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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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楽園追放 4
こちらは、以前のHPで1999年9月13日にUPした番外編です
 ※番外編のメインは天界側です。本編の遠い伏線と言う感じです(苦笑)
5話完結 act.4

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◇◆◇

 その夜、わたしは魔封じの塔を訪れた。
 当然、釈放が決まっているのだから、見張りの必要はないと思ったのだろう。常にいるはずの場所にも、誰の気配もない。たった一つ感じる気配は、エルのモノであった。
 その気配を追って、わたしは一つの牢の前で立ち止まる。
「…エル」
 小さく呼びかけると、僅かに動いた影。
「…ラファエル?」
「えぇ」
 薄闇に目が慣れ、わたしを見つめるエルの表情もはっきりして来た。この前までの傷も、きちんと手当されている。
「貴方の釈放が、確実になったそうです」
 多分、聞いてはいるだろうが、わたしは敢えてそこから話を切り出した。
「あぁ、夕方聞いた。明日には魔界への帰還を許可するってな。拷問も、あんたが来た翌日にはなくなった」
「…これで、晴れて自由の身、です」
「…その割りには、浮かない表情だな」
 鋭い指摘に、わたしは一つ、溜め息を吐いた。
「…わたしは…ルシフェル様を裏切ったんです…手放しで喜ぶのは、流石に…」
「後悔…してるのか?」
「いいえ…ただ、もう天界にはいられません。わたしがルシフェル様を裏切ったと言うことは…天界にも、背を向けたと言うことですから…」
「ラファエル…」
 心配そうな色を浮かべる眼差しを感じつつ、わたしは管理局から(無断で)拝借して来た鍵を取り出し、牢の入り口を封じていた錠を外した。そして、初めて牢の中へと、足を踏み入れた。
 一歩一歩エルに近付く度、自分の鼓動が高鳴るのを感じていた。だが彼を目の前にすると、その鼓動もすっと納まっている。
 わたしは彼の前に跪き、手を伸ばすと、その頬にそっと指先を触れた。
「…わたしも…連れて行って下さい」
「ラファエル」
「わたしも、魔界に…」
 そっと顔を寄せ、軽く唇を合わせる。ルシフェルにすら、一度も許したことのない口付けに、当然それを心得ていたエルも驚いたように息を飲んでいた。
「わたしを…」
----置いて行かないで。
 たった一つの想い。もう、それを切り捨てては生きて行けない。
 わたしが、最後の救いを求めて伸ばした手を、エルはそっと包み込んだ。
「…本当に…良いんだな…?」
 その言葉に、わたしはにっこりと微笑んだ。
 その直後、きつく抱き締められ、深く唇を合わせる。
「…ん…」
「ラファエル」
 零れた吐息を拾うように、エルの唇はわたしの肌に花弁を刻んでいく。そうしながら、わたしは初めての時と同じように、彼に抱かれた。
 初めての時と違ったのは、わたし自身が、心の底から彼を必要としていると言う事実。そして、ルシフェルによって慣らされたわたしの身体が、今はルシフェルではなく、エルを求めていると言うこと。
 石畳の上で軋む身体を労るかのように、エルは優しくわたしを抱き締める。その温もりに、エルが与える熱に、わたしの思考力は、既にストップしていた。
 ただ一つわたしの脳裏に残っていたのは…わたしは、完全にエルに堕ちたのだと言う想いだった。

 先程までの熱気の余韻を残しながら、わたしはエルに凭れ、その後を引く感覚に浸っていた。
「あの日…何を言おうとしたんだ?」
 一息吐いたエルは、不意にわたしに問いかけた。
「あの日って…」
「ほら、あんたがルシフェルに掛け合うって言って帰った日。何か言いかけて止めただろう?」
「あぁ…」
 その記憶の糸を辿りながら、わたしは思い当たる言葉を思い出し、小さな笑みを零した。
「貴方に、逢えて良かった、ですよ」
 その優しい言葉の響きに、エルも小さく笑って、そっと顔を寄せる。
 吐息の一筋さえも逃さない程、深く重ねられた唇に、わたしはその僅かな倖せを実感していた。

