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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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ROSA 後編
こちらは、以前のHPで2009年08月21日にUPしたものです

拍手[2回]


◇◆◇

 それは…出会った、と言うよりも…待ち伏せをされた、と言う方が正しいかも知れない。
 白い肌に、真っ赤な唇がとても印象的で。
 話など、右から左へと流れている感覚。そして…その口元から、視線が離れない。
 何かが可笑しい、と思った時には…既に、自分の意識を捕らえていることすら難しくて。
「…あんた…何を……」
 呂律も回らない。
 ただ…彼女の笑う声だけが、耳に残った。
 何も…わからない。意識が…遠のいていく………

◇◆◇

 その夜の月は、満月だった。不気味な程大きな満月。
 ルークは、その夜どうしても寝つくことが出来なかった。
 胸騒ぎと言うか、何と言うか…何か不穏な空気を感じ、ベッドを抜け出してリビングへと足を向けた。
 今は皆が寝静まっている時間。当然、誰もいないはずのリビングだが、そこには小さな明かりが点っている。
「…あれ?消し忘れたかな…?」
 最後に部屋に戻ったのはルーク。その際にきちんと電気は消したはずだったが…と思いながら静かにリビングに入って行くと、ソファーの隅に一つの影。
「…ゼノン?」
「あぁ、ルーク」
 その声に振り向いた姿は、間違いなくゼノンだった。
「何、あんたも眠れないの?」
「…うん。何だか落ち着かなくて…」
 そう言葉を零したゼノンの表情は、確かに優れない。
「…一本、どう?」
 ルークはリビングに来る途中で冷蔵庫から漁って来た缶ビールを差し出す。
 眠れないのは、御互い様。
「有り難う」
 腕を伸ばし、ルークの手からそれを受け取った瞬間。
 急に、屋敷の結界が乱れた。その次の瞬間には、異様な気配が屋敷の中に流れ込んで来る。
「何っ?!」
 これは、尋常じゃない。
 ゼノンもそれに気が付いたらしく、ソファーから立ち上がった表情は、険しかった。
「二階(うえ)、だ」
 つぶやいた俺の声に、ゼノンが反応する。
「…ライデンの部屋…?」
 未だ雷神界から帰って来た様子はなかったのだが、確かにライデンの部屋からライデンともう一つ、徒ならぬ気を感じる。
 直後、二名は階段を駆け登っていた。

 その尋常ではない気に触発されたのは、二名だけではなかった。
 二階に駆け登ると、ライデンの部屋の前には、デーモンとエースの姿もある。
「何だよ、これはっ?!」
「吾輩たちにもわからないが…とにかく、このドアをこじ開けるしかあるまい」
 既にドアのノブに手をかけていたエースの様子から見て、鍵がかかっているようだった。
「…ったく!何でこんな時に、鍵かけてんだよっ!開けろ、ライデンっ!!」
 幾らドアを叩こうが、中のライデンは一向に開ける気配がない。
 ドア越しに感じる異常な気は、更に高まっているようだった。
「こうなったら…」
 掌に魔力を集め始めたデーモン。
 貴重な睡眠時間を妨げられ、結界を破られた挙句に異様な気を撒き散らされては、誰でも頭にくるのは当然。そんな中で、冷静でなどいられるはずはない。
 デーモンの魔力が弾け、ドアが壊れたと思った瞬間、部屋の中から溢れ出た気に、彼らは咄嗟に顔を覆う。
 漂っているのは、強烈で…物凄い死臭、だった。
「ライデンっ!」
 真っ先に声を上げたのはゼノン。
 その声に顔を向けてみれば…
「…ライ……」
 満月の光が差し込む中、虚ろな目をしたライデンがぼんやりと立っている。
