聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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風花 5
その日の職務が終わった後。ルークはダミアンの執務室を訪れていた。
「久し振りだね」
「…はい」
ダミアンと最後に顔を合わせたのは半月ほど前になる。尤も、その前に一ヶ月程留守にしていたのだから、このところ殆ど会っていないと言う事になる。
半月振りのダミアンは…心なしか、少し窶れたようにも思う。
「…大丈夫ですか?少し痩せたみたいですけど…」
「あぁ、そうかも知れないね。色々と忙しくてね。ゆっくり休む暇もない」
苦笑しながらそう言ったダミアン。それに関しては婚姻の儀の準備が始まっているのだから、当然と言えば当然。
「…それで?今日はどうしたんだい?」
にっこり笑ってそう問いかけられ…ルークは一瞬躊躇う。けれど、その笑顔を護らなければ…その想いで一杯だった。
「…ジュリアンと連絡を取りたいのですが…」
そう切り出したルークに、ダミアンの表情が一瞬変わった気がした。
「…ジュリアン?このところ良く呼び出されるね。昨日、今日とエースもジュリアンと連絡を取りたいと言っていたしね。連絡を入れてみるが…まだ残っているかはわからないよ?」
「…はぁ…」
昨日の件は、ルークも聞いたので知っている。けれど、今日もまたジュリアンを呼び出しているとは…余計な事は言わないだろうが、エースなりに引っかかるところがあって探りを入れているのは確かだった。
ルークがそんな事を考えている間に、ダミアンは"特別警備隊"のジュリアンへと連絡を入れていたようだが、呼び出し音がするだけ。どうやら捕まらないようだった。
「…駄目だね。今日はもう帰ってしまったようだ。時間も遅いしね」
そう言って時計へと視線を向ける。確かに、職務時間が過ぎてからここへ訪ねて来ているので、既に帰ってしまっていても不思議ではない。
「…じゃあ、後日また改めます」
「そうかい?じゃあ、そうしておくれ」
そう言うと、ダミアンは椅子から立ち上がる。そして。
「今日はもう帰ろうか。どうだい?久し振りに、寄って行かないか?」
珍しいダミアンからの誘いに、ルークは一つ息を吐き出す。
今までなら、何の躊躇いもなく喜んで着いて行っていた。だが、婚約した今…果たして自分がそこに行っても良いのかどうか。
「…心配しなくても、他には誰もいないよ?今までと、何の変わりもないから」
ルークの表情でその思考を読んだのか、くすっと笑いを零すダミアン。
そして、そっとルークへと歩み寄ると、その耳元で小さく囁く。
「たまには…わたしにも、息抜きをさせておくれ」
そう言われ、その耳に軽く口付けられる。そんな事をされてしまうと…最早、ルークに拒否権はない訳で。
僅かに赤くなった顔で小さく頷くと、その頭の上に乗せられた掌。それは…とても、温かい。そして…たったそれだけの事でも、とても胸が高鳴る。
こんな興奮は、他の誰が触れても味わえない。相手がずっと恋焦がれていたダミアンだからこその高鳴りなのだ。
「…遠慮しませんよ?」
思わず口をついて出た言葉に、ダミアンの笑顔が返って来る。
「勿論構わないよ」
久し振りのその甘い囁きに飲み込まれる。
その夜は、ダミアンもルークも、実にのんびりと…そして、甘い時間を過ごしたのだった。
翌日の朝一番にジュリアンに連絡を取って貰うと、ルークは自分の執務室で彼が来るのを待っていた。
そして、一時間ほど待っていると、漸くジュリアンが執務室へとやって来た。
「…御呼びだと伺いましたが…」
何を問われるのだろう。ジュリアンが僅かに見せた、不安げな眼差しがそう言っているようだった。
「うん、ちょっと聞きたい事があってね」
恐らく、エースから色々聞かれているのだろう。そう思いつつ、ルークはルークで聞かなければならない事もあるのだから、こればっかりは仕方ない。
