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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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影従 3
こちらは、本日UPの新作です
 ※シリーズ小説はカップリング小説です。
(勿論DxAですが、ダミアンxルークもあります。
でもこのシリーズのメインはRXです…多分/^^;
6話完結 act.3

拍手[2回]


◇◆◇

 翌日。雷神界を訪れていたゼノンは、まだ時間が早かったこともあり、そのまま執務室を訪れていた。
「珍しいね、あんたがこっちに来るの」
 そう言いながらも、上機嫌のライデン。愛しい婚約者なのだから、何処で会っても嬉しいに越したことはないのだ。
「うん、ちょっと相談があってね」
 そう言いながら、側近であるロシュに少し視線を向ける。当然、ロシュはその空気を察し、御茶の用意をするとそのまま頭を下げ、執務室を出て行った。
 その背中を見送ったライデンとゼノン。ドアが完全に閉まると、ライデンは視線をゼノンへと向けた。
「…で?相談って何?他者払いしたってことは、魔界の事?」
「まぁ…ね」
 御茶のカップを手に、ゼノンは一つ息を吐き出す。
 そして。
「…一緒に考えて貰いたいんだけど…アリスが"エリカ"、ジュリアンが"ラン=ジュイ"、ディールが"アデル"に変わる法則って、何だと思う…?」
「…はい?」
 ゼノンの言わんとする意味が良くわからない。そんな表情を見せたライデンであったが、聞き覚えのある名前だけに…そこには重要な意味があるのだろうと察した。
「…えっと…アリスが…何だって?」
「だからね、アリスが"エリカ"…」
「ちょっと待って、今メモるから…」
 慌ててメモを取るライデン。その手元をぼんやりと眺めながら、ゼノンはもう一度同じ名前を口にした。
 そして、メモを取り終わったライデンは、自分が今書いた名前を眺める。
「…何か、思い当たる…?」
 問いかける声を聞き流しながら、暫し、その名前を見つめる。
「…法則、って言ったよね…?それって、ホントに何か法則がある訳?」
 その指先で顎や唇を撫でながら、そう問いかけるライデン。勿論、その視線はメモに向けられたまま。
「…恐らく、としか言い様がないんだけどね。はっきりしないんだけど…アリス、ジュリアン、ディールの三名は、その名前を名乗っていた。それは確かなんだ。ただ、どうしてその別名を使っていたのか…エースがずっと、その理由に拘っていてね。そこにある法則が見つかれば…"オズウェル"に辿り着ける。そう言われたみたいでね」
 余計な先入観を与えない為、敢えて多くは語らず、最低限の説明に留める。
「…ディールって、あの時の…ディール、だよね?サラの親父さんの」
「まぁ…ね。良く覚えてたね」
「そりゃぁ…ね。あんなことに巻き込んじゃったしね…ここでその名前を聞くとは思わなかったけど」
 そんなライデンの答えを聞きながら、ふとゼノンの脳裏に過ぎったサラの姿。
 本当は昨日…サラのライデンへの気持ちは、察していた。けれど、敢えてそれに気付かない振りをした。
 その理由は一つしかない。
 幾ら、ライデンがゼノン一筋だとは言え…まだ若い彼女に、ライデンの気持ちが向かないとは限らない。好き好んで、ライバルを増やす必要はない。だからこそ、エースの説明を止めもしなかったし、敢えて雷神界にも誘わなかった。それは、ゼノンにしては珍しく、あからさまな嫉妬にも似た感情だった。
----意地が悪いな、俺は…
 そんなことを思いながら、小さな溜め息を吐き出す。
 ゼノンがそんな想いに浸っているとは露知らず。ライデンは未だ、ぼんやりとメモを見つめていた。
「…他に、ヒントはないの…?」
 行き詰まりかけているのか…ふと、そんな言葉がライデンから零れる。
