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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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星彩 2

第四部"for CHILDREN" (略して第四部"C")

こちらは、以前のHPで2004年12月04日にUPしたものです。
第四部は徐々にオリキャラメインとなりますので、御注意ください。
興味のある方のみ、どうぞ。(^^;
4話完結 act.2

拍手[2回]


◇◆◇

 その翌日のこと。
 いつもならば昼前に皇太子宮にやって来るはずのエースが、その日は昼を過ぎてもやって来なかった。
 いつものように本を抱え、椅子に座っていたシリウスであったが、その日はどうも落ち着かない。本を椅子の上に置くと、窓辺へ行って外を覗いてみたり、また椅子へ戻って本を広げてみたり。本の内容など、少しも頭には入らなかった。
 ふとテーブルに視線を向けると、そこにはいつも通り、シリウスに与えられた課題が置いてある。だが、それも夕べのうちに終わらせてしまっていた為、エースが来ない以上、やることが何もないのだ。
 窓辺へ行くこと数回目の後、シリウスはふと、自分が座っている場所の対角線上にある椅子が目に入った。
 いつも、エースが座っているドアの横の椅子。主のいないその椅子の上に置かれた、一冊の本。それは、昨日エースが忘れていったもの。
 無理に、踏み込もうとはしなかった。ただ、ゆっくりと慣らすように、ほんの少しずつ接触を試みて行くエース。それが、エースがかつて"父親"として接して来た"子供たち"から得た手練手管だと言うことは、シリウスが知る由もない。
 シリウスがエースと知り合って、まだ数日しか経っていない。けれども、初めて出会った存在が、ほんの少しずつ、シリウスの中に染み込んでいたのは間違いない。
 小さな溜め息を吐き出し、シリウスはそっと手を伸ばした。そして、椅子の上に置かれている本の上に手を載せる。
 と、その途端、不意にドアがノックされた。
『シリウス様、情報局より、エース様の使いの者が参りました。緊急の職務が入ってしまった為、エース長官は暫くの間来られないとのことでございます』
「………」
 道理で昼を過ぎても来ないはずである。エースは、専任の教育係ではないのだ。こんなことがあっても仕方がない。
 大きな溜め息を吐き出したシリウス。だが、意を決したように、エースの本を手に取ると、自分の椅子へと戻る。そして、徐ろに本を開けた。
 それは、今まで自分が読んだことのない内容。帝王学とは全く関係はないが…面白味を感じた。
 暫くは、暇をつぶせそうだ。
 そう思いつつ、本へと視線を落としていた。

 それから数日間、エースは皇太子宮に姿を見せなかった。

◇◆◇

 エースが職務で王都を離れてから数日後、軍事局の総参謀長の執務室にその連絡が届いていた。
「…何だって?」
『だから、シリウス様に課題を届けてくれ、って言っているんだよ』
「…言葉の意味はわかってるよ。だけど、俺じゃなくたって良いじゃんよぉ…」
 そう言って眉根を寄せるのは、執務室の主。総参謀長のルーク、だった。
『頼めるなら、他の奴に頼んでいるさ。だが、デーモンはこのところ調子が悪いらしくて、屋敷で休んでいるんだ。ゼノンも研究室から出られないらしい。御前しかいないだろう?』
「…デーさん、具合悪いの?」
 思いがけない言葉に、ルークは目を丸くする。
『あぁ。何日か前に、健康診断の結果がどうのとかって、ゼノンに呼び出されていたんだ。その後、ちょっと体調が悪いって言ってな。ゼノンから、仕事を止められているらしい。俺も、どうしても遠征に出なければならなかったから、ゼノンに任せるしかないだろう?』
「…まぁ、状況はわかったけど…」
 未だ、眉根を寄せたままのルーク。その姿に、エースは小さな溜め息を一つ。
『別に、シリウス様に会って来いとは言ってないだろう?執事に渡して来てくれれば良いんだ。簡単だろう?』
「そりゃ…それで済むなら良いけど…でも、もし会っちゃったらどうするのさ…」
 当然、ルークの心境は穏やかではない。けれど、エースは更に言葉を続けた。
『心配するな。シリウス様は、滅多なことがない限り、部屋から出ることはない。じっと、本を読んでいるだけだ』
 そう言われても、本心は行きたくない。けれど、自分を心配してくれていたエースが頼まざるを得ない状況を、拒否することも気が引けるのだ。
「…わかったよ。執事さんに頼めば良いんでしょう?」
『あぁ。悪いが頼む』
----御免な。
 小さくそうつぶやいたエースの表情が、酷く苦痛に歪んだように見えたのは、気の所為だっただろうか。既にいつもの表情を取り戻していたエースは、軽く微笑んで回線を切った。
 残されたルークは、深い深い溜め息を吐き出していた。けれど、約束をしてしまった以上、ここでいつまでもぼんやりとしている訳には行かない。
 立ち上がったルークは、その足で情報局へと向かっていた。

