聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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音のない森 7
ロイドが殺され、テオが大怪我を負ったその翌日の夕方。テオの意識が戻ったとルークの執務室に連絡が入り、ルークは医局へとやって来ていた。
そこには、同じように連絡を受けてやって来たレプリカの姿もあった。
「あぁ、レプリカ。テオは…?」
「こちらにいるそうです」
病室の一つに案内され、ルークはその病室へと足を踏み入れた。
ベッドの上には、胸から腹にかけて厚く包帯を巻かれたテオの姿。
「…ルーク参謀…この度は、申し訳ありませんでした…」
ルークの姿を見るなり、そう口にしたテオに、ルークは小さく頷いた。
「まぁ…心配しないで。取り敢えず…状況を、教えて貰いたいんだけど…大丈夫?」
「…はい…」
テオは小さく息を吐き出すと、僅かに目を伏せ、言葉を続けた。
「…あの日…俺とロイドが話をしていたら、ノックの音が聞こえた。あの場所を教えたのはレプリカだけだから、てっきりレプリカが用事があって来たのかと思ってドアを開けたら…その瞬間にもう俺は刺されていた。ロイドが狙われていたんだとわかったから、何とか阻止しようと思ったんだが…駄目だった。気が付いたら、このベッドの上で…ロイドが殺されたんだと聞いた…」
その時の状況を淡々と説明するテオ。その表情に、大きな感情は見られないが…その声は固い。
「…そう。因みに…犯魔の顔は見てるのか?」
「…顔……?」
そう問いかけられ、記憶を辿る。
「…覚えているのは…剣を握った手と、足…顔は……覚えていない…」
多分、顔は見たはず。けれど不思議なことに…どうしても、その顔を思い出すことが出来ない。
「手と足を見た、ってことは、軍服は覚えているんだな?何処の制服だった?」
「……灰色の…枢密院の、制服だ…」
「…枢密院…」
テオの言葉に、ルークは大きく息を吐き出した。
よりによって、一番厄介なところ。だからこそ、複雑な表情を浮かべたルーク。
そんなルークの顔を見て…テオは、ふっと顔をあげた。
「そうだ。彼奴を保護したその日に…同じ制服を見た。ウチの局の廊下で。多分…同一悪魔だと思う。確か……灰色の軍服に、マントを羽織って…濃茶色の短い髪…」
その容姿を思い浮かべ、ルークはドキッとして息を飲んだ。
「……濃茶色の短い髪…」
そう言われ、脳裏に過ぎったのは…嘗ての宿敵。
----ターディル…
思わず…その言葉を飲み込んだ。
エースが言っていたはず。ターディルは、全ての世界を支配する為に"入念に準備をして来た"のだと。もしも…ターディルの遺志を受け継ぐ後世がいるのだとしたら…それを自分の後世に託していたのだとしたら。
思わず、背筋を走った悪寒。
顔色の変わったルークに、テオは話を続ける。
「彼奴は…ロイドは…研究室の棚を、じっと見つめていた。そこに何かがあると、俺は踏んだんだが…まだ何も見つけられていない。それに…彼奴は、ゼノンの気持ちを履き違えていた。あれだけ頼りにされて、必要とされていたのに…それに気付かなかった。最初から、自分はゼノンの眼中にないのだと…諦めていたのかも知れない。そう考えると、彼奴は…ゼノンを追い出すつもりなんか、最初からなかったのかも知れない。ただ、上手いこと言い包められて…良い様に利用された。ゼノンはそれに気付いていたから…彼奴に、罪を問わなかったのかも知れない。尤もそれは、俺の予測でしかないけどな」
「…なるほどね…じゃあ…研究室も調べた方が良さそうだな…レプリカ、付き合ってくれる?」
自分の背後に立つレプリカを振り返ると、レプリカも真剣な表情で小さく頷いた。
「御意に」
「じゃあ、そう言う事だからまた来るよ。他に何か思い出したら連絡して。こっちも何かわかれば連絡に来るから」