「…アリスの事なんだけど」
そう切り出すと、ほんの少し、その顔が変わった。
「エース長官からも、話を聞きましたが…アリスの"腕"が、何者かに切り落とされたのだとか…行方も未だわからないとの事ですが…わたくしも、詳しい事は何も…エース長官にも、そう話しております」
「うん、それは聞いた。俺も良くわからなくてさ。ただね、在籍に関してどう言う扱いになっているのかと思ってね」
籍が残っていれば、戻って来る可能性はあると思う。けれど、籍がなくなっていれば…アリスはきっと、戻っては来ない。そんな気がして。
「…在籍…ですか?」
ルークの意図を何処まで察したかはわからないが…ジュリアンは少し考えてから、口を開いた。
「わたくしも詳しい事まで把握はしておりませんので…確認してからの返答で構いませんか?」
「良いよ。わかったら連絡して。それから…」
「…それから…何ですか?」
一旦言葉を切ったルークに、小さく首を傾げるジュリアン。その顔を眺めつつ…彼は、何処まで真実を知っているのだろう、と言う疑問がそこにあった。
どう、踏み込もうか。少し考えてから…ルークは、口を開いた。
「…知ってる?俺、狙われてるんだって」
「………はい?」
「アリスから、そう言われたんだけど」
「………」
ジュリアンの様子をじっと伺う。顔色は変わらないものの…その眼差しが少しだけ揺らめいた。そして何より…纏う気が、とても鋭くなった。
「…存じませんが…」
ゆっくりと口を開いたジュリアンは、そう言いながらルークを見ていた。彼もまた、ルークを観察するかのように。
「…どうして、それをわたくしに…?」
問いかけたジュリアンの声に、ルークは一つ息を吐き出す。
「だってさ、俺が狙われてるのがホントだったら、ダミ様に何かあったら困るでしょ?婚約したとは言え…俺は、ダミ様の恋悪魔のままだし。離れるつもりもないよ。ダミ様もそれを了承してくれているしね。だから、隠密使のあんたにもそれを宣言しとこうと思ってね」
「…そうですか。ダミアン殿下の身の安全は、我々"特別警備隊"が御護り致しますので御心配なく。ですが、ルーク参謀の身の安全は御自分で護っていただきますが…」
「わかってるよ、そんな事。別に、あんたに護って貰おうとも思ってないし。でもさ、ホントにあんたたちにダミ様が護れる?帰宅してしまった後は、何をしているかまで把握していないでしょう?そこで何かあったらどうするのさ」
「…御心配には及びません。我々は、凡その把握はしております。夕べは、ルーク参謀が皇太子宮を訪れていらっしゃった事も存じ上げておりますので…」
「……へぇ。覗いてんの?趣味が悪いね」
一瞬、ドキッとした。まさか、何処からか見られているだなんて思ってもいなかった。けれど、それを表情に出すほど、今のルークの気は緩んではいない。
まるで、戦地に立っている時と同じ。気を研ぎ澄ませ、相手の出方を伺っている。
そしてジュリアンの方も…珍しく、ルークに対して警戒しているようだった。
「わたくしが覗いている訳ではありません。皇太子宮の使用魔より、連絡が入りましたので…」
「連絡、ね…そんな無粋な使用魔がいたんだ。知らなかった。皇太子宮の使用魔は、みんなダミ様に忠誠を誓っているから、口が堅いはずだったけどね。今まで一言だって洩れた事はないはずだけど…?もし、それがホントなら…直ぐにクビじゃない?と言うか、間違いなく消されるよね?」
「………」
ルークの言葉につられてしまったのは、恐らく…ジュリアンの失態だったのだろう。大きな溜め息を吐き出すと、頭を下げた。
「…無粋な真似をして、申し訳ありません」
「俺に謝られてもね。別に俺は良いんだけどさ、ダミ様の信用問題に関わるんじゃない?そんなに…ダミ様の失脚を狙ってる訳?」
完全にカマをかけた言葉に、ジュリアンは頭を下げたまま再び大きく息を吐き出した。そして、ゆっくりとその顔を上げる。
