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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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TRADE 前編
こちらは、以前のHPで2000年04月06日にUPしたものです

拍手[4回]


◇◆◇

 解放された時間。それは、もう数ケ月振りのことだ。
 行き付けの呑み屋から出たのが、確か十二時を回っていたはず。その後知り合った、名前も知らない彼女と部屋に戻って来て…そして、さぁこれから…と思った矢先。急に電話が鳴った訳だ。
「…もしもしぃ!?」
 折角の雰囲気を壊されてムッとしつつ、ややドスの利いた声で受話器を取った俺の耳に届いたのは、荒い呼吸と掠れた声。
『…悪い…直ぐ…来てくれ…』
「…誰?」
 一瞬、誰だかわからなかったのは事実。だって、いきなりそんなこと言われたって、わかる奴の方が可笑しい。
『…吾輩だ、エース…』
「あ…」
 そうか。
 俺は受話器を抱え込み、彼女に聞こえないように囁く。
「悪いけど…俺、エースじゃないから。彼奴は急に仕事が出来たとかで、魔界に帰ったぞ?」
 聞いて、ない訳?
 そう言った俺の声に、奴はその受話器の向こうで大きな溜め息を吐いたようだった。そして、一言。
『…悪かった。他を当る…』
 そして、電話は切れた。
「…何だ?今のは…」
 奇妙な電話に、当然俺は眉を潜める。
 デーモンとエースの関係は…一応、恋悪魔と言うことだが、正直、俺は賛成している訳じゃない。だが、エースはエースで別の存在だから、全てを否定するのも悪いとは思っている。だから、肉体関係だけは絶対に許さない、と言う条件付きで黙認することにした訳だ。
 まぁ、そう考えると、さっきの電話も…変な誘いではないとは思う。
 そう思うと…気になるのは当然。
「…どうしたの?」
 そう声をかけられ、俺は振り返った。あぁ、彼女は不機嫌そうだ。まぁ…当り前か。でも、奴からの電話でその気も失せてしまった。
「悪い、急用が出来た」
「え?」
「だから、機会があったら、またなってことで…」
「ちょっ…」
「御免ね」
 訳のわからないと言った表情を浮かべた彼女を部屋から追い出し、俺は溜め息を吐いた。久し振りの、めっけもんだったんだけどなぁ…

 三十分後。俺は、奴のマンションの部屋の前に立っていた。結局、あの後直ぐタクシーを呼んで来てしまった訳だけれど…まさか入ってマズイ状況ではないだろう。不安はあるけどな。
 彼奴はどうだか知らないけど、俺がここに来るのは初めてだった。深夜と言うこともあって、流石に辺りは静まりかえっている。
 が、チャイムを鳴らしてみても中からの返事はない。まさか深夜に他人ン家に直ぐに来いと電話しといて、留守ってことはないだろう。違う場所なら、そう言うだろうし。しかし…扉の前で怒鳴るのも気が引ける。ただでさえ、ミュージシャン関係は夜中に煩いって苦情が絶えないんだから。
 とにかく、俺は出来るだけ近所の迷惑にならないようにその扉を叩いた。
「おーい、小暮ーっ。いないのか?いないなら、帰るぞ」
 出来る限りの小声で…しかも郵便受けの隙間から、そう声を発してみる。すると、中でガタッと言う物音が聞こえた。
「んだよ、いるんじゃねぇか」
 ぶつくさと文句を言いながら、その扉が開くのを待つ。
 で、開いた扉の隙間から覗いたのは…上下スエット姿で、赤い頬、潤んだ瞳の奴。
「…清水…どうした?」
「あ…っと…」
 掠れた声で尋ねられて、思わず面喰らってしまった。だがしかし。
「あのさぁ…なんか、急用だったのか…?」
 そう尋ねた瞬間。
「…っ」
「えっ…」
 扉を掴んでいた手がするりと滑り、奴はその膝を床に落としかけた。瞬間的に腕を伸ばし、奴を抱き止めた俺の腕の中の奴は…異様な程、熱かった。