ルークはそう言い残し、踵を返す。レプリカもその後に続いて、病室を後にする。
そして、研究室に向かうその道で…ルークはふと、レプリカに問いかけた。
「…研究室に…何があると思う…?」
その問いかけに、レプリカは小さく溜め息を吐き出した。
「正直…重要なモノはないと思っています。資料棚を見ていた、と言うことですけれど…たまたまぼんやりとしていた視線の先に、それがあっただけかも知れませんし。それだけでは、何かがあると判断するのは難しいと…」
「…まぁ、ね。多分そうだろうとは思うけど…テオが引っかかってるんだ。調べてみる価値はある」
その言葉に、レプリカは首を傾げた。
「…いつから、そんなにテオの評価があがったのですか…?」
レプリカの疑問に、ルークは一度足を止めると、レプリカを振り返った。
「正当な評価、だろう?口では何とでも言えるけど…本当の気持ちってのは、咄嗟の行動に出るんだ。何だかんだ言いながら、彼奴はロイドを護ろうとした。俺はその行動は信頼に値する。多分…彼奴は、今回のことに関して嘘は言わない。第三者の顔を覚えていないと言ったのも本当だろうし、枢密院の軍服を着た奴って言うのも本当だろう。だから、研究室に何かがあると踏んだその判断も、間違ってはいないと思う」
「…貴方様らしい判断ですね」
何とも言えない表情でそう答えたレプリカ。多分…その心境も、その顔の通り、何とも言えないのだろう。
「ま、行ってみればわかる」
再び歩き出したルーク。レプリカは、黙ってその背中に着いて行くしかなかった。
ゼノンの研究室へとやって来た二名。閉ざされた研究室のその鍵を開け、中へと足を踏み入れる。
ロイドが後を引き継いで使っていたはずだが…特に変った様子はなかった。
「…資料棚って、これかな…?」
ルークは部屋の奥にある棚の前に立ち、それを見つめる。
「その棚の奥に…例のウイルスの資料があったそうです。それから、盗難届けも…」
「…そう…」
レプリカの声を聞きながらも、ルークの視線はその棚から離れなかった。
ここに、何があったのか。ロイドはここで…何を、見つめていたのか。それを、知りたくて。
「…資料…出しても良い…?」
そうつぶやいたルークに、レプリカは頷いた。
「どうぞ」
その返事が届く前に、ルークの足は既に棚へと向かっていた。そして、自分の目線の高さにある棚に手を伸ばした。
「…ロイドの背の高さは?」
「…ルーク様よりは、頭一つ分ぐらい低いはずです。アリスと同じぐらいでしたから…」
「…そう。じゃあ…こっちか」
ルークは手を伸ばした棚には触れず、その一つ下の段の資料に手を伸ばした。そして、その段の資料を全てテーブルの上へと出すと、中身を確認する。
すると、そこに奇妙なモノを見つけた。
「…何だこれ…?」
「…どうかされました…?」
ルークを手伝って、資料の中身を確認していたレプリカも手を止め、ルークの手元を覗き込む。
そこには、違う表紙が重ねられた研究資料があった。
「…表は当たり障りのない研究タイトルですが…中身は違いますね。これは……」
「…クローンモンスター…」
つぶやいたルーク。
「クローンモンスターの研究資料は、この部屋の物ではありません。クローンモンスターは、別の研究室で……」
そう言いかけて、レプリカは口を噤んだ。
「…ロイドはやってたんだよ、クローンモンスターの研究。この研究室で。"彼奴"の遺志を受け継ぐ…"彼奴"のクローンを、作る為に…」
「……まさか……」
思わず息を飲んだレプリカ。ルークも、手の中の研究資料を捲りながら、息を飲んでいる。
「日付は…ゼノンがいなくなってからだ。だから…誰にも内密に事を運べたのかも知れない。完成したかどうかは記されてないけど…最終日付は、ロイドとアリスが入れ替わった日より一週間も前、か…」
ルークは資料にざっと目を通すと、それを手の中で閉じる。
