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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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ROSA 前編
こちらは、以前のHPで2009年08月21日にUPしたものです

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◇◆◇

 真夜中であると言うのに、この街の活気は薄れない。
 激しい人の往来を避けるように、ビルとビルの間に身を置く二名の姿がある。
 一名は若い男。こちらは只の酔っ払いであるが故、この際名前はどうでも良い。
 もう一名は若い女。金の長い髪が腰まで伸び、その髪に縁取られた青白い顔に映える、真赤な唇。
 戯れに抱き合い、女の顔が男の首筋に埋められた。
 刹那、男はビクッと身体を震わせる。
 その目はカッと開かれ、息を飲む。
 やがて、ぐったりと力の抜けた男をビルの壁に凭れさせ、女は小さく微笑む。
 その唇は、常よりも赤く見えた。

◇◆◇

「…吸血鬼、だってさ」
 巷を騒がせている噂を、新聞を読んでいたルークは、向かいに座るゼノンにそう零していた。
 が、ゼノンは余り良い顔をしない。
「俺は、吸血鬼だって決まった訳じゃないと思うけど…」
「まぁ…な。人間界に吸血鬼がいるとしたら、何らかの波長も流れているとは思うよ。それを感じないってことは違うのかも知れない。ただ、何とも言えないだろ?相手が只の吸血鬼でなければ」
 溜め息を吐き出しながらそう言葉を零したルークに、ゼノンは小さく息を飲む。
「只の吸血鬼でなければ、って…」
「"夜の眷族"。この前感じたけど、彼奴等の波長って特殊だろ?だから、あの吸血一族なら、やりかねないかな…って思ってみただけだから、そんな顔すんなって」
 憮然とした表情のゼノンに、ルークは小さく笑いを零す。
 ゼノンが"夜の眷族"に触れたくないことはわかっていた。何せ、一度奴等の手にかかっていること、そのことでライデンを心配させたことが、ゼノンにとってどれだけ辛いことだったか。それを直ぐ傍で見ていたのだから、その気持ちは痛いほど良くわかる。
「…とにかく、エースが調べに行ってるから、結論はそれからだね」
 ゼノンの言葉に、ルークは思わず問い返す。
「エースがって…そんなにすぐに見つかる訳?」
 するとゼノンは、一言。
「相手は『絶世の美女』らしいから」
「『絶世の美女』…ねぇ」
 呆れた。ルークの表情はまさにそう言っているようだった。
 いつもなら、エースならと心配はしないのだが…相手が『絶世の美女』ともなると…小さな不安がルークの胸の内に過ぎっていたのだった。


 その夜。既に日付は変わっているはずなのにも関わらず、この街は活気に満ちている。
 エースは先日事件のあったビルの正面に聳える某雑居ビルの屋上から、眼下の往来を眺めていた。
「…ったく、なんだってここはこんなに賑やかなんだろうな。関係ない奴ぁ、さっさと家に帰って寝てろっ」
 手摺に凭れ、人の往来を眺めていたエースは、思わずそんな言葉を漏らす。
 常ならば、この時間には自身もその往来の中に身を置いているはずなのであるが…今日は任務であるが故に、ここはその中に馴染めない彼を哀れに思うしかないのである。
 独言に空しさを感じたのか、エースは溜め息を一つ。
「ホントにこの中にいるんだろうなぁ…邪眼でも開かない限り、見つけられないんじゃねぇか?かと言って、相手の気がわからない限り、無駄な労力だよな…」