 そして、その傍らには…
「…ローザ…」
 腰までの真白き髪の後ろ姿は、間違いない。
「ライデンに何をした…っ?!」
 声を上げた彼らに視線を向けたローザは、その赤い口元に小さな笑みを浮かべる。
「貴方たちの、ウイーク・ポイントのようね、彼は。存分に利用させて貰うわ」
 くすくすと笑いを零すローザ。
「…そうまでして、あんたは俺たちの守備範囲(テリトリー)を荒らして人を襲うのかっ!?俺たちを敵に回してまでっ!?」
 そう問いかけたルークの声に、ローザはすっとその表情を変える。
「そうよ。わたしは自由が欲しいの。その為なら、何だってするわ。貴方たちの弱点を付いてでも」
「『絶世の美女』の、やることじゃねぇな」
 今まで口を噤んでいたエースが、そう口を開く。
「何とでも言えば良いわ。わたしは、貴方たちには従わない」
「勝手なことを…」
 溜め息を吐いたのはデーモン。
「…そんなことをして、ただで済むと思ってるのか?」
 問いかけた、デーモンの声。それは、落ち着いてはいるが…見逃す意思など微塵もなかった。
「そうね、貴方たちの反感を買うことぐらいはわかっているわ。でも、それがわたしのやり方よ」
「その先が、死だとしても…か?」
「"夜の眷族"は、そう簡単には死滅しなくってよ」
 まるで、嘲笑うかのように微笑むローザ。
 散々聞いていた『絶世の美女』だが…初対面のデーモンには、ローザは既に、『絶世の美女』ではなく…ただ、自分自身に酔っているだけにしか見えなかった。
「それは、相手が御前よりも下等な場合…であろう?少なくともここにいる我々の魔力が、御前を遥かに上廻っていることぐらい御前にもわかっているとは思うが?」
「えぇ、わかっているわ。でも、こちらには彼がいるのよ?それでも手が出せて?」
 すっかり勝ち気のローザに、彼らは手の出しようがない。
 たった、一名を除いては…
「悪魔質(ひとじち)ってこと?」
 顔を伏せたまま、言葉を紡いだゼノン。その声は既に、限界値を超えているようで。
 それを察した三名は、溜め息を吐き出すと揃って一歩足を引く。ここからは一歩離れて傍観することが懸命だと言わんばかりに。
 ゼノンはその冷たい眼差しでローザを見つめたまま、左耳のピアスを二つ外した。
 途端に溢れ出す、尋常ではない程の強い気。その半分以上は、普段制御しているゼノンの魔力と感情の放出によるものだった。一つを残したのは…"鬼"に戻らない為。
 普段感じない鋭い気をすぐ傍で感じながら、ルークはその掌に己の剣を呼び出した。そして、その剣をゼノンの前に差し出す。
「…どうぞ」
「どうも」
 ルークが差し出した剣を、ゼノンは軽く微笑んで受け取る。
「…さて、どうしようかな」
 その視線を外すことなく、ゼノンはつぶやいた。
「殺されたくなければ、去(い)ね。そう言ったはずだけど?」
「えぇ、確かに貴方はそう言ったわね」
「キミはそれに従ったはずだったと思ったけど…俺が甘かったのかな?」
「多分ね」
「そう。それなら話は早い」
 ゼノンの眼差しは、鋭さを増している。
 普通の神経の持ち主ならば、この辺りで諦めるか、怯えて逃げてしまうところなのだろうが…ローザはすっとライデンに寄り添うように、体制を整えた。
 それを見て、ゼノンは一拍置くと、再び言葉を紡ぐ。右手に握られた剣を、ローザへと向けて。
「そいつに触るな」
「彼が、貴方にとって最大の弱点であることはわかってるわ。だからこそ、わたしは彼の意識を支配させて貰ったのよ」
 にっこりと微笑んだローザは、虚ろなライデンの耳元で、言葉を囁く。
「あの悪魔の口を封じて。わたしの、自由の為に」
「………」
 不意に、光を宿したライデンの眼差しは、真っ直ゼノンに向けられていた。