もしも…テオが見かけた、灰色の軍服を着た濃茶色の短い髪の悪魔がそうなら…。
「…俺は、デーさんの所に行って来る。エースも、明日帰って来るみたいだし…そうしたら、もう一度相談して来る。だから御前は…このことは、内密に…な」
「…はい…」
「まぁその前に…ここを片付けないとな…あと、念の為もう少し何かあるかどうか調べようか…」
このまま立ち去るには、まだ何かあっては困ると言う思いが残っていた。
結局、夜遅くまで彼等は研究室に篭っていたのだった。
翌日、ルークは研究室で見つけた資料を手に、デーモンの執務室を訪れていた。
「エースは?」
まだ、その姿は見えない。
「あぁ、朝連絡があってな。午後までには帰って来るらしい」
「そう。じゃあ、取り敢えずそれに目を通してみて」
デーモンの言葉に、ルークは書類をデーモンに渡すと、御茶を淹れ始めた。
結局見つかった資料は、最初に見つけたクローンモンスターの他にもう一部。それは、ウイルスに関してのものだった。
「それをね、ゼノンの研究室で見つけた。それを隠していたのはロイドだ。ウイルスのはともかく、クローンモンスターのはゼノンがいなくなってから作られているしね」
「…ウイルスの方も、未確認だと思っていたのはゼノンだけだったみたいだな。凡その症状は確認出来ていたみたいだな」
「そう。しかも彼奴は"赤の種族"だからね。自分に害を及ぼさないことをわかった上で、広めたと考えられるかも知れない」
ルークはそう言いながら、御茶のカップをデーモンの前へと置いた。
「…でね。テオが言ってたことなんだけど…彼奴とロイドを襲った奴は、枢密院の軍服だった、って言うんだよね。灰色の軍服に…短い濃茶色の髪。そう言われると…もう、ターディルしか思い浮かばないんだよね…そこに、クローンモンスターの研究資料でしょう?まさかとは思うんだけど…」
ソファーに深く座り、そう口にしたルークに、デーモンは溜め息を吐き出す。
「ロイドが、ターディルのクローンを作ったと…?まぁ…そう考えるのも仕方がないとは思うが…多分、それはないな」
「何で?」
問い返したその声に、デーモンは再び溜め息を一つ。
「考えても見ろ。ゼノンがいなくなってから、半年だぞ?そこからクローンを作り始めて、成体になるまでどれくらいかかると思ってるんだ?モンスターの比じゃないぞ?それに、ターディルそのものを再生させるのは、リスクが高過ぎる。あれだけ大きな騒動を起こしたんだ。枢密院で、彼奴の顔を知らない奴は多分いないぞ?もしターディルのクローンを作れていたとしても、枢密院にいたら一発で見つかる。わざわざそんなリスクを犯す必要性はないだろう?そう考えると、テオが見かけた奴も、ターディルじゃない。顔は、別魔のはずだ。だからこそ、見つけるのは大変だろうな」
「…そっか…」
デーモンにそう言われ、ルークも溜め息を吐き出す。
「まぁ…仮説としては成立するのかも知れないが、実際問題で考えれば無理な話だ」
デーモンはそう言って小さく笑うと、カップを持ってソファーへと移動して来た。
「じゃあどうして、ロイドはクローンモンスターの研究を?」
「それは吾輩の知ったこっちゃないが…もしかしたら、何れはそのつもりでいたのかも知れないな。第三者がいるのなら…ほとぼりが冷めた頃、手がけるつもりだったのかも知れない。魔界とは限らず…よその世界で、と言う可能性もあるしな」
「……そうなっちゃうと、どんどん遠い話になって来るよね…」
大きな溜め息を吐き出し、ルークも御茶のカップを手にする。
「…まぁ、その話はまたエースが来てからにして……ライデン、どうしてる?大丈夫、って一言聞いただけだけど…」
先日のいざこざから、気にはなっていたこと。だがルークも慌しくて、ゆっくり話を聞くことが出来ずにいた。
「あぁ、夜連絡するって言って、ほんとに一言しか連絡しなかったからな。まぁ…彼奴は大丈夫だ。吾輩が着いているから」
