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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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狂妄
こちらは、本日UPの番外編です
 ※番外編のメインは天界側です。本編の遠い伏線と言う感じです(苦笑)

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◇◆◇

 その日は、雨が降っていた。

 仕事を終えたのは、夜半を過ぎてからだった。
 生憎、傘を持ってはいなかった。
 細かい雨は、身体を冷やす程のものではない。そう思い、しっとりと身体を濡らす雨の中を歩き始めた。
 仕事に追われている時は何とか理性を保てているものの、仕事が一段落つくと、いつもふと我に返る瞬間がある。
 自分は、何をしているのかと。
 得体の知れない罪悪感と喪失感。常にそれに悩まされる。
 それが、彼に課せられた械であると気が付いたのは、つい最近になってから。
 どうしたら…その苦しい想いを、忘れられるだろう…?
 そんな事を考えながら歩いていると、無意識に足が向いていたのは…旧礼拝堂の前、だった。
 神殿は取り壊されているのに、何故か不自然に取り残された礼拝堂。
 今は使われていないとは言え、曲なりにも神がいた場所である。簡単に取り壊すことが出来ず、単体で残すと言う荒業に出た結果が、その不自然なカタチでの"保存"だった。
 勿論、使われていないのだから、立ち入ることは出来ない。鍵のかけられた扉の前…彼はただ、立ち尽くすのみ、だった。
 今までは。
 だが、その日は何が違った。
 今まで、鍵がかけられていると諦めていたその扉のノブに手を触れると、それが封印による施錠であることに気が付いた。それも…彼の良く知る、封印。
 口を突いて出たのは…解呪の言葉。すると簡単に扉は開いた。
「…まさか…ね…」
 余りに呆気なくて、思わず笑いさえ零れる。
 その刹那。
「…あの…かなり濡れていますけど、大丈夫ですか…?」
「……っ」
 背後から急に声をかけられ、思わず息を飲む。
 相手も、残業の帰りだったのだろう。そうでなければ、夜半過ぎに旧礼拝堂に立ち寄る者などいないのだから。
 近くには明かりもなく、雨が降っている為、直ぐ傍にいなければ顔の判別はつかない。だからこそ、声をかけて来た相手も、躊躇いがちだったのだろう。
 常ならば…旧礼拝堂に入ろうとする者はいない。しかも、雨の夜半過ぎに。
「…雨宿りを…しませんか?」
 彼は、相手の顔を見ずにそう言葉を零していた。
 何故、そんな事をしたのか、自分でもわからない。けれど…何かに呼ばれるかのように、彼はその扉を開けて中へと入った。
 相手が不審に思えば、そんな誘惑には乗らないはず。
 そう思いながら、彼は暗い礼拝堂の中を進んだ。
 かつて…通い続けた礼拝堂である。祭壇の場所は、身体で覚えている。
 彼は、椅子にぶつかることもなく、祭壇の前に立つと、視線を上げた。
 幾度…この祭壇に祈ったことだろう。
 けれど、彼の願いは、一向に聞き入れては貰えなかった。
 そこから与えられたのは…大きな絶望と、抗うことの出来ない背徳感。
「貴方は…酷いヒトだ…」
 思わず、小さな声が零れた。
 すると、彼を追いかけるように、足音が聞こえた。
 祭壇の前に立つ彼の背後で足を止めた相手は、そっと手を伸ばすと、彼の身体を抱き締める。
「…悪いヒト、だ…」
 相手の声が、耳許で聞こえた。
 聞いたことのない声。彼が知らない相手であることに間違いはない。
 漂っているのは…抗うことの出来ない、淫靡な空気。
 それが…この祭壇にいる"悪魔"の、本質であるかのように。
「こんなところに誘い込んで…貴方は何をしようと…?」