 『絶世の美女』と言う言葉に釣られた自分が馬鹿らしく思え、そろそろ退散しようかと振り向いたエースは、そこに身を置く女性の姿に、思わず息を飲む。
「こんばんは」
 にっこりと微笑む彼女は、月の光の所為だろうか…やたらに青白い顔に見える。そして、その顔を縁取る髪は、腰までの金髪。
 青白い顔に映える唇は、真紅。
「こんな所で、何をしているの?」
 彼女は微笑んだまま、エース(ここでは世仮であるが、そう呼んでおく)に歩み寄る。
「君を探していた…って言ったら、信じる?」
「あら」
 何かを感じ取り、確信を持ったエースは、軽く微笑む。それを受け、彼女はくすくすと笑いを零す。
「随分ロマンチストね。貴方、名前は?」
 エースの首に何の躊躇いもなく腕を絡ませ、彼女は尋ねる。
「行きずりの男に、名前を聞くなんて野暮はなしにしようぜ」
「良いわ。それじゃあ、わたしの名前も聞かないでね」
 彼女の腰に手を回したエース。
 どちらからともなく顔を寄せ、唇を合わせる。
 刹那。
「…ぁっ」
 突然の虚脱感に襲われたエースは、嗚咽とも呻きとも付かない声を零し、足下に倒れ込む。
 遠ざかる意識の中で、エースは彼女の笑う声を聞いていた。

 突然途切れたエースの気に、リビングにいた誰もが息を飲む。
「今の…エース?」
 不安げに声を上げたライデン。
 その魔力を探れない程にまで急激に消えたエースの気。
「まさか…なぁ」
 信じられないと息を飲み、デーモンもつぶやく。
 ゼノンまでもが顔色を変えているんだから、只事ではない。
「俺、様子見て来る」
 いても立ってもいられなくなり、ルークはソファーから立ち上がった。
「あぁ、頼む」
 デーモンの声に、ルークはエースの気を追って姿を消した。

◇◆◇

 翌朝になって、エースは目を覚ました。
「おはよ。気分は?」
 問いかけたルークの声に、エースは上半身を起こして気怠そうに首を横に振る。
「…最悪。御前が…助けてくれたのか?」
「まぁね。びっくりしたよ。急に、あんたの気が消えちゃったからさぁ。でもまぁ、怪我がなくて何より」
 ルークが小さく笑った時、部屋のドアが叩かれた。
「エース、大丈夫?」
 顔を覗かせたのはゼノン。
「あぁ、何とか…」
「そう、良かった」
 ベッドの傍にイスを引き摺り寄せたゼノンは、そこに座ると再び言葉を続ける。
「さっきまでデーモンもいたんだけど、どうしても抜け出せない仕事があるからって、出かけた。ライデンも雷神界に呼び出されて、暫く戻れないって。だから、事情を聞くのは俺たちだけね」
「…そうか」
 小さく吐息を吐き出したエース。それが意味するところは如何に。
「しかしまぁ…見事に魔力だけ抜かれたモンだねぇ。なかなかやるモンじゃない。『絶世の美女』って奴ぁさぁ」
 ぼやくのようなルークの言葉。そして、それに続けてルークは僅かに首を傾げる。
「あんたさぁ…どうやって魔力抜かれた訳?吸血痕もないのに」
 その言葉の通り、エースの首筋には、噛まれた証の吸血痕はない。
 だがその疑問には、エースの代わりにゼノンが答える。
「仲魔に引き入れる為ならともかく…単に生気や魔力を抜くだけなら、別に噛み付かなくても良いんだよ。例えば、指先からとか、口からとか…」
「へぇ」
 エースの魔力が、相手の指先から抜き取れる程の量であるはずがない。と、なると…
「口、から…だよね」
 そうつぶやきながら、ルークの視線はエースの顔を覗き込む。
「行きずりの相手とキスなんかしちゃって…デーさんに言っちゃおうかな~」
「御前なぁ…」
