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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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がらすのゆめ 前編
こちらは、以前のHPで2003年4月6日にUPしたものです

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◇◆◇

 魔界では、数多くの種族が存在している。けれど、その種族の全てが子孫を繋げていけると言うことでもないのが実情であった。
 繁栄して行く種族の陰で、衰退して行く種族があるのもまた然り。
 衰退して行く種族の想いは、彼らにしかわからない。

 それは、彼らがまだ士官学校を卒業したばかりの頃。希望の局に努め始めて間もない彼らには、まだ知らないことも沢山あり、それ故に沢山の出逢いもある訳で…
 ここに、一つの出逢いが存在していた。

◇◆◇

 情報局に入ったばかりの彼…エースは、次の任務地の資料を探しに、情報局が管理する膨大な資料室へとやって来ていた。そしてそこで、一名の悪魔の姿を見つけた。
「ゼノンじゃないか。お前も何か資料を探しに来たのか?」
 士官学校時代の知り合いの姿に、そう声をかけたエース。相手…ゼノンは、高い本棚を見上げつつ、既に何冊もの本を手にしていた。
「あぁ、エース。久し振り。エースも資料探し?」
「…まあ、な。冴えない惑星の探査任務だけどな」
 小さな溜め息を吐き出すエース。その桁外れな実力を買われて情報局に入局したにも関わらず未だに下働きのような任務しか回って来ないエースは、常に溜め息ばかり吐き出していた。
 学生時代の強気のエースを知っているが故に、ゼノンは苦笑するしかないのだが。
 そしてゼノンもまた、希望であった文化局に入局し、研究に勤しんでいた。エースが先に士官学校を卒業して以来の再会だったが、二名の関係は昔のまま、であった。
「何の資料を探してるんだ?」
 ゼノンの熱心な視線を追いながら、隣で同じように本棚を見上げたエース。その視線の先には、どうやら魔界に存在する数多くの種族に関する資料に向いているようである。
「…"仮面師"って、知ってる?」
「…は?」
 不意に問いかけられ、思わず間抜けな声を零したエース。
「あぁ、聞いたことはあるが…数千年前に数魔確認されてからは、その存在は確認されていないとか…」
 記憶を辿りながら、エースはそう答えを返す。
「そう。俺も、そう思ってたんだ。でも…ちょっと気になる話を聞いてね…」
「気になる話…?」
 奇妙に眉を顰るエースを横に、ゼノンは手を伸ばして目的の本を手に取った。
「西の僻地に砦があるの、知ってるでしょ?」
「あぁ。昔、何処かの一族がいたって言う砦だろう?殆ど崩れて、もう役に立たないはずだ。取り壊しも決まっていたんじゃなかったか?」
「そう。取り壊しの予定は来年。それに伴って、最終的な調査に行った報告書があるんだけど…」
 話しながらも、ゼノンは手に取った本をパラパラと捲っている。その、はっきりしない態度に、エースも苛々し始めた時、ゼノンは捲っていた本をパタンと閉じると、真っ直にエースの顔を見つめた。
 興味津々の笑みを浮かべた、その表情で。
「いるらしいんだ。その砦に、"仮面師"の生き残りが」
「…何だって?」
「面白いと思わない?滅んでいるかも知れないと言われている種族が、まだちゃんと生きていたんだよ?研究材料としては、この上ない存在だよね?」
「…ったく、お前は…」
 滅びかけている種族が研究材料と言われ、流石のエースも溜め息を吐き出した。
 彼もまた、邪眼族の生き残りなのである。だからこそ、そう言う扱いには些か納得の行かないところもある。
 だが、ゼノンとて悪気があってやっている訳ではないのだ。
 一族の衰退の理由を知ることによって、同じような環境を作らないようにすることで、滅亡しかけている一族を救うことは出来る。その為の研究なのだから。
「…で、お前はその"仮面師"を新しい研究素材にするつもりなのか?」
 新たな興味をそそられて嬉々としているゼノンを横目に、エースは小さな溜め息を吐き出す。
「もし、現存しているなら逢ってみたいよ。でも、まだ確定じゃない。もう一度きちんと調査をして、ちゃんとした生存確認をしないとね。ウチの上司も乗り気だし、俺も調査活動には多分参加させて貰えそうだから」
 エースとて、未知なる存在である"仮面師"に対して、興味がない訳ではない。ただ、ゼノンのように、あからさまに興味をそそられる、と言う訳でもなかった。だからこそ、ポーカーフェイスも崩れなかったのだ。
「…そう言う時ばっかり、妙に活動的なのな、お前は。普段は研究室に籠っているクセに…ま、好きにしてくれよ。俺はまた直ぐ、任務で遠出するから」
 溜め息を吐き出しつつ、そう言葉を放ったエースに、ゼノンの嬉々としていた表情が常に戻った。
「今度は何処の惑星?」
「さぁな。上司に聞いてくれ」
----じゃあな。
「気をつけてね」
 相変わらずの無表情で、軽く手を上げて去って行くエースを見送り、ゼノンは再び、手にしていた本に目を向ける。そこには、"仮面師"に関する記述がある。本格的な調査を始める前に、予備知識ぐらいは身に付けて置きたいと言う思いで、ゼノンは数冊の本を手に、文化局へと戻って行ったのであった。

