聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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創世記 後編
Q.皇太子殿下って、どんな悪魔?
A.何でも持ってる。何でも知ってる。何でも一番。そう言う悪魔。
Q.ホントにそう思ってるの?
A.……?
季節は流れた。その日士官学校の卒業式を済ませたデーモンは、その足でダミアンの執務室を訪れた。
軽いノックの音に、ダミアンは書類から顔を上げる。
「どうぞ」
「失礼します」
ドアが開き、顔を見せたデーモンにダミアンはにっこりと微笑む。
「いらっしゃい。どうぞ」
促されたままに、デーモンはダミアンの前に立つ。結んでいた髪は切られ、短い黄金の前髪は後ろへ流してある。
「髪を…切ったようだね」
「……」
眉間に刻まれた皺に、ダミアンはすっと表情を変える。
「口が利けない訳ではあるまい?」
「…御意に」
不機嫌さをあからさまにした表情のままで答えたデーモンに、ダミアンは机の上に神経質そうな両の指を絡めた。
「わかっているだろうが、御前には今日からわたしの補佐として動いて貰う」
「……」
「納得出来ないと言った表情だね。何が気に入らない?」
「…総てです」
小さくつぶやき、きつい眼差しを改めてダミアンに向ける。
「わたしが貴殿の補佐役の候補に上がってから、噂は絶えませんでした。貴殿がわたしを補佐に選んだ理由は、わたしを…わたしの一族を笑いものにする為だと」
「…噂、だろう」
表情一つ変えず、ダミアンは答える。
「まだあります。魔界貴族の中には執務経験の豊富な者が揃っているにも関わらず、何故わたしを選んだのです?卒業したばかりの若造に恨みでもあるんですかっ!?」
すっかり表情の固くなったデーモンを前に、ダミアンは溜め息を一つ。
「今期…首席で卒業した奴の言うこととは思えないね。噂を鵜呑みにしているような奴は、ロクな奴になれないよ」
零したその言葉に、デーモンの怒りは更に募っていた。
「何故わたしを補佐にしたんですか!?もっと有能な者は大勢いたはずです。そうまでしてわたしの無様な姿を見たいのですかっ!?」
瞬間、デーモンに向けられた眼差しはとても冷たい。だが一瞬見せた表情は、とても哀しくて…息が止まるかと思うぐらい切なく思えたのは、何故だろう。
「…御前の無様な姿を見るつもりなら、最初から補佐に選んだりはしない。もっと別の方法が幾らでもあるからね」
「…ですがっ」
「もう、いい」
言いかけたデーモンを制し、ダミアンは大きく息を吐き出す。
「辞めたければ、好きにするがいい。わたしは、御前を留めはしないよ」
「……そうさせていただきます。失礼します」
売り言葉に買い言葉とはこのことだろう。カッとなったデーモンは、ダミアンに一礼するとそのまま踵を返して執務室を飛び出した。
眉間に皺を残したままのダミアンは、デーモンが執務室を出て行く姿を黙って見つめていた。瞬間その瞳に隠れたのは、寂しそうな光。だが、それを表に出すことのないダミアンは、深い溜め息を吐いていた。
執務室を飛び出したデーモンは、項垂れたまま枢密院の敷地内を歩いていた。当然、その足取りは極めて重い。
カッとなってしまったとは言え、皇太子の意に背いてしまったのだ。つまり、この先デーモンが王都に残れる可能性は、ないに等しいのだ。
だが、そんなことを後悔している訳ではない。元々、滅んだも同然の一族である。今更王都に残れなくとも、悔やむことは何もないのだから。
しかしながら…全てを吐き出したつもりであったのに、気分は最悪。少しもすっきりしないのは何故だろう。
そんなことをぼんやりと考えながら、デーモンは重い足取りで中庭を進んでいた。その時。
「…デーモン殿?」
不意に声をかけられ、振り返ったデーモンの視界に入った姿。
「貴殿は確か…ルシフェル殿の…」
「ルシフェル参謀の補佐、マラフィアです。以後、御見知り置きを」
軽く微笑んだマラフィアは沢山の本を抱えており、この場所柄から考えても恐らく、情報局の巨大な資料室の帰りだったのだろう。
「顔色が、優れないようですが?いかが致しました?」
今日と言う日が士官学校の卒業式であり、デーモンがダミアンの補佐としての職務の初日であることは、マラフィアも良く承知していた。だから、デーモンがこんな時間にこんな所にいること自体、既に尋常ではないのだ。
「何か…あったのですか?わたしで宜しければ、貴殿の話を伺いますが…」
優しく問いかけるマラフィアの声に、デーモンは僅かに顔を上げた。このまま一名の胸にしまい込んでおくには、重過ぎる悩みである。
諦めたような表情を見せたデーモンは、やがてその重い口を開き始めた。そして暫しの時間。
「…そうですか。ダミアン殿下に、そのようなことを…」
そう、紡ぎ出された言葉。
「貴殿は、まだダミアン殿下のことを、良くわかってらっしゃらないようですね」
