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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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影従 2
こちらは、本日UPの新作です
 ※シリーズ小説はカップリング小説です。
(勿論DxAですが、ダミアンxルークもあります。
でもこのシリーズのメインはRXです…多分/^^;
6話完結 act.2

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◇◆◇

 日が落ちた頃王都へと戻って来たエースは、執務室に戻って来たところで副官のリエラが顔を出した。
「御帰りなさいませ。先ほど、ゼノン様から連絡が入りました。何でも、ゼノン様の執務室にエース様の御客様がいらしていらっしゃるそうで」
「あぁ…わかってる」
 心当たりはある。だから、それに関しては何故ゼノンのところなのか…と言う疑問は残らなかった。
 ただ単に、エースがいない以上局内には入れない。なので、以前訪れたことのあるゼノンのところなのだろう、と。
 グラスに一杯の水を飲み干すと、エースは大きな溜め息を一つ。そして改めてリエラへと向き直った。
「ゼノンのところに行って来る。今日はもう戻らないから、何かあれば屋敷に回しといてくれ」
「畏まりました」
 リエラに見送られ、エースは文化局へと向かった。

 ゼノンの執務室の前へやって来たエースは、小さな溜め息を一つ吐き出した後、そのドアをノックする。
『どうぞ』
 返事が聞こえると、そのドアを開ける。そしてそこで待つ主たるゼノンと…久し振りに見たその姿を目の当たりにする。
「…サラ…か?」
「…御久し振り、です…」
 ソファーから立ち上がったのは、確かに見覚えのある顔立ちの彼女。だが、あの時はまだ幼さを残していたその面差しは、すっかり大人びていた。
 それだけの月日が経っている、と言う事実を目の当たりにし…思わず苦笑する。
「…どうしたの?」
 苦笑するエースを眺めつつ、そう問いかけたのは主たるゼノン。
「…いや、俺たちも年を取る訳だ、と思ってな。まぁ、まだまだ若いつもりだけどな」
「気持ちはわかるよ。確かに、老け込む訳にはいかないけどね」
 エースの言葉に、ゼノンもくすっと笑いを零す。確かに、サラに比べればかなり年上である。だが、まだまだ働き盛りであるし、ゼノンに関してはライデンと婚約したのだから、これからまだ世継ぎ問題も残っている。老いる訳にもいかないのが現状なのだから。
 そんな彼らの会話を眺めていたサラもまた、以前とは違うエースの表情を新鮮な気持ちで見つめていた。
 自分が見ていたのは…本当に、エースだったのだろうか。改めて、そんな感覚を覚えていた。
 確かにあの時は、エースは病んでいた。精神に異常を来たし、子供に戻ってしまった悪魔。そんな状態で偶然保護して、半年も面倒を見ていたのだから、気持ち的には"親"の感覚だったのかも知れない。だが、今目の前にいるのは、歴とした情報局の長官。自分が知っているエースとは、全くの別魔であるのだ。
 思わず訪ねて来てしまったが…完全に、場違いだった。
 そんな思いで、小さな溜め息を吐き出す。と、そんな姿に気が付いたゼノンが、にっこりと笑いかけた。
「エースに、話があったんでしょ?席外そうか?」
「…いえ……大丈夫、です…」
 流石に、ゼノンの前では少し言い辛い。そう思ったものの…このままエースと二名きりにされたところで、居心地の悪さは何も変わらない。寧ろ、ゼノンに同席して貰った方が、多少気が楽なのかも知れない。
 そんな思いで、ゆっくりと言葉を零す。
「あの…ライデン様……御元気ですか…?」
「…ライデン?あぁ…元気…だよな?」
 思いがけない問いかけにきょとんとしたエースは、ゼノンへと視線を向ける。
「うん、元気だよ?少なくとも、先週行った時は頗る元気だったけど…」
 ゼノンも、問いかけられている意味が良くわからない、と言った表情で小さく首を傾げる。
「それがどうかしたのか?」
 思わず問い返すエースに、サラは小さく息を吐き出す。
