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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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ひかりのしずく 3

第四部"for EXTRA" (略して第四部"E")

こちらは、本日UPの新作です。
第四部は徐々にオリキャラメインとなりますので、御注意ください。
興味のある方のみ、どうぞ。(^^;
3話完結 act.3

拍手[1回]


◇◆◇

 王都へ戻ったラファエルとレイは、翌日直ぐに仕事に取り掛かっていた。
 目星はつけてあった。だからこそ、王都に戻って直ぐにまずレイが動いた。
 そして数刻の後…レイは、その報告書を、ラファエルの元へと持って戻って来た。
「予想通りです。やはり彼女は…王都にいませんでした」
 そう言いながら、報告書をラファエルへと差し出す。
「やはりそうですか…で、彼女の行方は?」
 問いかけた声に、レイは首を横に振る。
「辞職してます。既に、軍にはいません。今何処で何をしているのか…この短時間では、追い切れません」
 大きな溜め息が零れた。
「…逃げられましたか…取り敢えず、魔界にも連絡を入れておきましょうか。彼らが追っている"魔界防衛軍"の残党が、天界に逃げ込んだようだ、と…」
 そう言いながら、ラファエルは魔界の軍事局へと回線を繋いだ。
 呼び出しから暫し。繋がった先には、見覚えのある軍事局総参謀長の姿。
『ラファエル。どうしたの?』
 当然と言えば当然。敵対国である天界からの連絡に、驚かない訳がない。
「元気そうですね。安心しました」
 くすっと笑いを零したラファエルであったが、直ぐにその表情を引き締める。
「実はですね、貴方に…と言うか、魔界に、知らせておいた方が良いかと思いましてね」
 そう切り出したラファエル。当然、相手は怪訝そうに眉を寄せている。
『魔界に知らせておきたいこと…?』
「えぇ。以前、連絡をいただきましたよね?"魔界防衛軍"の首謀者が行方不明だと。それに関して…ちょっと気になることがありましてね」
『"魔界防衛軍"の首謀者って…オズウェルのこと?』
「えぇ、それから…"アリス"と言う名の"仮面師"に関しても」
 画面の向こうで、彼が息を飲んだことがわかった。
『アリスを見つけたの…?』
 そう問いかける黒曜石の眼差しが、僅かに揺らめいている。
「…確実に彼女だ、と言う証拠はありません。けれど、魔界からの連絡に良く似た容姿でした。色薄の金色の短い髪に薄い碧色の瞳。ただ…右腕はあります。ですから、確証はないのです」
『…そう…』
 溜め息が零れる。その溜め息の意味までは、ラファエルにはわからない。ただ…彼が、一瞬だがとても辛そうな表情を浮かべたことだけは見逃さなかった。
「彼女と…何か?」
 思わず問いかけた声に、彼はふっとその視線を上げた。
『…何か、って言われてもね…まぁ、色々ね。ただ…彼女の…"アリス"の右腕は、俺の所為で切り落とされたんだ。恐らく一緒にいるであろう、オズウェルに…ね。俺は…彼女を、助けてやれなかった。だから…』
「…ルーク…」
 唇を噛み締め、その感情を抑える。そして大きく息を吐き出すと、彼は再び真っ直ぐにラファエルを見つめた。
『御免、話が脇道に逸れた。で?オズウェルとアリスであろう二名を見つけた経緯は?』
 気持ちを切り替え、任務に向かう。そんな姿に、ラファエルは小さな吐息を一つ。そして、言葉を続けた。
「まぁ、こちらにも色々ありまして…数ヶ月前から、天界の郊外にある精霊の森の一つが狙われているようでした。最初は伐採の危機に。そちらは回避しましたが…昨日、火をつけられ半ば壊滅状態です。そのどちらにも…ガブリエルが関わっていると。ですが、実際彼女は何も関わってはいません。それはわたしが把握する範囲ですが、事実だと思っています。そうなると、誰かが彼女の名を語り…そしてその姿を借り、彼らの森を狙ったとしか思えない。その時に、ふと過ぎったのですよ。もしかしたら…彼女の姿をしていたのは、魔界から来た"仮面師"ではないか…と。まだ確証はありませんが…少なくとも、本物の彼女に、森に火をつける理由はありません」