 それは、いつもの眼差しとは全く違って、敵意を露にした眼差しであったけれど。
「…キミは、一族を抜けたいと言いながらも、結局そうやってまた一族の血に頼っているんだよ。その血は、何モノにも換え難い効力があるからね。他を惑わし、利用する。それで良く、一族に頼らないだなんて言えるね」
 冷静なゼノンの声。だが、当然のことながらそんな説法はローザには全く堪えない。
 やがて、ライデンが一歩、足を踏み出した。
「…それが、御前の意志?」
 ライデンを真っ直ぐに見つめたまま…ふと、問いかけた言葉。
「御前の意志であるなら、俺は抵抗はしないよ。でも…御前の意志でないのなら、俺は遠慮はしない。わかってるよね?」
「………」
 言葉は、ない。多分、ゼノンの言葉は聞こえていないだろう。
 一歩一歩、足を踏み出す度に、ライデンの気が高まるのを感じる。
「…大丈夫か?彼奴…」
 エースが、つぶやいた。
「ま…ゼノンに任せるしかないでしょうね」
「そうだな」
 ルークとデーモンが、そう答える。確かにそれが懸命だろう。
 ライデンがゼノンの正面に立った時、その魔力は最大にまで高まっていた。
「…ライデン」
 呼びかけたゼノンに、ライデンはふとその手を伸ばす。
 頬に軽く触れた指先は、そのまま首へと絡みつき、傾けられた頬は、吸い寄せられるように唇を重ねた。
「……え?」
 面喰らったのは、傍観者たちの方。まぁ…それも当然だろうが。
 勿論、面喰らったのはゼノンも同じだったらしい。
 呆気に取られた顔。鳩が豆鉄砲喰らったと言うのは、正にこう言う表情の事を言うのだろう。と思ってしまう程、ぽかんとした表情だった。
「…ライ?」
 しっかりとその首に回された両腕は、紛れもなくいつものライデンの姿。
 いつの間にか、最大にまで高まっていたはずのライデンの魔力さえ、感じられない。
「…これが、俺の意志」
 不意に、言葉を紡いだライデン。
「…俺、あんたのこの能力…嫌い。だから…」
 そうつぶやくと、ライデンはゼノンから離れ、床に落ちていたピアスを拾うと、にっこりと微笑んでゼノンに手渡す。
「はい」
「…あ…りがと…」
「どう致しまして」
 その眼差しも、満面の笑みも、すっかりいつものライデンだった。
「…ちょっとっ!どう言うことっ!?」
 一番訳がわからなかったのは、ローザだろう。怒りを露にした顔で、ライデンを睨み付けていた。
「貴方は、わたしの傀儡(にんぎょう)よっ!」
「俺が、いつあんたの傀儡になった?」
「…どう言うことよっ」
 口を尖らせるローザを横目に、ピアスを填めたゼノンの耳に封印の呪をかけたライデンが振り返る。
「ま、強いて言うなら…想いは何モノにも勝る。ってことかな」
 絶句。
 途端、傍観者は笑い出した。
「あんたの負け、だよ」
 笑いを抑え、エースが言葉を放った。
「結局、あんたがライデンを利用しようとしたことは、全部無駄だったってことだな」
「何ですって!?」
 声を上げたローザに、ゼノンがいつもの通りの口調で口を開いた。
「ライデンは、俺たちの弱点ではないと言うこと。キミより潜在能力も精神力も強い相手を、本気で操れると思っていた訳?」
「…だって、現に貴方は…」
「俺は、自分の意志だったもの」
「……」
 ゼノンの言葉に、ローザは思わず口を噤む。
「さ、どうする?殺される前に、消える?」
 ゼノンは、再びその剣をローザに向ける。
「…わかったわ。貴方たちに従うわよ…」
「賢明だね」
 最早自身の適う相手ではないと言うことがわかったのか、ローザはムッとした表情のまま、闇に溶けて行った。
「…ルーク、どうも有り難う」
「いえいえ、どう致しまして」
 ゼノンから返って来た剣をしまい、これで一先ず一件落着…かと思いきや。ゼノンの頬に、ライデンの平手打ちが一発…。
