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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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音のない森 6
こちらは、本日UPの新作です
 ※シリーズ小説はカップリング小説です。
(勿論DxAですが、ダミアンxルークもあります。
でもこのシリーズのメインはRXです…多分/^^;
7話完結 act.6

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◇◆◇

 テオがロイドを地下室へと保護してから数日。
 テオはここ数日やっているように、食事の入った袋を手に、地下室へとやって来ていた。
 そのドアを開けると、鉄柵の向こうのベッドの上に、相変わらず座っているロイドの姿。
「おはよう。ほら、食事だ」
 テオはそう言うと、柵の間から袋を差し入れる。けれどロイドは動く気配もなく、ただじっと、深い青の瞳でテオの姿を見つめていた。
 だが、やがてゆっくりとその口を開く。
「…聞いても良いですか、テオ室長」
「…何?」
 椅子に腰を下ろしたテオ。そして、こちらも真っ直ぐにロイドへと視線を向ける。
「…貴方にとって…ゼノン様は、どう言う存在だったんですか…?」
 それは、先日テオがロイドに問いかけた言葉と同じ。テオはその口元に小さな笑みを浮かべた。
「そう来るか。まぁ…最初に聞いたのは俺の方だしな。あんたも答えたんだから、俺も答えてやるよ」
 そう言って、一つ呼吸を置く。そして、再び言葉を続けた。
「俺にとって、ゼノンは…貴重な同属の、大事な仲魔、だ。だから…そのゼノンの居場所を奪った奴等を…裏切った奴等を、俺は許せない訳だ」
 テオは、小さく笑う。
「…で?あんたは、それを聞いてどうする訳?」
 問いかけた声に、ロイドは小さく息を吐き出した。
「どうと言われても…聞いてみたかっただけですから。ゼノン様にとって、本当に必要だったのはどなただったのかと思って」
「どう言う事?俺が、ゼノンに必要とされてなかったと…そう言いたい訳?俺の勝手な思い込みで、一方的にゼノンを仲魔だと思っていると?」
 再び問いかける声に、ロイドは小さく首を横に振る。
「…ゼノン様の仲魔の定義は、わたしにはわかりませんよ。ただ、本当に必要だったのは…魔界の上層部の方たちと、ライデン殿下ぐらいだったのかと思っただけです」
「…何でそう思う?」
「…我々は、ただの部下です。あの方の指示に従って来ただけですから…到底、"仲魔"の範疇ではないでしょう。助け合える"仲魔"は、普段仲の良い上層部でしょう?貴方がそこに含まれているのかどうかは、わたしは知らないと言うだけの話です」
 ロイドの思う"仲魔"の定義こそ、良くわからないのだが…必要な者と必要ではない者に分けようとしているのなら…やはり、ゼノンの想いは、何もわかってはいないのだろう。
 溜め息を一つ吐き出したテオは、少し目を伏せ、口を開く。
「あんたさ…ゼノンの研究報告書、見たことある?」
「…ありますよ。あの方の部下ですから。それが何か…?」
 テオが何を言わんとしているのか、ロイドには察することが出来なかったのだろう。僅かに首を傾げ、問い返す。
「頻繁に、あんたの名前が出て来るんだ。それがどう言う事かわかんない?」
「……研究の補佐をしていましたから、当然なのでは…?」
「…馬鹿だね、あんたは」
 再び溜め息を吐き出したテオ。そこに浮かんでいるのは、呆れたような表情。
「ゼノンは、ある意味あんたを頼りにしてたし、信頼してたはずだ。だから、あの時も…未確認のウイルスを、あんたに託したんじゃないの?ゼノンにとって、あんたはただの部下じゃない。彼奴にしてみれば…あんたも大事な"仲魔"、だったんだよ。だから、盗難の件も、敢えて言及しなかった。局長である自分が背負えば良いだけの話だと判断したんだ。あんたの経歴に泥を塗れば、あんたはあっと言う間に首切りだ。そんな勿体無いこと、彼奴には出来なかったんじゃないのか?魔界の未来を託せる、優秀な研究者として…大事な、"仲魔"として」
