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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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影従 5
こちらは、本日UPの新作です
 ※シリーズ小説はカップリング小説です。
(勿論DxAですが、ダミアンxルークもあります。
でもこのシリーズのメインはRXです…多分/^^;
6話完結 act.5

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◇◆◇

 "オズウェル"の実名が"ソウェル"だとわかった翌日。ルークは"ソウェル"が在籍しているはずの部署を突き止めると、枢密院へと足を運んでいた。
 そして、その部署の入り口で"ソウェル"を呼び出して貰おうと思ったのだが…主任から返って来た答えは、予想外だった。
「ソウェルは、先日退職いたしましたが…」
「…退職…?」
 思いがけない言葉に、思わず息を飲む。
「それって、いつの話…?」
「三日ほど前です。突然でしたので、こちらも困っているのですが…」
「三日、か…一歩遅かったな…」
 困惑した表情を浮かべる主任。そんな顔を眺めていたルークもまた、困惑した表情を浮かべていた。
 日にちを考えると、アリスの件の少し後。全て、"ソウェル"の計画通りなのだとしたら…ルークたちがここまで追って来ることも、既にわかっていたのだろうか。
「…ソウェルが、何か…」
 軍事局のトップが自局に呼び出すのではなく、わざわざ訪ねて来た、と言うこともあってか、只ならぬ何かを感じたのだろう。問いかける主任の声に、ルークは小さく息を吐き出した。
「いや…大したことじゃないんだけど……えっと、連絡先はわからないかな…自宅とか…」
 訪ねて来た真意を伝えることは出来ない訳で…曖昧に答えを返し、連絡先を問いかけたのだが…主任は小さく溜め息を吐き出し、首を横に振った。
「それが…既に自宅も引き払われておりまして…こちらも連絡が取れないのです。こんな唐突なことをする方ではなかったのですが…」
 ルークよりも若い主任。と言うことは当然"ソウェル"よりかなり若い。かなり年上の部下の思いがけない所業に、心底困ってるようだ。
「じゃあ…辞職願を見せて貰いたいんだけど…もう、上に行ってるかな…?」
 そこに直筆のサインがあれば、以前ルークが副官として送り込まれたシェリーが持って来た"オズウェル"のサインの筆跡と比べることが出来る。それで、同一悪魔なのかの判断は出来ると踏んだのだが…主任は再び、小さく首を横に振った。
「…申し訳ありません。もうここには…恐らく、悪魔事部の方かと…」
「あぁ、そう…じゃあ、そっちを当たってみる。有難うね」
 主任に礼を言って踵を返したルーク。だが、その背中に主任が声をかけて呼び止める。
「あの、ルーク様…」
「…何?」
 呼び止められて振り返ったルークに、主任は少し周りを気にしながら、ルークの傍へと近寄り、そっと声をかける。
「ソウェルのことですが…彼が何かしたのでしょうか…」
「…何で?」
 反対に問い返してみると、その表情がぐっと曇る。
「以前から時々、不穏な動きをしていることがありまして…だからと言って、職務に対して何かあると言う訳ではないのですが…」
「…不穏な動き、って…?」
 職務に対して何かある訳ではないと言いつつも、不穏だと零すと言うことは…恐らく、何か疑わしいことがあったのだろう。それを問いかけてみると、主任は僅かに眉を潜めた。
「わたしがこんなことを言うのは可笑しいかも知れませんが…彼は、わたしよりも長くこの部署にいます。けれど、上を目指そうとする姿は、一度もありません。寧ろ、目立たないようにしているようにしか思えなくて…勿論、彼にも何か事情があるのでしょうが…時々、数日職務を休んだと思ったら、酷く血の匂いがする時もありました。彼は吸血族ではありませんから、通常なら有り得ないことです。流石に何度もそんなことが続くと…奇妙だとしか思えなくて…」