 溜め息を吐き出し、呆れ顔のエース。
 務めて冷静な表情ではあるが、そこには僅かに気不味さの色も見え隠れしていた。
 だが、溜め息を吐いたのはエースだけではなかった。
「ルーク、遊んでるんだったら、出て行ってくれない?」
「冗談だってば…」
 ルークは咳払いを一つ。それで、場の空気を元に戻す。
 ルークが大人しくなったのを見計らい、ゼノンはエースに問いかける。
「…で、何かわかった?」
「あぁ、一応」
 エースとて、満更やられてばっかりではなかった。
「奴は、人間じゃない。かと言って、一般に言われている吸血鬼でもない」
「じゃあ、エースが悪魔だってことに気付いていたってこと?」
「多分な。今までの犠牲者は生気そのものを抜かれていたから生きてはいられなかった訳だが、俺は魔力だからな。暫くは満足に動けないが、こんなモノはすぐに回復する。だが、俺は世仮だった訳だから…それを知ってるってことは…」
「俺たちのことを知ってる、ってことか」
 そうつぶやきながら、ルークは溜め息を一つ。
「…許せないよね、そう言うの。他悪魔の守備範囲(テリトリー)を侵して、飄々としてるなんてさ。で、そいつって一体何者な訳?」
 改めて問いかけるその声に、エースは溜め息を一つ。
「最初は"夜の眷族"かと思ったが…この前のゼノンから感じた"夜の眷族"の気とは、毛色がちょっと違う感じだった。かと言って、純粋な悪魔でも、妖魔でもない。どちらかと言えば…昔のルークに一番近い気だったような…」
「…ってことは、"堕天使"ってこと?」
 ムッとした表情で口を噤んだままのルークの代わりに、ゼノンが問い返す。
「確証はない。寧ろ、違うだろうな。だが…あんな中途半端な気を持つ奴は、悪魔とも吸血鬼とも言い切れない。何か…複雑な事情があるのかも知れないけれどな」
「…何処にも属せない…ってヤツね」
 僅かに目を伏せ、ルークは言葉を零す。
 その言葉が意味する本当の心情は、多分当事者にしかわからない。
 そして、今この場でその意味の断片を理解出来るのは一名しかいないと言うことも。
「仕方ない。俺が、代わりに行きましょうかね」
 ルークは溜め息と共に、そう言葉を零した。
「…大丈夫?」
 その微妙な空気を察してか、ゼノンはルークの顔を覗き込む。
「だって、エースは暫く動けないし、あんたはエースの傍を離れられない上に、吸血鬼にはもう関わりたくないでしょ?だったら、俺しかいないじゃん?無茶はしないし、行きずりの女にキスもしない。心配しなくても良いから」
 にっこりと笑ってみせるルーク。
 その本心が大丈夫ではなかったとしても、ここは笑って見せるしかない。
 今更…だけれど、それが"堕天使"と呼ばれ続けたルークの意地でもあった。
 それを察したのか、ゼノンは済まなそうな表情を浮かべる。
「…御免ね」
「だから、大丈夫だって」
 ルークはそう笑って見せたが…一瞬見せたゼノンの、とても苦しそうな表情が、その脳裏に焼きついた。
 だが、それを追求出来ぬまま、ルークはエースの任務を引き継ぐこととなった。

◇◆◇

 その夜、ルークは昨夜のエースと同じ場所に来ていた。
 相変わらず、この街は眠らない。
 ルークは、屋上の手摺から眼下に目を向ける。
 激しい人の往来は、街の活気を表わしていた。
「それにしても…ホントに来るのかなぁ」
 エースと同じように待っているのだが…昨日の今日でそれが正解なのかはわからない。今日も会える、と言う確証は何処にもないのだ。
 暫しの辛抱の後…待ち草臥れたルークが、大きな欠伸をした瞬間。
「こんばんは」
 背後から声をかけられ、ルークは思わず振り返る。
