聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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ひかりのかけら 3
第四部"for EXTRA" (略して第四部"E")
こちらは、以前のHPで2005年06月05日にUPしたものです。第四部は徐々にオリキャラメインとなりますので、御注意ください。
興味のある方のみ、どうぞ。(^^;
4話完結 act.3
数日後、再び雷神界にやって来たエース。その表情には疲労の色が濃く浮かんでいた。
「…大丈夫?随分、疲れてるみたいだけど…」
心配そうに顔を覗き込むライデンに、エースは大きな溜め息を吐き出す。
「どうしても外せない職務が立て込んでる上に、悩み事がプラスされているんだからな。大丈夫の訳ないだろう?」
「…それもそうか。御免ね、厄介ごと押し付けちゃって」
申し訳なさそうに眉根を寄せるライデン。その姿に、エースは再び溜め息を吐き出した。そして、ポケットから煙草を取り出すと火を付け、ゆっくりと紫煙を吐き出した。
「…仕方ないさ。引き受けたことだからな。御前の所為じゃない」
エースはライデンにも煙草を差し出し、一本取り出したライデンの煙草にも火を付けてやる。
「デーさんには、話したの?」
問いかけたライデンの声に、エースは首を横に振る。
「ガブリエルのことは、知られたくないんだろう?ならば、言えるはずはない。俺は、あの場にはいない。御前とラファエルの話は聞いていないことになっているからな」
「そう。有難うね」
細やかな気遣いが嬉しくて、ライデンは小さく微笑んだ。そしてゆっくりを紫煙を燻らせるエースをじっと見つめていた。
「ずっと…考えていたんだ。俺は彼奴の養い親として、ガブリエルがやったことは許せない。だがそれは、俺の想いであって、彼奴はまだ…母親に愛されたいと願っているのかも知れない。そう考えると、俺は勝手に彼奴の人生のレールを敷いてしまったんじゃないか、本当は…俺のエゴを、押し付けただけなんじゃないか、ってな」
「ルークを見ていたから、尚更そう思うのかも知れないね」
ライデンも紫煙を吐き出すと、その煙を追うように、ゆっくりと天井を見上げた。
仲魔が体感して来た、切ない程の"親"への愛情。それは実の親への愛情であり、養い親への愛情でもある。いつになっても枯渇したまま。愛されたいと思うその執着は、未だに何処かで尾を引いているのかも知れない。だがそれはルークの胸のうちに秘められていることであるから、憶測でしかないが。
目一杯愛されて育ったライデンには、ルークが育った現実は理解の域を超えていた。そして自然発生で生まれたエースもまた、"親"に対してそこまで執着する想いを理解することは困難であったことは間違いない。
けれど、エースは短い期間であったが、"養い親"として二名の"子供"を育てた。その一名がルークの幼少と重なり、尚更頑なに"実の親"との接触を拒み続けて来たのだ。
「昔から、ルークは言っていたよな。"子供"は親を選べない。親は、自分のエゴを"子供"に押し付ける。そうして、いつも振り回されるのは"子供"だ、って。確かに、その通りだ。そして俺も…"子供を振り回す親"なのかも知れない」
短くなった煙草を灰皿に押し付け、エースは大きく息を吐き出す。
「…でも、それが"親"なんじゃないかな、って思うけどな…」
ポツリとつぶやいたライデンもまた、煙草を灰皿へと押し付ける。
「"親"はさぁ、どう足掻いたって"親"なんだよ。そこから逃げることは出来ない。"子供"は親に振り回されるのかも知れないけれど、その分、親も同じような思いをしているんじゃないかな。子供が苦しんでいるのなら、それを見ている親も苦しいんだと思う。それが、"親子"の絆じゃないのかな…?」
「…ライデン…」
エースは、ライデンへと視線を向ける。