「わたくしは、そんなつもりは毛頭ありません。ダミアン殿下を御護りするのがわたくしの任務です。何があっても…ダミアン殿下だけは、御護り致します」
「じゃあ、俺が邪魔でしょ?それとも…俺を利用して、ダミ様を失脚させる?」
「……ルーク参謀…」
ここまで来たら、ルークも引けない。さて、更に何処まで踏み込めるか…そう、計算している間に、ジュリアンの目つきが変わった。
「貴殿は…何を、仰りたいのです…?」
明らかに警戒の色を乗せ、反撃の機会を伺っている。そうとしか思えないその眼差しに、ルークはくすっと笑いを零した。
「何をそんなにビクついてるのさ。あんたがただの隠密使だとしたら、疑われる要素が何処にある?それとも俺が、アリスから何かあんたの秘密を聞いているとでも…?」
その言葉に、ジュリアンは僅かに口元を緩めた。恐らくそれは…笑っているのだろう。
「わたくしは、ただの隠密使ですよ?それ以上でも、以下でもございません。アリスから何を聞いたのかは存じませんが…彼女が狙われたと言うのなら、何か別の理由があったのでは?」
「理由ね…まぁ、正直、察してはいるよ。簡単に言えば、反旗を翻した、って事かな?だから、狙われた。そして、俺への見せしめの為に、その片腕を切り落として置いてった。少なくとも、俺にはそうとしか思えない訳だよ。他に理由なんか見つからないしね。でもそこに…あんたの名前が、あったのだとしたら…?」
「………」
にっこりと笑ったルークに、ジュリアンもそのままの表情で真っ直ぐにルークを見つめていた。
「因みにね、結界は張ってあるよ。ここでの話は、他へは洩れない。あんたが何を言おうが…まぁ、俺だけが知る話、って事。そして…俺とあんたが例えここで剣を交えたとしても、誰も助けには来ない」
その言葉に、ほんの少し、ジュリアンの警戒が解けたようだ。小さく溜め息を吐き出したその顔は、半ば呆れているかのようで。
「…貴殿は、職務となると本当に別魔になりますね。ダミアン殿下の前にいらっしゃる時とはまるで違う。本当に…策士でいらっしゃる」
「それは褒められてるのかな?まぁ、そう言う事にしとこうか」
笑いを零すルーク。けれど、その笑いは直ぐにすっと収まる。
「…で、あんたに聞きたい事があるんだけど」
「…聞きたい事…ですか?」
「そう。もしあんたがそれに答えてくれたら、皇太子宮にいる諜報員に関してはダミ様には黙ってる。出来る事なら、手を引いてくれると助かるけど…安全確保の為なら、仕方ないけどね。まぁ、ダミ様もそれを知っていて黙認しているのなら話は別だし…?」
ジュリアンの警戒が少し解けて来た事を察したルークが、その取引を口にする。すると、再びジュリアンの表情がすっと引き締まる。
「貴殿は…わたくしから何を聞きたいと…?」
問いかける声に、ルークは再び笑いを零す。
その返答は、アリスと同じ。そう問いかけると言う事は、半ばそれを認めていると言う事。だからこそ、ルークも手の内を見せる覚悟を決める。
「あんたの名前。"特別警備隊"が隠し部署である事も、俺が知ってるあんたたちの名前が枢密院に登録されてない事も知ってる。つまり、別名で別部署に登録されている、って事。だから、その名前を知りたいの」
「…それを聞いて、どうなさるおつもりで…?」
ルークの返答次第では、ジュリアンは決して口を開かない。それはその表情でわかっていた。けれど、これはルークの賭けでもある。だからこそ、真っ直ぐにその答えをぶつけた。
「"オズウェル"を捜す手がかりにする。それだけ。別に今は、あんたをどうこうしようと言うつもりはないから」
「…"オズウェル"…」
僅かに顔色を変えたジュリアンだが、それ以上は口を開かない。
「そ。勿論、それが誰か、なんてあんたには問いかけないし、俺たちが勝手に捜すだけ。あんたは…ただの隠密使、なんでしょ?"魔界防衛軍"とは何の関わりもないはずだよね?」
「…貴殿と言う方は…」
大きな溜め息を吐き出したジュリアン。
「何処まで…知ってらっしゃるんですか…?」
