聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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eclosion
花弁が散る。
感慨深い、と言うほどではないけれど…嬉しいとか、楽しいとか、そんな気分にはならない。
生命の終わり。それが、全ての現実。
目の前の現実は…残酷でしかなかった。
その年の夏は、とても暑かった。
不測の事態に巻き込まれた長い一日が終わり、漸く仕事を終えて帰路に着いたのは、もう明け方近くだった。
「…なんだって俺ばっかりこんな時間なんだよ…」
他の仲魔は、もっと早い時間に帰路に着いたはず。どう言う訳かトラブルに巻き込まれた彼は、徹夜で仕事をする破目になった。流石に家の前までタクシーで帰るつもりでいたのだが…小腹を満たす為の買出しも兼ね、少し離れたコンビニの前でタクシーを降りると、コンビニへ立ち寄り、漸く家に向かって歩き出したばかりだった。
夜明け前でも暑い。早くシャワーを浴びたい、とうっすらと明るくなる空に溜め息をつきながら、共同生活をしている屋敷への道を歩いていると…通り道の公園に、ぼんやりと立っている姿が見えた。
背格好から見れば、まだオトナにはなっていないであろう。ほっそりとしたその背中に一瞬視線を向けた彼は、ふと歩みを止め、その背中に見入る。
その理由は一つ。
その背中に…うっすらと、羽根が見えた気がしたから。
「…まさかなぁ…」
気配を探ってみたものの、天使だの悪魔だのの気配は感じない。
警戒されたら、逃げられてしまうかも知れない。そう思いつつ…そっと、その背中へと歩み寄る。
羽根が見えたのは、ほんの一瞬。その後は、ごく普通の青年の背中。そしてその肩にかかる髪は、やや長めの、色薄の茶色か金色。まだ夜も明けない街灯だけの明かりでは、はっきりとは判別は出来なかった。
彼が青年の背中の直ぐ近くまで来た時、振り返ったその姿。彼を見つめたその眼差しは、色薄の茶色。そして肌も透き通るように白い。
「今、探ったでしょ?」
くすっと笑ったその眼差し。それは…流石の彼も背筋がゾクッとした。
「…御前…」
思わず零れた声に、再び青年は笑った。
「えっと…エースさん、だよね?」
「………」
今の姿は世仮。青年に会ったのは、多分初めて。尤も…何処かで会ってるのかも知れないが、彼自身には記憶はなかった。
「エースさん、だよね?」
改めて、そう問いかけられた。
「…だとしたらどうだって…?」
問い返した声に、青年はにっこり笑った。
「何かわかった?僕のこと」
「…何か…とは?」
問いかけられた意味が良くわからない。
「知りたいんだ。"僕のこと"。自分が、何者なのか」
「………」
普通なら、気配を探られて良い気はしない。だが青年は、自分が何者かを知りたいと言う。
「自分が…わからないと?」
「…そう…」
今まで笑っていた青年の表情が、ふっと曇った。
「貴方なら…わかるかな、って。知ってたんだ。この近くに悪魔がいるってことは。だから、待ってた。僕を、見つけてくれるかな?って。こんな時間に会えるとは思ってなかったけど」
その言葉を聞きながら…彼は、暫し、青年の様子を、気配を伺う。
天使でも、悪魔でもない。だが、マトモな人間でもない。ならば彼は…何者なのだろうか?