 そこには月の光を集めたような…まさに『絶世の美女』。
「こんな所で、何をしているの?」
 彼女は微笑みを浮かべる。
 その口調に、姿に、ルークは何かを感じ取った。
「君を探してた…って言った奴が、昨夜もいただろ?」
 ルークの言葉に、彼女の表情が一瞬変わったような気がした。
「知り合い?」
「まぁね」
「そう」
 再びくすくすと笑いを零し、彼女はルークに歩み寄る。
「彼、元気?」
「元気だよ。君に会いたがっていたけどね、今日は俺、ね」
「昨夜の彼も素敵だったけれど、貴方も彼とはまた違った雰囲気があって素敵よ」
「そりゃ、どうも」
 僅かに笑みを零しながらも、ルークは彼女の纏う気を探っていた。
「貴方、名前は?」
 笑いを含んだ、彼女の声。その腕は、躊躇いもなくルークの首に絡みつく。
 それは、拒否を許さない雰囲気を醸し出しながら。
「ルーク、って言うんだ」
 敢えて、名を名乗った。
「日本人?」
「一応ね」
 この時点では世仮な訳だから、一応は日本人であることが正しい。
「君の名前は?」
 問い返したルークの言葉に、彼女は微笑む。
「ローザ」
「…何処から来たの?」
 くすくすと笑いながら、彼女はその身体をそっとルークに寄せて来る。
「戯れの恋に、そんなこと聞くなんてルール違反よ。昨夜の彼みたいに、寡黙な方がカッコ良いわ」
「そのカッコ良いエースを陥れた理由は?」
 ルークの問いかけに、彼女…ローザは一瞬ビクッと肩を震わせ…そして、ルークの首に絡めていた腕を解く。
「エースって言うの?昨夜の彼」
「そう。俺たちのこと、知ってるんだろう?まぁ、昨日に関しては名乗らなかったみたいだからね、名前と姿が繋がらなかったみたいだけど。エースの名を知ってるってことは、只者じゃないでしょ?」
 すると、ローザはふっとその表情を険しくする。
「貴方、誰なの?」
 その問いかけに、ルークは小さく笑う。
「だから、さっき言ったろ?ルークだって」
 その一瞬後、ローザはくすくすと再び笑いを零した。
「そう、貴方が。あの有名なルークなの。"堕天使"の…ね」
「今更そんなことで有名でも嬉しかないけどね」
 そろそろ、真の姿に戻っても良いだろうと、ルークは悪魔の姿に戻り、その黒曜石の眼差しをローザに向ける。
「あんたも、そろそろ正体表わしたら?俺たちのこと知ってるってことは、人間じゃないって言ってるようなモンだからな。吸血鬼紛いのことやって…あんた、何者な訳?"夜の眷族"とは纏ってる気が微妙に違うし…純粋な悪魔でもない。エースは"堕天使"に一番近い、って言ってたけど…"堕天使"でもないな」
 ローザの微笑みは消えない。それどころか、ルークを嘲笑っているようにさえ見える。幾ら『絶世の美女』とは言え、この状況で色気がどうのと言ってる場合ではなかった。
「良いわ。貴方も真の姿になっているんですもの。私の姿も見せてあげる」
 ローザの声が響いた瞬間、突然溢れ出る眩い光。
 眩しくて目を開けていられない。その腕で光を遮ったルークの耳に、ローザの笑う声が聞こえて来た。
 暫しの後、、薄らいだ光の中に立つ、白を纏った姿。
 金色だったその髪も真白く、纏っている衣服さえ、白の衣と変わっていた。
「あんたは…」
「"白き魔女"、ローザ」
 くすくすと笑いを零すその唇は、相も変わらず真赤だった。だが、ローザが纏っている気は尋常ではなく…とても嫌な気分にさせる何かがある。
「あんた…一体何者だ?その異常な気は、一体……」
 再び問いかけたルークの言葉に、ローザは小さな笑いを零す。
「言ったでしょう?私は、"白き魔女"だって」