『…成程ね。まぁ、それがアリスかも…と言う理由はわかった。で、オズウェルは何処に出て来る訳?』
「それは、最初の伐採騒動の時に聞いた話です。わたしとレイは、一度彼女と会いました。彼女はガブリエルが残した軍にいましたが…その辺りがかなり複雑なんですよ。ガブリエルが王都から去ってから、彼女はその執務命令を受けています。書類のサインもニセモノなのは確かです。そして彼女自身、職務歴を照らし合わせても、ガブリエルが彼女を知らないのは可笑しいと言う事実に当たりまして。そのことを彼女に言及すると…彼女は、記憶喪失だと言い出しましてね。自分がいつから軍にいたのかもわからない、と。そして、彼女を保護した相手ですが…濃茶色の髪と、髭しか覚えていないと。勿論、名前も知らない。けれど、彼女が復職する手伝いをしてくれた…と。奇妙この上ない話です。ただ…それが"魔界防衛軍"の首謀者であるのなら、話はわかります。魔界で起こった事件と…良く似ている」
『…確かに。今まで、オズウェルと出会った悪魔は、みんな同じことを言っていたしね。濃茶色の髪と、同色の瞳。それしか覚えていない。顔も、名前も、記憶にない。まぁ、今回のことでは瞳の色と髭が違うけど…確かに天界には少ない色だしね。オズウェルである可能性はかなり高い。アリスも、オズウェルに良いように操られているのだとしたら…協力者である可能性も高い…か。ただ…わからないのが、ないはずの右腕…だよな…』
 ラファエルの話を聞き、彼の表情は真剣そのもの。
「確かにそうですね。完全に切り落とされているはずの腕であれば、動かすことは容易ではありません。それが可能な医師か…若しくは、同等に動かすことが出来る義手か。我々が知らないだけで、それが可能な状況があるのかも知れません。それに…我々が見知っている彼女の名前は"リシア"ですが…文字を入れ替えれば"アリス"になります。アナグラムが得意なようですから、その辺りも一致しています。一応…今回の森林火災に関しては、ガブリエルの目撃情報をもう一度正確に調べて貰えるよう話はしてあります。その結果次第で…また、信憑性は変わるかと」
『そうだね。天界にいるのであれば、こっちからはどうすることも出来ないけど…何か動きがあったら、また連絡してくれると有難いんだけど…』
 様子を伺うように問いかけた彼の言葉に、ラファエルは小さく頷く。
「わかりました。こちらで何かわかれば連絡します。どうやら…天界に於いても、彼らは脅威になりつつあるようですからね…」
 そう。このまま放っておいたら…確実に、天界の中枢を突いて来るはず。
 総帥もガブリエルもいない…一番手薄である、この時期に。
 回線を切ったラファエルは、大きな溜め息を一つ。
「…大丈夫ですか?幾らルークとは言え、あそこまで天界の状況を細かに伝えてしまって…」
 先ほどの会話の深さに、レイは心配そうに問いかける。
「大丈夫ですよ。ルークなら。今は、雷帝とゼノン殿の結婚も控えていますし、魔界でもダミアン殿下も御婚約されたようですから、尚更彼らが天界に襲撃して来る余裕はないはずです。それに…ルークの表情を見たでしょう?"リシア"は…いえ、"アリス"は、どうやらルークと何かあるようです。そうでなければ…そこまで彼女に執着はしないでしょうから」
 溜め息と共に零した言葉に、レイも小さく溜め息を吐き出す。
「そうですね。取り敢えず…攻め入られる可能性は低いですかね。一応、リシアに関しては根回しをしておきます。また、軍に戻って来る可能性はありますからね。それから…濃茶色の髪の男も」
「御願いします」
 その辺りに関しては…見つかる可能性はかなり低い。そう思いつつも、根回しをしておいた方が安心なのは確かだった。
「後は…もう少し、"ガブリエル"の目撃情報がはっきりすることを願うのみですかね」
 そればかりは、彼らにはどうしようもない。
 今は、ヴィニーからの連絡を待つしかなかった。