 誰もが呆気に取られる中、ライデンはゼノンに向け、声を荒げる。
「あんたがいけないんだからねっ!俺に、何にも話してくれなかったあんたの責任だよっ!わかってんの!?」
「…御免」
 殴られた頬を押え、ゼノンはつぶやいた。それを、ライデンはぷいと横向き。
「今更謝られたってっ」
「…まぁ、ライデン。そう言わずとも…」
「デーさんは黙ってて!」
「……はい…」
 デーモンもすっかりライデンの気迫に圧倒されてしまった。
 すっかり機嫌の悪くなったライデンは、ずいっとゼノンに顔を寄せる。その間、僅か五センチ。ちょっと動けばもう鼻先がくっつきそう。
「今度ばかりは許さないからねっ。きちんとした謝罪、態度で示して貰うよっ」
「…どうするの?」
 意外と平然な表情をして、ゼノンは憤慨しているライデンに問いかける。
「そうだね……」
 暫く考えた末、ライデンはゼノンにその提案をする。
「あんたを、頂戴」
「……はい?」
 正直…それは今更言うことではないような…と誰もの脳裏を掠めた言葉。
 しかし、ライデンの真剣な表情は崩れない。
「……えっと……」
 それには、ゼノンですら戸惑いの表情を浮かべている。勿論、傍観者も呆然としてる訳だけれども…
 当のライデンは、小さな微笑みを浮かべ、ゼノンの首にその腕を絡めた。
 そして。
「…愛してるよ、ゼノン」
 ライデンの頬が傾き、ゼノンの首筋に顔を埋める。
 そして、その刹那。
「ちょっ…ライデンっ!痛いってばっ!!」
 良く見れば、ライデンはゼノンの首筋に噛み付いている。
 何をじゃれ合っているんだ…と呆れる傍観者たちが溜め息を吐いた時。
「……ぁっ…」
 小さな声を零したゼノン。
 目を見開き、微かに震えるその姿は…ちょっと尋常じゃない。
「おい、ゼノンっ」
 顔色を変えたエースが、まず声を上げた。
「ライ…っ!やめろっ」
 デーモンも声を上げる。
 何が起こったのか、一瞬良くわからなかった。だが、デーモンとエースがゼノンから力ずくでライデンを引き剥がすと、ゼノンもライデンもそのまま床へと崩れ落ちた。
「…何で…」
 一瞬、目を見張った。
 ゼノンの首筋に…二つの吸血痕が…あった。

◇◆◇

 結局の所、何がどうなっているのか全く以って理解不能であった為、ゼノンとライデンをそれぞれの部屋のベッドに寝かし付け、そのドアを封印して、三名は一旦リビングへ戻って来た。
「とりあえず、各部屋には封印はしたが…」
 全く、何がどうなっているのやら…
 リビングで、溜め息を吐き出したのはデーモン。エースもルークも、当然同じように顔を顰めている。
「状況を察するに…結局、ライデンは"夜の眷族"に取り込まれていた。と言うことになるな」
「で?ゼノンはそれに気付かないで、またもや餌食になった訳?」
 情けないと言うか、何と言うか…と、彼らは溜め息を吐き出す。
「それにしても、ホントしぶといね。"夜の眷族"の血は。てっきり、ライデンは"夜の眷族"の血に染まってないと思ったんだけどな…」
 思わずつぶやきを零したルークに、エースも頷く。
「あの状況からして、ライデンの意志の方が勝っていたのは確かだったはずだ。ローザの奴…面倒なことをしやがって…」
 小さく舌打ちをして、無造作に火のついていない煙草を口に銜える。
「それにしても…どうする?ローザを捜して、呪縛を解かせる?」
 問いかけたルークの声に、溜め息交じりのエースの声が返って来る。
「いや、それは多分無理だ。"夜の眷族"の呪縛は、奴等にも解くのは難しいと言われている。しかも、よりによって呪縛をかけたローザよりも、魔力が上の二名だ。彼奴に解けるはずがない」
「はずがないって…っ!それじゃ、彼奴等を見捨てろってこと?!」