 そう問いかける声。けれど、相手の身体は彼が答えるよりも先に動いていた。
 濡れた身体を弄られ、首筋に口付けられる。
 一瞬、背を這う嫌悪感に苛まれた。けれど、それ以上に…隙間の空いた彼の心を満たす"何か"が、そこにあった。
 祭壇の前で押し倒され、彼は…誰ともわからない相手に抱かれた。
 聞こえるのは、相手の荒い息遣いと、相手の体温。そして…満たされ始めた心。
 けれど、快感などそこにはなかった。寧ろ、感情そのものは冷めきっていた。
 自分は、何をしているのだろう…?
 ふと、そんな思いが頭を過った。
 誰ともわからない相手を誘い込んで…これではまるで…娼婦ではないか。
 そんな事で心が満たされるだなんて…堕落も良いところだ。
 そんな事をぼんやりと考えながら相手の熱を受け止め、彼は身体を起こした。
「…また会える…?」
 余韻を楽しむように、耳許で囁かれた言葉に、彼は現実に引き戻された。
 大きく息を吐き出すと、相手の耳許で囁く。
「…二度目はありません…"さようなら"」
 それは、記憶の封印の呪を織り込んだ言霊。この礼拝堂を出ると同時に、その呪は相手に作用するはず。
 そうして彼は、名前も顔も知らぬ相手を追い返した。
 礼拝堂に残されたのは、彼一人。
 今閉ざしたばかりの扉に寄りかかったまま座り込み、再び大きな溜め息を吐き出した。
 この礼拝堂で…自分は一体、何をした…?
 急激に覚めた意識は、再び彼を追い詰める。
 闇に慣れた目は、真っ直ぐに祭壇を見つめていた。
「貴方は…酷いヒトだ…」
 再び、口を突いて出た言葉。そして彼は、両手で自分の顔を覆った。
 ここには…悪魔がいる。
 嫉妬に狂い…罪を呼び、死を招いた悪魔が。
 そしてもう一つ…"色欲"と言う名の、抑え切れない悪魔が。
 思えば…自分も昔、幾度ここで恋人に抱かれたことだろう。そう考えると、答えはその時に既に出ていたのだ。
 自分の心の奥底に植え付けられた、"色欲"と言う名の悪魔の種。それが、今芽吹き始めたのだ。
 彼の心を満たしたモノは、疾うの昔に消えていた。
 満たしても満たしても、直ぐに消えてしまう。それが…"欲望"なのだと、彼はここに至ってやっと気が付いた。
 それが…彼の恋人が、ここに残した最後の"絶望"。
 自分は…心の弱さに負けて、無意識の内にそこに踏み込んでしまった。
 胸が、痛い。
 そう感じるだけ…まだ、正常な感覚は残っていたのだろう。
 何もかも…消してしまうことが出来たら。
 忘れてしまうことが、出来たら。
 そう思った瞬間…その唇から零れたのは、小さな笑い。
 何を馬鹿なことを。忘れられないから…消すことが出来ないから、こうしてここにいるのではないか。
 こうして…罪の意識に、苛まれているのではないか。
「わたしを…試したんですね?わたしが、その"欲望"に勝てるか否か…」
 祭壇を見つめたまま、彼はそう口にした。
 自分は…"欲望"に、負けてしまった。その現実は、当然彼の心に、大きな傷を付けた。
「幾つ罪を重ねても…わたしは、天使でいなければならないなんて…」
 一生、背負い続けていかなければならない械。また一つ、罪を重ね…自らその械を重くした。それでも、天界から離れることも許されない。
 ならば…一層のこと、その罪に…溺れてしまおうか。
 小さな笑いを零した彼は、目を伏せた。
「救われようだなんて、考えるだけ無駄なんですね。全部…自分が撒いた種ですものね…」
 悩むことも、苦しむことも…一時のことではない。この先ずっと…彼に付き纏うこと。
 もう、身を任せるしかない。
 今更…感情も希望も…、持たない方が良い。
 救われることなど、有り得ないのだから。
 すっと、彼の瞳に浮かんだのは…醒めた色。
 それは、諦めだった。
 その日を境に…彼は、心を封印した。心も身体も冷え切り、ただ、生命を繋ぐのみ。それ以外を放棄したのだった。

