聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
[PR]
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
FLOW 前編
こちらは、以前のHPで2004年05月29日にUPしたものです
※シリーズ小説はカップリング小説です。
(勿論DxAですが、ダミアンxルークもあります。
でもこのシリーズのメインはRXです…多分/^^;
※シリーズ小説はカップリング小説です。
(勿論DxAですが、ダミアンxルークもあります。
でもこのシリーズのメインはRXです…多分/^^;
何かに呼ばれているような気がした。
はっきりと聞こえている訳ではないけれど…ただ漠然と、自分を呼んでいるような気配を感じていただけ。だから、何処へ行って良いのかもわからない。
けれど、行かなければならないような気がして……
何より、今は…この地にいたくなかったから……
何処をどう歩いて来たのか、まるで覚えていない。王都を出て、既に何日過ぎたのかすら、記憶にないのだ。
けれど、何かに呼ばれるかのように辿り着いた場所。それは、懐かしい匂いのする場所。
そこは、小高い丘に広がる草原のようだった。淡いクリーム色の花が一面に咲き乱れ、平和を絵に描いたような空間。
「…あ…れ?」
ふと我に返ったのは、その花に目が行ったから。
「…これ…天界の花、だ…」
名前など知らないが、確かに幼い頃に見た記憶がある。確か……
「母様が、好きだった花…?」
そう。通りで記憶に残っていたはずだ。母親が好きで、良く飾ってあった花なのだから。
「でも、何で……?」
天界との境界線を超えた記憶はない。尤も、どうやってここまで来たのかも覚えていないのだから、怪しいところなのだが。けれど、纏うのは確かに魔界の空気なのだから、やはりここは魔界のはず。
怪訝そうな表情を浮かべた時、背後から予期せぬ声が届いた。
「久し振りだね、ルーク」
「…っ!?」
思わず振り返った視線の先には…懐かしい微笑みが待っていた。
「…マラフィア殿…」
もう何万年も会っていないはずなのに、その記憶の中の相手とまるで変わりがない。だからこそ、直ぐにわかったのだ。
それは、尊敬してやまなかった、自分のかつての上司。そして…父親の最後の恋悪魔だった悪魔。
「え…っと……何で…ですか?」
訳もわからずに問いかけた声に、くすっと小さな笑い声が返って来た。
自分の記憶が正しければ…目の前の相手は、最愛の悪魔を弔う為に王都を出て行ったまま、行方知れずだったはず。偶然にしては出来過ぎている。
怪訝そうに潜めた眉の意味を察したのか、相手はその眼差しを伏せてゆっくりと口を開いた。
「…いつかは…君がここへ来ると思っていたよ。だから、わたしは君がここへ来たことを驚きはしないし、きっと彼も…待っていたのだと思うよ」
「………」
ふと、相手の眼差しが動いた。それは、自分よりも先に向けて。
その眼差しの行方を追ってみると…そこには、花々に埋もれるように、一つの墓石らしきモノが存在していた。
「…ここは、まさか…」
その言葉と存在が意味することはわかった。
その墓石には……相手の、最愛の悪魔が眠っている。そしてそれは、彼の…一度しか会ったことがない、父親なのだと。
「…父様の……?」
ぽつりとつぶやいた声に、相手は小さく微笑んだ。
「この花は、彼が好きだった花、だよ。そして、君の母上も、同じようにこの花が好きだったそうだね。生まれ故郷の天界へ帰ることが出来ない彼の為に…わたしがどうにか一株手に入れて、この花をここへ植えたんだ。せめて…安らかに眠れるようにね」
その微笑みは、とても柔らかい。昔と何も変わらない微笑み。その微笑みの前…その意識は過去と混濁していた。
「おいで。君は、何か話があって、ここへ来たのだろう?わたしでよければ、その話を聞いてあげるから」
柔らかな、暖かい声に促されるように…その足は、歩みを進めていた。
それは、遠い過去。けれど、彼には昨日のことのように鮮明に記憶に残っている。
最愛の恋悪魔が…生きることを辞めた、その日のことを。
その理由は、誰よりも良くわかっていた。だから、微笑みを称えて見送っていた。
それが、自分に出来るせめてもの弔いとして。
けれど、もう一名…そこにいた"彼の君"は…とても、苦しそうだった。