「…成程ね…」
 主任の話を聞きながら、ルークは思いを巡らせる。
 主任が何処まで本当の事を知っているかはわからない。だが、血の匂いを漂わせるほどのことが幾度もとなると、主任でなくても怪訝に思うだろう。
 彼は、何者なのか、と。
「まぁ…色々あるからね。今更だけど、深入りしない方が無難かな。目を瞑ることも大事よ。自分の生命を護る為にも…ね」
「…目を瞑る、ですか…」
「そ。俺は色々踏み込んじまったから、致し方ないってのもあるけど…あんたはまだ無傷だろうから、これ以上踏み込まない方が良いよ。主任としての責任は、もう果たしたからね」
 些か、納得の行かない表情の主任ではあるが…言葉の意味は良くわかっているはず。
 これ以上、自ら危険な環境に足を踏み入れる必要はないのだ、と。
「…わかりました。では、この話はなかったことに…」
「そうだね。それが無難だね」
 ルークは主任の頭をポンポンと軽く叩くと、小さく手を振って踵を返す。
 これ以上、犠牲者を出さない為に。その足止めをする為の説得ならば、幾らでもする。それが、ルークの思いだった。
 それが、不用意に深入りしてアリスの腕を護れなかった自分の、せめてもの償いなのだと。
 小さな溜め息。それは、主任と…そしてルークからも、零れた溜め息だった。

 その足で悪魔事部までやって来たルークであったが、"ソウェル"の辞職願の件を問いかけると、対応に出た悪魔は眉を潜めた。
「"ソウェル"の辞職願はここにはありません」
「…ない?こっちに来てるんじゃないか、って聞いて来たんだけど…まだ上がって来てないの?」
 怪訝そうな表情を浮かべながら問いかけたルークに、担当悪魔は小さく息を吐き出して首を横に振った。
「一度は届きましたが…事務処理が終わった途端、回収されまして…」
「…回収?何処に?」
 本来、悪魔事部で全て処理するはずの辞職願が、何処に回収されると言うのだろうか。
 問いかけた言葉に、担当悪魔はちょっと周囲を気にしながらルークへと顔を寄せた。
「…それが…ダミアン殿下の側近の方が…」
「…あぁ…」
 多分、それはダミアンからの指示だったのだろう。既に回収されてしまった、と言うことは…このまま、彼の存在自体がなかったことにされる可能性もあると言うことで。
「わかった。有難うね」
 のんびりしている場合ではない。そう察したルークは、担当悪魔に礼を言うと、慌しく踵を返してダミアンの執務室へと向かった。


 ダミアンの執務室の前にやって来たルークは、その扉の前でまるでルークを待っているように立っているジュリアンと顔を合わせた。
「…もしかして、俺を待ってた…?」
 問いかけてみると、神妙な顔をしたジュリアンは小さく頷いた。
「多分、"彼"の足取りを追ってここへ来ると思いましたので。ダミアン殿下に御会いになる前に、ちょっと御話が…」
 ルークの傍へ歩み寄り、小さくそう言葉を放つ。
「…まぁ良いよ。何処で話す?」
 ジュリアンの話も是非聞きたいところだったルークは、その提案を受け入れた。
 そして、ジュリアンに促されるまま、普段は使っていない会議室へと足を進めた。
 会議室のドアを完全に閉ざすと、ジュリアンは念の為に…と、結界を張る。そしてそれから漸く、ルークと真っ直ぐに向き合った。
「で?俺に話って?」
 椅子を引き寄せ、腰を下ろしたルークは、未だ立ったままのジュリアンに椅子を勧めつつ、そう問いかける。
 ジュリアンは椅子を断ると、立ったままルークへと視線を向ける。
「追ってらっしゃるのは…"ソウェル"の辞職願、ですよね…?」
「…まぁ良く御存知ですこと。どっから監視してる訳?何処の部署にも諜報員がいるの?」
 皮肉を込めたその言葉に、ジュリアンは小さく息を吐き出した。
