忍者ブログ

聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

こころおぼえ 前編
本日UPの新作です。
こちらは、今年の『夏恒例アンケート』の際に、
つめえり様よりリクエストいただいたものです。
今回もちょい長めだったので、前後編です。
リクエスト内容は、最終UPで。

拍手[3回]


◇◆◇

 季節は秋から冬へと変わる。
 その日はいつもと変わらない。だが、人間界に行っていた大魔王陛下が魔界に戻られた、との連絡を受け、不在の間に溜まった書類を持って出かけていた。
 大魔王の執務室へと向かう途中。ふと思い出したように、建物の外へ出て裏手へと回る。
 副大魔王の執務室の窓から見下ろす小道。そこに聳える、一本の大きな木。
 人間界から一本だけ持ち込んだその木は、恋悪魔が好きな桜の木。春になれば淡いピンクの花が咲き乱れるが、今は紅葉の終わった葉は落ちてしまっていた。
 すっかり寂しくなったその木を見上げ、幹にそっと手を触れる。
「…何だか、慌ただしかったな…」
 そう言いながら、思わず苦笑する。
 つい数か月前。思い切り良く突っ走った媒体のおかげで、まさに十六年振りに人間界のステージに立った。尤も…人間界の諸々な事情により、昔のように信者たちが目の前にいた訳ではない。
 無機質な撮影カメラや沢山のマイク、機材を前に…と言う状況ではあったが、それはそれである意味忘れられない状況。それを良い思い出だったと振り返れれば、それに越したことはないが……まぁ、不満は特に残っていないので、納得出来たのだろう、と判断するしかなかったが。
 そんなことを思い出しながら、もう一度苦笑する。
 その時ふと…何かを感じたような気がした。
「……何だ?」
 その"何か"が何なのかはわからない。気を探ってみても、何がある訳じゃない。
「…気の所為、か…」
 特に何も感じないのだから、先程の"何か"は、きっと気の所為。そう思いながら、小さく息を吐き出す。
「じゃあ、またな」
 木の幹を軽く叩き、そう声をかける。そして本来の目的であった大魔王の執務室へと向かったのだった。
 もしもその時、振り返っていたら…その変化に、気付いたかも知れない。けれど、振り向くことはなかった。
 昼日中の明るい日差しの中、桜の木全体が…日差しに紛れるかのように、ほんのりと、光を纏っていた。

◇◆◇

 その日はオフ。だが、数日後のライブに向けて必要な譜面を確認し、セットリストの準備していたのだが…その譜面の間から、一枚の紙がひらりと床に落ちた。
「…これ何だっけ…?」
 裏向きに落ちたので、何が書いてあったのかはわからない。手を伸ばしてその紙を拾い上げ、書いてあるものを確認する。
「…あぁ…」
 それは、数か月前に貰った、選曲リスト。しかも…"聖飢魔Ⅱ"の。
 そう。数か月前、自身が十六年振りに参戦すると公言し、選曲会議の際に受け取ったモノだった。
「…正直、もういらないんだけどな…」
 そう言いながらも、捨てるのは何処かはばかられる。そう思いながら、ぼんやりとそのリストを眺めていた。
 自身が……と言うか、実際に参加したのは主たる悪魔の"エース"だったが…演奏したのはほんの数曲。なので、リストの中の殆どの曲を主たる悪魔は今回演奏してはいない。既に収録も終わり、言ってしまえば既にツアーも始まっており…自分には無用の物。勿論、過去には主たる悪魔と共に、嫌と言うほど練習も演奏もした曲ばかり。思い出がないと言えば噓になる。
 だからと言って、今でも直ぐに弾けるか、と言われれば…弾けないことはないが、人前で披露するには流石に納得のいく出来ではない。勿論、弾く機会もそうそうないが。
 そう思いながら、選曲リストの紙をテーブルの上に置く。そして、再び本来の作業に戻って行く。
 だがふと、その鼻先を掠めた匂い。
「…何の匂いだ…?」
 何処から匂って来るのか…と気にして見るも、感じたのは先ほどのほんの一瞬のみ。その後は、何も感じなかった。
「…気の所為、か…」
 首を傾げながら、小さく息を吐き出す。そして再び、作業に戻ったのだった。