「いえ…雷帝陛下に就任なさったと伺ったので…御変わりはないかと…」
「あぁ…まぁ、忙しいみたいだけどな。このところ、ゼノンの休みの度に一緒に御詫び行脚だろう?疲れてはいるだろうが…あと少しだろう?だいぶ、気は楽になったんじゃないのか?」
「多分ね」
 くすっと笑うゼノン。だが、サラの方は僅かに表情が険しくなる。
「御詫び行脚…ですか?」
「そう。雷神族との婚約破棄して、ゼノンと婚約したからな。二代続けての魔族との結婚だから、天界だの雷神界の重鎮たちだのに頭下げて回ってるんだそうだ。って言うか、それは知らなかったのか?」
「………」
 言葉もなく…ただ、小さく頷いたサラ。
「…ライデンに、何か用事があったの?だったら、伝えておくけど…?」
 様子を伺うように問いかけるゼノン。だが、サラは直ぐに首を横に振った。
「いえ、大丈夫です。ただ…ちょっと気になっていたので…」
「…そう?」
 ちょっと不思議そうに首を傾げるゼノンとサラとのやり取りを眺めながら…エースの中にふと過ぎった思い。
 わざわざ王都まで出て来た理由が、ライデンの状況を聞く為だけとは到底思えない。だがしかし。ゼノンとのやり取りを見る限り…それ以上の何もない。
 それは…サラからも、ゼノンからも。
「…今日はもう遅いから、ウチに泊まって行くと良い。明日、送って行くから」
 エースはそう切り出すと、ソファーから立ち上がる。
「悪かったな、サラの相手して貰って」
 ゼノンにそう言葉をかけ、サラの手を取って促す。
「別に、忙しい訳じゃなかったから大丈夫」
 くすくすと笑いを零したゼノンに、サラも頭を下げた。
「…御邪魔しました…」
「うん、またね」
 にっこりと微笑むゼノンに見送られ、サラはエースと共に彼の屋敷へと向かった。
 その道すがら…特に、話はない。サラにしてみれば、本題とも言える話題は半ば諦めてしまっていた。そしてそれを何となく察していたエースも、今この帰り道でする話題ではないだろうと考え…その結果、御互いの健康状態を問うぐらいしか話題らしい話題はなかった。
 そして、エースの屋敷に着き、サラが客間へと通されてから暫し。
 窓の外をぼんやりと眺めていたサラは、ノックの音に我に返る。
「…はい」
 返事を返すと、そっと開いたドアの隙間から顔を覗かせたのはエース。
「ちょっと良いか?」
「…どうぞ…」
 促されるままに部屋の中に入って来たエースは、ベッドに腰掛けるサラから少し離れたところに椅子を引いて腰を下ろす。
「…急に、俺を訪ねて来た理由なんだが…」
 そう切り出すと、サラはすっと視線を落とした。
「…御免なさい。大した用もなかったのに…御迷惑、でしたよね…?」
 そう返したその言葉遣いも、以前とは違う。それだけで、サラが自分の存在をどう捕らえているかを察したエース。だからこそ、小さく笑って見せた。
「どうして迷惑だなんて。久し振りにサラの顔を見ることが出来たのに」
「…エース…様…」
「敬称なんていらないから。別に敬語にもしなくても良いから。前のままで大丈夫」
 敬称をつけて呼んだサラに笑いを零しながら、その表情が落ち着くのを待つ。
 そして、その表情がちょっと柔らかくなると、エースはその話を切り出した。
「…ホントは…ライデンに会いたかったんだろう…?その為に、わざわざ来たんじゃないのか?」
「…エース…」
 少し赤くなったその頬。それが、正解だと言わんばかりに。
「連れて行ってやろうか…?」
 エースのその言葉に、サラは一つ息を飲む。けれど、小さく微笑んで首を横に振った。
「…やめておくわ。ライデン様には…御恩返しがしたかっただけだから」
「…恩返し?」
 首を傾げたエースに、サラはくすっと笑った。
「そう。前に、エースを助けたくて王都に来た時…ライデン様が、私に声をかけてくれたの。もしあの時、ライデン様に声をかけて貰えなかったら…貴方は、今ここでこうしていなかったかも知れない。誰を頼って良いのかもわからないあの時…本当に、救われた気がしたの。だから…いつか、御恩返しがしたくて。でも、どうしたら良いのかと考えているうちに、こんなに時間が経ってしまって…御結婚が決まったのなら、余計なことは言わないことにするわ。別に、何かをしようと思っていた訳ではないから。ただ、貴方たちに出会えて良かった。それだけは、伝えて置きたかったの」
