忍者ブログ

聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

覚醒 ~side R~後編
こちらは、本日UPの新作です
注)あくまでも創作ですので、辻褄が合わないことがあっても目を瞑ってください…(苦笑)

拍手[1回]


◇◆◇

 その日俺は、体調があんまり良くなくて…バンドの練習もそこそこに切り上げて帰ろうかと思っていた矢先。
「……ぁっ…」
 マズイ、と思った時にはもう目の前がぐるんぐるん回りだして、あっと言う間にぶっ倒れてしまった…。
「…湯沢?!」
 遠くで声は聞こえたものの…頭はガンガンするし、きつく目をつぶっていてもぐるぐる回っているのはわかるし…どうにも出来ず、意識も落ちて行った……。


 多分…これは夢だろう。と、自分で感じている辺り、どうかと思うんだけど……
 俺は、草の上に寝転んで、それを見ていた。
 青い空。雲一つない、綺麗な、青。
 そして、隣には同じように寝転がる存在がもう一人。
 何にも言わない。ただ、一緒に空を見上げているだけ。
 でも…無性に心地良い。
 ふと、指先が相手の手に触れる。すると、ふわっと包み込まれた。
 暖かくて、柔らかい手。
 その感触に、胸の奥がじんわりと暖かくなる。
 俺は……この温もりを知っている。
 でも、誰なのかはわからない。
「…愛してるよ…」
 そうつぶやいたのは、どちらだったか。
 誰よりも、大切な…俺の……運命の人。

