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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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追憶の情
こちらは、以前のHPで2000年6月23日にUPしたものです
 ※シリーズ小説はカップリング小説です。(基本DxAです…/笑)

拍手[3回]


◇◆◇

 いつもと同じに思えるその日、魔界はいつもとは違う、ある種の活気にも似た雰囲気に包まれていた。
「…そうか、今日が…」
 地獄中央情報局の最上部に位置する部屋…長官の執務室で、背凭れの大きな椅子に腰かけたこの部屋の主…エースは、目の前の書類に目を通しながらつぶやいた。
「今日の重役会議で、皇太子殿下から紹介があるのでしょう?その新任の副大魔王閣下の」
 机の前に立ち、書類に目を向けているエースを見てそう言った一悪魔の声に、エースは顔を上げた。
「クーヴェイ、嬉しそうだな」
「そりゃそうですよぉ~。今回の閣下はまだ御若いそうじゃないですかぁ~。魔界も、変わりますかね~?」
 エースの目の前でにこにこと微笑む悪魔…レイラ=クーヴェイを、エースは溜め息交じりに見つめる。
 エースがこの情報局の長官と言う役職に着き、暫くして長官補佐と言う形で現れたのが、このレイラ=クーヴェイである。普段の彼は、長官補佐の身分とは似つかない程、温和な表情の持ち主であり、その性格も然りである。
「どうせ、出世目当ての奴だろ?確か、俺よりも年下じゃなかったか?」
 エースが手に持っている書類は、その新任の副大魔王閣下に関するものだった。
「年下と言っても、たった一つでしょう?何百も年が離れている訳でもないんですから。やはり実力如何の世の中ですね。それに、若さで言うならばエースだって変わらないでしょう?まぁ、貴方の場合は、趣味と実益を兼ねてますけれどね。天使に対する残虐さは軍事局の方にも好評ですよ。いっそうのこと、軍事局に移ったらいかがですか?すぐに軍事参謀の名を欲しいままに出来ますよ。天下のエース長官ならね~」
 くすくすと笑いを零すレイラ=クーヴェイ。最後の言葉は、明らかに不機嫌そのもののエースに対して、敢えて付け加えたようである。
「…ったく…御前って奴は…」
 そうは言いながらも、小さく笑みを零したエース。しかし、やがて聞こえたノックの音に再び表情を引き締めた。
「エース長官、皇太子殿下の遣いの者が参りましたが」
「あぁ、わかった。すぐに行く」
 それが会議の知らせであるとわかったエースは、椅子から立ち上がって手に持っていた書類をクーヴェイに渡す。
「クーヴェイ、これは俺が帰って来る前に処分しろ」
「もう宜しいんですか?」
「あぁ。必要なことは全て頭の中に叩き込んだ」
 そう言い残し、エースは部屋を後にした。


 重役会議の行われる広間で、エースは文化局長の隣に席を置いていた。
「…そう。じゃあ、レイラは元気な訳ね」
「あぁ。あんたが心配することもないくらいな」
 エースが言葉を交わしている悪魔…地獄文化局長官のゼノンはエースの言葉に小さな笑みを零した。ゼノンとレイラ=クーヴェイは同地区、同種族の出身で、平常の温和な表情はまさにそれを納得させた。
 刹那。低い音がして奥の扉が開き、皇太子殿下ともう一名、見慣れない顔の悪魔が連れ立ってやって来た。
 ざわついた場を沈めるように席に着いた皇太子は声を発する。
「諸氏等には、既に連絡は行っていると思うが、改めて紹介しよう。彼が、副大魔王閣下に任命されたデーモンだ」
 その声に、一同の視線はその主…デーモンに集まる。彼は臆することもなく、悠然と立ち上がると一同を見回す。
「…今、殿下からの紹介があった通り、吾輩が副大魔王に就任したデーモンである。以後、御見知り置きを…」
「…気に入らねぇ…」
「…エースっ」
 ぼそりとつぶやいたエースの脇腹を、隣にいたゼノンが小さく小突いた。
 当悪魔達には聞こえていないのだろう、デーモンはその後二言三言言うと席に着いた。
 その間中、エースの無粋の表情は消えなかった。

