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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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太陽の腕 月の瞳 5
こちらは、以前のHPで2000年5月11日にUPしたものです
 7話完結 act.5

拍手[1回]


◇◆◇

 日が高く昇った頃、広間で意気揚々と昨日の結果を雷帝に報告していた彼の元に、天界から緊急の連絡が入った。
「…殿下、天界からご報告が…緊急、とのことですが、いかがいたしましょうか…?」
 控え目にそう告げた従者の声に、彼は当然、眉を顰る。
「俺に…?」
 従者の表情は、優れない。否、青ざめていると言った方が的確だろう。そしてどうやら、細かに震えているようだ。
「ここでいいよ。何?」
 そう声をかけると、従者は雷帝の様子を伺い見た。雷帝も当然頷いてみせると、大きく息を吐き出した従者は、ゆっくりとその口を開いた。
「…昨夜…ユーリスと言う者が、亡くなられたそうです…」
「…何だって!?」
 思いがけない言葉に、彼も、雷帝も、息を飲んでいた。
 たった今、彼の口から同じ名前を聞いたばかりだった。無事に連れ出す許可を得たと、報告を受けたばかりだったものだから…二の句が告げないのは当然だろう。
「誰がそんな報告を!?」
 やっとで息を継ぎ、声を荒立てた彼に、従者は怯えた色を見せた。
「あの…っ…わたくしは、そう連絡を受けただけでして…」
「発信元は!?」
「確か…大天使長アストレア…」
「…アストレア…」
 彼の脳裏に過ったのは、昨夜会ったはずの大天使長。その名前は、アストレアと言った。
「もう下がって宜しい」
 口を噤んで、うつむいたままのライデンを横目に、雷帝が怯えている従者にそう声をかける。すると、従者は頭を下げ、まるで逃げ出すかのような勢いで広間を出て行った。
 広間には、彼と、雷帝の二名だけになる。
 暫しの沈黙の後、ライデンの掠れた声が聞こえた。
「…昨夜は…生きていたんだよ…ちゃんと、生きて……俺が、この目でちゃんと見たのに…」
 昨夜会ったユーリスは、とても穏やかだった。
 その深い色の眼差しは不思議な程の静寂を感じさせた。
 もしかしたら彼女は……その全てを、見透かしていたのかも知れない。
「…大丈夫か、ライデン」
 雷帝の声が響く。
「彼奴だ…」
「ライデン?」
 うつむいたままのライデンが、掠れた声を発している。
「…アストレアだ…彼奴が企てたんだ…」
 その声に、大きな溜め息を吐き出したのは雷帝。
「まだ決まった訳ではないだろう?」
「でも、そうに決まってる!だって、ユーリスは楽しみにしてたんだよっ!?僅かでもアディエラに会えることを楽しみにしてたのに…っ」
「…まぁ、天界にしてみれば、我々が中立を護ろうとすることが気に入らないのは当然のことだろう。その為の協力とあらば、渋る気持ちもわかるが…」
----…それにしては、やり過ぎだ。
 そうは思ったものの、流石の雷帝も、その言葉を口にすることは出来なかった。
 目の前のライデンが、余りにも苦しそうな表情を浮かべているものだから…
「…何て…言ったらいいんだよ…アディエラに、何て……こんな、酷いこと…するなんて……あんまりだよ!何で、殺したりなんか…っ!!」
「ライデン。口が過ぎるぞ」
「………」
 雷帝の声に、ライデンは口を噤んだ。
 噛み締めた唇の白さが、その苦悩を物語っていた。
 本当は、雷帝にもわかっていたのだろう。だが、証拠など残す大天使長ではないこともまた、事実だろう。
「こちらへ来い」
 思いつめた表情の彼を己の傍に呼んだ雷帝は、重い足を引き摺るようにやって来たライデンの頭に、その手を乗せた。
「…御前の気持ちは良くわかる。だが、証拠はない。わしがこれから天界に行き、状況を確認して来る。だから御前は、ゆっくり休めばいい」
「…でも…」
 涙の浮かんだ眼差しを伏せ、つぶやく声。
 それに応えるかのように、ゆっくりと口を開いた。
「泣いて気持ちが落ち着くのなら、泣きたいだけ泣けばいい。だが、泣くだけ泣いたら目を覚ませ。これから、御前が何をするべきかを良く考えろ。御前なら、乗り越えられる。このわしの息子だ。わしが保障する」
 それは、この雷神界の主と言うよりも、彼の父親としての言葉であった。
「わ…かった…」
 涙ながらにそう答えたライデンに、雷帝は大きく息を吐き出し、王座を立った。