 ちょっと恥ずかしそうにそう言ったサラを、エースは目を細めて見つめていた。
 自分たちなどに関わらなければ…もっと早く、良い相手と巡り会えただろうに。そう思うと、申し訳なくも思う。
 けれど…それが運命だと言われてしまえば、それ以上は何も言えない。
「…有難うな。遅くなったけど…俺も、サラに感謝してるから」
 そう零したエースに、サラはにっこりと微笑んだ。
 正直、エース自身はあの時のことを良く覚えていない。けれど…この微笑みの温かさだけは覚えている。
 この微笑みに護られていたからこそ…生命を救われたのだと。こうして、今があるのだ、と。
 そう考えると…恩返しをしなければならないのは、自分の方なのではないか。そんな思いがエースの脳裏を過ぎる。
「俺の方こそ…恩返しをしないといけないんだよな。俺に出来ることなら何でもするが…何かないか?」
 問いかけたエースの言葉に、サラは小さく笑って首を横に振る。だが、ふと何かを思い出したように、その笑顔がすっと引いた。
「…どうした?」
 突然の変貌。エースでなくても、怪訝に思うのは当然。サラ自身もそれをわかっていたようで、小さな溜め息を吐き出した。
 そして、ゆっくりと口を開く。
「そう言えば…気になることが一つあったの」
 そこで一旦言葉を区切る。そして、少しだけ何かを考えた後、再び口を開いた。
「前から…定期的に、父様宛に手紙が届いているようなの。この間、本の間に挟まっているのを偶然見つけてしまったんだけど…表の宛名は確かに父様宛だった。でも、中身は違うの。別の名前に宛てた手紙だった。探してみたら、それが何通もあって…」
「…別の名前…?」
 その言葉に、ドキッとして思わず息を飲む。
「…その名前を…覚えているか?」
「…確か……差出魔は"ラン=ジュイ"、宛名は…"アデル"、だったような…」
「…"アデル"…」
 大きな、溜め息が零れた。
 エースが初めて聞く"ラン=ジュイ"の名前。そして、再び辿り着いた"アデル"の名前。
 確かな繋がりが、そこにはある。けれど、エースにはまだ…その接点が見つけられずにいた。
「…何か…知っているの…?」
 溜め息を零すエースの姿に、不安そうな表情を覗かせたサラ。
「知っていると言うか…わからないと言うか…」
 エースにも、答えようがない。けれど、そこで諦める訳にはいかなかった。
「…仕方がない。ちょっと…相談するか」
 今の状態では、何も前へは進めない。本当なら、もう少し自分で何とかしたかったところだが…この辺りが限界なのだろう。
 そう判断したエースは、サラには明日送っていくことを約束し、今夜はこれで話を切り上げることを告げた。
 そして…そろそろ日付も変わろうかと言う時間となりつつあったが、仲魔たちに召集をかけたのだった。

◇◆◇

 エースがやって来たのは、デーモンの屋敷。そしてそこには既に、ルークとゼノンの姿もあった。
「どうしたんだ?こんな時間に…」
 招集をかけられた理由は、まだ聞いていない。だが、エースの事。何もなく呼び出すなどと言うことはないのだろう。そうだとすると…思い当たるのは、"魔界防衛軍"の話だろうと、誰もがそう思っていた。
 問いかけたデーモンの声に、ルークも珍しく口を噤んだまま真っ直ぐにエースを見つめていた。そしてゼノンは…と言うと、先ほどのこともあり、思うところもあったのだろう。興味深々、と言う眼差しを向けていた。
「この間デーモンから聞いた、昔の隠密使の"アデル"のことなんだが…」
 そう切り出すと、僅かに全員の纏う気が変わった。
 あの場にいなかったゼノンも、ルークからざっと話は聞いていたようで、その名前に関しては興味を持っていたようだった。
「内容まではわからないんだが…以前から、"ラン=ジュイ"と言う奴が、"アデル"に宛てて手紙を書いているらしい。そして今でも、それが続いているらしい」
「…"ラン=ジュイ"が?」
 思わず声を上げたルークへと、当然視線は向かう。
「知ってるのか?」
 ルークのその言葉に、エースの表情が変わる。その姿を目の当たりにし…暫し、口を噤んでいたルークだが、大きく息を吐き出した。
「…まぁ…知ってはいるけどね。事が事だからね、情報の共有は良いんだ?でも、あんたもはっきり言ってないよね?からその手紙の話を聞いた訳?あんたは誰が"アデル"に宛てた手紙を持ってたか、知ってる訳でしょ?それは誰なのさ。それを聞いたら、俺も"ラン=ジュイ"が誰なのかを教えてあげるよ」