「………」
 その言葉を、黙って聞いていたロイド。
 彼は、何を思って…何を、感じていたのだろう。ただ…ほんの少しだけ、その顔つきが変わったような気がした。
「…あんたが俺の話を聞いて、何を感じて、どう思おうが…俺には関係ない。仲魔だなんて関係性が面倒だと思うか、有難いと思うかどうかも、あんた次第だしな。それにこの前も言ったが、俺はあんたに罪を問うつもりもないし、護る気もない。あんたが後悔しようがしまいが、どうでも良い。ただ、ゼノンの気持ちを履き違えたままじゃ…彼奴が、報われないからな」
 黙って口を噤むロイドだったが…大きく息を吐き出すと、その眼差しを再びテオへと向けた。
「ゼノン様は…帰って来られると、思いますか…?」
 問いかけられた言葉に…テオは、笑いを零した。
「帰って来たらどうだって言うんだ?帰って来なかったら、どうだって言うんだ…?ゼノンを追い出したあんたが、ゼノンの帰還を望むのか?」
「違う…っ!わたしは、そんなつもりじゃ……っ」
 ロイドは思わず声を上げる。
「そんなつもりじゃなかったって?馬鹿言うなよ。あんたにそのつもりがなくても、結果は同じだろう?罪の意識があろうがなかろうが、あんたはゼノンに全ての罪を背負わせた。鬼のクセに、馬鹿みたいに良い奴で…馬鹿みたいに懐が広くて、馬鹿みたいに融通が利かなくて…あんな奴…そうそういない。どれだけの奴が、あいつに救われたか。それを何も感じ取れなかったあんたは…俺にしてみりゃ、救う価値なんかねぇよ」
「………」
 ロイドが小さく息を飲んだその時…ドアがノックされた。
「…誰だ?レプリカか?」
 首を傾げながら、そのドアを薄く開ける。
 だが…その瞬間、テオは息を飲んで目を見開く。
「……ぁっ…」
 ドアの隙間から差し入れられた"それ"は、テオの腹から背中へと、完全に貫き通していた。
「…あんた……一体……」
 相手の顔は…ドアの影になっていて見えない。ただ…"それ"を握った手だけが見えた。
 灰色の軍服を着て、黒い手袋をしたその手が。
 その手は何の容赦もせず、更にぐいっとそれをテオの身体へと押し込む。
「……ぐっ!」
「…テオ室長…?」
 その徒ならぬ様子に、ロイドは思わず名を呼ぶ。けれど、それに答える声はない。
 テオの背中に見えたのは…血に塗れた剣先。そして…テオは、その場へと崩れ落ちる。
「室長…っ!!」
 悲鳴のような声を上げたその直後、ドアを開けて入って来た姿に、ロイドも息を飲んで目を見開く。
「あ……」
 思わず、ベッドの上を後ずさる。鉄柵があるのだから、そう簡単に近寄れるはずはない。そう思いながらも…背筋に悪寒が走る。
 部屋の中に入って来たその姿は、真っ直ぐにロイドに向かって歩いて行く。だが、その足首を捕らえたのは…床に倒れ込んだテオ。
「…貴様…誰だ……そいつに…近寄るんじゃねぇ……」
 床に倒れたまま…テオは痛みを耐えながら荒い息を零し、必死に足首を掴んだ手に力を込める。そしてもう片方の手に呼び出したのは"鬼面"。この状況で…テオは、戦うつもりなのだ。
 ロイドを、護る為に。
 だがその悪魔はそんなテオを一笑すると、無情にも空いている方の足でその手ごと鬼面を踏みつけた。
「ぐあっ…!」
 思わず、足首を掴んでいた手が緩む。その隙を見逃さず、その足でテオの身体を勢い良く蹴り飛ばした。
「……ぁっ!」
「室長!!」
 既に血塗れになっているテオは、蹴り飛ばされた先にあった壁にぶつかり、ぐったりとしたまま動かない。
「室長…っ!!」
 声を上げるロイドに、小さな笑いが届く。
「他悪魔の心配をする前に、自分の心配をしたらどうだ…?」
「……っ!」
 低い声に、再び、緊張が走る。
 相手は鉄柵に手をかけると、あっさりとその柵の出入り口を壊して中へと踏み込んで来る。
 少しでも遠くへ逃げようと後ずさったロイドだが、既に壁は背中に当たっている。これ以上、逃れることは出来なかった。
