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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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LOST 4
こちらは、本日UPの新作です
 4話完結 act.4

拍手[4回]


◇◆◇

 ゼノンが士官学校を卒業して文化局に入ってから、どれくらい経っただろうか。
 とある事情で思いがけず慕われることとなったレプリカが、文化局に入局したその年。
 研究室へと向かいながら研究書類を読みながら歩いていた為、周りは全く視界に入っていなかったのだが…その道すがら、すれ違った姿。横を通り過ぎた時…ふと、何かを感じて足を止め、視線をあげた。
「……あれ?」
 振り返って、その姿を目で追う。真新しい文化局の制服。その制服の背中は、見覚えはない。けれど…違う制服なら、覚えていた。
「テオ=ホリィ!」
 思わずフルネームで呼びかけると、その姿は足を止めた。
「ホリィ!」
 改めてもう一度呼びかけながら歩み寄ると、振り返ったその顔がニヤリと笑った。
「…見つかっちまったか…もう少し、隠れて見ていようと思ったのにな」
 懐かしい表情に、ゼノンの表情が思わず綻ぶ。
「ここに入ったの?いつ?」
「いつ、って…この真新しい制服見りゃわかるだろ?中途採用だけど、一応、経験あるからって全くの新入り扱いじゃないけどな」
 そう言うテオ=ホリィに、ゼノンはその襟章に視線を向ける。
 文化局の章と並んだ、監査室の章。それは偶然にも、レプリカと同じ部署だった。
「あんたは…?」
 視線を向けた先は、ゼノンの襟元。けれどそこには、文化局の章しかついてはいなかった。
「あぁ…俺は研究室、だから…普段は白衣で……」
 そう言いながら、ハッとしたように時計を確認する。
「御免、急いでいたんだ…また、夜にでも会える…?」
 問いかけた声に、テオ=ホリィはくすっと笑った。
「良いよ。手が空いたら、連絡して」
「わかった。ホントに御免ね、じゃあ」
 軽く手を振り、慌てて小走りで研究室へと向かうゼノンの背中を見送る眼差しは、もう笑ってはいない。
「…変わってない、か…」
 小さな呟きと共に、溜め息を一つ。
 その心の中は、テオ=ホリィにしかわからなかった。

