聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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香雲 3
第四部"for PARENTS" (略して第四部"P")
こちらは、以前のHPで2005年02月06日にUPしたものです。第四部は徐々にオリキャラメインとなりますので、御注意ください。
興味のある方のみ、どうぞ。(^^;
5話完結 act.3
王都へと戻って来たエースとクルアール。もう直日が変わると言う時間だが…その屋敷には、まだ明かりが灯っていた。
「…こんな立派な屋敷に住んでいたんですね」
門の向こうから屋敷を見上げたクルアール。デーモンが副大魔王になってから、ここへ訪ねて来たことはなかったのだろう。離れている間に…色々と変わった状況。だからこそ、クルアールにもまた…理解し合う時間が欲しかったのかも知れない。
遅い時間だとわかっていたが、そのドアを叩くと直ぐに使用魔たるアイラが顔を出す。そして何事もなかったかのように、いつも通りにエースとクルアールを招き入れた。
「ゼノン様と、今日はルーク様もいらっしゃっておりますよ」
そう告げたアイラに、エースの大きな溜め息が零れる。
「…どうしました?」
その様子に、思わず問いかけたクルアール。
「…いや…申し訳ありません。わたしは、これで失礼します。アイラ、クルアール司令官をデーモンの寝室に案内してやってくれ。ルークはクルアール司令官の顔も知っているから心配いらない」
「畏まりました。またおいで下さい」
色々察してはいるのだろう。アイラもそれ以上踏み込まず、素直にエースを見送った。その背中を見送ったクルアールは、小さな溜め息を一つ。
今は、そっとしておくしかない。そう思いつつ、アイラの後に着いてデーモンの寝室へと向かう。そして、その部屋のドアをノックする。
「デーモン様。御客様がおいでです」
『…御客って…こんな時間に…誰?』
アイラが声をかけると、中からドアを開けたのはゼノンだった。そしてその碧の眼差しは、真っ直ぐにアイラの背後に立つクルアールに注がれた。
「…えっと…どちら様…?」
初見のゼノンには、彼が誰なのかわからなかったようだ。怪訝そうに寄せられた眉にそれを察したクルアールは、小さく微笑んで頭を下げる。
「夜分遅くに申し訳ありません。わたしは、軍事局のクルアールと申します。ゼノン博士ですね?初めて御目にかかります」
「クルアール司令官?何でここに…?」
声を聞きつけてゼノンの背後から顔を覗かせたルークに、クルアールは小さく頭を下げる。
「ルーク総参謀長、御無沙汰しております。先ほどまでエース長官と一緒だったのですが、用事があると帰られてしまったので…わたしだけ、閣下の御見舞いに」
そう口を開くと、ゼノンとルークは少し、顔を見合わせる。そして、背後のベッドにいるデーモンを振り返った。
「…デーさん…どう?」
問いかけたルークの声に、デーモンがくすっと笑う。
「あぁ、大丈夫。入れてやってくれ。そんなところじゃ、話も出来ない」
「…どうぞ」
怪訝そうな表情をしながらも、クルアールを促すゼノン。ルークも当然、様子を伺っている。
「久し振りだな、觜輝」
仲魔たちの不自然な様子を苦笑しつつ、デーモンは笑ってクルアールに昔の名前で声をかける。
「久し振り。エース長官が心配なさっていたのでね、顔を見に」
「…そう、か…」
エースがクルアールのところへ行った理由。その繋がりが奇妙だと思いつつ…何処かで何かを察しているかのようなデーモンの表情。けれど、行方のわからなかったエースの居場所と、古い親友の登場に楽しげな姿のデーモンを見てホッとしたのだろう。吐息を吐き出しつつ、顔を見合わせたゼノンとルーク。
「じゃあ…俺たちは帰るから。また明日」
「あぁ、わざわざ有難うな」
ゼノンとルークが部屋から出て行くと、クルアールはベッドへと歩み寄り、その傍にあった椅子へと腰を下ろした。
