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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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堕罪 1
こちらは、本日UPの番外編です
 ※番外編のメインは天界側です。本編の遠い伏線と言う感じです(苦笑)
4話完結 act.1

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◇◆◇

 出逢いなんて…ホントに偶然だった。
 まさか…自分が、"あのヒト"に、一目惚れするなんて……。

◇◆◇

 最近の天界は落ち着かない。

 天界で最高位の身位を持っていたルシフェルが、突如魔界へ降りたとの報告は本当に唐突だった。
 誰が、そんなことを予想しただろう…。
 誰もが唖然とする中、そう報告したのは、次期熾天使との呼び名も高かったミカエルだった。
 誰よりもルシフェルの信頼も厚く、実力も伴っていたはずの彼は…とても、醒めた瞳をしていた。そして、淡々とその事実を報告する。それはある種、異様な光景にも見えた。
 不思議なことに…次期熾天使の身位は、空白のまま。一番近いと言われていたミカエルでさえ、その身位には見向きもしなかった。
 そうして…後任が決まらぬまま、ただ時間だけが、過ぎて行った。

◇◆◇

 その噂を聞いたのは、偶然だった。
「………なんだって……」
 こそこそと話す声が、偶然耳に入った。そして、その声につられるようにふと視線を向けると、囁くような声で会話をする姿が二つ、視界に入る。
 その顔は……とても職務中とは思えない程、にやけている。
 彼の視線に気付いたのか、その二名の視線が彼を捉えた。
 思いがけず、視線が合う。
「…あぁ、レイ。御前も、聞いたことある?」
 どう言う訳か、彼はその会話に巻き込まれる。彼もまた興味があると、判断されたのだろう。
「…何を?」
 問いかけた声に、会話の主導権を握っていた一名が、すっと耳元に口を寄せる。
「…旧礼拝堂の噂」
「…旧礼拝堂?」
 今は使われていない旧礼拝堂。そこに、何の噂があると言うのだろう。
「知らない?"色欲魔"が、いるらしいよ」
「………は?」
 思わず声を上げた彼に、相手はくすっと小さく笑った。
「ただ、いつもいる訳じゃないみたいだけど…雨の日に良く出没するらしいよ。誰にでも抱かれるって噂の"色欲魔"が。勿論、タダで」
「………」
 全く、意味がわからない。
 そんな表情を浮かべる彼に、相手は更ににんまりと笑った。
「御前も、恋人いないんだろう?相手して貰ったらどうだ?結構"ビジン"だって話だぜ。あぁでも、"男"らしいけどな」
「……"男"の"色欲魔"、って…俺も男だけど?完全に禁忌(タブー)だろう?何言ってんだよ…」
 呆れたように小さな溜め息を吐く彼に、もう一名いた相手がくすくすと笑う。
「黙ってりゃわかんないって。今時そんなこと言ってる奴、いないぜ?魔界だって雷神界だってオープンなのに、何で天界だけ規律が厳しいかね?」
「………」
 彼も、相手も、同年代であるが…根が真面目な彼には、その言葉に思わず耳を疑った。
 魔族も雷神族も、同性間でも子供を産む事が出来る。けれど、天界人は元々の生態系が違う。だからこそ、子を成さない行為は禁忌とされて来た。
 けれど最近の天界人は、その意味さえ考えず、簡単に禁忌を犯す。それを罪とも思わず、背負う罪の重さにも気付かない若い世代。だからこそ…熾天使に見放されてしまったのではないかと、ふと脳裏に過ぎったりもする。
「…"色欲魔"にも、"男"にも…興味、ないから…」
 そう、口にするのが精一杯で。
「真面目だな~。レイは」
 くすくすと笑いながら、その場を立ち去る二つの姿。
 自分も、彼らと同類に見られていたなど…考えただけで気分が悪い。
 大きな溜め息を吐き出した彼。
 ふと見上げた空は……今にも、雨が降り出しそうだった。

