聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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最後の晩餐 4
雷神界の宮廷の奥にある、皇太子宮。そのうちの一室のベッドに横たわる姿を見つめる二名の姿がある。
「…御免ね。ルークの容体のことを考えると、結局ここに逃げ込むしかなくて…」
済まなそうにつぶやくゼノンに、ライデンは首を横に振る。
「それは構わないけど…」
そうつぶやいてはみたものの、相手がいつもと違う気を纏っていることの方が気になる。
「…あんた…ホントにゼノン…?」
思わず、そう問いかけてしまう。
勿論、そこにいるのは見知ったゼノンである。けれど…全体的に纏う気が、ライデンに警鐘を鳴らしているのだ。
ふと、手を伸ばしてその身体に触れようとした。
「触らないでっ!」
「……っ」
指先が触れようとした瞬間、悲鳴のような声を上げたゼノンに、ライデンはびくっとして手を引っ込める。
そして…その眼差しは、僅かに怯えた色を浮かべていた。
そんなライデンの姿を前に、ゼノンは…一つ、大きく息を吐き出す。
「御免ね…今の俺は"鬼"だから…御前に触れられたら、殺してしまうかも知れない…」
「…ゼノン…」
ゼノンの左耳には、いつもは決して外すことのない魔力制御と感情制御の二つのピアスが、外れている。今、ライデンと向き合っても何とか理性を保てているのは、辛うじて残っているもう一つの感情制御のピアスが抑えているから。
そうなるに至った理由は…多分、聞かなくてもわかる。
「…ついさっき…俺は、鬼面を被った"鬼"になった。今は、もう鬼面は外したけど…制御を解いた身体は、そう簡単に元には戻らないから…俺には、触らないで…」
そう、口にするゼノンの表情は…とても苦しそうだった。
ライデンも、"鬼"そのものとは会ったことはあるし、話をしたこともある。あの時はとても穏やかで、"鬼"の本当の能力まではわからなかった。
けれど、今纏っている気は…ライデンが初めて感じる、とても強くて…不安を駆り立てるモノ、だった。それが、ゼノンが恐れている本当の姿なのだと、改めて思い知らされた。
「…俺は…自分が、何をすべきなのかはわかっているよ。医師として、援護に回ることが役割だって言うことも。でも……ここまでされて、黙って見ているだけだなんて…そんな卑怯なことは出来ないよ。俺だって…任務を共にした仲魔、だもの。逃げる訳にはいかない」
"鬼"を取り戻したゼノンに、制御が利かないのはわかった。けれど…だからと言って、その不安をそのままにして送り出す訳にもいかなかった。
でも…それでも。仲魔を想う気持ちを、踏みにじることも出来なかった。
ライデンは大きな溜め息を一つ。そして、しっかりとゼノンを見つめる。
「…ちゃんと…帰って来てね…」
「…ライ…」
思いがけない言葉に、ゼノンは一瞬息を飲む。
「あんたを"鬼"のまま、魔界に行かせてしまうことは怖いけど……でも、俺がちゃんと…元に戻してあげるから。だから…ちゃんと、帰って来てよ」
「……でも…俺は、"鬼"のままでは御前には近付けない。わかってるでしょ…?」
"鬼"であるうちは、ライデンを喰らってしまうかも知れない。だからこそ、近づくことも出来ない。
けれど、ライデンは小さく笑いを零した。
「大丈夫。俺だって、伊達にあんたと一緒にいた訳じゃない。それに、"彼奴"の本心はわかってるから。俺の為にしてくれる封印なら、俺じゃないと駄目じゃない。必ず、何とかするから。後の事は心配しないっ。ルークのことは、ウチがちゃんと診るから。だからあんたは…自分のやりたいようにやって来て。それで…必ず、帰って来て。死んだら許さないからね」
「………」
にっこりと微笑むライデン。勿論、本心から見送っている訳ではない。けれど…今は、それが最善だと思ったから。
自分になら、きっとどうにかゼノンを抑えることは出来る。それはライデンの、根拠のない自信だったが…精一杯の虚勢でもあった。
「…有難う…」
今は…その優しさに縋るしかない。