◇◆◇

 あの日から…どれくらいの時間が過ぎたのか、覚えていなかった。
 最近、旧礼拝堂の噂と言うものを、耳にした。
 雨の日に良く出没すると言う、誰にでも抱かれる"色欲魔"。
 しかしながら、信憑性のない噂で留まっているのは…誰も、"色欲魔"の顔を、覚えていないと言う事実がそこにあるから。
 そんな噂ではあるが…当然、今の天界で最上位にいる智天使長たるミカエルの耳にも、届いていた。

 その日、ミカエルの執務室に呼び出されたのは、彼の親友であり、片腕でもあるラファエル。
「知っているか?旧礼拝堂の噂」
 ラファエルの顔を見るなり、ミカエルはそう口を開いた。その顔は、酷く機嫌が悪く見える。
「…聞いたことはありますよ。でも、誰も顔を覚えていないなんて…やっぱり、誰かの悪戯では?旧礼拝堂だって、施錠されているんですし…昔ならともかく、今は誰でも簡単に入れる場所ではありませんよ?」
 冷静にそう返した声に、ミカエルは溜め息を一つ吐き出す。
「噂で止まれば良いんだがな。使われていないとは言え…よりによって、礼拝堂だ。噂だろうが何だろうが…悪戯に利用して良い場所じゃない」
「なら、取り壊してしまえば良いじゃないですか」
「…ラファエル…」
 いつになく、はっきりと言い切ったその言葉に、ミカエルは溜め息を吐き出して頭を抱えた。
「簡単に言ってくれるな。あそこは…神の領域だ。熾天使がいない今、神の意向を聞かずに取り壊す計画など出したら、どれだけ叩かれるか…」
「だったら、貴方が熾天使になれば良いじゃないですか。次期熾天使としての呼び名も高かった貴方が…それを拒む理由を、教えて頂きたい」
 今日はいつになく噛み付いて来る。ぼんやりとそんなことを考えながら、ミカエルは再び溜め息を吐き出す。
「熾天使など…今の時代には、必要ない。結局のところ…熾天使がいた時代と、今の不在の時代で、何が違う?わたしが思うに…何も、変わらないんだ。だったら…わざわざ、そんな負担を背負う必要はない」
「…負担…ですか」
 神の言葉を聞き、それを伝える役割であった熾天使が、負担であるとは。そう言い切ったミカエルの意向も、ラファエルには気になるところだった。
「…負担だろう?結局のところ、熾天使など、神と天界の板ばさみだ。神は…我々を、見守ってくれているだろう。その声を、聞いてくれるだろう。けれど…わたしは、答えは返してはくれないと思っている。我々が自分で考えて動かなければ、何も始まらないんだ。だから…わたしは、熾天使にはならない。そんな考えのわたしでは、神の声は聞こえない。天界側からの圧力を受けるだけ無駄だ」
「…成程ね。貴方らしい考えですね。納得しました」
 くすっと、小さな笑いを零したラファエル。けれど、その瞳の奥は…いつの頃からか、本心が見えない。それが、ミカエルにとっては何よりも気がかりなことだった。
「…で、結局…旧礼拝堂はそのままなんですね?」
 話を戻したラファエルに、ミカエルは小さく頷いた。
「それしかない。まぁ、何れは取り壊す方向で考えてはいるがな」
「…そうですか」
 小さく、そう返した声。その思いは如何に…。
「…とにかく、噂がお前の耳に届いたら、そこでも釘を刺しておいてくれ。余り、良いものじゃないからな」
「わかりました」
 ラファエルはそう返事を返すと、ミカエルの執務室を後にする。
 その深い溜め息は…ミカエルには、届かなかった。

