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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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星彩 4

第四部"for CHILDREN" (略して第四部"C")

こちらは、以前のHPで2005年01月16日にUPしたものです。
第四部は徐々にオリキャラメインとなりますので、御注意ください。
興味のある方のみ、どうぞ。(^^;
4話完結 act.4

拍手[2回]


◇◆◇

 翌日、ルークは一旦士官学校へとやって来ていた。
 目的はただ一つ。"彼"に、会う為に。

 まだ、授業が始まる時間には早かった。けれど、その姿は既に学舎内にあった。
 その理由は、学長代理に呼ばれたから。

 学長の執務室。ルークは、そこにいた。
 書類の整理をしながら、のんびりとコーヒーを淹れる。そうしている間にドアがノックされ、もう聞き慣れた声が届く。
『おはようございます。ゼフィーですが…』
「どうぞ」
 声に促され、ドアがそっと開く。そしてそこから顔を出したのは、仲魔たちの愛すべき子供。そして、ルークが守り刀としての役割を引き受けた"彼"。
「御話があると伺いましたが…」
 学長室に呼び出されることは滅多にない。だからこそ、彼は緊張した表情であった。
「うん。君に話しておいた方が良いと思ってね」
 にっこりと微笑んだルークは、彼をソファーへと促した。
「どう?学校は慣れた?」
 自分の分のコーヒーをカップに注ぎながら、そう問いかける。
「はい。礫やアルも色々教えてくれて…それに先生方も、親切にしてくれるので…」
 その声は、まだ緊張の色を隠せない。そんな初心な姿に、ルークはくすくすと笑いを零した。
「そう。良かったね。君は、良い友達と、良い先生に恵まれたね」
 そう言って、手を伸ばして彼の髪をくしゃっと掻き混ぜる。
「あの…御話と言うのは…」
 流石に、彼も奇妙だと思い始めたのだろう。朝早く学長室に呼び出され、こんな世間話をしているのも可笑しな話なのだから。
「あぁ、そのことね」
 思い出したように言葉を零し、ルークはコーヒーを一口啜った。
 そして、ゆっくりと口を開く。
「俺ね、学長代理を退くことになったから」
「…え…?」
 思いがけない言葉に、彼はきょとんとする。
「学長が戻って来るからね。だから、俺も御役御免って訳。君もだいぶ慣れたみたいだし、心配いらないでしょう?」
「あの…でも……」
 困惑した表情の彼に、ルークは微笑んでみせる。
「大丈夫だよ。君は、今まで通りの生活を送れば良い。学長が戻って来たところで、君の生活は何も変わらないから。時々は顔を見に来るから」
「ルーク様…」
 心細い、と言う表情を浮かべた彼。やっと、事の重大さに気が付いたのだ。
 自分は…独りぼっちになる。その事実は、彼の心の不安を荒立てた。
 けれどそれを察したルークは、にっこりと微笑んで見せた。
 そして。
「君は強いよ。たった一悪魔で、頑張っているもの。だから、大丈夫。俺にも…その勇気を、頂戴」
「…?」
 首を傾げた彼。そんな彼ににっこりと微笑んだルークは、歩み寄って床に膝を着いて目線を合わせると、腕を伸ばして彼をそっと抱き締めた。
 すっぽりと腕の中に納まってしまうくらい、小さな身体。その身体で、彼は懸命に生きているのだ。自分の運命に、立ち向かっているのだ。
 それが、何よりの勇気になる。
「…有難う」
 彼の耳元で囁かれた言葉。当然、彼にはその意味はわからない。けれどルークにとっては、その生命の温もりを感じることが、何よりも心強かったのだ。
 これから、自分が立ち向かうべき現実。そこには、彼と同じように、小さな生命がある。
 元を正せば、自分が相手の運命を振り回す原因なら…今度は、逃げずに受け入れてみよう。
 それが、ルークが出した結論だった。
「さて、そろそろ授業の時間になるね」
 ゆっくりと彼の身体を離し、再び微笑んだルーク。
「頑張ろうね」
 そう声をかけられ、一瞬彼は泣きそうな顔をした。けれど、ルークの意を汲んで…懸命に、微笑んで見せてくれた。
 それは、癒しを与える至上の微笑み。
「…さて、俺も頑張るか…」
 彼が出て行った後、ルークは大きく息を吐き出す。そして、簡単に書類をまとめ、コーヒーを飲み干すと、学長の執務室を後にした。