「ウチの親父はそこまで悩んでいたかどうかはわからないけど…今回、ガブリエルのことを聞いてそう思った。あの、気高いガブリエルが、そこまで思い詰めることに至った原因は、"あの子"のことだもの。子供側からすれば、"愛してくれない親"に対しての不満は沢山あると思う。でも、"愛することが出来なかった親"の立場はどう?必ず、葛藤はあったはず。自分の生命を分け与えた子供だよ?想わないはずはないじゃない。それを断ち切られた心境は、今までは想像しなかったでしょう?でも、ガブリエルは未だその葛藤に捕らわれている。それだけ、深い想いがガブリエルの中にもあるんだと思う。だから、決して不平等じゃない。寧ろ、その想いを受け留めてくれる存在もなく、同じ環境で過ごして来たガブリエルの方が、苦しかったかも知れない。そう考えると、俺たちに出来ることがあるのなら…手助けをしてやっても良いのかな、って思ったんだよ。それで…ガブリエルが救われるのなら」
ライデンの表情は、昔とはまるで違っていた。
誰もが平和であるように。いつしか自然に、そう願う雷帝の顔になっていたのだ。
大きな吐息を吐き出したエース。そして、その口から零れた言葉。
「…オトナだな、御前は」
「何、それ。俺あんたより年下だけど?」
くすくすと笑い出すライデン。無邪気な笑い顔は変わらない。それが、彼が昔からの仲魔であると言う確証でもあった。
「…久し振りに少し話してみたくなったな」
ほんの少し、歩み寄っても良いかも知れない。
それは、エースなりの"譲歩"だった。
「会いに行く?繋げてあげるよ?」
にっこりと微笑みながら問いかけるライデン。勿論、相手が拒まないだろうと言う前提の下に、既にその準備の為に魔力を高め始めていた。
「…ったく、強引だな」
そう零すものの、エースの表情も満更ではない。そしてほんの少し、昔の…"養い親"だった頃の顔に戻ったようだった。
「さ、準備、準備っ」
実に機嫌良く、エースの手を引っ張って地下へと向かうライデン。そして一つの部屋のドアを開けると、厳重に鍵を閉める。
「じゃ、繋げるからね。ちょっと待ってて」
そう言うなり、気を高め始めたライデン。空間を繋ぐことに関し、誰よりも長けているライデンならば、エースだけでは手の届かない所にいる"子供たち"と会うことも可能であろう。
「ちょっと、記憶を辿らせてね」
ライデンはそう言うなり、片手を伸ばしてエースの額に触れる。
エースの記憶の中にある"養い子"の気。ライデンはそれを辿って空間を繋げるのだ。
目を閉じて、じっとその時を待つエース。
まず、何から伝えれば良いだろうか。
色々と思いの巡る中、その不安も胸の中にはあった。
何よりも…自分を覚えているか、と言う不安。それがまず第一、であった。
「……ス?………エース?」
「…ん?」
目を開けて見れば、首を傾げてエースを見つめるライデンの眼差しがあった。
「繋がったけど…どうする?」
そう問いかけられ、エースが視線を向けた先には、緑の大地に包まれた小さな惑星が見えた。
懐かしい景色。けれど、エースが知っている"Big Mam"は、もうここにはいない。世代交代をして、今はエースの最初の"養い子"がその名称を受け継いでいる。
「…行って来る」
そうつぶやくと、丸く開いた空間に手を伸ばす。するとその身体は吸い込まれるようにその空間に飲み込まれていた。
惑星と雷神界を繋ぐ空間を走り出したエース。胸の高鳴りは、久しく感じていないモノであるかのようで。
暫しの後。エースは無事、"子供たち"の元へと辿りついた。
見覚えのある、緑の大地。けれど今やそこは、エースの記憶にある惑星ではなかった。
大きな木々が葉を揺らし、小さな花々が咲き、鳥の囀りさえ聞こえる。恐らく、他にも生物は沢山いるのであろう。まるで小さな地球とも言うべき豊かな自然が、そこにはあった。
「…まさか、ここまで回復するとはな…」
唖然とした表情で、吐息を吐き出すエース。
エースの覚えている"Big Mam"は、眠りに付かなければならない程、生命力を失っていた。だから、痩せ細った木々は葉を落とし、草も花をつけることはなかった。ただ、今を生きているのが精一杯で。だからこそ…エースは、自分の"力"を分け与えたのだ。
世代が変わり、輝く緑の惑星になった"ここ"に、エースの思い出はなかった。
目を伏せ、大きな溜め息を吐き出したエース。けれど、それで良かったのだと思い直すことにした。
生き延びることが、出来たのだから。だから…自分がしたことは、無駄ではなかったのだと。
そんな感慨に浸っていると、自分に近寄って来る気配を感じた。