幼き頃から、自分を育ててくれたその悪魔を…自らの手で、葬らなければならない。それは、誰よりも過酷で…残酷な現実だっただろう。
けれど全て…これからの、未来の為に。それは、恋悪魔が何よりも強く望んだことだった。
その時、恋悪魔が見せた最後の笑顔は、今も忘れることが出来ない。
『…有り難う』
その言葉が、恋悪魔の最後の言葉、だった。
それから彼は、危険を承知で天界へ行き、彼が好きだった花を一株取って来ると、それを恋悪魔の墓石の前に植えた。
一株の花が、丘の草原一面に広がるまでに、どれくらいの時間が経ったのかは良く覚えていない。時間を気にする生活は、もはや彼には必要なかったのだから。
ただ…愛しい恋悪魔と、ゆっくりと過ごせる時間があれば良かったのだ。
それが…何処の世界であったとしても。
「どうぞ」
草原から少し離れたかつての上司の自宅へと招かれ、彼は促されるままにソファーへと腰を落とす。
それが現実なのか夢なのか、頭の中に靄がかかったようにぼんやりとしていて良くわからない。けれど、相手から感じる柔らかな雰囲気が、辛うじて彼を動かしていたのだ。
「あの…」
御茶を淹れるその背中に、躊躇いがちに声をかける。
「あぁ、ちょっと待っててくれ。直ぐに済むから」
「…はぁ…」
昔から…少なくとも、彼が軍事局に入局した頃から…どう言う訳か、どの局の上層部も例外なしに御茶淹れが上手かったことを、ぼんやりと思い出していた。そして自分も、目の前で御茶を淹れる元上司の背中と同じように御茶を淹れているのかと思うと、不思議と笑いが込み上げて来た。
彼が小さな笑いを零した頃、やっと元上司が戻って来た。
「どうしたんだい?急に笑ったりして」
彼の笑いを見て、元上司も笑いを零す。
「いえ…上層部程御茶淹れが上手だなんて、何だか可笑しくて…」
「そうだね。わたしもルシフェルに着いてからは、一著前に上手くなったよ」
「俺も、です。貴方に着いてから。他の局もみんなそうです。デーさんもエースもゼノンも……」
そう言いかけて、急に不安に襲われた。
そうだ。自分がここに辿り着くまでに、仲魔の生命の期限は過ぎたはずだ。今は、どうなっているのか…まるで忘れていた。
不安をあからさまに浮かべた彼の表情を見て、元上司は再び柔らかな微笑みを浮かべた。
「…さて、話を聞こうか?その顔からして、尋常ではないようだし」
「……」
そう言われても、何処から話して良いのかすらわからない。ただ…胸に蟠っている想いを、ゆっくりと口にしていた。
「…俺…どうしてここに辿り着いたのか…わからないんです。マラフィア殿が何処にいたのかも知らないのに、良く辿り着いたと思います。王都を飛び出して何日経ったのかもわからないし…もしかしたら…俺は、仲魔を見殺しにしたのかも知れない…何より……もう、王都には戻れないかも知れない…」
堪らなく、不安だった。言葉にして初めて、自分が酷く動揺していることに気が付いた。
無意識に噛み締めた唇で、その不安を感じ取ったのだろう。小さな吐息を吐き出した元上司は、ゆっくりと言葉を発した。
「ならば…まず、君の不安を少し取り除いてあげようか」
「…え?」
怪訝そうに眉を寄せる彼に、軽く微笑む。
「ゼノン殿は、助かったそうだよ。暫く雷神界で療養していたようだが、今は傷も癒えて魔界に戻り、職務復帰をしたらしい。勿論、ライデン陛下もエース殿も御無事だ」
「…そう。良かった…」
僅かに零れた、安堵の溜め息。その表情に、微かな微笑みも戻った。けれど、その微笑みも長くは続かなかった。
「…でも…誰から、それを…?」
問いかけた声に、元上司は、相も変わらず微笑んでいた。
「あるヒトに…聞いたからだよ」
「あるヒトって…?」
「君の、知らないヒトだ。それは言及するべきではないよ」
その言葉に、ドキッとして、思わず息を飲んだ。
まるで…ダミアンに言われた言葉だったような気がして。
ついこの前までは…とても倖せだったのに……今は、どん底に叩き落とされた気分なのだ。だからこそ、酷く胸が痛かった。
「一番の悩みは…別のようだね」
その表情は、明らかにそう言っていた。だからこそ、元上司はそう問いかけたのだ。
「恋悪魔と…喧嘩でもしたのかい?」
その言葉に、彼は思わず頬を赤くする。
「恋悪魔、だなんて…そんなんじゃ…」
「なら、言い方を変えよう。ダミアン殿下と、喧嘩でも…?」
「…マラフィア殿…」
この悪魔は…何処まで、知っているのだろう…?