「その節は申し訳ありませんでした。諜報員は、何処の部署にもいる訳ではありません。あくまでも、ダミアン殿下に近いところが基準ですので。今回は…"ソウェル"の所属部署の主任より、連絡が入りました。ルーク参謀が、訪ねて来られたと…」
「…しれっとした顔で俺と話して置きながら、真っ直ぐにあんたに連絡するなんて、あの主任は結構喰わせ者だな。何処まで事情を知ってる訳?"ソウェル"が"ウェスロー"って名乗ってることも知ってるの?」
 まさか、あの主任とジュリアンが通じているとは思っていなかったルークは、溜め息を吐き出しつつ、興味深くジュリアンへと視線を向けている。
「詳しいことは知らないはずです。隠密使のことは何も話してはいないはずですから、"ソウェル"が"ウェスロー"であると言うことは知らないはずです。ただ…"ウェスロー"に関しては、十分気をつけるようにと、我々も昔から言われていたので…そんなこともあって、何かあった時はわたくしに連絡を、と言うことにはなっていたのです。多分、"ソウェル"の身元引き受け魔とでも思っていたのではないかと…強ち間違いではありませんが」
 小さな溜め息を吐き出しつつ、そう零すジュリアンに、ルークの興味は更に強くなった。
「十分気をつけるように、って…誰から言われてたの?ダミ様から?」
「いえ…それは、"アデル"様から仕事を引き継いだ時に…ルシフェル元参謀長にも、直々にそう言われておりましたので…」
「…ルシフェル参謀長、ね…」
 最初に隠密使を召集したルシフェル。どうやらジュリアンは、ルシフェルとも面識があったようだ。年はそんなに変わらなくても、自分と比べればジュリアンの方が明らかに在籍年数は長い。その分、彼に関しても色んな姿を見て来たのだろう。そう思うと、ちょっと胸が軋む気がした。
「…因みにさ、あんたをダミ様の隠密使に選んだのも…ルシフェルな訳?」
 ふと、問いかけてみる。するとジュリアンは首を横に振った。
「それは、わたくしにはわかりません。ただ、あの方がまだ御存命の時に数回御会いしたことはあります。その頃のわたくしはまだ隠密使としても駆け出しでしたから、大した仕事は出来ませんでした。"ウェスロー"にはその頃随分助けて貰いましたが…動きと言うか、考え方と言うか…その辺りには十分注意しろとは言われていました。多分、最初から…彼は危険因子として見られていたのではないかと思います。ですから…今回も、辞職願が早々に回収されたのではないかと…」
「…最初から危険因子だとわかっていて、何で隠密使としてずっと傍に置いていたんだろう…危険なら、引き離すべきではなかったのかな…?」
 ジュリアンの話を聞きながら、ルークはそんな疑問にぶち当たる。"アデル"からもルシフェルからも引き継がれ、今でも警戒されている状態であるはずなのに…どうして、野放しにされていたのか、と。
「"ウェスロー"がずっと隠密使として在籍している理由は聞いておりません。ですが、多分…ダミアン様が全て把握していらっしゃるからではないかと…」
「把握って…何処まで?"ソウェル"が"オズウェル"だってことも知ってるってこと?全ての元凶が、彼奴だってことも知ってるってこと…?」
 そう問いかけたルークの声に、ジュリアンの表情がすっと変わる。そして、息を飲む。
「…"ソウェル"が…"オズウェル"…?」
「あれ?知らなかったの?同じ隠密使なのに?あんたたちの名前と同じ、アナグラムじゃん。"ソウェル"は"ウェスロー"であって…"オズウェル"でもある」
 顔色を変えたジュリアンを観察するようにじっと見つめながら、問いかけたルーク。ジュリアンはその問いかけに、首を横に振った。
「存じませんでした…ここ数年はアリスの面倒を見ていましたから、"ウェスロー"とは余り接触がなかったもので…」
 多分、ジュリアンは嘘は言っていない。そう思いつつ、ルークは溜め息を一つ。
