聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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MASQUERADE 3
俺とアリスが目的の場所へ辿り着く頃、鉛色をしていた空から、雨がぽつりぽつりと落ち始めて来た。
「あっちゃ…降られちゃったねぇ」
目的の洞窟から空を覗きながらつぶやいた俺の声に、アリスは表情一つ変えずに、俺の背中を見つめていた。
そして、ふとその口元から零れた言葉。
「ルーク参謀…」
「ん…?」
振り返ると、ぶつかった表情が酷く冷たい。いつもよりも青白く見えるその顔も、更に鋭い薄い碧の眼差しも、何もかも。
一瞬、背筋を走ったのは…恐怖だったのか、緊張だったのか。
その時、待ち兼ねた姿が洞窟の奥から現れた。
「…アリス」
俺の表情でそれを察したのか、アリスはハッとしたように背後を振り返る。そして、薄闇の中に佇む影に目を留めた。
中性的な顔立ち。そして色薄の金色の髪に、薄い碧色の瞳。幾度も画像で見たはずのヤツが、そこにいた。
「…《angel》…」
アリスの口から零れた声は、酷く掠れていて。
俺は、一歩、前へ出る。丁度、アリスの隣へ立つ形で。
「あんたが《angel》こと『セルジュ=ノアン』だな?」
問いかける声に、ヤツは何も答えない。ただ、真っ直に俺たちを見つめていた。その、薄い碧の眼差しで。
「…嘘だ」
ふと、聞こえた掠れ声。
「…アリス?」
横を見ると、アリスの表情が変わっている。酷く、怯えたような表情に、見開かれた瞳。
「何を以って、嘘だと言い切る?」
大きく息を吐き出した俺は、アリスに向け、そう言葉を放った。俺だけじゃない、ヤツの眼差しも、アリスに注がれている。
アリスはヤツを見つめたまま、震える唇を開く。多分、問いかけられたから、無意識に答えたと言う状態なんだろう。
「…エース長官だって、追えるはずが…情報があるはずは……」
言いかけ、ふと我に返ったように息を飲んだ。
「どう言う事だ?」
問い返す俺の声に、アリスはその眼差しを俺に向けた。
戸惑う色を抑え、限りなく、平生を装うように。
けれど、そんな装いはもう遅い。
「あんたは、何を知っている?」
「…それは…」
酷く、怯えている。仮面に隠した、真実の顔が。
「彼奴は誰だ?」
俺は、ヤツに視線を向ける。真っ直に注がれ、反らすことのない眼差しが、未だ、アリスを捕え続けている。
その真実を、見抜くかのように。
ヤツが、動き始めた。それと同時に、俺は黙って剣を抜いた。
ゆっくりと歩みを進めながら、俺たちの方へと向かって来る。そしてそのまま、俺たちの横を通り過ぎる時、零れた言葉。
「ダミアン殿下の生命、護り切ることは出来なかったようですね」
「…っ!」
くすっと、小さな笑い声が聞こえた。その声に、アリスが息を飲み、目を見開く。
「嘘だ!!殿下が狙われているはずは……っ」
「狙っていたよ。わたしがね」
くすくすと笑うヤツの背中に、アリスが悲鳴のような声を上げた。
「違う!!あれは、私が…っ」
一瞬、時が止まった。
アリスの表情が、凍り付く。
俺は、手に持った剣の先をアリスの首元へと押し当てていた。
「ルーク参謀…これは一体…」
冷たい剣の感触で、我に戻ったんだろう。アリスは息を飲み、その視線を僅かに俺へと向けた。
「さぁね。自分の胸に聞いたら?」
そう吐き出した俺の言葉に、アリスは大きく息を吐き出した。
「アリス=レイド」
入り口に背を向けたヤツは、アリスを見つめたまま、笑いを零す。
「これ以上無理ですよ」
そう、口を開いたのは、ヤツ。
「…御前、一体…」
凍り付いた表情のまま、アリスはそう言葉を零した。
雨の音が、嫌に大きく聞こえた。
ヤツは、その片手で自分の顔を覆う。次の瞬間、アリスの足下に抛り投げられたのは、表情のない、真白の仮面。
「わたしは、仮面師レイティス」
そう名乗ったヤツは、既に《angel》セルジュ=ノアン ではなく…肩までの茶色の髪と、茶色の瞳。紋様のないその顔も、俺の良く見知っている悪魔だった。ただ、レイティスと言う名には、まだ抵抗があるんだけれどね。
レイティスの顔は良く見知っているはずなのに、今纏っている雰囲気はまるで違う。名を受けた悪魔として自分の任務を完うしていると言う、気高ささえ感じる。