 その日の夕方、約束通り監査室のテオ=ホリィにゼノンから連絡が入った。
 そしてその日の職務終了後。指定された研究室へとやって来たテオ=ホリィ。そこで出迎えたゼノンは、空いている椅子にテオ=ホリィを促すと、お茶を淹れて戻って来る。
「研究、一筋なのか…?」
 割り当てられている机の上の、山のような書類と資料の数を眺めつつ、そう問いかける声。
「まぁ、ね。研修の最初の時からずっと、研究室希望だったから…あ、でも、卒業の前に医師免許の試験は通った。医者としてもまだまだだけどね」
「医師免許、か」
 その言葉に、口元に僅かな笑みを浮かべる。
「何だよ、折角あんたと同じ局に来たって言うのに、医師免許あるってことは、何れ医局に移るんだろう?そっちの方が稼げるだろう?」
 少し皮肉を込めた言葉だったが…ゼノンはにっこりと笑って見せた。
「移らないよ。俺は、ここで上を目指すんだもの。そう、約束した相手がいるからね。医師免許は…まぁ、経験したかったから、かな。一応、医局にも席は置かせて貰ったけど…基本は研究室にいるよ。俺は…研究者と医師を、両立するつもりでいるから」
「…へぇ…」
 どうやら、ゼノンは真っ直ぐに自分の目標に向かって進んでいるらしい。それを察したテオ=ホリィは、くすっと笑いを零す。
「何処までも、あんたらしいな」
 その言葉の意味を…じっくり噛み締める。
 あの頃の気持ちを、忘れないように。極力変わらないように。そう思って来たのは…この、テオ=ホリィへの想いがあったから。
「そう言えば…同期で入ったヤツに、レプリカっていたけど…あんたのこと、やたらと崇拝してっけど…何かあったのか?」
 途端、ゼノンの表情がふっと変わった気がした。
「…何だ、あんたの恋悪魔?」
 そんな雰囲気を感じさせる変化に、ニヤリとして問いかけた声。けれどゼノンは首を横に振った。
「いや…恋悪魔ではないよ。研究がらみでちょっと色々あって…俺を主として仕えたいって言われたんだけど…でも、俺はまだ研究員だから。上を目指すまでは…待って貰っているんだけど…」
 小さな溜め息と共に吐き出された言葉に、テオ=ホリィは笑いを零す。
「何だよ、そこまで慕われてるんだったら、折角なんだから、恋悪魔にしちまえば良いのに」
「無理、だよ。俺はまだ…制御ピアス持ってないから。それに…今は恋悪魔を作るつもりはないから」
「…ゼノン…」
 多分、ゼノンはまだ引き摺っている。やはり、昼間察した直感は間違っていない。そう、改めて思った。
 表情の曇ったテオ=ホリィ。それに気付いたゼノンは、小さく笑った。
「まだまだ下っ端だからね。研究室に籠ることが多いから、良い出逢いに巡り合えてないんだよ。もしかしたら今後、気持ちは変わるかも知れないから。だから、心配しないで」
「…そうなれば良いけどな…」
 最初で最後の経験があれでは、流石に申し訳ない。死ななかったことと、今でもこうして動ける、働けることは奇跡だったのかも知れないが…ゼノンのトラウマであることには変わりないのだから。
「…もしかして、御前が医師免許取ったのも…何か関係あるのか…?」
 ふと、そんな想いが過ぎる。
「まぁ…なくもないかな。俺は、御前の様子を見に行った時の医者の対応が腑に落ちなかったんだ。向こうからの一方的な説明だけで、こちらが聞きたいことは何もわからない。医者が何に寄り添っているのか、ちっともわからなかった。今なら、俺は所詮お前とは同室の同期で…怪我を負わせた張本魔、と言うだけで、本来なら伝える義務はなかった。それでも言える範囲で精一杯の状況を伝えてくれたことはわかるけど…あの時は、全くわからなかったんだ。それに…お前に大怪我をさせて、改めて思った。俺はやっぱり…今でも"鬼"でいることが苦しい。その運命から逃れられないことはわかっているよ。だったら…誰かを傷つけるより、助けることを望む。その手段を持つ為に、医師免許を取った。それが一番かな。ありきたりだけどね」
「それでなれるんだから、あんた流石だわ」
「煽ててもお茶しか出ないよ」
 くすくすと笑うその姿。
 それが、昔から見ていた笑顔と同じことに少しだけホッとして…そして、その笑みが本心なのかどうかが、今は気になる。だが、笑っていられるだけ、精神状態は安定しているのだろうと、良い方向へと考えをシフトする。
「お前こそ…誰か、良い悪魔はいないの?」
 問いかけたゼノンの声に、テオ=ホリィは苦笑する。
「いないいない。士官学校の頃は、みんな色々興味本位だから恋悪魔もいたけど、あの場所から外に出たら、天邪鬼を好きになろうだなんて物好きとはそうそう出逢えないから。角がなくても、話せば直ぐに天邪鬼だってバレるしな。まぁ今は、恋悪魔作っていちゃついてる場合じゃない。折角あんたの近くに辿り着けたんだから、真面目に仕事しないとな」
 そう。今は、遊んでいる場合ではない。その想いは、ゼノンも同じだった。
「取り敢えず…頑張ろうか」
 何を…とは、敢えて明言しない。ただ、頑張ろうと。頑張れば…その先に、きっと何かが見つかると。
「そう、だな」
 ゼノンの意を察し、テオ=ホリィも笑いを零す。
 これからまだ、乗り越えなければならない壁はあるはず。だが、地道に一歩ずつ進んで行けば、きっと乗り越えられるはず。
 そんな未来を、ほんの少し楽しみに出来れば良いと思う。
 今はまだ、予測もつかない未来へ、歩んで行く為に。