◇◆◇

 数日後。ガブリエルから連絡が入り、ラファエルは再び郊外の彼女の屋敷を訪れていた。
 そこには、既に待ち構えていたヴィニーの姿もある。
「先日の話の結果だ」
 ヴィニーはそう話を切り出す。
「こちらの目撃情報では、やはり森で見たのはガブリエルだと皆口を揃えてそう言っていた」
「容姿に間違いはないのですか?」
 問いかけるラファエルの声に、ヴィニーは眉を潜める。
「見間違えるはずはない。ここ最近は足が遠退いていたようだが、我々は幾度もガブリエルを見ているんだ。顔にも姿にも見覚えがある。その姿は昔と何も変わっていないと言っていた」
「…昔と変わりない…?」
 その言葉に、引っかかったのはラファエル。
「あぁそうだ。我々の森に来ていた頃と、何も変わらない。そう言っていた」
「…そうですか」
 小さく吐息を吐き出すと、その視線をガブリエルに向けた。
「ガブリエル。安静のところ申し訳ありませんが…ベッドから降りていただけますか?」
「…えぇ、良いわ。大丈夫よ」
 怪訝そうに眉を寄せるヴィニーの前、ベッドから降りたガブリエル。その姿を見た瞬間、ヴィニーは一つ、息を飲んだ。
「…変わって…いますよね?」
 ラファエルがそう言うのも当然。産み月であるガブリエルの御腹はかなり大きく、以前のほっそりとした姿とは明らかに違うのだ。その明らかに違う姿に、ヴィニーは暫くガブリエルを見つめていたが、やがて大きな溜め息を吐き出した。
「…聞いてないぞ…グレインの子か…?」
「…えぇ、そうです。グレインは…私が貴方たち一族に良く思われていないことを知っていたわ。だからこそ、余計な争いを避ける為に黙っていると言っていたの。だから、誰にも言っていなかったはず」
「…そう、か…」
 再び、大きな溜め息を吐き出すヴィニー。その姿に、ラファエルはガブリエルをベッドへと促し、言葉を続けた。
「目撃されたガブリエルは…明らかに別人、ですよね。それならば…我々が捜している"仮面師"が、ガブリエルの振りをして立ち回っていた可能性がかなり高い。どう見ても、今のガブリエルは昔の姿と変わりないとは言えませんから。つまり…ここにいるガブリエルは、森の消滅には一切関わっていない、と言うことです。それは納得していただけますか?」
「……あぁ、わかった。それは納得しよう。だが…だからと言って、それで全ておしまいじゃない。"仮面師"って一体誰だ?」
 溜め息を吐き出しながらソファーに腰を落ち着けたヴィニーに、ラファエルが答える。
「我々が指す"仮面師"は、魔界から逃げ込んで来た天界にはいない種族ですから、知らなくても無理はありません。簡単に説明すると…"仮面師"とは、他種族の髪の毛、爪などの細胞が一つでもあれば、それを自身の仮面に取りこむことによって、その細胞の持ち主の姿形・声までも、完璧に模倣出来る者を指すそうです。魔族の系列ですが、その顔に紋様はないので、天界にいても気付かれない可能性が高いです。今回、我々がそうであろうと目星をつけた相手も、パッと見は天界人に見えます。勿論、はっきりとした確証はありませんが…事件の前に局を辞め、姿を消しています。念の為、追跡してはいますが…他の誰かの姿になってしまえば、それ以上追うことは出来ません。逃げられてしまったと言えばそれまでです。ですから…まず、そう言う種族がいると言うことを理解していただき、貴方の一族に説得していただきたいのです。ガブリエルは無実だと言うことを」
 だが、ヴィニーは苦渋の表情で首を横に振った。
「話をするのは簡単だ。だが、長を始め…残された一族の者たちは、ガブリエルが無実だとしても…大勢の仲間を失った今、彼女の無実を認めはしないだろう。あんたたちが何を言おうが、何をしようが…それはきっと無理だ」
「………」
 その重い言葉の意味は、誰もが何となくだがわかっていた。
 全て…ガブリエルが、グレインと出会ったことが罪なのだ、と。一族の判断はそう結論付けるのだと。
「…我々精霊は…外部の種族との交流を、好意的には受け取らない。勿論、グレインのように外界へと視野を広げる仲間がいることも事実だが…それでさえ、古い仕来りに捕らわれる長には気に入らないことだ。だが、仲間は仲間だ。幾らきっかけが我々の仲間だったとしても、向けられる敵意は当然、外界に対するモノだ。それは…多分、一生変わらない。それは、俺が幾ら説得したところで翻されることでもない。仲間を失った穴は、それだけ大きい。それを忘れるな」