ゼノンは、小さく言葉を放つと、直ぐに踵を返した。
その背中を見送ったライデンの表情は…不安で一杯だった。
ゼノンが魔界へ戻って暫く経った頃。
「…ん…」
小さな呻き声と共に開かれたルークの黒曜石に、ライデンは思わず安堵の溜め息を吐いた。
「…ここは…」
「雷神界だよ。訳あって、魔界から避難して来たんだ」
「そう…」
ゆっくりと身体を起こしたルークは、心配そうに見つめていたライデンに向けて、小さな微笑みを向ける。
「どうやら、随分心配かけたみたいだね」
「いや。そんなことないけどね」
曖昧に微笑むライデン。いざと言う時にはこの雷神界が一番安全であることが明らかなのだから、ゼノンがルークを連れて逃げ込んで来ることは、見当がついていたのだ。
ライデンを安心させるかのようにその顔に小さな微笑みを浮かべていたルークは、やがてすっと表情を引き戻す。背中の傷は未だ根深く疼いているが、そんなことに構っている暇はない。身体を起こすと、その視線を真っ直ぐライデンへと向ける。
「…俺の…翼は?」
「大丈夫。ゼノンがあんたと一緒に抱えて来たよ」
そう答えたライデンの声に、僅かに安堵の表情を見せる。神の産物と言われて続けた真白き翼も、ルークにとっては大切なモノだったのだ。
「…で、そのゼノンは…?」
医師であるゼノンが、自分の傍にいない。それが、奇妙に思えて。
「うん…実は…」
ライデンは、ゼノンの様子を含め、わかっている真実だけをルークに伝えた。
魔界で、どんな状況だったのかはわからない。けれど、ゼノンが鬼面を被らなければならない状況であったことはわかる。そこに、ルークがいたことも。そして…自分は、これ以上、魔界に深入り出来ない状況であることも。
「…御免ね…俺は、あんたの看病ぐらいしか出来ない…」
そうつぶやいて唇を噛み締めたライデンの声に、ルークはほんの少し苦痛に顔を歪めながらも、腕を伸ばしてライデンの頭をポンポンと叩いた。
「何言ってんの。今の俺にとって、あんたが一番頼りなんだけど?」
「…ルーク…」
「ホントは…あんたを巻き込んじゃいけないって、わかってる。でも、今はこうして頼るしかない。勿論、離れていることがあんたにとっても不服なのはわかってるよ。でも…今の魔界に…俺たちにとっての安全な場所はない。だから、ゼノンも雷神界を選んだんだと思う。ただ、長居はしない。動けるようになったら、直ぐに戻るから」
「…うん…」
ライデンの表情は、不安しか見えなかった。
自分が関わることは出来ない。だからこそ…仲魔たちが心配で。
「…そんな顔、すんなよ」
そう言ってルークは、少し笑った。
「死ぬつもりはないよ。それは俺だけじゃない、みんな同じ。ダミ様だって、デーさんだって…必ず助け出してみせる。だから…大丈夫。心配するな、って言うことも、待っててよ、って言うことも…あんたには不服だろうけど。でも、現段階で雷神界が巻き込まれない為にはそうして貰うしかない」
「わかってるよ。だけどさ…ゼノンも"鬼"に戻っちゃうし…あんたも…翼、なくなっちゃったし…デーさんの声も…」
「大丈夫。必ず、何とかするから」
「ルーク…」
ライデンの声を遮り、ルークはそう言い切った。
ゼノンの鬼化は、多分今この状況では一番簡単に対処は出来るはず。デーモンの声は、きちんと診断を受ければまた違った答えが出るかも知れない。そこには、まだ希望はある。
けれど…切られた翼は、元には戻らない。それは確かなこと。
それでも…ルークは、ライデンに笑ってみせた。
それが、ルークのせめてものプライド、だった。
自分で選んだ道なのだから、弱音を吐く訳にはいかない。
「…でさ、モノは相談なんだけど…」
ルークは大きく息を吐き出すと、その表情を引き締めてライデンに視線を向けた。
それはとても真剣で。
「悪いんだけど…何とかミカエルと連絡取れないかな?」
「そりゃ、カオスでなら出来るだろうけど…でも、ターディルに見つかったら、大変なことになるんじゃない?それこそ、謀反魔として捕えられるんじゃ…」
「…でも、会わなきゃならない気がするんだ。魔界へ帰る前に…翼を返さないと…」
先程までとは違うルークの真剣な表情に、ライデンは頷かざるを得ない状況にあることを察知する。