「…違うな。あんたの気は純粋な魔女じゃない。単なる吸血気でも、妖魔でもない。だったら…」
「答えは、一つ…じゃなくって?」
「……」
 残る答えは、確かに一つだった。
「"夜の眷族"…か?」
「そう言うこと。尤も今は、一族を抜けて魔女として名乗ることを許されたわ。生きて行く為の糧として、人間の生気を集めているだけ」
 そう言葉を放ったローザに、ルークは思わず眉を潜める。
 "夜の眷族"の異名を持つ吸血一族は、形式上は魔界に属している。そして、その血族としての絆は並大抵のことでは切れることがなく、一族を抜けることも普通では無理と言われていた。
「血族としての絆はどうした?そう簡単に一族を抜けられるはずはないだろう?」
 すると、ローザはふっと笑いを納める。
「貴方も知っているはずよ。"夜の眷族"が一般にどう言われているか」
「あぁ、知ってる。"夜の眷族"の異名を持つ吸血一族は、その気になれば魔族すら、敵に回すことも恐れない」
「その通りよ。それだけ、血族の繋がりが強いと言うことになるわ。でもその反面、それは一族に捕われていると言っても過言ではないわ。だからわたしは、策を練ったのよ。幸い、協力してくれた悪魔がいたから」
 思わず、眉を潜める。
「……その悪魔、って…」
「…"鬼"、よ」
「"鬼"?」
 その言葉に、ルークは小さく息を飲んだ。
「尤もそれは、分類学上のこと。実際、彼の心は"鬼"ではなかったわ。穏やかで、とても暖かい心を持っていたもの。わたしは彼を一族に引き込んだ。彼は、自分は仲魔が助けてくれるから心配いらないって言ってね。結果、彼の仲魔が一族から解放したわ。わたしは職務を遂行出来なかったことで、一族から追放された。全部、計画通りにね」
 ローザのその言葉に、ルークは鼓動が早くなるのを感じた。
----ちょっと待て。それって……
「…それって…ゼノン、か?」
 恐る恐る尋ねる声に、ローザは微笑む。
「知り合い?」
「……」
 この時ほど、ビンゴであって嬉しくないことはなかった。
 思わず握り締めた掌に…きつく、爪が食い込む。
「…全く、反吐が出らぁ」
「何ですって」
 キッときつい眼差しを俺に向けたローザ。しかし、そんな眼差しにルークが負けるはずもない。
「あんた、何様のつもりだよ。俺たちの仲魔を利用した挙げ句、俺たちの守備範囲まで侵しやがって」
「でも、人間は何れ滅び行く存在よ。それは、貴方たちが一番良くわかっているのではなくて?わたしは、貴方たちの手伝いをしたつもりはあっても、邪魔をしたつもりはないわ」
 平然とそう言って退けるローザに、ルークの怒りは頂点に達していた。
「冗談じゃない!あんたに何がわかるっ!俺たちには、俺たちの任務がある。それを、横から入って来て勝手に生態系崩しやがって、それが邪魔じゃないって?いい加減にしろよ!!」
 そこまで捲し立てても、ルークの怒りは収まらない。
 しかしローザは、ルークから視線を背けぬまま、一瞬悲しそうに目を細めた。
「な…何だよ…」
 突然のそんな姿に、流石のルークも一瞬たじろぐ。するとローザはそのまま吐き出すように言葉を続けた。
「貴方は、魔界の御偉方に気に入られていたから、苦労もせずに魔界に受け入れて貰えたんだわ。でも、普通はそうはいかないはずよ。一族との血縁を完全に断ち切って、独りで生きていけると言う証を見せなければ、魔界に受け入れては貰えないわ。貴方に、その気持ちがわかって?」
 その言葉には、ルークも僅かに胸が痛んだ。
 そして…ゼノンがどうして、ローザに加勢をしたのかも…妙にひっかかった。
 ゼノンは…ローザの境遇に、同情したのだろうか…?それとも…もっと別の理由があったのだろうか?