 軽く残業をしたレイが帰る頃には、雨は本降りになっていた。
 昼間の話など、執務中には忘れていたのだが…帰路の途中でふと脳裏に蘇る。
 彼の帰り道には…旧礼拝堂がある。そしてそこは、もう目前だった。
----…雨の日に、良く出没するらしいよ……
「…"色欲魔"、ね…馬鹿じゃねぇの…」
 小さな溜め息を吐き出し、旧礼拝堂の前を通り過ぎようとする。
 その時…何か、聞こえた気がした。
 ドキッとして、思わず足を止める。そして…思わず、息を殺した。
 微かに聞こえたのは…何かの、物音。
 こんな雨の日は人通りは殆どない。従って…音の出所は、一箇所しかない。
「…まさか、な…」
 声は、聞こえない。だが…誰かが旧礼拝堂にいる気配を感じた。
 興味が…あった訳じゃない。ただ…もし仮に、泥棒や犯罪に関わる者が居ついているのなら質が悪い。
 そんな、生真面目な思いから、レイはそっと礼拝堂へと足を向けた。
 傘をたたみ、息を殺し、正面を避けて横手の窓へと足を向ける。
 そして辿り着いた明り取りの窓からそっと中を覗きこんだレイは、思わず息を止めた。
 薄暗い旧礼拝堂の中。雨の為月明かりさえ差し込まないそこは、明かりと言えるものは一切なかった。けれど……闇に慣れた視界には…神の祭壇の前で、無心に身体を重ね合わせる二名の姿が映っていた。
----これじゃ…只の覗きじゃないか…
 顔を真っ赤に染め、自分の立場を察したレイは、直ぐに踵を返そうとした。けれど…足が、動かない。窓越しに見える情事から…目を、離すことが出来なかった。
 雨の音に混じり、微かに聞こえるのは小さな喘ぎ声。
 てっきり、恋人同士の情事だと思っていたのだけれど…ふと、自分を見つめる眼差しに気付き、思わず息を飲む。
 組み敷かれているその姿は…暗闇の中、真っ直ぐに自分を見つめていた。
 離れているはずなのに、その眼差しの色がはっきりと見えた。
 それは…とても醒めた…ヴァイオレットの眼差し。
 これは……恋人同士ではない。
 そう思った瞬間、彼は踵を返していた。
 雨に濡れるのも構わず、傘も差さずに走り出す。
 呼吸が苦しくて、息が出来ない。心臓が、早鐘のようにドクドク波打っている。
 止まることなく、家まで駆け戻る。そして、部屋の中に駆け込んでも尚、激しい鼓動は止まらない。
 見てはいけないものを、見てしまった。
 彼の胸の中は、その罪悪感で一杯だった。

 その夜は、一睡も出来なかった。

◇◆◇

 翌朝、レイは昨日あの噂を持ち込んで来た一名に呼び止められた。
「ちょっと、レイ!聞いてよ…っ」
 そう言って徐ろに腕を捕まれ、物陰へと連れ込まれる。
「な…っ……何…」
 突然のことに訳がわからず、声を上げかけたレイの口を、彼はその手で塞いだ。
「しっ…」
「………」
 暫しの沈黙。次に口を開いたのは、目の前の相手だった。
「…俺、昨日会った…」
「…は?誰に…」
 思わず問いかけた声に、にんまりと笑う姿。
 その笑いは…余りにも卑猥で。
「…"色欲魔"に…さ」
「………」
 脳裏に戻って来たのは、あの…鮮烈な眼差し。
 あの時……あのヴァイオレットの瞳の"色欲魔"を組み敷いていたのは…今目の前にいる同志なのだ。
 そう認識した瞬間、吐き気が込み上げる。
 その吐き気を懸命に抑え、うろたえる心を落ち着かせ、瞬時に冷静を装う。
「…で…?」
 吐き出せたのは、たった一言。
「……最高」
 にやりと笑う顔は…今まで見たことがない。
「雨、だったろ?だから駄目元で行ってみたんだ。そしたら、いたんだよ。旧礼拝堂に。暗くて顔は良く見えなかったけど、髪が長くて、柔らかくて、良い匂いがしたな。カラダは細かったが、相性は良い。出来ることなら、また相手して欲しいくらい」
 惚気ているのだろうか…ニヤニヤしながらそう告白する相手に、更に吐き気が込み上げる。
----馬鹿じゃないか、こいつ……
 聞きたくもないことを聞かされる。段々、そんなイライラも込み上げて来る。
「御前も、行って来いよ。最高だぜ?」
「……冗談…」
 やっとで言葉を吐き出すと、レイは大きく息を吐く。
「興味はない。そう言っただろう?俺には必要ない!」
 思わず上げた声が、自分でも驚くくらい大きかった。
「……そんなに怒んなよ…」
 ここに至って、告白する相手を間違えた。多分、相手はそう思ったに違いない。
「…悪かったよ…御前、真面目だもんな……あぁ、さっきの話、忘れて」
 慌ててそう言い残し、相手は急いで踵を返して走り去る。
 その後姿を見送りながら、レイは再び溜め息を一つ。
 まだ、吐き気がする。思い出したくないことを、思い出してしまう。
 どうして…あの眼差しは、自分を見ていたのだろう。
 意味が…わからない。
 混乱する頭で、職務に戻ろうと足を進める。が、視線を前に向けたところで思わず足を止める。
 前からやって来るのは、今や天界で一番の実力を持つと言われているミカエル。そして…その親友であり、相棒の主天使長。
 身位が上の二名に対し、レイは当然、立ち止まって頭を下げて挨拶をする。
 それは…いつもの、見慣れた風景だったはず。
 けれど…何かが違う。
 急に、奇妙な鼓動を感じて息を飲む。
 目の前を通るその姿は…いつもと変わらない。けれど……その眼差しが、一瞬こちらを向いた。
 ヴァイオレットの、醒めた眼差しが。
 息が出来ない。自分が、どんな顔をしているのかもわからない。ただ…懸命に冷静を装い、レイは黙って頭を下げていた。
 そして、そのヴァイオレットの眼差しも、何も言わずに目の前を通り過ぎる。
 奇妙な空気が…そこに渦巻いている気がしてならなかった…。
 足音が遠くなっても、レイは動くことが出来なかった。そして、睡眠不足と極度の緊張で早まる鼓動に、レイはその場に崩れ落ちる。
 遠くで…誰かが自分の名を呼んでいる気がする。けれど…意識を保つことは出来なかった。