「…今のところは、それで精一杯かな。少なくとも、俺が仕入れた情報からは、ね」
「…そっか…」
 未だ、メモから視線が離れないライデン。その姿を眺めながら、ゼノンはその情報の少なさを改めて実感していた。
 多分…エースもルークも、もしかしたらデーモンも…それぞれにもう少し情報を握っているのだろう。ただ、それを明かさなかっただけで。そこに至る理由は察するしかないが…少なくとも、まだ話すべきではないと踏んだからだろう、と。
 小さな溜め息を再び吐き出したゼノン。そしてカップに口を付けながら、ライデンへと視線を向ける。
 そのライデンは…と言うと、先ほどのメモに、更に何かを書き込んでいるようだった。
「…何かわかった…?」
 そう問いかけると、ライデンは顔を上げる。そして、小さく笑いを零した。
「…面白いね、これ」
「…はい?」
 何を面白がっているのだろう…と思ったのも束の間。
「解けた」
 にんまりと笑ったライデンに、ゼノンは息を飲む。
「…ホントに?」
 ソファーから立ち上がり、ライデンへと歩み寄る。ライデンは笑いながら、ゼノンに先ほどのメモを手渡す。そして、自分が今解いたばかりの、パズルさながらの謎かけの説明をした。
「…流石…」
 説明を聞けば、納得する。どうしてそんな簡単なことに気付かなかったのか…と、自分たちの視野の狭さを痛感しながら、ふと思い出したエースの一言を実感する。
「…まさに、茶目っ気…だね」
 ぱぁっと明るくなったゼノンの表情を満足げに眺めながら、ライデンはにっこりと微笑む。
「…で?協力したんだから、俺に黙ってること、全部話してくれるよね?」
「…そう、だね」
 大きく息を吐き出したゼノンは、再びソファーへと戻る。ライデンも自分の執務椅子から離れてソファーへとやって来ると、ゼノンの正面へと腰を下ろす。
 そして暫し。ゼノンから、彼が知り得ている話を全て…流石にサラへの感情は黙っていたが…を聞いた。
 話を聞き終わったライデンは、何とも神妙な表情を浮かべていた。
「…成程ね…」
 溜め息交じりの言葉を吐き出し、腕を組んでソファーの背凭れへと背を預ける。
「"アデル"の正体はわかった訳だけど…そこからどうやって、"オズウェル"を探すの?」
 そう言われ、ゼノンは暫く口を噤む。そして何かを思いついたようにソファーから立ち上がると、先ほどまでライデンが持っていたペンを手に、再びメモの紙に何かを書き込んだ。
 そして。
「大丈夫。"オズウェル"は、必ず見つけるよ。"彼ら"が協力してくれたら…きっと、ある程度の目星は直ぐにつくはずだから」
 そう言って、にっこりと笑う。そして、ライデンへと歩み寄ると、その頭を撫でた。
「有難うね。助かったよ。一旦魔界に戻るけど…落ち着いたらまた来るから」
「まぁ、しょうがないね。俺も今はゆっくりしていられないし…でも、御礼は貰って良いよね?あんたたちが寄ってたかって考えてもわからなかった"法則"を見つけたんだから?」
 にんまりと笑うライデンに、その意を察したゼノンは苦笑する。
「そうだね。感謝してるよ。有難う」
 そう言いながら頬を寄せ、深く口付ける。
 束の間の甘い時間。名残惜しさはあるものの、いつまでもそこに浸っている場合ではない。
「じゃあ、ね」
「うん、気をつけてね」
 ライデンに見送られ、ゼノンは再び魔界へと戻って行った。

◇◆◇

 魔界へと戻って来たゼノンは、直ぐにエースの執務室へと連絡を入れた。けれど、エースは既にサラと一緒に王都を出てしまった後で、捕まらなかった。
「…どうしようかな…」
 デーモンとルークに連絡を入れようかとも思ったのだが…捕まえたところで、エースとは入れ違いなのだから、その時点でディールからの話は聞けないと言うことになる。
 少しだけ考えた末…ゼノンは副官に出かけることを告げると、エースとサラを追って空へと飛び立っていた。

 その頃エースとサラは、既に王都から出て、サラの住む村へと向かって歩いていた。