 ルークにしてみれば、エースへの嫌疑を解いたとは言え…まだ自分が狙われたままであることには変わりない。何処かで情報を仕入れて来たのだろうが、その情報源を突き止めなければ、この先狙われる可能性もまだあるのだ。だからこそ、慎重に事を進めたいのだ。
 軍事局のトップとしては、当然の警戒。だからこそ、エースも溜め息を一つ吐き出した。
「"アデル"に関しては…正直、俺自身はまだ誰なのかと言う確定までは辿り着いていない。ただ、昔いた上官辺りなら何か知っているかも知れないとの憶測で、話は聞きに行った。"アデル"のことは知っていたが、俺がその確信に辿り着くまではと、何も話してはくれなかった。それが、今朝の話だ。そして、王都に帰って来て…彼の娘に、手紙の話を聞いた。で、今、だ」
「で、手紙の話は誰から?彼の娘、って誰なのさ」
 遠回しの言葉に、流石にルークもイラついているようだった。だが、そこで言葉を挟んだのは…ゼノン、だった。
「それって…サラ、ってことだよね?時系列で言うと」
「…サラ?」
 一瞬、ピンと来なかったのだろう。ルークもデーモンも、僅かに眉を寄せた。
「前に、エースが御世話になってたでしょう?あのサラ、だよ。今日、王都に来てたんだよね。エースが帰って来るまで、俺が相手してたんだもの」
「…まぁ、な」
 デーモンは状況が状況だっただけに、良く覚えていなかったが、ルークの記憶には残っていた。となると、サラの父親がその手紙を受け取っていた、と言うことになる。
「えっと…サラの父親、って言うと、あのガタイのデカイ悪魔だよな?何てったっけ…?」
「…"ディール=オリガ"…元、情報局の長官だ。エースの二代前の…な」
「…は?何でデーさんそんなこと知ってんの?」
「俺も知ってるけど?」
「…何でゼノンまで?俺、知らないけど…?」
 口を挟んだデーモンとゼノンに、ルークは更に眉を潜める。
「吾輩は、本魔から聞いた。あの時王都へ帰る前に、少し話をしたからな…」
「俺は、名前聞いたらわかったよ。って言うか、知らなかったの?」
「…そんな、二代前の情報局長官なんて知らないって…先代だって会ったことないし。だいたい、俺が来る前の話でしょ?」
「まぁ、そうだけどね。それ言ったら、みんな接点はないと思うけど?何処まで興味があるか、と言うことでしょ?」
「そうなんだけどさ…」
 ゼノンの言葉に、ルークは苦虫を噛み潰したような表情を見せる。
「…まぁ、ルークの話は置いておいて…ディール元長官が、"アデル"に宛てた手紙を持っていた、って言うことなの?」
 ちょっと不貞腐れるルークを扠置き、話を進めにかかったゼノンに、エースは小さく頷いた。
「あぁ、そのようだ。だが…封筒の宛名はディール宛、なんだそうだ。中身だけ、"ラン=ジュイ"が"アデル"に宛てた手紙だと、サラは言っていたんだ。内容までは目を通していないらしいから、何を伝えようとしているのかはわからないらしいが」
「…ディール元長官に宛てた、"アデル"宛ての手紙…?それって、ディール元長官が"アデル"だってことなんじゃないの?」
 そこで、何を悩む必要があるのか。
 そう言いたげに首を傾げるゼノンに、エースは溜め息を一つ。
「確かにな。それが一番、しっくり来るんだが…引っかかっているのは、"名前"に関して、だ。ディールが"アデル"であると言う確証が何処にもない。アリスの時もそうだろう?アリスが"エリカ"だとはわかっている。だが、どうして"エリカ"なんだ?って言うことなんだ。"アデル"も同じことだ。それがわからない限り…多分、"オズウェル"には辿り着けない。そこには理由があるはずだ。現に、ディールは俺に言ったからな。"アデル"に辿り着ければ、"オズウェル"にも辿り着ける、と」
「名前を変える、と言うことに意味があるんだろうけど…要は、そこに何かの法則がある、って言うことなのかな…」
 腕を組み、首を傾げるゼノンと、それを見つめつつ溜め息を吐き出すエース。そして、黙ったままのデーモン。ルークは…と言うと、こちらも何かを考えているようだった。
「…で?俺の手の内は見せたぞ?御前はどうなんだよ。"ラン=ジュイ"は誰なんだ?」