 ふと気が付くと、そこは白い世界。ゆっくりと視線を巡らせると、そこが医務室であることがわかった。
「…気が付いたかい?」
 声をかけられて視線を向けると、小さく溜め息を吐き出す年老いた医師が立っていた。
「悪いところはない。ただの睡眠不足だ。夕べ、寝てなかったのか?廊下で行き倒れているだなんて、半人前だぞ。体調管理は自分の仕事だろう?」
「……済みません…」
 医師の言葉は尤もで。ゆっくりと体を起こし、レイは自分でも小さな溜め息を吐き出す。
「もう夕方だ。一日、棒に振ったな」
「………」
 医師の言う通り、一日を棒に振ってしまった。だが仕事は待ってはくれない。即ち、今日は本格的に残業、ということである。
 その現実に、レイは溜め息を吐き出すしかなかった。

 それから数日は、天気の良い日が続いていた。
 相変わらず残業の多い部署にいるレイは、定時を過ぎて帰ることが多いので、必然的に帰り道に人通りは少ない。
 幾度か気になって旧礼拝堂の前で足を止めたものの、誰かがいる気配は感じられず、その度にほっとして歩み始める、と言うことを繰り返していた。
 そのうちに、レイの心も落ち着いて来る。そして落ち着くと気になるのは…どうして、あの場所なのだろう、と言うこと。
 旧礼拝堂は、今は使用されていない。つまり、普段は施錠されており、入ることが出来ないはずである。なのに、"彼ら"はあの中にいた。
 危険を冒してまであの場所を選ぶ意味がわからない。
 何の意味があって、あの場所であんな行為に及んでいるのか。レイにはどうしても理解が出来なかった。
 けれど…どうして、これ程までに気になるのだろう。それもまた、理解出来ないところだった。
 彼らのやっていることに、興味はない。自分は全くのノーマルのはずで…男色に興味もなければ、背徳行為など以ての外。そう…思っていたはず。
 勿論、今でもそう思っている自分がいる。だからこそ、こうまで乱される心内を自分自身で消化出来ないのだ。
 大きな溜め息を一つ。そして、顔を上げると…そこには、旧礼拝堂の入り口の扉がある。
 今夜は、雨は降っていない。ただ…生憎の新月。月明かりはあてにならない程の闇夜だった。
 思わず、ドアノブへと手を伸ばす。軽く力を入れてみるが…当然、施錠されていて開くことはない。
「…馬鹿じゃないか…俺は……」
 ふと我に返り、ドアノブから手を離す。引っ込めた手が、微かに震えていた。
 何を求めている訳じゃない。彼は、全くのノーマルのはず。"そんなこと"に、興味があるはずがない。
 それなのに…何を血迷ったのだろう?何を……期待したのだろう…?
 再び、溜め息を一つ。
----馬鹿、だ…
 その場を立ち去ろうと、踵を返したその瞬間、誰かとぶつかった。
「……っ」
 ドキッとして、思わず息を飲む。
 非常に拙いところを見られた。一瞬、脳裏の過ぎったのは、そんな想い。
 けれど…そんなことよりも……目の前にいた相手の姿に、思考が…止まる。
 ヴァイオレッドの眼差し。その真っ直ぐな眼差しが…彼を、見つめていた。
「…ここに、何か御用ですか…?」
 そう、問いかけられた声。
「……えっ……あの………」
 咄嗟に言葉を返すことが出来ない。真っ赤に染まった顔を慌てて背け、言葉を探す。勿論、すんなり言葉が出て来るのなら、咄嗟の言い訳も簡単に出て来たはず。
 すっかり挙動不審のレイの姿に、相手は小さく言葉を零した。
「…開けましょうか?」
「………え?」
「御望みなら。今夜は…闇夜ですから」
「………」
 思わず、相手の顔をまじまじと見つめてしまう。そのヴァイオレッドの眼差しは、冷たい……醒めた、色。
 その眼差しに、頭に上っていた血が一気に下がる気がした。
 冷静さを取り戻したレイは、ドアノブに手をかけた相手の手を押さえ、それを制止する。
「…?」
 怪訝そうに顔を上げる相手の眼差しから目を背け、大きく息を吐き出す。
「…何で…こんなこと……」
 やっとで吐き出した言葉に、相手は小さく首を傾げる。
「望んで…来たのでしょう?貴方自身が」
「…違う……俺は……」