◇◆◇

≪仮面師≫
 仮面師とは、他種族の細胞(髪の毛・爪など)が一つでもあれば、それを自身の仮面に取りこむことによって、その細胞の持ち主の姿形・声までも、完璧に模倣出来る者のことを指す。
 かつては魔界に数万魔といた種族であるが、軍事局・情報局などでスパイ行為の戦力として利用されることも多く、数千年の間に激減した種族として有名である。
 千年程前に数名の仮面師の存在を確認したが、それ以降は確認されていない。

◇◆◇

 研究室のコンピューターで資料の検索をしていたゼノンは、画面を占める資料を読みながら、大きな溜め息を吐き出していた。
 "仮面師"の一族の衰退に興味を覚えたものの、原因はごく身近にあるような気がしてきて、憂鬱さを増すばかりであった。
 資料に目を通せば通すだけ、その能力の偉大さを感じつつ、その能力故に利用され続けた結果の衰退。そんなことに興味を持ってしまったことが何だか気持ちを静める結果となっていた。
 割り切ってしまえばそれはそれで過ぎ去っていたかも知れないが、研究者として歩み出したばかりのゼノンには、どうしても親身になってしまう悪い癖がある。それが彼の良いところでもあるが、研究者としては欠点としての方が大きいのだ。
 溜め息を吐き出すゼノン。だが、既に調査を始めることは決定されていること。後戻りは出来ないのだ。
 コンピューターの画面を見つめながら、幾度目かの溜め息を吐き出した時、彼の背後に気配を感じた。
「また睨めっこか?」
「…主任…」
 そこにいたのは、彼の直属の上司。そして、今回の"仮面師"の調査にも乗り気である上司。
「研究熱心なのは良いが、余り深入りしない方が良いぞ?お前は特に、のめり込むタイプだからなぁ」
「…はぁ…」
----もう、踏みこんでしまったんだけどね…
 そう言いたげな表情のまま、画面を見つめているゼノン。彼の上司も、同じようにコンピューターの画面を覗き込み、ゼノンの睨めっこの原因を見つけたようだった。
「…"仮面師"が激減した理由に、引っかかっているのか?」
「………」
「まぁ、お前なら引っかかるだろうなぁ。こんな、興味も薄れるような報告じゃあな」
 くすくすと小さく笑いを零し、不服げな表情を浮かべるゼノンを、後ろから見つめた上司。
「お前は知らないだろうが…昔はな、利用出来るモノは何でも利用したんだ。軍事局、情報局に限らず…この文化局でさえも、な」
「…どう言うことですか?」
 振り返り、思わず問い掛けた声に、上司は柔らかな笑みを浮かべたまま、ゼノンを見つめていた。
「覚えているだろう?お前がクローン生物の培養室に入った時のこと」
 そう問いかけられ、一瞬口を噤んだ。
 忘れるはずはない。解せない気持ちは、今も尚、変わらないのだから。
「あの時の上官にね、話を聞いたよ。お前は最後まで、クローン生物を廃棄することに納得しなかったとね。だが、言わばあれも同じことだ。実験や研究と称して、例えクローンであるとは言え、一つの生命を投資する。研究の為に、利用していると言えばそれまでだ。だから、お前なら、引っかかると思っていたんだよ」
「………」
「勿論、無駄に利用することを由としている訳じゃない。だが、生命には必ず役割と言うものがあるんだ。かつての軍事局や情報局は、その役割だと称して、"仮面師"を利用していた。その為の能力だと肯定してね。その結果がこの事態だ。だが、誰もそれを悪いと思ってやしないだろう。あの頃は、それが普通だったんだからな」
 思いがけない話に、ゼノンはただ息を飲むことしか出来ずにいた。
「今更、どうにもならないだろう?滅んだ生命はもう戻らない。だから、今更当時の責任者たちを責める訳にも行かない。だが、それならば違う道を選べば良いんだ。滅びかけた生命を救うと言う道を、ね」
「主任…」
 くすっと、笑いを零す上司。
「お前になら、出来るだろう?過去を否定するよりも、未来に向かって道を切り開く。わたしがお前を適任者だと思った理由はそこなんだけれどね。お前なら、きっと何か出来ると踏んだのだがね」
 まだ、この研究室に入って間もない彼に、これ程までの期待を上司が持っていたとは、想像もつかなかった。けれど、その言葉で何かが吹っ切れたような気がしたのだ。
 それを実行に移すべく、ゼノンはイスから立ちあがった。
「あの、主任…」
「ん?どうした?」
 いつにない表情で立ちあがったゼノンに、上司は当然驚いている。だが、そんなことに構っていられなかった。
「この間、西の砦での調査隊に入れて貰いたいと言う話をしましたが…あれは取り消します」
「取り消すって…どう言うことだ?」
 突然の展開に、当然訳のわからない上司。
「王都に残って、自分なりに資料の整理をしてみたいのですが…」
 その申し出に、暫くゼノンの表情を見つめていた上司。けれど、やがてその表情は小さな笑みに変わった。
「そうか。なら、そうしてみると良い。わたしは予定通り、調査に出かける。その時にわかったことも逐一お前に報告しよう。それで、お前なりに考えてみると良い」
「有難うございます」
 深々と頭を下げるゼノン。つくづく良い上司に恵まれたことを、感謝せずにはいられなかった。