 そう言い放つと、ヴィニーは席を立つ。
「長に…話だけはしておく。まぁ…結果を期待するな」
 それだけ言うと、踵を返して部屋を出て行く。
 ドアが閉まる音を聞くと、溜め息が零れる。
「…わかってはいたことですが…やはり、現実は厳しいですね」
 口を開いたのは、ラファエル。
「仕方ないわ。元々…きっかけを作ったのは私だもの。私が咎められることは仕方がない。でも…今回のことは、私だけの話じゃない。その"仮面師"に関しては…放って置く訳にはいかないようね」
「そうですね。追跡をかけていますが、何処まで把握出来るか…さっきも言った通り、まぁ、期待は出来ません。後は…自分たちで用心するしかない。ただ…魔界で起こっていたことを考えると…貴女の姿を利用したと言うのなら…貴女が狙われている可能性は、かなり高いのだと思います」
 そう言いながら、ラファエルは記憶を辿る。
「以前魔界から届いた文書もそうですが…ルークとも少し話をしました。その後、こちらでも少し調べました。"魔界防衛軍"は…ターゲットを、徹底的に追い詰め、どん底に突き落とす。その為に、そのターゲットの最愛の者を狙う傾向にあるようです。一番最初にその存在が魔界で確認されたのは、"革命"と言われた事件。ルークの真白き翼が切られたあの時です。その時のターゲットは、どうやらデーモン閣下…閣下を徹底的に潰す為に恋悪魔たるエース長官を狙い、結局返り討ちにされています。その時の首謀者はエース長官の手で止めを刺されたようですが、その後再び"魔界防衛軍"の残党が現れた。こちらの首謀者は明らかではありませんが、どうやら初代"魔界防衛軍"隊長の血を引く息子のようです。ゼノン博士が失踪なさるきっかけになった、魔界全土を揺るがしたウィルスの蔓延。どうやら、その辺りで世代交代をしたようです」
 そこで一旦言葉を切り、大きく息を吐き出す。
 その表情は、とても真剣で。そして、天界の上層部として、自分自身でも改めて今回の事件の整理をしているようで。
「二度目のターゲットはライデン殿下。殿下を追い詰め、雷神界を手に入れる為に。その為に、ゼノン博士を狙い、ウィルスを蔓延させた…そしてそれも彼らの手で終結した後、三度目のターゲットとなったのはルーク。ルークを追い詰める為に…影に妖魔を潜ませたり、"アリス"を利用した。けれど、最終的に追い詰められたのは首謀者自身…その結果、"アリス"の腕を切り落とし、それをルークへの見せしめとした後、"アリス"を連れて姿を消した…その手法を考えると…今回の事件が天界を狙っているのだとしたら…貴女を追い詰める為に、あの森を狙った。そう考えるのが一番容易です。貴女を再起不能にまで追い込めば…ミカエルのいない今、天界を手に入れるのは容易なのだろう、と…ね」
「…成程ね。そう言うことなのね…だったら…この先のことをきちんとしないといけないわね…」
 ラファエルの言葉に、ガブリエルは何かを考えているようだ。
 自分が、狙われているのなら。その為に、精霊の森が…グレインが、狙われていたと言うのなら。その責任は、自分の手で取らなければ。ガブリエルの表情は、以前の…天界の、ミカエルの片腕として軍を率いていた頃と変わらない。
「…何を…考えています…?」
 ふと問いかけたラファエルに、ガブリエルは大きく息を吐き出した。
「今はまだ…何も出来ないわ。こんな状態では、貴方に迷惑をかけるだけだもの。とにかく、この子を無事に産まないとね」
「ガブリエル…」
 もう一つ大きく息を吐き出すと、ガブリエルは小さく笑いを零した。
「"魔界防衛軍"のことを教えてくれて有難う。こちらのことは、私に出来ることを考えるわ。だから王都は…今は貴方が、護ってください」
 真っ直ぐに向けられたその眼差しは、彼女の意思を明らかにしていた。
 その姿に、ラファエルは小さく息を吐く。
「…今は、決して無理をしないで。健やかな子を、産んでください。それが…グレインの願いだと思いますから」
「…そうね。有難う」
 小さく答えた声。その心は、既に決まっていた。