「…名前は?」
問いかけた声に、青年は小さく首を傾げた。
「名前…?えっと……待ってね、思い出す」
その返答に…待つこと暫し。
「…多分……"あきつ"?」
「…はい?"あきつ"?苗字か?それとも名前??」
「…その辺はわからないんだけど…そんな気がして…」
「………」
どうにも…理解の域を超えている。
「何か…わかった?」
首を傾げたまま、再び問いかけた青年…"あきつ"。
「…いや……」
正直にそう返すこともちょっと悔しかったのだが…わからないものはしょうがない。だがしかし。
「…まぁ…わかるかも知れない奴はいるんだが…この時間だから、まだ寝てると思うんだが…取り敢えず、一緒に来るか…?"御前"を、見つけてやれるかも知れない」
多分…わかるであろう仲魔はいるはず。だが、まだ夜も明けていない。自分はたまたまこの時間に帰ることになっただけで…他の仲魔は、まだ眠っているはず。流石に起こすのは忍びないが…まぁ、起こさなくても暫くすれば起きて来るだろう。それを待ってからでも遅くはないだろう。
乗りかかった船。そう諦め、彼は"あきつ"を連れ、屋敷への帰路に着いたのだった。
屋敷へ着いた時には、既に夜は明けていた。だが、日は昇ったとは言え、夏の夜明けはまだ早い時間。屋敷の中は静まり返っていた。
「…静かにな。まだみんな寝てるから」
そう言いながら、そっと廊下を抜け、リビングへと歩みを進める。そして素直について来た"あきつ"をソファーへと促すと、リビングの入り口のドアを閉めた。
それから漸くソファーへと腰を落ち着けた彼、エース。
「…で、俺も詳しく話を聞きたいんだが…」
そう切り出したエースだが、"あきつ"の眼差しに思わず口を噤む。
真っ直ぐに自分に向けられた眼差しは、明らかに興味津々。嬉々とした眼差し。
「…俺の顔に、何か…?」
余りにも真っ直ぐな眼差しを向けられ、怪訝そうな表情のままそう問い返したエース。
「何で、家に入ったら顔が変わったの?」
「…あぁ…そう言う事か…」
興味の根源がわかり、大きく息を吐き出す。
「まぁ、悪魔だって言ったって、日常生活の全てをその素顔で生活する訳じゃない。この屋敷は結界に囲まれているから悪魔の姿をしていても問題はないんだが、外に出る時は周りに危害を加えないように基本人間の姿だから。一応、気は使ってるんだぞ?」
「危害、って?何かあるの?」
更に食いついてくる"あきつ"。
「悪魔の姿だと、天界に狙われるんだ。勿論、負けやしないが、回りの人間たちがとばっちりを喰らうと困るだろう?彼奴等は慈愛だとか言ってるクセに、いざとなると人間たちにも容赦ないからな。俺たちはこれでも、平穏に馴染もうとしてるんだぞ?」
「へぇ、そうなんだ」
にっこりと微笑む"あきつ"に、流石のエースも調子が狂う。
無垢な笑顔は、エースの言うことを微塵も疑っていないのだろう。それどころか、果たして何処まで話の内容を理解しているか…と首を傾げたくなるくらい、まるで疑うことのない真っ直ぐな眼差しでエースを見つめている。
と、二名がそんな話をしていると、微かな足音と共に、リビングのドアがそっと開いた。
「エース、帰ったのか…?」
そう問いかけられて視線を向ければ、開けたドアの隙間から、怪訝そうに様子を伺う眼差しが見えた。
「…悪い、起こしたか?」
「あぁ…それは良いんだが……誰を連れて来た…?」
そっとドアを開け、滑り込むように静かにリビングへと入ると、後ろ手にそっとドアを閉めたのは、副大魔王たるデーモン。
「あぁ、こいつは"あきつ"。帰り道で…偶然出会ったんだが…ちょっと訳ありでな…」
エース自身も、現状が良くわからない。だから当然、説明も出来ない訳で。
怪訝そうに眉を寄せたまま様子を伺うデーモンに、"あきつ"は相変わらずにっこりと微笑んだまま、軽く頭を下げた。
「どうも。デーモン閣下」
「……あぁ…」
名乗ってはいない。尤も、彼の姿を知っていれば、名前を知っていることも当然なのだが…それにしても、"あきつ"の持っている"気"が、何か奇妙に感じて。警戒せざるを得ない。
