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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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サロメは還って 後編
こちらは、以前のHPで2001年05月06日にUPしたものです

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◇◆◇

 遡ること約十万年前。
 大魔王の一粒種として生命を宿したダミアンが、まだ千歳にも程遠い年齢の時のこと。魔界は、狂った天使によって、大混乱を迎えていた。
 狂った天使は"奇異の天使"と呼ばれ、魔界中を震撼させた。
 その目的は、ただ一つ。まだ幼いダミアンの首を、狙っていたのだ。

「…ダミアン様、御逃げ下さい!」
「ダミアン様…っ!!」
 その悲鳴のような声を、ダミアンは一体何処で聞いていたのだろう。
「…ダミアン様、早くこちらへ」
 足早に自身を促すのは、軍事局総参謀長ルシフェルだった。
 魔界中を震撼させている"奇異の天使"が、ダミアンのいるこの皇太子宮に入ったとの連絡が来たのは、数分前のこと。その間にも、屋敷は破壊され続け、それが確かな報告であったことを語っていた。
 崩れ始める屋敷の廊下を、ダミアンはルシフェルに促されるままに走り続ける。だが、その表情は不安をあらわしているモノではなかった。
「…ルシフェル、何故逃げなければいけないの…?」
 足を動かしながらも、ダミアンは前を行くルシフェルにそう問いかけてみる。
「何故って…貴殿様の首が、狙われているからです。おわかりになってらっしゃるはずでしょう?」
「…そう、か」
 そう零すと、不意にダミアンはその足を止める。
「…ダミアン様?」
 呼吸を整え、ダミアンは振り返ったルシフェルを、その柔らかな眼差しで見つめていた。
「ルシフェル…前」
「…?」
 ダミアンに言われるままに視線を変えたルシフェルは、そこに佇む一つの姿を見つけた。
 腰までの緩いウエーブを描いて落ちる金色の髪。白の装束。背中に構えた、真白き翼。そして、手に携えた剣。その全てを真紅の血に濡らした天使が、行く手を遮っていたのだ。
「…"奇異の天使"…」
 そう零したのは、ルシフェルだった。
「…御前が、ダミアンか」
 低い、声。その淡い碧色の眼差しが、真っ直にダミアンを見据えていた。
 ルシフェルはその視線を遮り、"奇異の天使"の眼差しからダミアンを隠すように立ち塞がる。
「わたしが、相手をしよう」
 腰の鞘から剣を抜き、ルシフェルは"奇異の天使"にそう告げる。しかし、帰って来た答えは。
「堕ちた熾天使に、用はない」
「…っ」
「御前の首、貰い受けに来た」
 "奇異の天使"は、その濡れた剣先をダミアンに向けている。しかし、ルシフェルも譲らない。先の言葉にカチンと来たのだろう。ルシフェルが放つ気は、尋常ではない。
「…ダミアン様、御逃げ下さい。ここは、わたしが…」
 ルシフェルの濃紺の眼差しが真っ直に"奇異の天使"を捕えている。その眼差しに怯むことなく、"奇異の天使"は小さな笑いを零した。
「面白い。では、貴様を倒してから、奴の首を戴くとしよう」
 その両名のやりとりを、ダミアンは実に冷静な眼差しで見つめていた。その顔に、恐怖はない。