◇◆◇

 調査隊が西の砦に出発して数日後、ゼノンは研究室のコンピューターの前で、相も変わらず、研究資料と睨めっこをしていた。
 いつも研究室にいる研究員たちは、それぞれの研究に没頭している。"仮面師"に関わっている他の研究員たちは、みんな調査隊と一緒に出てしまっている。と言うことは、その調査隊から送られて来る資料を整理するのは、唯一研究室に残ったゼノンだけ。自分で言い出したことは言え、その全ての資料を一名で整理するのは、とてつもない苦労を伴うことであった。
 けれど、その頃からちょっと気になり始めたこと。それは、朝、研究室にやって来ると…モノの配置が微妙に変わっていたりするのだ。
 勿論、他にも研究員がいるのだから、ゼノンが帰ってから、誰かが手を付けたのかも知れない。しかしながら、漠然とした不安を感じたことは間違いなかった。
 そして、その事件が起こったのは、調査隊が出発してから一週間後の朝だった。

 登庁したゼノンが研究室へとやって来ると、何やら騒がしい。
「…おはようございます…」
 奇妙な騒々しさを怪訝に思いながら研究室の扉を開けてみると、既に登庁していた数人の研究員たちの視線がいっせいに彼に向いたのだ。
「ゼノンっ!呑気に挨拶している場合じゃないぞっ!」
「…え…?」
「ほら、見てみろよ」
 同僚に促されるままに、彼がいつも使用していたコンピューターの画面を覗きこむ。そして、その画面に表示されている文字に、思わず息を飲んだ。
『コレイジョウカカワルナ』
「ちょっ…何これ…」
 思わず零した言葉に、同僚の溜め息が零れる。
「それを聞きたいのはこっちだよ。研究室は荒らされて、俺たちの研究資料は全部ぶちまけられているし…」
「…研究資料…」
 その言葉に、ゼノンも慌てて周囲に目を走らせる。
 床に散乱した紙の資料は、それぞれの研究員が自分の資料を探しながらある程度片付けてあるようだったが、どう見てもゼノンが整理していた資料らしきものは見当たらないのだ。おまけに、メインコンピューターの中に入れてあった参考資料や整理したばかりの研究資料も全て、綺麗になくなっていた。
「…やられた…」
 突然の盗難事件に、落胆の溜め息しか出て来ない。
「つまり、お前の研究が狙われているんだろう?だったら、俺たちを巻き込まないでくれよな。こっちの研究にまで被害が及んだらどうするんだよ」
「…そう言われても…」
 研究員の気質もあるのだろうが…みんな、自分の研究を護るのが精一杯で、盗難にあったゼノンの研究のことを心配する者は誰もいない。おまけに、この研究室の主任のお気に入りで将来有望、と言われているゼノンが相手なのだから、多少の嫌味も日常茶飯事。当然、ゼノンは文句を言いながら片付けをする研究員たちの射るような視線を感じながら、全く訳のわからない状況に溜め息を吐き出すしかなかった。

◇◆◇

 その日の終了時間も疾うに過ぎた夜半頃、ゼノンは情報局の地下にある、特攻隊第二部小隊の部署室へと来ていた。そこには、任務から帰ったばかりのエースが、コンピューターに向かいながら報告書を作成している。
「……で?資料は根こそぎ持って行かれたのか?」
 エースの背後には、溜め息ばかり吐き出しているゼノンがいる。今朝の惨事の報告を聞きながら、エースは自分の報告書作りの合間に口を挟む。
「…メインコンピューターに入っていた資料全部と、プリントアウトした紙の資料が全部ね。情報局の資料室から借りたモノはもう返してあったし、主任からの報告資料はサブコンピューターに移しておいたから、その辺は運良く被害は免れたけど…一体、どうなっているんだか…」
「…盗んだ奴にしてみれば、余程気に入らない研究だったんだな。根こそぎ狙うと言うことは、そう言うことだろう?」
