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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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LOST 3
こちらは、本日UPの新作です
 4話完結 act.3

拍手[5回]


◇◆◇

 テオ=ホリィの病室へとやって来たゼノン。そのドアをノックしても、返事はない。
 そっとドアを開け、中を覗き込むと、ベッドで眠る姿が一つ。
「…ホリィ」
 小さく呼びかけるが、相変わらず返事はない。なので、そのままそっと傍へと歩み寄る。
 幾つかの機械に繋がれてはいるが、症状は落ち着いているようだ。傍に誰もいないところを見ると、重傷とは言え生命には問題なかったのだろう。規則正しい呼吸にホッとしつつ、その姿をじっと見つめた。
 肢体は揃っている。欠損がないだけでも一安心だった。頭も顔も包帯が巻かれており、見えるのは目の周りと口ぐらい。あの壁の返り血を思い出す限り、何度も手をあげて酷い怪我をさせたのだろう…。そんなことをぼんやりと思いながら…ふと、気が付いたこと。
「…角……」
 包帯の巻かれた頭はどう見ても角を隠しているようには見えない。となると…考えられる答えは一つしかなかった。
「…俺が…折った…?」
 途端に、背筋がゾッとして息を飲む。
 記憶がないとは言え…状況から察するに、恐らく間違いはない。"鬼"として能力の要ともなる角を、へし折ってしまった。それだけで、能力は激減する。つまり、テオ=ホリィは…肢体が揃っていたとしても…鬼面を被って本気を出したとしても、"鬼"としての能力は殆ど期待出来ない、と言うこと。
「…ホリィ…御免…」
 思わず零した言葉。崩れ落ちるように、ベッドの傍に膝をつく。
 自分は…テオ=ホリィの将来を、完全に壊した。レイラ=クーヴェイには、償うと言ったが…簡単なことではない、と言うことを改めて思い知った。
 気付いていなかったのか…敢えて黙っていたのか、それはわからない。だが、誰も、角がなくなったことを言わなかった。肢体の有無ばかり気にしていたが、怪我の所為で、もし手足が動かなくなったら…もし、視力や聴覚に異常が出たら。身体の大事な機能のことは、何も考えなかった。
 そんな簡単なことに…気付かなかった。それが…何よりも、情けなかった。
「…御免…」
 改めて、そうつぶやきを零す。零れた涙を拭うことも出来ず、現実に、落ち込むことしか出来ない。
 僅かに零れた嗚咽。すると、そんなゼノンの耳に微かな声が聞こえた。
「……くな…」
「…ホリィ」
 顔を上げてみると、先ほどまで閉じていたその目が、少しだけ開いていた。そして、ゼノンへと向けられていた眼差し。
「…な…くな…ばぁか…」
「ホリィ!」
 目覚めたテオ=ホリィは、一度大きく息を吐き出す。そして小さく咽ると、再び大きく呼吸を繰り返す。
「待って!今、医者を呼ぶから…っ!」
 苦しそうに見えるその姿に、ゼノンは声を上げて廊下へと走る。そして声を上げて医師を呼ぶと、直ぐに医師が駆けつけて来た。
 唖然としたまま見守るしかないゼノンの前、駆けつけた医師はテオ=ホリィの様子を確認する。そして簡単な処置をすると、ゼノンを振り返った。
「君は、彼の関係者?」
「……一応…」
 どう答えるべきかと悩む間もなく答えた声に、医師はゼノンの姿を頭の先から爪先まで一瞥すると、大きく息を吐き出す。
「学長には先に連絡を入れてあるが…まぁ、心配はいらない。君も知っているだろうが…彼は"鬼"の種族のようだから、怪我の回復も早い。一週間も安静にしていれば、直ぐに学校に戻れるだろう」
「でも、角が…」
「あぁ…」
