聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
[PR]
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
ひかりのかけら 2
第四部"for EXTRA" (略して第四部"E")
こちらは、以前のHPで2005年05月29日にUPしたものです。第四部は徐々にオリキャラメインとなりますので、御注意ください。
興味のある方のみ、どうぞ。(^^;
4話完結 act.2
ガブリエルがグレインと共に森へ行ってから、グレインは上機嫌で毎日ガブリエルの元を訪れていた。そしてガブリエルもまた、王都にいた頃よりは、だいぶ気持ちも楽になって来ていた。
自分がここへ来たのは、間違いではなった。ほんの少し、そう思えるようになって来たのだ。
だがしかし。そんな幸福感も、長くは続かなかった。
その日、ガブリエルが書斎で残務整理をしていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「はい?」
『あの…御客様がいらしておりますが…』
いつになく、緊張した使用人の声に、ガブリエルは僅かに眉根を寄せる。
この場所に、誰かが訪ねて来る事は有り得ないと思っていた。だから、それは歓迎する相手ではないのだろう。
「…誰?」
問い返すと、暫しの沈黙。そして、返って来た声は、使用人の声ではなかった。
『わたしです、よ』
「……ラファエル…?」
ガブリエルは思わずドアへと駆け寄り、その扉を開ける。そこには、自分を真っ直ぐに見つめて立っているかつての仲間と、その背後に困ったように立ち尽くす使用人の姿があった。
「…どうして、ここを…」
「本気になれば、何とかなるものです」
小さくそう零して見つめる仲間を追い返すことも出来ず。ガブリエルは、溜め息を一つ吐き出すと、困惑の表情を浮かべたままの使用人に声をかける。
「…わかったわ。少しだけよ」
使用人は頭を下げると、複雑な表情のまま踵を返す。
「…どうぞ」
ガブリエルはラファエルを促して書斎のドアを閉める。
「まさか…ミカエルよりも先に、貴方に見つかるとは思っていなかったわ。こんなところまで来て…一体何の用?」
王都では、ミカエルとガブリエルに押されて余り目立つ存在ではなかったものの、曲がりなりにもミカエルの片腕と言われるラファエルなのだから、その実力はそれなりもの。本気になりさえすれば、ガブリエルの所在を探すことも容易だったのだろう。
「…元気そうで安心しました」
安堵の言葉を吐き出したラファエルに、ガブリエルも小さく溜め息を吐き出す。
「…ミカエルは、私がここにいることを、知っているの…?」
目を伏せて問いかけた声に、ラファエルは首を横に振る。
「知られたくはないと思って、話してはいません。ただ、貴女がいなくなったことは相当応えています。ミカエルも…王都にとっても」
いつしか、ラファエルの表情は神妙に変わっていた。
「御免なさい。貴方にも…大変な思いをさせてしまっているようね」
心なしか、少し細くなったような気がするラファエルの姿を見つめ、ガブリエルは小さな溜め息を吐き出す。
「いえ。わたしは大丈夫です。それよりも…わたしと一緒に、王都へ戻っていただけませんか…?」
そう切り出したラファエル。そのヴァイオレッドの眼差しは、ガブリエルの瞳を捕らえて離さなかった。
「…ラファエル…」
「ミカエルも…貴女が帰って来ることを望んでいます。彼は、彼なりに貴女のことを、今でも愛しているんです。貴女が、ミカエルを許せなかった気持ちはわかります。けれど…それは、わたしの責任でもあるんです。わたしに出来る償いなら、何でもします。ですから…」
「止めて」
ラファエルの言葉を遮り、ガブリエルは大きく息を吐き出した。