「…で?薬は?」
「…いや」
「飯は、喰ったのか?」
「…いや」
「あのなぁ…」
 思わず、溜め息を吐いてしまう。
 結局、奴が倒れたのは熱があった所為で…多分、風邪だろうとは思う。で、わざわざベッドまで運んで上掛けもきちんとかけてやって、それでもって尋ねた俺の問いの答えがこれだ。溜め息しか出ねぇ…。
「飯も喰わない、薬も飲まない。そんで、自分じゃどうにもならなくて、エースに電話して来た訳か」
「御前を呼んだ覚えはないがな」
「……」
 そりゃそうだ。確かに、俺は呼ばれてない。でも、わざわざ来てやったんじゃないか。そんな言い方しなくたって良いと思わないか?
「…そう言や、他を当るとかって言ってたけど…誰もいないじゃないか」
 気持ちを宥めようと部屋の中を見回して、俺はそう尋ねる。
「…夜も遅いしな…迷惑だろう…?」
「…迷惑って…俺ン家にはかけて来たくせに?」
 俺は、思わず眉を潜める。
 他のヤツには迷惑をかけるって言いながら、エースは良いのかよ…っ。
「俺ン家にかけるより、ゼノン呼んだ方がよっぽど合理的だろうが。彼奴は医者だろうが」
「ゼノンは魔界に帰ってる。たかが風邪ぐらいで呼び戻す必要はないだろうが」
「倒れたくせに良く言う。俺が来なかったらどうしてるつもりだったんだよっ」
 思わずそう言った言葉に、奴はがばっとベッドから起き上がり、更にその潤んだ瞳で俺を睨み付けた。
「御前が来なければ大人しく寝ていたんだっ!わざわざ叩き起こしたのは御前だろうがっ!」
「…んだよ!ヒトが善意で来てやったって言うのに、その良い方は何だっ!」
「一名で対処ぐらい出来るっ!悪魔に善意を押し付けるな、ば~かっ!」
「…子供か…っ!」
 思わずカッとなったものの…確かに呼ばれてもいないのに勝手に来たのは俺だし、寝ていたのを起こしたのも俺かも知れない。でもだからって…なぁ…。
 折角来たのに、そんな言われようは…気分が悪い。でもまぁ…相手は病魔だし…。
 大きく深呼吸をして、改めて奴に目を向ける。赤かった頬は、更に赤味を増してるじゃないか。
「…怒鳴ったりして、悪かった。とにかく、大人しく寝てろ。俺が連絡受けたのに、知らん顔して御前に何かあったら…俺が、エースに怒られるんだ」
 俺は奴をベッドに押し込めると、其処らにあったタオルをキッチンで濡らし、奴の額に乗せた。
 やっと落ち着いた様子の奴は…流石に、気まずそうだ。当たり前だ。俺だって、そうなんだから。
「…悪い…言い過ぎた…」
 小さくつぶやいた声に、溜め息を一つ。
「…良いから。早く寝ろ」
 俺は奴にそう言って、ぷいと後ろを向いた。
「…御休み」
 背中から、声が聞こえた。
「…あぁ、御休み」
 振り向かずに答える。俺って奴は…全く、大人気ない…。