一瞬、そんな表情を浮かべたルークに、マラフィアはくすっと笑いを零した。
「わたしには、まだ僅かながら情報網が残っていてね。勿論、君のプライベートなことを全て知っている訳じゃない。君とダミアン殿下のことも、ほんの少し聞いただけだ。君を裏切るようなことは、していないつもりだよ?」
「…そう、ですか…」
思わず、溜め息が零れる。
「吐き出してみるかい?」
小さく問いかけられ、ルークはマラフィアへと視線を向けた。
「…何から話して良いのかはわからないんですけど…」
溜め息と共に吐き出されたその言葉。
「…今回の…ゼノンの事件のことは、何処まで御存じですか?」
「少しだけは聞いているよ。"錬叛刀"が絡んでいたそうだね…?それから、"魔界防衛軍"とか言っていたかな?そのことも、少しだけね」
ソファーに身体を沈め、そう答えた声に、ルークは表情を硬くする。
「…"魔界防衛軍"に関しては…何処で見張られているのかわからなくて…俺たちにも、まだどうすることも出来ません。それに、"錬叛刀"に関しては…俺が関わってはいけないと、ダミ様から強く念を押されました。仲魔の生命がかかっているのに…俺は…仲魔の為に、何も出来ないと…」
声が、震えている。噛み締めた唇は、溢れそうになる涙を必死に堪えているようで。
「…それに…ダミ様は…"錬叛刀"で、父様を…ルシフェルを、殺したって…それを隠す為に、剣の名前を変えて封じたんだと…」
言葉を紡ぐことも、苦しかった。けれど、吐き出せば少しは楽になるかと思って。少しは…慰められるかと思って。
大きく息を吐き出したルークを見つめながら、マラフィアも小さく息を吐き出した。
「…君はそれを聞いて…殿下に幻滅したのか?」
そう、問いかけられ…ルークは暫し、想いを巡らせる。
「…昔…貴方は俺に言いましたよね。俺から…"あのヒト"を奪ったのは、自分だと。その時俺は、貴方を恨んだり憎んだりと言う気持ちは一切ありませんでした。今回…その話を聞いて…ショックだったことは間違いありません。でも…あのヒトを奪われたことがショックだった訳じゃなくて…ただ…ダミ様に、必要とされていなかったんじゃないかと…ばっさり切り捨てられたみたいで…」
唇を噛み締めて、その感情を堪えている彼の姿に、元上司は小さな溜め息を零した。
「君は…"錬叛刀"のことを、どれだけ知っている?」
問いかけられ、彼は大きく息を吐いて気持ちを宥めると、その答えを返す。
「正直…"錬叛刀"のことは…あんまり詳しくは知りません。ダミ様から聞いたのは、"錬叛刀"は元は"練磨の剣"と呼ばれていたことと、その剣を仕立て、魔界に持ち込んだのは父様だったって言うこと。"練磨の剣"は、"制覇の剣"と対になっていた、って言うことぐらいで…それ以上の深い理由までは…」
そう話していくうちに、自分が殆ど何も知らなかったことを改めて思い知らされた。
それが、哀しくて…悔しくて。
涙を堪えるように、大きく息を吸い込む。気持ちを落ち着けようとすればする程、切なくなるのはどうしてだろう…?