「違うわ、ラファエル。私は、貴方にそんなことを望んだことなど一度もないわ。貴方とミカエルとでは、立場が違うでしょう?あの人は…曲がりなりにも、この国の総帥よ?そんなあの人が……堕天使だなんて…」
「…ガブリエル……」
その言葉に、ラファエルは思わず息を飲んだ。
あってはならない現実。誰よりも清廉潔白であるはずの総帥が、本当は堕ちているのだと言う現実が…ガブリエルには、何よりも許せなかった。
「…知っているわ。貴方たちが隠していること全部。貴方とあの方…レイのことも、ミカエルとあの方の事も。全部わかっているの。だから…許せなかったのよ。私は、純粋にミカエルを愛して結婚したの。でもミカエルは私に偽りを誓ったのよ。私だけじゃない、何も知らずに生まれて来た子供に対しても…それは、許されることだと?」
固く手を握り締め、そうつぶやくガブリエルの声は震えている。
それは、遠い昔の記憶。
ガブリエルが…その事実に気が付いたのは、彼女が産んだ子供の姿を見たその時。
目の色と翼の色が、左右違っていた。子供が半分纏っていたのは…"魔"の色。その時を境に…ガブリエルは、全ての過去を調べた。そして、疑惑の数日を見つけた。
それは、ルシフェルが怪我を負って天界へと戻って来た…あの、三週間。
それが全ての元凶だったのだと。
「私は…あの子を抱いてあげることも出来なかった。一度でも…母と呼ばせることも出来なかった…あの子を産んだのは、私の罪。それは認めるわ。でも…全てを狂わせたのは、他の誰でもない。ミカエルなのよ?それを…どうやって許せと言うの…?」
思わず零れた涙。ガブリエルが泣く姿を、彼は初めて目の当たりにした。
昔、ガブリエルは自分が産んだ子供を、一度も抱くことなく…そして、顔を合わせることもなかった。やがて、子供は天界から捨てられ、魔界の…情報局長官に保護され、彼の養い子として育ったと聞いた。
その子供が、堕天使だったばっかりに。
「…子供を想わない親が何処にいると言うの…?私がどれだけ苦しかったか、あの人は少しもわかってくれなかった。あの人は、天界を守ることで頭が一杯だったのよ。そして…伴侶としての私よりも、片腕としての貴方を必要としていたのよ。貴方を失うことを何よりも恐れていた。私の事は二の次、三の次…眼中にもなかったはずよ」
「…ガブリエル…」
その言葉を、ラファエルは否定することが出来なかった。
確かに、ガブリエルの伴侶…ミカエルは、ラファエルがいなくなるのではないかと言うことを必要以上に心配していた。それが、ガブリエルを苦しめている原因の一つだとは、ラファエルも想像も付かなかったのだ。
みんなそれぞれ、心の奥に苦しみを抱えていた。それを表立って見せることはなかっただけで…本当は、みんな苦しんでいたのだと。
けれどラファエルには、支えてくれるレイがいた。だから本当は、誰よりも気持ちが楽で…自分で自分の気持ちを昇華したミカエルは、仕事に打ち込むことで気持ちを宥めていた。だからこそ、誰にも打ち明けられなかったガブリエルは、一番辛かったのだろう。
目を伏せ、懸命に溢れる涙を堪える姿。そんな彼女に思わず手を伸ばしたラファエルだったが、不意に目の前に現れた姿に、思わず足を止めた。
ラファエルを睨みつけるように…そしてガブリエルを守るかのように、その前に立ちはだかった姿。
「…な…っ」
「彼女に、近付くな…っ!」
そう、声を上げる姿。当然、ラファエルは目を丸くして息を飲む。
「…グレイン…?」
その声に、ガブリエルも思わず顔を上げる。
「これ以上…彼女を泣かせるな…!」
そう言った表情は、とても悲しそうだった。けれどそれ以上に、ラファエルを睨み付ける眼差しは、揺るぎなかった。
「貴方は、一体…」
訳のわからないラファエルは、思わずそう声をあげる。
「ガブリエルを泣かすなら、僕は許さない!ここから出て行け…っ!」
「止めて、グレイン…」
グレインを留めるようなガブリエル声。けれど、グレインは更に声を上げる。
「出て行け…っ!」
その声に圧倒され、ラファエルは小さな溜め息を吐き出す。