 一息吐いたエースは、くるりとイスを回転させると、溜め息を零すゼノンに向き合った。
「心当たりは?」
「…なくはないけど…」
「と言うと?」
 エースも、多少興味を覚えたようだ。ゼノンの話に喰い付いて来ている。
「…ほら、この間話したでしょう?生き残りがいるらしい、って…」
「あぁ、"仮面師"の、だろう?」
「そう。主任たちが調査に出かけてから、研究員じゃない誰かが、研究室に出入りしているような気はしていたんだ。そしたら、この事態でしょう?まさかとは思うんだけど…"仮面師"の研究を妨害しようとする奴等なんて、そうそういる訳でもないだろうし…一番可能性があるとすれば、やっぱり…"仮面師"かな、って…」
「…成程な。お前の見解は尤もだが…だからと言って、"仮面師"自ら、危険を犯してまで侵入するか…?」
 怪訝そうに眉を潜めるエース。だが、ゼノンはその言葉を否定した。
「…"仮面師"だから、出来るんじゃないかな、と思うんだけど…」
「どうして?」
「"仮面師"の能力の特性を考えれば、簡単なことじゃない?研究員の誰かの髪の毛一本あれば、怪しまれずに本魔に変われるんだよ?そうしていればバレないんだもの。これ以上の安全策はないでしょう?」
「…そう、か…」
 エースも納得した様子だった。だが、だからこそ厄介だといえばそれまでなのだが。
 "仮面師"だからこそ、探し出すことは難しい。ゼノンの溜め息の原因はそれだった。
「研究員の誰かを特定して疑うことも出来ないし、誰に変装しているかもわからないんだもの。手の打ちようがないんだよね…」
「まぁ…な」
 何かを考えているようなエース。しかし、"仮面師"を相手にして、今のところ有効な手立てがないのも実情。
「…他に、研究室は空いてないのか?」
 ふと零した言葉。
「他の研究室に移れ、って言うんでしょう?残念ながら無理。研究室は殆ど埋まってる。只でさえ同じ研究室で3つも4つも研究抱えてるんだよ?研究室に余裕があったら、もっと前に振り分けてるよ。それに、仮にあったとしても、俺如き一研究員に一部屋貸してくれる訳ないじゃない」
「悲しい現実だな。俺だって、こんな地下室で報告書なんか書きたくないが…」
 溜め息を吐き出すエース。だが、今はそんな愚痴を零している場合ではない。
「とにかく、今残っている資料だけでも安全なところへ移さないとな。お前が研究室にいる間は安全なんだから、お前がいない時間をきちんと管理出来るところ、だな。次は、サブコンピューターも狙われるだろうし…」
「…暫く、泊り込むしかないかな…それが一番確実だろうし」
 苦悩の表情でつぶやくゼノン。エースにもその気苦労はわかるのだが、手伝ってやる訳にも行かない。
「もう少ししたら、調査隊も帰って来るんだろう?それまでに、また研究資料を纏めなきゃならない訳だし、それが一番良いんじゃないか?」
「…他悪魔ごとだと思って…」
「馬鹿言え。俺だって、忙しいんだぞ?でなきゃ、こんな時間に一名で部署室に残って報告書の作成なんかするか…っ」
 確かに、既に夜半を過ぎていることもあり、情報局の中はひっそりとしていて、夜勤以外に残っているモノもいないのだろう。
「また惑星担当?」
 急いで報告書を仕上げなければならない状況は、他にないだろう。
 問いかけたゼノンの声に、エースは溜め息で答える。
「そ。また惑星探査。近いうちに出発するから、それまでに今回の報告書を出して、新しい資料揃えて…全く、良いようにこき使われてるよ」
「そう。エースも大変だね…」
「今に見てろよ、って感じだけどな」
 小さく溜め息を吐き出すエース。今は、その想いを気力にするしかない。
「ま、頑張れ。今は、やるしかないんだからな」
「…まぁね」
 結論は、それしかなかった。