 問いかけるエースの声に、ルークは少し考えてから…ゆっくりと言葉を零した。
「…ジュリアン」
「…は?」
 思いがけない名前に、三名の視線がルークを見つめた。
「ジュリアン、って…そんな話聞いてないぞ?誰から聞いたんだよ」
「…だって、言ってないもん。俺は本魔から聞いたんだから、間違いない。ホントはあんたが自力で辿り着くまでは黙ってようと思ってたんだけど、こう言う展開になっちゃ、しょうがないしね。あんただって、ディールの名前を出さないまま、俺から"ラン=ジュイ"のことを聞こうとしたんだから、御互い様じゃん」
「…御前なぁ…」
 全く悪びれた様子のないルークに、当然エースは溜め息を吐き出す。だが、ルークの言い分もわかるので、それ以上は突っ込むことも出来ない。
「…アリスが"エリカ"、ジュリアンが"ラン=ジュイ"…ディールが"アデル"、か…似たような名前なんだよな。何かわかりそうな気もするんだけどな…」
 再び腕を組み、その名前を口にする。けれど、それ以上何も浮かんでは来ない。
「…茶目っ気…か…」
 ふと、思い出した言葉。
「はい?茶目っ気がどうしたって?」
 エースが零した言葉を拾い上げたルーク。だが、エースはその後の言葉を続けようとはしない。
「…とにかく、もう少し考えてみる。因みに…"ウェスロー"に関しては?」
 ルークの質問には答えず、そう切り返すエース。勿論、そこにはまだ消化出来ない思いがあるのは言うまでもない。
「さぁね。別に俺は"ラン=ジュイ"を捜していた訳じゃないし、たまたま聞いた名前が"ラン=ジュイ"だっただけだからね。"ウェスロー"が誰かなんて知らないし。今でもいるのかどうかもわからないからね。下手に聞き出そうとすると、こっちの身も向こうの身も危険だからね」
「…まぁ、そうだな」
 それは一理ある訳で。だからこそ…アリスが行方不明なのだから。
「…まぁ、みんなで一度考えてみようよ。俺もライデンのところに行ってちょっと聞いてみるし。先入観ない方が意外とわかるかも知れないしね」
「あぁ、そうだな」
 小さな溜め息と共に、吐き出された言葉。結局、その日の召集はそれで御開きとなった。


 ルークとゼノンが帰った後…そのままデーモンの屋敷に残っていたエースは、アイラが用意してくれた酒をデーモンと共に味わっていた。
「…元気ないな」
 珍しく、殆ど口を開かなかったデーモン。未だ、その表情は何処か沈んでいるように見える。だからこそ問いかけたエースの言葉に、デーモンは小さな溜め息を吐き出していた。
「吾輩は…ダミアン様の傍に付いて長いが…隠密使のことは殆ど聞いたことがなかった。まぁ、聞いたところではぐらかされるんだろうが…それでも、何も知らないって言うのもな…」
 何も知らなかった。それが、デーモンにとってかなりショックだったのだろう。けれど、エースもルークも半ば偶然そこに辿り着いただけであって…実際は、デーモンが聞いた名前があったからこそ、わかったことでもある。
「…馬鹿言うな。俺たちよりも知ってたじゃないか。"アデル"と"ウェスロー"だなんて、俺たちは聞いたこともなかった。御前が聞いていなかったら、ここまでも進めていない。ダミアン様は、御前以外には誰にも話していない。そんなことでショック受けるなよ」
 エースのその言葉に、デーモンは小さく笑いを零す。
「ショック、か。まぁ…それはそうなんだが…それだけじゃないんだがな…」
「…は?」
 デーモンはベッドに腰掛け、ソファーに座っていたエースから少し視線を外す。
「…"マッド=イアン"って…聞いたことあるか?」
「…"マッド=イアン"…?いや、初耳だが…何だよ、また新たな隠密使か…?」
「いや…そう言うことじゃなくて…」
 デーモンは小さく溜め息を吐き出すと、暫しの沈黙の後、口を開いた。
「御前…さっき、茶目っ気、って言ったよな…?」
「…うん?言ったか?そんなこと」
 覚えていない、と言わんばかりにさらっとそう言ったエースに、デーモンは再び小さな溜め息を吐き出す。
「ダミアン様のこと、だろう?」
「……」
 思わず口を噤んだエース。だがデーモンは、そのまま話を続けた。