 詳しい話は誰も何も聞いていない。だから、それはあくまでも仮定でしかない。
 そして今は…そんなことを、呑気に考えている場合でもなかった。
 大きく息を吐き出して気持ちを落ち着けると、ルークはその掌に使い慣れた剣を呼び出す。そしてその剣先を、ローザへと向けた。
「俺とあんたは、同じ境遇じゃない。それをまず最初に考えろ。別に俺は、上層部に媚を売って今の身位を手に入れた訳じゃないし、自分の欲望の為に、誰かを利用した訳でもない。自分で撒いた種だろう?自分で刈り取れよ。それが出来ないんなら、大人しく一族へ戻れ。もしも、これ以上俺たちを引っ掻き回すつもりなら…俺は容赦しない」
 ルークの声は、いつになく低い。そして、それが怒りを押し殺しているのだと…ローザは理解しているのだろうか。
「皇太子に取り入ったクセに、良く言うわね」
 ルークの怒りの炎に、更に追い討ちをかけるかのように零したローザの言葉。
「…貴…様……っ!」
 まるで、皇太子たるダミアンをも侮辱するかのような言葉は、ルークの心を完全に煽った。
 剣を振り上げ、ローザへと振り下ろそうとした瞬間。背後から、その腕を掴まれる。
「……っ!」
「駄目だよ、ルーク。乗せられないで」
「…ゼノン…」
 そこにいたのは紛れもなくゼノンであり、その表情は何かを思いつめていて。
「…御免ね、嫌な思いさせて…」
 ゼノンはルークが握っていた剣の柄を、己の手に引き込む。
「後は、俺がやる」
「………」
 小さく微笑んだゼノンに、ルークは大きく息を吐き出すと剣から手を離す。
 ゼノンこそ、尋常ではない。纏っている気が、いつもとはまるで違う。
 それはまるで……戦地で背後から狙われたような感覚。
 ゼノンはルークから視線を外し、その碧の眼差しを真っ直にローザに向ける。
「御久し振りね、ゼノン」
 微笑んだローザに、僅かに目を伏せるゼノン。
「こんなカタチでは、逢いたくはなかったけれどね」
「…どう言う意味?」
 ムッとした表情を、ローザは浮かべている。
「確かに俺は、キミが一族を抜ける手助けをした。でも、キミが自由を手にする為に、俺たちの守備範囲を侵したことは許し難いんだ。俺は、そんなことを望んだんじゃない」
「まだそんな夢みたいなことを言っているの?」
 一瞬、ローザはくすっと笑いを零した。
 その言葉に、ルークもゼノンも眉を潜める。
「夢みたいなこと?」
「そうよ。本当は誰よりも残忍な"鬼"のクセに、そんな上辺だけの綺麗事だけ並べるなんて、貴方らしくないわ。それよりも、わたしにもう一度手を貸して。自由が欲しいの。自由になれば、もう貴方たちには近寄らないわ」
 縋るような視線をゼノンに向けたものの、ゼノンがそれを受けるはずはなかった。当然と言えば当然だが、ローザの言葉は確実にゼノンの片鱗を逆撫でしていた。
 すっと、ゼノンの表情が変わった。
 その口元には、穏やかでありながら、残虐な微笑み。
 普段は完全に封印されている、ゼノンの"鬼"的要素。その先がどうなるか…それは、ルークにもわからない。ただ、近寄らない方が身の為、と言うことはわかっていた。
 ルークがゼノンから一歩離れると、それを確認したように、ゼノンは言葉を続けた。
「もう一度手を貸せ?冗談じゃない。キミとの契約は一度だけ。それは最初からわかっていたはずだよ。それに、俺たちは上辺だけの綺麗事を並べてる訳じゃない。この惑星は、これ以上手を加えてはいけないんだ。侵してはいけない領域だよ。気付かない?」
 尋常ではないゼノンの気配だが、ローザはそれにさえ気付かないらしい。
「侵してはいけない領域?何を馬鹿なことを言っているの?この惑星は滅び行く星よ。そしてそう言う結末を迎えることになったのは、この惑星に住まう人間たちの所為でしょう?滅ぶのが少し早くなっただけのこと。それを、呑気に見ているだけなんて、貴方たちの神経の方がどうかしているわ」
「それは、キミの言い分だろう?ルークも言っていた通り、この惑星の生態系をこれ以上壊しちゃいけない。それが守れないのなら、死んでもらうしかないんだけどね…出来ることなら、無駄な血は見たくないから、もう一度だけチャンスをあげるよ」