「それは、どう言う…」
思わず問い返したデーモンに、マラフィアは小さく笑みを零した。
「気になりますか?」
「……」
僅かにうつむいたデーモンの頬は、ほんのりと赤い。それがデーモンの答えであると察したマラフィアは、すっと表情を戻して語り始めた。
「俗世で殿下がどのように言われていらっしゃるか、貴殿も御存じだと思います。『何でも持ってる』『何でも知ってる』『何でも一番』…そう言われてますでしょう?」
「違うのか?」
「…まさか、信じていたんですか?」
「……」
思わず、気まず気に顔を伏せたデーモンに、マラフィアは小さく溜め息を一つ。そして言葉を紡ぐ。
「あの方が皇太子殿下として中枢入りした今でこそ、そのような他合いのない世論が出ていますす。ですが、魔界に於て、あの方の身分は御父上であらせられる大魔王陛下の下でしかありません」
確かに、その通りである。この魔界と言う地で、最も尊きモノは大魔王陛下であり、どう考えても皇太子はその次にしかならないのだから。
「ルシフェルも言っていた通り、殿下には気を許せる友の一名もいないのです。殿下もルシフェルも、貴殿にその役を期待していたのでは…?」
返す言葉もない。自身がそうであったように、ダミアンも当然、孤立した環境にいたのだと。頭の中では、ずっとわかっていたのかも知れない。ただ…それを認めることが出来ないだけで。
「…籠の中の鳥…か」
思わず、つぶやいた言葉。自身が同じような境遇で育っていたとは言え、仮にもダミアンは皇太子である。デーモンよりも厳しい環境であったことには間違いない。それを共感するような言葉だった。
「皇太子であらせられるのですから、多大な御苦労もあったはず…ですが、それを一瞬でも表情に出したことはありません。皇太子と言う身分上、否応なしに身に付いた振舞です。例えそれが、あの方が望んだ姿ではなくとも」
マラフィアの言葉に、デーモンは己の唇を噛み締めた。
デーモンでさえ、一族に縛られてその規律に自由を奪われていたのは間違いない。それ以上の苦労をして来たダミアンであるのに、彼が浮かべるのは微笑みだけ。それも、万人に安らぎを与える、暖かな笑顔。しかし、その笑顔には全てを許せる相手がいないのだ。
「…吾輩は…」
つぶやきかけたが、言葉が続かない。
何も知らなかったとは言え、自分は何と言うことをしてしまったのだろう。今更後悔したところで、どうなる訳でもないが…それを悔やまずにいられない。
デーモンの表情でその胸の痛みを察したマラフィアは、その痛みを汲んで、小さく言葉を零す。
「今なら、まだ遅くないかも知れませんね。貴殿がその気になりさえすれば」
「しかし…吾輩のような若造がダミアン様の補佐などと言う大役に着くなど…気に入らない方もいるかも知れない。それを、何故吾輩が…」
「貴殿の中の、可能性を信じているからです。貴殿なら、殿下の補佐に相応しい」
「…買い被らないで欲しい。吾輩は、そんなに能力がある訳じゃない。一族の再建すら、叶わぬのだから」
「それは、貴殿の意志でしょう?」
「…マラフィア殿…」
顔を上げたデーモンの表情は、驚きそのものであった。
「貴殿は一族の再建を望んではいない。勿論、上辺はそのつもりを見せるでしょうが。理由までは詳しく知りませんけれど、貴殿がそう思ってらっしゃることはわかります」
表情を変えることなく、マラフィアはそう言葉を放つ。
誰が言った訳ではない。だが、デーモン一族の滅亡の理由と、再建を望まない唯一の生き残りとの間に起こっていた何かを知っているかのようだった。勿論、秘められた事実を表沙汰にしようと言うことではないだろうが。
「…もう一度、貴殿の将来を殿下に預けてみようとは思いませんか?」
改めて、マラフィアはデーモンに問いかける。
「貴殿が、それ程までに熱心に勧める理由を知りたい」
デーモンは、そう問い返す。すると、マラフィアは小さな笑いを零した。
「わたしはルシフェルと共に、貴殿の成長を楽しみにしているだけです。それが理由では不満ですか?」
「いや…その…」
滅多に見せないが、マラフィアの微笑みは優しい。ダミアンのそれともルシフェルのそれとも違い、マラフィアが見せる微笑みは何処か儚い。だがむしろ、その方が彼には似合っていた。
揺らぎかけたデーモンの気持ちに更に追い討ちをかけるように、マラフィアは言葉を紡ぐ。
「貴殿の歌声を、殿下は楽しみにしていたのですよ。誉れ高きデーモン一族の貴殿の歌声は、魔界随一と言われていますから」
「…吾輩の…歌を…」
うつむいたデーモンの表情に、最早当初の思い詰めた影は見られなかった。
「しかし、吾輩だけでは…今更どうしていいのやら…」
「協力、しますよ」
くすくすと笑いを零すマラフィア。デーモンの決断は、決まっていた。
その夜、皇太子の居住区の広間でデーモンの就任披露を兼ねた宴が開かれていた。勿論主役は不在であるが、突然のことで宴を中止にすることが出来なかった為、宴は予定通り開かれた訳である。