「昔…"マッド=イアン"の名を聞いたことがある。吾輩も忘れていたんだが…その時は、ただの遊びだと思っていたんだ。だが…ふと思い出した。その名前を聞いた頃…"ラン=ジュイ"の名を聞いた。ただ、顔を合わせたことはなかったから、"ラン=ジュイ"がジュリアンだとは気が付かなかった。だが、さっきルークからその話を聞いた時…思い出したんだ。"ラン=ジュイ"の名前をつけたのは、ダミアン様だ。だとすると…やはり、茶目っ気だったんだろう、と…」
「…ちょっと待て?"ラン=ジュイ"の名をつけたのがダミアン様だとしても、それがどうして茶目っ気と繋がるんだ?と言うか…"マッド=イアン"って誰だ?」
 デーモンの話が見えない。
 眉を潜めたエースに、デーモンは再び溜め息を吐き出す。
「"マッド=イアン"は…ダミアン様の別名、だ」
「…は?」
「だから言っただろう?遊びだと。別に、その名を使って何かをした訳じゃない。だが、一時面白がって、私用の伝達の時にその名を使ったことが数回ある。流石にその後は使わなくなったが…どうしてそんな名前を使ったのかはわからない。だがもしかしたら…何か関係があるのかも知れない、とな」
「…成程な……吸わせて貰うぞ」
 エースは窓を開けると、煙草を取り出し、一本を銜えて火を付ける。
「"マッド=イアン"がダミアン様…か。ジュリアンが"ラン=ジュイ"…」
 小さくつぶやきながら、紫煙を吐き出す。
「…御前も…まだ、吐き出してないことがあるんだろう…?」
 エースへと視線を向けたデーモン。真っ直ぐに向けたその視線に、エースは苦笑する。
「まぁ…な。御前には見抜かれたか」
 エースは煙草を灰皿に押し付けて火を消すと、開けた窓を閉める。
「御前…誰が最初に隠密使を召集したか、知っているか?」
 そう問いかけながら、デーモンの隣へと腰を下ろす。
「さぁ…?吾輩が入局した時にはもう隠密使はいたからなぁ」
 首を傾げるデーモンに、エースは小さく息を吐き出す。
「…ルシフェル参謀長、だ。"アデル"と"ウェスロー"はその時の面子で、最初は当然、ダミアン殿下を護る為に作られた隠し部署だったはずだ。名前を変えたのも、ルシフェル参謀長の遊び心だった、と。俺は、ディール長官からそう聞いた。それが、ダミアン殿下にも、受け継がれている…とな」
「…そう言う事か…だから御前はあの時、言わなかったのか…」
 それは、つい先ほどの話。ルークの問いかけをエースがかわした理由。
「ルークは…どう思うんだろうな。俺たちが捜している"魔界防衛軍"のきっかけが、ルシフェル参謀長だった、なんてな…もっとちゃんとわかってから、ルークには話すつもりだったんだが…さっきは、どうしても言えなかった」
 ベッドに背を預けるように倒れこむエース。その顔に浮かぶ苦悩は、とてもルークには見せられない。それは、エースなりの思いやりだったのだろう。
 くすっと笑いを零したデーモンは、エースと同じようにベッドに寝転ぶ。
「そんなに心配しなくても大丈夫だろう。ルークは強いから。別に、ルシフェル参謀長が隠密使を唆して、魔界をどうこうしようと思っていた訳じゃない。ダミアン様を護る為に選んだ手段だ。それは今でもちゃんと生きているじゃないか。ジュリアンはあれで、ダミアン様を護ることに関しては必死だ。それは、吾輩もちゃんとわかっている。ルークだって、その分別は付くさ」
「…なら良いんだけどな…」
 大きく溜め息を吐き出したエースは、ベッドから上体を起こすと、そのまま立ち上がった。
「ゼノンの話じゃないが…少し、頭を冷やした方が良いな。冷静になれば、もう少し進めるかもな」
 そう言うと、外套へと手を伸ばす。
「…泊まっていかないのか?」
 帰り支度を始めたエースに、デーモンも上体を起こして問いかける。
「…悪いな。サラを屋敷に置いたままだ。明日、送って行く約束をしているから…また今度、ゆっくりな」
「そうか。まぁ良いさ。別に飢えてる訳じゃないから」
 くすくすと笑うデーモンに、エースも小さく笑いを零す。
 御互いに、胸に蟠っているものは吐き出した。だからこそ、一時でも安息を得ることが出来た。
「また…な」
 顔を寄せ、軽く口付ける。そしてエースは屋敷へと戻って行った。
 その背中を見送ったデーモンもまた、少し落ち着いたようだった。
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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