 かなり、気が荒立っているのだろう。声を上げたルークに、エースは更に不機嫌さを増した表情で…こちらも声を荒げて言い返す。
「誰もそんなこと言ってないだろうがっ」
「でも、ゼノンが操られた時は、ライデンじゃないと解けないって言ったじゃんかよ!そのライデンが操られてるんだぞ?誰が呪縛を解くって言うのさっ」
「だから、それをもう一回調べるって言ってるだろうがっ」
「調べるだなんて、一っ言も言ってないでしょうがっ」
「…まぁ、まぁ…ちょっと落ち着け、御前等…」
 最近、すっかりエースの宥め役が定着して来たデーモンが、ルークとエースの会話の間に入って宥める。
「とにかく、もう一度きちんと調べることが必要だろうな。診断結果によっては、我々の手には負えないだろうし…」
 デーモンの言うことは尤もだった。
 自分たちの手に負えるかどうか、まだはっきりとわからないのだから。
「じゃあ、魔界に行って医師を……」
 ルークが、そう言いかけた時。
「悪いけど、その必要はないよ」
「…ゼノンっ!?」
 不意に背後から声をかけられて振り返れば、そこにゼノンが立っていた。しかも、平然とした顔で。
「御前…」
 一様に茫然…が、ゼノンは涼しい顔。
「もう心配ないから」
「ちょっと待て。どう言うことだ、これは…」
 混乱した頭を整理するかのように、デーモンはゼノンに問いかける。
 うん…と、ゼノンは空いているソファーに腰を降ろす。
「俺のは、軽い拒絶反応。一度"夜の眷族"の血の呪縛にかかって、それを解いて貰ってるから。何か、免疫みたいのが出来るみたいだね。ライデンの潜在能力が強いから、ローザの呪縛はそんなに強くない。でも、波があるみたいで、俺が噛まれた時は丁度間が悪かったんだと思う。でもそれで呪縛が残っていることがわかったから、俺がこれから彼奴の呪縛を解いて来る」
 平然と言って退けるゼノンに首筋に、先程の吸血痕は確かになかった。
「解いて来るからって…そんなに簡単に出来るのか?」
 御前の時は、散々苦労したのによぉ。
 そんなぼやきをエースが零すと、ゼノンは小さな微笑みを浮かべる。
「大丈夫。だって、ライデン、魔眼じゃなかったでしょ?」
 言われてみれば…それはそうだった。
 ゼノンが呪縛をかけられていた時は、赤い魔眼だった。でも、今回ライデンにはそれがなかった。考えてみれば…その首筋にも、吸血痕もなかった。
「じゃあ、完全に操られていた訳ではなかったんだな?」
 改めてデーモンが問う。
「まぁ、そう言うこと。完全に操られていないのなら、呪縛を解くのも簡単だよ」
 いとも簡単にそう言って退るゼノン。
「とにかく、すぐに呪縛は解けるから。心配しないで待ってて」
 ゼノンはそう言い残し、リビングを出て行った。
 彼らが、その後ろ姿を溜め息で見送ったのは、多分言うまでもない。
 外は直に夜明けだと言うのに…その騒ぎで、皆すっかり寝そびれてしまった訳で……


 階段を昇り、二階のライデンの部屋の前までやって来たゼノンは、そのドアにかけてある封印を解くと、そっとドアを開けた。
 部屋の中は今だ死臭が漂っていて、とても嫌な気分にさせる。
 ライデンは、そのベッドに横たわっていた。
 ゼノンは窓を開けて空気の流れを作ると、小さく呪文を唱えてその部屋の空気を浄化する。
 そして、ベッドへ歩み寄る。
「…ライ」
 小さく声をかけるが、反応はない。
「ライデン…御免ね」
 もう一度、小さく言葉を零す。
 眠っているその顔は、見慣れた穏やかな寝顔。けれど、自分がきちんと話をしなかった所為で…傷付けてしまった。それだけは…本当に、申し訳なく思う。
「…愛してるよ。だから…帰って、おいで」
 つぶやきと共に小さく呪を唱えると、閉ざされた瞼に軽く口付ける。
 そして、唇へ。
 軽く触れられた唇から、吐息が零れた。
