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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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音のない森 3
こちらは、本日UPの新作です
 ※シリーズ小説はカップリング小説です。
(勿論DxAですが、ダミアンxルークもあります。
でもこのシリーズのメインはRXです…多分/^^;
7話完結 act.3

拍手[1回]


◇◆◇

 翌日。朝イチでダミアンの執務室を訪れたルークの姿。
「…どうした?こんな早くから」
 報告書がある訳でもない。急ぎの用事があった訳でもない。だからこそ、ダミアンも不思議そうに首を傾げてルークを出迎えた。
「えぇ、ちょっと…会いたい悪魔がいまして」
「…会いたい悪魔?」
 それをダミアンに言いに来ると言う不思議。
「ダミ様の隠密使のアリス=レイドに、会いたいんですが」
「……アリスに?」
「はい」
 軽く微笑んだまま、表情を崩さないルーク。その黒曜石の瞳の中には、真っ直ぐな光がある。
「…まぁ良いだろう。ちょっと待っておいで」
 ルークなりに、何か理由があるのだろう。そう察したダミアンは、小さな吐息を吐き出すと、未だに謎の部署である"特別警備隊"へと回線をまわす。
『はい』
 その画面に映し出されたのは、主任たるジュリアン。
「あぁ、アリスはいるかい?」
 ダミアンがそう問いかけると、ジュリアンはほんの少しだけ首を傾げた。
『…アリス、ですか?おりますが…アリスが何か…?』
「ルークが、アリスに用事があるそうだ。こちらへ来るように伝えてくれ」
『畏まりました』
 そう言って回線は切れる。
「…で?わたしの隠密使を借り出す理由を聞かせて貰おうか?」
 にっこりと微笑み、ルークへと視線を向けたダミアン。勿論、言わなければ許可は下りないだろう。ルークもそれは重々承知だった。
「今回のゼノンの後任を選出すると言う話でですね…」
 ルークは…念の為声を潜め、昨日のエースとの話をざっとダミアンに話して聞かせた。
「…そこで、ちょっと俺に考えがあります。そこで是非、アリスの能力を借りたいと思いまして」
 微笑んだままのルーク。こちらも、譲る気はなかった。
「アリスの能力?」
「はい。仮面師としての、彼女の能力を」
「…なるほどね」
 くすっと、ダミアンが笑った。
「まぁ良い。アリスが良いと言ったら、協力を許可しよう。だがね、ルーク…」
 ダミアンはそこまで言うと、椅子から立ち上がってルークの傍へと歩み寄る。
 そして、その耳元にそっと口を寄せた。
「…わたしに、あんまりヤキモチを焼かせるんじゃないよ?」
「…ダミ様…」
 小さく笑うダミアンに、ルークは真っ赤に顔を染める。
「…俺は、貴方一筋ですよ?何を今更……」
「それはわからないだろう?何せ彼女は……」
 そこまで言いかけた時、ドアがノックされた。
『アリスですが…』
「…どうぞ」
 ダミアンがそう返すと、ドアが開かれる。そしてドアを開けた本魔の踏み込みかけたその足が一瞬躊躇う。
 当然そこには、ルークに寄り添って顔を寄せたダミアンが見えた訳で。
「…あの…御邪魔でしたでしょうか…」
 躊躇いがちに問いかけた声に、ダミアンがくすっと笑う。
「いいや、どうぞ」
 笑いながら、ダミアンは自分の椅子へと戻ると、改めて入って来たアリスへと視線を向けた。
 色薄の金色の髪に、薄い碧色の瞳。中性的な顔立ちの彼女は、ダミアンの隠密使、アリス=レイドに他ならない。
「君を呼んだのは、ルークが君に頼みたいことがあると言うのでね」
「…ルーク参謀が…ですか?」