 正直、話は余り盛り上がらない。だが、黙って歩いているのも気まずい訳で…だが、サラが夕べ話をしたあの手紙の話をしなければ…と、伝えられる範囲で話をする。まぁ、要は…"アデル"宛ての手紙を彼女の父親が持っていた理由はまだはっきりわからない、と言うことなのだが。
 そんな話をしながら歩いて行くと、ふと感じ慣れた気が追いかけて来るのを感じ、エースは足を止めて背後を振り返った。
「…エース?」
 突然歩みを止めたエースに、サラは首を傾げて振り返る。だが、エースの視線の先にはただ空があるだけ。サラにはまだ、何も感じられない。
「…どうしたの?」
 思わずそう問いかけると、エースは遠くに視線を向けたまま、言葉を返す。
「…ゼノン…?」
 エースにも、まだ姿は見えない。だが、確かにゼノンの気が追って来るのだ。
 暫し、そこで立ち尽くしていると、やがてその視界に小さな黒い点が見え、そして次第にその姿を確認出来るほどに大きくなって来た。
 そして。
「…あぁ、やっと追いついた…」
 大きく息を吐き出しながら降り立ったゼノンに、エースは小さな溜め息を吐き出す。
「何だよ、今日は雷神界に行くんじゃなかったのか?」
 そう言ったエースに、ゼノンは背中に構えていた翼をしまうと、にっこりと笑う。
「行って来たよ。で、話があるから追いかけて来たんだ。間に合って良かった」
「…話って…?」
 昨日の今日で、しかもまだ昼過ぎ。王都からここまで追って来た時間を考えても、雷神界にいたのはほんの僅かな時間だろう。その短時間で、わざわざ追いかけてまで話をする何かがあったのだろうか。
 するとゼノンは、にっこりと笑ったまま話を続けた。
「うん、まぁそれはサラの家に行ってからね」
「…そう、か…」
 こんなところで立ち話をするほどの軽い話ではなさそうだ。そう察したエースは、小さな溜め息を吐き出すと、心配そうに見つめているサラへと視線を向ける。
「…取り敢えず、行こうか」
 その言葉に促され、サラと一緒にゼノンも足を進めることとなった。

 サラの家へとやって来ると、それを出迎えた父親たる"彼"は、その背後にいる二名に小さな笑いを零した。
「おやまぁ、護衛を二名もつけて帰って来たのか」
「変な言い方しないで。ただ送ってくれただけよ」
 小さな溜め息を吐き出しながら、サラはそう言って家の中に入ると、着ていた上着をしまいに自分の部屋へと向かった。
「…御無沙汰しております」
 にっこりと笑って頭を下げるゼノン。そして昨日も訪れているエースは、神妙な顔で頭を下げた。
「…で?エースはともかく…ゼノン、だったか?何の用だ?」
 にやりと笑う彼に、ゼノンは小さく息を吐き出した。
「名前を覚えていただいていて光栄です。少し…御話したいことがありまして。エースも一緒に」
「…そう、か。まぁ良いさ。暇だったしな」
 彼はそう言うと、彼らを家の中へと促すと、自室から出て来たサラに近所から手伝いを頼まれているから行ってくれと用件を頼んだ。
 当然、帰って来て早々のその用事に怪訝そうに眉を潜めたサラだが、断る理由も見つからない。
「心配するな。御前が帰って来るまで、丁重に持て成しておくから」
「もぉ…」
 溜め息を吐き出しつつ、出かけて行ったその姿を見送ってから…彼は、ソファーに座る二名に話を切り出した。
「…さて、それじゃ話を聞こうか?俺に何の話だ?」
 彼がソファーに腰を下ろすや否や、ゼノンは話を切り出した。
「"アデル"に…辿り着きました。なので、詳しい話を聞かせていただきたいと思いまして」
 当然、その言葉に一番驚いたのはエースだった。
「辿り着きました、って御前…いつの間にっ!?」
「まぁ、俺と言うよりも…ライデンが、と言った方が正確だね。雷神界に行った甲斐があったよ。結構面白がって解いてくれたから、助かった」
 そう言って笑うゼノンに、エースは唖然としている。そしてそんな二名を眺めていた彼は、小さな笑いを零した。
「…で?"アデル"は誰なんだ?」