そんな彼の様子を伺いながら、相手もまた大きな溜め息を吐いていた。
先程まで浮かんでいた微笑みは、もうそこにはなかった。かつて、任務の時に見た…厳しい表情。
「ダミアン殿下が、ルシフェルを殺して…それを隠す為に、剣の名前を変えた。そう、聞いたのだろう?」
「…はい…」
「それだけが…本当に真実だと思うかい?」
「…マラフィア殿…」
その言葉に、ルークは顔を上げた。
ルークを真っ直ぐに見つめるマラフィアの眼差しは、昔と何も変わらない。
ただ、真実だけを、見つめる眼差し。
「わたしは…昔、一度だけ…"錬叛刀"に…その時はまだ"練磨の剣"だったけれどね、関わったことがある。と言うよりも…わたしは、"その現場"に立ち会った。だから、剣のことも知っているし…剣を手にした者の葛藤も、わかっているつもりだよ」
「…葛藤…」
剣を手にした者の葛藤は、ルークも知っていたはず。目の前で…苦しむデーモンを、ずっと見ていたはず。そして、ダミアンも…。
仲魔を助けたい一心で、不躾にその心の傷に踏み込もうとした。
ダミアンの気持ちなど…何も、考えずに。
「彼は…君が堕天使として覚醒したことが、君から"彼女"を奪ってしまったと…君を苦しめる結果になってしまったと…ずっと、後悔していたんだ。そして、少しずつ…彼は自分を壊して行った。何れ、自分の存在が君を傷つけてしまうのではないかと、そればかり気にして…そして最終的に、自ら死を望んだ。そして、その手段を…殿下に託した。"練磨の剣"は、自分で使うことは出来ない。だから、何かあっても対応出来る、一番傍にいて、能力値の高い殿下を選んだんだ。だが、幾ら彼が自ら望んだことだったとしても…自分を育ててくれた悪魔を平気で切り捨てられるほど、殿下は薄情ではない。けれど、殿下はそれが自分の役目であると…魔界の未来を担う自分が背負わなければならないのだと言ってね、全ての感情を自分の胸にしまった。そして、剣の名前を変え、封じることにした。誰にも言わず、隠して来たのは…もう誰にも、自分と同じ思いはさせたくはなかったから。傷付けたくはなかったからだ。それが…わたしが知っている真実、だよ」
「………」
はらりと、涙が零れた。
ダミアンは…どんな気持ちで、ルークを…"練磨の剣"を握らなければならなくなったその元凶たる彼の姿を、どんな目で見て来たのだろう。
ずっと笑っていたダミアン。どんな時でも…微笑みがその象徴であるかのように、いつでも優しく微笑んでいてくれた。見守っていてくれた。その想いに、嘘はなかったはず。心から彼の成長を喜び、支えていてくれた。そして…一番、愛してくれていた。
その気持ちを踏みにじったのは…他の誰でもない。恋悪魔として、一番傍にいることを認められたはずの…自分ではないか。
「…だが殿下が、君が"錬叛刀"に触れることを禁じたのには、まだ理由がある」
一旦言葉を切り、マラフィアはルークの様子を伺う。
ルークは、涙で濡れたその黒曜石を、真っ直ぐにマラフィアに向けていた。
真実を、全て聞く為に。
それを確認すると、マラフィアは言葉を続けた。
「あの剣は、魂を喰らうだけじゃない。君たちは、"魂の限定した部分を殺すことが出来る"と聞いていただろう。けれど、"練磨の剣"は本来"血と魂を喰らう剣"だったそうだ。"錬叛刀"と名を変えてから、"血を喰らう"能力はある程度封印で押さえていた。けれど、長い間の封印でその能力も徐々に弱まっている。だからこそ、殿下は君が剣に触れることを拒んだ。ルシフェルの血を受けた君を、護る為にね」
「……」
同じ血を受けた父子であるからこそ、ルシフェルが"練磨の剣"を受けた以上、彼もその剣に喰われてしまう可能性が高いのだ。それを護る為に…ダミアンは、頑なに彼の介入を拒んでいたのだ。
「エース殿も、一度"錬叛刀"を受けているそうだね。だから、彼の介入も殿下には許すことは出来なかったはずだ。まぁ、状況が変わって、エース殿があの剣を握ることになってしまったようだけれどね。今回は無事であったが、危険性は君よりも高かったはずだ」
そう。確かに、ダミアンはエースが"錬叛刀"に触れることも納得はしなかった。だが、デーモンの身代わりとして、その剣の中に入ることとなったのだから、ダミアンの意図にそぐわなかったのは言うまでもないことだったのである。