 一瞬、怪訝そうな表情を見せたアリス。そのまま視線をルークへと向ける。
「ちょっと手伝って貰いたいことがあってね」
 そう言うと、ルークは先ほどダミアンに話したことと同じことをアリスに話した。
「…それで、私に何をしろと…?」
「ロイドの代わりになって、俺と一緒に行動してくれれば良い。その間、ロイド本魔は何処かに保護しておくから」
 そう言ったルークの言葉に、溜め息が一つ。
「…でしたら、レイティスに御願いすれば良いのでは?同じ文化局でしょう?」
「駄目だ。レイティス…いや、レプリカの姿が文化局から消えたら、この状況では寧ろ怪しまれる。だから、レプリカはいつもと同じ行動をしていないといけないんだ。そうなると、あんたしかいない、って訳なんだけど」
「……」
 アリスは様子を伺うように、ルークをじっと見つめていた。だがやがて、目を伏せ小さな溜め息を吐き出す。
「理由はわかりました。私は構わないのですが…一応、殿下の隠密使ですので…殿下の許可を頂きませんと…」
「わたしは構わないよ。まぁ、ルークの言う通りに動いてやってくれ」
「…御意に…」
 ダミアンににっこりと微笑まれては、断る訳にも行かない。ダミアンの隠密使としてもそこは従うしかなかった。
「じゃあ、ちょっと御借りします」
 ルークはダミアンに頭を下げると、アリスを促して踵を返す。
 だが、執務室の執務室を出ようとドアノブに手をかけた時。
「ルーク、さっきの話…忘れるんじゃないよ」
 その背中に、そう声が届く。
「…忘れませんよ」
 ちょっと赤くなった顔を隠すように、ルークは俯いたままそう答え、ダミアンの顔を見ないままドアを開けて外へ出る。
 ダミアンに一礼をして出て来たアリスは、ルークの後を追いかける。
「…これからどちらへ?」
「取り敢えず、エースの執務室。これからの詳しい話はそこでね」
 そう言いながら、先を歩くルーク。その後ろを歩きながら、アリスはその背中をじっと見つめていた。

 情報局のエースの執務室までやって来た二名。そのドアをノックし、返事が聞こえると、ルークはそのドアを開けた。
「…あぁ、ルーク………と、誰だ?」
 見覚えはあるが…と、一瞬怪訝そうな表情を見せたエースに、アリスは頭を下げる。
「枢密院特別警備隊のアリス=レイドです。その節は御迷惑を御掛けいたしました…」
「…あぁ…そうか、御前がアリスか…」
 エースが見慣れないもの無理はない。アリスとは顔を合わせたことがあるものの、その時アリスは仮面を被っていて別の顔をしていた。今のアリスの顔は、映像で見た別の名前だったこともあり、やや混乱気味のエースだった。
「…で、どうして御前たちが一緒に…?」
 全く意味がわからない。そんな表情を浮かべたエースに、ルークはくすっと笑いを零す。
「まぁ、それに関してはこれから話すけど…昨日の似非(えせ)報告書は?」
「似非報告書って御前なぁ…ヒトの渾身の報告書を雑に扱うなよ」
 溜め息を吐き出しながら、机の引き出しから夕べの報告書を取り出す。
「アリスに見せて良い?」
「…どうするつもりなんだ?」
「まぁ、悪いようにはしないから」
 笑いながら報告書を受け取ると、それをアリスに手渡す。
「一応、昨日までのことはさっきざっとは話したけど、一応これに目を通して」
「…はぁ…」
 アリスの方も、どうも状況の把握が上手く出来ていないらしい。これから何をするのか、と言うことが全く伝わっていないのだから無理もないが。
「コーヒー貰うね」
 ルークはそう言って、コーヒーを淹れ始める。
「実はさ、俺も色々考えたんだけどね」
 コーヒーを淹れながら、そう話し出したルーク。