◇◆◇

 その日は朝からツアーの準備に忙しかった。
 既に会場入りをし、準備を整えつつ…ふと、気になって口を開く。
「…ねぇ、この間のトークタイムでさ、長官の代わりにソロ弾いた、って言ってたじゃない?」
「うん?あぁ、そう。昔の話、ね。それが…?」
 不意にそう話を切り出され、なぜ今その話を…?と、当然の疑問。
 すると、くすっと小さな笑いが零れた。
「いや、何だかふと思い出してね。閣下はその時、どんな顔してたのかな~と思って」
「覚えてないな~。だって俺、弾くのに必死だったし」
 こちらも懐かしそうに、苦笑する。
 それは既に遠い記憶。打ち上げの場だったとは言え、雑に熟す訳にもいかず、必死に弾いたことは覚えているが…笑う相棒以外の構成員の顔までは流石に覚えていない。
 いつもは、当然そこにあるべきだった音。けれど、同じ音でも同じメロディでも、弾き手が変われば微妙にニュアンスも変わる。それは、彼らも十分経験済み。
 いつもとは違うその音をどう感じたのかは、感じる本魔にしかわからない。
「でもまぁ…弾き手が違ったことはわかるよね、きっと」
 長年聞いて来た音は、当然聞き分けられるだろう。
 遠くの方で、そんな会話を耳にしていたリズムセクションの二名も、くすっと笑いを零す。
「まぁ…エースの音は、聞き間違えないよね。デーさんなら」
「多分…ね」
 くすくすと笑うこちらの二名。そして更に少し離れたところで同じ話を立ち聞きしてた総裁は…何となく、苦笑する。
 彼らは、自分のことを何だと思っているのか…と。
 そう思いつつ、何気なく壁に貼ってあるセットリストへと視線を向けた。
 今日も、その曲は演奏される。勿論…あの頃とは、弾き手も楽器そのものも変わっているが。
「まぁ…楽しいよな、こんなのも」
 少し前なら、不本意が先に立っていた。けれど今は、それなりに楽しい。そして何より…ほんの少しだが、十六年振りに、最愛の悪魔が隣に立ってくれた。それだけで申し分ない。
 実に穏やかに笑う。その姿が、誰もにとって安心する要因にもなっていた。
 今出来ることを精一杯やって、精一杯楽しもう。
 その想いは、誰もが同じだった。

◇◆◇

 大魔王陛下の執務室へとやって来た彼は、上機嫌なその姿に思わず苦笑する。
「随分御機嫌じゃないですか」
 書類を出しながらそう声をかけると、大魔王たるダミアンはにっこりと笑う。
「まぁ、ね。やっぱり人間界は良いね。楽しかったよ」
 またそのうちに出向くだろうが、魔界へ戻って来て改めてその環境を振り返ると、その感想が最初に出て来る。つまりは、それが本心なのだろう。
「御機嫌で何よりですが、人間界の事ばかり考えていると、仕事が滞りますよ。そうしたら、また人間界に出向くのが遅くなりますよ?」
 苦笑しながらそう言葉を返すと、ダミアンは再び笑う。
「大丈夫。その辺りは心得ているから。それより、御前も機嫌が良いね。いつもなら、留守番でムスッとしているのに。やっぱり、人間界に行った所為かな?」
「……そうですね、なんて言おうものなら、じゃあまた次も…と言われ兼ねませんから、そこは黙秘です」
 そう言いつつも、笑いが零れる。そしてその表情を前にすれば、その心境など御見通し、だった。
「そう言えば、デーモンに聞いたよ?昔、打ち上げで御前が自分のソロをルークに弾かせたんだって?」
「…は?何の話です?」
 急にそんな話を振られても、当然すんなり思い出せるはずもなく…いつの打ち上げなのかも良くわからない訳で。当然眉を顰める彼に、ダミアンは少し首を傾げる。
「ツアーのトークタイムで、ルークからそんな話が出たらしいよ。御前が自分のソロを弾かず、にこにこしてルークを見てた、とね。だからルークが弾く羽目になったと」
「………あぁ…」
 詳細をはっきり覚えていた訳ではないが、確かにそんなようなことはあったかも知れない。まぁ、その程度の記憶でしかないが。
「過去を懐かしむだなんて、年を取った証拠かも知れないが…それはそれで、全力で抵抗することじゃないからね。良い思い出だと笑っていれば良いよ」
 くすくすと笑うダミアン。ダミアンもまた、良い思い出を作って帰って来たのだろう。
「…そうですね」
 決して、良い思い出ばかりではない。けれど、当時は苛立ったり、腹が立ったことも、時間が過ぎれば笑って話せる。その時点で、もう悪い記憶ではないのだ。
 だから、懐かしく思う。
 笑いを零した彼に、ダミアンも笑いを零す。
 自分が人間界で過ごした時間は…自分だけではなく、周りにとっても、大事な時間だったのだと。それを改めて感じたのだった。