◇◆◇

 皇太子宮の、ドアの前。
 ルークは、そこまでやって来ていた。けれど、そのドアを叩く勇気がまだ見つけられない。
 大きく息を吐き出す。そして、右手の指先でそっと左手の薬指に触れる。
 そこに填まった指輪。勿論、昔ダミアンから貰ったもの。
 思うところは沢山ある。けれど、現実と向かい合う覚悟を決めたのだ。だからこそ、踏み出さなければ。
 再び大きく息を吐き出すと、ルークはゆっくりと顔を上げる。そして、目の前のドアをノックした。
 中から出て来た執事にシリウスとの面会を求め、屋敷に入ることを許可されると、ルークは真っ直ぐにシリウスがいる部屋へと足を向ける。
 そして、そのドアの前で一旦足を止めると、再び左手の指輪に触れる。
----さて…踏み出してみるか。
 意を決し、ドアをノックする。当然、中からの返答はない。けれどルークは大きく息を吐き出すと、そのドアをゆっくりと開けた。
 カーテンが引かれ、薄暗い部屋の中。部屋の隅の椅子の上で膝を抱える子供。
「…シリウス様…」
 声をかけても、それに答える声はない。ただ、真っ直ぐな眼差しが自分を見つめているのはわかった。
 遠くからでもわかる、ダミアンと同じ、透明な蒼い眼差し。それは…ルークの心を、奮い立たせた。
「…軍事局総参謀長のルークと申します。御挨拶に参りました」
 覚悟を決め、ルークはそう言うと深く頭を下げる。
 その途端、ルークを見つめていた眼差しはふっと横を向く。そんな姿では、受け入れられたのか拒否されたのかはわからない。
 暫く黙って、様子を伺う。エースの話だと…声を聞くまで、何日かかるかわからないとのことだったが…と思っていると、ルークの予想を反し、シリウスが口を開いた。
「……帰れ」
 やっとで聞き取れる程の小さな声だったが、その言葉に思わず愕然とする。
 名を名乗り、頭を下げただけ。それだけだが、ルークもシリウスに拒否されたのだ。
 けれど、そこで屈しては何にもならない。そう思い、ルークはぐっと息を飲むと、口を開いた。
「…帰りません。こちらへ来た理由も聞かずに追い返すのは、不当ではありませんか?少なくとも、社会に出て同じことをすれば、反感を買うことは必須です。なので…わたしは、帰りません。どうしても帰したいのなら…力尽くで、追い出して御覧なさい」
 その言葉に、シリウスが纏う気が変わったことは言うまでもない。避けられていた眼差しは再びルークに向かい、見据える瞳は殺気さえ感じられた。
 殺されるかも知れない。一瞬、ルークの脳裏にそんな意識が過ぎった。それだけ、シリウスが持っている能力は大きかったのだ。
「いかが致します…?」
 ゆっくり、そう言葉を紡ぐ。その傍ら、いつでも結界を張れるように準備も怠らない。
 だがその瞬間。ルークの目の前に一瞬にして光が弾け、ルークの身体は壁へと飛ばされる。
「……ぁっ!」
 不覚にも…ルークは、その衝撃をまともに喰らい、そのまま意識を失っていた。