浮かない表情のダミアンの傍らには、しっかりと彼を支えるルシフェルの姿があった。
ルシフェルが全ての事情をダミアンから聞いたのは、先刻のことである。今のところはまだ任務中だと誤魔化してはいるものの、主役のいない宴がいつまでも穏やかに進むはずもなく、次第に場は騒がしくなって来た。
そして、その場の堰を切った声があがった。
「ダミアン殿下、貴殿様の補佐役のデーモンは、一体いつ現れるんです?本当は既に解雇されているのでは?」
「……」
そう声のした先には、僅かに王家の血を引く公孫、ターディル=ラヴォイのニヤリと不敵に笑う顔が見えた。デーモンがダミアンの補佐を辞めたことを、ひょっとしたらこのターディルは知っているのかも知れない。
眉を潜めたダミアンの表情で察したルシフェルは、ざわめき始めた場を沈めるかの如く、声を上げる。
「暫し待たれよ。今はまだ任務中故、直に…」
「待ちくたびれましたぞ!執務時間はとっくに終わっているはずではないですかっ!」
ターディルの声に招待客が騒ぎ始める中、ダミアンは毅然とした眼差しを崩すことがなかった。
「…ルシフェル、もういい。やめろ」
小さく、ルシフェルに囁いた声。
「っ…ダミアン様…」
「この際だ。正直に話そう」
「いけませんっ!そんなことをすれば、貴殿の立場が…」
「構わない。何ればれることならば」
「しかし…」
まだ何か言いたげなルシフェルを押し退け、ダミアンはその口を開いた。
「諸氏に謝らなければならないことがある。吾が補佐役として就任したデーモンであるが、故あって彼は……」
刹那。静まり返った広間に、美しい歌声が響き始めた。
聞いたこともない旋律。幅広い音階。誰もが息を飲み、美しい歌声に聞き惚れる。そして、その声の主を捜す。
招待客の間から現れた姿。赤い布地に金糸の刺繍、煌びやかで上品な礼服と敬意を表する純白のマントに身を纏った一名の悪魔に、その視線は注がれた。
目の前に現れたその姿に、ダミアンもルシフェルも目を見張っていた。それは、紛れもなくデーモンであり、その背後には、マラフィアの姿まである。
「…これは、一体…」
訳がわからず、つぶやきを漏らしたダミアン。
一曲歌い終わると、広間は拍手の音が溢れた。そして、デーモンはゆっくりとダミアンの前に跪く。
「遅くなりまして、申し訳ありません」
「…デーモン…」
「本日は、わたくしの就任を祝っていただき、心から嬉しく思います。貴殿様の補佐としての、精一杯のことをやらせていただきたく思います」
デーモンは形式的にそう言うと、茫然としているダミアンの手を取り、その甲に恭しく口付ける。それは、デーモンがダミアンに忠誠を誓う証。
すっとルシフェルの隣に立ったマラフィアは、その耳元に小さくつぶやく。
「彼は、きっと殿下を支えて下さいます。もう、心配はいりません」
その言葉に、ルシフェルは小さく微笑む。そして未だ茫然としたままのダミアンにも聞こえるように、厘とした声を放つ。
「諸氏、新たに就任した皇太子補佐のデーモン殿に、以後御見知り置きを」
拍手は、絶え間なく続いた。
宴が終わり、ダミアンはルシフェル、マラフィアと共に己の執務室に帰って来た。勿論、その傍らにはデーモンの姿もある。
「…さて、どう言うことなのか説明して貰おうか」
ダミアンの問いかけは、デーモンと、マラフィアに向けられていた。
大きく息を吐き出して顔を上げたデーモンは、しっかりとダミアンを見つめ、深々と頭を下げた。
「申し訳、ありませんでした。御無礼の数々…御許し下さい。もう一度、貴殿様の補佐に…」
「もういい」
「ダミアン様…」
口を噤んだダミアンを、デーモンは一瞬瞳を伏せる。
ダミアンを怒らせた挙げ句、皇太子と言う身分にも泥を塗りかけたデーモンを、そう簡単に許すはずはないと思っていたのだ。勿論、ルシフェルもマラフィアも、同様に心配げな表情を浮かべてダミアンを見つめている。
瞳を伏せたダミアンは、溜め息を一つ。そして。
「許すも何も…宴の時に御前はわたしの補佐だと言ってしまっただろう?それに見事な歌も聞かせて貰ったし…だから、今回のことはなかったことにしよう」
「それでは…」
「もう一曲、歌っておくれ」
にっこりと微笑むダミアン。その変貌に一瞬呆然とした一同であったが、次の瞬間には笑いが零れていた。
そして、再びデーモンの歌声がダミアンの執務室から零れ始めた。それは、デーモン一族に伝わる、勝利を讃える歌。ダミアンの就任と、デーモンの就任とを祝して。
時代は、移り変わる。古き良き時代から、新たな躍進の時代へ。
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プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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