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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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桜雨 後編
こちらは、以前のHPで2005年04月24日にUPしたものです

拍手[3回]


◇◆◇

 宴が始まったのは、職務終了時間を少し廻った頃だった。
 まだ仕事の残っているダミアンを除き、予定通りの人数が"桜"の下に集っていた。
 勿論、そこにはエースの姿もある。それが安心感でもあり…不安でもあったが。
「ま、呑も~よ!」
 いつになくテンションの高いルークに、エースは呆れているかのような表情を見せる。
「もう酔ってるのか?」
「まっさか~。俺は素面よん~」
 くすくすと笑いながらエースのコップに酒を注いでいくルーク。そんなハイテンションのルークを、ライデンもゼノンも笑いながら眺めていた。
 いつしか、エースも微笑んでいた。
 そう。望んだのは、こんな微やかな平和。
 勿論、一つだけ満たされない想いはあるが…。
 そう思った瞬間、エースの胸の奥が僅かに軋んだ。けれど、それは表情には表れない。
 いつもと変わらない"エース"を装う。
 今、この時間さえ乗り切れば…楽になれるのだろうか?
 その胸の痛みを…忘れることが、出来るのだろうか?
 そんな思いを抱きながらも、表面上を楽しく過ごす姿。けれど、その真の姿は誰もがわかっていた。わかっていたからこそ…誰も何も言わなかった。
 胸の中を渦巻いている、この先の不安。
 その全てを、拭い去りたいと思う欲望。
 そして、僅かにでも抱いていたい希望。
 様々な想いを胸の奥に押し込むように、酒を喉に流し込む。
 旨いだなんて…欠片程も感じなかった。
 まるで無味、無臭。寧ろ…泥水のように不味い。だが、そんなことは微塵も見せない。
 そうやって、誰もが自分自身を騙しながら表面上の宴会を続けていた。
 そんな時間が過ぎる中、徐々に強まって来た風。ざわざわと揺れる木の枝から、幾片もの花弁が零れ落ちる。
「…風が出て来たね。雨も降るかな…」
 心配そうに空を見上げたライデン。その途端、ポツリと空から落ちて来た雫。
「雨、だ…」
 その声に、一同が空を見上げる。
 風と共に舞い散る花弁。そして、ぱらぱらと落ちて来た雨。それは、徐々に強くなる。
「避難、避難!念の為に魔方陣敷いといて良かった~」
 そう言いながら、呪を唱えると、彼らが座っていたシートの下からぼんやりとした明かりが零れて来た。
「…シートの下に魔方陣…?」
 首を傾げるゼノンに、ルークがくすっと笑う。
「だって、雨に降られたら避難するのが大変でしょう?準備段階から天気が今ひとつだったから、念の為用意してたんだ。このままウチの屋敷に転移するからね」
「こう言うことは、用意周到なんだから…」
 呆れたようにくすくすと笑うゼノン。だが、その笑いも直ぐに飲み込んでしまった。
「…エース…大丈夫?」
 思わず問いかけた声に、ライデンとルークもエースへと視線を向ける。
 空を見上げたまま、微動だにしないエース。その表情は…先程までとはまるで違う。
 それは…毎年見ていた、寂しそうな…苦しそうな表情。
「エース…?」
 もう一度、名を呼ぶ。すると、ハッとしたようにエースは視線をおろした。勿論、表情も直ぐに平生を装う。
「…あぁ…大丈夫…」
「なら良いけど…」
 心配そうに眉根を寄せるゼノンに、エースは小さく微笑む。そして徐ろに立ち上がると、シートの上から外へと出る。
「ちょっ…何処行くの?」
 思わず声を上げたルークに、エースは微笑を返した。
「先に行っててくれ。俺はもう少し…ここにいる」
「…エース…」
「大丈夫。必ず、行くから」
 念を押すようにそう口にしたエースの言葉。
「…わかった。じゃあ、先に行って待ってる。必ず…来てよ」
「あぁ」
 軽く手を上げるエース。それは、早く行け、と言う合図に他ならないのだろう。
 諦めたように、ルークは呪を唱える。そして魔力が高まると、彼らは一瞬にして姿を消した。
 それを見送ったエースは、大きな溜め息を一つ。
 風は、相も変わらず花弁を舞い落とす。まるで、吹雪のように。
 雨は、次第に強くなる。その偽りの全てを、押し流すかのように。
 エースはそれを凌ぐことなく、身体全体で受け留めていた。
「…御前が…泣くなよ」
 そうつぶやき、そっと雨で濡れた木の幹に手を触れる。
 暖かな温もりが掌にじんわりと伝わって来る。
 何の為に、ここに来たのだろう。