思わず零した言葉に、ルークは小さく笑う。
「知らない方が良いって事もあると思うよ?あんまり踏み込んで来ると、あんたの生命にも関わるんじゃない?」
「…わかりました。もう結構です」
再び溜め息を吐き出す。そして、小さくつぶやいた。
「…"ラン=ジュイ"…」
「…"ラン=ジュイ"…ね。わかった。因みにもう一つ…"ウェスロー"と"アデル"は、まだいるの?」
「…そんな事まで…」
困惑した表情のジュリアンだが、最早引き返す訳にも行かない。完全に、ルークの思う壺だった。
「…"アデル"は、もういません。彼は…誰よりも優秀でしたが…もう随分前に退きました」
「OK、有難う。話はそれだけ。誰にも言わないから安心して。勿論、俺からはエースにも言わないから」
にっこりと微笑んだルークに、ジュリアンはぐったりとした表情を返した。
「…そうやって、アリスとも取引を?」
「何の事?それを聞いちゃうって事は、もう一つあんたの弱みを握る事になるんだけど?」
「…わかりました。では、早々に退出させていただきます」
それ以上問う事をやめたジュリアンは、ルークに頭を下げるとそのまま踵を返した。
その背中に向け、ルークは思わず声をかける。
「ちゃんと…ダミ様を、護ってよ。もし、あんたがダミ様に反旗を翻したら…その時は、俺もあんたを狙うからね」
その声に、ジュリアンはふっと足を止めた。そして、僅かにルークを振り返る。
「当然です。わたくしは、ダミアン殿下の隠密使です。彼の君を護るのは当然の事。例え、貴殿に反旗を翻したとしても…ダミアン殿下に反旗を翻すつもりはありません」
「そう。なら問題ない。アリスの事も頼むね」
そうかけた声に再び頭を一つ下げると、再び足を進めたジュリアンはそのまま執務室を出て行った。
「…"ウェスロー"と"ラン=ジュイ"…"エリカ"…」
小さくつぶやきながら、ルークはその名前を記憶に刻む。だが、"ウェスロー"は登録されていないのだから、もう一つ別名があるはず。その名前さえわかれば、もう少し前へ進めるのだろうが…今は、そこまでは求められない。まず第一は、ジュリアンの身の安全の確保。これ以上深入りすれば、彼もまた…生命を狙われかねないのだから。
「"アデル"が見つかれば、もっと進めるんだろうけど…まぁ、しょうがない。これで、一旦休止かな…」
大きく伸びをして、ソファーへと背を凭れる。
エースは、何処まで状況を把握しているのか…それすらもまだわからないが…"ラン=ジュイ"に関しては、約束通りエースが自分で辿り着くまでは口を噤んでいるつもりだった。
アリスの推察通り、ルークから見ても、彼はダミアンに対して何かを目論んでいるようには思えない。寧ろ、本当にただの隠密使として、ダミアンを影で護っているのだろう。
それが、本来の任務であるように。
大きく息を吐き出しながら、御茶を淹れに椅子を立つ。そのついでに結界を解く。すると、そのタイミングを見計らったかのように、執務室のドアがノックされた。
「はい?」
今日は、来客の予定もなかったはず。とすると、誰かからの報告か…仲魔の誰か、か。
そんな事を思いながら返した返事に、ドアの向こうから声が届く。
『ラルですが』
「…あぁ、どうぞ」
ドアを開けて入って来たのは、昔馴染みの参謀部実行班総長。このところ、遠征続きでロクに顔を見ていなかった事を思い出した。
「御帰り。ってか、いつ帰って来たの?」
問いかけた声に、ドアを閉めたラルは苦笑を零す。
「三日ほど前にね。報告書の提出がてら、様子見に来たんだけど」
そう言うと、ルークが戻った執務机に報告書を置く。
「謎の"腕"があったんだって?」
不意にそう言われ、ルークは一瞬ドキッとしてラルの顔を見つめた。
「…何、その話広まってるの?」
「いや?昨日情報局行ったら、顔馴染みの局員からこそっとね。ウチの局にはまだ広まってないと思うけど。だって、情報局に直接タレコミがあったんでしょ?」
