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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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FLOW 後編
こちらは、以前のHPで2004年06月27日にUPしたものです
 ※シリーズ小説はカップリング小説です。
(勿論DxAですが、ダミアンxルークもあります。
でもこのシリーズのメインはRXです…多分/^^;

拍手[2回]


◇◆◇

 何処をどう歩いて帰って来たのかはわからない。けれど、気が付いたら王都に辿り着いていた。
「…ルーク…っ!」
 名前を呼ばれ、ふと視線を上げて空を見上げれば、そこには翼を背負った仲魔の姿。
「…エース…」
----あぁ、戻って来たんだ。
 そう思った瞬間、彼の意識は途切れた。

----…ルーク…
 自分を呼ぶ声。それを、遙か遠くで聞いている様な気がしていた。
----…ルカ…
 微かな…自分の、昔の名前を呼ぶ声。それも何処か遠くから聞こえていて。
 どちらが本当の名前だっただろう?そんなことをぼんやりと考えながら、彼はゆっくりと目を開けた。
 薄暗い部屋。そこには明かりの一つも灯っておらず、ただ夕暮れの薄闇に支配されているだけだった。
 辺りを見回しても、誰の姿もない。
「…ここは…?」
 ゆっくりと上体を起こそうとして、身体の節々が痛いことに気が付いた。けれどそれを堪えて起き上がり、もう一度辺りを見回す。薄闇に目が慣れて来て辺りが段々と認識出来るようになって初めて、そこが自分の屋敷の、自分の寝室であることに気が付いた。
----確か…王都に戻って来て、エースに会った後……
 その後の記憶はない。気が付いたら、このベッドの上で眠っていたのだ。多分、仲魔が運んでくれたのだろうが…それにしても、誰も傍にいないと言うことは、今までにないこと。このように放っておかれたのは初めてだった。
「…はぁ…」
 大きな溜め息が一つ。
 何を思った訳ではない。けれど、どう言う訳か、溜め息が零れたのだ。
 その時、窓の外でばさばさと大きな鳥でも羽ばたいているかのような音が聞こえた。そしてその直後、ベランダの窓が外側から開かれた。
「…あぁ、気が付いたか」
「…エース…」
 飛んで来たのは、鳥ではなく、大切な仲魔。漆黒の闇を纏ったような黒い翼を、未だその背中に背負っていた。
 翼を身の内に仕舞った仲魔は、そのまま彼の元へと歩み寄るとベッドのヘッドランプを灯し、そのままその手でそっと彼の額へと触れた。
「…熱も下がったようだし、もう大丈夫だな」
「…俺、一体…」
「倒れた、だろう?一ヶ月も行方不明で、やっと見つけたと思ったら、酷い熱で。それから三日三晩、眠り続けていたんだから。心配したんだぞ?」
「…あぁ…そうだったんだ…御免ね、心配かけて…」
 そう言われてやっと、身体の節々が痛いことも納得した。けれど、一ヶ月も彷徨っていたと言う実感は、彼にはなかった。
「…何処に、行っていたんだ…?」
 ベッドの端に腰掛けた仲魔が、そう問いかける。
「何処って……」
「心配、したんだからな…」
 そうつぶやく横顔が、酷く苦しそうに見えたのは気の所為だろうか…?
 自分以上に苦しんでいる仲魔。その解せない気持ちは、少しは察することは出来る。
 彼の仲魔もまた…優し過ぎるのだ。
「…御免ね。でも俺も、一ヶ月も彷徨ってたなんて思わなかったんだもん。熱を出していた実感もなかったし…感覚が、麻痺してたのかな…」
 くすっと、彼の口から小さな笑いが零れた。その笑いを聞きながらも尚、仲魔の表情は変わらない。
「…俺も…何処に行っていたか、わからないんだ。でも、魔界にはいたと思う。マラフィア殿も、そう言っていたし…」
「…マラフィア殿…?」
 問い返す仲魔の表情が、驚きに変わった。