 どのくらい経ったのだろうか。
 ルークが目を開けたところは、皇太子宮の客間。ソファーに横たえられ、その傍らには執事が心配そうな顔でルークの顔を覗き込んでいた。
「御気分はいかがですか?」
 ルークが目覚めたことに安堵の色を見せた執事は、ゆっくりとそう問いかける。
「あぁ…大丈夫…」
 ゆっくりと身体を起こす。多少眩暈がするものの、外傷はないようだった。
「若様の威嚇攻撃にやられたようでございますね。幾名かの方も同じように威嚇され、尻尾を巻いて逃げ帰ったのでございますよ」
 困ったようにそう零す執事。いつでも結界を張る準備をしていたにも関わらず、他の教育係と同じように威嚇攻撃で気を失うとは、何とも情けない。そんな溜め息を吐き出したルーク。
 だがしかし。
 先程感じたシリウスの気は、殺気にも似た気配だった。けれど、相手を傷付けるつもりではなかったことは良くわかった。
 ただ、自分に干渉されたくなかったのだ。
「…成程ね…エースの言う通り、だ」
 ぽりぽりと頭を掻きながら零した言葉に、執事は苦笑する。
「時間はたっぷりございます。エース長官も、ゆっくりと時間をかけておられました。ルーク様も焦らずに…」
 その言葉に、溜め息が零れた。
 執事の言う通り。エースとて、シリウスの心を開くまでには時間がかかったのだ。自分がすんなりと踏み込めるはずもない。
「まぁ…リトライしてみるよ。また明日も来るから」
「御待ちしております」
 にっこりと微笑む執事。この執事もまた、ルークなら大丈夫と踏んだのだろう。
 ルークは、溜め息を吐き出しつつ、帰るしかなかった。

 その足で、大魔王の執務室へと立ち寄ったルーク。
 ダミアンを前に、先ほどの失態を報告した訳だが…その話を聞きながら、ダミアンは小さな吐息を一つ吐き出す。
「…それで?御前はどうするつもりだい?」
 これから先のことを、正式にどうしたいのか。ルークから、その話は聞いていない。ただ、シリウスに会って来る、と言っていただけ。だからこそ、会ってみた感想を聞いた訳だが…何処か楽しそうな色が、ルークのその眼差しの奥に見えていた。
「どうするって…まぁ、取り敢えず教育係を目指してみます」
「…本気か?」
「本気です。だって、元々軍事局の参謀長がその役割だったんですから。一旦は放棄しましたけど…踏み込んでみて、シリウス様のことをもっと知りたいと思ったんです」
「…そう、か…」
 魔界の今後を担う皇太子の教育係。取り敢えずで目指すものではないはずだが…ルークの思考は、そんな難しいことを考えているようには思えなかった。
 あのシリウスの心を開いてみたい。ただ、その思いだけ。
「駄目…ですか?」
 一応…そう、問いかけてみる。だが、その意図をきちんと踏まえたであろうダミアンは、くすっと笑いを零した。
「駄目だ、と言っても引かないだろう?まぁ、やって御覧。シリウスに負けないようにね」
「負けませんよ。だって……ダミ様と同じ顔で笑うところが、見たいですから」
 にっこりと笑うルーク。既にそこまで目指しているルークの姿に、迷いはみえない。
「流石だね、御前は」
 がっちりと填まれば、何処までも前向きなルーク。シリウスもその興味に填まったのなら…きっと、良い結果が得られるだろう。
 ただ黙って見守るに徹することにしたダミアン。
 ルークの意気込みが空回りしないように。それだけが小さな心配だったが…未来に絶望していないだけ、安心して見守っていられるようだった。

◇◆◇

 翌日、ルークはまた皇太子宮へとやって来ていた。けれど、シリウスがいる部屋のドアの鍵はかけられ、中に入ることは出来ない。
「…ま、仕方ないか。今日はここに陣取るか…」
 ぽりぽりと頭を掻くルーク。けれども、その表情に焦りはない。
 すんなりと通らないであろうことは想定内。だから、局の方には暫くこちらにかかりきりになると前以て伝えてある。緊急の場合を除き、極力連絡を入れて来ないように根回しもして来てある。じっくりと時間をかけていくつもりで来ているのだから、焦る必要もない。
 壁に凭れ、どっかりと腰を下ろすと、持参して来た書類に目を通し始める。
 床に直接座っているので少し腰は痛いが、こんなにのんびりとした時間も悪くない。
 そんなことを思いながら、ルークは日がな一日、廊下の片隅で過ごしていた。

