聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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パンドラの空 後編
こちらは、以前のHPで2004年05月02日にUPしたものです
※シリーズ小説はカップリング小説です。
(勿論DxAですが、ダミアンxルークもあります。
でもこのシリーズのメインはRXです…多分/^^;
※シリーズ小説はカップリング小説です。
(勿論DxAですが、ダミアンxルークもあります。
でもこのシリーズのメインはRXです…多分/^^;
エースの屋敷から飛び出したデーモンは、そのままゼノンの屋敷を訪れていた。
その尋常ではない様子に、使用魔であるレプリカは慌てて中へと通し、ゼノンのいる書斎へと通したのであった。
「どうしたの?大丈夫…?」
真っ青な顔をして俯くデーモン。明らかに、常のデーモンではない。
様子を伺いながら問いかけたゼノンの声に、デーモンは大きく息を吐いて気持ちを落ち着かせているようだった。だが、その表情はやはり尋常ではない。
まるで…今にも、泣きそうに見えて…。
「…デーモン…?」
改めて呼びかけると、デーモンはゼノンの顔を見ようとはせず、俯いたまま首を横に振った。
「…大丈夫…だ」
つぶやいた声は、掠れている。どう見ても尋常ではないのに、大丈夫だと言うデーモン。それを訳ありだと察したゼノンは、大きく息を吐き出して言葉を発した。
「…そう。なら、良いよ。ホットミルクでも入れようか?温まるよ」
「…あぁ、有難う」
何気ない振りをしてくれたことに安堵の吐息を吐き出しながら、デーモンは促されるままにソファーへと腰を降ろす。そして、暫くそのまま黙って座っていた。
そうして、ゼノンがレプリカに頼んだホットミルクが届くまで、二名は黙ったまま、向かい合ってソファーに座っていた。
「御待たせ致しました」
ゼノンの意図を心得ているレプリカは、ゼノンに頼まれたホットミルクを運んで来ると、黙ってそのまま書斎を後にする。残されたのは、沈黙する二名。
「…温かいうちに…」
「…あぁ」
いつまでも手をつけないデーモンを見かねて、ゼノンが声をかける。その声でやっとカップに手を伸ばしたデーモンを見つめながら、ゼノンは辺り障りのない話でもしようかと色々と考えを巡らせていたその時。
不意に、デーモンが口を開いた。
「…エースに酷いことを言った上に…彼奴を叩いてしまった…」
「…え?」
思わず聞き返したゼノン。多分、その表情は驚きと困惑が浮かんでいたことだろう。
デーモンはカップに口をつけ、一口飲み込むと、両手でカップを包んだまま、ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
「…エースに手を上げても、どうにもならないことはわかっていたんだ。でも…エースの口から、ダミアン様を否定する言葉を聞いた途端…留められなかった…」
小さく、微笑んだデーモン。だが、その微笑みは切なくて…今にも泣き出しそうに見えてならない。
居たたまれなくなり、デーモンから視線を背けたゼノンであったが、その眼差しがふとデーモンの左手に止まる。
指輪のなくなった薬指。それは、何を意味していたのか…思わず問いかけずにはいられなかった。
「…デーモン…指輪、どうしたの…?」
控えめに問いかける声に、デーモンは無理して笑ったように見えた。
「…投げ返してやったさ。幾ら話をしたところで、エースの気持ちは変わらないようだしな…吾輩自身を否定されたような気がした。裏切られた気がした。だったら…もう、必要ない。ダミアン様は吾輩に、エースとちゃんと向き合えと言った。だが、向き合った結果がこれだ。エースは…もう、吾輩のことを見ていない…」