「そう。何処をどう歩いて行ったのか全然覚えてないんだけど…気が付いたら、マラフィア殿と出会った。そして…父様の墓石もあった…」
「…ルーク…」
「そこでね…話は全部聞いた。みんな助かったことも、ゼノンが職務復帰したことも…"錬叛刀"とダミ様のことも…全部ね。マラフィア殿は、"あるヒト"が教えてくれたって言ってたけど…その"あるヒト"だけは、教えてくれなかったけどね」
 一つだけ言えなかったのは…"魔界防衛軍"に関しての事。マラフィアは、仲魔であろうとも無実だとの確信はない、と言っていた。ならば…確実に無実だとわかるまで、口を割る訳にはいかない。
 そう考えに至るまでのその僅かな間、怪訝そうな表情を見せる仲魔。その不安を打ち消すかのように、彼は笑ってみせた。
 マラフィアと、約束した通りに。
「あとさ…結婚、するんだってね、ダミ様」
「…御前、そんなことまで…?」
----だから…髪を…?
 呆然として問いかけた声に、彼はハッとして自分の髪に手を触れた。
「あぁ…そうだった。切っちゃったんだよね…忘れてた。また、手入れが大変になっちゃう」
 くすくすと笑う彼。けれど、目の前の仲魔の表情は、相変わらず苦しそうなを浮かべていた。
「…そんな顔、しないでよ。俺は大丈夫。ショックじゃなかった、って言ったら嘘になるけど…俺は、もう一度自分の決めた道を歩きたいんだ。その為の決断。王都に戻って来たのだってそう。俺は、ダミ様に何と言われようとも、引くつもりはないよ。折角、繋いだ想いだもん。ダミ様が、本気で俺を拒否しない限り、俺は諦めない。だから、失恋のショックで切った訳じゃないんだ。きっかけが欲しかった、って言うのかな。自分の気持ちの問題」
 その途端、ふわっと抱き締められた。
「…馬鹿だな、御前は…そうまでして、どうしてダミアン様に拘わるんだ…?御前を、裏切ったって言うのに…」
 耳元で聞こえた、低い声。
 けれど、彼はその言葉に笑いを零した。
「…やめてよ。俺、裏切られたなんて思ってないよ?それしか、方法がなかったんだよ…だから、俺は信じてる……エースだって、わかるでしょう?」
----愛して、いるんだもの…
 彼は、笑っているつもりだった。けれど、彼の意志に反して、頬を濡らした輝き。それでも彼は、笑っていた。
「…あのヒトが…ここにいても良いって、言ってくれたから…俺を、認めてくれたから…だから、俺はここにいられるんだもん。俺の居場所を作ってくれたのは…あのヒトなんだよ…やっと見つけた、安息の地だから…だから、俺は信じる。絶対に……」
 ぽろぽろと零れる涙を拭いもせず、彼は必死にそう言葉を紡ぐ。それを、仲魔は切ない想いで聞いていた。
 彼の言っていることはわかっているつもりだった。どんなに自分が否定しようとも、彼の意志は変わらない。そう簡単に変わるくらいだったら、こんなにまで想い詰める必要もないのだから。
 自身もかつて味わった、切ない程の想い。それを、彼の仲魔は、痛い程感じていた。
「…わかったから…泣くなよ」
 抱き締めたまま、ポンポンと彼の頭を叩く仕種は、とても優しい。
「…御免ね、心配かけて。笑ってみせるって、マラフィア殿と約束したんだけどな…」
 ゆっくりと仲魔から身体を離し、涙を拭いながら微笑んでみせる。
 大きな溜め息を吐き出し、彼の仲魔も笑ってみせた。
「ホント、馬鹿だな、御前は」
 その言葉は皮肉ではなく、彼を思えばこそ。
「有り難うね、エース」
 ここから先は、彼にしか踏み込めない。そう判断した彼の仲魔は、黙ってそれを見守ることに決めたようだ。
「もう…ここまで来たら、簡単には戻れないからな。覚悟しろよ」
「わかってる。俺はそんなに臆病者じゃないから」
 くすっと、笑いを零す。そして今度は彼の方から、彼の仲魔を引き寄せた。
「…有り難う」
 もう一度、そう口にする。
「頑張れよ」
 ポンポンと背中を叩かれた。それが、彼の仲魔なりの応援のつもりだった。