 ルークが皇太子宮の廊下で自分の執務を熟す日が半月程続いたある日のこと。
 その日もいつもと同じように廊下に座り込んで書類に目を通していると、突然…それも勢い良く、ドアが開かれた。
「……あ…れ?」
 予想もしていなかった出来事に、ルークは思わず顔を上げる。
 そこには、ルークを真っ直ぐに見据えているシリウスの姿。
「…シリウス様…」
 シリウスの纏っている気は尋常ではない。流石のルークも、思わず息を飲んだ。
「…うっとおしい。帰れ」
 シリウスの口から零れた言葉。その言葉に、ルークは大きく息を吐き出すと、すっと立ち上がった。
「帰りません」
 その瞬間、シリウスの気が爆発する。
「…っ!」
 弾き飛ばされたルークは、咄嗟に呪文を口にする。その途端、ルークの身体は結界の光に包まれ、爆風から隔離される。
 辺りの爆風が収まると、その向こうにまだルークを睨み付けるシリウスの姿があった。
「…この間は不意打ちでしたが、今度は貴方の手の内はわかっていますからね。身を防ぐくらい訳はないですよ」
 結界を解いたルークは、未だ気を荒げるシリウスに向け、小さく笑ってみせた。
「…出て行けよ!」
 その姿にカッとなったシリウスは、声を上げる。けれど、ルークは尚も微笑んでいた。
「出て行きません。何なら…勝負、しますか?わたしが負けたら、即刻退散します。けれど、もしもわたしが勝ったら…わたしの話を、聞いていただけますね?」
 途端に、シリウスの目の色が変わった。獲物を見据えるような色を見せるその眼差しに、ルークは確証を得ていた。
 シリウスは、自分と勝負するつもりだ、と。
「…外に、出ましょうか。ここでは屋敷を壊しかねません。みすみす自分の住む場所を失うつもりはないでしょう?」
 そう声をかけると、シリウスの眼差しは更に強くなる。
「随分な自信だな。御前なんか一撃で倒してやるのに」
「エースのように百戦錬磨…とまでは行きませんが、戦地で揉まれて来ましたからね。ちょっとやそっとでは倒せませんよ」
 にやりと笑うルーク。そして次の瞬間、シリウスは徐ろに廊下の窓を開けると、そこから外へと飛び出した。
「…やれやれ。礼儀も何もあったもんじゃない…」
 そう零しながらも、次第に体内の魔力を高め始める。そしてそれをシリウスに気取られないよう十分抑えながら、シリウスの後を追ってルークも窓から外へと出る。すると、庭の真ん中で待ち構えていたシリウスが口を開いた。
「勝負、だ」
「承知しました」
 ルークがそう答えると同時に、大きな魔弾がルーク目掛けて飛んで来る。それを無難にかわしながら、軽く反撃してみる。すると、シリウスはそれを完全には避け切れず、幾らかの衝撃を受けているようだった。
 全て、ルークの予測通り、だった。
 皇太子と言うだけあって、シリウスの魔力は、恐らくダミアンが同じくらいの年齢だった頃を上廻るかと思われる程強いだろう。そして意外だったが、血気盛んな色も見られる。けれど、それは天性の強さだけであって、所詮は闘い方も知らない子供なのだ。戦い慣れしたルークに適うはずはない。
 幾度か同じような交戦を繰り返すうち、流石にシリウスの魔力も弱まって来た。
「…そろそろ、かな?」
 シリウスは息が上がり、苦しそうな表情に変わって来ている。それを見極めたルークは、掌に魔力を集めると、シリウスの攻撃をかわして背後に回りこむ。そして、その背中に向け、小さな魔弾を打ち込んだ。
「…っ!!…」
 衝撃を与えた程度の魔弾だったが、シリウスはそのまま気を失って地に倒れ込む。
「…やれやれ」
 小さな吐息を吐き出しつつ、ルークは動かなくなったシリウスを抱き上げると、屋敷へ戻る為に踵を返した。
 すると、その視線の先にいたのは。
「…全く、無茶をするね、御前は」
 くすくすと笑いながら、傍観していた姿。
「…ダミ様…どうしてここに?」
 バツが悪い。ルークの表情はまさにそんな表情だった。
「バルドから連絡があってね。今日は派手に運動しているようだと言うから、様子を見に来たと言う訳だよ」
「運動、って…流石バルドさん…」
 ルークの手からシリウスを受け取り、抱えながら笑うダミアン。
 長年ダミアンの世話をして来て、今も尚頑固な皇太子の世話をしている。ある意味無敵とも言える執事、バルド。彼からの連絡を流石だと感心しながらも…くすくすと笑いながら、ダミアンはシリウスを抱えて屋敷へと戻って行くその背中を見つめながら、ルークは僅かな胸の痛みを覚えていた。
 この胸の痛みは、嫉妬だろうか。
 そんなことをぼんやりと考えている間に、ダミアンは屋敷の中に消していた。
 ルークは、慌ててその姿を追いかける。
 進み始めた道の先に…果たして、何があるのか。それはまだわからなかった。