小さく笑うデーモン。だが、その表情はパッとしない。多分…何かしらはあったのだろう。
「…御免ね、俺が引っ掻き回したみたいで…」
申し訳なさそうに零した言葉に、デーモンは言葉を続けた。
「気にするな。みんな、ちょっと素直になれなかったんだな。御前が心配している気持ちはライデンも良くわかっているから。ただ…彼奴も不安で一杯なんだ。まだ内密なんだが…王位継承式の日取りも決まってな。向こうにいるのはみんな顔見知りだったとしても、気安く愚痴を零せる相手もロクにいない。ゼノンのことと、継承のことと…不安は溜まれど、吐き出す場所がないんだ」
「そっか…決まったんだ…」
「あぁ。あの日帰ってから、ライデンと話をしたんだ。彼奴が思ってることを、全部聞いた。我々が、ライデンに為に…と黙っていたことは、彼奴にはもう仲魔じゃないと切り捨てられたように感じたのかも知れない。魔界のことを背負わす訳には行かない、割り切らせなければいけない。その思いは変わらないんだ。だが、そこに壁を作ってはいけないんだとな、吾輩も反省した。ゼノンとのことも、自分から切り捨てようとしてな…だが、そう言う問題じゃないだろう?彼奴が自ら切り捨てたところで、ゼノンが帰って来る訳でもない。だから、それは取り敢えず押し留めて…何かあれば、今度は吾輩が、雷神界へ出向くことにした。いつも彼奴が来るばかりだったからな。彼奴が動けないのなら、我々が動けば良い。そうだろう?」
「…ホント、前向きだよね、デーさんってば」
くすっと笑いを零したルーク。
確かに、ルークも色々考えてはいた。そして、アリスに言われた言葉も。
「…幾ら気心の知れた仲魔だって…歪みが出ることもあるよね。それを口に出来なかったから、みんなこんな風になったんだと思う。ゼノンにしたって…ライデンにしたって。勿論、俺たちも。辛いなら辛いって言えば良い。俺は、アリスにそう言われた。俺をちゃんと受け止めてくれるヒトに、全部吐き出せば良い、って。ライデンには…今はその相手がいなかったんだよね…反省しなきゃ…」
「だから、吾輩が行くんだ。彼奴の愚痴を聞きにな」
そう言って笑ったデーモン。
「俺も行くよ。時間空いたらさ。仲魔、だもんね」
「あぁ」
にっこりと笑い合う両名。改めて、その絆を確認した。
昼を少し過ぎた頃。やっと、エースがデーモンの執務室へとやって来た。
ノックの後、ドアを開けて入って来たエースは、ルークの顔を見るなり溜め息を一つ。
「何だよ、御前もいたのか…」
「悪い~?」
「まぁまぁ。エース、おかえり」
そのやり取りに、くすくすと笑うデーモン。
「あぁ、ただいま」
外套を脱いだエースは、デーモンへと歩み寄ると、そっとその身体を抱き寄せる。
「…見せ付けんなよ、ばぁ~かっ」
「文句があるならダミアン様んとこへ行けよ、ば~か」
「まぁまぁ」
子供染みたやり取りに、デーモンはエースの背をポンポンと叩くと、その抱擁から逃れる。
「…で、どうだったのさ?あんたが借り出されるくらいの任務だった訳?」
エースがソファーへと座ると、ルークがそう切り出した。
「まぁ…微妙だな。俺がいなくても、どうにかなりそうではあるが…まぁいれば簡単に片付くからな。何とも言えないな」
エースは煙草を取り出して火を付けると、ソファーに深く座って足を組み、紫煙を吐き出す。
「で、そっちは?ここに来る前にウチの執務室に寄ったんだが、リエラがロイドが殺された、って言ってたんだが…どう言う事なんだ?」
「あぁ…うん。まぁ…状況を説明するよ」
ルークはそう切り出すと、エースが任務に出てからの話をざっと伝える。そして、見つけた資料とルークの仮説、それに関するデーモンの意見も。それを聞きながら、デーモンは御茶を淹れに立っていた。
説明が一通り終わり、デーモンの淹れた御茶がテーブルに置かれると、エースは苦渋の表情を浮かべたまま、紫煙を吐き出していた。