全く、俺の回りには、どうしてこう変幻自在な気を持つヤツが多いんだろう…まぁ、こいつの主が主だから、仕方ないか…なんて、そんなこと考えてる場合じゃないんだよね。
黙ってアリスを見つめている俺を横目に、レイティスは言葉を続けた。
「君の言う通り、エース長官でさえ、《angel》の行方 は掴めなかった。でも、その理由は君が一番良く知っているだろう?」
「……」
「仮面師は、相手の細胞を組み込むことで"顔"を作ることが出来る。わたしが手に入れた細胞は、君の髪の毛。それだけで、わたしが《angel》の"顔"を作ることが出来たと言うことは…もう明確でしょう」
レイティスの言葉に、アリスは大きく息を吐き出した。
「…わたしが、同族を見抜けないとでも…?」
ふと口を突いたレイティスの声に、アリスはその眼差しをすっと伏せる。
「君が『セルジュ=ノアン』として参謀に見せた映像…見覚えがある。あれは、君の素顔だ。わたしは見知っているよ、仮面師アリス」
一瞬、アリスの纏う気が変わったような気がした。
「…バレちゃ、仕方がない」
その口元から、大きな溜め息が零れ…その直後、くすくすと小さな笑いへと変わる。開き直った態度として、それは明らかだった。
「まさか、同じ仮面師に填められるとは思わなかった。髪の毛一本、残さないように気をつけていたつもりだったけれどね」
「俺の執務室で、エースがあんたに剣を向けたろう?あの時さ」
俺の言葉に、アリスは溜め息を一つ。
「…そんな単純なことで、身バレするとはね。そんなミスさえ侵さなければ、最後まで騙し通す自信はあったのに」
そう言葉を放つと、その"顔"に手をかける。剥がれ落ちたのは、真白な仮面。そして、俺たちの前に晒した素顔は。
「…《angel》本魔、って訳ね」
さっきまでレイティスが被っていた仮面と同じ顔。色薄の金色の髪に、薄い碧色の瞳。中性的な顔立ちのそれは、幾度も映像で見たはずのセルジュ=ノアンに間違いはなかった。
「ルーク参謀、剣をしまって下さい。貴殿に歯向かうつもりはありませんから」
アリスが放ったその言葉に、俺は小さく溜め息を吐き出して剣をしまった。
まぁ…この状況で、向かって来るとは思わないから良いんだけどね…。
「あんたの目的は何だ?まさかホントにダミ様を狙うつもりじゃなかったんだろう?」
問いかけた俺の声に、アリスはその口元に笑みを浮かべた。
「確かに、殿下は関係ない。本当に生命を狙おうと思った訳でもない。ただ、そう言えば、確実に喰いつく餌になるでしょう?《angel》の名も…貴殿にとってはね、ルーク総参謀長殿」
「…どう言う意味だ」
妙な言い回しをされりゃ、俺だって気分が悪くなる。睨み付ける俺を見つめながら、アリスは相も変わらず、笑みを浮かべ続ける。
「そこまで言われて気付かないとは…鈍感だね。私の目的は、他の誰でもない……貴殿だよ」
「…じゃないかと思ったよ」
思わず、溜め息を一つ。
「ジュリアンも…あんたが上手く騙していたつもりの上司も、あんたの正体に何気なくだけど気が付いてた。あんたは、只者じゃない、ってね。だからあんたに内緒で、俺に正体を探ってくれって依頼が来てた」
「だから、こんな手の込んだことを。どうせ、エース長官も絡んでるんでしょう?何となく、感じてたよ。騙されてるかな…ってね」
「そう」
まさか、ここまですんなりと事が運ぶだなんて、思わなかったけどね。
俺は、隣にいるレイティスに視線を向ける。
「あぁ、レプリカ……じゃない、レイティス、あんたはもう帰って良いよ。正体はわかったしね。後は、俺がやる」
「…しかし…」
「大丈夫だって。あんたに与えた任務は完了した。そう、主に報告しておいで」
心配そうな眼差しを向けられたけど、ここから先にレイティスを巻き込む訳にはいかないもんな。俺のそんな意を感じてくれたのか、レイティスは小さく頭を下げるとすっとその場から姿を消した。
「…レイティス、ね…優秀な仮面師だったと噂には聞いたことがあったな。でもまさか、使用魔にまで成り下がっているとはね」
まるで嘲笑うかのような笑みを浮かべたアリスに、俺は思わず言葉を放つ。
「成り下がった訳じゃない。自分が仕えるべき主を見つけただけだろう」
彼奴は、ホントにゼノンに忠実だもんな。でもあのゼノンに惚れちまったなのなら、仕方ないよな。
でもアリスは、尚も嘲笑を浮かべる。
「貴殿は甘い。甘過ぎる。だから、簡単に騙されるんだ。わからない?」
「…うるせぇよ」
何だか、ホントに腹が立って来たぞ。こんな言い方される筋合いはないはずだよな!?