◇◆◇

 熱いシャワーを浴び、身仕度を整えた彼は、その晩恋悪魔の執務室を訪れていた。
 もう、終了時間はとっくに過ぎている。けれど、まだその執務室には明かりが灯っていたのだ。彼の仲魔の話では、彼が行方不明になっている間、殆ど屋敷には帰っていないようだとのことだった。
 足音を立てず、ゆっくりと枢密院の廊下を進み、その執務室の前までやって来た彼は、ドアをノックしようかどうかを躊躇っていた。
 覚悟を決めて来たものの、やはり恋悪魔と顔を会わせるのは切ない。その結果、完全に振られてしまうかも知れないのだから。
 ドアの前で躊躇いながら、時間は刻一刻と過ぎていた。
 そして、幾度目かの溜め息を吐き出した時、ドアの向こうから小さな声が聞こえた。
『…入っておいで』
「……っ」
 気配を押し殺していたはずだが、ドアの向こうの主にはその気を感じ取ることが出来ていたようだ。そして彼がずっとここにいたことも、わかっていたのだろう。
「…失礼します」
 意を決し、彼はそのドアを開けた。
 彼の恋悪魔は、後ろを向いていた。けれど、その背中が少し細くなったような気がしたのは、気の所為だろうか…?
「…ただいま…戻りました。済みません…無断で一ヶ月も留守にしてしまって…」
 小さく、つぶやくような声。すると、向こうを向いていた恋悪魔は、ゆっくりと振り返った。
「御帰り」
 そう言って彼を見つめ、微笑むように目を細めた。
「あぁ…昔に戻ったね。軍事局に入ったばかりの頃のようだ」
 そうつぶやく声は、まるで変わらない優しさがある。けれど…その眼差しの奥に、何か寂しげな光も見えた。多分…それは、彼にしかわからない、恋悪魔の変化だったのだろうが。
「少し…痩せましたね。全然屋敷に帰っていないんですって?ちゃんと眠っていますか?」
 案ずるように言った言葉にも、笑いが零れた。
「御前が心配することじゃないよ。わたしの体調管理は、ちゃんとわたしがしているから。このところ忙しくてね」
 心配をかけまいとして言っているのはわかっていた。けれど…今は何だか、それが切なくて。彼の仲魔に大見得を切って来たものの…いざ、恋悪魔を目の前にすると、現実が酷く哀しくて。
「…覚悟を決めて…話をしに来ました。俺は…どんな答えを聞いても…後悔はしません」
 少しでも気持ちを静めようと大きく息を吐き出したものの、吐き出した吐息も震えていて。
 その震えた吐息を…恋悪魔はわかっていたのだろうか?
 暫しの沈黙の後、恋悪魔はゆっくりと口を開いた。
「…その顔は…知っているんだね?わたしの結婚のこと。御前は…絶望、しただろう?御前を裏切った、このわたしを」
「…ダミ様…」
 くすりと、笑いが零れた。勿論それは、恋悪魔の口から。
「可笑しな話だ。魔界を存続させる為には、世継ぎが必要だから…その為に、結婚しなければならない、だなんてね。古い仕来りだが…それに従わなければならない自分がいる。その為に、見たこともない…愛してもいない者を妻とするだなんて…。こんなことなら、皇太子などに生まれなければ良かったね」
 自嘲気味なその言葉。自分を卑下する言葉。
 かつて…自分に向けられた言葉が、ふと彼の脳裏に過った。
----…馬鹿だね。報われないってわかっているのに。殿下は、いつか貴殿じゃない悪魔と結婚する。世継ぎを残す為にね。絶対、貴殿が報われることはない。そうわかっているのにいつまでも夢ばかり追いかけてても、貴殿が傷つくだけなのに……
 そう。わかっているつもりだった。傷ついても、自分の気持ちだけは偽れないと。
 だからこそ……自分はこうして、ここに来たのではないか。
「貴方が皇太子ではなかったら…俺たちはきっと出逢えなかった。俺は…貴方がいつか、俺以外のヒトと結婚するとわかっていても、貴方が好きだったんです。今も…その気持ちは変わりません。俺は…貴方が好きです。愛しています。だから…貴方が俺を想ってくれる間は、絶望もしません。俺は、覚悟を決めました。それが世間には認められなくても…俺は、貴方を諦めない。髪を切ったのは、そのけじめです。初心忘れるべからず、って、自分に言い聞かせる為に」