 シリウスをベッドに寝かしつけるダミアンを眺めながら、ルークは小さな溜め息を吐き出していた。
 ダミアンはそんなルークの姿を振り返り、くすっと笑う。
「いつまで、そんな顔をしているつもりだい?」
「……そんな変な顔、してますか…」
「してる、してる」
 そう言いながら、ルークの髪をくしゃっと掻き混ぜる。そしてそのまま頭を引き寄せると、自分の胸へと引き寄せた。
「ちょっ…ダミ様…っ」
「しっ。シリウスが目を覚ますよ」
「………」
 ダミアンに言われるままに口を噤んだルーク。ダミアンは未だルークの頭を胸に抱いたまま、その髪にそっと口付けた。
「…御前は、笑っていないとね。御前がそんな顔をしていると、みんな不安になるだろう?」
「…ダミ様…」
 ダミアンはルークの頭を離し、その顔をそっと覗き込む。
「シリウスの教育係として、やっていけそうかい…?」
 そう問いかけられ…ほんの少しだけ、考える。
 そして。
「…エースのように、上手く相手が出来るかはわかりません。でも…俺はやっぱり、ダミ様とそっくりであろう、シリウス様の笑顔を見てみたい。そんな邪な目的で踏み出しましたが…シリウス様が受け入れてくださるのなら、頑張ってみようかと…」
「…そうか。やっぱり御前は凄いね」
 くすくすと笑うダミアン。
「邪だろうが何だろうが、そこに踏み込もうと思った御前は流石だと思うよ。わたしは、御前を信じているから。無理だと思ったら、我慢せずに言ってくれないと困るよ?御前がシリウスの笑顔を見たいと頑張る気持ちはわかるが…」
----わたしにも、御前の笑顔を見せてくれないとね?
 ルークの耳元でそう囁くダミアンに、ルークは少しだけ赤くなる。
「…俺は、ダミ様に抱き上げられるシリウス様に嫉妬しましたけど…?」
「相変わらず、可愛いことを言うね、御前は」
 ルークが思わず零した言葉に、ダミアンは相変わらず笑っている。けれど、それが…愛しい恋悪魔の本当の顔。この国の大魔王であり…皇太子の父であり…一番、愛おしい恋悪魔。
「何の心配いらないよ」
 にっこりと微笑むダミアンが、ルークにはとても心強く思えた。
 何よりも必要として来た絆。そして、新たな関係作りも今始まるのだ。
「わたしはシリウスが目覚めるまで傍にいるつもりだが…御前はどうする?」
 再びシリウスの方へと視線を向けたダミアン。
「俺も、傍に…」
 そう言いかけて、ふとあることを思い出したルーク。
「あ…ちょっと出かけて来ます。直ぐに戻りますから…っ」
「…ルーク?」
 振り返ったダミアンの顔もロクに見ないまま、ルークは踵を返して駆け出していた。
 それは、自分の屋敷へ。
 その背中を見送ったダミアンは、くすっと小さな笑いを零していた。