 そう言い放つと、ゼノンは手に持っていたルークの剣先を、すっとローザに向ける。
 そして、冷たい眼差しでローザを見据えた。
「去(い)ね。殺されたくなければ」
 ローザが息を飲んだのはわかった。
「…冗談でしょ?」
「冗談だと思う?それならそれでも、俺は一向に構わないけど…どうする?」
「…わかったわ」
 流石にこれ以上はまずいと思ったのだろう。僅かに顔色を変えたローザはそうつぶやくと、闇に溶けて行った。
 それを見送ったゼノンは剣を降ろし、大きな吐息を吐き出す。
「…御免…」
 小さくつぶやいた、ゼノンの声。それだけで、ゼノンがどれだけ責任を感じているか、ルークも痛いほど感じた。
 そんなルークの思いに気が付いたのか、ゼノンは安心させるかのように小さく笑って見せた。
 それは、いつもの微笑みであったけれど…その反面、とても思い詰めているように見えて。
「…まぁ…さぁ。あんまり悩むなよ。ローザの暴走は、あんたの所為じゃないし…」
 つぶやいたルークの声に、ゼノンは顔を伏せた。
「俺は…信じたくなかったんだよね。エースが無事で帰って来てくれていれば、多分信じなかったと思う。ローザが現れているだなんてこと」
「…人間の生気で腐臭を消せば、それで良いとでも思っていたのかね?」
「それが、魔界に受け入れられる最初の課題だったみたいだよ。ただ、ここは俺たちの守備範囲だしね。そこで闇雲に襲え、とは言われていないと思うけど…俺がいるから、大丈夫だと思ったのかな…」
 溜め息交じりに零したゼノンの声。
「…ホントなら、俺が"夜の眷族"に関わった時点で、きちんと話して置くべきだったんだろうけど…どうしても言い出せなくて…」
「ライデンがいたから?」
 ルークの声に、ゼノンは小さく頷いた。
「正直…魔界にいる頃から、医師として"夜の眷族"と接触はあった。ローザのことは…まだ小さかった頃から知ってる。そして、俺は…一族に狙われていた」
「…はぁ?」
 思いがけない方向に話が進み、ルークは思わず声を上げる。
「俺が、"鬼"だから。同じ"血の匂い"を感じ取って、俺を一族に引き入れようとしているって、ローザに言われたことがある。そして、彼女が一族を抜けたいと言い出したのも…部外者の俺が、出入りしていたから、触発されれたんだと思う。結局、交換条件でね…俺があの一族と縁を切る協力をすることを条件に、ローザが一族から抜けられるよう、俺も協力する。それは、俺の償いでもあった。でも…俺が"夜の眷族"になったってことは…ローザと接触したってことでしょ?幾ら、自分の意思だった、とは言え…俺がライデンの立場だったら、恋悪魔が他の奴を受け入れること自体、不快に思うもの」
「…まぁ…ねぇ…」
 その気持ちは良くわかった。。
 ゼノンは、誰よりもライデンを大事に思っているのは明確。ライデンも、誰よりもゼノンを信じているのだから、当然想像すらしてなかったと思う。
 しかし、だからと言って内緒にされていたことは、ルークも些か不満を感じていた。
「一言ぐらい…聞いて置きたかったな。心辺りがあったならさ」
「御免ね。俺の目で確認するまで、誰にも言いたくなかったんだ」
 今更何を言っても仕方ない。ここでそんな議論をしても、何も解決はしないのだから。
「まぁ…取り敢えず帰ろうか。ローザは人間界から身を引いた訳だし…ライデンも心配してるんじゃない?」
「…うん」
 未だ冴えない表情のゼノンの背中を叩き、ルークはゼノンと一緒に屋敷へと戻った。
 だが…その"事件"は、そんなに簡単な問題ではなかった。
 彼らがそれに気が付いたのは…完全に全てを飲み込まれてから、だった。
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プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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