 日も傾き始めた頃、皇太子宮を訪れたルークの姿があった。
 以前ここに来た時には、この屋敷の主は自分の恋悪魔であった。けれど今は、その恋悪魔の子息へと世代交代をしている。その奇妙な違和感を感じながらも、ルークは大きな息を吐き出した後、そのドアをノックする。そして顔を出した執事に、軽く頭を下げた。
「これはルーク様。御久し振りでございます」
 以前から見知っていたその顔は、久し振りの訪問ににっこりと微笑んだ。
「御無沙汰しておりました。御元気ですか?」
 問いかけた声に、執事は微笑む。
「はい、おかげさまで。ルーク様も御変わりございませんか?」
「えぇ、おかげさまで。忙しくさせていただいています」
 ルークもにっこりと微笑を返す。
「…エースから、連絡は入っていましたか?」
 エースは、ルークが課題を届けに行く旨を連絡して置くと言っていた。それを問いかけると、執事は軽く頷いた。
「はい。伺っております。ただ、どなたがいらっしゃるかと言うことは仰りませんでしたので、驚きました」
 エースらしいと言えばらしい連絡の仕方に、ルークは苦笑する。
「そうですか。エースから頼まれて殿下にこれを届けに参りました」
 そう言って、ルークは情報局の副官から預かって来た、数日分の課題が入った封筒を、執事に手渡した。
「御忙しいところ足を運んでいただいて、誠に申し訳ありません。どうぞ御入り下さいませ」
 中へと促す執事。けれどルークは、その身を僅かに後ろへと引いた。
「いえ、俺はこれで…」
 そう言いかけた声を、執事はやんわりとした言葉で遮った。
「旦那様がいらしておいでですよ」
「……旦那様…って……ダミ様…?」
 ここへ来るとは、聞いていなかった。だからこそ、ルークは息を飲んで目を丸くする。
「はい。時々若様の様子を気になされて、いらしております。本日もいらしておりますので、どうぞ」
 にっこりと笑って促されては、もう断る訳にも行かない。
 ルークは小さな溜め息を吐き出すと、促されるままに屋敷の中へと足を踏み入れたのだった。
 そして執事の後に続いて足を進め、リビングへとやって来る。そこには、見慣れた微笑みが待っていた。
「エースの遣いはルークだったか」
 そう言ってくすくすと笑う姿を、ルークは軽く睨む。
「俺ではいけませんか?」
「いや、大歓迎だよ。何日振りだったかな?」
「…一ヵ月振り、ぐらいです。何しろ忙しかったから…」
 ルークは元の主たるダミアンの前に腰を下ろしながらそう零す。
 通常の自分の職務に加えて、臨時とは言え士官学校の学長代理の大役を押し付けられたのだから、忙しくないはずはない。ゆっくり身体を休める時間も、こうして恋悪魔と向かい合う時間さえ確保出来なかったのだから。