 ルークが大慌てで屋敷に戻り、"あるモノ"を手に皇太子宮へと戻って来た時には、既にシリウスは目覚めていた。
 ベッドに上体を起こし、大人しくしている。勿論、外傷もなければ、引き摺るような痛みもない。ルークから受けた攻撃は、完全に刀背(みね)打ちであることを理解しているようである。
 ダミアンは壁際に座り、ルークとシリウスの様子を黙って伺うことに決めたらしい。ほんのりと綻んでいる唇が、状況を面白がっているようにも見えた。
「…御気分はいかがですか?」
 極めて不機嫌そうな表情のシリウスに、ルークは様子を伺うように問いかけてみる。けれど、ぷいと横を向かれ、答えなど返っては来なかった。つまり、まだシリウスはルークを受け入れてはいないのだ。
 だがしかし。約束は約束。ルークも、引くつもりはなかった。
「…勝負の結果、わたしが勝ちましたからね。シリウス様の教育係として、認めていただきます」
「…そんな話、聞いてない」
「そうでしょうね。最初から御話しを聞いていただけませんでしたから」
「……わかったよ…」
 ポツリとつぶやいた声。だが、それはこれ以上刃向かうつもりがないと言う証拠でもある。素直と言えば素直なのだが…まだその声には、硬さが残っている。
 けれど、その言葉にルークはにっこりと微笑む。そして、屋敷から持って来た"それ"を、そっとシリウスの膝の上に置く。
「これを、差し上げます」
 一見すると、ただの小さな木箱のように見える。けれど、ルークにとっても…そして、ダミアンにとっても、思い出深いモノ。
「開けて御覧」
 "それ"に気が付いたダミアンが、シリウスにそう声をかける。シリウスは暫くの間、怪訝そうにその箱を眺めていた。そしてゆっくりと、その蓋を開ける。
 柔らかいメロディーが零れる。それはとても優しく、温かい。
「…これは…?」
 その存在そのものを知らないのだろう。不思議そうに首を傾げるシリウスは、まさに子供、だった。
「オルゴール、と言うんですよ。貴方様が生まれる前に…わたしが、ダミアン様から頂いたものです」
「…父上から…?」
 シリウスは、怪訝そうにダミアンへと視線を向ける。ダミアンはにっこりと微笑んだまま、何も言わない。
「えぇ。ダミアン様も、幼い頃教育係から頂いたのだそうです」
 代わりにルークがそう返すと、更に怪訝そうに眉を寄せるシリウス。
「それをどうして貴方が?」
「…ダミアン様の教育係は…当時の軍事局参謀長であった、わたしの父、でした。尤も…わたしは一度しか、会ったことはありませんでしたが」
「………」
 その意味深な言葉の意味を、シリウスは問いかけることが出来なかった。
 それは…一瞬見せたルークの眼差しが、とても寂しそうに見えたから。
「…貰っても良いの…?」
 視線を小箱に落としたシリウスの声に、ルークはにっこりと微笑む。
「勿論。そのつもりで持って来たのですから。貴方様が、寂しくないように」
「……有難う…」
 小さな言葉。けれど、ルークにはそれで十分だった。
 無理をせず、ゆっくりと進めば良い。
 その意味を、ルークはしっかりと噛み締めていた。
 それは、シリウスに対しても…自分の感情に対しても。
「…わたしの生命をかけて…精一杯、貴方様を御護りします。ですから…教育係として認めていただけるよう、宜しく御願い致します」
 ゆっくりと、シリウスに頭を下げるルーク。
「…うん」
 小さく返って来た答えに、ルークは顔を上げる。
 シリウスの表情は、幾分和らいでいた。
 本当は…まだ、甘えたい年頃。今まで満たされなかったその想いが報われるように。
 ほんの少し、歩み寄れた。それが、第一歩。そして、何よりも嬉しい。
 ルークが見せた表情。そこには、満面の笑みがあった。
 それを見つめているダミアンの表情にも、微笑が零れていた。

 一つ、山を越えた。
 そしてまた一歩、"彼ら"は歩き出したのだった。
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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