「…わかりました。また、日を改めて来ます」
「もう来るな!ガブリエルに近付くな…っ」
踵を返したラファエルの背中に、そう声が届く。
ラファエルは溜め息を吐き出しながら、これ以上相手を興奮させないように、振り返らずに書斎を出て行った。
そして書斎に残ったのは、床に座り込んだガブリエルと、ガブリエルと向かい合うように腰を落としたグレインの彼。
「…泣かないで…ガブリエル…」
未だ、はらはらと涙を零すガブリエルの顔を覗き込むその眼差しは、先程とはまるで違って、とても心配そうで。
「…ガブリエル…」
声をかけても、ガブリエルの涙は止まらない。それどころか、ガブリエルはずっと張っていた糸がぷつんと切れたかのように、顔を手で覆って泣きじゃくっていた。
妻として、必要とされなかった自分。母として、子供を抱き締めてやることも出来なかった自分。その胸の痛みを忘れる為に、職務に打ち込んでいたのが、酷く不器用に思えて。涙が止まらなかった。
グレインは、暫くそんなガブリエルの姿を見つめていたが、やがて手を伸ばし、ガブリエルをそっと抱き締めた。
「…泣かないで…」
そこに…いつもの無邪気さはなかった。ただ、ガブリエルが心配で…ガブリエルを、護りたくて。
グレインは、ガブリエルの髪にそっと口付ける。
そして。
「…僕が…護ってあげる。貴女を傷付ける人たちから、貴女を護ってあげる。だから…もう泣かないで…」
ガブリエルの耳元で、そっとつぶやいた言葉。その、甘く柔らかい声は、久しく感じていなかった胸の高鳴りを微かに感じさせていた。
「…ガブリエル…」
名を呼ばれ、抱き締められている現実。グレインがガブリエルに好意を抱いているのは確かだった。けれどガブリエルは、それを受け入れられる程、気持ちの整理は付いていない。そして何より…別居はしているものの、正式に夫と別れた訳ではないのだから。
震える吐息を吐き出したガブリエルは、ゆっくりと口を開く。
「…貴方に…護って貰う訳にはいかないわ。これ以上…貴方を受け入れることも出来ない。私は…結婚しているの…」
そう零した声は、未だ震えている。
「…さっきの人?」
問いかけたグレインの声に、首を横に振る。
「彼は…私が王都にいた時からの、大切な仲間よ。私を心配して、来てくれていたの。"あの人"にとっても…大切な人、なの」
漸く、呼吸は整って来た。けれど、未だ溢れる涙は止まらない。
「子供も…いるわ。でも、私はあの子を抱き締めてあげることが出来なかった…堕天使、だったのよ。原因は"あの人"にある。だから…許せなかった…そこから、私たちの関係は狂い始めたの。私は、全てを捨ててここへ逃げて来たの…」
グレインの胸に顔を埋め、涙を堪えようと大きく息を吐き出すガブリエル。
ガブリエルが言いたいことは、グレインにもわかっていた。
天界人にとって…不貞は重罪。これ以上…罪を、重ねることは出来ない。
けれど、それで諦めが付く程、グレインの思いも単純ではなかったのだ。
「…でも…貴女が悪い訳じゃない。何も悪いことをしていないのに、逃げることなんかない。僕は…貴女を護りたいんだ。貴女が、好きだから。だから…」
今のグレインには、自分とガブリエルの身分が違うことはわかっていた。けれど、敢えて手を伸ばし、ガブリエルに想いを伝えたのだ。
けれど、ガブリエルにはそれが酷く苦しいモノでしかなかった。
結局、ガブリエルが泣き止むまでグレインはずっと傍にいて、その両腕でガブリエルの身体を包み込んでいた。
それが、今のグレインに出来る、ガブリエルへの精一杯の想い、だったから。
ラファエルがガブリエルを訪ねて来た翌日から数日の間、グレインはガブリエルの元を訪れなかった。
そしてガブリエルもまた、グレインの顔を見ないことで少しは気持ちも安定して来ていた。
何かが、変わり始めている。そう考え始めてから…それが、良い意味なのか、悪い意味なのか。それすらも理解出来ていない。