「確証はない。でも、多分そうじゃないかと思う。それを確かめる為に、"ソウェル"の辞職願を探しているんだ。俺のところにある"オズウェル"のサインと同じ筆跡なら、それが確証となる。もしかしたら…アリスの辞職願を書いたのも、"ソウェル"かも知れないしね。その辺も色々確かめたかったんだけど…ダミ様に回収された、ってことは…このまま、闇に葬られる可能性もあるかもね。そんな気がして来た」
 ルークは椅子から立ち上がると、そのままドアへと向かって足を進める。
「…と言うことでさ、話がそれだけなら結界を解いてくれる?これでも急いでんの。尤も、あんたがダミ様の命でこのまま俺をここに幽閉するつもりだって言うのなら、強引に突破するけど…?」
 ドアの前でジュリアンを振り返ったルーク。その眼差しは、とても鋭い。
「…解きます。ダミアン殿下からは、そのような指示は受けておりませんので…」
 そう言うと、ジュリアンはドアにかけられた結界を解く。
「一応、あんたに言っとく。"ソウェル"が見つかったら教えて」
「…了解致しました。また改めて話に参ります」
「じゃあ、その時にこの前の"エリカ"の辞職願、持って来てくれる?」
「…畏まりました…」
 完全に納得した訳ではないのだろうが…"ソウェル"が…隠密使としての"ウェスロー"が、"オズウェル"と繋がった以上、野放しには出来ない。それは察したのだろう。ルークの言葉にジュリアンも頷きを返す。
 それを見届けると、ルークは再びダミアンの執務室へと向かった。

◇◆◇

 ダミアンの執務室の前へやって来たルークは、そのままドアをノックする。すると、直ぐに返事が返って来た。
『どうぞ』
 その声に促されるまま、ルークはドアを開けて執務室へと足を踏み入れる。と、その執務机の前にいるデーモンを見つける。
「…あれ?デーさんもいたの…?」
 思わずそう零した言葉に、デーモンは僅かに顔を歪める。
「御前なぁ…吾輩を何だと思っているんだ?これでも副大魔王だぞ?御前がここを訪ねて来るよりも、吾輩が来る回数の方が圧倒的に多いんだが…?」
「…あぁそうだよね、御免…ちょっと、色々考え事してたから…」
 そう言いながら、ルークは執務机で待つダミアンの前へと足を運ぶ。そして、真っ直ぐな金色のその眼差しの前、大きく息を吐き出し、話を切り出した。
「…丁度良いので、デーさんにも……否、デーモン閣下にも、同席して貰って…話を聞かせていただこうかと」
「わたしから、何の話を聞きたいんだい?」
 いつもとは違うルークの姿に、ちょっと怪訝そうな表情を浮かべるデーモンに反し…ダミアンの方は、ルークがやって来た理由を察しているのだろう。いつもと同じ表情、同じ口調で問い返す。
「"ソウェル"の辞職願を渡していただけますか?」
「…は?辞職願、って…どう言う事だ?!」
 話の道筋の見えないデーモンは、当然声を上げる。だが、ルークは表情を変えず、ほんの少しだけデーモンへと視線を送った。
「三日前に、突然辞職願を出して行方不明になってんの。で、その辞職願は…今、ここにある、ってこと」
 唖然とするデーモンから視線を外し、ルークは再びダミアンへと視線を向ける。
「そうですよね?悪魔事部からは、ダミ様の側近が既に回収したと言っていましたから」
「…あぁ、そうだね。"ソウェル"の辞職願は、わたしが持っているよ。だが…御前がそれを追う理由は?」
 冷静にそう返すダミアン。その言葉に、ルークは小さく息を吐き出した。
「"ソウェル"を…"オズウェル"と断定する為、です。筆跡鑑定をさせて貰います。俺が持っている"オズウェル"の署名と、今回の辞職願に書かれている"ソウェル"の署名とを」
「…成程ね。そう言う事なら貸し出そうか。だが、必ずわたしに返すこと。良いね?」
「…わかりました」
 すんなりと了承し、引き出しから一通の封書を取り出したダミアンは、それをルークへと差し出す。受け取ったルークは…と言うと、未だ、物言いたげな表情を浮かべていた。
「…で?御前が聞きたいことはそれだけかい?」