「…なるほどな。結局、ロイドは殺されて真実は闇の中…一番怪しい奴は、枢密院にいる可能性が高い…それに、クローンモンスターとウイルスの資料、か…」
灰皿で煙草の火を消し、エースは御茶のカップに手を伸ばす。
「で、名簿は出来たのか?」
「あぁ、うん。出来てるよ。全局分ね。ただ、そこから接点を見つけるのはやっぱり難しい。それよりも、テオが推測した相手の身長と、髪の色で検索かける方が早いかも知れない。でも昨日の今日だしね…まだそこまで手は回ってない。枢密院の軍服を着ていたけど、軍服なんてその気になれば簡単に手に入るしね」
「髪の色も、その気になれば変えられるけどな。まぁ、やらないよりはやってみた方が良いな」
そう言いながら、エースは暫し思いを巡らせる。
ルークも引っかかった、ターディルの存在。本魔はエースが倒したのは確かだろうが…ターディルと良く似た容姿の黒幕の目的は、一体何なのか。本当に…全世界の征服を目論んでいるのだろうか。そうだとしたら…今、どの辺りまで手を伸ばして来ているのだろうか。
「…何とも言えないな…」
思わず零した言葉に、デーモンとルークの視線が向いた。
「引っかかってる?」
問いかけたルークの声に、エースは小さな溜め息を吐き出す。
「まぁ…な。それに、ロイドが殺されたとなっては…彼奴の目的も、わからなくなったしな。ゼノンを追い出して、何がしたかったのか。本当に、ターディルのクローンを作るつもりだったのか…」
「何がしたかったのか、か…」
エースの言葉に、ルークはふと思い出す。
「そう言えば…昨日、テオが言ってたよ。ロイドは、ゼノンの気持ちを履き違えていた、って。ゼノンはロイドを頼りにして、信頼していたけど、ロイドはそれに気付いてなかった、って。本当は…黒幕に上手いこと言い包められて、良い様に利用されたんじゃないか、って。もしかしたら、本当は…ゼノンを追い出すつもりはなかったのかも知れない。ゼノンもそれをわかっていたから、彼奴に罪を問わず、自分で背負い込んだんじゃないか、って…勿論、テオの憶測に過ぎないけどね」
「…もしそれが本当なら…ゼノンなら、やり兼ねないな…」
色々なことが積み重なった結果、そうすることが最善だと思ったのなら。そう至るまでの葛藤は、当然あったはず。だが、誰にも言わず、一名で出した結論だったからこそ…誰にも止められなかった。
「…最初は…考えもしなかったが…ロイドは本当に、黒幕の思惑など何も知らなかったのかも知れないな。言われるままにウイルスを盗み、その事実を隠し…自分に被害が及ばないことを確認した上でウイルスを広めた。それが何の為かも知らずにいた可能性もなくはない…のかもな」
口を開いたデーモンに、ルークは溜め息を一つ。
「でもそうなると、ゼノンの解任については?何の目的があってその居場所を奪おうとした訳?第三者からの指示だったと考えたとして…彼奴にも背負うリスクがある。現に俺たちに目を付けられ、最終的に…生命を奪われた。まるで無傷でいられるだなんて…有り得ないでしょう?」
「真実はわからない。だが…それがロイドなりのゼノンへの償いだとしたら…?」
「償い?追い出すことが?」
怪訝そうに眉を寄せるルーク。だが、デーモンはそのまま言葉を続けた。
「声を上げることが、だ。ロイドの気持ちがわからない以上、最早我々には憶測でしかないが…もしかしたら、何も知らなかったとは言え、結果的にゼノンを追い出すことになってしまった。それにロイドが罪悪感を感じていたのなら…ゼノンの存在が忘れ去られないように、声を上げることを選んだのかも知れない。ゼノンに反旗を翻せば、当然今回みたいな展開になることは、凡その見当は付いていたはずだ。我々が再び動き出せば、もしかしたらゼノンが見つかるかも知れない。彼奴の居場所がなくなると危機感を覚えれば…もしかしたら、ゼノン自ら帰って来るかも知れない。ゼノンに庇って貰った負い目があるから、自分から口には出来なかったのかも知れないが…もしかしたら…あの資料も、見つけて欲しかったのかも知れない。自分の侵した罪を、曝け出して欲しかったのかも知れない。それが、ゼノンに対しての償いのつもりだったのかも……まぁ、吾輩が出した、一つの仮説だがな」