◇◆◇

 甘い熱気の余韻が薄れて来た地下牢に、もうラファエルの姿はなかった。翌日のエルの釈放に合わせ、天界を出て行く準備の為に自宅へと帰ったのは、つい十分程前のことだった。
 エルは、ラファエルを止めはしなかった。連れて行ってくれと言われたのだから、その通りにするつもりであった。
 既にエル一名になっているはずの地下牢に、もう一つの気配が近付いて来るのを感じ、エルはその視線を向けた。
「…誰、だ」
 足音一つ立てず、無気味な程静かに近付いて来る気配に向け、エルは問いかける。すると、その声に促されるかのように、ぼんやりとした影が現れた。
「…何だ、やっと御出ましか。覗き見が趣味の熾天使様」
 その正体がわかった途端、エルの表情がすっと変わった。
 口元に浮かんでいるのは、あからさまな嘲笑。
「ずっと、見てたんだろう?この間ラファエルがここに来たところから」
「…まぁな」
 第三者の存在に気が付いていたのは、多分エルだけだろう。
「わたしからラファエルを奪って、満足か?」
 問いかけられる声は、とても低い。その徒ならぬ雰囲気を感じつつも、エルは口元の嘲笑を押さえはしない。
「満足だ、とでも答えれば、あんたは満足か?」
「質問しているのはわたしだ。答えろ」
「それなら尚更、答えたくない」
「…御前…」
「ラファエルは、モノじゃない。あんたがラファエルを抱いた最初の時から。ラファエルの気持ちは、あんたにはなかった」
 そう言い切った黒曜石の瞳が見つめたのは、深い色を称えた紺碧。
「ならば、御前のモノだったとでも?」
「言ったはずだ。ラファエルは、モノじゃないと。仮にラファエルを抱いたのは俺が先だったとしても、ラファエルは頑なに、俺を拒んでいたはずだ。どうしてだかわかるか?」
「……」
「あんたを、傷付けたくなかったから、だ。あんたが大切だったから。そんなこともわからないのか?」
 いつの間にか、エルの口元から嘲笑は消えていた。その表情はとても真剣で、この場に冗談など有り得ないと言った雰囲気だった。
「だが、最終的にラファエルが選んだのは、御前だ」
 低い声が、言葉を零した。
「確かに。ラファエルは、あんたの存在に恐怖を覚え、俺に救いを求めて来た。俺は、ラファエルを拒むつもりはない。だが…多分それは、ラファエルの為にはならない。本当にラファエルを救えるのは…俺じゃない。かと言って、あんたでもない。あんたは…ラファエルの前で、素を見せ過ぎた。だから、本来覚えるはずのない恐怖を感じたんだ。あんたが…ラファエルに、執着し過ぎたから」
 それを愛情として取れるうちは良い。けれど、それを愛情として受け取れなかった時は、恐怖に変わる。
「ラファエルは…罪を背負ったと言っても、その心は純粋な天界人だ。だからこそ、あんたが怖かったんだ。あんたの、本性が」
「ラファエルには、何も話してない」
「それはそうだろう。ラファエルは何も知らない。ホントはあんたが何者なのかと言うことも、俺が誰なのかと言うことも。知ってるのは…御互いに一名ずつと言うことは、昔から変わりない」
 エルは一旦口を噤み、目の前の影をじっと見つめる。そして、呆れたように再び口を開いた。
「しっかり姿を見せたらどうだ?熾天使ルシフェル。否…きちんとした名称で呼ばないと失礼だな。本名で呼んでやろうか」
 相手の様子を伺いながら、エルは言葉を続ける。
「ちゃんと姿を現せよ。堕天使ルシフェル=クライド」
「…ヒトのことを言えないだろう。ルシフェル=クライドは、御前の名前でもあるんだ。エル=クライドなんて名乗って、ラファエルを惑わしやがって」
 エルの声に反論しつつ、姿を現わしたのは、紛れもなく熾天使と呼ばれていたルシフェル。ラファエルがきちんと閉めたはずの錠をいとも簡単に外し、その牢の中に足を踏み入れる。
「惑わした訳じゃない。それは俺に残された名前だ。俺は、名前で誘惑する訳じゃないからな」
 ルシフェルの姿を確認するや否や、エルの口元に再び嘲笑が浮かんだ。それは、心の底からルシフェルを嘲笑うかのように。
「熾天使として崇められてるあんたが、実は堕天使だなんて、誰も考えやしないだろうな。全く、良い隠蓑だな。そして、熾天使としての能力を求める余りに切り放した自分の半身でさえ、邪魔になれば消すつもりだろう?」
「御前が現れなければ、そんなこと考えもしなかったけどな」
「バレなかった、の間違いだろう。あんたは、俺の口から自分が堕天使であることがバレるのを恐れた。ラファエルに知られるのを恐れた。だから…俺を、殺すんだろう…?」
 その手に握られている剣を見つめながら、エルはルシフェルに問いかける。
「俺を殺せば、俺は再びあんたの一部になる。あんたは、真っ黒の堕天使に逆戻りだ。そうまでして、ラファエルを手に入れたいのか?自分の身を、滅ぼす覚悟で」
 絡み合った二つの眼差しは、同じ光を秘めていた。色こそ違うものの、同じ光を持った瞳は、同じ存在であったことを明らかにしていた。
「御前にラファエルを盗られるくらいなら…堕天使に戻ったって構わない。自分の半身に、奪われるくらいなら」
 その剣先をエルに向け、ルシフェルはそう、言葉を零していた。
 誰よりも憎いと思ったのは…それが、自分の半身であったから。元は自分と一つだった存在に、大切なヒトを奪われたから。
「嫉妬、か。そうしてあんたは、また同じことを繰り返すんだ。一つの嫉妬が、罪を生み、死を招く。あんたはそれを繰り返して、どれだけの天使を犠牲にするつもりだ?」
「これ以上他を犠牲にするつもりはない。殺すのは、自分自身だけで十分だからな」
「俺だけで、だろう?」
「……」
「上等。俺は拒みはしない。殺りたければ殺れば良い。ただ…」
 そっとその眼差しを伏せたエルは、ゆっくりとその言葉の続きを口にした。
「そうして…いつまで繰り返すんだ?いつまで、自分自身を…あんたを慕う大勢の天界人を…ラファエルを、欺き続けるんだ?」
 開かれた黒曜石は、真っ直に紺碧を見つめていた。その色の深いところにあるのは、一つの絶望感。
「きちんと、自分を見ろ。あんたが、何をするべきなのか。それが出来るなら、俺はあんたに殺されたって良い。俺を含めて、あんたが自分を見つめられるなら」
 ゆっくりと、エルの表情に微笑みが浮かぶ。そして、ルシフェルに問いかけた。
「…さぁ、どうする?決断するのは、あんただ」
「…馬鹿だな、御前は」
 エルの黒曜石から逃れるかのように、ルシフェルはその紺碧の瞳を閉じた。
「自ら死を望んでまで、何を護ろうと…?」
 ルシフェルが問いかけた声に、エルは小さく一笑した。
「あんたが俺にそれを問うのか?馬鹿馬鹿しい。あんたは、俺と同じことをしようとしていたってのに」
「……」
「あんたは、他人を犠牲にするつもりはないと言ったじゃないか。それと同じだ。俺は、あんたでもあったんだ。だから、俺が死を望んだと言うより…他人を犠牲にする必要はないと思っただけの話。特別疑問に思うことじゃない」
 言われてみれば、その通りである。
 紺碧を開いたルシフェルは、再びその剣先をエルへと向けた。
「思い残すことは…?」
「…強いて言えば、ラファエルのことだ。あんたに、ラファエルが護れるのか?」
 問い返された声に、ルシフェルは小さな溜め息を吐き出す。
「多分…無理、だ。期待されても困るな」
「だろうな。あんたに良心がまだ残っているのなら…」
 ルシフェルの心の小さな傷を察しているかのように、エルはその言葉を笑いで押し流す。
「だが…天界には…ラファエルの傍には、ミカエルがいる。今はまだ未熟だが…きっと、ラファエルを護ってくれる。彼が穢れてしまったら…天界はおしまいだ」
 それは、小さな希望。その為に…また一度、ルシフェルはラファエルを傷つけなければならない。
 全ては……この天界の為に。
 そして、愛しいラファエルの為に。
 ルシフェルの表情で、その決断を読み取ったのだろう。
「…あんまり…傷付けてくれるな。俺の大事な、ラファエルを」
「…馬鹿だな…御前も…わたしも」
 その言葉に、エルは覚悟を決めたかのように、大きく息を吐き出した。
「さ、良いぜ」
 その言葉を受け、ルシフェルも覚悟を決めたようだ。大きく振り上げた剣は、確実にエルを捕えていた。