 エースの脳裏を過ぎった、そんな問いかけ。
 胸の奥が苦しくて…酷く痛んで…それでも尚、ここに来なければならないと思う気持ちは変わらない。けれど…何かが軋み始めたのも事実。
 忘れてはいけないもの。それを繋ぎ留める為に、胸の苦痛を必死に飲み込んで来たと言うのに…どうして、こんなに脆くなってしまったのだろう。
 エースは、大きく息を吐き出す。
「馬鹿、か…俺は……」
 つぶやく言葉と共に、零れる涙を留めることは出来なかった。
 降りしきる雨の中…エースはただ、木の幹に額を寄せ、嗚咽を零していた。
「…御免な…もう、ここに来るのは…辛いんだ……」
 額を寄せたまま、膝を折り、地面に跪く。
 溢れる想いを留められない。
 溢れる涙を止められない。
 固く結び合った絆は…もう、見えなくなっていた。
「…デーモン……デーモン!返事をしろよ……っ!」
 幾ら名を呼んでも、答えが帰って来るはずなどなかった。
 恋悪魔が選んだのは、自分ではなかった。
 最後を見届けることは…ここへ戻るつもりのない言い訳だったのではないか。
 そんな想いが渦巻いて…苦しくて仕方がない。
 滅びかけた惑星に…まだ、嫉妬している自分。それが…酷く馬鹿らしくて。
 胸の奥が、焼けるように痛い。
「…デーモン……」
 消えかけた記憶の色。それでも、呼ばずにはいられない名前。そうしていなければ…何もかも、嘘になってしまうようで。
 雨は、降り続く。エースと共に、泣いているかのように。
 どのくらい、泣いていたのかもわからない。けれど、その時間を遮ったのは…聞き慣れた声、だった。
「…エース」
 名を呼ばれ、ぽんと肩に手が置かれた。
「…ダミアン様…」
 慌てて涙を拭い、顔を上げる。
 にっこりと微笑んで見せるのは皇太子。彼もまた、頭から雨に濡れていた。
「酷い雨になったね。他の連中はルークの屋敷に避難したと連絡があったよ。来客があってね、遅くなってしまったが、わたしもこれから向かう所だ」
 いつもと変わらずに微笑むダミアン。そして、手を貸してエースを立ち上がらせると、微笑んだままゆっくりと身体をずらした。
「御前に、来客だよ」
 その声に導かれるように、視線を向ける。
「……っ!」
 思わぬ姿に目を見張るエース。零した声は、言葉にならない。
「今日は自分の屋敷に御帰り。彼奴らには上手く言っておいてあげるから」
----風邪を引くんじゃないよ。
 くすくすと笑いながら、ダミアンはエースの肩をぽんぽんと叩くと、踵を返し、鼻歌を歌いながらルークの屋敷へと転移をした。
 そこに残されたのは…ずぶ濡れのエースと…ずぶ濡れの……
「……ただいま」
 照れ臭そうに笑う姿。それは…見間違えるはずなどない……待ち兼ねた姿。
「…デーモン…」
 記憶の色が、甦る。
「あぁ。ただいま」
 微笑みながら、歩み寄って来るの恋悪魔の姿に、エースは思わず両手を伸ばす。
 最初に指先が触れたのは、相手の頬。雨に濡れて冷たくなっているものの、それは懐かしい温もりだった。
「…どうして…ここに…?」
 思わず問いかけた声に、くすっと笑いが零れる。
「言っただろう?ただいま、って。帰って来たんだ。先に大魔王陛下とダミアン様のところに行って来たから、こんな時間になってしまったが……エース?」
 その途端、きつく抱き締められる。肩口に顔を埋めたエースは…声を上げて泣いていた。
「…御免な、遅くなって…」
 デーモンは、腕を伸ばしてエースの頭を抱き寄せる。
 こんなにもエースを不安にさせてしまった自分。けれどデーモンもまた、エースが未だ自分を必要としてくれているのか、不安だったのだ。
 だがしかし。そんな幾つもの不安は、一瞬にして消え去った。
 愛されている実感。それが、相手の温もりだった。
 それだけで、解り合える。隙間の空いた心を満たすことが出来る。それが…自分たちを固く結びつけた絆なのだと。
「もう…何処にも行かない。ずっと…御前の傍にいるから…」
 エースの髪を撫でながら、エースの想いを全身で受け留めるデーモン。
「あ…たり前…だ……もう…何処にもやるかよ…」
 やっと呼吸を落ち着けたエースは、ゆっくりと身体を離す。そして改めてデーモンを見つめた。
 涙で濡れた…真っ赤になったエースの瞳。それが、何よりもいとおしい。
「待っていてくれて…ありがとう」
 にっこりと微笑み、デーモンはエースに口付ける。
 深く、深く。呼吸の一筋も、吐息の一筋も漏らさぬくらい。胸の隙間を埋めるくらい。
「…逢いたかった…ずっと……」
 デーモンの想いに答えるかのように、エースもまた、深く唇を合わせる。
 ずっと求めていた温もり。それが今やっと、戻って来た。
 もう、それだけで十分だった。