ルークも、まず自分自身にけじめを付けなければ、前へは進めない気がして。
「…わかった。あんたの言う通り、ミカエルに連絡取ってみる。まぁ…向こうが受けてくれるかどうかはわからないけど…」
じゃ、ちょっと待ってて。
そう言い残し、ライデンは部屋を出て行った。
その背中を、ルークは黙って見つめていた。
天界と接触を図ることで…自分自身に降りかかって来る"火の粉"は、必ずある。それを謀反と言われる自覚は、ルークにも勿論あった。
それでも…今のこの状況を打破する為には、進まなければならない道だった。
天界の中心部にある神殿の一室に設けられた、ミカエルの執務室。ここに現れた、一名の姿。
「ミカエル、入りますよ」
そう声をかけて中に入って来た姿に、ミカエルは僅かに視線を送って答えた。
「あぁ、ラファエル」
送った視線の先にあるラファエルの表情に、ミカエルは動かしていた手を留める。御互いの表情は、察しなくてもわかるくらいに険しい。
それは、つい先程届いた書類にある。送り主は…魔界防衛軍隊長、ターディル=ラヴォイ。
「…全く…何のつもりなんだろうな」
思わず零した、ミカエルの本音。
書類の内容は、魔界で現在起こっている革命のこと。
「地球任務に関係した上層部を根こそぎ解任した上に、皇太子と副大魔王は捕われの身…エース殿とゼノン殿、そしてルークは逃走中…信じがたいと言えば、それまでですけれどね」
「あぁ、そうだな。まさか、魔界だけでなくこの天界までも制圧しようと考える奴が出て来るとは、考えもしなかったな」
ラファエルの声に同意を示したミカエルは、大きな溜め息を吐き出す。その表情は、複雑窮まりない。
勿論魔界と戦うことに対して、異論がある訳ではないのだが…問題は、ターディルの目的である。何故、今更地球任務に関係した上層部を潰しにかかったのか。
「彼等の行方は…まだ掴めないのか?」
問いかけたミカエルの声に、ラファエルは溜め息を一つ。
「えぇ、こちらには何も。ですが多分…魔界防衛軍の方では、目星は付いているものと。簡単に手出し出来ない場所であるなら、一つしかありませんから」
「…捕えられるのも、時間の問題と言うことか」
思わず浮かべた複雑な表情。確かに彼等は敵である。しかも非常に厄介な。今回身分を剥奪された謀反魔たちは、敵であって敵ではない。事、ルークに関しては。
「無事であれば、良いのですけれど…」
小さくつぶやいた、ラファエルの声。それは、誰に…と言うモノではないだろう。ミカエルが、再び溜め息を吐き出した時。執務室に通信が届いた。
「どうした?」
通信を受けたミカエルは、億劫そうにそう尋ねる。
『雷神界のライデン殿下から、ミカエル様に通信が入っておりますが…如何致しましょう?』
「…ライデン殿下から?」
地球任務に関わった構成員としては、たった一名だけ戦火を逃れた雷神界の御曹司からの通信に、ミカエルは思わずラファエルと顔を見合わせる。時が時だけに、尋常ではない。
「わかった、こちらで受ける。回してくれ」
『かしこまりました』
やがて通信が切り替わり、壁の液晶にライデンの姿が写し出される。
『…悪いね、忙しい中…』
「いや。それよりも何用です?ラファエルも同席ですが、宜しいかな?」
『あぁ、ラファエルなら構わない。時間がないから、手っ取り早く話を進める』
酷く真剣な表情のライデンは、そこで一つ息を吐く。そして、切り出した言葉。
『魔界で起きてる革命のことは、多分そっちにも話は行っていると思う』
「あぁ、聞いている。魔界防衛軍隊長から直々に文書が届いているよ。魔界を征服したら、次は御前たちだ、と宣戦布告をされた。そちらには?」
『こっちはまだ何も。でも…本格的に彼奴等に魔界が征服されたら、時間の問題だろうね』
ライデンはそう言って溜め息を一つ。そして。
『…それで、だ。急で申し訳ないけど…これから、カオスに来てくれない?』
「カオスへ?何故です?」
問いかけたミカエルの声に、ライデンは一つ間を置く。
『ルークが、あんたを待ってる』
「…ルークが?」
逃走中との報告を受けたばかりの時に、この申し出は断る訳にはいかないだろう。
「…わかった。直ぐに行こう」