 ゼノンの声に、小さな溜め息を一つ吐き出した医師。そして、ベッドのテオ=ホリィへと視線を向けた。
「折れた角は、戻らない。こればっかりは我々でもどうにも出来ない。だが、角がなくても生きては行ける。彼にも、そう伝えてあるよ。"鬼"であれば、知っていると思っていたが」
「………」
 実に完結で、簡単な説明。それで誰もが納得出来るのかと思いつつ…ゼノンにも詳しく聞いたところで、きちんと理解することは難しかっただろう。
「…話は…出来ますか…?」
 問いかけた声に、医師は一つ頷く。
「あぁ、大丈夫だ。ただ、彼が疲れない程度に。何かあったら呼んでくれ」
 それだけ言い残すと、医師は病室を出て行った。
 その背中を見送ったゼノンは、改めてテオ=ホリィの傍へと歩み寄る。そしてその顔を覗き込んだ。
「…ホリィ、大丈夫…?話…出来る?」
 問いかけると、その眼差しがゼノンへと向いた。
「あぁ…大、丈夫…医者に診て貰って…少し、楽になった…」
 確かに、先ほどよりも、多少であるが声も出ているし、言葉もスムーズになって来たようだった。だが、身体は動くことはなく、頭が少し動くくらい。大丈夫と言われても、彼らにテオ=ホリィの痛みはわからないのだから、実際はどうなのかはわからないところであった。
 ゼノンは大きく息を吐き出すと、テオ=ホリィに向けて頭を下げた。
「ホリィ…ホントに御免…お前の角を折ったのは…俺、でしょう…?肢体は揃っているって聞いたけど…傷だらけで、動けないみたいだし…お前に、どう償いをしたら良いか…」
 するとそんなゼノンの姿に、テオ=ホリィは笑いを零した。
「ばぁか。儀式の相手に、償いなんて言うな。これは、最初からわかってたことだ。全部承知で…俺が、あんたに求めたんだ」
「…ホリィ…」
 思いがけない言葉に、顔を上げたゼノン。その表情は、当然困惑している。
 すると、テオ=ホリィは更に笑いを零す。
「他の奴は…なかなか出来ない経験、だろう?"鬼"で良かったと、実感した。俺だけが知ってる、あんただ。本物の"鬼"は…最高に、刺激的、だったぞ」
「刺激的、って…」
 その言葉を、どう受け取ったら良いだろうか…。
 更に困ったように眉を寄せるゼノンに、テオ=ホリィは笑うことをやめた。そして、真っ直ぐにゼノンを見た。
「動けないのは、今だけ、だ。一週間も安静にしていれば、傷も治るし学校にも戻れる。少し…あんたたちから遅れるかも知れないが…別に、優秀な成績で期待されているって訳じゃないから、卒業さえ出来ればそれで良い。角だって…別に俺は、"鬼"としての能力をフル活用して最前線で戦おうと思っていた訳じゃないから。角がなくても別に、問題ない」
「…でも…」
「俺が、良いって言ってるんだ。あんたが、否定するな」
「……ホリィ…」
 いつになく、強い口調。けれど、それはゼノンを咎めるものではない。
「俺は…あんたとの、約束を守った。死ななかった、だろう?だったら、それで良いじゃないか。俺の角なんか、どうだって良い。生きてさえいれば、それで良い。あんたは、ちゃんと、成体になった。もう、恐れることはないんだ。償いなんか、いらない。あんたは…前へ、進め。ちゃんと、上を目指せ」
 その言葉に、胸が熱くなる。
 零れた涙が頬を伝うと、テオ=ホリィが、小さく笑った。
「…笑えよ。泣くな。あんたは…笑っていなきゃ、駄目だ」
 柔らかい声。その声に、涙が止まらない。けれど…ゼノンは、笑って見せた。
 泣きながら、笑った。
「…ばぁか…」
 その笑顔は、生命の証。
「帰って来るのを…待ってるから、ね」
 手の甲で頬を拭い、零したその言葉に、笑みが返る。
「…あぁ、待ってろ」
 力強いその言葉に…ゼノンは、救われた気がした。
「…有難う…」
 にっこりと笑う、その顔。晴れやかなその顔は、何よりの癒しになった。