◇◆◇

 白を基調とした、落ち着いた雰囲気の部屋。彼が、自室として使っている部屋である。
 昨夜は上機嫌で、ゆっくりと身体を休めることが出来たベッドの上で、今日は自己嫌悪に陥っている。
 涙は、とめどなく流れて来る。まるで、際限がないかのように。
「…ちっくしょぉ…っ!」
 力任せに投げつけた枕は、鈍い音を立てて壁にぶつかって落ちる。
 当然、そんなことでは晴らし切れない思いを抱えたまま、今度は自分の身体を壁に叩き付ける。
「…くそ…っ!」
 床に座り込んだまま、真白な壁を拳で叩き続け、いつしかその壁が赤く染まって来ても、それを止められない。
「ちっくしょぉ……」
 抑え切れない感情の起伏をそのままに、彼は壁を叩き続け、やがて床に崩れ落ちた。
 微かに上げる嗚咽の声だけが、彼の部屋で聞こえる音の全てだった。

 時同じ頃、魔界からの命を受けた使者が一名、雷神界の神殿の入り口で歩みを止められていた。
「雷帝殿は不在ですが、どのような御用件でしょうか?」
 しっかりと立ち塞がる番兵たちを前に、その青年は小さな溜め息を吐き出す。
「…吾輩は、魔界より命を受け、ライデン殿下に面会に来たのだが…殿下も不在なのですか?」
 青年の眼差しは鋭く、流石の番兵たちも一瞬たじろいだ。
「…貴公の御名前と御身分は?殿下とは、どのようなお知り合いで?」
 答えなければ、通しては貰えないと見たのか、諦めたように、身分を示す枢密院のIDカードを差し出す。
「吾輩はデーモンと申す者。魔界の皇太子殿下の補佐役である。ライデン殿下とは、先日魔界で多くを語り合った知音であるが…」
----嘘は言っていないよな…?
 様子を伺うようにそう言ってみると、番兵たちは意外にも素直に信用したらしかった。
「では、殿下の私邸官吏の者にお繋ぎします故、暫しお待ちを」
「あぁ…」
 番兵の一名が、神殿の中へと入って行く。そして暫しの後、一名の…恐らく、彼らと同じぐらいの年齢だろう…若者を引き連れ、戻ってきた。
「殿下のお知り合いの方と言うのは、貴公のことで…?」
 その若者に、問いかけられる。
「あぁ…そうだ。吾輩は、デーモンと申す者。魔界の皇太子殿下の補佐役で……」
 と、デーモンは先程と同じことを繰り返す。が、若者はそれを制した。
「先程伺いました。わたくしはフィードと申します。若様に御面会とか…」
「あぁ。皇太子殿下からの伝達を届けに参ったのだが…何か不都合でも…?」
 フィードの様子は、どうも落ち着かない。何かあったのかも知れないと様子を伺ってみたものの、この場で答えが帰って来るとは、当然思ってはいない。
 案の定、はぐらかされた。
「どうぞ、こちらに。ご案内いたします」
 促され、やっと神殿に足を踏み入れることを許された。
 長い廊下を歩きながら、ぼんやりと回りに目を向ける。
 思った以上に静かな宮内の様子に、何処か異様な雰囲気を感じずにはいられない。
----ダミアン殿下の私邸でも、もう少し賑やかだが…
 歩いて行く感じ、どうやら神殿をぐるっと回っているようだった。ほぼ裏手の方へと廊下を進み、渡り廊下で繋がれた別邸の方へと向かっているようだ。
「あそこが、ライデン殿下の…?」
「はい。自室がございます」
 言葉少なの説明に、小さな溜め息が零れる。
----ライデンの私邸官吏にしては、ずいぶん愛想がないなぁ…
 そんなことを考えながら歩いて行くと、一つの部屋の前でフィードの足が止まった。
 そして、デーモンを振り返る。
「…ここから先は、わたくしは立ち入れませんが…驚かれないように」
「…はぁ…」
 このドアの向こうで、何が起こるのだろう。
 緊張感を取り戻したデーモンは、フィードがドアをノックするのを静かに見護っていた。
「若様」
「…誰…」
 ノックの音に、中から聞こえた声。それが、酷く掠れていると思ったのは、多分気の所為ではないだろう。
「フィードです。デーモン様がお見えです。お通し致しましたが…宜しいですか?」
「…いいよ。開けてあげて…」
 そう言われ、フィードはポケットから鍵を取りだし、鍵穴へと差し込む。軽く捻ると、カチリと開いた音がした。
「どうぞ」
「…どうも」
 フィードが踵を返す様を見送り、デーモンはノブに手をかけてドアを開けた。