『あぁ、頼んだよ。じゃあ』
雷神界からの通信は切れた。
「…まさか、ルークが呼び出すとはな」
溜め息と共に吐き出された言葉に、ラファエルはくすっと小さな笑いを零す。
「行方がわかって、安心してるんじゃないんですか?」
「ラファ…」
思わず顔に出た、ミカエルの想い。それをラファエルに勘繰られ、つい頬が赤くなる。そんなミカエルに、ラファエルはくすくすと笑う。そして。
「御気を付けて」
「あぁ」
気まずさを隠すように、ミカエルはカオスへと向かった。
風だけが吹き抜けるカオスに、佇む一名の姿。顔色は優れず、羽織った戦闘服の下に見える胸に厚く巻かれた包帯だけが白く際立っていて。
「…ルーク…」
やって来た天界人は、その姿に思わず目を見張る。酷く苦しそうに見えるのは、傷の所為だけではないだろう。
ルークは半ばぼんやりとしたまま両手に能力を集め、それを呼び出した。それは、血に塗れた一対の翼。
「一つはターディルに捕まった時に、見せしめとして切られた。もう一つは…俺が、エースを裏切った償いとして自分の手で…」
そうつぶやいたルークは、今にも泣き出しそうで。
「これは…天界のモノ、だから…あんたに返す。これで俺は…もう、堕天使じゃない…」
「…あぁ。御前は、歴とした悪魔だ」
ルークの姿を見ているのが辛くて、ミカエルは思わずそう言葉を紡ぐ。
ルークの黒曜石は、潤んでいた。その胸の痛みは、ミカエルにも察することが出来る。
唯一の堕天使の証だった真白き翼を切り捨てた以上…ルークが愛していた母親との繋がりは、全て断たれたのだから。
「傷は…大丈夫なのか?」
気遣うように、ミカエルはルークに声をかける。
「…大丈夫。ゼノンが手当してくれたから…でも、もう今までみたいに、翼で空を飛ぶことが出来なくなっちゃったんだよね…翼なしで空を飛ぶ練習から始めないと…」
それは、酷く自嘲的な微笑み。憎まれているとわかっていても…ルークのこんな顔を見るのは切ない。思わず手を伸ばしたミカエルは、ルークをそっと抱き締める。
「ミカエル…」
「堪えることはない。口惜しければ、泣くのも許される。誰も、御前を咎めはしないだろう。御前の翼を愛していてくれた皇太子殿下も、勿論…エース殿も」
「…でも…」
「御前の償いは、もう十分だろう?」
優しく紡ぐミカエルの言葉に、ルークの塞き止めていた感情が溢れ出す。しっかりとミカエルの背に腕を回し、溢れる感情のままに、ルークは声を上げて涙を零していた。その傷付いた背に優しく触れたミカエルは、ルークの耳元に小さくつぶやく。
「…御前の翼は、確かに受け取ろう。その代わりとして、わたしが御前に返せるモノは限られているがな」
「…ミカエル?」
やっとで押さえた涙を拭い、ルークは怪訝そうにミカエルに視線を向けた。ルークから離れたミカエルは、受け取った翼に呪をかける。するとそれは大きな光へと姿を変える。そしてミカエルはその両手をそっとその傷付いた背に触れた。
「…っ」
熱い、何かを感じた。
「御前には…この色が良く似合う」
「…?」
一瞬、ミカエルが何を言っているのか良くわからなかった。だがその直後に身体が軽くなるのを感じ、ルークは己の背後を振り返る。はだけた包帯の隙間から僅かに見えたのは、蒼黒の翼。
「ミカエル…」
これは?切られた翼は、二度とは戻らないはずじゃ…
信じられずに問い返したルークの声に、ミカエルは小さく微笑んだ。
「案ずることはない。これは、御前の中に眠っていた可能性(ちから)だ。御前の翼を能力に戻して、元の場所に戻してやっただけのこと。その蒼黒の翼は、元々御前のモノだ」
背中の羽根はまるで抵抗を示さず、ルークの内なるモノであったことを示していた。
まさか、ミカエルが…再びルークに翼を授けてくれるなど…誰も想像もしていなかった。
「今までは、"彼女"が御前を護ってくれていた。今度は…御前の"父"が、御前を護ってくれる。自分の能力を、信じれば良い。御前は、"悪魔"なのだから」
「………」
やっと、認めて貰えた。
ルークの心の何処かで、そんな思いが生まれていた。
目の前のミカエルは、にっこりと微笑んでいた。彼もまた、ずっと心の奥にあった想いを断ち切れたのかも知れない。