「まだロイドには動きはないみたいだけど、この先はどうなるかわからない訳でしょ?俺たちが動き始めたらさ、口封じに消される可能性だってないとは言えない訳だ。そうなったら、ホントに何もわからないまま、全部が闇の中、さ。それは流石にどうかと思う。だから、それを防ぐ為にも…アリスに、ロイドの仮面を被って貰って、彼奴の振りをして俺たちと一緒に行動するんだ。もしそれを何処かで黒幕が見ていたとすれば、当然ロイドは寝返ったと思われるだろうし、口を封じる為に近付いて来るでしょ?そこを捕らえる。例え捕らえられなかったとしても、誰が黒幕か探ることぐらいは出来るはず。アリスだって、隠密使だからそれなりに身を護る術はあるんだから、無駄にやられることはない。それに、俺とエースのどちらかが傍にいれば、アリスを護ることも出来る。ロイドの身の安全も護れるし、黒幕も探れる。その間にロイドから話を聞くことも出来る。ほら、全部纏まるじゃない?」
 そう言いながら、エースの前とアリスの前にコーヒーのカップを置き、自分もカップを持ってソファーに腰を下ろす。
「だがなぁ、そう上手く行くか?」
「それはわからない。でも、やってみないことには前には進まない訳じゃない。レプリカを選ばなかったのは、彼奴は文化局に席があって、今も働いてるから。ゼノンに一番近い彼奴が姿を消したら、当然警戒されるでしょ?その点アリスなら、普段はダミ様の隠密使だからね。あちこちに面が割れてる訳でもない。一番動きやすいと思うんだ」
「まぁ、わからなくもないが…」
 眉を潜めるエースの前、ルークは平然とした顔でカップに口をつけている。
「…で、御前はそれで良いのか?」
 視線を向けられたアリスは、目を通していた報告書から顔をあげると、エースにその視線を返す。
「私は、指示された通りに動くだけですから」
「まぁ、そうだよな」
 溜め息を吐き出したエース。
 その姿を見て、ルークは眉を潜める。
「…何だよ、御不満な訳?折角俺が、あんたの似非報告書の通りにしてやろうってのに」
「そこまで頼んでないだろうが…」
 エースは再び溜め息を一つ。
「まぁ…御前がやろうとしていることに文句をつける訳じゃない。アリスも承諾しているようだしな。ただ…悪いが、俺は明日から任務で出かけなきゃならない。だから、御前の計画に参加は出来ない」
「…聞いてないし…」
「俺も聞いたばっかりだしな」
 エースは膨れるルークを横目に、煙草に火をつけ、紫煙を燻らせた。
「御前が来る前にな、呼び出しがかかった。ただ…偶然にしてはタイミングが良過ぎるような気もする。別に、任務自体に怪しいところはないが、俺が行く状況なのかどうかは行ってみないとわからない。それに…呼び出されたタイミングが微妙だな、と思うところはある」
「…あんたの行動が監視されてるとでも?」
 エースの言葉に、ルークの表情もすっと引き締まる。当然、黙って聞いているアリスも、その視線だけは真っ直ぐにエースに向かっていた。
「監視までは行かないかも知れないが、警戒はされているのかも知れないな。だから、御前が動くのだって簡単じゃないかも知れないぞ。アリスを連れ出したことも、誰かに見られているかも知れないからな。十分気をつけろ」
「…まぁ、全て順調に出来るとは思ってないけどね。気をつけるよ」
 確かに、エースの言う通り。黒幕が誰なのかわからない以上、何処で見られているかわからないのだ。だからこそ、アリスを連れて来たと言うのに…それが裏目に出ないことを祈るしかなかった。
「それから、昨日言っていたウチの局の名簿だ。御前に渡しておく。デーモンにも連絡は入れたから、枢密院のモノは揃ったら御前の方に回すように伝えてある。文化局の方は…悪いが、御前から翠雨に交渉してくれ。それから、わかっているとは思うが…回線は使うなよ。盗聴される可能性もあるからな。直接話せよ」
 そう言いながら、エースはルークにメモリファイルを渡す。
「…わかってるよ…」
 エースから渡されたメモリファイルをポケットにしまいつつ…溜め息を一つ。