時間が、傷を癒してくれるのだろうか。それはまだわからない。
それは、ガブリエルだけではなく…ラファエルもまた、未知の状況だった。
その日、ラファエルが数日振りにガブリエルの元を訪れていた。
けれど玄関のドアを叩く前に、背後から声をかけられた。
「…待って。話したいことがある」
その声に振り返ったものの、誰の姿も見えない。
「…誰か…いるのですか…?」
そう口を開くと、その瞬間ラファエルの目の前に小さな閃光が走る。
「…っ!?」
咄嗟に腕で目を覆う。そして、光が薄れるのを感じてゆっくりと目を開けて見ると、彼の目の前に見覚えのある姿が立っていた。
「…貴方は…この間の…」
「話したいことがある」
もう一度、はっきりとそう言った姿に、ラファエルは小さく頷く。そして、促されるままにガブリエルの別宅を離れ、森へと向かって行った。
深い森の入り口。ラファエルは、そこで足を止めた。
目の前には、グレインの姿がどんどん先へと進んで行く。
「…何処まで行くつもりですか?」
思わずそう問いかけると、グレインには足を止め、僅かにラファエルを振り返った。
「…もう少し。僕に、着いて来て。離れると迷うよ」
そう言い残し、グレインは再び足を動かす。
ラファエルは小さな溜め息を一つ。けれど、グレインの姿を追って再び森の中へと足を進めた。
そして、どれくらい歩いた頃だろう。不意にグレインが足を止め、ラファエルを振り返った。
「…貴方に、あれが見える?」
問いかけられ、示された先には木々の間の少し広い場所。まだ明るい為、ぼんやりとしか見えないが…そこに小さな光が幾つも飛び交っていた。
「…あれは…何ですか?小さな光が飛んでいますけれど…」
そう口を開いたラファエル。すると、グレインは小さな溜め息を吐き出した。
「…貴方にも見えるんだ。なら…仕方ない」
「……?」
グレインに言っている意味は、ラファエルにはわからなかった。けれど、その落胆の表情からして、自分には見えないことの方を望んでいたことはわかった。
「…見えない方が、良かったみたいですね」
小さな吐息を吐き出しつつ、ラファエルはそう言葉を零す。
「別に…」
グレインも小さな溜め息を零した。けれど、その眼差しは直ぐにラファエルに向き合った。
「…貴方は、彼女と…ガブリエルと…どう言う関係?」
そう問いかけられ、暫し口を噤む。
「どう言うと言われても…仲間、としか言いようがないですよ」
「じゃあ、彼女の…子供のことも、知っている…?」
そう問いかけたグレインの眼差しが、僅かに揺らめいた。
「…それを聞いて、どうするつもりですか?」
ラファエルも思わずそう問い返す。
「…彼女が…気にしているから…一度も抱いてやることが出来なかった、って…一度も母と呼ばせてやることが出来なかったって…だから…彼女のこと…恨んでいるのかと思って…」
言葉を零しながら眼差しを伏せるグレイン。
正直、ラファエルは一度もガブリエルの子供に逢ったことはなかった。ミカエルから話を聞き、魔界の情報局長官に引き取られたことも知った。けれど、その先のことまではわからない。
その子供がどんな気持ちで魔界で暮らしたのか。どんな気持ちで…ガブリエルを想っていたのか。
「…どう…だったんでしょうね。恨んでいるかどうかは、わたしにはわかりません。引き取られた先で、きっと倖せに暮らしたのだと思います…」
「…そう…」
グレインもそれ以上言葉が出なかった。
それを知って、どうなるものでもない。一度断ち切られた絆を戻すことは、簡単なことではないのだから。
けれど…何も出来ない自分が、とても無力に思えて。
「…僕には…ガブリエルを、倖せには出来ないの…?」
俯いたまま、そう零したグレインの言葉。それを、ラファエルは何処で聞いていたのだろう。
とても、遠い場所で…とても、遠くから聞こえているようで…。