「でも、エースは…ダミアン様のこと、誤解しているんでしょう?今は、ルークのことがあるだけで、御前を見ていないだなんてそんなことは…」
口を挟んだゼノンに、デーモンは大きく首を横に振る。
「今のエースに、吾輩の声は届かない。どんなに叫んでも、何一つ届かない。ダミアン様への憎しみばかりで、わかろうともしてくれない。それに、頭の中はルーク、ルーク、ルーク、ルーク…っ!そのことしかないんだ…状況を考えれば、嫉妬している場合じゃないのはわかっている。でも…吾輩を見ていてくれないことが…信じてくれないことが…酷く苦しい…」
堪えていた涙が一筋、頬に零れ落ちる。それには、ゼノンも言葉を返すことが出来なかった。
誰よりも強いと思っていた二名の絆が、ほんの些細なことで途切れそうになっている。いや、二名の絆だけじゃない。ずっと信頼関係で結ばれていたダミアンとエースの絆さえ、途切れてしまっているように思えたのだ。
震える溜め息を吐き出すデーモンを、黙って見つめるゼノン。勿論、ゼノンもその事態に胸を痛めていることは言うまでもない。
きっかけは自分。未だ、その呪縛から逃れられないゼノン。逃れなければとわかってはいても、どうすることも出来ないのだ。
「…御免ね…」
小さくつぶやいたゼノンに、デーモンは頬を拭って顔をあげた。
「御前が謝ることじゃない。御前は、ただの被害者だ。この件の責任はなにもない」
「…デーモン…」
こちらも、大きな溜め息を吐き出すゼノン。その姿で、苦しい胸の内を察したのだろう。デーモンはカップをテーブルのソーサーへと戻すと、真っ直ぐにゼノンに向かい合った。
「悪かったな。御前まで悩ませるつもりじゃなかったんだ。エースのあんな姿を見たら…急に辛くなって、御前に零してしまったが…この件は、吾輩がちゃんと話をつけるから。だから、心配しなくても良いんだ」
「…でも…」
心配そうな表情を浮かべるゼノンに、デーモンは大きく息を吐き出した。
「…何だか、久し振りだな。御前とこうして話をするのも。御前がいない間…こんな愚痴は、誰にも言えなかった。エースとも、ルークとも、ライデンともそれぞれ長い付き合いになるが…みんな、御前のことがずっと気になっていたし、"魔界防衛軍"のこともあったからな…ずっと心の何処かに色んなことが引っかかっていて…それどころじゃなかったのかも知れない。不自然にその話題を避け、何事もなかったかのように過ごそうと…平生を保とうとしていたのかも知れない。それでも、みんな繋がっていると思っていたんだ。どんなことがあったって、きっと乗り越えていけると。でも…そうじゃない。現実は…甘くないんだな。今更ながらにそれを、実感してる…」
「…デーモン…」
自分がいない間、彼等の間で何があったのか。ざっと話は聞いてはいたが…個々の心情まではわからなかった。
得体の知れない"魔界防衛軍"。その、正体のわからない存在は、平生を保とうとしても何処かで猜疑心を生み出していた。それこそが…自ら手を下さなくても、"破滅"への道を辿らせるかのようで…そんな現実に戻って来たゼノンは、それぞれが抱いていた様々な状況、想いを、漸く把握し始めていた。
みんな、ぎりぎりの状態で平生を保とうとしていただけ。不確かな…とても脆い絆を、何よりも強いと、思い込もうとしていたのかも知れない、と。
ライデンが言っていた"鎹(かすがい)"の意味が、漸く実感出来た。今まで迷惑をかけた分…今は、自分が何とかしなければ。
そう思いながら…ゼノンも大きく息を吐き出していた。
「…みんなを傷つけたことは…反省してるよ。でも…この状況ではそんな言葉も、一枚上っ面を剥がせば何の意味もないこともわかってる。だから俺は、ちゃんと前へ進む。俺に出来ることを、全うする。だから、御前も…俺が言えた義理じゃないかも知れないけど…エースを……見捨てないでやってよ。エースには、デーモンしかいない。その想いを全部受け止められるのは、デーモンだけなんだよ。だから…手を、繋いでいて。御願いだから…」
