聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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鏡の魔法
その日は久々に良い天気だった。
そんな日は朝から機嫌も良くなる。
本屋で買い物中にも関わらず、知らず、鼻唄が零れたりしている事にふと気が付き、自分の上機嫌ぶりに小さく笑いを零す。
「随分機嫌良いね~」
背後からそう声をかけられて振り返ると、久々に見た顔がある。
「…おう、久しぶり…」
声をかけられるなんて予想もしていなかった為、ちょっと動揺した返事を返してしまう。
「元気だった?」
にっこり笑顔でそう問いかけられ、小さく頷く。
「お前は?」
問い返したものの、相手の顔を見れば、元気そうなことは一目瞭然だった。
「元気、元気。まぁ、あれこれ雑用で忙しいけどね」
雑用で忙しい、とは言うものの、その表情は満更でもない。きっと、充実しているのだろう。
「最近忙しいの?」
もう一度、問いかけられる。
「まぁ…な」
どうも、歯切れの悪い返事しか返すことは出来ないのだが…相手もそれは察してくれているようだ。
正直なところ…彼が、他の構成員と顔を合わせたのは、再結成のあの後、何度あったか記憶に残っていなかった。ただ、久し振りにその顔を見た、と言うことには間違いはなかったが。
勿論、同じ業界にいるのだから、噂ぐらいは簡単に耳に入って来る。誰もが、恐らくは充実しているであろうことも。
「これから時間ある?良かったら、お茶でもどう?」
そう問いかけられ、ふと腕時計に視線を落とす。
「あぁ…一時間ぐらいなら…」
「オッケー。じゃ、ちょっと行こうか」
流石に、長々と立ち話をしていられる場所でもない。
彼は促されるまま、相手の誘いに乗ることにした。
「…ねぇ、清水さん。あれからエースと連絡とった?」
「……何だよ、藪から棒に…」
近くの喫茶店に入り、注文したコーヒーがテーブルに置かれた後、徐ろにそう問いかけられた。
「だってさぁ~?やっぱり心配じゃない?ホントに用がなきゃ、連絡なんかしないでしょ?あんたたち、お互いに意地っ張りなんだから」
彼の顔色など全く気にせず、正面に座った篁はニヤッと笑った。
「…そう言うお前はどうなんだよ?もう直ぐだろう?ルークと連絡取ってるのか?」
彼がそう問いかけると、篁は両手を上に上げて、う~んと背筋を伸ばした。
「そりゃあね、こっちももう間際だからね。毎日連絡は入れてる。まぁ、忙しいみたいでさ、返事は3回に1回ぐらいだけどね」
「…他の奴等は?」
「そりゃ、みんな同じくらいじゃない?詳しくは聞いてないけど」
「…へぇ…」
篁の答えは、至極当然だった。
もう直ぐ、再々々結成のツアーが始まる。
彼を、除いて。
疎遠なのは、自分だけ。それがずっと心の何処かで燻っていた。
「…なぁに、今更気にしてんの?」
彼の表情を見て、篁は小さく笑う。
「…そう言う訳じゃ…」
そうは言いつつも、明らかにその表情は気にしている。
「別にさ、俺たちはあんたを除け者にしている訳じゃない。あんたにもエースにも都合ってモンがあるし、キャンセルしたからって構成員でなくなった訳じゃない。その気になればいつでも連絡は取れるんだし、あんたの都合がつけばツアーにだって…」
その話は、幾度も聞いた。説得もされた。けれど、それを選ばなかったのは、彼の一方的な都合で。
「まぁ…そのことに関しては、今更どうにもならないだろうし、俺もお前らの予定を壊すことはしないから。こっちも忙しいしな」
幾度となく、同じ言葉を返す。今は、それしか出来ない。
「…ねぇ…清水さんさぁ…この際だからはっきり聞くけどさ。ホントはエースに会いたいんじゃないの…?何だかんだ言ってもさ、結局のところ、エースまでもが魔界を留守にすることに抵抗があるからでしょ?ルークも言ってたけど、デーさんも魔界にいない今、結構大変みたいじゃない?"ツアーはジェイルがいるから大丈夫。自分は魔界に残る"、だとか言ってるんでしょ?その気持ちがわからない訳じゃないし、他の構成員だってみんな心配はしてるんだよ。でも、あのエースだからね、一筋縄じゃいかない。それに、あんただって忙しいとか便乗しちゃってるでしょ?そんなことして、無理に距離とる必要なんかないじゃない?まぁ、ミサツアーに関してはしょうがないにしてもさ、連絡ぐらいしてあげなよ…?まぁ、そう簡単に捕まらないかも知れないけど…」