 ダミアン自ら、そう切り出す。ルークは、溜め息をもう一つ吐き出すと…ゆっくりと口を開いた。
「…どう言うつもりなんですか?御存知だったんでしょう?"ソウェル"が"オズウェル"と名乗っていたことを。なのに、どうして…黙っていたんです?」
 重い言葉。そこには、デーモンも口を挟むことが出来なかった。
 ダミアンは…と言うと、ルークから向けられたその言葉に、暫く口を噤んでいたが…やがて、小さな溜め息を吐き出し、目を伏せると、漸く口を開いた。
「…わたしは子供の頃から、"ソウェル"を…"ウェスロー"を知っている。ルシフェルには、幾度も"ウェスロー"に気をつけるようにと念を押されていたし、その意味もわかっているよ。だからこそ、傍に置いていたんだ。目を離さないように、ね。だが…彼は、ずっとわたしに忠実で、とても真っ直ぐで疑うところはなかった。ずっと、そうしていたんだ。"オズウェル"と名乗り出すまでは…ね。一瞬、気を抜いたその時に、彼は変わった。その名を使い始めてからは、まるで別魔格のようだった。まるで…"ターディル"が乗り移っているかのようでね。勿論、警戒はしていた。だが…きっかけが"ターディル"の死だったのだとしたら…そこから動き出すまで、わたしをどう見て、何を考えていたんだろうね。それはわたしにもわからないんだ」
 両手を組み、溜め息を零すダミアン。
 裏切られた傷は、大きい。それはどう見ても明らかだった。けれど…それだけは済まない感情が、ルークには当然あるのだ。
「…だから、揉み消すんですか?"ソウェル"が存在していた事実を丸ごと。その為に…辞職願を処理するつもりだったんですか…?」
 もしそうであるのなら、それは幾らダミアンだとは言え許しがたい。自分たちがどれだけの苦汁を飲まされたか、幾度危険に晒されたのか。それを知っているはずのダミアンだからこそ、納得は出来ないのだ。
 だが、ダミアンは小さく首を振った。
「そんな訳なかろうが。揉み消すつもりは毛頭ない。ジュリアンには"ソウェル"の行方を追うように伝えてある。彼がやったことは事実として罪に問わなければならないからね。それに、既に辞職は受理されている。彼が在籍していたと言う記録も、全て残っている。それを覆すつもりはない。わたしが回収した理由は…それを読めばわかるはずだ。まぁ、そう言うに留めておこうか」
 ダミアンはそう言うと、執務椅子から立ち上がる。そして、気分転換に、と言い残して奥の間へと消えて行った。
 その背中を見送った二名は…御互いに、どう言葉を続けて良いのかわからなかった。
「…取り敢えず…読んでみれば良いんじゃないのか…?そうすれば、回収した理由がわかるんだろう…?」
 固まったままのルークに向け、漸く状況を理解したデーモンがそう声をかける。
「…あぁ言われると、何だか読みづらいよね…」
 溜め息を吐き出したルークは、それでも受け取った封書を開け、中身を取り出すと目を通した。
 そこに綴られていたのは、職務を辞すると言う旨。そして…ダミアンへの詫び状、だった。
「…そりゃ、回収もするか…」
 読み終えるとそれをデーモンへと渡し、再び溜め息を吐き出す。そして、同じように目を通したデーモンもまた、溜め息を一つ吐き出していた。
 回収したのは、破棄する為でも握り潰す為でもない。"彼"が、傍に仕えていた証として。それが例え、過去の事であったとしても…ダミアンにとっては、"ウェスロー"は大事な隠密使だった、と言うことだった。
「傷を…抉ったかな…」
 申し訳なさそうに零したルークに、デーモンは封書を元に戻すと再びルークの手に渡し、その背中を軽く叩いた。
「案ずるな。ダミアン様は、強い方だ。だがそれでも心配だったら、御前がその傷を癒してやれば良いんだ。まぁ…ダミアン様にとって、隠密使はただの盾じゃない。それも、一番長く傍に仕えていてくれたのなら…色んな想いもあったんだろう。だが、ダミアン様はそれでもちゃんと罪を問わねばと追っているんだ。我々は…我々に出来ることをやろう。だから、まず御前はそれで筆跡鑑定をして来い。確証がなければ、我々にはどうすることも出来ないんだ」