「…ルーク…」
 恋悪魔の表情が変わったのは、彼にもわかった。
 もう、その顔に嘲笑はない。あるのは、驚きの表情。
「傍に…いさせてください。これから先もずっと…俺の居場所は…ダミ様の傍しかないんです」
 失わない為に、彼が選んだ道。正妻でなくとも構わない。ただ、傍にいられるのであれば、それで……。
 くすっと、恋悪魔が笑った。その笑いは、自分を卑下するものではなく…愛しい恋悪魔へ向けられた微笑み。
「…馬鹿だね、御前は。自ら進んで妾になろうと言うのかい?御前なら、もっと良い恋悪魔が見つかると言うのに…」
「良いんです、俺は馬鹿ですから。馬鹿は、諦めが悪いんです。正妻になれないことは、最初からわかっていたんですから。俺では…堕天使の俺では、ダミ様の恋悪魔に相応しくないことも。でも、諦めが悪いから…傍にいることさえ、許して貰えればそれで…」
 その言葉が終わらないうちに、彼は抱き締められていた。
 暖かい温もり。仄かな芳香。それだけで、胸が一杯になった。
 もう一度…この温もりを、感じることが出来た。それが、何よりも嬉しくて。
「…ホントに…馬鹿なんだから、御前は…」
「…エースにも、散々言われましたよ」
 くすっと、彼も笑いを零した。
「だが…知っているだろう?わたしは御前の、父親の仇だよ?」
「確かに聞きました。でも、それは父様が望んだことでしょう?マラフィア殿から、その時の話は聞きました。貴方が、どれだけ苦しかったかも。だからそのことに関して、俺は貴方を恨んだりはしない。勿論、父様も、マラフィア殿も」
「…マラフィア…?」
 思いもかけなかったその名前に反応した恋悪魔は、彼の身体を軽く離した。
「マラフィアに…会ったのかい?」
 問いかける声に、彼は小さく頷いた。
「はい。マラフィア殿が何処にいるのかは知らなかったんですけど…気が付いたら、マラフィア殿の家の近くにいて…そこに、父様の墓石もあって…。マラフィア殿は、"あるヒト"から話を聞いたと言っていました。その"あるヒト"は教えて貰えませんでしたけど…昔の話も、今回の話も、全部マラフィア殿から聞きました。その話をしたら、エースも驚いてましたけど」
 元上司のことを嬉しそうに話す彼の姿に、恋悪魔は敢えて口を噤んでいた。
 彼は、知らなかったのだろう。そして今も尚、その事実を知っているはずの彼の仲魔から、その事実を知らされてはいないのだろう。
 彼の元上司は……マラフィアは、既にこの世の者ではないと言うことを。
 この世の者ではないからこそ、元上司は、全てを見知っていたのだろう。そして彼が迷い込んだのは、恐らく現実と霊界の狭間。魔界の一部には違いないが、そこは既に現世ではないのだ。
「…そう、か。御前は…良い上司に恵まれたね」
 その言葉しか、思い浮かばなかった。
 短くなった彼の髪をくしゃっと掻き混ぜる恋悪魔の仕種は、彼にその存在の近さを実感させていた。
「傍に…いても良いですよね…?奥方様になる方の、邪魔はしませんから…」
 改めてそう問いかけた彼の言葉に、恋悪魔は小さな吐息を吐き出した。
「…そうだな。わたしも…そう簡単に、御前を諦められそうにない。まぁ、なるようになるさ。回りに知られたら…その時はその時だ。その時でも…御前に責任はないからね」
 くすっと、笑う恋悪魔。その微笑みが嬉しくて…何よりも、暖かくて。
「ずっと…これからもずっと、傍にいておくれ」
「…はい。そう簡単には離れませんからね」
 小さく笑った姿に、傾けられた頬がそっと触れる。
 これから先の…もしかしたら、棘の道かも知れない彼の魔生の分岐点でもあるこの時の決断に、彼は後悔しないことを心に決めていた。
 誰よりも大切な…最愛の恋悪魔を、手放さない為に。
 自分の存在意義を、見失わない為に。