「…わたしは……言われた通りのことをしただけだ……っ!」
「御前の言い訳など、聞く余地はない。第一、誰がゼノンの後任を求める声を上げろと言った?」
 そう言って向けられた剣先は…テオの血に濡れていた。
「…それは…」
 それは…多分、ロイドの心の中の何処かに少しだけ残っていた、ゼノンを思う気持ち、だったのだろうか。
 せめて…注目を集めれば、何かが変わるかも知れない、と。
「まだ自分だけ救われたかったのか?反旗を翻した、裏切り者のクセに」
 笑う声。それは…ロイドにも、酷く不快だった。
「…わたしは間違った。あの方に、反旗を翻すべきではなかった…自分だけ救われたいだなんて…都合の良い話だと言うのはわかってる。ただ…ゼノン様を…どうするつもりだったんだ……あんたたちは、あの方に何がしたかったんだ…っ!わたしは…あんたたちの…何だったんだ…」
 思わず声を上げたロイドに、冷たい視線が向いた。
「御前は捨て駒だ。我等の目的など…知らなくて良い」
 笑いと共に、そう吐き捨てるように発した言葉。
「御前の罪は、御前が背負え」
 一瞬その深い青い瞳に浮かんだのは…絶望の色。だが次の瞬間…その胸に剣が突き立てられる。
「勝手なことをした報いだ」
 当然…既に、ロイドの耳にはその言葉は届いてはいないが。
 悪魔は、踵を返しそのまま部屋を出て行った。
 その背中を追いかける者は…誰も、いなかった。

◇◆◇

 その日の昼前。
 レプリカは、書類に室長たるテオのサインが必要になり、テオから聞いていた最下層の部屋へと向かっていた。
 階段を降り、ドアを開けて廊下へと出る。その瞬間目に入ったのは…不自然に開いたままのドアと、鼻に届いた血の匂い。
「…テオ…っ!」
 慌ててそのドアの前まで走って行く。そして、部屋の中に目を向けた途端、息を飲んだ。
 壊された鉄柵の向こうに、胸に剣を突き立てられたまま壁に凭れかかっているロイドの姿。
「…ロイド…っ!」
 慌てて駆け寄ったものの、彼は既に事切れ、冷たくなっていた。
「…何でこんな……テオは……テオ…っ!!」
 振り返ったその視界の隅に、部屋の隅に転がった物体が映る。よくよく見れば…それは、床の血溜まりの中に転がる、テオの姿だった。
「テオ!!」
 駆け寄り、自分の軍服が汚れるのも構わずその身体の傍に跪く。
 腹の辺りからの大量出血で血溜まりが出来ていたのだろうと確認出来た。そしてその顔はすっかり血の気が失せていたが、まだ微かな呼吸が残っていた。
「今、助けを……」
 そう零した声が震えている。慌てて隣の部屋へと駆け込み、コンピューターを起動させ、回線を飛ばす。いつもなら容易に出来るその一連の行動も、手が震えてすんなりとは行かない。それでも懸命に手を動かし、助けを呼ぶとその場に座り込んだ。
 一体、何が起こったのか。それは、レプリカにはわからなかった。けれど…ロイドが狙われたのは間違いなかった。
 第三者が、何処かで見ていた。そうでなければ、ここに辿り着くことは出来なかったはず。
 荒い呼吸を零しながら、レプリカは震える足で再び隣の部屋へと戻る。
 そして再びテオの隣へと跪くと、傷に手を翳してせめてもの応急処置を行う。そうしている間に救護隊が最下層へと辿り着き、運ばれて行くテオとロイド。
 その状況を…レプリカは、黙って見つめていた。
 無残に血まみれになった部屋。そして、残されていたのは…足元に転がっていた…ひび割れた"鬼面"。
 その"鬼面"を拾い上げ、大きな溜め息を吐き出す。
 どうして…こうなってしまったのだろう。そう思うと…とても、胸が痛かった。

 レプリカが最下層から監査室の前まで漸く戻って来ると、連絡は直ぐに行っていたのだろう。それを待っていたようにルークと、既に仮面を外したアリスが部屋の前で待っていた。
「レプリカ…っ!」
 呆然としたレプリカへと駆け寄って来たルーク。
「大丈夫か…?」
 様子を伺うように問いかけたルークに、レプリカは無言で頷いた。
「わたくしは…大丈夫です。ちょっと驚きましたが…」