 その日の夕方。授業を終えて帰って来たレイラ=クーヴェイは、部屋の前で待つゼノンの姿に足を止めた。
「…お帰り」
「…ただいま…」
 どう、言葉を続けようか。一瞬、そんな迷いの見えたレイラ=クーヴェイの表情。それを読み取ったゼノンは、思い出したように口を開いた。
「病院から帰って来たら、部屋、綺麗になってたよ。レイラのおかげ。有難うね」
「…そう、ですか。思っていたよりも早かったですね。わたしの時は、もっとかかりましたから…」
 ゼノンの時とは、状況が違う。その言葉を飲み込んだレイラ=クーヴェイ。そしてそのまま部屋のドアを開ける。
「…どうぞ。話があるなら、中で…」
「うん」
 促され、部屋の中へと入る。そして椅子に腰を据えると、漸く本題に入った。
「…テオ=ホリィ…どうでした?」
 問いかけた声に、ゼノンは一つ呼吸を置く。そして、ゆっくりと口を開いた。
「うん…まぁ、何とか…ね。医者は、すぐ直るって。でも…どんな様子なのか、俺にはざっと…と言うより、結論しか話してくれなかった。学長には、もっとちゃんと説明はしているんだと思うけどね」
「…そう、ですか…まぁ、わたしたちはただの同族の同期、ですから…無理もないのでしょうけど…それで、テオ=ホリィと…話は出来ましたか…?」
 そう言いつつ、ゼノンの様子を窺う。
 ゼノンは、小さく吐息を吐き出すと、その視線を伏せる。
 そして。
「…話したよ。そして、謝った。怪我をさせたことも…角を、へし折ったことも」
 そこで一旦言葉を切り、顔を上げる。
「言ってくれれば良かったのに…ホリィの角が、なくなったこと…ホリィがお前を呼んだんだもの。知ってたんでしょ…?」
「………」
 その言葉に、レイラ=クーヴェイは溜め息を一つ吐き出す。
「…御免なさい…貴方が、ショックを受けるかと…ただでさえ、気持ちの整理が大変なのに、と思って…」
 申し訳なさそうに歪めた表情。けれどゼノンは、首を横に振った。
「御免、謝って欲しかったんじゃないんだ。状況を…きちんと、知っておきたかっただけ。ホリィとは…そのことも、ちゃんと話した。彼奴は…俺が思っていたよりも、ずっとオトナだった。儀式のことも、将来のことも…全部色々考えた末に、覚悟を決めて俺の相手として申し出てくれたんだと言ってた。だから、笑え、って…」
「…テオ=ホリィらしいですね…」
 "天邪鬼"であるはずなのに、ゼノンに対しては…多少捻くれている節もあるが…実に素直で自然。相手がゼノンだからなのだ、と言うことは、レイラ=クーヴェイにもわかっていた。
「…本当に…貴方は、"鬼"らしからぬ"鬼"、ですよね。でも…それが貴方なんですよね」
「"鬼"としては…情けない限りだと思うよ。でも…俺はそれでも良いかな…」
 儀式を終えて、改めてそう思う。
 やはり自分は…"鬼"でいることが苦しい。傷つけるより、護りたい。その想いが、何よりも強いのだと。
 くすっと笑うレイラ=クーヴェイ。
 多分、ゼノンの"鬼"としての本性はレイラ=クーヴェイよりも断然強いだろう。それは、本能で感じ取ることが出来た。けれどそれ以上に、"ゼノン"の心根は…何よりも、強い。だからこそ、本来なら幾ら"鬼"が相手だとしても、圧倒的な能力の差で喰い殺されても可笑しくはない状況だったテオ=ホリィが、重症で済んだのだろう。
 護りたい、と言う心根が…"鬼"を上回ったから。
 だがしかし。それですべて終わりではない。これから先も、その心根だけで抑えられる能力ではない。いつかまた同じように、"鬼"の本性が勝る時が来る。戦地に立てば尚更。血の匂いが、その本性を呼び起こすのだから。
 けれど…その時まで。今暫くは…穏やかに、過ごせるように。
「御互い…頑張りましょう。しっかり、自分の道を進めるように」
「…支え合って?」
 様子を窺うような、ゼノンの姿。その碧の眼差しは、優しい色。
「…そう、ですね。テオ=ホリィも…一緒に、ね」
 にっこりと笑ったレイラ=クーヴェイに、ゼノンもやっと、その表情が綻んだ。
 ゼノンは、他悪魔を引き付ける。多分、天性のモノ。そして"鬼"の本性とは真逆。だからこそ、ゼノンは悩み、迷うのだろう。
 きっと、これから先も。ゼノンを丸ごと受け留めてくれる相手に、出逢うまで。
 その日を…一緒に待っていたいと思う。
 一番大事な、同胞として。