 両名が剣を合わせ始め、辺りが緊迫した空気に包まれ始めた。
 その頃になって、やっと現れた数名のルシフェルの部下たちが両名の戦いに目を見張ったのは言うまでもない。
 それ程迄に凄まじい争いを目の当りにしていても、ダミアンの表情には何ら変化はないのだ。
 だが、能力の差が歴然とし始めた頃、すっとダミアンの表情が曇り始めた。
 優位に立ったのは、勿論ルシフェルである。例え、その身分を捨て魔界に降りたとは言え、所詮は最高位の熾天使に適うはずがない。相手が幾ら狂っていたとしても、それは歴然である。
 ルシフェルの剣が、"奇異の天使"を捕え始めた。"奇異の天使"の純白の装束を濡らし始めたのは、彼の血。ルシフェルが本気で"奇異の天使"を殺そうとしているのを察したダミアンの表情が、一気に変わる。
 青ざめた表情に、涙の溢れた瞳。
「駄目!ルシフェル、殺さないで…っ!」
 両名の間に飛び込んで行きそうになったダミアンを、ルシフェルの部下たちが留める。だが、その気持ちばかりはどう仕様もない。
「やめて!殺さないでっ!ルシフェル…っ!!」
「…ダミアン様…」
 涙を零し、必死になってルシフェルを止める声に、剣を合わせていた両名の動きが止まった。
「…殺さないで…御願い…」
 そう懇願されても、直ぐには納得がいかないのが常である。何せ、相手は自分の首を狙いに来たと言うのに。
「…一時、休戦だ」
 荒い呼吸を零す"奇異の天使"にそう言葉を発し、ルシフェルは剣を下ろすとダミアンに向き合う。
「…何故、止めたのです?」
 頬の涙を拭ってやり、ルシフェルは優しくダミアンに尋ねた。
「彼は、貴殿様の首を狙いに来たのですよ?情を覚える必要はないんです」
「…でも…」
 はらはらと輝きを零すその表情は、やはりまだ幼い。ただ、その意識だけは、同じくらいの子供とは、かけ離れているのだが。
「…父上がいる限り、わたしの生命は誰にも奪えない。それなのに、それを狙うだけで、殺されるなんて…」
「それが、常です。彼は、我々の敵ですよ」
 無情にもそう言い放った声とは裏腹に、ダミアンの頬を拭うルシフェルの仕種はとても優しい。
 それが、常なのだ。相手は、敵なのだから。
 それは、尤もなことである。ただ、ダミアンには納得出来ないだけであって。正論には間違いない。
「…話を、させて」
 涙を押さえたダミアンは、ルシフェルにそう訴える。
「ですが…」
 戸惑いの表情を浮かべるのは、当然。ルシフェルにも、ダミアンの言わんとすることがわからないのであるのだから。
 ルシフェルの答えを聞かず、ダミアンはすっと身体を翻すと、"奇異の天使"に向かって歩き出した。
「ダミアン様…っ」
 慌てて声を上げたものの、ルシフェルにも動けない。ダミアンの決断は、ルシフェルを始めとする者たちに、有無を言わせないのだ。
 やがて辿り着いた先の彼は、地に腰を落とし、完全に疲れ切っている。その剣だけは、手に握り締めてはいたが。
「…そんなに、死にたいのか…」
 荒い呼吸を零し、刺すような眼差しを向ける彼に、ダミアンは怯えている様子はない。彼の前に腰を落とし、視線を合わせる。
「貴方にわたしは殺せないよ」
「…どう言うことだ」
「そう言うこと。大魔王ともあろう者が、一粒種に何も手を下さないとでも…?わたしの生命はこの魔界そのもの。言ってしまえば一蓮托生。父上が魔界を護っている以上、わたしも死なない」
「……」