◇◆◇

 それから二日間、ゼノンは研究所に泊まり込むこととなった。
 どのみち、盗まれた研究資料をもう一度作らなければならないのだから、その分の徹夜と考えればまだ気は楽であったが…しかし、得体の知れない犯魔が野放しになっているのだから、終始緊張しているのは当然のこと。常に回りを気にしつつの作業故に、心身共に疲れきっていた。
 そして、三日目。その日の夕方、終了時間を過ぎた頃、ゼノンがいる研究室を訪れたのはエースだった。
「よぉ」
「…エース…どうしたの?」
 もしかしたら"仮面師"の変装かも知れない。そんな警戒心を抱きつつ問いかけた声に、エースは小さな笑いを零した。
「様子を見に来たんだ。明日から任務に出かけるからな。因みに、本物」
「…ま、信じましょう」
 小さな溜め息を吐き出しながら、ゼノンはエースにイスを勧めた。その一部始終を、エースは興味深そうに眺めていた。
「相当堪えているみたいだな」
 ゼノンの表情に浮かんでいる焦燥感に、エースは軽く笑いを零しながらそう口を開いた。
「まぁね。でも二日徹夜して、盗まれた分は一応修復完了。あと、追加で来た研究資料を纏めるのが残っているけれどね。でもまぁ、主任が戻って来るまでには間に合うかな。今日はやっと宿舎に帰って眠れるかな」
 大きく背伸びをしながらそう零すゼノン。だが、ゼノンのその言葉にエースの表情が僅かに変わった。
「"奴"はもう来ないと?」
「さぁ。どうだろう。俺にもわからないけれど…まぁ、資料は全部持って帰るつもりだからね。研究室に残しておかなければ盗まれることもないでしょう?」
「お前の宿舎が安全なら、な」
「…また意味深な台詞を残していくんだから…」
 溜め息を吐き出すゼノン。だが、目の前のエースは至って真剣な表情であった。
「文化局の寮なんて、言わば誰でも出入り自由な宿舎だろう?重要な情報が眠っている訳じゃあるまいし、厳重な警備だってしていないんだから」
「そりゃ…情報局の宿舎みたいに警備は厳重じゃないけど、まるで無頓着な訳でもないよ?一応、見張りはいるし…」
 そう。余程の身分でもない限り、殆どの者は各所属局の寮を宿舎としている。エースもゼノンも例外ではなく、その宿舎にいる訳だが…当然、所属局の仕来りにより、その警備の厳しさも違う訳で…
 重要な情報を扱う情報局の宿舎の警備は厳重であり、宿舎に仕事を持って帰ることの少ない文化局の宿舎の警備は手薄であることに間違いはない。
 つまり、ある意味では、この研究室よりも危険度は高いかも知れないのだ。
「"仮面師"相手に、見張りが何の役に立つんだよ。誰にだって成りすませば、簡単に入れるだろう?」
「じゃあ、俺にどうしろって言うの…言うだけ言って、お前は関わらないんだから…」
 どう足掻いたところで、安全を保障出来る場所など見つからないのだ。ならば、仕方のないこと。
「…まぁ、一晩だしね。何とかなるでしょう」
 諦めなのか、潔いのか…。ゼノンはイスから立ち上がると、徐ろに研究資料を纏め始めた。
 コンピューターに入っている資料は全てメモリファイルに移し、コンピューターの中身を空っぽにする。そしてそのメモリファイルとプリントアウトした資料を一纏めにしてバックの中に仕舞い込むと、そのバックを持ってエースを振り返った。
