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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

壇香 伽羅~causality 1

第四部"for CHILDREN" (略して第四部"C")

こちらは本日UPの新作です。
第四部は徐々にオリキャラメインとなりますので、御注意ください。
興味のある方のみ、どうぞ。(^^;
4話完結 act.1


◇◆◇

 それは、思いがけない呼び出しだった。
 明日から長期休み。その最後の授業が終わり、皆が浮足立っていた。
 そんな中、帰省する予定のなかったエルだったが、寮へ戻る途中に立ち寄った図書館でゼフィー・ゼラルダが待ち構えていた。
「あ、エル。話があるんだけど」
 そう切り出したゼフィーは、エルを奥の資料室へと誘い込む。そして、更に口を開く。
「…父様から、連絡があったんだけど…明日からの休暇、エルを父上様の御屋敷に帰るように伝えてって…」
「…父上の屋敷に…ですか…?」
 怪訝そうに眉を寄せたエル。
「うん。僕も昨夜急にそう言われて。どうしても、って…何だか、急いでるみたいで、今日これから帰った方が良いのかも…」
「…そう言われても…」
 帰るつもりがなかったので、寮に申請も出していない。そして自分が呼び戻される理由もわからない。ただ…ゼフィーの父親たるゼノンが急を要しているようだ、と言う時点で…何か嫌な予感もする。
 もしかしたら、体調の芳しくないエルの父親たるデーモンに、何かあったのかも知れない。
 不意に表情の曇ったエルに、流石にゼフィーも心配になったらしい。
「僕も一緒に行くから…一度、帰ろう?寮の方は、これから申請しても何とかなるよ」
「…ゼフィーさん…」
 何があるかは、帰ってみなければわからない。何とも言えない奇妙な胸騒ぎに…溜め息しか、出なかった。
 結局、その日の夕方にはエルはゼフィーと一緒に実家へと、帰ることとなった。

◇◆◇

 ゼフィーに付き添われ、数年振りに産みの父親の屋敷へと帰って来たエル。
「…連れて来ておいて何だけど……大丈夫?」
 顔色も悪く、不安そうな表情で門の前で動かなくなったエルに、心配そうに声をかけたゼフィー。
 親との関係が決して良好とは言えないことは、ゼフィーも知っていたが…ここまでとは思っていなかった。
 だが、その声にハッとしたように大きく息を吐き出し、エルは改めて顔を上げて門を見上げた。
 エルにしてみれば…こんなに早く、ここへ戻って来るとは思っていなかった。士官学校を卒業し、何処かの局に入局して…その上で、まだ自分が必要とされるのなら…この屋敷には、帰って来られるかと思ってはいた。
「…一緒に…入って貰えますか…?」
 門を見上げたまま、小さく零した言葉。その門を開ける勇気を、貰いたくて。
「…良いよ」
 くすっと、ゼフィーが笑う。
 初めてゼフィーがここに来た時…シリウスに、勇気を貰った。
 そして今度は、自分が勇気をあげる番になるとは。
「行こう」
 そっと手を差し出す。すると、その不安げな眼差しがゼフィーを見つめ…そして小さく息を吐き出してその手を取った。
 しっかりとゼフィーの手を握ったエルは、意を決したようにその門に触れる。来客を判別し、自動で門が開く。つまりは、認証されている来客は簡単に入れるが、認証されていない来客はきちんとした手順を踏まなければ入れない。
 以前ゼフィーが訪れたのは二回。そのどちらも一緒にいたゼノンが門を開けていたので、ゼフィー自身は全く覚えてはいなかった。流石にゼノンの屋敷でも、ここまでのセキュリティではないので、それにはゼフィーも少し驚いていた。
 そんなゼフィーの手を引くように玄関のドアの前までやって来ると、ドアを開けて出迎えたのは、昔と変わらない姿。
「エル様。御帰りなさいませ。そちらは…ゼフィー様、ですね?御無沙汰しております」
 エルのみならず、二度しか訪れたことのないゼフィーのことも覚えている。何から何まで、ゼフィーには驚きしかなかった。
 尤も…冷静に考えれば、呼び出されたのだから一緒に来ることは想定内な訳で…当然、ゼノンから連絡は入っていただろう。全てにおいて圧倒されたばかりに、そこまで思考が追い付かないゼフィーだった。
「えっと…御無沙汰しております…」
 慌てて頭を下げるゼフィーに対し、エルはその使用魔へと視線を向けた。
「…アイラ、父上は…」
 不安そうに問いかけた声に、使用魔…アイラはにっこりと微笑む。
「寝室にいらっしゃいます。ゼノン様も御一緒ですから、大丈夫ですよ」
「…父様は…?」
「エース様でしたら…まだ遠征から戻られておりません。連絡は入れていただいているそうなので、朝までには戻られると思いますよ」
「……父上に…何があったの…?」
 未だに、状況を把握出来ない。それは、エルもゼフィーも同じだった。
 夜だと言うのに、医師たるゼノンが控えている。そして、遠征に出ているエースを呼び戻している。その状況は、どう考えても元気で何の問題もない、と言う話ではない。
 だからこそ、の心配そうな眼差しに…アイラは少し、首を傾げる。
「何も、聞いておられませんか?」
 てっきり、事情を知っての帰宅だと思っていたのだろう。アイラにとっても予想外の様子だったが…そこに声をかけて来たのは、ゼノンだった。
「あぁ、御帰り。御免ね、急に呼び出して」
 階段を下りてやって来たゼノンは、エルの姿を眺め、軽く微笑んだ。
「ゼゼは結構戻って来るけど…エルは久し振りだね。すっかり大きくなって…ゼゼより背も高い?」
「…私のことは…それよりも、父上は…」
 何の話をされているのかと怪訝に思いながら問いかけると、ゼノンは背後の階段…恐らくはその先の、デーモンの寝室を振り返った。
「あぁ…まだ、大丈夫。きっとエースが来るまでは持つよ。顔を見に、行ってあげて」
 その言葉が終わる前に、エルはゼフィーの手を離し、階段を駆け上がって行く。
「エル!」
 慌てて追いかけようとしたゼフィーの腕を捕まえたゼノン。そして、小さく首を横に振る。
「大丈夫だから。御前は、俺と一緒に…ね」
「…父様…」
 心配そうな表情を浮かべるゼフィー。けれど、にっこりと笑うゼノンに、大人しくしているしかなかった。