顔を上げ、その視線が捕らえたのは…短い金色の髪の青年。そしてその瞳の色は…両方とも綺麗な琥珀色、だった。
「…御前は…?」
養い子と、良く似た風貌。けれど、エースの養い子は、瞳の色が碧色と紫色だったはず。即ち、今目の前にいるのは彼の養い子ではない、と言うことになる。
「"琥珀(こはく)"と申します。エース長官…ですね?」
「…あぁ…」
「こちらへどうぞ」
状況を良く理解出来ないままに、エースは促されるまま琥珀の後に続いた。
自分を知っている存在。となれば、エースが想像した琥珀の"正体"は強ち間違いではないはず。すると自分は……。
不意に足を止め、大きな溜め息を吐き出したエース。その溜め息を聞きつけ、先を歩いていた琥珀が足を止め、エースを振り返った。
「どうなさいました?」
「…いや…何でもない」
ここで落ち込んでも仕方のないこと。エースは自分自身にそう言い聞かせ、真っ直ぐに顔を上げた。
「行こうか」
そう声をかけると、琥珀はにっこりと微笑んだ。そして再び足を進める。そうして辿り着いたのは、小さな神殿。そこは、エースも見覚えがあった。
「どうぞ」
促されるままに、神殿へと足を踏み込む。そして、小さな祭壇の前に立つ姿を見つけた。
「…良く、来て下さいました。皆さん、御元気ですか?」
褐色の肌に、長く白い髪。そして、真っ直ぐに自分を見つめる、三つの琥珀色の眼差し。その姿は見間違えるはずなどない。彼の、最初の養い子、だった。
「…"エナ"、か。随分凛々しくになったな。魔界のみんなは変わりない。勿論、俺もな。御前も元気そうで良かった」
そう声をかけると、にっこりと微笑む姿。それはとても懐かしく、暖かい微笑み。
「"紫苑"に、会いに来られたのでしょう?今、琥珀が呼びに行っています。少し御待ち下さい」
何もかも御見通し、と言うエナの言葉に、エースは思わず苦笑する。
「"琥珀"は…"御前たち"の子供、か?」
問いかけた声に、エナはくすっと小さな笑いを零す。
「はい。大切な授かりもの、です。今は、紫苑や私の良き片腕です」
その答えに、エースはやはりと小さな吐息を零す。
エナは僅かにでもエースの能力を受け継いだ"子供"である。惑星の自我は成長が早いとは言え、そのエナが子供を産んだ、と言うことは、エースにとっては琥珀は…と想いを巡らせる。
「…俺も年を取ったな…」
ポツリとつぶやいた声と、苦虫を噛み潰したような表情に、その意を察したエナは再び笑いを零す。
「気にし過ぎです。私の成長は、他の方たちよりも早いと言うだけのこと。"父様"が気に病むことではありません」
その対応が、とても立派に聞こえて。エースは思わず溜め息を吐き出す。
「すっかり、"Big Mam"らしくなったな」
「これも、"父様"と紫苑のおかげです。私一名では、ここまで生命を回復させることも出来ませんでしたし、こうしてこの惑星を護ることも出来ませんでした」
「俺はたいしたことはしていない。紫苑が、御前に着いて来たおかげだろう」
そんな暢気な話をしている間に、琥珀が戻って来たらしい。こちらへ向かう足音が聞こえた。
「御待たせ致しました」
背後からそう声がかかりエースが振り返ると、そこには先程見た琥珀と、真っ直ぐに自分を見つめる碧と紫の眼差しがあった。
「…エース長官…」
「紫苑、か」
すっかり大人になった"養い子"の姿に、エースも思わず表情を和らげる。だが、これから話さなければならないことを思うと、あまり暢気にもしていられないのが実情。
「…話が…あるんだ」
ゆっくりとそう切り出したエースに、紫苑は小さく頷く。そしてエースを促して小さな客間へと連れ出した。
「…エナには、余り聞かせたくなかったのでしょう?」
客間のドアを開け、エースをソファーへと促しながら、紫苑は問いかける。突然エースが訪ねて来た意味も、何となく察しているかのようで。
「…まぁ、な。聞かれてまずい話じゃないが…良い話でもないしな」
そう言いながら、エースは懐から煙草を取り出した。
「吸っても良いか?」
「どうぞ」
テーブルの上に灰皿を置かれると、火を付け、紫煙を吐き出す。そして気持ちを落ち着けてから、ゆっくりと切り出した。
「…ある人から聞いた話だ。御前の意見を聞きたいと思ってな」
「…わたしの、意見?」
怪訝そうに眉を寄せる紫苑。けれど、エースはそのまま話を続けた。