「…わかった…」
 溜め息を吐き出したルークは、封書を持ったまま踵を返した。
 来た時とは全く正反対になってしまったその元気のない背中を見送り、デーモンは続きの間のドアをノックする。
「入りますよ」
 そう声をかけ、ドアを開ける。そして、その続きの間のソファーに深く凭れ、天井を振り仰いだままその腕で顔を覆っているダミアンへと歩み寄った。
「ルークは帰りましたよ。吾輩も職務に戻りますが…大丈夫ですか?」
 様子を伺いながらそう問いかけると、ダミアンは大きく息を吐き出し、身体を起こした。
「あぁ、大丈夫。いつまでも凹んでいる訳にもいかないからね。そのうち、ルークが筆跡鑑定の結果を持って来るだろうし、エースが怒鳴り込んで来るかも知れないからね」
「…エースは怒鳴り込んでなんか来ませんよ。彼奴もあれで…今回はちょっと堪えているみたいで」
「…エースが?何故だい?」
 思いがけないデーモンの言葉に、ダミアンの視線がデーモンへと向けられる。その色は、もう殆どいつもと変わらなかった。
「色々…先を越されたから、ですよ。自分の知らないことをルークが山ほど知っていたり、隠密使が使っていた名前の秘密を解くことを、ライデンやゼノンが先に辿り着いてしまったりと…まぁ、色々と。勿論、それで卑屈になっている訳ではありませんが…ちょっとだけ、元気がなくて。それに、ルシフェル参謀長が関わっていたことで、ルークが色々とショックを受けるんじゃないかと、いらない心配までしているもので」
「…そう、か。まぁ…その流れは確かに、エースは気に入らないだろうね。だが…みんなそれぞれ、色んなものを背負っていると言うことだ。ルークだって…いつまでもルシフェルに縛られている訳じゃない。今では、彼奴もルシフェルと同等の身位だ。何の問題もないだろう?」
「多分、ルークのことですから…身位の問題ではないでしょうが」
 思わず苦笑するデーモン。
 そう。多分、ルークは身位のことなど気にしている訳ではないのだ。ルークが一番引っかかっていることは…誰を信じれば良いのか。その、先の見えない不安なのだろう、と。
「ルークに、全て話してやってくれませんか…?誰よりも不審感に苛まれているのは、ルークのはずです。隠密使のことは勿論、貴殿の事も…ルシフェル参謀長の事も。貴殿とルークの絆を断ち切らない為に、不安を…取り除いてやってくれませんか…?」
 デーモンの言葉に、ダミアンは小さな溜め息を吐き出す。
 穏やかなその声。明らかに心配をしているのだが…それでも、彼らの絆を信じているからこそ、どんと構えていられるのだろうと感じた。
「…御前にまで心配をかけるようでは駄目だね。まぁ…今更隠すことでもないしね。彼も…そろそろ、ルークに打ち明けることぐらいは許してくれるだろう」
 そう言ってソファーから立ち上がったダミアンは、ゆっくりと足を進めた。
「今日はもう帰るから。明日までに連絡があれば、屋敷の方に来るように伝えておくれ。ルークも…エースも、ね」
 背中越しに、デーモンにそう声をかける。
「エースの方は、御心配なく。行かないでしょうが、もし出向きそうであれば吾輩が足止めしておきますから」
 笑いながらそう返って来た声に、ダミアンも小さく笑いを零す。そして軽く手を上げると、控えの間を出て行った。
 その背中を見送ったデーモンは、小さな吐息を吐き出す。
 心配がない訳ではない。それは、ダミアンに対しても…ルークに対しても。だが、自分が関わるべきではないと、今は見守ることに徹することにした。
「…大丈夫」
 自身にも言い聞かせるようにつぶやいた言葉。そしてデーモンは、執務へと戻って行った。
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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