「…エース、ちょっと…」
エースを手招きして、再び廊下へと移動する。促されるままにやって来たエースを連れ、キッチンへと更に移動する。
「おい、何者なんだ?彼奴…人間じゃないだろう…?」
「…あぁ、やっぱりそう思うか…」
小さな溜め息を吐き出したエース。当然、デーモンは怪訝そうな表情のまま。
「いや、俺もな…状況が良くわからないんだが…帰り道の公園で彼奴がいたんだ。背中に羽根が見えたような気がして…近付いて行ったら、彼奴に捕まってな。自分が何者かわからないって言われてな…自分を見つけてくれ、とさ」
「それで我々に探らせようと?あんな得体の知れない奴を…?」
「まぁ…俺が、捕らえ切れなかったからな…誰かしらならわかるかと…」
「御前なぁ…あんまり変なことに首突っ込んで、心配させるなよ…?」
呆れたような溜め息を吐き出したデーモン。どう考えても、エースの方が分が悪い。それはわかりきっていた。けれど、その正体を知りたいと思ったのは事実なのだから、仕方がない。
「…で?羽根って言うのは…どんな?御前が迷うって言うことは、悪魔や天界人ではないんだろう?」
連れて来てしまった以上、何事もなかったかのように放り出す訳にはいかない。
そんな思いで問いかけたデーモンに、エースは思い出すように視線を上げた。
「どんな…と言われるとな…うっすら透けてて……あぁ、強いて言えば、昆虫の翅(はね)?」
「は?昆虫、って…御前なぁ…」
呆れたように溜め息を吐き出すデーモン。けれどエースとて、どんな…と言われて思い浮かんだのが昆虫の翅なのだから仕方がない。
「…で?どうするつもりだ?因みに…ゼノンならいないぞ?魔界に呼び戻されて、暫く戻って来ない。ルークとライデンならいるが…まだ爆睡中だからな」
「…何だ、ゼノンいないのか…」
ゼノンなら、色々知っているのではないか…と思って期待をしていたものの…それが浅はかな期待だったのだと思い知らされた。まぁ、ルークやライデンが期待出来ない訳でもないのだが…。
「取り敢えず…御前も探ってみてくれないか?俺がわからなかっただけで、御前ならわかるかも知れない」
溜め息を吐き出しながらそう言うエースに、デーモンは再び溜め息を一つ。
「見切り発車にも程があるだろうが…得体の知れない奴を、気安く連れて来るな…」
そうは言うものの…だからと言って、このままエースに全てを背負わせて知らん顔をしている訳にも行かない。この屋敷で顔を見てしまった以上…関わったも同然、なのだから。
「…着替えて来るから待ってろ」
溜め息を吐き出しつつ、デーモンは踵を返す。その背中を溜め息と共に見送ったエースは、諦め半分の表情でコーヒーを淹れ始めていた。
デーモンが着替えてリビングに戻って来ると、そこにはコーヒーのカップを前に、エースと"あきつ"が向かい合うようにソファーに座っていた。
落ち着いた表情の"あきつ"を眺めながら…本当に、彼は何者なのだろう…?と、想いを巡らせる。
「今度はデーモン閣下が探ってくれるの?」
にっこりと微笑むその姿に、デーモンは溜め息を一つ。そしてエースの隣へと一旦腰を下ろした。
「まぁ…一応やってはみるが…エースがわからなかったんだろう?吾輩に期待されても困るんだが…」
そう言って、エースへと視線を向ける。
コーヒーのカップに口を付けるエース。その浮かない表情を見るに、不本意であること極まりないのだろう。
「…で?御前が覚えている一番古い記憶は?」
一応、セオリー通りにそう問いかけてみる。
「一番古い記憶?えっとね……朝、エースさんに会った時…?」
記憶を辿るように考えた末の答えに、エースは溜め息を一つ。
「…たった一時間前のことじゃないかよ…」
「それ以上前の記憶だと…………あぁ、"綺麗なヒト"に会った」
「"綺麗なヒト"…?それは、見た目の話…か?」
問いかけたデーモンの声に、"あきつ"はにっこりと笑う。
「うん。デーモン閣下みたいに綺麗な金色の髪だった。でも、顔は違うよ。白や赤や青じゃないの」