「どうせ…エースが吾輩のことで、文句を言っていたんだろう…?」
そう口にしたデーモンに…クルアールは目を伏せる。否、既にその表情はクルアールではなく、昔の"觜輝"に、戻っていた。
「そう、だね。かなり…苦しいんだと思う。ずっと…御前の心配をしていたよ」
その声は、とても重い。デーモンが今置かれている状況を、エースに聞いていたことは明確だった。
「御前が…子供を産みたいと言い出したと…そう言っていた。御前の生命を縮めることがわかっていて、無茶をすると…まぁ、何処かで折り合いがつけば納得はするだろう。でもそれは妥協なんだ。わかってるよな…?」
ゆっくりと言葉を紡ぐ觜輝。その言葉に、デーモンもその視線を伏せる。
「わかっている。彼奴がすんなり納得しないことも、納得したところでそれが妥協であることも。でも…何もしない訳にはいかない。エースのことだ。吾輩が死んだら、そこが自分の寿命だと区切りをつけてしまうような気がするんだ。勿論、そんなことを思わずに生きてくれればそれに越したことはない。だが、不安がある以上…吾輩は…まだ、死ぬ訳にはいかない。エースを、道連れにすることは…絶対出来ない」
「…相変わらず、頑固なんだから…」
溜め息を吐き出した觜輝。
「まぁ…わかっていたけれどな。ただ、それは御前の都合であって…エース長官の都合を、何も考えていない」
「觜輝…」
久し振りに会う仲魔。けれど、誰よりもデーモンのことをわかっていて…そして、誰よりもはっきりとモノを言い合える。だからこそ、苦言を呈することが出来る。
「今の魔界に…エース長官は必要だ。確かに、簡単に失って良い生命じゃない。だが、それはエース長官だけじゃない。勿論御前も、だ。だから、真剣に考えろ。自分の生命に、どれだけの価値があるか。御前が出した答えで、エース長官が…どれだけ、苦しんでいるか」
その言葉に、デーモンは溜め息を一つ。
「…わかっていると言ってるだろう?吾輩が言い出したことで、エースをどれだけ苦しめているか。そんなこと、御前に言われなくたって十分わかっているんだ。ただ…エースとのことは、それだけじゃない」
「そうだろうな。簡単なことじゃないことはわかってる。あぁ、御互いに"わかってる"の繰り返しだな…」
苦笑する觜輝に、デーモンは再び溜め息を吐き出す。
「まさか、エースが御前に相談に行くとは思ってなかったんだ。前にエースが御前を訪ねて行ったのは聞いていたが…それから、エースと仲が良くなったのか…?」
話題を変えたデーモンに、觜輝は笑いを零す。
「エース長官と会うのは、あの時以来だ。だが、御前の事を良く知っているから…と、気を許してくれたらしい。相談に来てくれた御陰で、御前の状況も把握出来たし、顔を見に来ることが出来た」
そう言いながら、觜輝は椅子から腰を上げてデーモンの傍までやって来ると、その手を伸ばしてデーモンの頭の上にそっと置いた。
「まぁ、な。俺は別に良いんだよ。御前が子供を産もうが、産まずに生きる道を選ぼうが。俺は、今更御前の生き方に口を挟むつもりはない。ただ、後悔をしない生き方をして欲しい。御前に、倖せになって欲しいだけだ」
「…昔からそう言うよな、御前は。吾輩は十分倖せなんだが」
苦笑するデーモンに、觜輝も小さく笑いを零す。
「御前だけ倖せでも、駄目なんだろう?エース長官も、倖せにしてやらないと。御前を倖せにする為に、エース長官がどれだけ奮起しているか知っているだろう?」
「…まぁ…な」
エースの話を出されると、デーモンも溜め息を吐かざるを得ない。
色々考えてはいる。だが、今の状態ではデーモンの倖せとエースの倖せは噛み合わない。決して、交わることのない平行線なのだ。
「…御前は…どう見る?御前には…吾輩の未来は、どう見えているんだ?」
ふと、問いかけてみる。その言葉に…觜輝は目を伏せ、小さく息を吐き出す。
「悪いな。今の俺に…御前の未来は見えない。離れていた時間が長過ぎる。だが…これだけは言える。選択肢を間違えれば…御前たちに待っているのは、ただの絶望だ」