「…何が…ガブリエルにとっての倖せなのかは、わたしにもわかりません。でも…彼女には、もっと明確に愛されることが必要だったのかも知れません。ミカエルは…彼女の伴侶は…彼なりに、ガブリエルのことを愛していました。でもそれではガブリエルには不満だったのでしょう。面と向かって、想いを伝えること。それが…彼女が望んだ愛情のカタチだったのかも知れません。それが満たされなかったことが…全ての元凶だったのかも知れません」
ずっと、見て来たこと。それが、ラファエルが感じたガブリエルの姿。
彼女は自分と同じ。愛されたかったのだろう、と。その不確かな絆を、きちんと伝えて欲しかったのだろうと。
わかっていても…何もすることが出来なかったのは、ラファエルも同じこと。案じてはいた。けれど、口出しするべきではないと思ったその遠慮が、苦しめていたのだろうと。
パンドラの箱を開けてしまったのは…他ならぬ、ラファエル自身。それを…実感していた。
「…どうして…もっと早く、気が付かなかったんでしょうね…彼女にとって、何が大切だったのか…わたしたちが、何をしてやれたのか…」
そうつぶやいた声は、震えていた。
まだ間に合うのなら。少しでも、ガブリエルを救うことが出来るのなら。
「貴方に…どんな彼女も、受け入れることが出来ますか…?」
そう問いかけた脳裏に、ミカエルの姿が浮かんだ。けれど、今の彼女が必要としているのは、きっと…ミカエルではないのだ。それは、悲しいけれど現実。
「…僕は…彼女が好きだから。だから…大丈夫」
グレインはしっかりと顔を上げ、ラファエルを見つめた。その眼差しは、嘘偽りのない、真っ直ぐな眼差し。
にっこりと微笑んだラファエル。その微笑みが、想いの全てだった。
ガブリエルには会わず、そのまま王都に戻ったラファエルは、直ぐに雷神界へと連絡を入れた。
全ては、絆を取り戻す為。
そして、暫しの後。雷帝との面会を取り付けたのだった。
翌日、ラファエルは雷神界にいた。
雷帝の執務室に通されたラファエルは、そこで雷帝たるライデンと…そして、魔界の情報局長官と顔を合わせた。
「…俺に話って…」
呼び出された情報局長官は、怪訝そうな顔をしている。
「実は…エース長官に、御聞きしたいことがあるんです。ガブリエルの、子供のこと…」
「…ラファエル殿…?」
思いがけない問いかけに、情報局長官…エースは、思わず息を飲んだ。それは、隣にいるライデンも同じこと。
「…どうして急に、そんなことを…?」
問いかけたエースの声に、ラファエルは大きく息を吐き出した。
「…彼女がしたことは理解しています。それが、貴殿たちには気に入らないことだと言うことも。けれど…彼女は今も、苦しんでいます。彼女は…子供に対して、母親として何も出来なかったと。勿論、子供を捨てたことに関して、弁解している訳ではありません。ただ…可能ならば、彼の今の想いを聞いておきたいと…それが、彼女の呪縛を解くことになると思っています。だから…」
エースの脳裏に甦ったのは、遠い昔の記憶。
傷付いた、堕天使の子供を拾ったあの日のこと。
自ら片目を潰し、片翼を切り落として、自らの血に染まった子供。
その元凶は…愛さなかった親。
「…勝手なことをしておいて、今更何を知りたいと…?彼奴がどれだけ傷ついたか、わかっているのか?自分の瞳を潰す痛みより…翼を切り落とす痛みよりも、胸の痛みの方が勝ったんだぞ…っ!?それだけ傷付けておきながら、今更自分の呪縛を解く為に想いを知りたいだと!?そんなこと、俺が許すはずがないだろうっ!!」
当然、ラファエルの言葉はエースの逆鱗に触れた。
声を荒げるエースを、ラファエルは大きく息を吸い込み、真っ直ぐに見つめている。切なそうな…ヴァイオレッドの眼差しで。
「…勿論、貴方の逆鱗に触れるであろうことは、最初からわかっています。それを承知で、御願いしているのです。彼女も…苦しんだのです。子供を想わない親はいないはずです。彼女も、例外ではありません。彼女も…子の親、ですから」
「親なら何をしても良いと言うのかっ!?それが、親のエゴである以外、何だと言うんだよ!」