 同じ日、最近のルシフェルの行動がどうも気になっていたミカエルは、こっそりとルシフェルの後を追っていた。
 真夜中の魔封じの塔に踏み込んだのを見届け、入り口で出て来るのを待っていると、まずそこから出て来たのはラファエルだった。
 多分、ミカエルの存在にも気付いていなかったのだろう。ラファエルは、倖せそうな表情を浮かべながらも、その何処かが寂しそうに見えた。
 そんなラファエルの姿を黙って見送り、ルシフェルを待ち続けたが、待ち人はなかなか出て来ない。そうして待っている間に、やっと地下牢から上がって来る足音が聞こえた。
「……」
 息を潜め、その姿を待っていたミカエルの視界に、最初に入って来た姿に、ミカエルは当然目を見開いて息を飲んだ。
「…っ!ルシフェル様…っ」
 着ていた白い装束は返り血で真赤に染まっていた。その手が力なく握っていた剣からも、真紅の雫が滴っている。
「ルシフェル…っ!その姿は一体…」
 思わず問いかけた声にも、ルシフェルは特別に言葉を返さない。ただ一言、その口を吐いて出た言葉は、とても苦しそうに聞こえた。
「…ラファエルを…呼んでやってくれ。まだ、息はある」
「…ルシフェル様…」
 遠くなるルシフェルの足音に、暫し茫然としていたが、やがてその言葉の意味を察したミカエルは、ラファエルの家にと駆け出していた。