真剣な表情の篁。その真っ直ぐな眼差しは、昔と全く変わらない。
「エースにはっきり言いなよ。たまには顔が見たい、って」
「…お前なぁ…」
ホントに、はっきり言ってくれる。まぁ、それでこそ"ルーク"なのだが。
確かに、呼びかけることは難しいことではない。一番簡単な方法は、鏡に向かい合って、呼びかけること。たったそれだけで良い。
そう、鏡に………
「………?」
「…どしたの?」
ふと、動きの止まった彼に、篁は首を傾げる。
「…何で、鏡なんだろうか…?」
「…はい?」
つぶやいた彼の声に、篁は更に首を傾げる。
「何で、って…何が?鏡がどうかした訳?」
訳がわからずに問いかける声は、既に彼の耳には届いていなかった。
「…駄目だ、こりゃ…」
すっかり自分の世界に入ってしまった彼に、篁は溜め息を一つ。そして、折角だから…と、暫しその顔をぼんやりと眺めてみた。
昔は、年中眺めていたその顔。解散して、ちょっぴり距離は遠くなったような気もするが…その距離を縮める方法は幾らでもある。
既に冷めてしまったコーヒーのカップを手に、篁は彼に声をかける。
「ルークから、エースに伝達して貰うよ?そのうち、あんたから連絡が来るだろう、ってね」
「……は?」
その言葉にふと我に返った彼に、篁はにっこりと笑った。
「さて、俺はそろそろ行かないと。今日は俺の奢りだから。じゃ、またね」
「ちょっ……」
篁はコーヒーを飲み干すと、伝票を手に行ってしまった。
「…ったく…」
小さく溜め息を吐き出しつつ、彼もカップのコーヒーを飲み干す。
気分的に、すっきりしない。つい一時間前まで上機嫌だったはずなのに、今は心の中がもやもやしている。
「…鏡、ねぇ…」
再び、そう言葉を零す。そして溜め息をもう一つ吐き出すと、席を立った。
その夜のこと。
日付が変わる頃、彼の携帯に一本の電話がかかって来た。
「……石川?」
相手の番号を確認して、溜め息を一つ吐き出すと、電話に出る。
『清水さん?ごめんね、夜遅くに』
「あぁ…まだ起きていたから大丈夫……で、何の用だ?」
『昼間、篁に会ったでしょ?で、清水さんが苦悩してるって言ってたから、相談に乗れ、って言われてね』
「苦悩って……」
冗談にも程があるが、それを真に受けたのか、真面目に連絡を入れて来る石川に、彼は小さく笑いを零した。
「お前も律儀だな」
『うん、暇だったからね』
「…だろうな」
笑いながら答えを返す石川に、彼も笑いを零した。
『元気?』
改めて、そう問いかけられる。
「あぁ。お前は?」
『元気だよ』
「そうか。湯沢とは上手く行ってるのか…?」
かつて、主の悪魔たちと同じように恋人同士だった二名だが、微妙な距離に落ち着いているようだ、と言う話は聞いていた。けれど、それを問いかけても良かったのだろうか…?と言う戸惑いが声に乗っていたのだろう。石川はくすくすと笑っていた。
『大丈夫だよ。俺たちのことは心配しなくていいから』
その声は明るくて、おそらく平穏な日々なのだろう。
「…そうか」
そう返して、一つ吐息を吐き出す。
そして、暫しの沈黙。
『……で、何に苦悩してるの…?』
沈黙を破るようにそっと問いかけてきた声。
「…あぁ……」
余り気乗りはしないが…聞いてみるなら、石川が一番ちゃんとした答えを返してくれるだろうと思った。
彼は、昼間篁と話した内容を簡単に伝える。
『…成程ね…そう言うこと』
石川はくすっと笑いを零すと、言葉を続けた。
『俺が鏡を介するのは…ゼノンの"顔"を見たいから、かな』
「顔?」
『うん。顔を合わせると、ゼノンとちゃんと向かって話してる、って実感するじゃない?確かに、意識波でも会話は出来るけど、やっぱり集中しないといけないから疲れるし、顔を見て話した方がお互いの様子もわかりやすいでしょ?まぁ、簡単に言えば、安心感を得る為かな』
「…成程な…」
『前に湯沢くんの部屋に行って時も大きな姿見があったし、多分、篁の部屋にもあるんじゃないかな?俺は行ったことないけど』
「あいつの部屋には昔っからあったな。純粋に自分の姿を見る為だったんだろうが」
まぁ、それが本来の用途なのだから、何ら問題はないのだが。
『…で、清水さんの部屋は?』
彼は、思わず部屋の中をぐるっと見渡す。
確かに、昔は姿見が置いてあった。けれど今は…
「…あぁ…随分前に片付けたな…」
『…片付けた?』
「そう…」
どうして、片付けたのだろう…?