「さて、今日はもう帰ろうよ。エースも明日出発でしょう?だったら、寄り道しないで早く帰ろうよ」
「…そうだな」
 割り切ったゼノンの姿に、エースは笑いを零す。そして自分もイスから立ち上がると、他に誰もいない研究室をぐるりと見回した。
「…どうしたの?」
 問いかけた声に、小さな溜め息を吐き出す。
「…この研究室の奴は、みんな薄情だと思ってさ」
 その声に、ゼノンも研究室をぐるりと見回す。
 他に誰もいない研究室。定時になると、みんなそそくさと帰ってしまう気質もあり、残業しているのはゼノン一名なのだ。
「しょうがないよ。研究の結果は、そっくり自分の成績だもの。上手く行かなければ出世は出来ないからね。出世したい奴は、自分の研究で精一杯。他悪魔の研究なんか興味ないんだもの」
 文化局の特殊な雰囲気に溜め息を吐き出しつつも、自分もそうなのだから仕方がない。そう言った表情を浮かべたゼノンに、エースは呆れたような笑いを零していた。
「さて、帰るか」
「うん」
 エースに促され、ゼノンはコンピューターの電源を落とし、戸締りを確認して研究室を後にする。
 そして、玄関まで向かう道すがら…エースはふと、ゼノンに問いかけた。
「…なぁ、ゼノン…どうして"奴"は、研究資料なんか盗んだんだろうな…?」
「…どうして、って…どう言うこと?」
 それは、奇妙な問いかけだった。
「だから…研究資料を盗む、って言うことは、研究を妨害する、って言うことだろう?そんなことをする理由は何か、って言うことだよ」
「…研究を妨害する理由…?」
 また、奇妙なことを言い出した。ゼノンの表情はそう語っている。だが、よくよく考えてみれば、エースが問いかけた疑問も尤もなこと。
 新たな疑問に悩み始めたゼノンの姿を振り返りつつ、エースは笑いを零した。
「ま、ゆっくり考えてみろよ。調査隊が帰って来るまで、まだ時間はあるんだからな」
「…自分で疑問を増やしておきながら、良く言うよ…」
 溜め息を吐き出すゼノン。だが、エースはそれを面白そうに眺めていた。
 そして、玄関までやって来ると、エースは一旦足を止めた。
「じゃあな。職務から帰って来たら、またゆっくり話を聞かせて貰うことにするから」
「…あんまり期待しないでよね。それより、惑星探査だって言って、気を抜かないようにね。気を付けて」
「あぁ。わかってるよ」
----じゃあな。
 軽く片手を上げ、エースはゼノンが向かう方向とは逆の方向に向かって歩き始めた。
 その背中を見送ったゼノンは、再び深い深い溜め息を吐き出していた。
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如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
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非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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