 その言葉に、ゼノンは改めて彼へと向き直った。そして、真っ直ぐに向けたその眼差しは…鋭い光を放っていた。
「"アデル"は…貴殿、ですよね?ディール元情報局長官」
 にやりと笑った彼。
「確証は?」
「ちゃんとあります。闇雲に突撃して来た訳ではないですから」
 冷静にそう返すゼノン。エースはただじっと、その姿を見つめていた。
「エースから、昨日の話は聞きました。"アデル"に辿り着けば、"オズウェル"にも辿り着ける。その意味もわかりました。ですから、貴殿に会いに来たんです。貴殿から直接話を聞く為に」
「…そう、か。まぁ御前の言い分はわかった。なら、その前に俺からも御前に聞きたいことがある」
 彼はそう言って、黙ってゼノンを見守っているエースへと少し視線を向ける。そして小さく笑うと、言葉を続けた。
「御前は、何の為にそれを知ろうとしている?」
 その問いかけに、ゼノンは考える間もなく言葉を放つ。
「大義名分を聞きたいのなら、魔界の為、雷神界の為、仲魔の為、ですかね。もし、そうではないのなら…強いて言えば、好奇心を満たす為…ですか」
「好奇心…?」
 思いがけない言葉に、彼は首を傾げて問いかける。勿論、エースも興味深そうにゼノンを見つめていた。
「勿論、大事な仲魔たちですから、護ることは前提です。でも、今はそれ以上に…"アデル"が隠密使を辞めた理由を知りたいのですよ。一体何があって、それを決意したのか。それを聞きに来たんです」
「…へぇ。変わってるな、御前」
「良く言われます」
 くすくすと笑いを零した彼に、ゼノンも小さく笑いを零す。当然、エースは複雑な表情を浮かべているが。
「エースには昨日聞いたが…アレはアレでエースの本心だろうし、その責任を果たさなければと言う強い想いも感じた。まぁ、あぁ言う考えも嫌いじゃない。だから俺は、御前にヒントをやったんだ。だが、ゼノンの答えは俺の予想外だったな。予測不能だからこそ、良い感じで援護出来るんだろうな。良い関係じゃないか」
 エースの複雑な意を察してか、彼はそう言って笑いを零す。そして、彼の返事を待っているゼノンへと、再び視線を向けた。
「…で?御前が見つけた確証を、見せて貰おうか?」
「では…紙とペンを、貸していただけますか?」
「紙とペン?あぁ、ちょっと待ってろ」
 彼はソファーから立ち上がると、自室へと向かう。
「…おい、大丈夫なのか…?」
 ゼノンがこれからやろうとしていることが未だわからず、エースはそっとゼノンに問いかける。
「…多分、ね。俺がライデンから聞いたことは、俺自身がちゃんと納得した答えだもの。恐らく、間違いはないはず。それが、"茶目っ気"から来るものであるのなら…ね」
「…ったく…どいつもこいつも、ヒトが零した言葉を拾いやがって…」
 小さく溜め息を吐き出したエース。
 自身よりも先に、答えに辿り着いてしまった彼ら。発想や考え方の柔軟さは、エース一名ではやはり辿り着けなかったのだろうと言う、些細な嫉妬も感じながら…それでも、まだ答えを聞いていない分、十分な期待はそこにあった。
 そんな話をしているうちに、彼が紙とペンを持って戻って来た。
「ほら。これを何に使うんだ?」
「有難うございます」
 差し出された紙とペンを受け取ると、ゼノンは早速そこに"アデル"の名を綴った。
「この、"名前"に関する話が出てから…ずっと耳で聞いていただけだったので、気付かなかったのですが…恐らく…綴りはこれで、間違っていないですよね?」
「あぁ、そうだな。間違っていないだろうな」
 彼は、紙に綴られた名前を一瞥し、そう答える。
 それを確認すると、ゼノンは更にペンを走らせた。
「そして…これが、貴殿の名前。"ディール"」
 もう一つ、彼の名前がその下に綴られる。そしてゼノンは、エースへと視線を向けた。
「…わかる?」
「………わからん」
 小さな溜め息と共に吐き出したエースの言葉に、ゼノンはくすっと笑った。