エースの表情は相変わらず険しい。そのきつい眼差しと荒げる声に、ラファエルは小さく溜め息を吐き出した。
「…確かに…否定はしません。今更、勝手なことを言っていることもわかっています。でも…それで彼女を咎めることはやめて下さい。全て…わたしが一人で言い出したことです。今回の話は…彼女は…何も知りません」
ラファエルが吐き出したその言葉には、エースも眉を寄せた。
「…どう言うことだ…?ガブリエル殿が何も知らない、って…」
思わず問い返した声に、ラファエルは小さく頷く。
「…彼女は、何も知りません。けれど…今でもその思いに捕らわれて、苦しんでいるのは確かです。その原因は…全てのきっかけは、わたしにあります。ですから…子供の想いがわかれば、彼女を救えるのではと…ただ、それだけです。全て、わたしの独断です」
その言葉に、エースの表情が僅かに変わった。新たに現れたのは、戸惑いの表情。それは、隣にいた雷帝も同じこと。思いがけない展開に、二名は思わず顔を見合わせていた。
口を噤んで俯いたラファエル。その表情は、とても苦しそうだった。その表情の意味を、エースは黙って考えていた。
「…あんたが知っていること…全部、話してくれない?」
今まで口を閉ざしていたライデンが、不意にそうラファエルに問いかけた。
「今更…"あの子"の想いを知りたいって言うんだから、それなりの理由がある訳でしょう?それも、あんたの独断だなんて、尚更尋常じゃない。もしも、ガブリエルが王都を去った理由と関係するのなら…教えてくれないかな…?」
すると、その言葉にいち早く反応したのはエースの方だった。
「…ガブリエル殿が王都を去った?聞いてないぞ、そんなこと」
「…言ってないもん」
「ライデン…っ」
「当たり前でしょうがっ!言える訳ないでしょ!?天界の機密情報だもんっ」
突然のそのやり取りに唖然とするラファエルをよそに、エースはライデンを睨みつけている。だが、ライデンもここは引く訳にはいかないのが実情。それが、一国の王たる者の勤めなのだから。
「…ホントは、今だってあんたには聞かれたくない話だよ。だけど、状況が状況だし、仕方がないと思って口にした。"あの子"と繋がっているのはあんただけだから。だけど、ガブリエルが王都を去ったことは、魔界には言いたくなかったんだ。下手をすれば、今が一番攻め込みやすい。俺がそんなことを零したら、天界に申し訳が立たない。中立たる立場を保つ為には、内密にしておかなきゃいけない事だってある。だから俺だって、魔界の内部事情は天界には話してない。それと同じでしょう?」
確かにライデンの言葉は尤もであり、雷帝が口が軽いようでは信用問題にも関わる。
「…とにかく、あんたはここにいない!黙って聞いててよ」
ライデンがエースを一喝すると、エースは不貞腐れつつも黙って口を噤んでいた。
「…御免ね、こんな状況で。で、話してくれる?」
改めて問いかけた声に、ラファエルは小さな溜め息を吐き出した。そして、その後ゆっくりと言葉が紡がれる。
「…ガブリエルが姿を消してから暫くして、彼女の居場所は見つけました。けれどそれを知っているのはわたしだけであって、ミカエルもそのことは知りません。彼女はミカエルと決別する覚悟を決めたのだと思います」
「…決別って…別れる、ってこと?でも天界の規律では、離婚なんて簡単なことじゃないんでしょう?」
眉を顰めるライデンに、ラファエルは頷きを返す。
「勿論そうです。けれど、やってやれないことはない。彼女は…陛下とゼノン殿のことに関わってから、何かが変わったのだと思います。流される運命に逆らって…自分の足で、歩み始めるつもりです。そしてそんな彼女に想いを寄せる者も現れました。わたしはその"彼"から、自分では彼女を倖せには出来ないのかと相談を受けたのです。勿論、彼女の子供のことも知った上で、呪縛されている心を何とかしてあげたいと言っていました。わたしは…その想いに共感したのです。今まで何もしてあげられなかった償いとして、ミカエルには申し訳ないと思っていますが、わたしは彼女の味方になりたいのです。彼女の笑顔を…もう一度見たいのです。その為に…恥を忍んで、ここへ来たのです」