「…ゼノン…」
神妙な顔でデーモンを見つめるその碧の眼差し。久し振りに見たそんな顔に、デーモンは小さく笑いを零した。
「何だか…同じような台詞を、ライデンに言ったような気がするんだが」
「…まぁ…そういわれるだけのことを、俺はしているからね…」
小さな溜め息を吐き出したゼノン。
そんな姿を眺めながら、デーモンも小さく息を吐き出した。
「大丈夫だ。愚痴を零してしまったが、これでも色々覚悟は出来ているんだ。もう少しだけ、頑張ってみるから」
「…デーモン…」
何かを決したような色を見せる金色の眼差しに…ゼノンはそれ以上、問うことが出来なかった。
ソファーから立ちあがったデーモンは、未だデーモンを見つめて心配そうな表情をしているゼノンに向け、言葉を放つ。
「邪魔したな。御前の顔を見て話をしたら、何だか安心した。愚痴を零して悪かったな」
気丈に、笑って見せたデーモン。だが、その小さな微笑みが、酷く心許なく感じて。
デーモンが出て行った後も、ゼノンはその場から動けずにいた。
翌日の昼過ぎ。ゼノンは情報局の…エースの執務室を訪れていた。
今日はエースは出かけておらず、すんなりと通された訳だが…迎え入れたエースも、訪れたゼノンも、同様に険しい表情である。
「…御帰り」
大きく息を吐き出すと、エースは徐ろにそう声をかける。ゼノンもそこで初めて、魔界へ戻ってからエースに会ったのは初めてだったことを思い出した。
「…ただいま。色々と、心配と迷惑をかけたみたいで…悪かったね」
「いや…」
御互いの視線は合わない。と言うよりも、エース自身が目を伏せているのだから、幾らゼノンが見つめたところで視線が合わないのは当然。
エースは…と言うと、イスに腰掛けて執務机に向かってはいるものの、その伏せられた視線は、自身の手を見つめているようだった。
「…あのね…デーモンのこと、なんだけど…」
一向に会話の進まない状況に、ゼノンが口を開いた。
一瞬…エースの身体がピクンと動いたのだが…相変わらず、視線を上げることはなかった。
「…夕べ…ウチに来たよ。御前に酷いことを言って、叩いてしまった、って言ってた。多分…物凄く、苦しいんだと思うよ。ダミアン様と御前との間で板挟みになって。御前はダミアン様を責めるし、ダミアン様はそれに反論しないとは言え、真実を知っているデーモンにとっては辛い状況だよね」
「だから、何だって言うんだ?」
エースが態度を変えるつもりがないことは、直ぐに見てわかった。勿論、ゼノンとて無理にエースの気持ちを変えようと思った訳ではない。
ただ…苦しんでいるデーモンを、見過ごすことが出来なかっただけで。
「俺がとやかく言ったって、御前の気持ちが変わらないことはわかってるよ。別に、御前の意思を変えようと思って来た訳じゃないしね」
「なら、何をしに来たんだ?」
その問いかけに、ゼノンは大きく息を吐き出す。
「…俺にも、良くわからないよ。ただ…長い付き合いの仲魔として、あんなデーモンの姿を見て、じっとはしていられなかった。だから、来たのかも知れない。今から言うことは…全部俺の独り言。だから、聞き流してくれて良いから」
「………」
黙ったままのエース。勿論、目も合わない。けれど、ゼノンはそのまま言葉を続けた。