 明け方近くだろうか。起き上がって見た時計は、四時を示していた。俺がうとうとし始めてからまだ一時間と経ってない。何度もタオルを取り替えてやって、やっと奴の落ち着いた寝息が聞こえ始めたかと思ったのも束の間だった訳か。俺の淡い睡眠は、奴の魘された声で奪われていた。
 荒い呼吸が聞こえる。枕元のライトを点すと、小さな呻き声を上げながら、何度も寝返りを打つ奴の姿が見えた。
「…デーモン?」
 額に乗っていたタオルはいつの間にか床に落ち、今やその額には汗がびっしりと浮かび、黄金の前髪は貼り付いている。
「おい、デーモン。大丈夫か?」
 俺は再び奴の名前を呼ぶ。その声で眠りから覚めた奴はうっすらと目を開け、俺を見つめた。だがその眼差しは何処か虚無で、俺ではない何かを見ているようにも思えた。
 薄く開かれた唇が、何かをつぶやいている。
「…何だ?」
 傍に寄った俺。その刹那、不意に伸ばされた腕は何の迷いもなく俺の首に回され…そして俺は、瞬間的に引き寄せられた。
「…っ!?」
 当然の如く、ベッドの倒れ込むわな…。
 俺の直ぐ横に、奴の顔がある。その耳許で、辛うじて聞こえた声。
「……ス…」
「……」
 だから、俺はエースじゃないんだが…。でも、その余りの切なげな声に、俺は言い返すことすら出来なかった。
 仕方ない。成りきってやるか…。
「…ここにいるから。安心しな…デーモン」
 出来るだけエースになりきって、髪を梳いてやる。
「…ん」
 吐息のような声。相手がエースだと信じてるのか、何て甘い声を出すんだろう…
 俺がそんなことをぼんやりと考えているうちに、奴は再び眠ったようだった。
 力の緩んだ腕を解き、やっと自由になれた俺は大きく息を吐いた。そんでもってタオルで額の汗を拭ってやり、もう一度濡らして奴の額の上に置いた。半分ずり落ちかけてる上掛けも直してやって、そして改めて先程の光景を思い出した。
 その瞬間に、思わず赤面…。
 冷静に考えてみれば…まさに、恋悪魔同士の姿じゃないか…。俺が知らないだけで、エースは奴のあんな姿を…甘い声を、直ぐ傍で感じていたんだろう。幾ら、俺との約束があるとは言え…あのエースが、良く理性を保っていられるものだ…と、ぼんやりと考えていたりする。
 エースが、何を想って奴に惚れたのか…俺には、全部はわからない。でも…正直、奴の存在を余り良く思っていなかった俺でさえ、予想外の姿を見せ付けられ…魅せられてしまう。
 それが、奴の魅力なんだろうか。放っておけない何かが、そこにあるような気がしていた。

◇◆◇

 鉛色の空から、ポツポツと雨が降り始めた。その音に目を覚ました頃、もう午前十時を回っていた。
 奴はまだ眠っていた。今は、穏やかな寝息が聞こえている。
 その呼吸に安堵の溜め息を吐き出したその時、不意に電話が鳴った。奴を起こさないように慌てて電話を取ると、相手は。
『あ、デーさん?』
「…ルークか」
『あれ?清水さん?どしたの?』
「どしたの?じゃねぇだろうが、全く…」
 小声で、簡単に事情を説明する。するとルークは小さく笑った。
『あぁ、デーさんの風邪ね。そうそう。ここんとこ、調子悪そうだったんだよね。ゼノンが急用で魔界に帰ってるから、薬もわからなくってさぁ。そっかぁ…やっぱり熱出しちゃったのか~』
「…知ってたんだったら、代わりに来いよっ。御前の方が慣れてんだろ」
『だってデーさんの御指名じゃん。ホントはエースだったんだろうけどさ。エースも、勿体無いね』
 くすくすと笑う声に、俺は溜め息を一つ。
「…こっちの身にもなれよ…」
 ったく、どいつもこいつもエース、エースって…どうせ俺はエースじゃないさ。悪かったなっ。
 まぁ、それはともかく…。
「何か、用があったんじゃないのか?」
 わざわざ電話をかけて来たんだから、何かあったんだろう。そう思って問いかけたんだが。
『ん?今日は帰って来るのかどうか、聞きたかっただけだから。晩御飯の都合もあるしね。寝込んでるんだったら、そっちでゆっくりするでしょ?だから、別に起こして聞かなくて良いよ』
「…食事の都合かよ…」
『だって、重要よ?俺がそっちに行けば、ライデンも食べて来るだろうし。作る手間もかかるからね』
 まぁ…それはそうだけどな。
「とにかく、今度は御前が来いよなっ」
 俺のその声に、ルークは笑っていた。
『わかった。夕方頃には行けると思う。仕事が一本入ってるから、終わったらね』
「仕事?」
『そう。なるべく早く行くようにするから、それまで宜しくね』
 仕事と言われてしまえば…強引に呼び出すことも出来ず。どうせ俺はオフだしな…。
「わかったよ。じゃあ、終わったら来いよ」
『わかってるって。じゃあね』
 ルークはそう言って、電話を切った。まぁ、仕方ない。夕方まではやるしかないか。
 で。まず何から始めようかと考えて、ふと思い出した。
 奴は夕べ、飯も喰ってなくて、薬も飲んでないと言うから…取り敢えず飯を喰わせて、薬を飲ませないことには。
 キッチンへ向かった俺は、病魔には妥当だろうと言う理由から、おかゆを作ることに決めた。