記憶をぐるっと辿り、片付けた理由を思い出す。
「…自分が…浮かない顔をしているのを見たくなかったんだな…」
自分が、一番悩んでいた頃。その頃に、鏡に映る自分の顔が酷く嫌いだった。そして、それが媒体であった悪魔と重なるのが苦痛だったのだ。
自分が、"彼"を苦しめているような気がして。
『今も…鏡を見るのは苦しい?』
そっと、問いかけられる。
「…いや、今は大丈夫。前の話だから」
『なら…エースの顔、見てみたら?』
「………」
『誰かに聞くより、やってみるのが一番だと思うよ?』
石川の言うことはわかる。それが、一番の近道だと言うことも。
「…そうだな…」
少しは前向きだと伝わっただろうか。石川はくすっと笑う。
『何かあったら、また連絡して。いつでも待ってるからね』
「…暇だな、お前ら…」
ちょっと呆れたようにつぶやく。
『だって、大事な仲間でしょ?暇じゃなくたって、暇にするから』
「…そうか。わかった。ありがとうな」
離れていても、その絆はそう簡単には切れない。それを、素直に有難いと思った。
『じゃあね』
「あぁ、お休み」
そう言って電話を切る。そして、溜め息を一つ。
石川の手前、やると言ったものの…自分の気持ちの整理をつけてからの方が良いのか、否か…と迷っていると、再び電話が鳴る。
「……チッ…」
思わず舌打ちをした彼。液晶に映し出された番号は…一番憂鬱になる相手。
一層のこと、無視しようかとも思ったのだが…どうせ、篁の連絡網は回っているんだろう。今出なかったところで、留守電やメールでしつこく連絡して来るのだから、だったら出た方が面倒臭くない。
諦めの溜め息を吐き出し、通話ボタンを押す。
「…はい?」
『あぁ、清水?起きてたか?』
電話の相手の声は、彼が素直に電話に出たことで安堵の色を乗せていた。
「起きてた。今の今まで、石川と電話してたんだが…お前ら、篁から連絡網でも回って来たんだろう…?」
彼の声に、相手はちょっと笑った。
『あぁ、篁から聞いたのは確かだが…悪かったな。二番煎じで』
「…わかってるなら、もう解決済みだから。切るぞ?」
『…わかった。悪かったな』
相手が余りにもあっさり引いたものだから…彼の方がちょっと驚いていた。
そして、つい口が滑る。
「…あのさ…一曲、歌ってくれないか…?」
『…は?一曲?まぁ、良いが…』
その声には、笑いが含まれている。
彼自身、言ってしまってからまずかったかと思ったのだが…口を出た言葉は取り戻せない訳で。
けれど、歌を強請られた相手にしてみれば、時折こうして自身の声を聴いてくれるのだから、歌手冥利に尽きると言うもの。
『いつもので良いのか…?』
「…あぁ…」
『…じゃあ……』
相手は小さな咳払いを一つすると、そのメロディーを口にし始めた。
彼のリクエストは…子守唄。どう言う訳か、この相手から聞く子守唄が一番好きだった。
彼は携帯をスピーカーにすると、その歌声は静かに部屋の中に流れ始める。
それを聞きながら、クローゼットを開け、隅に片付けられていた姿見を引っ張り出して来た。
そして、鏡に映る自身の顔を見つめながら、鏡にそっと触れる。
「…聞こえるか?エース…」
歌が終わる前に。そう思い立って慌てて出して来たのだが、その目指す相手は直ぐに現れた。
鏡の向こうには…赤い紋様を頂いた悪魔の姿。かつて…自分の中にいた、もう一つの大切な存在。
彼の行動を知ってか知らずか…電話の相手は一曲歌い終わると、小さく吐息を吐き出した。
『…良く眠れそうか?』
彼にそう問いかける声は、とても優しい。
「…あぁ。有難う。お前の歌声は…エースにも届いたよ」
そう言った彼の声に、相手はくすっと笑いを零す。
『そう…か。なら、良かった』
何らかの状況を察したのだろう。相手はこれ以上深入りはしないようだ。
『じゃあ、お休み』
「…あぁ…お休み、デーモン」
そして、静かに電話は切れた。
残されたのは…一人と一悪魔。
「…よぉ」
彼は、暫しの沈黙の後、鏡に向かってそう声をかけた。
『…久し振り』
鏡の中の赤き悪魔は、小さく笑いを零した。
『ルークから連絡あったぞ?』
「…やっぱり、あいつ等連絡網回してるぞ…」
『…何の話だ?』
「いや…」
今更、そんなことはどうでも良い。
この、赤き悪魔の顔を見れば…そんな愚痴も忘れてしまう。
『…さて、何から話そうか…?』
「…そうだな…」
積もる話は、一晩では終わらないかも知れない。
けれど…終わらなければ、また明日。焦ることはない、まだまだ時間はたっぷりあるのだから。
「…篁に、感謝しないとな…」
ポツリとつぶやいた声に、鏡の中の悪魔は笑いを零した。
その笑顔に、彼も自然と笑いを零す。
用事がなくても良いのだ。ただ、"会いたい"と言う気持ちだけで。相手にも…それは伝わっているはずだから。
拗ねていた訳じゃない。
迷っていた訳じゃない。
ただ、自分の感情をどう出して良いのかわからなかっただけで。
鏡の中のもう一名の"自分"は、その感情に答えをくれた。
真っ直ぐに、進めば良いのだと。それが、"自分"が選んだ道なのだと。
そして、その魔法を教えてくれた"仲間"たちも、彼が一人ではないのだと教えてくれた。
改めて、その絆の深さを実感する。
自分は…良い仲間に恵まれていたのだと。
鏡の魔法は、心が穏やかになる、優しい魔法だった。
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プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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