「…らしいね。俺も、その辺の事情は良く知らないけど」
小さな溜め息を吐き出したルーク。だが、ふと口を噤む。
情報局と言えば、情報の管理は特に厳しいはず。そんな情報局で、本当にそんな話が流れていたのだろうか。そんな疑問が過ぎる。そして、もしかしたら…の疑惑が生まれる。
ラルに関して…直接嫌疑はかけなかった。だが、もしラルが"魔界防衛軍"の残党の可能性があるとしたら…裏切られる、の言葉が酷く胸に突き刺さる。
「…どうした?顔色悪いけど、大丈夫?」
心配そうなその青い眼差し。一番長い付き合いの仲魔が…自分を裏切るのだとしたら。それは、ルークにとって大ダメージに違いない。
「…ルーク?」
再び、ラルが声をかける。
「…あぁ、御免。ちょっと、色々あってね…心配事が絶えない訳よ」
溜め息を吐き出しつつ、そう言葉を返す。その言葉に、ラルはソファーへと腰を下ろす。
「そうだよな。ダミアン殿下、婚約したもんな」
「……それを今言う?」
正直…夕べ、ダミアンと一緒に甘い時間を過ごした事もあり、今はその事は頭の中にはなかった。だからこそ、苦笑が零れた。
そんなルークの姿に、ラルは小さく笑う。
「あぁ、そんな顔がまだ出来るなら大丈夫だな。昔から…閣下に惚れてた時期でさえ、あんたの活力はダミアン殿下だったもんね。今でもそれが出来てるなら、まぁ心配いらないかな?」
「…もしかして、それを心配してた?」
ラルがここへやって来た理由。まぁ、報告書の提出が主で、あと何の様子見かと思っていたのだが…まさか、ダミアンの婚約で気落ちしているのでは…と心配して様子を見に来たのではないか、との思いが過ぎったのだ。
「言ったよね?様子見に来た、って。何の様子見だと思ってたのさ。気付くのが遅いね~。ホント、自分の事になると、鈍いんだから…」
くすくすと笑うラル。そんな姿に…ルークも、笑いを零す。
ラルは、シロだ。それは、ルークの中で確定だった。
「有難うね。自分の事なんて後回しだったからさ、うっかりしてたよ。俺の事は大丈夫だから、心配しないで」
「なら良いけど。俺も頻繁に顔見に来られる訳じゃないから、気にはなっていたんだ」
昔から…べったりくっついているほど仲が良い訳ではなかったが、不思議と馬が合う。だからこそ、ルークが入局してから今まで、変な劣等感だの、嫉妬だのを持たずに仲魔としてやって来れたのだろう。
やはり…と、ルークは大きく息を吐き出す。
「どした?」
再び、問いかけられる。
その声に、にっこりと笑いを零した。
「さ、仕切り直しだ。前向きに行かなきゃね」
自らに、そう気合を入れ直す。
"特別警備隊"と"魔界防衛軍"に関しては、暫く様子を見るしかない。それが確実であるのなら、呑気に立ち止まっている暇はない。やらなければならない事は、沢山あるのだから。
「そっか。まぁ、頑張れ」
くすくすと笑うラル。多くを問わないその姿勢は、何よりも有難い。
ルークは、そんな仲魔の有り難味を実感していたのだった。
翌日の昼過ぎ。
再びルークの執務室を訪れて来たジュリアンの姿があった。
「…アリスの事ですが…」
そう切り出したジュリアンは、一枚の報告書をルークの机の上にと置いた。
「所属している部署の主任宛に辞職願が出されていたそうです」
その紙面に目を通すと、アリスの言っていた通り…そこには、"エリカ"の名で署名された、総務部の主任宛に出された辞職願だった。
「…御存知でしたよね?アリスの名前は…」
「まぁね。本魔から聞いたし。だから、あんたにも問いかけたんだけどね」
そう零すと、小さな溜め息を吐き出す。
「…そっか…辞職願、か…」
「はい。ですが…」
「…うん?」
怪訝そうな表情のジュリアンは、何か引っかかっているようだった。
「…日付が…可笑しくありませんか…?」
「日付?」
そう言われ、改めて紙面へと目を向ける。
そこに記されていた日付は…あの"腕"が見つかったその日。
「…アリスって…左利きじゃないよね?」
ルークは思わずそう問いかける。