◇◆◇

 それから暫くして、ラファエルの元に入った連絡。
 それは、彼女が無事に子供を産んだ、と言う連絡だった。
 その連絡を受けたラファエルは、祝いの品を手に彼女の屋敷を訪れた。
 リビングへと通されると、そこには既にヴィニーの姿があった。
「…貴方まで…」
 ソファーに座るその姿は、ラファエルの言葉に溜め息を一つ。
「呼ばれたんだ。ガブリエルに。別にあんたたちに会おうと思ってた訳じゃないけどな」
 不愉快そうな表情は、ヴィニーも何故ここへ呼ばれたのかがわからない、と言った様子だった。
「御揃いになりましたので、こちらへどうぞ」
 使用人に案内されるまま、寝室へと向かう。そしてそのドアを潜ると、ベッドに納まっているガブリエルと、その横の小さなベッドが見えた。
「ガブリエル。出産、おめでとうございます」
「…おめでとう…」
 ラファエルとヴィニーがそう声をかけると、ガブリエルは小さく笑った。
「有難う。見てやってくれる?」
 とても穏やかに、そう言ったガブリエルの声に、彼らはそっと小さなベッドへと歩み寄る。
 小さなベッドには、まだ産まれて間もない小さな赤ん坊の姿。薄い金色の髪。眠っている為目の色はわからないが…それはまさしく、"天使様"に相違なかった。
「この子の名前はまだ決まっていないけれど…男の子よ」
 穏やかなその声は、母の声。彼女がずっと願っていた…倖せがそこにあった。
 だがしかし。そう言った直後、ガブリエルの視線は、ヴィニーへと向いた。
「ヴィニー。貴方に御願いがあるの」
「…御願い…?」
 何を言い出すのか、まるで見当も付かない。そんな表情のヴィニーに、ガブリエルはその眼差しを伏せた。
 そして。
「この子を…貴方の一族で、預かって欲しいの」
「ガブリエル…」
 思いがけない言葉。それは、誰もが息を飲む言葉だった。
「ガブリエル、何を…この子と倖せになるのでは…」
 思わず口にしたラファエルの言葉に、ガブリエルは眼差しを上げる。そして、真っ直ぐに向けられた金色の眼差しは…先ほどとはまるで違っていた。
「色々…考えたの。これからのことを。もしも、私が"魔界防衛軍"に狙われているのなら…王都にいる方が身動きが取り易い。でも、この子は…私と一緒に王都にいたら、きっと狙われてしまう。だったら、離れて暮らす方がこの子の為だわ。私の格好をした"仮面師"が、大きな御腹をしていなかったのは、私が、身ごもっていることを知らなかったからでしょう?なら、このまま私の子だと知られないことが一番安全でしょう?この子の生命を護る為に…私は、この子を彼らに預けるの。長にとっても、その方が安心だと思うわ。だから、ヴィニーを呼んだの」
「王都にいる方が、って…戻って来る、と言うことですか…?」
 問い返した声に、ガブリエルは頷きを返す。
「勿論、すんなり元の身位に戻ろうとは思っていないわ。でも、こっちにいるよりは何かあった時に動きがわかるでしょう?それに…貴方に、王都の全てを押し付けているのは…流石に、申し訳ないから」
「…ガブリエル…」
 些か困惑気味のラファエルと同じく…ヴィニーも何処か困惑した表情を見せていた。
「…勝手だな、あんたは」
 溜め息と共に零れた言葉。けれど、ガブリエルの表情は変わらない。
「…まぁ、グレインの血を引いているのなら…長はきっと、文句は言わない。寧ろ、あんたが王都へ戻ってこの子がやって来るのなら、諸手を挙げて賛成するだろうな。まだ産まれたばかりだから、もう少し落ち着いてからでも良いんだろう…?」
「…そうね。でも早いうちに戻るつもりよ。そのつもりで…御願いします」
 既に、ガブリエルの中では決定事項。その姿は、まさに王都にいた頃と寸分違わない。
 確かにガブリエルが王都へ戻って来てくれるのなら…元の身位に戻ってくれるのなら。ラファエルの職務も楽になるのは確かなこと。そして、軍部の威力も今よりずっと上がるはず。
 けれど、それが本当にガブリエルの倖せなのか…と思うと、胸が痛む。
 だがしかし。決定事項であるのなら。歩いて行かなければならない道であるのなら。
「…本当に…良いんですね?離れて暮らして…」
 もう一度、確認するように問いかけたラファエルに、ガブリエルは頷きを返す。
「…私の身勝手で…この子を振り回すことはわかってる。でも…生命を護るとは、そう言うことも含まれると思っているの。王都にいては、私はこの子を護れない。この子の生命を危険に晒すことは出来ないの。いつか、この子に恨まれるであろうこともわかっているわ。でも…例え憎まれたとしても、恨まれたとしても…生きていてくれればそれで良いの。駄目ね、私はやっぱり…母親にはなれないのかも知れない」
 小さく零した溜め息は…消えない過去を背負っている証。
「過去は…今更、どうにもなりません。これからの未来を、貴女がどう生きて行くか…だと思います。貴女の気持ちは考慮します。貴女のことですから…二つのことを一緒出来ないことはわかっています。貴女は、根っからの戦士ですからね…職務復帰の件は、少し考慮します。貴女の側近だったザフェルがそのまま軍を率いていますし…彼が納得すれば、元に戻ることは可能かも知れませんが…」
 ラファエルの言葉に、ガブリエルは首を横に振る。
「大丈夫よ、ラファエル。自分のことは自分でするわ。さっきも言った通り、すんなり元の身位に戻ろうとは思っていないから」
 その先に、どんな未来があるとしても。生きていてくれれば…生まれて来た子供が、倖せであってくれるのなら。そこが、自分の傍で在るとは限らないのだから。
「…ヴィニー。この子を…御願いします」
 頭を下げるガブリエルに、今まで黙って聞いていたヴィニーは溜め息を吐き出す。
「…わかった。了承しよう」
 ヴィニーの本心は…その表情からは読めない。けれど、王都を知らない自分の立場上、ガブリエルの仕事に関することは口出しは出来ない。そして…彼女の生き方に対しても。
「有難う」
 にっこりと微笑んだガブリエルは、その視線を眠っている子供へと向けた。
 生まれたばかりの小さな我が子。ここまでじっくりと見つめることは、以前は出来なかった。
「…産まれてくれて有難う」
 その言葉の重みは、皆の胸に残っていた。