 ゆっくりとそう紡ぎだした声。けれど、微かに震えるその声で、冷静であれと感情を抑えているのは感じ取れた。
「…とにかく、一旦落ち着こう。服も手も汚れてるし……」
「…はい…」
 ルークに促され、監査室の中へと入る。そして、テオの執務室へとそのまま入って行く。
 ルークとアリスはそこで待たされること暫し。やがて戻って来たレプリカは、汚れた軍服を着替え、血に塗れた手も綺麗になっていた。
「…御待たせ致しました…」
 既に、声の震えも落ち着いている。ただ…その顔に、表情と呼べるモノは見えなかった。
「…テオとロイドに…何があったんだ?」
 問いかけたルークの声に、レプリカは目を伏せ、首を横に振った。
「…申し訳ありません…わたくしは、何も……テオ室長のサインが必要で、あの部屋まで降りて行った時には既に…ですが、テオ室長は、朝は一度ここへやって来ています。ですから、その後何かがあったとしか…」
「…そう、か…」
 溜め息を一つ吐き出したルーク。その隣で、アリスも神妙な顔をしている。
「突然、連絡が飛び込んで来て…ロイドが殺された、って言うじゃない。そうなるとアリスも"ロイド"の格好はしていられないから、元に戻したんだけど…やっぱり、第三者が何処かで見ていた、としか言いようがないな」
 溜め息と共に吐き出された言葉に、レプリカはひび割れた鬼面をルークへと渡した。
「これが…落ちていました」
「…これは?」
 鬼面を見慣れていないルークは、小さく首を傾げる。
「これは、テオの"鬼面"です。テオは…戦おうとしたんです。あのテオが…ロイドを護る為に。でも…それは、叶わなかった…」
 何処か飄々として、はっきり言ってロイドに対する興味の薄かったテオ。指示されるままに保護したものの、出歩いているところを見る限り、本気で護ろうとはしていなかったはず。それなのに、最終的にロイドを護ろうとしたのは…何故だったのか。それは、テオ自身にしかわからないことだったのだろう。
 小さく息を吐き出したレプリカは、言葉を続けた。
「ロイドの胸に刺さっていた剣は、入局時に持たされる量産されているモノでした。ですから、そこから犯魔を洗うのは無理です。あのような場所ですから…目撃者もおりません。わたくしが行かなければ…いつまであのままだったか…」
「そう。ロイドは駄目だったけど、テオは医局の方に運ばれたらしい。テオが犯魔を見ていれば…捕らえられるかも知れないんだけど…この状況では厳しいかもね…今更追いかけたところで、簡単に捕まるようなところにはいないだろうし。今までの状況を考えれば、もうとっくに逃げてるだろうな」
 そう。今までの全てで、犯魔は直ぐに姿を消してしまい、捕らえる事が出来なかった。朝、テオが向かってから昼前にレプリカが行くまでの間なのだから、時間の幅が広過ぎる。その状態で、誰かもわからない相手を捕らえることは到底無理だった。
「…まぁ、テオの回復待ちだが…これ以上、どうすること出来ないかな…もう御手上げ、か…」
 溜め息を吐き出したルーク。ロイドがいなくなってしまった以上、諦めるしかなかった。
「…申し訳ありません…」
 顔を伏せ、そう零したレプリカ。
「…何であんたが謝るのさ。あんたの所為じゃないだろう?寧ろ、テオの生命を助けたんだ。そんなことまで、あんたが背負い込むことじゃないから」
----心配、するな。
 そう言ったルークの言葉に、レプリカは黙って俯いていた。
 それを隣で聞いていたアリスは…小さな溜め息をこっそりと吐き出していた。

◇◆◇

 レプリカを監査室に残し、ルークはアリスと一緒に翠雨の執務室を訪れていた。
「…御免な。俺の計画が甘かった…まさか、直接ロイドの所に踏み込むとはね…」
 溜め息を吐き出しつつ、そう頭を下げたルークに、翠雨は首を横に振った。
「ルーク様の所為ではありません。勿論、レプリカにも責任はありません。テオ室長に関しては…回復を待って話を聞かなければなりませんが…誰の責任でもないと、思っておりますから…」
