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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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愛しい悪魔に捧げる歌
こちらは、以前のHPで2002年01月01日にUPしたものです

拍手[3回]


◇◆◇

 初めて、他悪魔を、愛しいと思った。

「エース長官」
 その声でそう呼ばれることにまだ慣れてはいなかった。
 彼の前には、肩までの白金の緩いウエーブを揺らして微笑む相棒、レイラ=クーヴェイ。だが、彼の微笑みの意味がわからない。何故、これ程穏やかに微笑むのかも。
「クーヴェイ…」
 問いかけようとした言葉さえ、続かない。その微笑みのまま、重ねられた唇が、その言葉を飲み込んだ。
「貴方に…捧げます。この、生命を」
「……」
 誓約を終えたクーヴェイは、とても綺麗な微笑みを向けていた。
「何故…だ?」
 幾ら、自分の補佐だからと言っても、まだ顔を合わせて数日しか経っていないのに。何故、軽々しくその生命を自分に捧げるのだろう?それも、大魔王陛下や皇太子殿下にではなく…まだ経歴の浅い長官などに。
「貴方を、信じているから…では、納得出来ません?」
 くすくすと笑いを零すクーヴェイは、戦いなどまるで無関心のようにさえ思える。だが実際は、その能力は標準値を軽く上廻る程の実力を持っているのだ。だからこそ、その穏やかな表面とのギャップが信じられない。
 未だ戸惑いの表情を見せる彼に、クーヴェイはにっこりと微笑んでいた。
 生を受けて直ぐこの王都に呼び寄せられてからずっと、頑ななまでに周囲との交流を拒み、己を閉ざし続けて来た彼が…初めて、他悪魔を信じようと思った。
 勿論、エースにも初恋の相手はいた。だが、彼女は悪魔ではなく、惑星の自我であったし、エースの中ではずっと特別の扱いだった。
 だから、自分以外の"悪魔"に対して抱いた感情としては、今までのエースからは想像もつかなかったはずである。
 初めて、心を開こうと思った。
 初めて…他悪魔を、愛しいと思った。
 その想いは、通常では"愛"と、置き換えられたかも知れない。勿論、彼にはそんな形式など皆無であるのだが。

 エースの信頼を得たクーヴェイであったが、その後、不当の死を遂げた。それも、副大魔王の御位を受けて間もないデーモンの、下した決断による戦での不運だった。

◇◆◇

 レイラ=クーヴェイの死去の後、エースの元に新たな副官が補佐として姿を見せたのは、まだ彼の心の傷が癒える前だった。
 ぼんやりと窓の外を眺めているエースの背中を、副官であるリエラは、黙って見つめていた。だが、その沈黙を破るべく、ゆっくりとその口を開く。
「彼は…クーヴェイ補佐官は、とても優秀だったようですね」
「……」
「まだ…傷は、痛むのですか?」
 そう問いかける声に、はっとしたように息を飲む。
 心に負った傷は、一つではなかった。クーヴェイを失った痛みと…その元凶たる副大魔王デーモンに対する、憎しみとも言える傷。勿論、副大魔王を憎んだところで、クーヴェイが還って来る訳ではない。それは、わかっていたのだけれど…
「…出かけて、来る」
 小さくつぶやき、エースは執務室から姿を消した。