 それから一ヶ月程が経った頃。ガブリエルの姿は、王都にあった。
 ガブリエルが嘗ての側近であったザフェルに会いに行った時には、既にラファエルが話をつけていた。
「…御帰りなさい、ガブリエル様。ここは…以前と変わらずに、貴女の居場所です」
 にっこりと微笑むザフェルに、小さな溜め息が一つ。
「ラファエルったら…勝手なことを…」
 そう零しながらも、くすっと零れた笑い。
「わたしは、貴女の跡を継いで軍を引き受けました。けれどやはり、貴女でなければ、彼らは言うことを聞きません。貴女が育てた軍ですから。御自分の手で、最後まで見ていただかないと。ですから、また…宜しく御願い致します」
 ザフェルが差し出したその手を、ガブリエルは一瞬躊躇った後、しっかりと握り締めた。
「宜しく御願いします、ザフェル」
 ラファエルによって、その身位は、再び彼女に戻された。
 そして、王都に再びガブリエルの姿が戻って来た。
 王都を護る為に。そして…離れた我が子を、護る為に。

◇◆◇

 "魔界防衛軍"の首謀者と思われる濃茶色の髪と髭の男。
 彼に連れ去られたと思われている片腕の"仮面師"。
 二名の姿は、王都からは完全に姿を消していた。
 追うことの出来なかった彼らは、魔界だけではなく…天界にとっても、脅威として、その警戒の中にあった。
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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