「…ライデン?」
 薄くドアを開け、中を覗いてみると、ドア側の壁に凭れて座り込んでいるライデンの姿が目に入った。
「どうした?」
 異様な雰囲気に、嫌な予感を感じて鼓動が早くなる。
 歩み寄って見て、その背後の真白な壁を汚している赤黒い色に、ドキッとして息を飲む。
「ライ…」
「あ…御免ね…ちょっと、動けなくて…」
 僅かに顔を上げ、笑顔を作ってはみたものの、その笑顔も引きつっていた。
 赤く潤んだ瞳。
 涙に濡れた頬。
 血に塗れた拳。
 その全てが、尋常ではなかった。
「御前、一体…何があったんだ?」
 慌てて跪いてその手を取り、己のマントでその血を拭ってやる。拭う先から滲み出る血。
「ちょっと待ってろ。今、手当してやる」
 拭うだけでは切りがないと諦めたデーモンは、その拳に唇を寄せた。
「……」
 ぼんやりとした眼差しで一部始終を見つめていたライデン。その傷は直ぐに塞がり、それが魔族にとって、一番有益な治療法であることを察した。
「…そっか…俺、魔族の血が流れてるからな…俺の母上、魔族だったんだ。俺が生まれて直ぐ、亡くなったって言うから…もう、いないけど」
 小さな笑いと共に零れた声。自嘲気味な声に、ライデンの濡れた頬を拭ったデーモンの溜め息が一つ零れた。
「…初めてじゃ、ないんだな?こんな状態になるのは」
 明らかにこれは自傷行為である。だが、ライデンも彼の私邸官吏のフィードも、この状況を幾度も経験しているようだった。
「何があったんだ?」
 改めて、そう問いかけた声。こんな状況を初めて目の当りにすれば、恐らく誰でも問いかけることだろう。
「…ユーリスが…殺された…」
 ぽつりと、つぶやいた声。その眼差しはデーモンに向けられてはいるものの、視界に映っていると言う認識があるとは思えなかった。
「ユーリスとは…例の、"月の瞳"の…?まさか」
 尋常ではない答えに、デーモンは息を飲んだのは言うまでもない。
「証拠は…ないよ。でも…殺されたんだ…だって、昨夜は、ちゃんと生きて……自殺の訳、ないでしょ?折角、アディエラと会えるって言うのに…」
 その瞳から、はらりと涙が零れ落ちた。
「雷帝殿も、ご存じで…?」
「…うん。今、天界に、確認に…」
「そう、か」
 状況が掴めて来るに連れ、彼が自分に下した行為は、自身を責めるものであったことを察することが出来た。
「まだ、自分を責めたりないのか?」
 頬を伝う涙を指先で拭ってやりながら、デーモンはそう尋ねた。
 もう、目一杯泣いたのだろう。動けなくなる程、壁を叩き続けたのだろう。
 それでもまだ、自分が許せない。
 完全に、自責の念に支配された意識。それによる自傷行為は、後どれくらい繰り返したら、その苦しみが癒されると言うのだろう。
 限界のわからない罪の意識から切り放す方法は、デーモンには一つしか思い浮かばなかった。
 大きく息を吐き出し、同情と哀れみの気持ちを、胸の奥に封じ込めた。
「精一杯、やったんだろう?勝手のわからない魔界や天界で、精一杯駆け回ったじゃないか。ユーリスは、それをちゃんとわかっていたはずだ。護ってやれなかったことは、仕方がない。だがそれを責めるより、これからどうするかを考える方が先だろう?御前がそんなことじゃ…きっと、ユーリスだって報われない」
「…デーさん…」
 雷帝にも、言われた言葉。
 前を見ること。これからどうするかを考えること。今やらなければならないことは、それしかないのだ。
 振り返るだけでは、何も手には入らないと言うことを、彼は改めて教えられたような気がした。
 傷つけないように、大切に包んで護るより、自分の立場を知らしめる。それが、デーモンなのだと思った。
「勇往邁進。吾輩は、その言葉が好きだぞ」
 その声に視線を合わせてみれば、デーモンは笑っていた。
 それは、一種の自己暗示。
 その笑顔につられ、ライデンも思わず笑みを零した。
「そうだ、その笑顔だ」
 デーモンは彼の頭に手を乗せ、ポンポンと軽く叩いた。
「…御免…」
 小さく吐き出した想い。
 それを、デーモンはわかってくれただろうか。
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