 そう告げたダミアンの声に、己を悲観する陰はない。幼い姿のダミアンがそう口にすること自体、既に尋常ではないのだが。
「…恐ろしくは、ないのか…?」
 そう問いかけたのは、恐らく"奇異の天使"にとっての失態であったのだろう。にっこりと微笑んだダミアンに、一瞬呆気に取られてしまう。
「恐くはないよ。さっきも言った通り、貴方にわたしは殺せない。そうわかっているのに、恐れる必要もないでしょう?」
「正気、か?」
「少なくとも、己の生命を顧みず、わたしの首を捕るだけの為に、単身魔界に乗り込んで来た貴方よりは…ね」
 微笑みを零すダミアンに、彼の戦意は完全に消失してしまったようである。笑いと共に、手に持っていた剣を抛り出す。
 ダミアンに向けた眼差しには、先程の刺すような光はなくなっていた。
「わたしの負け、だ。御前のような子供に、理屈で負けるとは思わなかったがな」
「理屈で勝とうとも、思わなかったけれどね」
 幼いダミアンの微笑みの前に、"奇異の天使"は反論する術もない。
「わたしを捕え、処刑するなり、好きにするが良い」
 そう零した"奇異の天使"の声に、ダミアンはそっと目を細める。そして。
「その前に…聞かせて。貴方の名前」
「…名前?そんなもの、聞いてどうする?」
「だって、貴方はわたしの名前を知ってるのに、わたしが貴方の名前を知らないなんて、不公平じゃないっ」
 その歳に相応しく、まるで拗ねたように頬を膨らませる姿に、"奇異の天使"はくすっと笑いを零す。
「…ティアナ」
「良い名前だね。如何にも天使らしい」
 くすくすと笑いを零し、ダミアンは何処か大人びた表情で彼…ティアナを見つめた。
「貴方を、封じさせて貰うよ。良いね?」
 その言葉に、"奇異の天使"はすっと表情を曇らせる。
「殺さないのか?御前の生命を狙っていると言うのに…」
「殺せない、よ。だって、わたしは……」
 その後に続いたダミアンの言葉は、その実年齢から見れば信用するに相応しい言葉ではなかった。だから彼の"奇異の天使"も、信じられなかった。
「…わたしが、子供だから?」
 頬を膨らませ、真剣な眼差しを"奇異の天使"に向けるダミアン。
「そうだと言ったら?」
 答えた"奇異の天使"の声は、完全にダミアンを子供扱いしているようで。
「…それなら、待っててよ。わたしが大人になるまで。だから、その時まで貴方を封じるんだよ。封じられた貴方の時間は止まる。その間にわたしが成長する。もう一度、貴方が目覚めた時…わたしは大人になって、貴方が目を覚ますのを待ってるんだ。それなら、良いでしょう?」
「…馬鹿な。狂った天使に、そこまで執着するなど…」
「ある意味では…狂っていたから、だと思うけど」
「……」
 もし彼が正常ならば、自らの生命を顧みず、ダミアンの首を狙うこともなかった。それが、天使の本来の姿であるならば。
 そして、彼が狂っていたからこそ…
 狂った天使は、天界の指示に背を向けた。だから、天界にとって彼は謀反人となる。つまりは、魔界にとって本来は敵ではないはずだったのだ。
「…貴方を、封じるよ。良いね?」
 もう一度、問いかける。
 "奇異の天使"は諦めたように溜め息を吐き、ダミアンの言葉に従った。
 交わされたのは、未来での約束。
 今度目覚める時には、必ず傍で待っている。
 それを信じたのは…何故だったのだろう。
 魅せられて、いたのだろうか。彼の皇太子に。
 そんな思いを抱きつつ、"奇異の天使"は封じられた。
 全てが、何事もなかったかのように。時は、過ぎて行った。