「…昔…自分の産んだ子供を、愛せない母親がいたそうだ」
「………」
思いがけない言葉から始まった話に、紫苑は思わず息を飲む。けれど、淡々と話を続けるエースに口を挟むこともなく、ただ黙って、その言葉を聞いていた。
「その母親は、一度も自分の子供を抱くことなく、手放したそうだ。だが、その日からずっと、胸の痛みは消えなかった。そして、子供の父親である伴侶との仲も悪化し、今は行き先さえも明かさず王都を去ったらしい。彼女は…未だ、その罪悪感に苛まれている。もし、彼女が今の子供の想いを知れば…その罪悪感と言う呪縛から、解き放たれるのではないか。そうすれば…新たな道を、歩き出せるのではないか…とな。そこで、御前に聞きたい。もし…御前がその"子供"の立場なら…母親を、どう思う…?母親を…許してやれるか…?」
エースの問いかけにも、紫苑は暫く黙っていた。そしてエースもまた、紫苑の答えを黙って待っていた。
どのくらいの時間が経っただろう。
エースが幾度目かの煙草の紫煙を吐き出した時。紫苑が、その口元に、僅かな笑みを浮かべた。
「そうですね…わたしなら…許すでしょうね。確かに、子供の頃はずっと迎えに来てくれることを待っていました。でも…わたしには、"居場所"があったから。貴方が…わたしの"居場所"を、作ってくれたから。だから…寂しくはなかったし、辛くもなかった。だから…多分、その子供も…今が倖せならば、憎んではいないでしょう。だから、その人にも伝えて下さい。多分…あなたの"子供"は倖せだと。だから…罪の意識に、苛まれることはないのだと。新たな道を、歩いても良いのだと」
にっこりと微笑んでそう話す紫苑の姿に、エースは大きく息を吐き出した。
「…そう、か。御前は…オトナだな」
返す言葉は、それだけだった。
気づかない内に…彼の"養い子"は、強くなっていたのだ。けれどそれは、彼が一名で成し遂げた強さではなく…周囲に、愛すべき存在がいたから。
「子供は…親を選べない。良く、そんなことを聞きます。でも、わたしは違うと思います。子供は…生まれる前から、親を選んで産まれて来るのだと。その境遇に生きることが出来る子供だけが、親から産まれて来るのだと。だから、わたしは生まれて来ることが出来たことを、実親に感謝しています。生まれて来ることが出来たから…貴方に拾って貰うことも出来たのです。そして、貴方に拾って貰ったからこそ、エナに出会うことも出来て…琥珀にも出会えたのだと思っています」
その言葉は、紫苑だからこそ伝えることが出来たのかも知れない。
"彼"は、倖せに過ごせていたのだと。生まれたことも、産んだ親も…憎んではいない。それを感じることが出来て、エースはやっと、養い親としての肩の荷が下りたような気がしていた。
「…御前の気持ちはわかった。そんな意見もあるのだと、伝えておこう」
そう言葉を返し、エースは目を細める。
「…親は、いつまで経っても親なんだ。子供のことを想わない親はいない。子供の倖せを、願うものなんだ。勿論、俺もな。だから…いつか、御前の想いを、自分の口で伝えてやってくれ。それが、御前にとっても…親にとっても、倖せだから言えるのだと思えた時に。俺は…そう、願っているから」
それは、エースの"養い親"としての想い。
勿論、捨てたことに対しての憤りは消えることはないだろう。けれど…彼がここにいる、と言う事実は…"親"がいてこそ、なのだ。
その意を察したのか、紫苑は腕を伸ばし、エースの身体をそっと抱き締めた。
「有難うございます。未来のことはわかりません。でも…貴方の気持ちは、しっかり受け取りました。ですから、またいつか、いらして下さい。…"父様"」
「…あぁ」
くすっと笑うと、エースは紫苑の背を軽く叩いた。
これで、良いのかも知れない。これ以上…"養い子"の倖せを崩すつもりはなかったから。
エースは席を立ち、彼の"養い子"たちに別れを告げ、雷神界へと戻ったのだった。
雷神界へと戻って来たエースは、待ち構えていたライデンがニヤニヤと笑っている表情を目の当たりにしていた。
「…んだよ…」
「ん~?いやににやけてると思って~」
そう言う自分こそ、かなりにやけているんだが…。そう言いたい気持ちを押さえていると、当のライデンが問いかけて来る。
「で?元気だった?」