「気に入らねぇもんは仕方ないだろーが」
 会議の終了後、ゼノンはエースのその声を呆れ顔で見つめていた。
「そんなこと言ってもねぇ…これから嫌でも付き合わなくちゃいけないんだよ。何せ、相手は副大魔王閣下だよ。そう言えば、閣下が変わったってことは、軍事参謀も変わるんだよね?」
「あぁ。軍事参謀の件なら知ってる。候補者は、皇太子殿下の御気に入りだ。しかも、元天使と来た日にゃ…名前はルークとか言ってたなぁ…現参謀長の信頼もかなりあるらしいから、こりゃ確実だぞ」
 流石に情報局の長官だけあって、エースの情報網は並みのことではなかった。
 つまらなそうに溜め息を吐き出したエースは、その視線の先に自分を迎えに来たクーヴェイの姿を見つけた。
「あ…ゼノン。エースと一緒だったんですか?」
「うん、ちょっとね」
 にっこりと微笑み合う双方の温和さは、相変わらずである。この場だけでは、実に平穏であった。

◇◆◇

 それから数日が経ち、エースの情報通り、軍事参謀にはルークが就任した。
 更に数ケ月後。エースの元に、ある任務を告げる書類が届いた。
「…何だと!?」
 その書類に目を通した瞬間、エースは声を上げる。
「…どうしたんです?」
 突然の声に、クーヴェイはエースの顔を覗き込む。エースはその顔に憤慨を露にし、クーヴェイに向かって一気に捲し立てた。
「デーモンの奴、何を考えてるんだ!一級危険区域に、情報局員だけで行かせようだなんて、冗談じゃないっ!!」
「エース…落ち着いて…」
「これが落ち着いていられるか!」
 バンッと大きな音を立てて机を叩いたエースを宥めるように、クーヴェイはやんわりと言葉を発した。
「閣下からの任務ですか?」
「そうだっ」
「そうですか。エースが怒る気持ちも、まぁわかりますけれど…」
 デーモンが副大魔王に就任して以来、デーモンを嫌っていると見えるエースの表情と態度から、クーヴェイは凡そのことは理解していた。エースが憤慨しているそれに目を通したクーヴェイは、溜め息を一つ。
「確かに、これは厳しいかも知れませんね。しかしこの辺りは一級危険区域とは言え、まだ調査が行き届いていないのですから、閣下が状況を御存じなくても無理はありませんよ。我々情報局とて、まだ正確な状況を把握してはいないのですから。その為の調査でしょう?」
「あぁそうだ!だが、それを知っていながらこんな無謀な任務をやろうってことが気に入らないんだっ!しかも情報局員のみと言うこともなっ!彼奴は情報局に恨みでもあるのか!?」
 興奮冷めやらないエースに、クーヴェイは小さな吐息を吐き出す。そして、言葉を続けた。
「あるかも知れませんよぉ~?第一、エース自身、閣下のことを良く思ってらっしゃらないんでしょう?一方的に嫌うのは良くないですよぉ~。恨まれても当然です」
 にっこりと微笑むクーヴェイ。相変わらずのマイペースさに、エースは思わず言葉に詰まった。
「…と、とにかく、彼奴のとこに行って来る」
「御気を付けて」
「……」
 エースは書類を手に執務室から出て行った。

 デーモンが執務室で書類に目を通しているその時、廊下が騒がしくなった。
「困ります、エース長官!きちんと遣いの者を通していただかなくては!」
「うるさい!こっちは急用だ!文句あるか!?」
「…ったく…」
 騒がしくなった根源を理解したデーモンは、書類を机の上に置き、やがて開かれるだろう扉に目を向けた。刹那、大きな音を立てて扉を開き、侍従の者を振り払ったエースが乗り込んで来た。
「どう言うつもりだ!」
憤慨をあからさまにしたエースの第一声はそれだった。
「何のことだ?」
 エース同様、この相手を余り良く思っていないデーモンは、不機嫌そうな表情でそう言った。
「この書類のことだ!こんな無謀なことをやろうなんて、あんたの気が知れない!」
 デーモンの前に持って来た書類を叩き付け、エースは言葉を続けた。
「ここは聖地に最も近い、一級危険区域だっ!こんな危険な場所に情報局の局員だけを行かせるなんて、俺は認めない!長官として、この書類にサインは出来ない!!」
「何も戦えと言っている訳ではない。調査を進めろと言うだけのことだ」
 勤めて冷静にそう言うデーモンに、エースはますます気を荒立てた。
「それが冗談じゃないって言うんだ!聖地、あるいは聖地に近い場所の調査の際には、軍事局の方にも同行を願うのが筋ってもんだ!一級危険区域を甘く見るなっ!!」
「それなら、軍事局の方に援護を頼めばいいんだな」
デーモンはそう言うと新たに何かを書き添えて、書類をエースに突き返す。
「これでも吾輩は忙しいんだ。御前の戯言に付き合っていられる程、暇でもないんでな」
 その言葉が合図であるかのように、エースはやって来た侍従の者の手によって、デーモンの執務室から連れ出された。
「今度からはきちんとしてもらわないと困ります。幾ら、エース長官とは言え…」
「もういい!」
 エースは押さえられている手を払い退けると、執務室とは逆の方向に足を向けた。