「今回のことは…俺が口を挟むべきことじゃないのはわかってるよ。でも…俺も、ダミアン様を信じてるよ。ウイルスの件の時に思い知ったのは…俺たちは、ずっとダミアン様に護れていたんだと言うこと。そして、ライデンとの復縁を求めて御前と一緒に雷神界に行った時も、上皇様に対する俺たちの無礼を、前以て詫びてくれていた上に…もう一度俺たちの関係を取り持って欲しいと、頼んでくれていた。どちらの時も…俺は…正直、泣いたよ。どんな時でも、微笑みながら俺たちの後ろで盾となって護っていてくれるダミアン様に、何度救われたことか。士官学校を卒業してからずっと、ダミアン様の傍に着いて来たデーモンは、もっと色んなダミアン様を見て来たと思う。でも、だからこそ…絶対に見せない心の中を、わかっていたんじゃないかな。それを全否定されるのは…ホント、苦しいと思うよ」
そこで一旦、言葉を切る。ゼノンの独り言なのだから、エースが口を挟むこともない。
大きく息を吐き出した後、再び口を開く。
「散々、ライデンのこと泣かせた俺が言うのは納得いかないと思うけど…俺は、あんなに苦しそうなデーモンの泣き顔なんて…もう見たくはないんだ。御前にも思うところはあるだろうから、改心しろとは言わない。でも…情報局の長官として、きちんと真実を見極めて欲しいと思う。俺たちの絆が壊れかけているこの状況が、"魔界防衛軍"にとって、一番望んでいた状況なのかも知れない。今、"魔界防衛軍"が動き出したとしたら、どうなると思う?今の御前に、魔界を…ダミアン様やデーモンを、本気で護れるとは…俺には思えない。今の御前は、俺が長年付き合って来たエースじゃないもの。真実を見ようともしないで、自分の感情だけで動いている。そんな姿は、情報局の長官とは言えないよ。このままでは…俺も、御前に幻滅せざるを得ない。まぁ、俺に嫌われたところで痛くも痒くもないかも知れないけれどね」
「………」
「俺が言いたいのはそれだけ。じゃあ…俺は、これで帰るよ」
一度も視線を上げなかったエースに背を向け、ゼノンは踵を返した。そして、去り際に一言。
「…余計なおしゃべりして御免ね」
ゼノンの姿が、ドアの向こうに消えかけた時。
「ゼノン」
ふと、呼び留められた。そして、僅かに振り返ったゼノンの視界には、自分を真っ直ぐに見つめる、エースの琥珀色の…柔らかな眼差しがあった。そして、エースの口元に僅かに浮かんでいた微笑み。それは、ゼノンには予想外だった。
「…エース…?」
「ライデンと、結婚するんだろう?おめでとう」
エースは、何を思っていたのだろう。
ゼノンの脳裏を過った疑問。だが、それはきっと、否定する言葉ではなかったはず。それを察したゼノンは、にっこりと微笑を浮かべた。
「…有難う」
もう、心配はいらない。
それは、予感だったのだろうか。
ゼノンが出て行った後、エースは握り締めていた左手の掌をそっと開く。
その掌の中にあったのは、夕べ、デーモンが投げ付けて行った指輪。そして、その薬指にも、御揃いの指輪が光っていた。
一晩考えた末の結論。それはある意味、デーモンがこの指輪を投げ付けたからこそ、見つかったのかも知れなかった。
大きな溜め息を吐き出し、エースはデーモンの指輪をもう一度握り締めてその存在を確認すると、自分の左の薬指に、自身の指輪と重ねて填めこんだ。そして徐ろにイスから腰を上げる。
「出かけて来る」
副官にそう声をかけ、エースは意を決したように歩き始めていた。
エースがやって来たのは、枢密院のダミアンの執務室の前。
この場所に来て、既に十分以上経っているのだが…未だ、ドアをノックすることが出来ない。
胸に蟠る怒りは、まだ収まった訳ではない。ただ…だからと言って、そのままその怒りに身を委ね続ける訳には行かないこともわかっていた。
大きく息を吐き出し、右手でそっと左手の指輪に触れる。
そして、意を決したようにそのドアをノックした。
『…どうぞ』
「失礼致します」
中から答えるダミアンの声に促されるように、エースはゆっくりと息を吐き出し、そのドアを押し開けた。
自分に、背中を向けるダミアンの姿。その背中が、幾分細くなったように感じたのは…気の所為だろうか…?