 結局、何もわからずじまい。ただ…ゼノンの解任の話が出る前と何かが変わったか、と言えば…何も変わらない、と言うのが正直なところだった。
 例え黒幕がわかったところで…どんな罪を問うことが出来たか。ゼノンがいなくなったのは本魔の意思であり…誰の責任でもない。だから、誰に罪を問うことも出来ないのだ。
 ただ…ロイドが、いなくなっただけ。それで…全て、終わり。
「…ダミ様に話はしておくけど…後で報告書御願いね」
「わかりました。テオ室長の話が聞けるようになりましたら、また連絡致します」
「あぁ、頼むね」
 ルークとアリスは翠雨にそれだけ話をしてダミアンの執務室へと向かう。
 その道すがら。
「…甘いですね、貴殿は…」
 今までずっと黙っていたアリスが、そう口を開いた。
「甘い?」
「えぇ、甘いです」
 そう言いながら、大きな溜め息を吐き出した。
「今回は…大した被害がないように見えますが、ロイドを護ることが出来なかったんですよ?真実が全部、闇の中に消えてしまった。それを誰も言及しようとしないのは、可笑しいでしょう?もし狙われていたのがダミアン殿下だったら…決して、それでは済まないはずですよね?」
「…まぁ…確かにね。でも、完全に手を引いた訳じゃない。ロイドを護ることは出来なかったけど、第三者がそこにいることはわかった。テオも、相手を見ているだろうし…そこで追い切れなかったとしても、テオに止めを刺さなかったのは、絶対に追いきれないと言う自信の表れなんだろうけど…俺は向こうの判断ミスだと踏んでいる。レプリカもテオも…これで納得するとは思っていないしね。ただ今は、テオの回復を待つのが先決だ。まずは彼奴の話を聞いてから…」
「全てを正直に話してくれると、本気で思っているのですか?"天邪鬼"である彼が」
「…アリス…」
 確かに、本来のテオの性格を考えれば、正直な答えは聞けないかも知れない。けれど、ゼノンの解任がかかった今回の状況で、以前のような皮肉を言う姿は影を消し、普通の会話が成立していた。ゼノンに関して、彼は無情にはなれない。だからこそ…今なら聞けるのではないか、とルークは踏んでいたのだ。
 小さな溜め息を吐き出したルークは、僅かに視線を伏せた。
「俺は…彼奴を信じるよ。レプリカが持って来たあの"鬼面"を見て、彼奴は生命をかけてロイドを護ろうとしたんだとわかったじゃない。彼奴は、ゼノンのことに関しては必死になってる。嘘をついて誤魔化す利点は何処にもない」
「…だから甘いと言われるんです」
 こちらも溜め息を吐き出すアリス。
「副大魔王付きの、有能な総参謀長の言葉とは思えませんよ。疑い出したら切りはありませんが…もし、誰かが共犯だったとしたら…と言う可能性を考えないのですか?私は…正直自分以外は信用しません。例え貴殿でも…ダミアン殿下でも。指示には従いますが…全幅の信頼を置くことは出来ません。ほんの少しでも、疑う余地があるのなら」
 その言葉に、ルークは小さく笑いを零した。
「……あんたは常に冷静、沈着で、有能だからね。でも俺は…そうはなれない。信頼だってするし、疑う必要がないのなら疑いたくなんかない。でも…それが甘いって言われるのなら、それで良い。俺は…今までそうやって生きて来たし、これだからだってそうやって生きて行くよ」
「……本当に、貴殿と言う悪魔は……」
 大きな溜め息を吐き出したアリス。それから、くすっと笑った。
「そんな貴殿だから…他悪魔を惹きつけるんですか?」
「そんなこと、俺に聞かれてもね」
 くすくすと笑うルーク。それは…アリスも惹かれた笑顔。
 その源は…信頼する心と、信じる勇気。だから、強い心を持てるのだと。
 そんな話をしている間に、皇太子の執務室へと到着する。
「じゃあ…もう一仕事」
 くすっと笑い、ルークはドアをノックする。
『どうぞ』
「失礼します」
 返って来た声に、ドアを開ける。そして、アリスと共に執務室の中へと入る。
「あぁ、ルークか。アリスも一緒に、どうした?」
 まだ何も知らないダミアンは、いつも通り機嫌が良い。そんなダミアンに報告するのは忍びないのだが…それもルークの仕事なのだから仕方がない。