 デーモンの寝室へとやって来たエル。そのドアをノックすると、中から小さな声が聞こえ、その声に促されるかのようにドアを開けた。
「…父上…」
 ドアの隙間から中を覗き、そう声をかけると…少しだけ上体を起こして視線を向けたデーモンと目が合った。
「…エル…か…」
 ゼノンは大丈夫と言ったが、その姿はどう見ても大丈夫ではない。慌てて傍へと駆け寄ると、辛そうな表情を見せるその顔に少しだけ、笑顔が戻った。
「あぁ…来てくれたのか…」
「父上、しっかりして…」
 その手を握ると、デーモンは大きく息を吐き出し、そして小さく笑った。
「…エルがいてくれたら…百人力、だな」
「…父上…」
 心配そうな表情のままのエルだったが、デーモンはもう一方の手を伸ばし、エルの頬に触れた。
「…御前にな、話しておかなければならないことがあってな…」
「…話…?」
 何を打ち明けられるのだろう。不安そうな表情のエルに、デーモンは握られていた手をそのまま、自分の御腹の上にと置いた。
「…わかる、か…?」
「………」
 デーモンの御腹の上に置かれた手から、デーモンとは違う波動を感じる。その理由は…一つしかない。
「…ここにな、御前の…きょうだいがいる。弟か、妹か…それはまだ、わからないんだけれどな…」
 困惑顔に変わったエル。自分がいない間に…まさか、もう一名の生命が育っていたとは。全く想像していなかった。
「もっと…早く、伝えようと思ったんだが…なかなか言えなくてな…御免な、エル…」
 デーモンの言葉は途切れ途切れで…とても苦しそうで。その時ふと、先ほどアイラとゼノンが言った言葉を思い出した。
 エースは朝までには戻って来ると言っていた。そして、エースが帰って来るまでは持ちそうだ、と。つまり……
「…もう直ぐ…生まれるの…?」
 思わず息を飲み、デーモンの手をしっかりと握り締めた。
 内緒にされていたことを、怒っている場合ではない。後もう少しで、新たな生命が生まれ出でる。ゼノンが慌てて自分たちを呼び戻したのは、その為。
 だがしかし。自分が生まれた時のことを、エルも聞いていた。エルを産んだ後眠りに落ちたデーモンは…一ヶ月も、眠り続けていたと。そしてその間、エルの中で、生命を繋いでいたと。
 もし、また同じことが繰り返されたら。必ずしも安全とは言えない状況の中で、果たして今のデーモンが生きていられるのか。その不安は、徐々に大きくなる。
 けれど、デーモンは気丈に笑って見せた。
「…大丈夫、だから。御前がいてくれるから…吾輩は、頑張れるぞ…」
「…父上…」
 拭えない不安に、心配そうな眼差しは変わらない。けれど、再びエルの頬に手を触れたデーモンは、その眼差しを細め、もう片方の手をしっかりと握り返した。
「…エル。大事なことを…伝えて置く。例え、この子が産まれたとしても…御前は、吾輩の特別、だ。御前が…一番、大好きだからな」
 そう。その想いは、デーモンの中にずっとあった。
 自分の生命を救ってくれたのは、生まれたばかりだったこの愛娘。誰よりも愛おしい想いは、今でも変わりはなかった。
 だからこそ…この今一番大事な時に、帰って来てくれたことが嬉しくて。こうして傍にいてくれることが、何よりも力になる。
「…私も…大好きよ、父上。だから…頑張って…」
 零したその言葉に、デーモンが嬉しそうに笑う。
「…大丈夫…元気が出た」
 その言葉に、エルも少し笑いを零した。
 長い、長い夜。けれど、愛娘から元気と勇気を貰ったデーモンは、エルと共に何とかその夜を越えた。