◇◆◇

 その夜遅く、彼は仲魔の私邸へと向かっていた。
 その道すがら、ずっと考えていたこと。それは…マラフィアから受けた忠告。"魔界防衛軍"と関わりのある者に関して。
 まずは上層部の嫌疑を外す為、その状況を一つずつ思い出しながら、情は一切忘れ、そこに関わっていた者を思い出していた。
 ウイルスが蔓延した時に被害を受けたのは、ダミアン、デーモン、そしてルーク自身。つまり、青の種族と紋様のない種族。そこから外れたエースとライデンは嫌疑がかかる。勿論、ゼノンはウイルスを盗まれた被害者ではあるが…それが自作自演だと言えばそれまで。それだけでは、無実確定とは言えない。
 その次は、ロイドの件。あの時…ロイドが討たれたあの時、その場にいたのはテオだけ。そしてその同じ時間、ルークはアリスと一緒にいた。だから、アリスにも手を出すことは不可能。エースは任務で王都にはいなかった。当然、そこには軍の者もいたのだから、エースにも不可能。ライデンもデーモンの屋敷にいて、使用魔がいたことを確認しているので不可能と言うことになる。後の者は執務室にいたが、こっそり抜け出したと言うことも有り得なくはない。なので、ダミアン、デーモン、そして王都にいなかったとは言え、ゼノンはやはり容疑者に含まれてしまう。
 そして、ルークの影に妖魔が取り付いた件。勿論、ルークは該当者なので除外される。雷神界にいたライデンも周囲の目があったのでいなくなれば直ぐにわかるので除外。そして、一緒に取り付かれたシェリーに関しては…"オズウェル"と出会っていると言う点で、敵としても無実としても、両方取れる。と言うことは、グレーでしかない。そしてそこでも容疑がかかるのは、ダミアン、デーモン、エース、ゼノン。
 だが、今回の発端となったゼノンが討たれた件に関して、被害者であるゼノンは除外。そして、その場にいたライデンも当然除外される。後は、"錬叛刀"を雷神界へと運ぶ時に襲われかけたデーモンとルーク自身。その両名も除外されるだろう。となると、そこでの容疑者としてはダミアンとエースと言うことになる。
 そして一番最初に"魔界防衛軍"の名を聞いた時、ライデン以外の全員が被害を受けている。そう考えれば、ライデンが一番疑われるべきであるが…自ら、最愛のゼノンを討つ意味がわからない。
 そう思えば、上層部は一通り嫌疑を免れることが出来るはず。だが…それだけが真実だろうか…?そこにまだ、何かあるような気がしてならない。
 考えが全く纏まらない。そしてそんなことを考えている間に、目的の屋敷へと着いてしまった。
 溜め息を一つ吐き出し、取り敢えず今ここへ来るまでの考えを一時的にシャットアウトする。そうして、気持ちを切り替えた。
「…エース、起きてる?」
 外から飛んで来た彼は、仲魔の寝室に当たる部屋のテラスの前でそう声をかけた。
『あぁ、今開ける』
 中から声がして、その窓が開かれる。そして中から顔を覗かせたこの屋敷の主は、無言で彼を室内へと促した。
「…寝てなかったの?」
 そのベッドに、横になった形跡はない。ただ、窓際の小振りな丸テーブルの上には、主が嗜んでいたのであろう酒の入ったグラスと、そして主の御気に入りの酒のボトルが一本、水と氷の入った器が置いてあった。
「生憎…俺の神経は、そんなに図太くないもんでね。大事な仲魔が下した決断の結末を知らずに、呑気に寝てる訳にも行かないだろう?」
 そう零した主は、もう一脚の椅子を引くと、彼をそこへと促した。そして、ガラス戸の填ったキャビネットから、もう一つグラスを持って来ると、彼の分の酒を用意する。
「…ダミアン様は何て?」
 その結果が気になっていたのだろう。手を動かしながら、彼に問いかける。
「うん…笑われたけどね。でも…俺の気持ちはわかってくれたし、受け入れてもくれた。まぁ、あんたには気に入らない結末だろうけど…俺は、後悔しない。例え、他の悪魔に公言出来なくたって、今までだってそうだったんだもん。俺は、何も変わらないつもりだから。迷惑や心配かけてばっかりだろうけど…俺も、俺なりに倖せになるから」