「剣の中に入ったエース殿とライデン陛下は、時間になっても出て来られなかったそうだね。それは、"名前の封印"が壁となって、退去を拒んでいたからだ。その封印を解けるのはただ一名。"練磨の剣"を"錬叛刀"と変え、封印をしたダミアン殿下のみ、だ。殿下は、その理由が君に知られるのを避ける為に、君の介入を拒んでいたのだろう。君はそれを、突き放されたと感じた…ある意味それは、当たっていたのかも知れないがね」
マラフィアの声は重い。けれど、誰よりもはっきりとその事実をルークに伝えてくれた。多分それは…ルークの成長をずっと見て来たマラフィアだったからこそ、躊躇わずに言えたのだろう。
ルークの、心の強さを、信じているから。
「俺は…どうするべきだったんでしょうか…」
俯き、そうつぶやいたルークに、マラフィアは小さく息を吐き出す。
「…それは、わたしにはわからない。殿下と君の間のことだ。君自身が、結論を出さなければならないんだよ」
「…そうですよね…」
涙を拭い、大きく息を吐き出す。
大きな迷いが、まだその表情には見て取れる。
けれど…辛い現実は、それだけではなかった。
「わたしはもう一つ…君に、伝えなければならないことがあるんだ」
ルークの様子を確かめながら、マラフィアはそう口を開く。
「…俺に伝えなければならないことって…」
マラフィアは、僅かにその視線を伏せた。
「遅かれ早かれ…いつかは、君の耳に入ることだ。本当は…わたしの口から伝えるべきではないのかも知れないが…気持ちが落ち着いた後から、もう一度どん底に落とす程、わたしは悪趣味じゃない。だから敢えて、このまま話を続けるよ」
マラフィアはそう言うと、再び視線を上げた。そして、ルークの黒曜石を見つめた。
「ダミアン殿下の、婚姻が決まったそうだよ」
「……え?…」
その、思いがけない言葉に…一瞬…マラフィアが何を言っているのか、理解出来なかった。
「…運命の女神は…実に、残酷だと思う。今の立場にいる以上、君がそれを避けて通ることは出来ない。君が、殿下を想っている以上…それは、君の目の前にある現実だ」
「…だって…ダミ様は、そんなことは一言も…」
「言えるはずはないな。誰よりも君を愛している。でも、君は堕天使だ。今は悪魔であろうとも…天界人として産まれた君に、子を成すことは出来ない。今はまだ皇太子の身位だとは言え、事実上魔界の実権を握っている今の状況では、殿下自ら子を孕むことも出来ない。だから…魔界の存続の為に…違うヒトと結婚する、だなんてな。君をこれ以上傷つけたくはないから…自分から突き放した、だなんてな…」
「………」
ルークは、言葉もなく口を噤んでいた。
ほんの少し前まで…それは、自分の身に降りかかっていることではなかった。
ライデンがゼノンを解放する為に…雷神界の為に、他の誰かと結婚する。確か、それを阻止しようとしていたはず。それなのに…いつの間にか、ダミアンと自分のことに話が変わって来ている。当然、ルークの思考はまだそこまで追いついてはいない。
ルークは目を閉じて、心を落ち着かせる。
状況を考えれば…自分が子を成すことが出来ない以上、ライデンのように婚約を解消させることは出来ない。当然、その婚姻はそのまま決定事項となるはず。
その時…自分は、どうするべきなのか…まだ、答えは見つからない。
「…君は…また前のように、ダミアン殿下に向かえるかい?また前のように、笑うことが出来るかい…?」
案ずるように問いかける声に、彼は再び大きな溜め息を吐き出した。
「…ライデンの婚約を白紙に戻そうと、ダミ様に話をしに行った時…ダミ様は、言ってました。『信じる想いは、奇跡を起こす』って。今までも…ずっと、そうでした。駄目だと思っても…信じる心が、何よりも強いんだって…何よりも、勇気をくれるんだって…そう思って、何とか乗り越えて来られました。ダミ様とのことも…みんなに支えられて、やっと実った想いです。俺は、独りで戦っているんじゃない。今でも…きっと、みんなが俺の後ろで支えていてくれる。そう…信じています。だから……俺は、笑えます。きっと…ダミ様にだって…笑ってみせます」
そう言ったルークは、にっこりと笑った。
傷ついても構わない。失わない為に、乗り越えなくてはならない壁。みんな、それを乗り越えて来たからこそ、強い絆で結ばれたのだ。
自分も、負けてはいられない。折角成就させた想いを…こんなところで無駄には出来ない。
そんな想いを見せた瞳に、マラフィアは小さな微笑みを浮かべた。
「…強いね、君は」
「…そんなことないです。寧ろ、悪魔らしからぬ優しさだって、いつも言われますけど…」