「…觜輝…」
顔をあげた觜輝は、真っ直ぐに自分を見つめるデーモンの眼差しを見返した。
「俺はな、デーモン…御前が好きなんだ。御前の生き方も、存在そのものも全て好きだよ。だから、エース長官が御前を大事に想う気持ちも共感出来るし、安易な結論を急いで、大事な生命を無駄にするようなことだけはして欲しくはないと思っているんだ。だから、御前が必ず生き永らえると覚悟を決めたのなら、俺は子供を産むことだって納得はする。だが…エース長官はそうじゃない。御前と共に、生きていたい。残された子供と、ではなく…そこには御前も、必要なんだ。だからこそ、生命を縮める行為は極力やめて欲しい。だから、子供は望まない。それでも御前の気持ちもわかっているから…悩んでいるんだ。絶望を、望むはずはないだろう?だから、引けないんだよ」
その眼差しに見えるのは、心からデーモンを心配していると言う思い。仕官学校時代から、幾度、こんな色の眼差しを見たことか。その度に、自分の想いを押し通して来た。そうやって生きることを、黙って認めてくれて…時には迷う心の背中を押してくれた。
大きく息を吐き出したデーモン。
「元々…エースと吾輩は、御互いに血筋を残すつもりはなかったからな。だから尚更なのかも知れない。ただな…状況はどんどん変わって来る。あの頃は、吾輩だって自分の生命の限界がこんなに早く見えるとは思っていなかったしな。だからこそ…良く考えたんだ。吾輩が、彼奴と少しでも長くいられる為に何をするべきなのか。それが彼奴の倖せになるかどうかは…正直わからない。だが…吾輩が出来ることは、限られているんだ。だからこそ、の決断だ。吾輩には…それしか、出来ないから…」
その言葉に、觜輝は暫し想いを巡らせる。
傍から見れば、確かに無謀な行動と見えるだろう。けれど、デーモンにはデーモンの想いがそこにある。觜輝に…それを、無碍にすることは出来なかった。
だがしかし。自分は、その隣に立つ当事者ではない。士官学校にいた頃から知っているとは言え…ただの、傍観者の一名でしかないのだ。
ならば。傍観者として、出来る限りの"御節介"を、焼いてやろう。
大きく息を吐き出した觜輝。そして、以前エースから聞いたことをデーモンに問いかけた。
「…そう言えば…御前は、一族の滅亡が今回の寿命の事にも関係しているんじゃないかと察していたと聞いた。それに、御前とエース長官の出逢いの話がいつになっても噛み合わないと…エース長官が言っていた。デーモン一族が滅んだ翌朝、御前が何処にいたのかと問いかけられたことがある。俺も、あの朝初めて御前から赤き紋様の悪魔の話を聞いたのを覚えている。御前はいつ…エース長官を見かけたんだ…?御前の一族の滅亡を茶化す訳じゃないが…色々なことが、そこに絡み合っているのが奇妙だと思うのは…俺だけ、なのか?」
その觜輝の言葉に、デーモンの表情が僅かに変わった。
「…そのことは…ゼノンにも、聞かれたんだ。だが…正直…吾輩は、覚えていないんだ…あの夜、赤き悪魔の姿を見た記憶はあった。だが…何処で見かけたのか、吾輩にもわからない。吾輩は、士官学校の寮から一歩も出ていない。だが…一族の滅亡の場にいた赤き悪魔の姿は覚えている…それが恐らくエースだろうと、御互いの記憶を探ればわかるんだが…吾輩は、そこにはいなかった。それは、御前もわかっていただろう…?一族の滅亡と、吾輩の寿命とのことは…何となくそんな気がした。一族の滅亡を、唯一免れた。それが吾輩の運命だったとしても…エースと同じように、長くは生きられないんじゃないかとな…」
「…そう、か…」
記憶を辿るように、觜輝は目を閉じる。
あの時…デーモンの一族が滅亡した、あの日の朝。あの時を境に、デーモンは変わったような気がした。
大きく、何か変化があった訳じゃない。ただ…何かが、変わった。ほんの些細なことだったかも知れない。それは思い出せないが…それを思い出せば、何かに辿り着くだろうか?