「…どうした?」
入り口で留まったままの足音に、振りかえったダミアン。
穏やかな眼差しは、いつもと変わりはない。だがその表情に、華やかだったいつもの微笑みはなかった。僅かに窶れた頬に、エースは急に胸が痛くなるのを感じていた。
----…ルークを心配しているのは、御前一名じゃないだろう?
ふと、脳裏に蘇った、デーモンの言葉。冷静に考えてみれば、それは当然だったはずなのに…カッと怒りに逆上(のぼ)せあがっていた自分がいたことを、改めて思い知らされた気さえしていた。
ゼノンの言葉ではないけれど…いつでも、後ろで護ってくれていたこの皇太子に、幾度救われて来たことか。
そしてゼノンに言われたように…今、"魔界防衛軍"が動き出したら。自分は…誰を、護れるのか。
「…エース?」
声をかけられ、ふと我に戻る。自分が何をしにここへ来たのかを思い出したエースは、大きく息を吐き出すと、深々と頭を下げた。
「…先日の言葉…貴方を絶対に許さないと言った言葉を…撤回、します。済みませんでした」
「…どう言う風の吹き回しだい?御前は、一生わたしを許さないと思っていたが…?」
くすっと、乾いた小さな笑いが届く。だがエースは、下げた頭をそのままに言葉を続けた。
「…まだ…あの時の怒りは完全に収まった訳ではありませんが…愚かだったのは自分だったと、改心しただけです。ですから…」
「…まぁ、良い。顔を上げてくれないか?それでは、話も落ち着いて出来ない」
促され、エースはやっと顔を上げる。目の前のダミアンの表情は幾分穏やかになっているようだった。
「どうして急に気が変わったのか、教えてくれないか?」
ダミアンの興味は、エースの指に填まった二つの指輪に引き寄せられたのかも知れない。普段、魔力制御のピアス以外の装飾品など付けないエースにしては珍しいことなのだから、当然のことだったのかも知れないが。
「…俺の怒りは、単なる八つ当たりだったのかも知れないと思ったから、です。貴方のやったことは許せません。けれど…闇雲に怒りをぶつけるだけでは…見失ってしまいそうだったんです。自分自身も…大切なモノ、も」
「だが…あの時御前がわたしに言ったことは、全て真実だよ。それでも御前は、それを納得出来るとでも…?」
問いかけた声に、エースは小さな吐息を吐き出す。
「今はまだ…わかりません。でも、きっと、ルークが戻って来てくれたら…踏ん切りは付くと思います」
「…ルーク、か…戻って来るかどうか、わたしにはわからないけれどね。戻って来たら来たで…わたしはまた、ルークを裏切ることになる」
「どう言う…」
「…何だ、デーモンから聞いていないのか。なら、わたしはまた一つ、御前の怒りを買うことになるかな」
ダミアンから零れたのは、自嘲気味の笑み。そして、囁くようにつぶやいた言葉。
「…結婚、することが決まったんだよ。わたしもね。ルークではない、他のヒトと」
「……っ!?」
当然、その告白にエースは驚いて息を飲んだ。
「…前に言っただろう?ルークとでは、血筋を繋ぐことが出来ないとね。わたし自身、納得した訳ではないが…天界人として生まれたルークには、子を孕むことが出来ない。これは仕方のないことなんだ。この魔界の皇太子として…世継は残さなければならない。それが…わたしに科せられた運命なんだよ。こんなことなら、皇太子などに生まれなければ良かったと、何度も思ったけれどね。だが…皇太子であるからこそ、ルークに出逢うことが出来た。御前たちに出逢うことが出来た。それは、曲げられない真実だからね。ルークのことは…諦めようと思った訳だよ」
「だから…ルークを捜そうとはしなかったと…?ルークは、そのことを…」
「知らないだろうね。ルークが姿を消してから、本決まりになった話だからね。このことを知っているのは、デーモンと御前だけだ。わたし自身より、デーモンの方が落ち込んでいるようだしね…」