でも、すっと変わったアリスの表情。
「…でもだから…貴殿から、目が離せなかった…」
「……は?」
思いがけない言葉に…変な答え方、しちゃったじゃないかっ。
「…どう言う…」
会ったのは、初めてだったはず。まぁ、俺が知らなかっただけだけれどな。
すると、アリスはその眼差しを少しだけ伏せる。
「まだわからない…?私の目的は貴殿だと言ったじゃない」
「だから…殺すつもりだろ?」
「誰が殺すって…?」
「…え?…」
「…ホント、噂通り鈍いね…」
小さな溜め息を吐き出し、アリスは眼差しを上げた。
「貴殿が、好きです」
「……は?」
再び、俺の口から零れた声。
するとアリスは、俺を真っ直ぐ見つめたまま、口を開く。
「貴殿が、ヒトが向ける恋愛感情の好意に鈍感だと言うことは、噂で聞いていました。でも、まさかここまでだとは思わなかった」
「あのなぁ…馬鹿にしてんの?!」
何だか…告白を聞いているはずなのに、馬鹿にされているようにしか思えないんだけど…でも、俺の心拍数は奇妙なくらい上がっているんだな…何だ、これ…。
「馬鹿にするはずはないでしょう?貴殿を好きだと言っているのに」
「………」
そう、面と向かって言われると、返す言葉もない…思わず口を噤んだ俺を見つめたまま、アリスは一歩一歩、俺に近付いて来る。
「ちょっ…」
思わず…後ずさりをする…でも、ここは洞窟。直ぐに、逃げ場はなくなる訳で……あっと言う間に、背中には土壁。アリスは俺の直ぐ目の前まで来ていた。
「好きです、ルーク参謀」
アリスはそう言うと、そっと腕を伸ばして俺を抱き締めた。
俺よりも、頭一つは小さい。そして、仄かに香る匂いに、くらっと仕掛けたが…辛うじて、その意識を留めた。
柔らかいその身体の感触に…ふと、我に返る。
「…御前…女……?」
口を突いて出た言葉に、アリスは顔を上げ、俺を見上げた。
「男だと言った記憶はないが…?」
「…確かに、聞いた記憶もないね…」
その背中が妙に柔らかい線を描いているなと…思っていたんじゃないか…俺ってば…何で今まで、気付かなかったかな…。
任務受けてるってヤツは殆どが男だから…しかも隠密使だろ…誰が想像するよ…。
思わず大きな溜め息を吐き出すと、俺はぐいっとその身体を引き離した。
「…何で、こんなことになってんのかよくわかんないけど…俺は、あんたの想いには応えられないから」
それだけは、きっぱりと言い切った。
「皇太子殿下、でしょう?貴殿の、想い悪魔は」
「………」
図星…返す言葉もない。
「…悪い?」
もう、開き直るしかないじゃない。そうでなきゃ、このまま押し切られちゃうよ。
俺の声に、アリスは嘲笑的な笑みを浮かべた。
「馬鹿だね。報われないってわかってるのに。殿下は、いつか貴殿じゃない悪魔と結婚する。世継ぎを残す為にね。貴殿が堕天使である以上…子を孕めない天界人の血を引いている以上、絶対、貴殿が報われることも、貴殿たちの関係が世間に認められることもない。そうわかっているのにいつまでも夢ばかり追いかけてても、貴殿が傷つくだけなのに」
「…だから、手っ取り早く、あんたで済ませろと…?」
言われた言葉が、何だか哀しかった。
報われないことは、確かに最初からわかってたことだったはず。勿論、認められる関係ではないことも。でも、その気持ちを第三者に否定されることが、酷く哀しくて。
「報われなくても…俺があのヒトを好きな気持ちには変わりない。俺は、ダミ様に忠誠を誓ったんだ。だから、どんなことがあっても、その想いは変わらないんだ。例え、いつか他の悪魔と結婚するとわかっていても」
ダミ様に対してだって、こんなこと、口走ったことはないのに…どう言う訳か、切々と想いを語ってしまったりして…あぁ、顔から火が出そう。
恐らく真赤になっているであろう顔を伏せると、アリスはくすりと小さな笑いを零した。
「…そう。貴殿に気に入られるには、殿下の格好でもしないと駄目だって言うの」