 苛立ちに任せたまま叩かれた扉。そこは、軍事局参謀部の執務室だった。
「おや…エースじゃないの」
 珍しい来客にルークは一瞬笑みを見せた。が、エースの険しい表情に、そんな浮かれた心も冷めたようだ。すっと表情を引き締め、溜め息交じりに言葉を発する。
「何の用?用事のある時は、きちんと遣いの者を通せって言ったのは、エースでしょ?」
「悪いが、急用だ」
 エースは短くそうつぶやくと、ルークの返事も聞かずに執務室の中には入り、どっかりとソファーに腰を降ろす。
 ルークが正式にこの執務室の主となったのは、デーモンが副大魔王に就任した直後だった訳で、参謀になってからの付き合いはそう長くない。だが、ルークが参謀に就任する前、一度エースと顔を合わせたことがあった。
 その頃のルークは、エースが情報局の長官であることを知らずに、図々しくも当時抱えていた任務地の情報を聞きに夜の情報局…しかも長官の執務室に窓から入って来た兵(つわもの)である。まぁ明かりの点っていた部屋がエースの部屋だけであったと言う曰く付きではあるが…
「これを見て欲しい」
 エースは自分の前に座ったルークに、例の書類を差し出した。
「ん?何??」
 その書類に目を通したルークは、顔を上げてエースを見た。
「一級危険区域って…聖地の近くの?」
「あぁ、そうだ。こんな無謀なことは出来ないとデーモンの奴に文句を言いに行ったらこれだ。彼奴はこの任務を遊びか何かと勘違いしてるんじゃないのか?」
「…まぁ…いいんじゃない?これぐらいの頭数ならすぐに揃うと思う。ウチは軍事局は悪魔材が多いからね」
「…平気…なのか?それで」
「何が?」
 平然としたルークの声に、エースは溜め息を一つ。
「あのな、下手をしたら戦いになるんだ。こんな数じゃ、死にに行くようなものだ。軍事局の局員を無駄死にさせることになるかも知れないんだぞ?」
 するとルークはまじまじとエースの顔を見つめた。
「俺は任務に私情を挾むのは嫌いだ。あんたが閣下を嫌ってるのは知ってる。でも、だからってそんなに反抗することもないでしょ?軍事局の局員だって満更馬鹿じゃない。戦う術を知ってる奴ばかりだもの。何かあったってちょっとやそっとじゃ死にゃしないしね」
「…全く御前は、御気楽極楽なんだから…」
 にっこりと微笑むルークの前、エースもそれに妥協せざるを得なくなったようだ。
「わかった。あんたがこれで手を打つと言うのなら、俺も妥協しよう。ただし、この場所は一級危険区域であると言うことは忘れないで欲しい。俺は、情報局の局員を無駄死にさせるだけに行くのは反対だからな」
「わかってるって」
 エースとはまるで正反対に、デーモンを慕っているルークにとって、この依頼はかなり御機嫌のようだ。
 十分に私情を挾んでいるじゃないか…と、その時エースは心の中で考えていたが、敢えて口には出さなかった。
 ルークは緩いウエーブの短いの髪を掻き上げると、澄んだ黒曜石の瞳でエースを見返す。
「こっちの数が揃い次第、あんたに連絡するよ。そっちはそっちで準備して置いてよ」
「あぁ」
 ルークの眼差しは魅惑的で、皇太子の御気に入りと言うのもわかる気はする。それに、最近では急激にルークを慕う配下の者が増えたとも聞いていた。エース当悪魔も、かなり悪魔受けする顔の持ち主であるのだが、普段の仏頂面が利いているらしく、それを口に出して言う生命知らずは流石にいないようである。
「じゃあな」
 エースは書類を手に立ち上がると、そう言い残して部屋を後にした。