「俺もわからなかったから、別に気に病むことはないよ。じゃあ…次はこれ、ね」
 そう言うと、ゼノンは更に"アリス"と"エリカ"、"ジュリアン"と"ラン=ジュイ"の名を、同じように上下に書いた。
「ライデンは…これを暫く眺めてた。そして、答えを見つけたんだ。試してみる?」
 そう言って、今書いた紙をエースへと渡す。
 暫くそれを眺めていたエースは…ふと、あることに気が付いた。
「…これって…アナグラム…か?」
「それが正解なんだと思うよ」
 エースが気付いたのは、文字の順番を入れ替えて違う言葉にする"アナグラム"。勿論、ライデンも同じことに気が付き、ゼノンにそう説明していた。
「耳で聞いただけではピンと来なかったはずだよね。紙に書いて、目で見れば良かったんだ。そうすれば、簡単にわかったことだったんだと思う。これなら、納得行くでしょう?"茶目っ気"の言葉の意味が」
「成程な……そうだ、じゃあ…」
 何かを思い出したように、エースはペンを取り、更に書き加える。
「…"マッド=イアン"…?誰?」
 初めて聞く名前に、首を傾げたゼノン。すると、その名前に彼がくすっと笑いを零した。
「"ダミアン殿下"、だな」
「御存知でしたか?」
「まぁ…な。聞いたことはある」
 夕べエースがデーモンから聞いた、ダミアンの"茶目っ気"。それも、並べて紙に書いてみればすんなりと腑に落ちた。
「…わたしの持って来た答えは、貴殿にとっての正解、ですか?」
 彼に問いかけるゼノン。
 すると、彼は笑いながら席を立ち、昨日と同じように酒瓶とグラスを持って来た。
「ライデン、って言うと…現雷帝陛下、だな。前にここにも来たことがあったな。流石、だな」
 笑いながら、グラスに酒を注ぐと、彼らの前へと置いた。
「なかなか良い出来だ。まぁ、"マッド=イアン"の名も聞けたし…少しなら、昔話をしてやろうか」
 機嫌良くそう答えた彼は、グラスを持ったまま、ソファーに深く背を凭れた。
「御前たちの予測通り…"アデル"は、俺が隠密使として使っていた名だ。尤も、長いこと在籍していた訳じゃないからな、辞めてからのことは詳しくはわからないがな」
「…どうして、御辞めになられたんですか…?」
 その理由が知りたい、と豪語したゼノンが、すかさずそれを問いかける。
「辞めた理由なんてな…大したことじゃない。俺には向かなかった。それだけだ」
 彼はそう言って、小さく苦笑する。
「俺は元々、情に生きるタイプじゃない。そろそろ情報局の長官を退任しようかと言うタイミングで声をかけられたもんでな、ダミアン殿下の隠密使として、興味はあったから参加してみたんだがな…やっぱり、そんな片手間に出来るものではないし、安易なものじゃない。だから、新たな隠密使が入った時点で、俺は辞めることにしただけの話だ。勿論、そこで得た情報は誰にも公表しないし、身柄も明かさない。その為に、俺は王都を出て、こんな田舎に来たってことだ」
 その話が、何処まで真実なのかはわからない。ただ…全て偽り、と言う訳でもないのだろう。
「では…"ウェスロー"に関しては…?まだ、在籍しているのですか…?」
 再び問いかけたゼノンに、彼は小さく首を横に振った。
「さぁ、な。俺は王都を出てから、極力王都には近付かないようにしていたからな。詳しいことはわからない。彼奴が何を考えていたのかは…未だにわからないしな」
「ですが、手紙は受け取っていましたよね…?"ラン=ジュイ"から、"アデル"に宛てた手紙を。それも…つい最近、まで」
 そう切り出したエースに、彼は一瞬動きを止めた。
「…誰からそれを?」
「サラから、聞きました。偶然、手紙を見つけたのだと。勿論、貴方の正体は気付いていません。だからこそ、貴方の宛名で来た手紙の中身が"アデル"宛てであることが、疑問だったようです。それを、彼女から相談されました」
「…そう、か。王都へ行った理由はそれだったか。俺はまた…エースとは別に、会いたい相手がいたんだと思っていたんだがな…」
 そう言葉を零すと、グラスの中身を空にしてテーブルへと戻す。