「…服装は?」
今度は、エースが問いかける。
「服?白い服着てたよ。そうだ、背中に羽根があった。大きな鳥みたいな真っ白な羽根」
「……天界人、だな。間違いなく…」
思わず、溜め息が零れる。
「…で?その"綺麗なヒト"は…御前に、何をしたんだ?」
「えっと……」
記憶を辿っていた"あきつ"の表情が、ふと変わる。今までの微笑みから…すっと、真顔に。勿論、デーモンとエースが、それを見落とすはずもない。
「どうした?」
小さく問いかけたエースの声。
「……花を…貰った。白くて…大きな花…」
「花…?」
思わず、デーモンとエースは顔を見合わせる。
天界人に、花を貰った。それが一番古い記憶になるらしい。それが何を意味するのか…勿論、彼らにはわからない。
が、その時。
「天界人が、花をあげる。つまり、"生命"をあげる、ってこと」
「…ルーク、起きていたのか…ライデンも…」
いつの間にか、リビングのドアが開いており、その向こうにルークと…そしてライデンの姿も見えた。
「眠れる訳ないでしょうよ。得体の知れない気を撒き散らされて呑気に寝ていられるほど、俺たちの神経は図太くないってこと」
溜め息を吐き出しつつ、ルークとライデンがリビングへと入って来る。
「天界人が持っている"花"は、"生命の花"。それを貰うって言うことは、"生命"を貰う、って言うことになる訳。俺だってそれぐらい知ってますよ?」
溜め息を吐き出しながらそう言葉を紡ぐルーク。天界で生まれて育っただけの事はある。
「そう、か。"生命"を貰った、と言うことか…だとすると…その前はどう言う事だ?既に、生命が尽きていた、と言うことになるのか?」
首を傾げながらそう零すデーモンに、ルークの後ろからライデンが口を挟む。
「若しくは、"人ならざる者"に"人としての生命を繋いだ"、ってことじゃない?」
「"人ならざる者"に"人としての生命を繋いだ"…そうか、だからあの"翅"なんだ」
エースの中で、何かが繋がった。
「悪い、もう一度探らせてくれ」
そう言うと、ソファーから立ち上がり"あきつ"の隣へと移動する。そして"あきつ"の額にそっと手を触れると、目を閉じて意識を探り始めた。
その様子を眺めつつ…ルークとライデンは今までエースが座っていた場所に腰を下ろす。そしてルークがデーモンにそっと問いかける。
「…で?彼奴…誰?」
「あぁ、彼奴な…」
訳がわからないながらも、取り敢えず状況を説明しようか…と思ったその瞬間。
「ちょっ…エース!!」
慌てて声を上げたのはライデン。それと同時に、ソファーから立ち上がると、エースへと駆け寄る。
ライデンの声に驚いて視線を向けたデーモンとルークは…ぐったりとしたように"あきつ"に凭れかかるエースの姿を見た。そして、当の"あきつ"は…とても冷めた眼差しで、エースを見下ろしていた。
「"あきつ"!エースに何をした…っ!?」
慌てて声を上げたデーモンに、"あきつ"は小さく言葉を零す。
「…嘘付き。僕を、見つけてくれるって言ったのに…」
「この野郎…っ!!」
その胸倉を掴みあげたのはルーク。ライデンの方は、エースを"あきつ"から引き離して応急処置を施している。
「どう言うつもりだ!エースを殺すつもりかよ…っ!!」
「これぐらいのことで、死ぬ訳ないじゃない。"悪魔"、でしょ?」
それは、先ほどまでの姿とは全くの別人ではないかと思うくらいの、淡々とした物言い。
「御前…っ」
「落ち着け、ルーク」
カッとなっているルークを宥めつつ、胸倉を掴みあげているその手を解く。そしてその視線をライデンへと向けた。
「エースはどうだ?」
「…多分、大丈夫。一気に限界ぎりぎりの魔力持って行かれてるみたいだけど、まぁ悪魔だからね。でも、人間だったらこうはいかないよ。悪魔だから魔力で済んだけど…人間なら、生命エネルギーだっただろうからね。あんた、犯罪者だよ」
溜め息を吐き出しつつ、険しい視線を"あきつ"へと向けた。
「どうしてこんなことを…?エースに、助けて貰いたかったんじゃないのか…?」