「……ゼノ?」
 震える瞼がそっと持ち上がり、その存在を眼差しで捕える。
「おはよう、ライデン」
 まだ日も昇っていないのに、おはようとは…
 何を言ってるんだ、こいつは…と言いたげな表情を一瞬浮かべたライデンであったが、すぐに状況を思い出したらしい。
 ベッドの上に半身を起こし、その眼差しをゼノンに向ける。
「…御免。頭ン中混乱してて…」
「大丈夫。もう、呪縛は解いたから」
 にっこりと微笑むゼノン。
「呪縛って…何のこと?」
「覚えてない?」
 眉を潜めていたライデンであったが、やがてその表情は険しく変わった。
「あ…俺…あんたに…」
「俺は大丈夫。もう何ともないから」
「でも…」
「心配しなくていいよ。俺は免疫が出来てるから、軽い拒絶反応で済んだんだよ」
「ホントに平気?」
「うん」
 ずいっと顔を寄せたライデンに、ゼノンは微笑む。
「それより、御前は大丈夫?」
「あぁ…うん」
「…良かった」
 そう零した表情は、本当にほっとした表情だった。
「それじゃ、みんなに報告して来なきゃいけないんだけど…」
 そう言いながら開けたままになっていた窓を締めると、ベッドの端に腰を下ろした。
「…ちゃんと、話すよ」
 一呼吸置くと、ゼノンはゆっくりと言葉を紡ぐ。
 それは…自分と、"夜の眷族"の関係。そして、ローザとの関係について。
「…深い関係は、何もないよ。ただ…言い辛かったのは確か。でも、その結果…みんなを巻き込んでしまったから…反省中」
 目を伏せ、溜め息を零すゼノンを、ライデンはじっと見つめていた。
 視線の先にいるゼノンは…まぁ、お互いにそれなりに年は取ったけれど…その中身は、知り合った頃と何も変わらない。誰よりも自分を大事に思ってくれて…誰よりも、愛してくれている。だから…咎める言葉など、ライデンは思いつきもしなかった。
「…大丈夫」
 小さく、つぶやいた言葉。
「…ライ…」
 ゼノンが顔を上げてみれば、目を細め、軽く微笑むライデンがいる。
「…大丈夫、だよ。俺は、誰よりもあんたを信じてる。誰よりも…あんたを、愛してるよ。だから、あんたを誰にも渡すつもりはないし…俺だって、他の誰のモノにもなるつもりはない。あんたが俺を護ってくれるように、俺もあんたに何かあれば絶対に護ってみせるし。だから…俺たちの絆は、最強。でしょ?それとも…そう思ってるのは、俺だけ…?」
「…そんなこと…俺だって、同じ気持ちだよ」
「なら、問題ないじゃん。あんたは、俺にちゃんと話してくれた。それで、十分。ね?」
「…ライ…」
 にっこりと微笑むライデンの前…ゼノンは、言葉もない。
「…有難う」
 腕を伸ばし、その姿を抱き締める。
 確かな温もりは…確かな絆の証、だった。


「あれ?デーモンとエースは?」
 リビングに戻って来たゼノンは、そこにいるのがルークだけだったので、思わずそう問いかけた。
「あんたがなかなか帰って来ないから、先に寝たよ。俺は寝そびれたけどね」
 思わず吐き出した溜め息と共に、ルークはそう言葉を放つ。
「そう。悪かったね、色々と…」
「いや、別に良いんだけどね。どうせ、乗りかかった船だったしさ…」
 済まなそうにそうつぶやきながら、俺の正面のソファーに腰を落としたゼノンに、ルークも言葉を返す。
 確かに、ゼノンの所為ではないのだから、責める訳にもいかない。
「まぁ…さぁ。あんたの所為じゃないんだから、あんたが詫びる必要はないだろうよ。それよりも、ライデンはどうだった?」
「あぁ、大丈夫。意識も戻ったし、部屋も浄化して来たから、匂いも消えたしね。もうローザも近寄れないよ」
 ゼノンの言葉に、ルークは小さく笑った。
 けれど、その胸の中には…小さな傷が残っている。
「…大丈夫?」
 その声にふと視線をゼノンへと向けると…じっとルークを見つめる碧の眼差し。