 王都へ来た本当の理由は…ゼノンの手前、敢えてエースは口にはしなかった。勿論、ゼノンも何も言わない。
「"魔界防衛軍"のことは、手紙で知ったんだが…魔界の脅威、らしいな。俺は、"魔界防衛軍"のことは良くわからない。だが…"隠密使"が"魔界防衛軍"となったのなら…心当たりがなくもない」
「…心当たり…と言うと…"オズウェル"に心当たりがある、と言うことですか?」
 問いかけたのは、ゼノン。
「いや、"オズウェル"の名前は、昨日エースから初めて聞いたからな」
「では…"ウェスロー"の方、ですね?」
 そう言われ、彼は思わず苦笑する。
「御前、わかってて言ってるな?」
「まぁ…」
 ゼノンも、くすっと笑いを零した。
「…どう言う事だ?」
 一名、置いていかれたエースだが、ゼノンはエースが持っていたペンを借りると、再び紙にその名前を綴った。
「これが"オズウェル"、でしょ?それでこうすると…"ウェスロー"」
「…あぁ、そうか…そうだったな…」
 今までの流れと同じように、こちらも文字の並びを変えると成立はする。
「これで、"ウェスロー"と"オズウェル"が繋がった、か…だが、ルークの話だと、どちらの名前も名簿にはなかった。と言うことは、どちらも本来の登録名ではなかった、と言うことだよな?だとすると…この流れで行くと、同じ文字を使った別の名が、奴の登録名、と言うことになる…か」
 そう言いながら、彼の様子を伺う。だが、彼は黙って彼らの様子を眺めているだけ。
「本当は…知っているんですよね?"ウェスロー"の、本当の名前…」
 多分、教えては貰えないだろう。そう思いながらも、ゼノンは彼にそう問いかけてみた。
「言っただろう?守秘義務があるんでな。他の奴の事は、俺の口からは言えないな。だが…一つだけ、警告しとく」
「…警告…?」
 その意味深な言葉に、エースもゼノンも僅かに眉を潜める。
 そして…口を開いた彼もまた、神妙な表情に変わる。
「彼奴は…"ウェスロー"は、一筋縄じゃいかない。何を考えていたのか…俺にも理解は出来なかった。かなり厄介な奴だと思え。甘く見てると、御前たちの方が深手を負うからな。まぁ…わかっているとは思うがな、十分肝に銘じろ」
「……」
 その言葉は、グサリと胸に突き刺さる。
 今まで幾度、苦汁を飲んだことか。現にゼノンは生命を落としかけている上に、今回はアリスの片腕も奪われている。気を抜いていた訳ではないが…その冷酷さは、覚悟しておかなければならないのだ。
「取り敢えず…一旦王都に戻って、もう一度名簿を総浚いする必要があるな。その中で、絞り込めれば良いんだがな…」
 大きな溜め息を吐き出したエースは、そう言ってゼノンへと視線を向けた。
「そうだね。デーモンとルークにも話をしなきゃいけないしね。魔界だけじゃない。雷神界にも飛び火している可能性もないとは言えないからね…そっちも、対応しなきゃいけないしね…」
 そんなやり取りと眺めながら、彼は昔王都にいた時の自分を、ぼんやりと思い出していた。
 確かに、仕事上の相棒はいた。けれど、ここまで深く踏み込んだ仲魔は、果たしていただろうか。
 そんな関係を築けた仲魔がいたら…もう少し長く、仕事が出来ただろうか。
 彼らの関係が羨ましいと思う反面…それが械となり、諸刃になるかも知れない。絆の強さが裏目に出て、生命取りにならなければ良いと、心配にさえなる。
 果たして、どちらが良いのか。それは、未だ彼にもわからない。
「…まぁ、頑張れよ」
 くすくすと笑いを零した彼。彼もまた巻き込まれてしまったとは言え…まだまだ、他悪魔事感は否めなかった。
 ただ…今は、彼らの強い絆が良い方向に向かうことを信じるしかなかった。
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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