 実のところ、名簿の件は失念していたルークなのだが…まさか、そんなことは顔には出せない。
 なるべく早く調べなければ…と、改めて思い返しながら、再び溜め息を吐き出していた。

◇◆◇

 エースの執務室を出た後、ルークはアリスに職務が終わった後合流することを告げると、一旦枢密院に返した。そして文化局の翠雨を訪ね、事情を説明して名簿を用意して貰うよう頼んだ。
 状況が状況だけに、翠雨もそれを承諾し、準備が出来次第ルークへ連絡を入れると約束した。
 それから監査室へと足を運び、テオとレプリカにそれぞれ頼みごとをすると、やっと自分の執務室へと帰り着き、大きな溜め息を吐き出した。
 これから、数年前の名簿と現在の名簿を照らし合わせつつ、謀反魔として明確になった者を纏めなければならない。人数が多い局だからこそ、その人数もかなりの数になる。そして、枢密院、情報局、文化局と合わせると、恐らく想像もつかない人数だったことだろう。実はその殆どを、ゼノン一名で倒したと知ったら…ルークも唖然とするであろうが…まだその事実を、ルークは知らなかった。
 取り敢えず、コンピューターに名簿を呼び出し、革命と同時期に姿を消した局員を弾き出しつつ、今後のことを考え始めていた。
 だが…本当にこのまま突き進んでも良いのだろうか。それが、今のルークの正直な気持ちでもあった。
 リエラには、エースから連絡が入っているはず。準備が整ったら、テオがロイドを連れて行くよう話をしてあるはずだった。だから、それまで動きがなければリエラも解放され、ルークに報告が来るはずだった。
 取り敢えず、夜になったらこの執務室でアリスとレプリカ、テオも含め、合流する話にはなっているのだが…エースの動きが監視されているのではないかと言う疑惑が、また不安を掻き立てていた。
 目の前の画面に出て来る人数の多さに辟易しつつ、大きな溜め息を吐き出した時…そのドアがノックされた。
「…はい?」
 声をかけると、開かれたドアから顔を覗かせたのはライデンだった。
「御邪魔しても良い…?」
「…あれ?いや、構わないけど…何であんたがいるの…?」
 ライデンは雷神界に戻り、王位継承の準備をしているはず。それがこの執務室に訪ねて来るなど、思っても見ないことだった。
「休暇。向こうにずっといても息が詰まりそうでね」
 小さく笑ってそう答えたライデンであったが…その表情は、以前とは随分違う。
 笑っていても、何処か気が抜けている。顔も眼差しも、生気がないと言っても過言ではないくらい。ゼノンがいなくなったその日まで生き生きとしていた分、その変貌振りが痛々しく…溜め息しか出て来ないのだ。
 全て…ゼノンがいなくなってから変わってしまった。だからこそ…早く、どうにかしてあげたいのに。
「…大丈夫?体調崩してない?」
 幾分痩せたその姿をソファーに促しつつ、一旦コンピューターの方はライデンの目に触れないように画面を閉じる。それから御茶を淹れに立ったルーク。
「大丈夫。そんなに心配しないでよ」
 心配そうな表情を浮かべたルークに、ライデンは苦笑する。
「デーさんのところには顔出したの?」
 御茶のカップをライデンの前に置きながら問いかけたルークに、ライデンは小さく頷いた。
「行って来たよ。ダミ様のところに行った後ね。折角休暇で魔界に来たんだもん。日帰りじゃ何だから、今夜泊めて貰おうと思って」
 以前だったら、ふらっとやって来てもゼノンの屋敷にちゃんと自分の居場所はあった。けれど今はそうも行かない訳で…昔世話になっていたのこともあり、デーモンの屋敷にもライデンの部屋は用意はされているが、流石にふらっと行くのは憚られる。だから、ちゃんと前以て連絡も入れていたし、ちゃんとデーモンに顔を見せて来ていた。
「そう言えば…デーさんのとこもそうだったんだけど…雰囲気が可笑しくない?」