何処か憮然としている"あきつ"に向け、そう問いかけたデーモンの声に、その視線が向く。
色薄の茶色は…こちらも非常に険しい。
「"あのヒト"に言われたからだよ。悪魔は、簡単には死なない。だから、僕の"生命"を繋ぎたいのなら悪魔の"チカラ"を貰えば良いって」
「…ったく、余計なことを…」
溜め息しか出ない。そんな状況に、ルークが口を挟む。
「悪魔の"チカラ"を奪ったところで、それがあんたの"生命"にはならない。根本的に、エネルギーの質が違うからな。幾ら、"人"としての姿を貰ったとは言え、元来の生命の長さは変わらないから」
「嘘だ!だって"あのヒト"は…っ」
「…現実は、酷く残酷だってことだ」
「…エース…」
ライデンに支えられ、身体を起こしたエース。
「大丈夫か?」
問いかけられた声に、小さく頷きを返す。
「ライデンから少し魔力分けて貰ったから、取り敢えずは…な」
そう零すと、"あきつ"へと視線を向けた。
「御前が会った、"背中に大きな羽根を背負った綺麗なヒト"は…ただの気まぐれで、御前に"生命の花"を渡した。俺たち悪魔の"チカラ"を貰えば、より長く"生命"を繋げることが出来る、とか適当なことを言ってな。それなりにチカラのある者になら、強ち嘘ではなかったのかも知れないが…御前には無理だ。害になることはあっても、それが糧になることはない。御前は、"生命"を繋げるつもりで…自分の"生命"を縮めただけ、だ」
「…縮めた…?」
溜め息と共に吐き出された言葉。その顔色も、酷く悪く見える。
「まぁ…彼奴らの、趣味の悪い遊びに巻き込まれた、と言うところか」
ソファーに深く背を凭れたデーモンの言葉に、ルークもライデンも、言葉がなかった。
最初は多分…単なる遊び心。偶然そこに、"彼"がいたから。
「ルーク。こいつを、元の姿に戻せるか?」
エースに問いかけられ、ルークはちょっと考える。そして溜め息と共に言葉を零した。
「…多分、出来るよ。そうしたら…元の生命の長さに戻る。それでも良いなら…手を貸すけど?」
「"あきつ"。どうする?このまま"人"として、何も出来ないまま短い生命を終えるか…本来の姿に戻り、その生命を全うするか。選択するのは御前だぞ」
声をかけられ、"あきつ"は暫く口を噤んでいた。
「…正直俺は、何が正しいのかはわからない。だが、御前が生命を縮めることをわかっていながら、その姿で生きることを勧めることは出来ない。御前が本来の姿で生きることこそ、生まれて来た意味があるんだと思う。御前が生まれて良かったと…俺たちに出会えたことが間違いではなかったと…少しでもそう思って貰えれば…出会えた意味があったと思う」
エースのその言葉は…"あきつ"の心に届いただろうか。
"人"として生きた経験はない。つまり、彼らの言うように、何も出来ないまま…いつ尽きるかわからない生命の終わりを待つか。それとも、本来あるべき姿で、本来の生命を全うするか。
選択肢は…実質、一つしかなかった。
「…御願い…します…」
小さく吐き出した言葉。それに応えるようにルークはソファーから立ち上がると、その手を伸ばし、"あきつ"へと触れる。そして一つ呪を唱える。
その途端、"あきつ"の身体が輝きだし…"人"の姿から、小さな"昆虫"へと、姿を変えた。そして、それと同時に一輪の真白き花がルークの足元へと落ちる。それは正しく、"あきつ"が貰ったと言う"生命の花"。
「……トンボ?」
「…多分な…」
ルークの掌にいたのは、小さな蜻蛉。暫く掌に留まっていたものの…やがて、その翅を羽ばたかせて飛び立つ。
慌てて窓を開けたライデンは、庭へと飛び立っていったその小さな姿をじっと見送っていた。
「…で?何で"あきつ"なの?」
"あきつ"の飛び立って行った空を見上げながら問いかけた声に答えたのは…もう一つの声。
「"あきつ"って言うのは、蜻蛉の古名だよ」
「…ゼノン…」
リビングの入り口へと全員の視線が向く。そこには、今までいなかったはずのもう一名の仲魔がいた。
「いつ戻ったんだ?」