そんなことを考えていると、ふとあることを思い出した。
「鏡…」
「…は?」
目を開けた觜輝は、真っ直ぐにデーモンを見つめた。
「…鏡。触らなくなったな…?」
「…何の、ことだ?」
きょとんとするデーモン。その表情を見る限り…本当に、觜輝が何を言っているのかがわからないのだろう。
「何度か、見かけたことがあった。御前が鏡に触れて、じっとしているところを。時々独り言を零しながら何か自己暗示でもかけているのかと思っていたんだが…そうじゃない。御前は、聞いていたんだ。鏡の向こうからの、報告を」
「…何を言っているんだ?鏡の向こうからの報告、って…誰の報告を、だ?」
怪訝そうな眼差し。それで、觜輝には全てがわかった。
覚えていないのは…記憶がないから。記憶を、消してしまったから。そして、消したことすら、覚えていないから。多分…それで、間違いはないだろう、と。
大きな溜め息を吐き出した觜輝は、暫し考えを整理する。そして。
「…なぁ、デーモン…御前、生家の鍵、持っていたよな?ちょっと貸して貰えないか?」
「…何をするつもりだ?」
突然の申し出に、当然デーモンの眉間の皺が深くなる。だが、觜輝はそんなことは既に気にしていない。
「探し物、だ。もし、見つかれば…エース長官の心を溶かすきっかけになるかも…な」
「………」
そう言われてしまえば、拒否することも躊躇う。ただ…素直に、頷けない。
「…エースの説得は…吾輩がする。それを御前に頼んでいる訳じゃない」
そう言い切ったデーモンの言葉に、觜輝はふとその視線をデーモンへと向ける。
「そうやって御前が頑なになるから、御互いに意固地になるんだろう?別に、これを期にエース長官ともっと仲良くなろうとか、御前からエース長官を奪おうとか思っている訳じゃないぞ?」
「…吾輩は別に、そんなことを言っているんじゃない…っ」
半ば図星だったのだろう。すっと赤くなった頬に、觜輝はくすっと笑いを零す。そして、再びデーモンの頭の上に、そっと手を置いた。
「ヒトの好意は素直に受け取れ。御前が駆け回る手間を省いてやろうって言ってるんだ。そうすれば、それだけ早く手を打てる。早く、子供を産めるかも知れないだろう?御前の延命の手伝いをするんだから」
「…延命って御前なぁ…今にも死にそうな状態じゃないんだが?」
「延命には変わりないだろう?死にそうになってから微々たる生命を延ばすよりも、元気なうちに延ばした方が長生き出来ると思わないか?」
「…そりゃ……」
すっかり觜輝のペースに流されているデーモン。以前なら、そんな言葉にも反抗していただろうが…流石に正論で押されたこの状況では、反論の余地もない。
だがしかし。
「エースには…吾輩が、自分でちゃんと話をしたいんだ。吾輩の気持ちを、きちんと理解して貰いたい。そして、エースの想いも、彼奴の口からきちんと聞きたい。誰かの協力の末に…ではなく、きちんと向かい合いたい。それが、これから先共に生きて行く為に必要なことだと思っているんだ…」
小さな吐息と共に吐き出された想い。ただのヤキモチではなく…そこにあるのは、純粋に、相手を思う気持ち。
「…成程な。まぁ、それが御前の想いであるのはわかった。でも、さっきも言った通り…それは、御前の願いであって、エース長官が快諾する要因になるとは思えない。御前の気持ちはエース長官だってわかっているんだ。だからこそ、平行線なんだろう?だとしたらエース長官はきっと…全部理詰めで納得したいんだと思う。過去の御前も全部、今に繋がる。それを、自分自身の中で納得したいんだと思う。少なくとも俺は、エース長官と話をして…彼の苦悩を打ち明けられて、そう感じた。そこに繋がる全てを説明出来る訳じゃないが…それでも、彼の心に引っかかっている想いが納得出来れば、状況も変わって来ると俺は思うんだが」
觜輝の言葉に、デーモンはエースの顔を思い出す。