 御茶に口を付けながら、思い出したようにそう問いかけたライデン。
「…そう?」
 思わずそう返したものの…ルークもその手の雰囲気を察することに長けているライデンを誤魔化せるはずはないと思っていた。ただ…ライデンに話してしまって良いのかどうか、と言うことは悩みどころなのである。
「そう。なんて言うんだろう…緊迫してるって言うの?ダミ様のところはそうでもなかったけど…デーさんのところ、あんたのところ。エースは忙しいみたいで捕まらなかったから行ってないんだけどね」
 喋りながら、ルークの様子を探っているのだろう。ライデンの眼差しは真っ直ぐにルークを捉えたまま、だった。
「…何かあったの?」
 不意に、そう問いかけられる。
「…別に何も……って言っても、あんたは納得はしないよね…」
 頭の中で何処までなら話せるかを吟味しながら、ルークは溜め息を一つ。
「…まぁ…何もなくはないだけど、正直…まだ何にもわからない、って言うのかな…」
「…どう言う事?」
 怪訝そうに眉を潜めるライデン。けれど、彼に全てを話してしまうことは出来なかった。
 ゼノンの帰る場所が、奪われかけている。その事実は…ライデンを、苦しめるだけだから。
「…取り敢えずさ、俺たちもまだ状況が掴めてないんだよね。でも大したことじゃないから、そんなに心配しないで。デーさんのとこで、ゆっくり休んでてよ」
 そう言って、にっこりと笑ったルーク。
「…そう?なら良いんだけど…」
 心配そうな表情を浮かべながらも、ライデンもそれを承諾したようだ。
 どちらも…ゼノンの話題には触れない。
 正直…それだけが、奇妙な感覚だった。
 ライデンがルークの執務室で時間を潰し、デーモンの屋敷へと向かったのは、夕方になってからだった。

 ライデンが帰ってから執務時間が終わるまで、ルークは名簿と格闘していた。そして約束通り最初にルークの執務室にやって来たのは、アリスだった。
「…どなたか、いらしていたのですか…?」
 ソファー前のテーブルの上には、未だカップが二つ置いたままだった。それを目にしたアリスは、ルークにそう問いかけた。
「あぁ…ライデンがさっきまでいたんだ」
 すっかり忘れていたカップを片付けながら、ルークは平然とそう零す。
「休暇で来たって言ってたけど…彼奴も勘が良いからね。デーさんの執務室とここの雰囲気で、何かあったのかって聞いて来たんだけどさ。まさか言えないよね。ゼノンの帰る場所が奪われそうだ、なんてさ…」
 平然と…と思っていたのは、多分ルーク本魔だけ。その姿を見つめていたアリスは…ルークのその表情が一瞬苦しそうに歪んだのを見逃さなかった。
 だが、アリスにはどうすることも出来ない。ただ、ルークの指示に従うことしか。それが、彼女の職務なのだから、そこに自分の感情など差し込むことは出来なかった。
 ただ、黙ってルークを見つめているだけ。それが精一杯で。
「……どした?」
 黙ったまま、じっと立ち尽くしているアリスに、ふとルークが問いかけた。
「…いえ…何でもありません」
 小さな吐息を吐き出し、アリスはソファーの端に腰を下ろした。
「もう直ぐ、レプリカとテオが来ると思うから。そしたら、準備しないとね」
 ルークはそう言いながら自分の椅子へと腰を据える。そして、ちょっと気まずそうに座っているアリスへと視線を向けた。
 そして。
「…ねぇ、聞いても良い?」
「…何ですか?」
 問いかけられ、アリスの視線がルークへと向いた。
「あんたはさ…どんな見返りがあれば、自分の生命を犠牲にしてもダミ様の指示に従う?」
 それは、ずっと引っかかっていた"見返り"。普通は、どんな見返りがあれば命を犠牲にしてでも従うのだろうか。それを、聞いてみたかったのだ。
「殿下の指示であれば、見返りなど必要ありません。私たちは、殿下の為でしたらどんな指示にも従いますから」