 その夜、ずぶ濡れになった二名は、ダミアンに言われた通り、大人しくエースの屋敷へと戻って来た。
 心配する使用魔たちを適当にあしらい、しっかりと風呂で身体を温めた二名は、やっとエースの寝室で落ち着いて腰を降ろしていた。
「今日は花見だったんだろう?雨が降って残念だったな」
 未だ降り続く雨を窓から眺めながらそうつぶやくデーモンに、エースは取り出した酒を二つのグラスに注ぎながら言葉を返す。
「桜雨、だ。仕方がない」
「そう…か。桜雨、か。なら仕方ないな。ついでに、御前の涙雨もミックスだったな」
 くすくすと笑うデーモンに、エースは耳まで真っ赤に染まる。
「うるせー。いつまでも戻って来ない御前がいけないんだろうが…っ」
「そうだな。吾輩がいけなかった」
 くすくすと笑いながら、デーモンはエースから受け取ったグラスに口を付ける。
「…ったく…彼奴らには言うなよ…」
 エースも真っ赤に染まったまま、グラスに口を付ける。
 ついさっきまでは、全く旨いと感じなかった酒が、今はとても旨いと感じる。
「吾輩は言わないけどな…ダミアン様がどうかな…」
「………だな……」
 泣き顔を見られたのは一生の不覚、と言わんばかりの表情を浮かべたエースに、デーモンは笑いを零しながら手を伸ばす。
「でも、ホントに嬉しかった。今でもこうして吾輩を受け入れてくれる御前であってくれたことが」
 エースの頬に触れた指先。エースはその手を掴み、掌にそっと口付ける。
「俺は…俺が、御前の色を忘れてしまう前に、御前が戻って来てくれただけで良いから」
「エース…」
 燃えるような熱を帯びた、エースの眼差し。
 吐き出した言葉は真実。だから、脚色などするつもりもない。本当に、ただそれだけで良いと思ったのだから。
 今まで胸の奥を苛んでいた不安は、もう何処にもない。あるのは…また、巡り会えたと言う安心感と…燃えるような情熱。
「…愛してるよ」
 デーモンの頭を引き寄せ、耳元で囁くと、そっと唇を寄せる。
 そのくすぐったさが、とても心地良い。
「吾輩も…愛してる」
 言葉で返すことが、何よりも胸に残る。何よりも、安心する。
 それが、愛していると言う実感。
 愛されていると言う実感。
 その夜は、二名ともとても安らかな気持ちだった。