「…ミカエル総帥に反旗を翻した、ってことか…規律正しいガブリエル殿にしては、革命的な行動だな」
呆れとも感心とも付かないエースの相槌に、ラファエルは小さく頷く。
「確かに、昔のガブリエルからは想像も付きません。けれど、それが彼女にとっても良い方向に進んでいると思いたいのです。その為なら…わたしはどんな協力でもするつもりです。それが、今まで何もしてやれなかったわたしの、彼女への償いなのですから…」
僅かに揺らめいたラファエルの眼差し。その胸に秘めた想いが何処まで深いのか、エースにもライデンにも理解することは難しかった。
けれど…ラファエルにそこまで言わせ、行動に移させるには相当の衝撃があったに違いない。
それを素直に受け止めたのは、ライデンだった。
「…ねぇ、エース…"あの子"の気持ち…聞いて来てくれないかな…?」
「…ライデン…」
困ったように眉根を寄せるエース。最初から反対している立場だが、大事な仲魔からも訴えられては、無碍にすることも難しい。
「勿論、無理とは言わない。"あの子"が一番苦しい時に手を差し伸べてくれたのはあんただし、その心情を察すれば反対するのは当然かも知れない。だから俺だって、あんたがどうしても駄目だって言うのなら、これ以上訴えることもしない。だけど…ほんの少しだけ、考えてあげて。それだけの御願いだから…」
ライデンの必死に訴える眼差しは、エースは苦手だった。そんな目をされると、断れることも断れなくなってしまう。だから、その眼差しを遮るかのように、黙って目を閉じた。
母親に愛されたかった子供。満たされなかった想いを受け止めたのは確かにエースだった。けれど…本当にそれで良かったのかどうかはわからなかった。
ただ、その表情に微笑みを取り戻したくて。
幼い顔から、悲しみの表情を拭い去りたくて。
エースのそんな想いは子供にも受け入れられたものの、産みの親に対する気持ちはまた別なのかも知れない。
本当は…どう想っていたのだろう。それは、ずっとエースの胸の中に蟠っていた正直な想いだった。
大きく息を吐き出したエースは、ゆっくりと目を開ける。そして、ラファエルともライデンとも目を合わせないまま、踵を返した。
「…エース…」
不安に駆られたライデンが上げた声に、僅かに振り返る。
「…少し、時間をくれないか?ゆっくり考えたあと、結論を伝える。それで良いか…?」
それが、エースが迷った末に出した前向きな結論であることに、ライデンもラファエルも、安堵の表情を見せた。
「わかった。あんたの答えを待ってるから。だから…結論が出たら、連絡頂戴。必ず、ね」
「…あぁ」
小さく返したエースは、そのまま振り向かずに執務室を出て行った。
「…どう…結論を出すのでしょうね…」
その背中を見送ったラファエルが、小さく言葉を零す。
「大丈夫だと思うよ。エースだって、"あの子"の育ての親だもの。"あの子"を思えばこその結論を出してくれると思う。だから…どっちに転んでも、エースを恨まないでね」
「それは勿論です。わたしが、無理な御願いをしているのですから」
にっこりと微笑むライデンの表情に、不安の色は見えなかった。
仲魔を信頼しているからこそのその表情に、ラファエルも小さく微笑んだ。
ほんの少し、光が見えた気がして。
PR
COMMENT
プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
カレンダー
カテゴリー
最新記事
(06/23)
(10/08)
(10/08)
(09/30)
(09/10)
(09/10)
(08/06)
(08/06)
(07/09)
(07/09)
アーカイブ
ブログ内検索