 エースが情報局の執務室に帰って来ると、真っ先にやって来たのはクーヴェイだった。
「どうでしたか?」
「…全く話にならない。軍事局の奴を数名増やしただけで終わりだ。情報局の局員の数は変わりない。このままで任務遂行だ」
 エースがそう言い終わるや否や、クーヴェイの纏う気が変わっていた。普段は絶対に見せない真剣な表情。それはまるで、戦線に立っている時のようで。
「では…部隊長はわたしに決めてくれますね?」
「クーヴェイ…御前、何を…」
 驚いたのはエースである。普段は必要以上に穏和でありながら、戦線に立てば誰よりも冷徹で、冷酷で。"鬼"と平生と、どちらが仮面なのだろう?と迷うほどのレイラ=クーヴェイの実体を、この場で目の当りにしたのだから。
 言い出したら聞かないのはエースも同じだが、クーヴェイはある意味でエース以上に頑固である。が、留めない訳にはいかないと言うのは、エースの意地でもあった。
「冗談じゃない!危険であるとわかっている場所に、みすみす御前を行かせられる訳ないだろ!?」
「しかし、誰かが行かなければならないのでしょう?それならば、わたしが部隊長を勤めます」
「…クーヴェイ…」
 いつものクーヴェイからは想像も付かない変貌に、エースは溜め息を一つ。しかしながら、これが本来のクーヴェイなのだから、仕方がない。
「これは、地域調査です。戦いに行くのではないのですよ。貴方だって、御自分の部下をみすみす死なせに行くつもりはないのでしょう?ならば、わたしだって死んで帰って来るつもりなんてないんですから」
 ゼノンもそうだが、鬼の種族は何て強情なんだろうか。
 そんな、諦めの表情を浮かべたエースに、クーヴェイはそれを察したらしい。僅かにいつもの表情を覗かせていた。
「わかった。御前の意見を尊重しよう。だが…決して無茶はするなよ。御前がいなくなったら、俺は…」
 長年連れ添って来た相棒を見つめ、つぶやきかけたエースの言葉をクーヴェイは遮った。
「止めて下さい、エース。貴方にそんな気弱な台詞は似合いませんよぉ~」
「だがな…」
 いつになく気弱なエースの態度に、クーヴェイはにっこりと微笑む。
「貴方は誰です?わたしたちの鏡であるべき、情報局長官でしょぉ~?天下無敵のエース長官でしょう?あと、天上天下唯我独尊とか言うのもありましたっけ?まぁ、エースは気楽に傍観していて下さい」
 いつものように柔らかな微笑を浮かべる。この笑顔の前では流石のエースも何も言えなくなるのだった。
「必ず帰って来ますから。そんな心配そうな顔はしないで下さいよぉ~」
「…約束だぞ。帰って来い、必ず…」
エースは腕を伸ばしてクーヴェイの身体を引き寄せた。
「わかっています」
 ぽつりとつぶやいた言葉は、エースの胸に引っかかっていた。

 数日が経ち、頭数が揃ったと軍事局から情報局に連絡が入ったのも束の間、クーヴェイを部隊長に、情報局、軍事局の腕利きばかりが数名、目的地へと調査に出発して行った。
 心配そうな表情を浮かべるエースに、出発前のクーヴェイはいつものように間延びした声と笑顔でこう言った。
「それでは行って来ますね。是非とも朗報を楽しみにしていて下さいねぇ~」
 その笑顔が気がかりで…エースは己の仕事はほとんど手付かずの状態だった。

