の弱点だ。生きている以上、いつかは、本気で戦わなくてはならない時もある。真の"鬼"に、ならなければならない時がきっとある。それを、恐れずにいられるか?」
 問いかけられた言葉も意味は重い。けれど…それが、ゼノンが考えなくてはならない未来のこと。
 少しだけ…その意味を、考える。
 そして。
「正直…今はまだ、わかりません。でも…わたしは、一生"鬼"を背負うことには間違いありませんから…何処かで気持ちに折り合いを付けなければ、とは思っています。強くなれば…上を目指せば、自分が納得出来る答えを見つけられるのか…それもわかりませんが…それでも、やらないよりはやってみた方が良いんじゃないかと思います。その為には、今、一歩前へ進まなければならない。なので…テオ=ホリィに、会いに行きたいのですが…外出の許可を、頂きたいのです」
 漸く、本来の目的に辿り着いた。そう思いながら、学長の言葉を待つ。
 相変わらず、真っ直ぐにゼノンを見つめる眼差し。決して逸らさないその眼差し。
 学長は暫し口を噤んで考えているようだったが…やがて、小さく微笑んだ。
「良いだろう。本来なら、重傷を負わせた君に、面会の許可は出せないが…今回はテオ=ホリィからの申し出のようであるし、君が前へ進む為に、必要なことだろう」
「…有難うございます」
 まさか、あっさりと許可を貰えるとは思っていなかったが…予想外の展開。
 その配慮に、深く、頭を下げる。
「しっかり、前を見ておいで」
「…はい」
 テオ=ホリィがどんな状態であるのか。まずそれを確かめなければ。
 学長室を後にしたゼノンは、そのまま外出届を職員室に出すと、病院へと向かったのだった。
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