 そう言い切った彼の表情に、迷いは微塵もない。晴れ晴れとした、彼らしい良い笑顔であった。
「そんな、今生の別れみたいな台詞は聞きたくないな。御前は、今まで通り、任務に戻るんだろう?」
「…戻れれば、ね。一ヶ月も無断で留守にして、何にも処分がないとは思っていないから。そこまで甘くないでしょう?」
「…さぁな。それに関しては、俺に権限はないからな。明日にでも、デーモンの所に行って、元気な顔でも見せてやるんだな。そうしたら、処分も少しは軽減されるかも知れないぞ?」
 くすっと、小さく笑う仲魔。
 快く、納得してくれた訳ではないだろう。けれど、彼の想いを成就させる為に、その想いを胸の底に押し止めていることはわかり切っていた。その上で、また今まで通りの仲魔として、接してくれていることが嬉しくて。
「…俺って、ホントに倖せ者だね」
 ぽつりと零した言葉。その言葉に、一瞬呆然とした表情を浮かべた仲魔だったが、やがてその表情は穏やかな微笑みに変わった。
「何を今更。自惚れるなよ」
 彼の表情にも、笑いが戻る。
「…そう言えば、デーさんたちに俺が帰って来たこと、話したの?」
 ふと、そう脳裏を過った。
 勝手に行方を眩ませてから、何の連絡もしていないのだから、彼等にも迷惑や心配をかけたことだろう。
「いや…まだ、何にも言っていない。御前がきちんと決断してからの方が良いかと思ってな。回りからとやかく言われてからよりは良いだろう?」
「…まぁ…ね」
 この仲魔なりの、気遣いだったのだろう。だからこそ、こうやって静かに決断の時を向かえることが出来たと言えば、まさにその気遣いのおかげなのだが。
「じゃあ…無事に帰って来たことを、ちゃんと報告に行かないとね。デーさんと、ゼノンと、ライデンと……」
 流石の彼も、緊張の糸が切れかかって来たようだ。大きな欠伸が零れると、再び仲魔の笑いが届く。
「疲れただろう?一泊して行くか?」
「ううん、帰るよ。ウチの屋敷の使用魔たちも心配してるだろうからね。特に蒼羽はさっきもずっと俺の後ろくっついて来てたから」
 そう言いながら、グラスに残っている残りの酒を飲み干すと、席を立った。
「御世話様。また明日、報告がてら…ね」
「あぁ。気をつけてな」
 再び、窓から去って行く彼を見送りながら、何かを思い出したように、仲魔がポンと手を叩いた。
「あぁ、そうだ。御前に言ってなかったよな?」
「…何?」
 背中から出現した漆黒の翼を二、三度羽ばたかせたところでそう口を開いた仲魔を振り返りながら、彼は尋ねる。
「ゼノンも、結婚するってさ」
「…は?誰と…?」
 改めてそう言われると、ピンと来なかったのだが…相手は一名しかいないことは、明確であった。
「誰って、ライデンと、に決まってるだろう?他に誰がいる?」
「…あぁ、そうだよね。そっか…無事に、縒りを戻せたんだね。でも、大変でしょう?ライデンは国王だし…やっぱり、婿に行くの?」
「俺もはっきり聞いてはいないんだ。まぁ、詳しいことは明日、本魔に聞いてみるんだな」
「ん、そうする。じゃあね。御休み」
「あぁ、御休み」
 仲魔に見送られ、彼は星の瞬く漆黒の闇の中へと飛び出して行った。その背中を、仲魔の暖かい眼差しが見送っていたのは言うまでもない。

◇◆◇

 翌日、彼は、仲魔の執務室で、昨夜聞いた仲魔の結婚の話をもう一度聞くことになる。
 みんなが倖せであれば良い。それが、誰もが胸に抱いた希望であり、自身の憧れでもある。
 だが、何よりも…今は、自分の決断をみんなが納得してくれたことが嬉しい。大好きな悪魔と共にいられることが嬉しい。
 そんな細やかな倖せを、噛み締めつつ…この先の不安を、暫し押し殺す。

 彼はまた一つ、大人になった。
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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