◇◆◇

 そして任務地から何の連絡もないまま、既に五日が経とうとしていた。
 その日の真夜中、持ち帰って来た書類に目を通していたエースであったが、奇妙な気配を感じてふと顔を上げた。
 その目の前にあったのは、淡い色のオーラ。紛れもないそれは、クーヴェイのエネルギー体。
「…クーヴェイ…っ!?」
 目を見張り、椅子から立ち上がったエースの声に、それはゆっくりと形を作り、そしてクーヴェイ自身と同じ瞳でエースを見つめた。小さくつぶやいた声は、エースの意識に直接語りかける。
『…ース…聞こえますか?エース…』
「…御前…何があったんだ…クーヴェイ!」
『エース…約束は…守れそうにないです…御面なさい…貴方の…傍にはもう…帰れません…』
「…っ!?」
 クーヴェイの言葉に、エースは咄嗟に声を発することが出来なかった。
----何…だって…?……もう…帰れない…?
 クーヴェイのエネルギー体がエースの元にあると言う事実、そしてその言葉の意味を総合して、クーヴェイがエースに伝えようとしたことは…
「…馬鹿な…御前が…」
 殺ラレル、ナンテ…嘘、ダロウ…?
 頭の中が混乱して、何が何だか良くわからない。だが、それが事実なことは確かだった。
 茫然とするエースの前、実態を持たないクーヴェイは儚く微笑む。
『貴方に、伝えて置きたくて。わたし達が戻って来れないのは、他の誰でもなくわたしの責任です。ですから…御願いです、エース…閣下を、恨んだりしないで下さい。貴方があの方を憎むなんて…そんな姿は、わたしは見たくないんです』
「クーヴェイ…」
『本当は…貴方が閣下を敵対視することが、本当は耐えられなかったんです。貴方は、他の方よりもほんの少しだけ感情を表すのが不器用なだけですよね?その証拠に、わたしの前では本当に良く笑ってくれましたもの。何でも素直に、正直に話してくれましたものね。ですから…』
 クーヴェイの言葉はそれ以上続かなかった。途切れた言葉を問うように、エースは僅かに口を開く。
「…俺は…」
 しかし、それ以上の言葉は出ない。ふと胸が熱くなったエースは、クーヴェイのエネルギー体から思わず目を背けることしか出来ない。
『エース…今まで貴方の傍にいられたことは、きっとわたしにとって良いことだったのでしょうね。こんな別れ方になってしまいましたが…エース、閣下は良い方ですよ。わたしにもそれはわかりますもの』
「…恨まずに…いられると思うか?…俺は…仲魔に対してそこまで冷酷には成り切れない…御前を失うなんて…耐えられない」
『実体がなくなれば、何れ記憶のその中からも消え失せるのが常です。気にすることはないんです。自然に逆らわなければ、それは当り前のことなのですから』
「…クーヴェイ…」
 顔を上げたエースの目に映ったのは、クーヴェイのいつもと変わらぬ微笑み。そしてそのエネルギー体はゆっくりと形を失って行く。
 クーヴェイの形が全て消え失せた時、ずっとそれを見つめていたエースの目から、涙が零れ落ちた。それは、エースとクーヴェイの永遠の別れの瞬間でもあった。

 翌日の朝早く、エースの元に一つの知らせが届いた。
《レイラ=クーヴェイ率いる一行は、天使の襲撃により壊滅。情報局、軍事局共に生存者なし》
 その報告を受けても、エースは顔色一つ変えずにいた。
 その一報は情報局だけでなく、勿論、ルークのいる軍事局、ゼノンのいる文化局、そしてデーモンのいる魔界の中枢部分にも伝わっていた。
 エースはほとんど表情を浮かべない状態のまま、デーモンのいる執務室に呼ばれ、足を運んだ。
「…御前の言う通りだったな…まさか、こんな状況になるとは……吾輩のミス、だ。悪かった…」
 うつむいたままで、怒鳴り散らす気配も見せないエースを前にして、デーモンは気まずそうにそうつぶやいた。
 その言葉にエースは吾に返った。そして一瞬、デーモンに視線を向ける。その眼差しはデーモンを射るような殺気に包まれており、それを隠す為にエースはすぐに視線を背けたのだが…エースの口から出た言葉は、明らかにデーモンに対しての敵意が込められていた。
「…あんたに謝ってもらっても彼奴等が帰って来る訳じゃない。最後にサインをしたのは俺だ。あんたに全ての責任を押しつけるつもりはない。ただ生憎と…恨むなと言われて、はいそうですかと素直に頷ける性格じゃないんでな」
「…何だと…?」
  デーモンはその言葉の意味を問い正そうとしたが、それよりも先にエースは身を翻していた。無言で執務室の扉を開けて去って行くエースの後ろ姿を見送りながら、デーモンは複雑な溜め息を一つ。
「恨みと言うか…殺意を感じたがな…」
 敵対視と言うか、何と言うか…デーモンはこの時、エースの態度を見切ったようにつぶやいていた。