◇◆◇

 荷物の整理をしていたわたしの元にミカエルがやって来たのは、そろそろ夜も明けようかと言う時間帯だった。
「ラファエル!ラファエル!」
 こんな時間に訪れて来たことなどないミカエルを不審に思いつつ、わたしはその徒ならぬ声に扉を開けた。
「…どうしたんです?こんな時間に…」
 そう零しながら扉を開けたわたしの視界に入ったミカエルの表情は、酷く青ざめている。
「…ミカエル?」
「…彼奴が……」
 乱れた呼吸に、言葉も儘ならない。だが、その言葉が指すであろう存在に何かがあったことぐらいは、わたしにも察しは着いた。そして、その存在が誰であるのかと言うことも。
「…エルに、何か…?」
 酷く、胸騒ぎがする。こんな時間にミカエルが訪れて来たことと言い、それがエルに関係しているのだろうと言うことと言い…
「ミカエル!」
 直ぐに返事が返って来ず、苛立ちの声を上げたわたしを前に、ミカエルはやっとその呼吸を整えた。
「彼奴が…死んでしまう…」
「…え?」
「早く!」
 良く訳もわからないまま、わたしはミカエルに手を取られ、駆け出していた。
 ミカエルの口から、死ぬだなんて言葉を聞くことが、まるで夢のような気がして。

 ミカエルに連れられ、魔封じの塔を訪れる頃には、わたしの胸騒ぎはピークに達しようとしていた。
 信じられない。信じたくない。だが、今のミカエルの様子を見れば、それが冗談であるはずもない。
 不安に揺れる思いで、わたしは地下へと駆け降りる。そして、わたしがエルに抱かれた同じ牢の中で、血に染まって倒れているエルを見つけた。
「…エル…?」
 まだ、辛うじて息はある。だが、どうしてそれがエルだなんて思えるだろう。先程まで共に過ごしていたのに。この場所で、同じ時間を過ごしていたはずなのに。なのに、何故彼が死の危機にいると想像出来るだろう。
 壊されたのか、入り口にかけてあった錠は、戻すことが出来ないくらいに歪んで、既にその役割を果たしてはいない。
 ゆっくりと扉を開け、倒れているエルに近付く。
 生温い血の匂いが立ち籠めている。それが、酷く甘く感じたのは、どうしてだろう。
 エルの傍に跪き、そっと指先を伸ばす。僅かに震えているその指先が彼に触れた時、エルは僅かにその身体を動かした。
「…エル…」
 わたしの口から零れた声も、震えている。だが、それに答えるかのように、閉じていたエルの黒曜石が、うっすらと開いた。
「…あぁ、ラファエル…」
 掠れた声。口元に耳を傾けなければ、その声も届かない。
「何で…こんなことに…」
「…悪いな…あんたを、連れては行けない…」
「エル…」
「あんたは…ここにいてくれ。俺が好きだった…天使のままで」
 ふっと、その表情が緩んだ。柔らかく微笑むその姿に、わたしは返す言葉も見つからなかった。ただ、その姿を忘れないようにと、じっと見つめているのが精一杯で。
「エル……貴方を、愛しています…ずっと…」
「……有り難う」
 一瞬、花が綻ぶ。そしてそのまま、瞳は閉ざされた。その黒曜石は、もう二度とわたしを見つめてはくれないのだ。
 二度と…開くことさえないのだ。
「エル……」
 どうして、こうなったのか、わたしにはわからない。全ては、わたしとエルが出逢った時に、決まっていたことなのかも知れないが。
「…ラファ…」
 今まで、牢の外で状況を見守っていたミカエルが、いつの間にかわたしの隣にいた。そっと肩に置かれた手の温もりが、酷く遠く感じられた。