 その後の言葉が、続かない。けれど…"色欲魔"を目的に来る他の者とは何か違う雰囲気を感じたのだろう。相手は小さな吐息を吐き出すと、言葉を続けた。
「…とにかく、入りなさい。こんなところ…他人に見られたくはないでしょう…?」
「……ぁ…」
 ビクッとして手を引いたレイ。相手はそのまま解呪の呪を唱え、扉を開ける。そして自ら先に中へと入って行く。
「…ちょっ…」
 慌てて中へと追いかけたのは、どうしてだろう?
 背中から扉の閉まる音がして、彼は息を飲む。
 旧礼拝堂の中は、ほぼ真っ暗だった。当然、先に入った相手の姿も見失った。
 暫し、暗闇の中で呆然と立ち尽くす。そうして目が暗闇に慣れるまでの間、ただじっと、相手の気配を探っていた。
 じっとしているのか、動いている気配は感じない。かと言って、傍にいる気配もない。つまり、さっさと何処かへ歩いて行ってしまった、と言うことだろう。
 そこは、相手の守備範囲(テリトリー)であると…改めて、再確認せざるを得なかった。
 どのくらいの間、そこに立っていただろう。段々目が慣れて来ると、旧礼拝堂の中が何となく見えて来た。そして、探し人は…真っ直ぐに祭壇を見上げて立っていた。
「……見えるようになりましたか?」
 不意に、そう声が届く。けれど、その姿は相変わらず祭壇を向いており、レイには背中を向けていた。
「……何で……」
 つぶやきかけた言葉を、レイは敢えて飲み込んだ。
 それは、先程も問いかけた言葉だった。
 何を…問いかけようとしていたのだろう?
 どんな答えを、望んでいるのだろう?
 それが自分の独り善がりであると察したからこそ、レイは言葉を飲み込んだのだ。
 大きく息を吐き出し、自分自身に言い聞かせるかのように、首を横に振る。
 多分、相手の思考は自分には到底理解出来ないところにある。そう、納得させるかのように。
「一体、何をしに来たんです?」
 ふと顔を上げれば、相手の姿がこちらを向いていた。
 多少目が慣れてきたとは言え、相手の表情までは見えない。
「…貴方を……止めに…」
 思わず、口を突いて出た言葉。
「…わたしを……?」
 そう返って来た声は、当然怪訝そうだった。
「…こんなところで…男娼紛いなことして……貴方は一体、何がしたいんですか…?既に閉鎖されたとは言え、ここは神聖な場所のはずです。それなのに…規律に背くようなマネをして…貴方に、信仰心はないのですか…?」
 そう、口にしたのは…相手が、真っ直ぐにレイを見つめていたから。
 あの時と同じ…あの、ヴァイオレッドの瞳で。
「…全てに…理由が、必要ですか…?」
 問いかけられた声。その声に、思わず息を飲む。
「信仰心云々の話であれば…残念ながら、今のわたしには貴方程の信仰心はありません。ここで"何が行われて"いたのか…それを知っていれば…信仰心など、芽生えるはずはありません。それに……わたしがここで何をしようと、貴方には関係ないはずですよ?わたしを止めに来た、と言っていましたけれど…深入りしない方が、貴方の為ですよ。特に、貴方のように"生真面目"な方なら尚更…」
「………」
 相手の言葉に、レイは二の句が告げなかった。それどころか、背筋に冷たい汗が伝っていた。
 ここで…この旧礼拝堂で…何が行われていたと言うのだろう…?
 とても意味深で…危険なニオイがする言葉…。
 それが危険信号を灯していると言うのなら、その信号には従うべき。無論、今までのレイであれば、素直にその信号に従っていたはず。
 けれど、今は…素直にそれに従えない。その理由は極めて簡単。
 この、目の前の相手を……このまま放って置けなかったから。
「……もう、帰りなさい。ここは…貴方のような方が来る場所ではありません」
----さようなら。
 優しく、諭すように…相手はそう口にする。
 それはまるで…洗脳でもするかのように……レイの意識を溶かす。
 気が付くと…レイは、旧礼拝堂の外にいた。
 今起こったことを…上手く思い出せない。
 自分が、誰と話していたのか…顔を見ているはずなのに、その顔さえ靄がかかったように思い出せない。
 重たい頭を振り、レイは素直に帰路に着いた。
 それが…相手が施した記憶を封じる言霊だとは気付かずに。