「…実はですね…」
 そう切り出し、ライデンから聞いた話と、ロイドのことを報告する。当然、話を聞いていくうちに、ダミアンの表情は険しくなる。
「…なるほどね…」
 椅子の背に凭れかかり、腕組みをして小さな溜め息を零す。
「まぁ、状況はわかった。後は、テオの回復待ち…と言うことか」
「…はい。ライデンからの話もありますから…第三者がいるのは間違いありません。後は…少しでも接点を見つけられれば、状況も少しは好転するかと思うのですが…」
 ルークも小さく息を吐き出し、そう言葉を返す。
「…アリスに関しては、ロイドが亡くなってしまったので、これで終了とさせていただきます」
「そうか。御苦労だったね、アリス」
「…いえ…私はロイドの格好をしていただけで、他には何もしておりませんので…」
 アリスにしてみれば、確かにロイドの格好をして、ルークと一緒にいただけ。ちょっと話は弾んだが、必要以上に近付いた訳でもない。労いの言葉は、寧ろ恐縮してしまう程だった。
「助かりました。有難うございます」
 ルークはダミアンにそう言って頭を下げる。そして隣にたつアリスにも、頭を下げた。
「有難う。また何かあったら宜しく」
「…時と次第に依りますが」
 アリスもそう言って、ルークに頭を下げる。そしてダミアンに向き合うと、再び頭を下げた。
「…それでは、私はこれで失礼致します」
「あぁ、御苦労様」
 ダミアンに見送られ、アリスは先に執務室を出て行く。
 その背中を見送った二名。
「…で?報告はそれだけかい…?」
 執務室のドアが閉まると、ダミアンは徐ろにルークにそう問いかけた。
「…まぁ…一応は。後は…色々考えることはあります」
 ルークはそう零すと、溜め息を一つ。
 そんなルークの姿を前に、ダミアンは小さく笑った。
「言いたいことがあるなら吐き出して行けば良いし、まだ早いのなら良く考えてからでも構わないよ」
「…ダミ様…」
 にっこりと微笑むダミアンに、ルークのモヤモヤしていた気持ちも少し癒される。
「…ちょっとだけ…癒されて良いですか…?」
 思わず問いかけた声に、ダミアンはくすっと笑った。
「良いよ、おいで」
 そう言って椅子から立ち上がると、大きく腕を広げる。僅かに頬を赤らめたルークは、ゆっくりと歩み寄ると、その腕の中にすっぽりと収まる。
 そっと抱き締められ、その甘い芳香に大きく息を吐き出す。
 甘い芳香とその温もりに、未だに胸が高鳴る。
 エースにそんなことを言えば、もっと凄いことをしているだろうに…と笑われるのは必須なのだが…それでも、ルークにとっては特別な時間なのだ。
「…少しは落ち着いたかい?」
 耳元で聞こえる声に、ルークは再び大きく息を吐き出す。
「俺は…俺たちは、何処かで道を間違えて…結局、ロイドを見殺しにしたってことですよね…?」
 ここに来るまで、ずっと引っかかっていたこと。
 テオに任せっきりにしてしまったことが、そもそもの間違いだったのか、と。
 けれどダミアンは、ルークの頭を撫で、その髪に口付ける。
「御前が全部背負うことじゃない。みんな、納得した手段だろう?だったら、その責任は平等だ。だが御前には納得は行かないだろうね。だったら、ロイドの意を汲んでやれ。彼が…本当はどうしたかったのかを、ちゃんと見つけてやれ。それが、彼への弔い、だ」
「…本当は…どうしたかったのか…」
 その言葉を、改めて噛み締める。
 本当に…ゼノンを追い出したかったのか。陥れようとしていたのか。それは…何の為に。
 目を閉じたルークは、その額をダミアンの肩へと押し当てる。
「…わかりました。探します。ロイドが…本当は、どうしたかったのかを」
「折れそうになったらいつでもおいで」
 くすっと笑ったダミアンは、再びルークの髪に口付ける。
 それが、ルークの活力となった。
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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