◇◆◇

 日の傾き始めた皇太子の執務室に、姿が四つ。
 一つは、当然この執務室の主であるダミアン。
 もう二つは魔封じの塔からダミアンに着いて来た、エースとルーク。
 最後の一つは、ダミアンが無事に帰って来たとの連絡を聞きつけてやって来たデーモン。
「詳しく…話していただけませんか?」
 理解の域を越えていたルークが、ダミアンにそう問いかける。
「ん?あぁ…良い夕日だね」
 窓の外の夕日を見ながら、小さな微笑みを浮かべたダミアン。
「あの…」
 改めて問いかけようとしたルークの声を、ダミアンの笑いを含んだ声が遮った。
「たまには、昔話をするのも悪くないね」
 くすくすと笑う声と共に、それは語られた。

----貴方ガ、好キダカラ。ダカラ、殺セナイ。
 それは、ダミアンなりの結論だった。


 すっかり闇に閉ざされた空の下、デーモンとエースは肩を並べて歩いていた。
「…まさか、あの天使に惚れていただなんて…なぁ」
 実際の"奇異の天使"を見て来たエースが、そう言葉を零す。
「まぁ、ダミ様らしいと言えば、それまでだけれどな」
 当初聞いていた話とは多少の食い違いがあった。けれど当事者が語ったのだから、恐らく後者が真実だろうと、デーモンは歩みを進めたまま考えていた。
「しかし…封じるのに、態々ポーズをつけさせるなんて」
 溜め息交じりのエースの声に、デーモンは小さな笑いを零した。
 そうなのである。魔封じの塔で見かけたあの生々しい石像は、幼いダミアンが面白がってポーズをつけさせたモノであることも判明したのである。
「だって、ただ封印したって、つまらないだろう?せめて、芸術的に…ね」
 それが、ダミアンの意見だった。
 昔も今も、変わらない。それが、ダミアンなのだから。

 闇の帳の下りた空を、ダミアンは執務室の窓から眺めていた。
 明かりを灯していない部屋の中は薄暗く、何処か儚い。
「…いつまで、そうしているつもりだ?ルーク」
 背を向けていても感じる僅かな気配に、ダミアンは口を開く。
 それでも、気配は動かない。
 溜め息を一つ吐き出したダミアンは、佇んだままの気配に視線を向ける。闇に紛れる漆黒を纏った悪魔が、物言いたげにダミアンを見つめている。
「何だ、その顔は」
 小さな笑いを零したダミアン。そして、それに答えた短い声。
「…納得、出来ません」
 それが指す意味は、わかっていた。だが、ダミアンは敢えてそれをルークに問いかけた。
「何が、納得出来ないんだ?」
 それに、返って来た答えは。
「突然あんなこと言われて、直ぐにはいそうですかって、納得出来ると思っていたんですか?"奇異の天使"の話は聞いたことがあります。でも、いきなりその天使が初恋の相手だなんて言われたって…」
「別に、御前に納得して貰おうと思って話した訳じゃない。わたしの気持ちの問題だ」
 目を伏せ、小さく返したダミアンの声。それは、いつもの厘とした声ではなく、何処か儚い。相手がダミアンでなければ、ルークとて腕を伸ばして抱き締めていたのかも知れない。それ程にまで、切ない声だった。
「ティアナのことは、御前にはもっと早く話しておくべきだったのかも知れないな。確かにティアナは、わたしの中では特別な存在だ。それは、昔も今も変わらない。だが…昔から言うだろう?『初恋は実らない』とね。まぁ、中には例外もいるようだが」
 にっこりと微笑むダミアンに、ルークは小さな溜め息を零した。
「少なくとも…御前が、心配することは何もないよ。わたしは、何処へも行かないから」
 その言葉に、ルークもそれ以上何を問いかけることも出来なかった。
 ただ、ダミアンの言葉を信じるしかない。
「…わかりました」
 小さく返した言葉に、ダミアンはいつもと変わらない微笑みを返していた。

 月は蒼く、風は優しい。
 闇の中の執務室の窓を開け放ったダミアンは、月の光に照らされ、淡く輝いているかのようだった。
 先程帰ったルークは、もう屋敷に着いただろうか。そんなことをぼんやりと考えていたダミアンは、不意にその口元に微笑みを浮かべる。
「…ティアナ。きっと…わかっていたよね。今回、わたしが貴方を封じた理由を」
 その声は、とても優しい。決して、聞こえはしないその声を、ダミアンは伝えようとしていた。
 彼の、"奇異の天使"へ。
 その想いは、誰にも変えることは出来ないのだから。
 確かに、求めたのはただ一つの首だった。だが、その持ち主に魅せられたからこそ、それを実行しなかったのだろうが。
「次に目覚める時には、また何か変わっているかな。それが、良い方向だと良いんだけれどね」
 それは、まだ見ぬ未来を予測しての言葉。
「…わたしは…ここに、いるからね」
 その言葉は、果たして誰に向けた言葉だったのか。
 柔らかな微笑みを浮かべたダミアン。それが、今ダミアンが出せる答えの全てだった。

 "奇異の天使"の石像は、今も封印されている。
 いつかまた…目覚める日まで。
 その時、そこに誰が待っているのか。それは、まだ誰にもわからない。
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