◇◆◇

 その日は夕方から雨が降り始めていた。
 定時で上がった彼は、雨の中を傘を差さずにぼんやりと歩いていた。
 人気のない道を選び、気が付くとその場所に立っていた。
 そっと手を伸ばし、扉に触れると、小さく呪を唱えて結界を外す。
 そして、その扉を見上げ…溜め息を一つ。
 自分は…何をしているのだろう…?
 ふと、そんな思いが過ぎった瞬間。
「…入っても良い…?」
 背後から、声をかけられた。
 その瞬間、何かのスイッチが入った気がした。
「…どうぞ」
 顔を見ずに、彼は先に扉を開けて中へと滑り込む。その後を着いて来た相手は、中へ入ると直ぐに、彼の身体を背後から抱き締めた。
「あんた…噂の"色欲魔"だろう…?」
 耳元で囁かれる。
「さぁ…?そう、名乗ったことはありませんけど?」
 そう答えた声に、相手は小さく笑った。
「でも、ここにいるのが何よりの証拠だろう?相手、してよ…?」
「…わたしからは、何もしませんよ。やりたければ…御自分でどうぞ」
「良いね…楽しみだ」
 相手はくすくすと楽しそうに笑う。
「奥へ行こう」
 相手は、彼を祭壇の前へと連れて行くと、そこで徐ろに押し倒した。
 祭壇の前での情事。誰もが二の足を踏みそうなシチュエーション。けれど、相手はそれが興奮するようだった。
 身体を重ね、熱を与えられても…彼は、快楽など何も感じてはいなかった。ただじっと、時が過ぎるのを待っている。いつも、そうだった。
 ただ、その日は…いつもと、何かが違う。誰かに見られているような…そんな、僅かな気配を感じ、視線を窓へと向ける。
 そこに見えたのは…誰かの影。
 雨が降っていて、外にいる誰かの顔は判別出来ない。けれど…その眼差しだけは、どう言う訳かはっきりと見えた。
 真っ直ぐに、自分を見つめる眼差し。そのブルーの瞳は…まるで、自分を軽蔑しているかのようで。
 やがて、その眼差しの主は何処かへ行ってしまった。
 その時は…ただの、冷やかしだと思っていた。だから、特に気にも留めていない。
 誰とも知らない相手に抱かれることで、一時満たされた心。けれど、相手がいなくなるともう直ぐに、その心は涸れ始めていた。
 決して、満たされない心。そして、醒めることのない悪夢。
 彼は…殆ど、眠れぬ夜を過ごしていた。

◇◆◇

 もしも…願いが一つ叶うなら。
 それが許されるのなら…何を、望むだろう…?
 答えは、わからない。だって、もう何も望まないと、決めたのだから。
 今更…何を、求められよう?
 けれど…彼の心も身体も、悲鳴を上げていることには間違いなかった。
----助けて。
 その想いは、今でも心の奥底にあった。
 誰にも言えない、言葉として。

 今日は、雨は振らなかった。今日は…と言うよりも、このところ晴天続きだ。
 けれど、今日は闇夜だった。
 暗い道を歩いて帰る途中…旧礼拝堂の扉の前で、何かをしている姿を見つけた。
 そして、踵を返した相手とぶつかる。
 その眼差しは…いつか見た、ブルー。
 その瞬間、彼はいつも通り、スイッチが入る。
 やはり…同じではないか。相手もまた…"色欲魔"を、求めに来たのだろう。
 別に、ショックではなかった。けれど…そこに、いつもと違う何かを感じたのは間違いなかった。
 そして…その出会いが、彼を変えるとも思ってはいなかった。

◇◆◇

 自分でも、忘れていた。
 自分の心が…身体が、熱を持つなど。与えられる温もりに、安心感を抱くなど。
 背負った械は、一生消えない。けれど、共に支えてくれる相手がいるのなら…ほんの少し、心が軽くなる。それを、初めて知った。
 彼の心を、封印から解き放ったのは……あの時に見た、ブルーの眼差し、だった。
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