最後に見たエースの顔は…確かに、苦悩の色が見えた。ただでさえ、他の仲魔たちよりも寿命が短いのだとわかったばかりなのに…追い討ちをかけるように子供を産みたいと言い出したことも、その苦悩に追い討ちをかけているのは間違いないのだ。
エースのことを思えば…自分だけの説得には、限界がある。
「…デーモン。最後にエース長官と話をするのは、御前だよ。俺は、その手助けをするだけだ。勿論、御前の他の仲魔も同じことを考えていると思う。苦しめたい訳じゃない。救いたいんだ。御前の事も…エース長官の事も。その気持ちは、理解して欲しい。それに…御前だって、知りたいだろう?自分に、何が起こったのか」
そう言いながら、その手でデーモンの頭を撫でる。
穏やかな口調。穏やかな声。感情を露にはしない觜輝に、デーモンは大きな溜め息を吐き出した。
いつになっても噛み合わない、エースとの出逢い。それが明らかになるのなら…
ベッドから降りたデーモンは、クローゼットの奥にしまってあった箱の中から、更に小さな箱を一つ持って戻って来た。そしてそれを觜輝へと渡す。
「…吾輩は…妥協、だからな…」
「わかってるよ」
苦笑しながら小箱を受け取った觜輝は、再び手を伸ばしてデーモンの頭を掻き混ぜるようにぐりぐりと撫で回す。
「じゃあ、ちょっと借りるから」
そう言ってそそくさと踵を返した觜輝。
「今から行くのか?」
話をしている間に、日付は変わっている。こんな夜中に…と言いたげなデーモンに、觜輝はくすっと笑う。
「悪いな、これでも本職が忙しいんだ。時間が勿体無い」
「…ったく…」
その溜め息を了解と取り、觜輝は軽く手を上げて挨拶をすると、そのまま寝室を出て行った。
その背中を見送り、溜め息を吐き出すデーモン。
何かが変わるきっかけが、そこにあるのなら。
自分では見つけられなかった真実を、觜輝なら見つけられるかも知れない。そんなささやかな願いが、そこにはあった。
遠い、記憶を辿る。
しんと静まり返った屋敷の中。今は誰も住んでいないのだから、当然誰の気配もない。まるで廃墟のような古い屋敷の中を、ただ黙って進む。そして、聞いた記憶を頼りに、地下への階段を降り、そのドアの鍵を開ける。
そこは、古い本が沢山詰まった書庫。そこに足を踏み入れ…そして、目を閉じてじっと意識を飛ばす。
その脳裏に映るのは……遠い日のヴィジョン。
小さな子供が、そこにいる。
「……ここ、か…」
子供が立った、本棚の前へと足を進める。そして、彼が手を伸ばした同じ本を、手に取る。
そして、その記憶の通り、彼の部屋へと進んで行った。
遠い記憶の中と同じ家具の配置。記憶の通り、あちこち探した末…古びた紙片を探し出した。
その紙片は、もう文字も読めないくらい擦り切れている。けれど、それでも十分だった。
「ちょっと…借りるから、な」
小さく声を零し、その両手で紙片をそっと包み込む。そして、再び目を閉じて、記憶を辿る。
そうして暫し。
大きな吐息を吐き出すと、そっと目を開けた。
その目に溢れた涙。一筋、二筋と頬に流れた涙を拭い…再び大きく息を吐き出す。
小さな子供。独り立ちするには、まだ早い。けれど…決断するしかなかった。
その想いは…簡単には、理解出来ない。
再び溜め息を吐き出すと、少し考えた末に紙片をポケットへとしまう。そして書庫から持って来た本と共に、その屋敷を後にした。
自分に…何処まで、出来るだろうか。
その想いは、今はまだ、ただの不安でしかなかった。
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COMMENT
プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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