デーモンのその言葉を聞き、エースも溜め息を一つ。
「まぁ…今更だから、どうとでも言える。結局、ロイドの目論みはわからなかった。だが、彼奴が声を上げた後…実際、何も起こっていない。誰も、ゼノンの代わりにと手を挙げる奴もいない。文化局の上層部は、あれでもゼノンを尊敬していたからな。彼奴以上にあんなに飄々とした態度で仕事を熟せる奴はいないだろう。現に翠雨だって、彼奴の仕事量に辟易していただろう?副官でさえそうなんだ。上層部ほど、ゼノンのことはわかっていたんだ。だから…誰も手を上げなかった。そして…ゼノンの居場所を護ろうと、寧ろ必死になり始めた。そうなることを望んでいたのだとしたら…ロイドがやったことは、報われたのかも知れないな。まぁ…何とも言えないがな」
「…そうか。ゼノンの居場所を護ること。それが、ロイドが自分に科した"見返り"だったんだとしたら…今回のことに関しては、第三者の指示じゃなかったのかも知れない…だから、その後何も起こらなかったんだ。全部、ロイドが一悪魔でやったこと、だから」
ハッとしたように、ルークはそう言葉を零した。
「…まぁ、確かにな。それだったら、成立するな」
エースもルークの言葉を聞いてそう納得する。そしてルークも、小さく頷いた。
「黒幕が何を思っているかはわからないから、警戒を緩めることは出来ないけど…取り敢えずは、このまま様子見ってことで大丈夫なのかもね。ロイドがいなくなっちゃったんじゃ、もうそこからは辿れないし…ゼノンの後任の話も、誰も何も言い出さないんじゃ、このまま立ち消えでしょ?後は、名簿を地味に調べ上げて…少しでも接点を見つけないとね…折角、ロイドがきっかけを作ってくれたんだからね」
「ホント、後は地味な仕事だよな。まぁ、頑張れよ」
しれっとそう言ったエースに、ルークの動きが一瞬止まる。
「え?ちょっと待って…?まさかあんた、俺だけにそれをやらせようって言うんじゃないでしょうね…?」
「何言ってるんだよ、名簿の入ったメモリファイル持ってるの、御前だろう?」
「……今持ってるからあんたに返すっ!」
慌ててソファーから立ち上がり、ポケットを弄り始めたルークを横目に、エースもソファーから立ち上がる。
「じゃ、俺はダミアン様のところにこの前作った報告書修正して出さなきゃいけないからな。後頼むな」
「ちょっ……エースってば…っ!」
くすくすと笑いながら、執務室を出て行ったエースに、ルークは溜め息を吐き出す。
「…ねぇ、デーさん…あんな薄情な奴と、別れた方が良いよ」
ボソッとつぶやいた声に、デーモンが苦笑する。
「まぁ、それは無理だな。名簿は吾輩が手伝うから」
「もぉ…エースに甘いんだからっ」
勿論、本気で言っていないことは重々承知。だからデーモンも笑っていられるのだった。
数日後にルークから出された報告書は、継続調査、と言うことで締めくくられていた。
結局、テオが見た第三者はその後枢密院でも見つからず、何もわからずじまい。それでも…ほんの少しは、前に進めたのだろうか。
それは、誰にもわからなかった。
そして、幸か不幸か…またいつもの日常が戻って来る。
大事な仲魔を、護る為に。
前を向いて…歩いて行く為に。
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プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
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