「また…ここで会えるとは思わなかったね」
 ダミアンは、微笑んだまま、小さくそうつぶやいた。
 既に大魔王宮へと移っているダミアンは、エース不在のシリウスの様子を見に来ただけであって、ルークが来ることも知らなかった。勿論、ルークもダミアンがいるとは思っていなかったのだ。だからこそ、この時間帯に皇太子宮で出会ったのは偶然。
「やっぱり、運命だね」
 くすくすと笑うダミアン。その姿に、ルークは苦笑する。
「でも、もうここは殿下の所有でしょう?俺には、敷居が高過ぎます」
 出来ることなら、立ち入りたくはない。ルークのその思いは、ダミアンも良くわかっていた。
 魔界に於いて必要不可欠な"世継ぎ"としての皇太子。だが、ルークにとっては、いつになっても受け入れ難い存在であることに変わりはないのだ。
「エースに無理矢理押し付けられた役ですから。もう、ここに来る用件もないです。ここで会うのも…もう、最後ですね」
「…そうだね。それなら、ゆっくり楽しむかい?」
 思いがけない提案に、ルークはその頬を僅かに染める。
「…でも、シリウス様が…」
「シリウスは、部屋から出ては来ないよ」
 ダミアンから帰って来た答えは、エースと同じだった。
 それ程までに、周囲との関わりを拒否しているのだろうか?
 それが、この先の魔界にどんな影響を及ぼすかなど、今はわからない。ただ、僅かな不安はルークの胸の内にあった。
「…ルーク、おいで」
 名を呼ばれ、ハッとして顔を上げる。その呼びかけを拒否出来る程、ルークは理性を殺すことは出来なかった。
「…ちょっとだけ、ですよ」
「わかった、わかった」
 くすくすと笑い、手を伸ばすダミアン。小さな溜め息を吐き出したルークは、ソファーから立ち上がると、ダミアンの傍へと歩み寄る。
 そして、久方振りの甘い時間。
 ルークが皇太子宮を後にした頃には、すっかり日の暮れた空には、青白い月が浮かんでいた。
 皇太子宮の玄関を出て、門へと向かう途中。ルークは、ふと後ろを振り返った。
 誰かに、見られているような感覚。もしかしたら、それはこの屋敷の主かも知れない。
 そんな思いで、自分の背後を注意深く探る。けれど、何処にもその姿はなく、気配も感じない。
「…気の所為、かな…」
 ダミアンとの甘い一時のおかげで、勘が鈍ったのかも知れない。
 そんなことを思いながら、ルークはぽりぽりと頭を掻く。そして踵を返すと、真っ直ぐに門へ向かって歩き始めた。
 その背中を、薄く開いたカーテンの隙間から、一筋の眼差しが覗いていたことに気が付かなかったのは…ルークの失態だったのかも知れない。
 けれど今は、その眼差しの意味は誰にも読み取れなかった。