 出来上がる寸前のおかゆに、味付けをしていたその時。
 小さな物音が聞こえたと思った、その直後。
「…エース?」
 びくっ。
「だーっっ!!あっちーっっ!!」
 急に声かけるから、鍋肌を思いっ切り掴んじまったじゃないかっ!直ぐに水を出して冷やしたものの、どうやら完璧に火傷をしたようだ。白く、水脹れになってやがる…しかも、左手の指先じゃないかっ!!エースが帰って来たら、俺が怒られるんだからなっ!
「…エースじゃねぇって、言っただろっ」
 振り向きざま、苛立ち任せに声を放つ。寝室のドアに寄りかかり、こちらを見ていた奴は…俺のその失態ぶりをくすくすと笑っていた。
「悪い、驚かせるつもりはなかったんだ。あぁ、見せてみろ」
 こう言う時、エースの習性と言うか…俺の意思とは反して、身体が勝手に動くらしい。いつの間にか、俺は奴の前に立っていた。奴は俺の左手を取り、目を細めて見つめた。
「エースだったら、こんな間抜けな怪我はしないけどな」
「…るさいっ。俺はエースじゃねぇんだからな」
「まぁ黙ってろ。直ぐに治してやるから」
 奴はくすくすと笑うと、その唇を俺の指先に寄せた。そして、水膨れの出来た指先を、ぱくっと銜えた。
「…っ!?」
 声もないじゃないか…いきなりそんなことされたら、誰だって……驚くよなぁ…?
「ほら、治ったぞ」
 治ったぞって、言われたって…確かに治ったけどさぁ。
「悪魔の良薬を信じろ」
「ったく…」
 良い答えが見つからず、俺は空いている右手で前髪を掻き上げた。
「もっと、ムードが欲しかったか?」
 奴は笑いながらそう言って、俺の手を離した。その途端にかぁっと熱くなった頬を奴の目から隠すように、俺は後ろを向いた。
「…何言ってんだよ、ば~かっ」
 思わず、そう口にしたが…何を赤面してるんだ、俺って奴は…
「…飯、出来たからな。今日はちゃんと喰えよ。それから薬もちゃんと飲め。夕方には、ルークが来るって言ってたから」
 口早にそう言った俺の声に、奴は笑って答えた。
「あぁ」
 何だ、今日は随分、機嫌がいいじゃないか。
 やっと平生に戻ったのを実感してから、俺は再び奴に向き直った。
「…熱は?」
「さぁ」
「体温計はどうしたっ」
「…夕べ、落として壊した」
「……」
 確かに。枕元の屑入れからは、確かに壊れた体温計の残骸が覗いていた。この際…仕方ないか。
「ほら、額出してみぃ」
「おう」
 前髪を掻き上げた奴の額に、手を触れてみる。でも手が冷た過ぎたのか、奴は一瞬その身体を引いた。
「逃げるなっ。わからないじゃないかっ」
「んなこと言ったって、冷たいモンは冷たいんだっ」
「うるさいっ」
 とは、言うものの。
「…んじゃ、どうすんだよ」
「ほら、良い方法があるじゃないか」
「良い方法?」
 眉を寄せた俺を、奴は手招きした。直ぐ傍まで行くと、不意に俺の首に手をかけ、そのまま引き寄せられる。
「……っ!」
 そっと俺の額に触れる、熱い感覚。直ぐ目の前にある奴の顔は、まだ少し赤い。閉じられた瞳にかかる睫が、なんて長いんだろうか…
 色っぽい。その一言しか、出て来ない。ついでに言えば…思わず、息を飲んでしまった…。
「…ちょっと待てっ!近いっ!!」
 咄嗟に奴を引き離し、そう叫んでみたものの…
「なぁにを赤面しとるんだ、御前は。熱測ってるだけだろう?」
 冷静に返されて、成す術もないじゃないかっ。
「…俺をからかってないで、さっさと飯を喰えっ」
 バクバクする心臓を宥めるように、勤めて冷静にそう返した俺は、そのままキッチンへと戻る。時間にして数秒。でも、背中を向けているその間に、心を落ち着かせる。
 相手は、病魔。そして…エースの、恋悪魔だ。冷静になれよ、俺。
 必至に冷静さを取り戻そうとしている俺の背中を、奴は笑って見ていた。
 もう…疲れた…。
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趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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