「えぇ、右利きです。ペンも剣も右で握っておりました」
「…そう。じゃあ、この署名はアリスじゃない、って事だ。明け方少し前まで、アリスはウチにいた。その時は、局を辞めるだなんて話は一言も出て来なかったし、まだ探りたい事があるからって寧ろ辞める気はなかったはず。情報局に"腕"が落ちてるって連絡があったのは朝早い時間だったらしいから…恐らく、アリスはウチから帰る途中で誰かに会って、"腕"を切り落とされて行方不明になった。アリスが左利きじゃないのなら、時間的に考えてもこのサインはアリスのモノじゃない、って事だ…」
「…そう言う事になりますね…」
ジュリアンも、小さな吐息を吐き出す。
この様子から察するに…ジュリアンは本当に何も知らなかったのだろう。と言う事は、やはりアリスの件とは全くの無関係だったのだろう。
「サインと言えば…前に俺が巻き込まれた一件でも、サインの偽装があったんだよね。それはダミ様のサインだったけど…」
「…ダミアン殿下の…ですか?」
不意に、ジュリアンの気が変わった。
「そう。偽の任命書に、偽のサイン。俺も騙されたクチだから、それは見事な偽装だった訳だ。まぁ、辞職願自体はニセモノじゃないかも知れないけど…このサインはニセモノ、って事はさ…それを仕掛けた誰かがいるんじゃないか、って思うんだ。まぁ、あんたにする話じゃないかも知れないけどね」
ジュリアンには、ダミアンの隠密使としてその身を護ると言う任務がある。だがそれ以上に、ダミアンに忠誠を誓っていると言うのは間違いではない。だからこそ、ダミアンも巻き込まれた感のあるそんな話には、必然的に用心深くなっているようだった。
「確かに…ルーク参謀の仰る通りです。貴殿の事は、わたくしは無関係ですから。ただ…」
「ただ?」
「…十分、御気をつけください。貴殿に何かあっては…ダミアン殿下の身も、安全とは言い切れません。わたくしは、ダミアン殿下の為に、そう申し上げているだけですから…御間違いなく」
真剣な表情でそう答えたジュリアン。ルーク自体には何があっても気にするつもりはなくても、そこにダミアンが絡んでくれば話はまた別。まるでツンデレのようなその態度に、ルークは思わず笑いを零した。
「了解。まぁ、俺の事は気にしないで良いから」
くすくすと笑うルークに、ジュリアンは溜め息を一つ。
そっくりの容姿だが、決して交わらない。平行線のままの距離の保ち方は、アリスと同じだった。
「俺は、"魔界防衛軍"なんかに負けないからね」
そうつぶやいて、にっこりと笑ったルーク。
その強い思いに、ジュリアンも小さく笑いを零した。
「…では、失礼致します」
頭を下げ、踵を返したジュリアン。その背中がドアの向こうに消えるまで、ルークは真っ直ぐにその姿を見つめていた。
彼が敵なのか、敵ではないのか。その出方は、未だにわからない。
ただ、今は…信じる事しか出来なかった。
アリスの行方は、結局その後全く掴めなかった。
彼女は完全に、姿を消してしまった。
結局、"裏切る"のが誰なのかもわからないままだったが…恐らく、それはアリスの事だったのだろうと思う。そう考えると、いつかまた、出会えるその時には……彼女は、敵なのか、敵ではないのか。それは、ルークにもわからなかった。
そして、"魔界防衛軍"も、まるで消えてしまったかのように、何の動きも見せなくなった。
ただ、ジュリアンはそこにいる。それだけが、残された記憶のようで。
再び、静かな日常が戻る。
凪が、いつまで続くのか…それは、誰にもわからなかった。
ただ一名。"オズウェル"以外は。
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プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
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