 愛しい悪魔。もう、二度とは戻らない。
 せめて、御前の記憶だけでも留めておけたら…
 御前の声を、聞かせてくれ。
 一言で良い。俺を呼ぶ声を、届けてくれ。

「…エース?」
 名を呼ばれ、思わず振り返った視界には、黄金の前髪を立てた悪魔。
「…デーモン…」
「何、してるんだ?こんなところで」
 デーモンが尋ねたくなる気持ちもわかる。広い草原の、最果ての場所。僻地とも言える、一級危険区域の外れに立つ古い巨木の前で、エースはぼんやりしていたのだ。しかしながら、そう問いかけるのはデーモンにも同じことである。警護の者も付けずに、たった一名でそこにいたのだ。
「あんたこそ。ここは、副大魔王が御忍びで遊びに来るには無味の場所だぞ」
 視線を、合わせることが出来ない。心の底に根強く潜む憎悪の感情は、未だエースを捕えていた。
 もしも、この副大魔王があの任務に関わらなければ…クーヴェイは死なずに済んだだろう。失うことは、なかっただろうと。
「何しに、来た」
 小さくつぶやいたエースの声に、デーモンは大きく息を吐き出す。
「…ここで…死んだそうだな。レイラ=クーヴェイが」
「……」
「吾輩の責任だと言うことはわかっている。だから、せめて弔ってやろうと…」
「弔うだと?」
 不意にデーモンを見つめたエースの眼差しの奥には、憎悪の炎が、確かに燃えていた。
「悪かった」
 瞳を伏せ、頭を下げるデーモンを前に、エースのその表情は凍り付く。
----弔う…だと?
「…やめろ」
 やっとで紡ぎ出した声は、エースには不釣合いな程、掠れて震えていた。
「あんたに謝って貰ったところで、クーヴェイは戻って来ない」
「わかっている。しかし…」
「クーヴェイには近付くな!」
 悲鳴のような声。その表情に、憎しみと哀しみを浮かべたエースの表情が、デーモンの胸の奥に突き刺さった。
「御前の…恋悪魔、だったのか…?」
 思わず問いかけた声に、エースは大きく息を吐き出し、呼吸を整える。
「…仲魔、だ」
「…だが、愛して…いたんだろう?」
 そう問いかける己の声でさえ、デーモンにはやたらに遠く感じた。初めて逢った時から魅かれていたこのエースと言う存在が必要としていたのは、クーヴェイ一名だったのだろうと言うことを、問いかけたのだから。
 暫く口を噤んでいたエースだったが、やがて開いた唇は、その胸を明かすように言葉を続けた。
「…魔界へ導かれて…初めて愛しいと思った存在だ。誰よりも俺を信じ、俺を支えてくれた。唯一…俺が、生命をかけても護りたいと思った存在だった」
「ならば…吾輩が憎いだろう。御前が護ろうとした生命を奪った元凶なのだから」
「あぁ、憎いね。あんたが憎い。もし、あんたを憎み続けることでクーヴェイが還って来るのなら…俺は、あんたを一生涯憎み続ける。だが…あんたを憎むなと言うのがクーヴェイの遺言だ。だから…殺されたくなければ、さっさと王都へ帰るんだな。二度とここには近付くな」
 強い眼差しでそう告げられたなら、デーモンとてそれ以上踏み込むことを躊躇うのは当然だった。だから、その意に沿うように、エースに背を向けた。そして、一歩、二歩と歩みを進めるうち、背中を刺すエースの視線がふっと消えた。
「…?」
 思わず歩みを留め、振り返った視界にはエースの背中が映った。その哀しげな後ろ姿を見つめていたデーモンは、やはりと思いを改める。そして、ゆっくりと開いた唇から零れたのは、クーヴェイを弔う為に用意して来た鎮魂歌。魂を浄化し、無に還す言魂。
「…っ!」
 瞬間、エースの背中がびくっと震えた。デーモンを振り返ったその瞳には、怒りを露にして。
「…たうな…」
 つぶやいた声は、デーモンの歌声に掻き消される。だが、背を駆け登る嫌悪感と、込み上げる怒りの感情に、エースは更に声を荒立てた。
「…めろ……やめろ!歌うんじゃねぇっ!!」
「…エース…」
 駆け寄り、デーモンの胸倉を掴み上げたエースの、琥珀色の瞳が濡れている。
「歌うんじゃねぇ!!クーヴェイが消えちまうだろうが!!」
「……」
「何で…だよ…何で、こんなところにまで踏み込んで来るんだよっ!あんたは大人しく執務室で報告書でも読んでれば良いんだ!何で、クーヴェイを消そうとするんだよっ!!何で…俺から奪おうとするんだ…」
 デーモンの胸元をきつく握り締めたまま、エースは悲痛の言葉を零していた。濡れた瞳から零れはしないものの、溢れた涙はとても切なくて。
「憎いのなら、吾輩を殺せば良いだろう。それで御前の気が済むのなら、この生命ぐらいくれてやる」
 何故、そんな言葉が出て来たのか、デーモンにもわからない。実際彼は副大魔王の御位を受ける者であり、所詮は一長官のエースと比べれば、その生命の重さは絶対にも等しい。
「殺せるか?吾輩が」
 もう一度、問いかける。
 胸元を握り締めるエースの拳が、僅かに震えていた。
「奴を愛していたのなら、殺せるだろう?御前にとって吾輩は、仇も同然のはずだ」
「何故…そんなことを問いかける。副大魔王だろ?気でも狂ったのか?」
 余りにも突飛押しもない言葉に、エースは思わず問い返す。
「いや。吾輩は、正気だ。だが…御前に吾輩を殺す勇気も気力もないのなら…クーヴェイを想い続けるのはやめろ。憎い相手を殺せないような腑抜けに想い続けられるのは、クーヴェイも迷惑だろうからな」
「…貴様…」
 エースの逆鱗に触れるような言葉を続けるデーモンに、当然、憤怒の色が濃くなる。だがその反面、胸倉を掴み上げていた拳は、力なく離れていく。
「泣くな」
 そう、つぶやく声の意味がわからなかった。だが、デーモンの指先が頬に触れた瞬間、零した涙に気が付いた。
「御前になら…くれてやる。この、生命を」
 もう一度、デーモンはそう言葉を紡いだ。そして、ゆっくり頬を近付ける。軽く唇を重ね合わせ、吐息を零す。
 自ら一歩引いたデーモンを、エースはじっと見つめていた。
 行動の意味が、まるでわからない。仮にも、自分を殺そうとしている相手に対して取る行動ではない。
 しかし、いつの間にか先程までの憤怒の感情は薄れてしまっていた。
 相手はそれを狙ったのか、それとも……
「…今は、殺しはしない。いざとなれば、幾らでもあんたの生命を狙うことは出来るからな。だが…クーヴェイのことを忘れるつもりはない。あんたが俺に何を期待しているかは知らないが、あんたには従わない」
 忘れることなど、出来るはずがない。何故、忘れることが出来る?あれ程……愛して、いたのに。
「…消えろ」
 デーモンに背を向け、エースは再び巨木へと視線を移した。
 その直ぐ後、デーモンの気配が背後から消えた。恐らく王都へ戻ったのだろう。
 エースはそっと手を伸ばし、木の幹に触れる。
「…御前は…俺に、何を言いたかったんだ…?」
 唯一、知ることが出来なかったクーヴェイの想い。想いは返していたが、己の気持ちを口に出しては言わなかったことが、気がかりで。
「俺に…忘れろと?」
 問いかける声に、答える言葉はなかった。