それは、いつも言われていた言葉。
優し過ぎることは、いつか命取りになる。そう言われ続けて来たが…その本質を、マラフィアはちゃんと見つめていた。
「強いからこそ、優しく出来るんだよ。その優しさの源は、君の強さだ。最初に会った時から…君の強さは変わらないよ」
腕を伸ばし、ポンポンと彼の頭を軽く叩いた相手。それは、昔とまるで変わらずに優しい。
「それから…"魔界防衛軍"について、わたしが知っていることを一つだけ教えてあげよう」
「…何か、御存知なんですか…?」
固くなった声に、マラフィアは一つ、息を吐き出した。
「詳しいことは、正直わからない。ただ…既に、魔界だけではなく、雷神界にも、天界にも、その種子は芽吹き始めた。今、君たちが注意すべきは…直ぐ近くにいる"誰か"、だ」
「……っ!?」
思いがけないその言葉に、ルークは当然息を飲む。
「それは…どう言う……」
零れた声に、マラフィアは溜め息をもう一つ吐き出す。
「わたしも、誰と断定は出来ない。けれど…君たちの傍にいる"誰か"であることには違いないと思う。疑うことが、君が尤も嫌うことであると言うことはわかっているよ。けれど…誰かが、君たちを裏切る。それだけは、忘れるな」
その真剣な眼差しは、偽りではないことを語っている。
「傍に、と言うことは…俺たち上層部ではない、と言うことですよね…?前の"魔界防衛軍"には、俺たちみんなが苦汁を飲まされた。そう考えたら、俺たちの仲魔内ではない。それは、間違いないですよね…?」
せめて、それだけでも確証を得たい。そんな想いを込めたルークの言葉に、マラフィアは小さく首を横に振る。
「それは何とも言えない。少なくとも、わたしがこうして話をしている段階で、君は嫌疑を免れてはいるけれどね。だからと言って、他の上層部が…君の仲魔たちが、無実だとは、わたしは断定は出来ないんだ。その事実にまだ君たちが気が付いていないところをみると、巧妙に隠せるだけの技量があるのだと思う。それを見つけるのは、君の仕事だ。その真実に、立ち向かえるかい?」
「………」
暫く、何かを考え込んでいたルーク。けれどやがて、大きく息を吐き出すと、真っ直ぐにマラフィアへとその黒曜石の眼差しを向けた。
「…マラフィア殿…ハサミを…貸して貰えますか…?」
「…あぁ、良いよ」
彼が何を考えているか、相手にはわかったのだろう。黙ってハサミを持って来ると、それを彼の前に差し出した。
「有り難うございます」
にっこりと微笑み、彼はそのハサミを手に取ると、腰までも伸びた綺麗なウエーブの漆黒の髪を束ね、徐ろにハサミを当てた。
バサリと僅かな音を立てて、その黒髪は肩口で切り落とされる。
そしてその髪を握り締めた手を、マラフィアへと差し出した。
「これを…父様の墓前に」
それは、ルークの自分自身へのけじめとして。
「誰かを疑うことは好きじゃありません。出来ることなら、やりたくはない。でも…俺は、大事な仲魔を護らなきゃいけない。魔界を…護らなきゃいけない。だから…必ず、見つけます。"魔界防衛軍"の、残党を」
真っ直ぐに向けられたその強い意志に、マラフィアは小さく笑いを零した。
「そう、か。わたしは、君を信じているからね。この髪は、わたしが預かろう」
にっこりと笑ったマラフィアは、ルークからその髪を受け取る。
「はい。俺は…負けません。目の前にある現実にも…"魔界防衛軍"にも。だから…もう、大丈夫です。王都に、戻ります」
「わたしはいつまでも…君の味方でいるからね」
ルークから託された黒髪を握り締めたまま、マラフィアもにっこりと微笑んでいた。
ルークが王都へと戻って行ったその後。
小高い丘の広い草原に佇む、花に埋もれた小さな墓石。
その前に立っていた彼は、ゆっくりとその膝を折って地に跪くと、握り締めていた黒髪をその墓石に捧げた。
「貴殿の息子は…何処に出しても恥ずかしくないくらい、立派になりましたよ」
そうつぶやく表情も、とても柔らかな微笑み、だった。
そして……ゆっくりと静かに、その姿は溶けるように消えて行った。
PR
COMMENT
プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
カレンダー
カテゴリー
最新記事
(06/23)
(10/08)
(10/08)
(09/30)
(09/10)
(09/10)
(08/06)
(08/06)
(07/09)
(07/09)
アーカイブ
ブログ内検索