◇◆◇

 何事もなかったかのように、平穏を装いながら時は流れる。
 いつしか局長となった彼は、運命の相手と巡り合った。
 出逢ったのは、本当に偶然。
 まさか、本気で好かれるとは思ってもみなかった。そして自分もまた…これ程、愛おしく感じる相手が現れるだなんて、全く思ってもみなかった。
 だがしかし。その想いの先には、当然訪れるであろう行為。
 まるで足枷のように纏わりつき、決して消えることのない記憶。それを乗り越えることが、真の儀式だと…そう思わざるを得なかった。
 今まで、目を背けて来た現実。だが…いつまでもそう言ってはいられなかった。
 恋悪魔の任務の出発が迫る中…お互いに覚悟を決めて、その時間を迎えたのだった。

 抱き締めたその腕の中にある、人肌の温かさ。感じるのは、自分のモノではない呼吸の音。
 その瞬間、脳裏に蘇ったのは…鮮烈な、赤。
 血に塗れた……抗えない、記憶。
「……あ………」
 ハッと、我に返る。その瞬間、大きく息を吐き出す。
 微かに…身体が震えている。そして、吐き出す呼吸が荒くなる。その様子は…到底、尋常ではない。
 恐怖と、不安。過去の記憶に引き戻されたそのトラウマに…心が、揺らぐ。
「……大丈夫?」
 思わず声をかけたものの…どう見ても大丈夫そうには見えない。だが、しかし。
「…大丈夫…」
 相変わらず荒い呼吸を零し、片手で目元を覆う。その顔が…酷く、辛そうに見えて。
 辛そうに呼吸を吐き出すその背中へと回した手で、そっと背中を撫でる。
 その、触れた掌から感じるのは…癒しの能力。
「…大丈夫…?」
 改めて問いかけながら、その顔を覗き込む。
「……御免…ちょっと…待っ…て……」
 きつく目を閉じ、震える指先で自分の左耳に触れる。
 そこには、三つの制御ピアス。魔力制御が一つと、感情制御が二つ。その制御能力が万全であること。それを信じていれば大丈夫。それは、自己暗示でもあった。
 大きく息を吐き出し、呼吸を整える。その一連の姿を前に、その心に巣喰った恐怖の闇が、どれだけの大きさだったのかを改めて感じた。
 血を好み…肉を喰らう。その、血による呪縛が未だに強く残っていることはわかっていた。だから、お互いに一線を越えようと決めた今、こうして…一名で、その恐怖に立ち向かっているのだと。
 けれど…。
「…俺は、喰われないから」
「…ライデン…」
 思いがけない言葉に、思わず顔を上げる。そこには相変わらず、恋悪魔の眼差しがある。真っ直ぐに自分を見つめる眼差し。心配そうに…けれど、悲観せず、真っ直ぐに。
「あんたは、俺の為に…ちゃんとピアスして、準備してくれたでしょ?だから、大丈夫。俺は、あんたに喰われたりしないから」
 にっこりと笑ってそう言った声に、もう一度目の前の身体を抱き寄せた。
「ライデン…」
 もう一度、名を呼ぶ。すると、小さく笑う声。そしてすぐ目の前にあるピアスが三つ填まったその耳に、唇を寄せる。
「一名で乗り越えなくても…俺がいるでしょ?俺も、一つ…あんたの不安を、取り除いてあげるから」
 そう言うと、小さく呪を唱えてから、そのピアスへと口付ける。
 更なる封印の呪。ピアスの制御が、外れないように。上から更に封印をかけることで、強度を上げた。
「ほら、もう大丈夫。落ち着いたでしょ?」
 身体を少し離して、にっこりと笑う。
 その身体の震えも、心を支配していた恐怖も不安も、その笑顔の前には全て消えてしまう。
「…お前と出会えて…ホントに良かった…」
 無邪気に笑うその顔に、思わず小さな笑みが零れた。
 やっと出逢えた、運命の相手。奇跡的なその出逢いに…心からの感謝を。
「大丈夫?」
 改めて問われ、くすっと笑いで返す。
「御免ね、もう大丈夫」
「じゃあ、改めまして…」
 笑いながら、そっと頬を寄せる。
「…あんたを、頂戴」
「…うん。全部あげるよ」
 そっと、唇を重ねる。最初は軽く。そして、深く。
 心も身体も、重ね合う。それがこんなに…甘くて、心地好くて、倖せな気持ちになるとは、思ってもみなかった。
 一度儀式を終えているとはいえ、あの時とは全く違う。ただただ、胸が一杯で。
 本当の意味で、漸く壁を越えた。