◇◆◇

 翌朝。いつも通りに出勤したレイは、いつも通りに仕事を熟す。そして、何事もなく職務を終えて帰ろうとしたところで、不意に呼び止められた。
 振り返るとそこには、今まで一緒に仕事をしていた仲間の姿。
「今日は残業なしで良かったな」
 笑いながら声をかけられ、レイも僅かに口元を緩める。
 実に、穏やかな時間。こんな気分は久し振りだった。
 そう思った途端…ふと、我に返る。
 どうして、久し振りだと思ったのか…?
 そんな小さなことが引っかかり…歩き始めた足を止める。
「…レイ?」
 動きの止まったレイの姿に、仲間は怪訝そうに声をかける。
「…どうした?そんな顔して……?」
「……顔?」
「あぁ…酷く、怖い顔してるけど…」
「……あぁ…御免……」
 頭を振り、大きく息を吐き出す。
 喉の奥に何かが詰まっているみたいに…嫌な"何か"が痞えている気がする。
「…大丈夫か…?」
 問いかけられ、レイは一瞬考えた後、言葉を返した。
「…悪い、急用思い出したから…先に帰ってて」
「…あぁ、それは良いけど…」
 相手の言葉を最後まで聞かず、レイは踵を返していた。
 行く先は…決まってはいなかったが。

 何処へ向かっている、と言う意識はなかったものの、気が付くとレイは礼拝堂へとやって来ていた。
 既に職務時間は終わっている為、礼拝堂も人気はない。勿論、旧礼拝堂とは違っていつでも礼拝出来るよう、扉は開かれていたが。
 レイは、礼拝堂の中へと足を踏み入れようとした。けれど、どう言う訳か…足が言うことを聞かない。まるで、石にでもなったかのように…全く動かなかった。
 その理由に…レイは心当たりがあった。
 自分は……罪を犯しているのだと言う意識。
 踏み込んではいけない泥沼に、足を踏み入れてしまったのだと。
 だから…レイの中の"良心"が、礼拝堂に足を踏み入れることを拒否したのだ。
 小さな溜め息を吐き出したレイ。そして、踵を返す。
 胸の奥が痛いのは…罪を犯した"良心"の痛みか…それとも……
「…俺は…馬鹿、か…」
 今更、と言うべきか…今頃、と言うべきか…
 その想いの行く末を悲観するべきなのかすら、レイにはわからなかった。
 ただ、もう戻れないと言う事実だけは、確かにその胸の中にあった。
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プロフィール
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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