◇◆◇

 半ば放心状態のラファエルを家まで送り届け、ミカエルはうっすらと夜の明け始めた空の下を、礼拝堂へと歩いていた。
 白い光が差し込み始めた祭壇の前、ルシフェルは立っていた。
 朱に染まっていた装束は既に着替えられ、純白の装束に身を包んだルシフェルは、実に眩しく感じられた。ただ、ミカエルの目には、それが既に偽りの目映さであることはわかり切っていた。
 足音で気がついたのか、ルシフェルは振り返りもせずに声をかける。
「…ラファエルは?」
「送り届けて来ました。今頃は、ベッドで眠っている頃です」
「…何か、言っていたか?」
「いえ、何も。ですが…」
 そこで一端言葉を切り、大きく息を吐き出す。そして、改めて言葉を続けた。
「ラファエルは…良くわかってなかったのかも知れません。取り乱すこともなく、涙の一つも見せないで。ただ、じっと見つめていました。でもかえってその方が、見ていて辛いです」
「…そう、か」
「そうか、って…それだけですか!?」
 僅かに憤慨の色を乗せた声を零したミカエルは、じっとルシフェルの背中を見つめていた。
 ルシフェルの考えていることが、まるでわからない。今までも理解出来ないことはあったが、今回のことに関しては、目的がまるでわからないのだ。
「…やり過ぎ、です。貴方のやり方は…納得出来ません」
 その声に、ルシフェルはやっとミカエルを振り返った。
 その表情は、いつもと変わらない。ただ、深い紺碧の瞳だけは、何処か憂いがある。
「ラファエルを傷つけることが、貴方の愛情ですか?苦しめて、どん底へ突き落とすのが、貴方の想いですか?ラファエルは、貴方の傀儡じゃない!」
 真っ直に紺碧を見つめ、ミカエルはその意を告げた。
「ラファエルの親友として言わせて貰います。わたしは、貴方のやり方は許せない。あの悪魔の生命を奪ったところで、ラファエルは…貴方のところへは、帰って来ない」
 すると、ルシフェルの表情がふっと緩んだ。僅かに口元に称えた笑みは、その場には酷く不釣合いで。
「…わかってる」
 酷く、低い声。それは…最早、別人としか思えないくらい。
「どっちにしろ、わたしは長居をするつもりはない」
 ぽつりと零した言葉に、ミカエルは僅かに眉を顰る。
「…どう言う…」
「枢密院に、新しい神殿の計画があるだろう。この神殿と礼拝堂を閉め、そこに新しい礼拝堂を開くんだ。計画は、直に実行される。新しい礼拝堂が出来たら…ここを、出て行くつもりだ」
 思いがけない告白に、ミカエルは大きく息を吐き出した。
「…逃げるんですか?貴方の罪から…ラファエルから」
 その声に、くすっと乾いた笑いが零れる。
「そうかも知れない。わたしは、自分が犯した罪の大きさを良く知っている。だからこそ…なのかも知れないがな」
 あっさりとそう認めたルシフェルの、心底の想いまではわからない。だが、ミカエルが感じたのは、今目の前にいるルシフェルは…今までとは何処か違うと言うこと。
 何が違うのかと問われれば、答えを返すことが出来ないが、何かが微妙に違うのだ。それが、エルと一つになったルシフェルの本来だと言うことは、当然知る由もない。
 小さな溜め息を吐き出したミカエルは、目を伏せ、踵を返した。その背中を追うように、ルシフェルの声が届く。
「ラファエルには、いつ話すつもりだ?」
 それは、自分の罪が暴かれるのを恐れての声ではなかった。ただ、それを問いかけてみたかっただけのことで。
 僅かに歩みを止めたミカエルは、背中を向けたまま、その言葉を発した。
「今のところ…話すつもりはありません。でも、貴方の為じゃない。これ以上、ラファエルを傷つけたくないから」
 それだけ言い残し、ミカエルは礼拝堂を後にした。そこに残されたルシフェルは、自嘲にも似た、小さな笑みを零していた。
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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