◇◆◇

 仲魔たちが任務で魔界を出発して暫く経った頃。
 久し振りに出会った仲魔。
「ゼノン、久し振り」
「ホリィ…久し振りだね。いつ以来かな…?」
 同じ局にいるのに、滅多に顔を合わせない。それだけお互いに忙しかったと言えば聞こえは良いが…それだけとは限らない。
 正直に言えば…このところ、この仲魔の悪評を聞くことが増えた。
 天邪鬼だと知っていれば、その言動に納得出来るのかも知れないが、角がない以上、見た目ではわからない。悪意がある訳ではないが、悪評が聞こえる現状は、相変わらず忌まわしい記憶を残す結果となっている。
「…ねぇ…今、皇太子殿下が率いている任務にさ、あんたも何れ参加するって噂…ホント?」
 一応、周りに気を遣い、声を潜めて問いかけた言葉に、彼は少し考えてから口を開く。
「…まだ、辞令は来ていないけど…多分、ね。一応、打診は受けていたから…」
 そう言いながら、相手の顔を見る。
 悪気はない。それはわかっているが…周りと馴染めない仲魔。彼を置いて任務へ出て…帰って来たら、いなくなっていると言うことも…可能性はなくはない。そんな微妙な立場にいることを、彼は…わかっているだろうか。
 僅かに見せた、案じるような…不安そうな眼差しを前に、小さな笑いが返って来る。
「何心配してんの?俺の未来?」
「…ホリィ…」
「わかってる、って。あんたが考えてることぐらい」
 笑う顔。だが、直ぐにすっとその笑いを収めると、その耳元へと顔を寄せる。
「…心配すんな。一応、仕事は真面目にやってる」
「………」
 小さく零れた溜め息。その意味を、彼は知っていた。
「俺は俺だから。文句を言いたいヤツには言わせておけば良い。ただ、俺は…"天邪鬼"を捨てられない。あんたに護って貰おうとは思っていないし、俺の評価は仕事でちゃんと出してるはずだからな。だから…安心して、行って来い」
「…そこまで言うなら…せめて、対魔関係だけは気を付けて。翠雨やレプリカには頼んで行くけど…俺が戻って来るまで…ちゃんと、"ここ"にいてくれないと困るから…」
 心配そうに眉を顰め、せめてもの警告としてそう言葉を放つ。
「わかってるって。そこまであんたが心配することはないから。あんたは…自分のことを、ちゃんと…な。恋悪魔、出来たんだろう?みんなが噂してたよ」
「…みんな、って…」
 大っぴらにしたつもりはないが、あからさまに隠している訳でもない。一緒にいるところも見られているし、正式に恋悪魔になったのだから何の問題もないのだが…流石に、彼に言われるのは…多少気まずい。
 そんな表情が見えたのだろう。彼はくすっと笑う。
「良かったじゃないか。やっと…あんたも、乗り越えられて。きっと、レイラ=クーヴェイも安心しただろうな」
 今は亡き、大切な同士。その名前に、ほんの少し表情が曇る。
「もっと早く…伝えられたら良かったんだけどね…」
 思わず零した言葉に、彼は小さな吐息を吐き出し、手を伸ばして肩を叩いた。
「良いんだよ、今で。あんたが自力で頑張ったんだ。誰も、遅いなんて言わないし」
「…ホリィ…」
 その言葉が…とても有難い。
 周りが何を言おうが…彼も、大事な仲魔であることに、何ら変わりはない。
「…あんたの恋悪魔に、宜しく。じゃあな」
 くすっと笑いを零し、踵を返す。
 向けられた背中を見送り、小さく苦笑する。
 まだまだ、悩みは尽きない。けれど…支えてくれる仲魔がいる。そして、支えたい仲魔がいる。
 進むべき道は、まだまだ長い道のり。だからこそ、その一歩を大切に。
 改めて、その想いを胸に。
「…さ、頑張ろう」
 零れた言葉は、前へ進む為の決意だった。
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