◇◆◇

 空がうっすらと明るくなって来た頃。デーモンの屋敷に駆け込んで来たのは、エースだった。
「御帰り。待ってたよ」
「…あぁ悪かった…まだ…?」
「うん。みんな来てくれているし、エルが一晩、デーモンに付いていてくれたから大丈夫。でもそろそろ限界だから…直ぐに準備するよ」
 出迎えたゼノンに急かされるように、デーモンの寝室へと向かう。そしてノックして直ぐにそのドアを開けた。
 ベッドの上には、荒い呼吸を零すデーモン。そしてその傍に、しっかりとデーモンの手を握り締めたエルの姿があった。
「…悪い、待たせた…」
 エースも、未だ呼吸は整ってはいない。だが、大急ぎで駆け込んで来たことに、デーモンが笑いを零した。
「待ってたぞ…待ち草臥れた…」
「御免」
 そのままデーモンの傍へと歩み寄ると、今までデーモンの手を握っていたエルが、その場を離れる。
「あぁ、エル…御帰り。悪かったな、帰って来て貰って。有難うな」
 そう言って手を伸ばし、その頭を軽く撫でる。一瞬身を固くしたエルだったが…穏やかなエースの表情に、小さく息を吐き出して首を横に振る。
 そんな様子を部屋の入り口で見ていたゼノンが、口を開く。
「エース、準備に入るよ。エルはそのまま、ここにいて」
 ゼノンの方へと戻って来たエルに、そこで待つように声をかけたゼノンは、寝室の中央へとやって来るとそこに魔法陣を敷いた。そしてエースは自分の左耳の魔力制御のピアス一つを外すと、デーモンを抱き上げてその中央に座る。その姿を確認すると、呪を唱え、魔力を高めるゼノン。
 その一部始終を、息を飲んで見つめていたエルだったが…魔力が満ちて来ると、ゼノンがエルを呼んだ。
「エースの横で、デーモンの手を握っていて」
「…はい」
 ゼノンに指示されるまま、エースの隣へと腰を下ろしてデーモンの手を握り締める。すると、エルの姿にデーモンが笑みを零した。
「…頑張るからな」
「…傍に…いるから」
 そんな二名の姿を横目に、エースも魔力を高める。
「じゃあ…このまま待機、ね。直ぐ戻るから」
 そう言い残し、ゼノンは一旦部屋から出て行く。
「…ゼノン様は、何処へ…?」
 この状況でいなくなると言う状況がわからず、首を傾げるエル。
「この真下に、仲魔たちが待機してる。これから、魔力を上へと送って貰う。俺がそれを受け、デーモンへと流す。生命を繋ぐ為に…みんな、力を分けてくれる。御前もそうやって、生まれたんだ」
 現段階で、魔法陣を維持しているのはエース。当然、制御ピアスを外して限界まで魔力も高めているのだから、話すことも大変なはずなのだが…初めて経験するエルに、状況を説明せざるを得ない。
 そうしている内にゼノンが戻って来る。
「さ、下も準備出来たから。始めるよ」
 ゼノンのその言葉に、エースは改めてしっかりとデーモンを抱き締める。自然と、その手を握っていたエルの手にも力が入る。
 聞き慣れない呪を唱え始めると、エースは大きく息を吐き出しながら床下から上がって来る魔力を引き込み、自分の魔力と融合させてから生命エネルギーとしてゆっくりとデーモンへと送り込む。エルを産んだ時と同じ手順だが、あの時よりはデーモンの体調もだいぶ良い。おまけにエルもデーモンを支えるエネルギーになる。そう考えれば、エースの負担もあの時ほどではなかった。それでも大変であることには変わりないが。
「召喚するよ!」
 その声と共にデーモンの身体の中から眩い光の核がゆっくりと浮かび上がる。
「…産まれた…」
 光の核がゆっくりと小さな肉体へと変貌を遂げていく様子を見つめながら、エルが小さく言葉を零す。
 エースもゼノンも、未だ気を集中させる中、手を伸ばしたのはデーモン。
「…おいで…」
 掠れた声だが、その声に導かれるように小さな身体が降りて来る。そしてデーモンの腕の中にしっかりと抱き留められると、安堵の吐息が零れた。
「…良かった…」
 泣き声を上げる小さな生命に、愛おしそうに頬を寄せる。そしてその温もりを確かめると、エルの頭を抱き寄せたデーモン。
「…有難う、な…」
「…父上…」
 笑うその顔に、エルも安堵の吐息を吐き出し、デーモンへと寄り添う。
 そうしている内にゼノンの呪も終わり、エースもゆっくりと魔力を押さえて行く。
「…無事で良かった。今度は男の子だね」
 ゼノンも安堵の言葉と笑みを零す。
「あぁ、良かった…」
 エースもそう零すと、デーモンを抱き締めていたその腕で、エルと生まれたばかりの子供も一緒に抱き寄せる。
 何とか無事に、子供を召喚出来た。だが、まだ気は抜けない。これからが、デーモンにとっても正念場でもあった。

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