デーモンに問いかけられ、ゼノンはソファーへと腰を下ろす。ルークも足元の真白き花を拾い上げ、そのままソファーへと腰を下ろした。
「ついさっきね。はい、これデーモンにね」
そう言いながら、手に持って来た一綴りの書類をデーモンの前に置く。
「最近、天界で変な遊びが流行ってるらしいって。色々面倒なことになってたらしくて、俺が呼ばれて行ったんだけど…こっちにいればもっと簡単だったみたいだね」
ゼノンの言葉を聞きながら書類に目を通していたデーモンは、一通り読み終わると溜め息を吐き出して顔を上げた。
「確かにな。まさに今ここで起こっていたことだ。まぁ…エースが"あきつ"を拾って来なければ、まだ辿り着けてはいなかっただろうがな」
ライデンが戻って来て、ゼノンの隣に座る。エースもソファーへと戻り、全員が漸く腰を据えた。
「天界人が"彼ら"に"生命の花"を渡しているのは、さっきも言った通り単なる気紛れから始まった趣味の悪い遊び。その後どうなるかなんて、どうでも良かったんだと思うよ。多分、まだ何名かはいるだろうけど…全員を見つけるのは多分無理。何匹の昆虫に"生命の花"を渡したかなんて覚えてもいないだろうしね。まぁ…俺たちの魔力を奪いに来るか、人に手を出すか。それはわからないし…辿り着けるかどうかもわからないからね。見つけた時に対処するしかない」
溜め息と共に吐き出されたゼノンの言葉に、デーモンも眉根を寄せて溜め息を一つ。
「くだらない遊びは止めるよう、通達しておかないとな。昆虫だからと言って…無碍にして良い生命ではないしな」
誰もが、消化不良のままの気持ち。
「…何か、後味悪いな…」
拾い上げた"生命の花"を眺めながら、思わずそう零したルーク。
「普通に生命を全うしていたら、後世を繋げる可能性はかなり高い。でも、こんな風に悪戯に弄ばれた生命は、そこで途切れるんだ。せめて…"あきつ"が、生命を全うしてくれれば良いけどね…」
溜め息を吐き出したのは、ルークだけではない。偶然出会ったとは言え、連れて来たエースも良い気分ではない。関わった全ての悪魔が、その現実に溜め息を吐き出していた。
せめて…生まれて来たことを、後悔しないように。
彼らには、そう願うことしか出来なかった。
数日後。
「…今日も暑いな…」
屋敷の庭でまだ夏の暑さが絶好調の空を見上げていたエース。とその時、エースの目の前を何かが通り過ぎた。
「…ん?」
思わずその"何か"を目で追うと…それは、エースの肩でそっと動きを止めた。
「…トンボ?」
それは、一匹のトンボ。
----有難う。
ほんの僅かな気配。
それはきっと…生命を満喫している証なのだろう。
「…またな、"あきつ"」
再び空へと飛んでいくその姿を見送りながら、ほんの少し綻んだ口元。
ホッと小さく息を吐き出し、空を見上げた。
「…さて、仕事するか~」
肩の荷が一つ下りた。何処となく、すっきりとした気分だった。
花弁が散る。
生命の終わりは、全て現実。
現実だからこそ…生きている意味がある。
そして…また次の生命へと、繋ぐ道を作って行く。
生きる意味を、探して。
※去年のアンケートには明確にリクエスト、とは書かなかったのですが、今後読みたい話として、「夏も終わりつつあるので切ないもの?私好みのカップリングなら。でも、日記も好きで、書き手様の好きにして、続けてもらいたいです」
と言うことでした。
カップリング…スミマセン、どこかに飛びました。(苦笑)
そして、夏からの話がこんな時期に…。
ホントに、好きなように書かせていただいたので、貢がせていただきます。(苦笑)
ハンドルネームはないです、とのことでしたので、心当たりのある方…どうぞ。(^^;
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プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
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