小さな吐息を吐き出したダミアン。
一つずつ、真実を明らかにしていけばいくだけ…現実は辛いモノであることを明らかにしているようだった。
けれど、生き抜いていかなければならないこともまた真実。デーモンから聞いた話の全ても真実。そして…エースに向け、デーモンが指輪を投げ付けたこともまた、真実なのだ。
エースも、大きな溜め息を吐き出していた。ダミアンに対する怒りの感情は、もうそこにはなかった。
「…ルークは強いですから…きっと、気持ちが落ち着けば…貴方の結婚の話を聞いても、驚かないと思います。貴方の…ルークへの想いが、真実であったのなら…」
「…偽りでルークを抱けるものか。そんな感情は、あの黒曜石の前には直ぐに見抜かれる。だが…偽りだったら、もっと楽だったろうね。これ以上…ルークを傷付けなくても済むのだから」
ダミアンが浮かべた微笑みは、酷く寂しそうだった。その表情は今でもルークを思っていることは間違いない。それが、明らかだったからこそ、エースの胸も締め付けられたように苦しかったのだ。
「真実だったからこそ…ルークは、強くなれたんじゃないですか…?自分の気持ちに、嘘は付けないですから。だから…ゼノンも、ライデンも……デーモンも……」
はらりと、エースの頬を伝わった一筋の涙。
将来を誓った証の指輪。それは、御互いを信じて託したもの。それを…あの時、デーモンはどんな気持ちで投げたのだろう。
裏切ったのは、他の誰でもない。自分だったと…改めて、思い知った。
唇を噛み締めたエース。その姿を見て、ダミアンは小さく笑った。
「わたしは、御前を咎めるつもりはないよ。御前の怒りは真実であるし、それだけのことをわたしはしたのだから。けれど、その怒りはデーモンに向けられるべきものじゃない。御前たちが生命をかけて繋いだ想いだよ。それを忘れてはいけない。わたしのように…諦めが付いてしまったらおしまいだ。決して…デーモンの手を離すんじゃないよ」
「…ダミアン様…」
「わたしのことはもう良いから、行っておあげ。きっと、御前が来るのを待っているから」
「でも、デーモンはもう…」
「大丈夫。わたしが保証するよ。デーモンは…諦めが良い方じゃないんだ。デーモンの初恋が御前だと、わたしは知っているからね。それから、どれだけの年月が経っていると思っているんだい?その間、一度だってその気持ちはぶれなかった。それは、わたしが良く知っているから」
くすくすと笑うダミアン。
結局ダミアンは、一度もエースを咎めることはなかった。それが、皇太子たるダミアンの強さ。
かつて…ダミアンが誰よりも強いと思ったのは…誰よりも、暖かいと思ったから。そのダミアンの暖かさを忘れていたエースは、改めてただ怒りをぶつけるだけだった自分を責めた。
「…済みませんでした…」
今なら、素直に言える言葉。それが、エースの本心だったから。
「わたしの方こそ、みんなに謝らなければいけないね」
----済まなかったね。
つぶやいたダミアンの声に、エースは大きく首を横に振った。そんなエースの姿を見て、ダミアンは再び小さな笑いを零す。
「さ、この話はこれで一時中断としよう。早く行っておあげ」
「…はい」
改めて大きく頭を下げ、エースは踵を返した。
その後姿を、ダミアンはにっこりと微笑んで見送っていた。
エースが副大魔王の執務室の前にやって来た時には、既に終了時刻は過ぎていた。そして、デーモンの姿もそこから消えていた。
デーモンを追って、彼の屋敷までやって来たエース。そのリビングで待たされること数分。その後、デーモンの自室へと通されて、やっとデーモンと再会することが出来た。
「…今更、何の用だ…?」
夕べのことがあった所為で、デーモンの口調も何だか元気がない。だが、エースはそんなことに構ってはいられなかった。
「…御免。俺が、悪かった」
「…エース…」