「もう行くが良い。御前の仕事は、まだあるのだろう?」
「…有り難う、ミカエル」
小さな微笑みを浮かべたルークはミカエルの背をもう一度抱き締めると、振り返ることなくカオスを後にした。
ミカエルはその後ろ姿を、優しく見送っていた。
ルークを雷神界へ残し、魔界へ戻って来たゼノン。なるべく気配を消しながらやって来たのは、エースの執務室、だった。
「…ゼノン様…」
一名で訪れたゼノンを出迎えたのは、先程見送ったばかりのリエラ。
「さっきは御免ね。怪我、したでしょう?」
去り際に見えた、リエラの肩と胸元の怪我。ゼノンは、それを心配して戻って来たのだった。
「その為にわざわざ…?狙われていらっしゃるのに…」
リエラは、思わず自分の右肩に触れる。
医務室で応急手当はして貰い、胸元の傷は殆ど塞がっている。肩の方は、辛うじて傷が塞がっている程度で、今は動かさないように右腕を吊った状態である。元通りに動かせるようになるまではまだ時間がかかる上に、この状態で再びターディルに狙われたら、もう防ぎようがなかった。
「ライデンには、事情を説明して来たから大丈夫。俺たちを護ってくれて負った怪我だもの。ちゃんと、治してあげるから。でも、俺には触らないようにね。鬼面は外したけど、まだ"鬼"だし」
ゼノンはそう言って、小さく笑った。
ライデンだけではない。誰に対しても、"鬼"であると言うことは害を及ぼす。それだけ、大きな能力なのだ。
リエラをソファーに座らせると、念の為執務室に結界を張る。それから、その右肩にそっと手を翳した。
「…ちょっと動かないでね…」
ゼノンはそう言うと、目を閉じて少しずつ能力を送る。いつもは押さえられている能力が解放されている分、いつもよりも慎重になるのは当然のことだった。
害にならないギリギリの魔力は、感覚としてはかなりの熱さを感じる。けれど、それもほんの短い時間。直ぐに、傷は完全に回復した。
「…凄いですね…」
先程までは動かなかった肩を回しながら、リエラはその回復を実感する。
今感じた能力は、それでもゼノンの本気のほんの少しにしか満たない。それだけの能力を持つ"鬼"の本性。もしかしたら…主たるエースの邪眼にも、劣らないだけの能力だと、リエラは感じていた。
「…まだ…戦うのですか…?」
その先にあるのは、大きな不安。けれど、ゼノンはにっこりと笑ってみせた。
「戦うよ。俺は、その為に"鬼"に戻ったんだ」
仲魔を護る為に戦う。それが、今の彼等の全てだった。
強い絆は…絶望を、希望へと変えてくれるのだろうか?
先の見えない未来だが、今はその絆を信じるしかない。
「…エースから、何かあった?」
問いかけたゼノンの声に、リエラは首を横に振る。
「そう。でもまぁ…デーモンの所に行ってるだろうね。じゃあ、俺は…大掃除、ってとこかな」
ゼノンは結界を解くと、窓を大きく開ける。そしてリエラを振り返った。
「御前は、手出ししちゃ駄目だよ。後は、俺たちの仕事だからね」
そして鬼面を被ると、一気に魔力を全開にした。
物凄い圧力を感じ、思わず両腕で顔を覆ったリエラ。その耳に届いたのは、窓の外からのざわめきだった。
「"鬼"だ!"鬼"がいたぞ!!捕まえろ!!」
集まって来る気は、一名や二名ではない。もっと大勢の…謀反魔たちが、ゼノンの気配に引き寄せられるように集まって来ている。
「…ゼノン様…っ!」
思わず声を上げたリエラに、ゼノンはにっこりと微笑みを残した。
そして、窓から外へと黒い翼をはためかせて飛び出して行く。
リエラは、ただ見送ることしか出来なかった。
ただ…主と、仲魔たちの…無事を、祈って。
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プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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筋金入りのオジコンです…(^^;
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