「あぁ。皆一様にな」
その言葉にふと、ライデンが問いかける。
「二人なのに皆、って?」
「あぁ…増えてた。エナと紫苑と…琥珀。三名とも元気だ、と言うことで」
溜め息を吐き出しつつ、そう言葉を続けた。
「で?」
「あぁ……ちょっと待って」
思考を纏める為に、煙草を口に銜え、火を付ける。紫煙をゆっくりと燻らせている間に、考えを纏める。
紫煙と共に大きく息を吐き出したエースは、灰皿で煙草の火を揉み消すと、改めてライデンと向かい合った。
「…紫苑には会って来た。だが、敢えてガブリエルの名前は出さず、そう言う人がいる、と言う言い回しをした」
「それで?」
興味津々に問いかけるライデン。その、期待に満ちた眼差しの前、エースは溜め息を吐き出すしかなかった。
「…結論から言う。紫苑は…生まれて来ることが出来たことを、実親に感謝していると言っていた。憎んでいる訳ではない。それは、明確だ」
エースの脳裏には、にっこりと微笑む紫苑の姿が甦っていた。
紫苑が語った想い。それを一つ一つ思い出しながら、ライデンに話して聞かせる。その表情は、真剣そのもので。
「…まぁ、あんたにとっても十分な答えだった訳だ」
小さな溜め息と共に吐き出した言葉に、エースは大きく息を吐き出す。
「ラファエルにとっては…きっと、良い答えなんだろうな。ただ、そんな言葉一つで、本当に…ガブリエルが救えるのか…?救われたいのは…ラファエル自身、じゃないのか…?」
「…エース…?」
エースが何を言わんとしているのか、ライデンにはピンと来なかった。
「ラファエルは…あの時言ったよな?全てのきっかけは自分にある、と。深い内容は知らないが…だとしたら…ガブリエルを傷つけるきっかけになった自分の行為を、彼女が救われることで、自分も救われたいんじゃないか…とな」
「…まぁ…考えられなくはないけど…ラファエルはそう言うタイプではないと思うよ」
エースの考えを一蹴すると、ライデンはコーヒーを淹れに席を立つ。
「多分ラファエルは、相当堪えてるんだと思う。ガブリエルは中枢の要でもあるからね。その彼女が抜けてしまった今、王都が大変なのは想像つくよね。確かに、ガブリエルの心が救われて、王都に戻ってくれば全て丸く収まるのかも知れない。でもラファエルは…ミカエル総帥に反旗を翻した。その事実は…変えようはないよね…?ミカエル総帥が知っているか、知らないかはわからないけど…ラファエルにとっては、針の筵じゃない?そんな想いをするのがわかっていて…自分が救われたい、とは思わないと思う。だからこそ俺は…ラファエルの言葉を信じたい。そうまでして、ガブリエルを助けたいんだ、って言う…純粋な気持ちだと思うよ」
「…そう、か…」
ライデンの言葉を聞きながら、エースは深く息を吐き出す。
確かに、ライデンの言うことは一理ある。自分が知らない天界の現状を良く知るライデンだからこそ、そこまで協力する気になったのだろう。
「…これからが大変だな…」
ポツリとつぶやいたエースの言葉。
「まぁ…そうだろうね。でも、それだけの覚悟があったんだと思うよ」
これ以上の深入りは出来ない。だから、この話はここで打ち切るしかなかった。
エースは煙草の火を灰皿に押し付けて消すと、ライデンが持って来たコーヒーに口を付ける。
そんな姿を眺めつつ、ライデンはニヤリと笑いを零す。
「……で?増えてた"琥珀"って誰よ~?」
「………教えるか、ば~か」
瞬時に苦虫を噛み潰したような表情に変わったエース。そんな表情を恋悪魔たるデーモンには見せられないと思いつつも、エースにとってもそれが現実。
「…年取ったね~」
くすくすと笑うライデンを横目で睨み、エースも負けじと口を開く。
「御互い様だろう?俺だけ年取った訳じゃあるまいし…」
「でも、俺が一番年下だも~ん」
「うるせ~~!」
拗ねたように横を向くエース。けれど、そんな気分も満更ではない。
とても、懐かしい感覚。
これはこれで良いのだと。
それが、全ての答えなのだ。
翌日、天界を訪れた雷帝の姿があった。
ラファエルの執務室に通された雷帝の表情はとても穏やかで。
「…良い答えを…期待しても良いのでしょうか?」
ライデンの表情を見て、ラファエルは小さく問いかける。
「…まぁ、ね」