「…そう言うことじゃない。ダミ様には、他の誰にもなれないよ。幾ら仮面を着けてダミ様を装っても、俺は絶対見抜く自信はある。誰だって…他のヒトになりたいと思うことはあるかも知れない。でも実際は、同じ存在は有り得ないんだ。みんな…独りしか、存在しないんだから。勿論…あんたも、あんたでしかないんだよ」
そう。ずっと見つめて来たヒトになら、絶対にわかるはず。決して、誰も代わりにはなれないと言うこと。それは、俺もダミ様から言われた言葉だった。
"誰か"の虚像を作り出す"仮面師"として生きて来た今までの時間を、取り戻すことは出来ない訳で…この先どう生きて行くのかも、自分の心次第でしかない。
そんな生き方が、何だかとても可哀想になり…俺は、小さく溜め息を吐き出すと、そっと手を伸ばしてアリスの頭を軽く抱き寄せた。
「…ルーク参謀…?」
突き放したり、抱き寄せたり、忙しいと思うだろう。何より、俺がそう思ったんだから。
でも…"誰か"を偽る姿であった以上…多分、寂しい想いをして来たんじゃないかと思う。
心は受け入れられないけど…想われる気持ちまで、否定するつもりはなかった。都合の良い話だとは思うけどね。
「あんたの気持ちは、有難く貰っとくよ。想ってくれて…好きになってくれて、有難うな」
「………」
ポンポンと背中を軽く叩き、俺は身体をそっと離した。
当然…アリスは、複雑な表情をしている。
「あんたが造り出すのは、あくまでも虚像なんだ。どう足掻いたって、本物にはなれない。偽ることでしか、自分を出せないのなら…仮面師は可哀想だね」
「…そんなこと、考えてもみなかった。変なこと、考えるんだね」
先程の嘲笑的な笑みは、既に見られない。すっと笑いを納めると、その瞳に残ったのは、小さな悲愴感。
「ちっとも変じゃないさ。ずっと仮面師として生きて来たあんたたちが気付かないだけ。ただ…レイティスは、それに気が付いたんだ。ホントの自分を見せる、勇気にね」
俺は、アリスを見つめた。仮面を着けていた時よりも、ずっと自然な表情。
「あんたも、仮面に頼らずに生きてみたら?」
そう言った声に、アリスは僅かに顔を歪め…そして、小さな溜め息を吐き出した。
「…レイティスは…いつ、それがわかったのかな…」
「さぁね。俺が知り合った時には、既にレイティスの名前は使ってなかったから。俺は、ゼノンとレイティスの出逢いは知らないけど…今のレイティスはゼノンに忠誠を誓ってる訳だから、思うところはあったんだろうよ」
相手がゼノンなら…きっと…ね。
レイティスが想っているのは、唯一の主。誰よりも大切だから、忠実でいられる。
だから、俺も……
「これから、どうするつもり?アリス=レイドが仮面の顔であったんだから…また仮面を被る?」
問いかける声に、アリスは小さな笑いを零した。
「見破られた以上、同じ仮面は被れない。それに、私が被れる仮面は、一名に対して一度だけだから」
「じゃあ、どうするの?」
「…取り敢えず、このまま帰るしかないかな。ジュリアン主任に説明しなきゃ。この顔のまま…もう一度、職務に戻れるかどうかね」
「前向きじゃない」
くすくすと笑いを零すと、アリスも小さく笑った。
「そう、その顔。貴殿のその笑顔に、魅かれた。でも、相手が皇太子殿下じゃ…到底適わない」
俺だって、報われてる訳じゃないけどね。
「そう言えば…あんたが被ってた仮面、誰の"顔"だった訳?」
そう、それを知りたかった。だって、偽る相手がいた訳なんだから…
するとアリスはにっこりと微笑む。
「誰でもなく、あれは私、ですよ。私が造り出した、もう一名の…ね」
「なぁる…」
だからこそ、レイティスはアリス=レイドの仮面を被ることが出来たんだ。あの姿がアリスそのものでなければ、確かに偽ることなど出来るはずもなかった。
偽りたかったのは、顔だった訳じゃない。ホントの想いを、偽りたかったんだ。それを周囲に悟られたくないばかりに。
「先に帰ります。今度はちゃんと…素顔で向き合います。貴殿にも」
「そうだね。素顔のあんたを、楽しみにしてるよ」
俺のその言葉に、小さな笑顔が返って来た。そして、すっと、その姿が消える。