 ぼんやりとしたまま、情報局に戻って来たエースを出迎えたのは、一局員の声。
「長官、ゼノン様がいらっしゃっておりますが」
「…あぁ、そう」
「あの…執務室の方に御通しして置きましたが宜しいですか?」
「わかった。御苦労だったな」
 感情の破片も見当らないその口調に、エースの心を理解したのだろう。一局員は一礼をして去って行った。エースが執務室に戻って来ると、部屋の中には既にゼノンが待っていた。
「エース…レイラが殺られたって…」
「…あぁ…」
 悲痛な表情のゼノンと引換、エースは無表情のままだったが、一瞬の後、エースがゼノンの向かい側のソファーに腰を降ろしたその瞬間に、その表情は生気を取り戻したかのように悲痛に変わった。
「御前に…何と説明したらいいものか…」
「確かに…どう言ったらいいのか、俺にも良い言葉が見当らないよ。でもね、一つだけはっきり言えるよ、エース。今回のことは…事故だよ」
 ゼノンの最後の一言に、エースは目を見開く。その声に昨夜のクーヴェイの言葉が脳裏を過る。
「…夕べ…クーヴェイが俺の所にエネルギー体を送って来やがった。そんなことしなければ、生き残れたかも知れなかったのに。彼奴の最期の望みが、デーモンを恨むなだとよ…彼奴の口から聞きたい言葉はもっと他にあったのに」
 思い詰めたエースの表情に、ゼノンはつぶやく。
「レイラの言う通りだよ、エース。閣下を恨んだって仕方がないよ。今回のことは、誰が行っていても結果は同じだよ。そうでしょ?例え御前が行っていたとしても、生きて帰って来れたかどうか定かではないはずだよ」
「…わかってる。彼奴を恨んだってどうにもならないことぐらい。でも、今までそう言う目で見て来た以上、そう簡単に想いを変えられる訳ないだろ!?クーヴェイは彼奴からの任務だから、自分が行くだなんて言い出したっ!それなのに、彼奴を恨むなって言われたって無理に決まってる!俺はっ…!恨む以外に何が出来る!?この憎しみを押し殺すなんて無理だ!!」
「エース落ち着いて…!」
 今にもデーモンの所に飛んで行って殺してしまいそうな程興奮しているエースを、ゼノンはその腕で押し留めた。
「…泣いてもいいんだよ、エース。俺の前では自分を偽らなくてもいいんだよ。それで、御前の気が晴れるなら」
 ゼノンのつぶやきが零れた瞬間、エースの中で堪えていた何かが外れ、頬に涙が零れ落ちる。
「思い切り泣いて全部忘れた方がいい。御前になら、出来るよね?」
 優しく、エースに語りかける。それだけでは、彼が"鬼"だなんて、誰が信じるだろう。
 そう、クーヴェイも…
「俺は…彼奴を、護りたくて…なのに、護れなくて…」
 自身の無力さが、情けなくて。失った大きさが、堪らなく胸の隙間を突いて。嗚咽を零しながら、エースは素直にゼノンの肩に顔を埋めた。エースを受け留めてくれるゼノンは、どうやってこの苦しみから脱したのだろう。それさえ、わからなくて。
 同じペースで上下する感覚が心地好く、エースは次第に落ち着きを取り戻して来た。
「…御前は、クーヴェイを失っても平気なのか…?」
 そのままの姿勢で問いかけるエースの言葉に、ゼノンは一つ間を置き、そして答えた。
「平気ではないよ。ただ…俺は他悪魔前では決して弱みは見せない。それがせめてものプライドだと思ってるからね」
「俺は…自分を偽ることでしか、自分を護れない…だから他の奴の前では冷酷なまでの表情を造っていたのに…」
 エースの背を抱き締め、ゼノンはその声に答える。
「偽ることが悪い事と言う訳じゃないよ。自分自身に嘘を付くことは、時には必要だと思う。でも、たまには自分を解放してやらないと、自分で自分を壊してしまうことになるよ」
 ゼノンの言葉を、エースは尤もだと思って聞いていた。
「俺は…彼奴を…デーモンを、殺したいと思った…」
 エースは小さくつぶやいた。
 それは、エースの本心。
「そう…」
  優しくそう答えたゼノンは、それ以上は何も言わなかった。そこから先は、エース自身の問題であるとわかっていたから。
「…自然の摂理には、背けないよ。エース」
 それはゼノンの出した結論。今だけではなく、これから先に対しても…

◇◆◇

「…自然の摂理には背けないものだな。いつになっても、同じ感情でいることは難しい…」
 ある時、何気なくそうつぶやいたエースに、その感情の破片を見い出したのは、ゼノンだけだろうか。
 それは、エースにとっては禁忌の領域に触れる感情である。だが、その想いの為に、自らを偽り続けなければならないのだ。
 それが、エースが自ら買って出た械。その械を背負い、エースはデーモンにその眼差しを向けていた。

◇◆◇

 そして時間は流れ、今ではレイラ=クーヴェイのことを口に出して言う者はなくなった。
 それがまるで、自然の摂理であると言わんばかりに。
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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