◇◆◇

 ぼんやりと何万年も昔のことを思い出していたエースの耳に、切ないメロディーに乗った歌声が届いた。聞いたこともないそれは、まだ審議にすらかけられていない、未発表の曲のようだった。
 音の元は、デーモンの部屋。当然それを確かめるべく、エースは己の部屋を出て、デーモンの部屋へと足を運んだ。

「デーモン、入るぞ」
 ノックと共にそう声をかけ、エースは扉を開ける。
「あぁ、エース…」
 余りにも隣が静かだったものだから、エースは不在だとでも思っていたのだろうか。エースが入るなり、デーモンは床に散乱していた楽譜を急いで掻き集めている。
「今更、隠すな」
「だが…」
「良いから」
 姑息な手段を留め、エースはデーモンの手からその譜面を奪い取ると、ざっと目を通す。
「…まさか、御前がいるとは思わなくてだな…その……」
「…鎮魂歌(レクイエム)…」
 音を追ってみれば、それは遙か昔に聞いたことのあるメロディーだった。
「御前には…聞かせるつもりはなかったんだ。勿論、教典の審議にかけるつもりもなかったんだが……」
 それが、弔いの為の歌であるが為に、デーモンは気まずそうな表情を浮かべている。その脳裏には、かつてこの歌を拒んだエースの姿でも浮かんでいるのだろう。
「…今更…」
 思わずそうつぶやきを零したエース。確かにあの頃は、この歌を拒んだ記憶がある。先程まで、自分もそれを思い出していたのだから。だが、今となってはそれ程拒む必要もない。
 何故なら、クーヴェイはエース自身で弔ったのだから。
 そして何より…今一番愛しいのは…この目の前にいる悪魔なのだから。
「審議、かけても良いから」
「エース…」
「…有り難う」
 不意に、抱き締められる。当然、デーモンには訳がわからないが。
 ゆっくりと合わせられた唇から零れた吐息を拾うように、エースは口付けを繰り返した。
「…クーヴェイの為に…歌ってくれ…」
 そう聞こえたのは、幻聴だろうか。
 エースの表情を伺うことが出来ないまま、デーモンはその抱擁の温もりの中で、一つの結論を見つけ出した。
 あの時から…全てが変わり始めたのだと。

◇◆◇

 忘れるのではない。記憶の底に、埋もれただけ。
 消えるのではない。昇華するのだ。
 魂を鎮める、弔いの歌。
 それは、愛しい悪魔に捧げる、最後の歌だった。
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