夢を…見ていたような気がする。
雨は、まだ降り続いていた。
俺が執務室に戻って来ると、そこにはエースとレイティスの姿があった。
「ゼノンには報告して来たの?」
そう尋ねると、レイティスは軽く微笑む。
「はい。ですから、わたくしの任務はもう終わりです。これからは、またレプリカと呼んでください」
「はいはい」
纏う気は、いつもと同じだった。
ホント、忙しいや。
くすっと小さく笑いを零すと、それを見ていたエースが口を挟む。
「上機嫌、ってことは、無事だったんだな」
その言葉が意味するところに、俺は思わず眉を寄せる。
「あんたさ、知ってたんなら、どうしてもっと早く言ってくれない訳?迫られたんだからねっ」
「それぐらい見抜けよ。だから疎いって言われるんだろうが」
「…余計な御世話っ」
ぷいっと横を向く俺を、レイティス…否、レプリカは、くすくすと笑いながら見ていた。
仮面師であること感じさせない、自然な微笑み。
偽ることが、悪い訳じゃない。時には、自分を護る為に偽らなければいけない時もあるだろう。でもホントは、仮面を外すことは、勇気がいることなんだ。
多分、レイティスはゼノンにそれを教わったんだろう。だから、仮面師である自分を捨て、名前を捨てた。レプリカと言う通称に甘んじているのは、多分そんな理由からだと思う。
ふと、溜め息を一つ吐き出す。多分、俺の表情も緩んだだろう。
「素顔が一番、かな」
「……?」
首を傾げるエース。その意味がわからなくても、きっと想いは通じてくれるはず。
偽らない自分を見せる勇気を、知っているのなら。
報告の為に訪れた皇太子の執務室で、俺は再びヤツに出逢った。
「…アリス…」
にっこりと浮かべた微笑みは、仮面を外した自然な微笑み。
「何だ、知り合いか?わたしの隠密使を、いつナンパしたんだ?」
くすくすと笑いながら問いかけるダミ様の声に、俺は思わず眉を潜める。
「ナンパだなんて…そんなんじゃありませんっ」
迫られたのは、俺なんだから。逆だよ、逆っ!
ムッとした表情のままの俺を、ダミ様もアリスも、くすくすと笑っていた。
「冗談だよ、冗談。話は全部アリスから聞いているよ。全く、御前は直ぐに顔に出るんだから」
そう言葉を放つ表情は、とても柔らかな微笑み。
弱いんだよな、この顔に……
小さな溜め息を一つ吐き出す。でも、この微笑みを見ていられるだけでも倖せなんだ。
諦めにも似た溜め息をもう一つ吐き出すと、ダミ様は小さく笑いを零して椅子から立ち上がる。そして、俺の頭をくしゃっと一撫でした。
「御前はいつになっても変わらないね」
「…どうせ進歩ないですよ…っ」
隣から聞こえる、ダミ様のくすくす笑い。
正面には、明らかに笑いを堪えているアリスの表情。
もぉ…勝手にしてくれ。って感じ…
皇太子の執務室から帰る道、俺はアリスと肩を並べて歩いていた。
「…殿下とは、いつもあのようなやりとりを…?」
不意に問いかけられた声に、俺は当たり前のように頷いていた。
「まぁ、付き合い長いし…それに、魔界では俺の親代わりみたいなモンだったしね」
「だから…ですね。貴殿が、誰に対してよりも自然でいられるのは」
羨ましいですよ。
ぽつりと聞こえた言葉に、俺は思わずその歩みを止めていた。
「あんたにもきっと…いつかそう言う相手が見つかるよ。誰よりも大切な他悪魔が…ね」
アリスは一瞬戸惑ったような表情を浮かべたが、やがてにっこりと微笑んだ。
何よりも、自然な微笑み。
きっとそれが、アリスの本当の素顔なのだろう。
仮面師として、素顔を見せる勇気を、アリスもまた見つけたのだと思う。
一つの勇気が、そこにはきっとあったのだ。
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プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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