深く頭を下げた突然の謝罪に、当然デーモンは面喰らっている。
「ダミアン様とは…ちゃんと話をして来た。もう、馬鹿みたいに怒るのも辞めた。ルークのことも、彼奴を信じて待つことにしたから。だから……」
そこまで言うと、エースは顔を上げ、左薬指に填めたままになっていたデーモンの指輪を抜き取ると、デーモンへと向かい合う。
「この指輪は…俺が持っていても仕方ないんだ。これは…御前の為に、誂えたんだから」
そう言うと、徐ろにデーモンの左手を取り、その薬指に填めこむ。
「御前に…持っていて貰いたいんだ」
「エース…」
「…御免な。やっぱり俺には…御前が必要なんだ…」
そっと、抱き寄せる。デーモンからの抵抗がないことに安堵しつつ、エースはしっかりとデーモンを抱き締めていた。
「ホントに…ダミアン様と仲直りしたのか?」
「…あぁ。何だったら、ダミアン様に聞いてみろよ。俺は、自分の非をちゃんと認めたんだから。もう、裏切っただなんて言わない。寧ろ…前よりも信頼してるさ」
「そうか。なら……安心した」
エースの肩口に伏せられたデーモンの表情はわからない。だが、ホッとしたように零れた小さな笑いが、デーモンの本心を語っているようで。
一番、しっかり見ていなければいけなかった真実。それが、今目の前にいる一番大事な恋悪魔を、失ってはいけないと言うこと。
しっかりと抱き返された感触に、エースも安堵の吐息を吐き出していた。
「御前が一番大切だ。だから…これからも、傍にいてくれるか…?」
小さく問いかけたエースの声。それに、デーモンは小さく笑った。
「…ゼノンにな…夕べ、言われたんだ。御前を見捨てないでやってくれ、って。御前の手を…繋いでいてやってくれ、ってな…」
「…彼奴、そんなこと…」
エースにも発破をかけに来た姿を思い出し、小さな溜め息が零れる。
「ゼノンも…色々責任を感じているんだ。勿論、彼奴にそんなつもりはなかったとは言え…諸々の発端は彼奴が手がけたウイルスだった訳だからな。それに、ライデンからも我々の仲立ちを頼まれていたらしい。勿論、彼奴の性格を考えれば、ライデンから頼まれなくても勝手に割り込んで来ただろうがな。だが、彼奴なりに我々のことを考えた結果の言葉だったんだと思う。でも…やっぱり長い付き合いだな。その想いが、ちゃんと的を得ている」
「…そうだな。やっぱり…仲魔、なんだよな。彼奴も…俺たちのこと、ちゃんとわかっていてくれてるから。彼奴がいてくれて良かった」
苦笑するエースに、デーモンは小さく息を吐き出した。
そして。
「ホントに吾輩で良いのか…?吾輩は、御前よりもダミアン様についたんだぞ?」
「…良いんだ、それでも。御前は…ちゃんと、真実を見ていた。だから…御前が傍にいれば、俺が間違っていても諭してくれるだろう?」
「…御前が聞く耳を持ってくれれば、な」
小さく笑う声を聞きながら、エースは誰よりも真っ直ぐだったデーモンと、苦言を呈してくれたゼノンに、感謝していた。
そっと、デーモンの手を握り締めたエース。
「悪かったよ。ちゃんと、反省しているから。だから…御前も、繋いでいてくれよ」
素直にそう零した言葉に、デーモンはにっこりと微笑むと、握られた手をしっかりと握り返した。
「絶対、離さないからな?」
「…あぁ」
それが、何よりの宝物であるかのように…そして何よりも慈しむように、エースは再びデーモンを抱き締めていた。
それから暫くして、"希望"を抱いた蒼い鳥は、再び王都に舞い戻った。
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プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
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