「あぁ、そうか…」
 聞いた相手が悪かった。
 アリスはダミアンの隠密使なのだから、ダミアンを護る為ならば自分の生命など顧みることはない。だから、その答えはある意味当然だった。
「…御免。聞く相手を間違えた。じゃあ…ダミ様じゃなくて、俺だったら?」
「…ルーク参謀…ですか?」
 一瞬、怪訝な表情を見せたアリス。けれど直ぐに、答えを返した。
「私が自分の生命を犠牲にしてでも貴殿の指示に従うとしたら…その見返りは当然、貴殿の全て、ですが」
「…あのねぇ…」
 アリスにしてみれば、これも当然といえば当然の答えなのだが…思わず溜め息を吐き出した。
 確かに…アリスは、ルークに面と向かって好きだと告白している。ルークはダミアン以外は眼中にないとわかっていても、譲らない想いには変わりはなかった。それを久し振りに面と向かって言われ、そうだった、と思い出したルーク。
「…俺の全て、って…」
「私の気持ちは御分かりでしょう?でしたら、今更聞くことではないはずです。一晩でも貴殿の心と身体と、全てをいただけるのなら、私は貴方の為に生命をかけて何でも致しますよ」
「……そう言われてもね……って、いやいや、もしもの話、だから」
 少し顔を赤くするルーク。だが、アリスの表情は変わらない。
 その、薄い碧色の瞳は、真っ直ぐにルークを見つめていた。
「では、貴殿は?どんな見返りがあれば…閣下に従いますか?」
「…デーさんか……どうだろう…想像つかないな…」
 そう答えながら、ルークは溜め息を一つ。
 自分は、デーモンの片腕であるはずなのに。無条件に指示に従うだけの見返り、と言われても…正直、ピンと来ない。デーモンに限ってそんな条件を出すはずはないし、そんな状況は決して訪れないと、今でも思っているからだろうか。
「では…殿下でしたら?」
「…ダミ様…?そうだな……」
 想いを巡らせつつ…ふと、先ほどのアリスの言葉が甦った。
----一晩でも貴殿の心と身体と、全てをいただけるのなら…。
 本当に愛する人と、共にいる時間。確かにそれは…何よりも、魅力的なのかも知れなかった。
「…あぁ、そうか…あんたの気持ちがわかった気がした…」
 ぽろっと零したのは…多分、心の声、だったはず。だが、それは確実に言葉として口から零れていた。
「…殿下と…何か進展がありましたか?」
「…何で…?」
 ギクッとして、言葉を零す。
「そう言う顔をしてます。だから、割り込むな、と。昼間、殿下の執務室での御姿もそうでしたが…殿下も、私が来るとわかっていて、わざとやっていらっしゃいましたよね…?」
「………」
 思わず口を噤んだルークに、アリスはほんの少しだけ、その口元に笑みを浮かべた。
「図星、ですね?」
 真っ直ぐに問いかけられ…流石にルークも気まずい。
「まぁ…」
「でも、貴殿の未来は、変わりませんよ?殿下はいつか、貴殿ではない悪魔と結婚する。それは、変えようがありませんから」
「…そんなこと、あんたに言われなくたってわかってるよ。でも…俺は、心変わりはしないから」
 そう言い切ったルークに、アリスはくすっと笑いを零した。
「残念ですね、私もです。相変わらず、平行線ですね」
「…まぁ、ね」
 ルークもくすっと、笑いを零した。
 ずっと平行線のままであれば、何も悩むことはないはず。こうしていられる間は…多分、良い仲魔でいられると思う。
 そんなことをぼんやりと思っていたルークであった。
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プロフィール
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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