◇◆◇

 エースが職務で王都を離れてから二週間程が経った頃。その伝達は唐突だった。
 それは、大事な恋悪魔に関すること。そのことで医師であるゼノンに王都へと呼び戻されたエースは、その日の夜も遅くなった頃、大魔王の執務室を訪れていた。
 そして、その翌日。エースは久し振りに皇太子宮へと足を向けたのであった。

 久し振りに訪れたエースの姿に、シリウスは読んでいた本をそっと背中へと隠した。けれどエースはその姿をさして気にも留めず、済まなそうな表情を浮かべていた。
「…長く休んでしまって申し訳ありません。実は…シリウス様に、御話しなければならないことがありまして…」
 そう切り出したエースに、シリウスは相変わらずの無表情のまま、じっとエースを見つめていた。
「…急な話なのですが…本日付で、シリウス様の教育係を退任させていただくことになりました。わたしの一身上の都合で申し訳ありませんが…ダミアン様の許可は得ております。代わりの教育係は、明日からこちらに来る予定ですので…」
 シリウスは、その言葉を黙って聞いていた。けれど、その真っ直ぐに結ばれた口元は、心なしか何かを言わんとしているように見えて。
「…勝手を言って、本当に申し訳ありません…」
 エースは、深く頭を下げる。それでも、シリウスの表情は変わらない。
 だが、しかし。
「…辛いことがあったの…?」
 そう問いかけられ、エースはドキッとして思わず顔を上げる。そして、行き合った眼差しは、真っ直ぐに自分を見つめる、透明な蒼。
「…シリウス様…?」
 思いがけず問いかけられた声。それは、たった一度だけ聞いたシリウスの声に違いなかった。
「…どうして…そう、思われるのですか…?」
 問いかけたエースの声は、僅かに緊張していた。
 表情に出したつもりはなかった。だから、シリウスが口を開いた理由もわからなかったのだ。
 けれど、シリウスはその問いかけには答えない。ただ、真っ直ぐにエースを見つめていた。
 その真っ直ぐな眼差しに、エースは目を伏せ、小さな吐息を吐き出す。
 問いかけられて当たり前だった。彼は…シリウスは、あのダミアンの血を分けた皇太子なのだ。真っ直ぐな眼差しに見透かされていることなど、最初からわかっていたはずだった。
「…そうですね。今は…辛くないと言えば嘘になります。でも…わたしが諦める訳にはいかないのです。ですから…わたしに、時間を下さい」
 小さくつぶやいた声に、小さな吐息が返って来る。そして。
「…ちょっと、待ってて」
 そう零すと、テーブルの上に置かれた封筒から一枚の紙を取り出す。それは、エースが用意して渡していた、課題の用紙。それを裏返すと、徐ろに何かを書き始めた。
 その姿を唖然として見つめていたエースであったが…その真剣な眼差しと姿に、胸を過ぎったのは…罪悪感。
 自分が選択肢にかけたもの。勿論、それは正当な理由がある。けれど…今の職務を離れることを選んだことが…果たして良いことなのかどうか。
 漸く、その心のドアを少しだけ開け始めてくれたシリウス。恐らく、今のままでは…彼はまた、心を閉ざしてしまうだろう。それがわかっていながら、ここを離れることを選んだ自分を…エース自身が、許せなかったのかも知れない。
 そんなことを考えている間に、シリウスはその目的のモノを書き終える。そして封筒に入れ、先ほど咄嗟に隠してしまった本と一緒に、エースへと差し出した。
「…これ…」
「あぁ……はい」
 本のことは、すっかり忘れていた。けれど今はそんなことよりも、シリウスが何を書いたのかが気になる。
「…先ほど書いていたものを…読んでも良いですか…?」
「…ここで?」
「…はい。質問があれば裏に記入して欲しいと御願いしましたね。そこに何か書いていただけたのなら…今答えられることは、御伝えしていきますので…」
「…そう。別に良いけど…」
 ほんの少し、その頬に赤みが差す。恐らく、照れているのかも知れない。
 そう思いつつ、エースは受け取った封筒から、シリウスが書いて戻した用紙を再び取り出す。そして、その裏に視線を向けた。
 そこに書かれていたのは…今までありがとう、の言葉。そして…自分が入局するまで、そこで待っていて欲しい、と。
 短いが…シリウスの想いが目一杯詰まった文面に…不覚にも、涙が零れた。
 短い時間ではあったが、エースはシリウスに信頼されるまでになっていたのだと。
 指先で涙を拭うと、じっと見つめたままのシリウスの前に跪く。そして、その視線を合わせる。
「…殿下。今生の別れではありませんから…また、わたしの心が落ち着いたら、会いに参ります。教育係に戻ることは…多分出来ないかと思いますが…今度は、一緒に御茶でも飲みましょう」
「…エース…」
 にっこりと笑うエースに、シリウスの表情が僅かに歪んだ。
 そして、まだ小さな身体で、目一杯その腕を広げると、そっとエースの身体へと回した。
「…負けないで…頑張って。また来てくれるのを、待ってるから…」
 その温もり。それは、これから先の未来へ、立ち向かう為の勇気のようで。
「…有難う…ございます…」
 大きな勇気を貰ったエースは、深く頭を下げると踵を返して屋敷を出て行った。
 窓からその姿を見つめていたシリウスは…固くその唇を結んだまま、じっとその背中を見送っていた。
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