 仕事を終え、屋敷に帰って来たエース。自室に戻ると、ベッドの傍に立てかけたままのギターが目に入る。
 人間界に戻った時に使ったギター。魔界でも練習の為使っていたのだが、出番が終わっても何となく置いたままだった。
「…もう、御役御免なんだけどな…」
 苦笑しながら、立てかけてあったギターを手に取る。
 既に役目を終えたとは言え…あっさりと片付けられなかったのは、何となく後ろ髪を引かれるような気がして。
 ベッドに腰を下ろし、何気なく弦を弾く。そのままチューニングしてしまうのは長年の習性だろうか。
 音を合わせると、再び弦を弾く。そして頭の中にふと浮かんだ曲を弾き始めていた。


 同じ頃の人間界。こちらはミサの真っ只中だった。
 思いがけない延長戦。以前では考えられないような不遇の時期に当たってしまったことは、決して楽しいことではない。けれど、そのおかげ…と言ったら何だが、十六年振りの悪魔の姿を目にすることが出来た。
 信者側は、当然盛り上がる。だが、信者だけではなく、構成員たちもまた、それぞれに彼の悪魔との思い出が蘇っていた。
 そんな中…始まったのは、準備の時に話題に出たあの曲。話題に上ったからこそ、何だか懐かしい。
 嘗ての音を覚えている者。嘗ての音を知らない者。例え音を覚えていなくても、その姿を覚えている者は多いはず。
 限られた時間ではあるが、誰もがふとその記憶を呼び起こす。
 そして、ピックが弦を弾いたその瞬間。
 ほんの一瞬、バチッと衝撃を感じ、弦を弾いた悪魔たちはビクッと一瞬息を飲む。
 まるで静電気のような衝撃。構成員の誰もが、その衝撃には気がついていた。それが何なのかはわからないが…曲を止める訳にもいかない。顔色一つ変えず、演奏を続けるしかなかった。


 同じ頃。こちらは、媒体だった彼。
 数日後のライブの準備も取り敢えず一段落ついていた。
 練習も兼ね、ライブで弾く曲の弾いていたのだが…ふと、気が逸れた。
「…一服するか…」
 一旦ギターを置き、コーヒーを淹れに行く。そしてカップを持って戻って来た時、テーブルの上の紙に気がついた。
「…片付けてなかったか…」
 コーヒーを啜りながら、その紙へと手を伸ばしてまじまじと眺める。
 取り立てて何もない選曲リスト。だが……
 まるで何かに促されるかのように、カップを置くと再びギターを手にする。
 そして徐ろの弦を弾く。
 弾き始めたのは、嘗てのデビュー曲。何度弾いたかもわからないその曲は、彼らを惹きつける何かがあった。だからこそ、長く弾いて来られたのだろう。
 そう思いながら弦を弾いたその瞬間。
 昼間感じたあの匂いが、再び甦る。そして、静電気のような一瞬の衝撃。
 その刹那…彼の姿は、部屋の中から消えていた。


 自室でギターを弾いていたエースは、一瞬感じた奇妙な気配に手を止めた。
「……何だ?」
 何が起こったのか、正直良くわからない。けれど、確かに何かを感じたのは間違いない。
 ギターをスタンドに置き、暫く近場の気を探る。だが、そこに引っかかるものはない。
 気の所為だったか…と思った途端、呼び出し用の通信が届いた。
「…ダミアン様?」
 通信を入れて来たのはダミアン。普段直接呼び出すことのない相手だけに、眉を顰めて通信を繋いだ。
「…どうされました…?」
 問いかけた声に、画面の向こうのダミアンも眉を顰めている。
『エース、大至急デーモンの執務室まで来い』
「大至急…ですか?」
『そう、大至急。待ってるぞ』
 それだけ言って、通信は切れた。
 一瞬だが、奇妙な気配を感じたことと言い…ダミアンからの急な呼び出しと言い、何かがあることは間違いない。だがダミアンの執務室ではなく、不在の副大魔王の執務室に呼び出された意味がわからない。
 謎だけが残る…そう思いながら、呼び出された副大魔王の執務室へと向かったのだった。
PR
COMMENT
NAME
TITLE
MAIL (非公開)
URL
EMOJI
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
COMMENT
PASS (コメント編集に必須です)
SECRET
管理人のみ閲覧できます
 
  
プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
バーコード
ブログ内検索
Copyright ©  -- A's ROOM --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Material by petit sozai emi / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]