◇◆◇

 翌日。夕べの雨はすっかりやみ、また青い空が広がっていた。
「桜、見に行こう!」
 上機嫌のデーモンに手を引っ張られ、エースは自分の職務もそっちのけで花見に行くこととなった。
 青い空に咲き零れる、淡いピンクの花弁。
 夕べの風と雨でかなり散ってしまったものの、その雄大さはまだ健在だった。
「…御前と一緒に、見たかったんだ」
 エースの手をしっかりと握り、"桜"を見上げるデーモン。
 暫くその横顔を見つめていたエースであったが、やがてデーモンと同じように"桜"を見上げる。
 昨日までの胸の痛みはない。
 共に愛でることが出来ること。それは、昨日までは想像も出来なかったこと。
「来年もまた…」
 エースの唇から零れた小さなつぶやきに、デーモンは視線をエースへと向ける。
 エースもまた、デーモンへと視線を戻す。
「…勿論」
 にっこりと微笑むデーモンに、エースも小さく笑った。
 そして、どちらからともなく、そっと唇を合わせる。
 柔らかな風に乗って舞い散る花吹雪の中、それはまるで、誓いのキスのようだった。

 エースと共に己の執務室に戻って来たデーモンは、そこに待ち構えていた"彼ら"の、盛大な歓迎を受けた。
「遅いじゃない~」
 にこやかに笑いながら、そう零すルーク。
「夕べ、ダミ様からデーさんが帰って来たって聞いてさ、驚いたよ~。でも、エースも元気になったし、良かった良かった」
「ホントに。一時はどうなることかと心配したんだよ?」
 最悪の結果にならなくて良かった。
 ルークもライデンも、ただそれだけが嬉しくて。
「心配かけて悪かったな。もう、大丈夫だから」
 微笑みながら、エースを振り返るデーモン。エースもまた、柔らかな微笑みでデーモンを見返していた。
「…それにしてもさぁ?今日のエースってば、妙~に腫れぼったい顔してない…?特に目の周りなんてさぁ…?」
 そう言って首を傾げるルークに、エースは苦渋の表情を浮かべる。
「…別に良いだろう…っ。夕べ、呑み過ぎたんだよっ」
「…へぇ。もう歳じゃないの~?呑み過ぎで浮腫むなんてさぁ」
「…るさいっ」
 まるで誤魔化すように、僅かに顔を朱に染めたエースがぷいと横を向く。
 実の所、泣き過ぎで腫れぼったい顔になったなどと…口が裂けても言えるはずのないエース。
 そんなエースの姿に、自身も心当たりのあるライデンは、くすくすと笑いを零していた。勿論、同じようなライデンの顔を見たことがあるゼノンもまた、小さな笑いを零している。
「…あとで、処置してあげるよ」
 小さく囁いたゼノンに、エースは苦渋の笑いを零していた。
 どうやら、ダミアンはエースが雨の中泣いていたことは、他の構成員には黙っていてくれたようである。ただ、涙脆いライデンと、慰め役だったゼノンには、その真意がわかっていたようだったが。
 そんな仲魔たちの姿を眺めながら、デーモンは実に楽しそうに笑っていた。
 もう、迷うこともない。
 みんなの気分は、この春の空のように晴れ晴れとしていた。

◇◆◇

 桜雨は、彼らに沢山の倖せを運んで来た。
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趣味は妄想のおバカな物書きです。
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