ライデンも小さく息を吐き出し、前日エースから聞いた話をラファエルに伝えた。ラファエルはその言葉をじっと聞きながら、ただ黙って握り締めた自分の両手を見つめていた。
全ての話が終わると、ゆっくりと視線を上げた。
「…そうですか。彼女の子供は…彼女を、憎んではいないのですね。なら…良かったです」
「でも…あんたの表情は…嬉しそうじゃないね?」
「…ライデン陛下…」
ライデンのその一言に、ラファエルは困惑の表情を浮かべた。
「ガブリエルを助けたいのなら…一番良い答えじゃないの?でも、今のあんたの表情は…酷く、辛そうに見える」
「………」
ライデンは、ラファエルの様子を伺っていた。
その表情から、何かを掴み取れるかどうかはわからない。ただ…その浮かない表情が、心配でならなかったのだ。
「俺、思うんだけど…ガブリエルの胸の痞えは、"あの子"の言葉で少し報われるのかも知れない。ただ…あんたは別だよね?ガブリエルが救われても…あんたは、救われない。もっと、深い罪に捕らわれていくんじゃないかと…そんな気がする。彼女を助けるだけじゃなくて…あんた自身も、誰かに救って貰わないと…勿論、俺の勝手な言い分だから、違うなら違うで良いんだけど…」
そう切り出すと、ラファエルは大きく息を吐き出す。
「わたしのことは…大丈夫です。レイが……わたしの側近が、傍にいますから。ただ…わたしよりも、ミカエルが…辛い想いをしているのは間違いありません。全ての原因は…わたしにあります。それなのに…わたしには、彼らを助ける術がない。本当なら、わたしが全て背負うべき罪であるのに…」
「…そのことなんだけど…あんたが背負った罪って…何なの…?」
思わずそう問いかけたライデンに、ラファエルは視線を伏せ、口を噤む。
「…それは…貴殿には、関係のないことです」
固く握り締めた手を見つめ、ラファエルはそう言葉を零した。
「…天界には…天界の規律があります。けれど、目に見える罪でなければその罪を問うことは出来ません。例え、罪を犯したとしても…それを罪と認めるかどうかは自分自身の呵責によるものです。罪を罪として認めるかどうか。残念ながら…その罪の重さがどれ程の物であるか、それは個人の判断でしかないのです」
「…そう、か。だからあんたもガブリエルも…その罪の意識に苛まれている、ってことか」
「………」
小さな溜め息を吐き出したラファエル。
それが…答えだと、言わんばかりに。
「まぁ…天界の事情に口を出すつもりはないよ。ただ、罪を罪と思うかどうか。その考えは…俺たちには理解しきれないのかも、って思う。だって…誰かを好きになることは、間違いじゃない。好きになっちゃいけない相手はいない。俺は、親父からそう教わったから」
「ライデン陛下…」
顔を上げたラファエルは、にっこりと微笑むライデンを見つめた。
「心が救われるのなら…それは、間違いじゃない。勿論、誠意があってこそのモノだけど…良心の呵責に耐え切れないくらいなら、それは正当な気持ちだったんでしょ?だからガブリエルも…解放されても良いんじゃないかな?彼女を救ってくれる相手がいるのなら、それは間違いじゃない。それに…あんたも、ね。あぁ、ミカエル総帥のことは良くわかんないけど…少なくとも、ミカエル総帥は原因については後悔はしてなかったんじゃないかな…?」
「…彼は…後悔など、なかったと思いますよ。ただ、彼女を傷つけたことが後悔だったのだと思います」
「そう。なら…ガブリエルが救われることが、ミカエル総帥にとっても救われることになるのかも知れない。尤も…その良心の呵責がどれくらいのモノかどうか…ミカエル総帥次第だろうけどね」
「…そう、ですね…」
ミカエルの心の中まではわからない。けれど今は…誰もが救われること。それを、願うしかない。
にっこりと微笑むライデンに、ラファエルはやっと小さな微笑を返した。
幾度、この前向きな悪魔たちに救われたことか。
そんなことを考えながら、ラファエルは微笑むライデンを見つめていた。
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プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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