「…大丈夫だよ」
 そう零したものの…飲み込めない思いなど、ゼノンに見透かされていることはわかっていたけれど。
「…この際だから、コーヒーでも淹れようか」
 ゼノンはそう言うと、キッチンへと行ってコーヒーを淹れ始める。そして暫しの後…カップを両手に持って戻って来た。
「はい、どうぞ」
「サンキュー」
 一つをルークに手渡すと、その芳香を吸い込み、一息吐く。
「…俺が、ローザと最初に会った時…あんたはどの辺から聞いていたかわからないけど…ローザさ、俺に言ったんだよね。俺は、魔界の御偉方に気に入られたから、苦労もせず魔界に受け入れられたんだ、って。俺はそんなつもりは全くなかったし…それなりに、苦労して来たと思ってたけど…周りはそう思っていたのかな、ってさ」
 それは…ずっと引っかかっていたこと。
「境遇が違うことは当然だけど…俺は、ダミ様に気に入って貰えて、色々面倒見て貰えたし…表立って優遇されてた訳じゃないけど、そう思っている奴はいたんだろうな、って思った。だから、俺はローザの気持ちがわからなかったし、この先…ローザが、どんな道を歩いて行くのかもわからない。あんたとライデンを助けることは当然のことだけど、だからって解決策を出さずに切り捨ててしまったことは…ホントに良かったのかな、とも思う」
 コーヒーのカップを両手で包み込むように持ちながら、そう話したルークを、ゼノンは黙って見つめていた。そしてルークの言葉が途切れると…ゆっくりと、口を挟む。
「そりゃあね…俺も、ローザの今後のことはちょっと気にはなるけど…ローザとの約束は、破ってはいけない約束だったんだよ。だから、今回のことは俺も妥協するつもりはないし、なし崩しにしていいということでもない。後のことは、ダミアン様に任せるのが一番だと思うよ」
「…そう、だよな。そう。頭ではわかってるんだ。でも…」
 溜め息を吐き出すルーク。
 けれどゼノンは、くすっと笑いを零した。
「…育った境遇も違えば、魔界に受け入れを要請する状況も違う。俺は、ローザが小さい頃から知っているけど…あの子はお嬢様だったからね。一族を抜けた後のことを、甘く見ていたのかも知れない。少なくとも俺は…御前は、十分苦労して来たと思うよ。その上で、"運も実力のうち"、だとも思う。それは…自分で言うのも何だけど、俺たちみんながそうだったんじゃないかな。だから、こんなに同年代の上層部になったんだと思うよ」
「…まぁ…ね。普通、上層部でここまで同年代が揃うことはまずないからね」
「でしょ?でもまぁ…ダミアン様が御前に甘いことは、事実だけどね」
「ホント。過保護過ぎるくらい」
 ルークからも、くすっと小さな笑いが零れた。
 ローザのことは…多分、もう関わることはないだろう。ダミアンならば、そうするはず。
 二度と会うことはないかも知れないけれど…それでも…自分の運命を呪わずに、前向きに歩いてくれたら…と思う。
 それは、ゼノンも、ルークも。口には出さなくても、そう思っていたことだった。
 寝そびれたついでに、ルークとゼノンはそのままリビングで雑談をしながら、夜を明かした。

◇◆◇

 数日後、魔界のダミアンから彼らに連絡が入った。
 ローザは、二度と人間には近づかないと約束したらしい。
 もし、この約束を破ったなら、二度と生きてはいられないだろう。それが、ルールと言うものなのだから。
 そんなこんなで、巷を賑わせた吸血気騒ぎも一段落。
 人類滅亡までの、ささやかな平和が、またこの人間界にも訪れていた。
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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