◇◆◇

 ゼノンが儀式を終えてから十日が経った。
 その日授業を終えてゼノンが自室に戻って来ると、出迎えた姿。
「お帰り」
「…ホリィ!」
 ニヤリと笑うその姿に、ゼノンは声を上げる。
「一週間って聞いてたから、心配していたんだけど…でも良かった。ちゃんと戻って来てくれて」
「まぁ…な」
 苦笑するその顔に、思わず安堵の溜め息が零れる。
「取り敢えず、座れよ」
 ゼノンを促し、テオ=ホリィは先に椅子に座る。そしてゼノンも椅子に座ると、改めて口を開いた。
「検査が長引いて、一週間が十日になったんだけど…隠してもしょうがないから、あんたにははっきり言う。身体の方は、生活するには支障はない。ただ…角がなくなって、バランスが悪くなっているらしい。今までみたいに、激しい剣術の授業は、身体が慣れるまではついていけるかも微妙だ。それに何より…"鬼"としての魔力が激減した。鬼面は被れるが、満足に能力は出せない。今の状態では次の研修は無理だし、研修に出られないとなると、評価も単位も貰えないから進級は出来ない。つまり…留年確定」
「…ホリィ…」
 ゼノンも、想像していなかった訳ではない。テオ=ホリィが戻って来るまでの十日間、色々考えてはいた。
 何処の局でも入局は簡単ではない。留年しても入局試験は受けられるが、どんな理由があれ、遅れを取ったらそれが足を引っ張ることには間違いない。つまりは、入局試験は通常よりももっと厳しくなる。上を目指すのなら、尚更足枷は大きくなる。
「それで…だ。このままここでぼんやりしても仕方ないから…実践でな、リハビリすることにした」
「…実践、って…」
「学校辞める。で、働くことにした。学長にはもう話したし、退学届けも出したから」
「………」
 突然のその決断に、血の気が引く気がした。
「俺は…やっぱり、お前の将来を潰したんだね…」
 大きな溜め息を吐き出したゼノン。
「そんなことで潰されて絶望するほどの、エリートコースじゃねぇわ」
 その状況を前に、苦笑したテオ=ホリィ。確かにその表情に、悲観した色はない。
「俺は、あんたと一緒に卒業出来ないことが確定な訳だ。でも、別に悲観はしちゃいない。だってそうだろう?生きてさえいれば…どうにかなる。あんたが上を目指すのなら…もう一度あんたと会えたなら、将来、雇って貰っても良いな」
 くすくすと笑うテオ=ホリィ。その姿は…何処か、楽しそうで。
 困惑するゼノンだが、テオ=ホリィは相変わらず。角のなくなった頭に手を触れる。髪に隠れたその断面は、限りなく無に近い。恐らく…歪に折られたその断面は、綺麗に削られたのだろう。
「綺麗にして貰ったんだ。黙ってりゃ、"鬼"だなんて思われないだろう?だから丁度良い。一々説明する手間が省ける。"鬼"であるうちは警戒されていたことも、幾らでも出来るな」
 ゼノンの予想外をいく発想はまさに…"天邪鬼"、だった。
「大丈夫。あんたが思っているよりも、俺は"生き抜く能力"に長けているから。いつか、あんたに恥ずかしくない顔を見せてやるよ」
 笑うその顔をを、ゼノンは真っ直ぐに見つめていた。
「…わかった。今更、お前の決断を覆すことは出来ないけど…いつか、お前に恥ずかしくないように…頑張るから…」
 真剣な眼差しを向けられ、テオ=ホリィはその表情を暫し眺める。そして徐ろに椅子から立ち上がると、ゼノンへと一歩近づく。そして。
「神妙な顔するなよ。あんたなら、大丈夫。あんたの、輝かしい未来を…祈ってるよ」
 ゼノンの前髪をそっと掻き上げ、その額に触れた唇。
「ホリィ…」
 見上げたその表情は、何とも言えない。その顔が可笑しくて、思わず笑いを零した。
「あぁ、恋愛感情じゃないからな。それは心配すんな。あんたはいつか、ちゃんと運命の相手に出逢えると思うぜ。だから、その時まで…その馬鹿みたいに真面目で…真っ直ぐで、優しい心、大事にしとけよ」
 そう言って、ゼノンの頭をぐりぐりと撫でる。
「じゃあ…な」
 にっこりと笑ったテオ=ホリィは、そのまま自分の部屋へと戻って行った。
 そして残されたゼノンは…暫く、そこから動くことが出来ずにいた。
 だがしかし。
 今回のことで、ゼノンの未来に対する目標が漸く定まったのだった。

 翌朝には、テオ=ホリィの姿は宿舎から消えていた。
 いつの間にいなくなったのか、ゼノンにもわからない。
「…せめて、見送りぐらいはしたかったのに…」
 小さくそう零したゼノンに、様子を見にやって来たレイラ=クーヴェイは小さく笑いを零す。
「"天邪鬼"、ですからね。黙って行きたかったんだと思いますよ」
 その言葉に、ゼノンは溜め息を吐き出すしかなかった。
 けれど…きっと、またいつか会えるはず。その想いは、ゼノンの原動力となった。
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