◇◆◇

 おでこが冷たい…。
 背中が痛い…。
 そんな感覚で、ふと意識が戻る。
「…いってぇ…」
 思わずつぶやいた声に、声が返って来る。
「湯沢くん、気がついた?大丈夫?」
「…石川くん?」
 目を開けて頭を巡らせてみれば、俺を心配そうに見つめる眼差しと出会う。
「…俺…どした?」
 状況が全くわからないんだけど…ぐるっと見回すと、そこは医務室のベッドの上。で、ベッドの横には石川くんがいて……それだけ。
「医務室の先生は今ちょっと出てる。多分、貧血だろうって。ご飯、ちゃんと食べてる?」
「…あ~…」
 そう言えば、このところちゃんと食べてなかったな~…わかってはいたけど、反省…。
「清水さんが、食べ物買いに行ってくれてるから。それ食べて、今日はゆっくり休んだほうが良いって。気がついたら帰っていいって、医務室の先生も言ってたから」
「…そっか…ごめんね、心配かけて」
「無理、しちゃ駄目だよ。ただでさえ、ドラムなんて体力勝負なんだから。危ないと思ったら、練習なんて良いから休まないと」
「…でもさ、折角石川くんも来てくれてるのに…ちょっとぐらい顔出さないと申し訳ないな~と思ってさ…折角、石川くんの音が聞けるのに…帰るの勿体無くて……勿論、反省してるよ?」
 そう。学校が違うのに、わざわざウチのサークルに来てくれているんだから…と思ったら、無茶してでも参加しなきゃ、って思うよな?
 すると、石川くんは俺の頭をぐりぐりと撫で回し始めた。
「ちょっ…何?」
「いや……可愛いな~って思って」
「……どう言う意味で…?」
 未だ嘗て…犬みたいって可愛がられることはあっても(自分で言うのもなんだけどね…)、可愛いって撫で回されたことはないんだけど…。
 多分、複雑な表情を浮かべていたんだろう…石川くんはくすくすと笑うと、俺の腕を引っ張ってベッドから起こしてくれた。
「可愛いと思うよ?誰よりも素直な辺りが特に。俺は出来ないことだから、羨ましいよ」
「…あ、そうですか…」
 ……てっ…照れる……。
 でも…確かにそう。知れば知る程…石川くんの本心が見えないと思う。
 いつも穏やかに笑っているように見えるけど…目の奥は笑ってない。何処か醒めたような…ちょっと気になる眼差し。
 だからなのかも知れないけど……俺は、もっと石川くんを知りたいと思う。
 それがどう言うことなのか…俺自身も、自分の気持ちを図りかねている訳で…。
 そんなことを考えていたら、石川くんが俺の顔を覗き込んでいた。
「…なっ…何…?」
「…いや、急に黙ったから、具合でも悪くなったかと思って…倒れた時に、椅子から落ちて背中と頭打ったみたいだから…」
「…通りで、背中が痛いと思った…頭は…大丈夫みたい」
 一通り自分で自分の頭を触って、確認する。頭は、特に痛いところもない。
「あ、だからおでこ冷やしてくれてたの?」
「うん、一応…」
「有難う。おかげで何ともないみたい」
 …と、そんなやり取りをやっていると、別のところから声が届く。
「…俺に買出しさせといて、何いちゃついてんの…?」
「…清水先輩…」
 医務室のドアを半分開けた状態で中を覗いている清水先輩…
「…やだなぁ…そんなことないですよ~」
 慌ててそう声を上げると、小さな溜め息を吐き出して中へ入って来た。その手には、コンビニの袋。
「ほら、配給。ちゃんと食えよ」
「有難うございます~~」
 俺が清水先輩が買って来てくれたご飯を食べ始めると、清水先輩はベッドの横にいる石川くんに視線を向けた。
「石川、悪かったな。遅くまで残らせて。湯沢は俺が送って行くから、帰って良いよ」
「…そう?じゃあ…お言葉に甘えて…」
 そう言うと石川くんは立ち上がった。
「じゃあ、湯沢くん、お大事にね。また連絡するから」
「…うん…有難うね」
 お礼を言うと、にっこり笑って俺の頭をぐりぐりと撫でて、それから帰って行った。
 その一部始終を見ていた清水さんが、石川さんがいなくなって一言。
「…お前、彼奴のペット?」
「…いや…そんなことないですよ…多分…」
 完全否定出来ない…。
 小動物的な扱いを受けてることはわかっているけど…それを面と向かって言われると、否定はしたくなるんだけどね…。
 それは扠置き。
 清水先輩が買って来てくれたご飯を平らげると、清水先輩は、さて、と立ち上がった。
「そろそろ俺たちも帰ろう。タクシー呼んでやるから」
「…いや、そこまでしなくても…悪いっすよ…」
「いいからいいから。こう言う時は、大人しく奢られろ。まぁ、俺の金じゃないけど」
「…はい?」
「浜田さんから。ちゃんと送ってやれ、って、預かってるから。まぁ、心配すんな」
 くすくすと笑うと、俺の荷物を持って先にドアを開ける。
「歩けるか?」
「…多分、大丈夫です」
 床に足をつけ、ゆっくりと立ち上がってみる。一歩踏み出すとちょっと眩暈を感じたけど、歩けない程じゃない。
「よし、行くぞ」
 前を行く清水先輩は、俺の歩調に合わせて、ゆっくり歩いてくれる。
 有難いな~と思いながら見ていたその背中に…一瞬、何か見えたような気がしたのは…気の所為だったのか…?
 強いて言えば…黒い、翼のようなモノ。
 ギクッとして、一瞬足が止まる。
 でも、そこに感じるのは恐怖ではない。ただ…鼓動が早くなる…
「…湯沢?」
 足の止まった俺を不審に思ったのか、歩みを止めて振り返った清水先輩。その表情は、いつもと全く変わらない。
「…何でもないです…」
「…そうか?なら行くぞ」
 再び歩き始めた清水先輩。その背中も、いつもと変わらない。
----何だ…今の……?
 訳がわからない。ただの幻覚だったのかも知れないし。
 小さく首を横に振り、不可解な幻を追い払う。
 そして、清水先輩を追いかけて外へ出ると…そこは、いつもの景色とは違っていた。
「……何…?」
 目の前には…清水先輩ともう一人…金髪で、夜なのにサングラスをかけた男が立っていた。
「ご苦労だったな、"エース"」
「………」
 金髪男は、清水先輩にそう話しかけた。清水先輩は…小さく頷いただけで、言葉は発しない。
----"エース"…?
 誰だ?"エース"って……だって、あれは…
「…清水……先輩……?」
 思わず呼びかけた声に、こちらに歩み寄って来たのはもう一人の男の方、だった。
「…誰…?」
 零れた声は、掠れていた。ドクドクと心臓が脈打つ音が、直ぐ耳元で聞こえるようで。
 すると、金髪の男はくすっと小さく笑い、俺の直ぐ正面で立ち止まる。
「私は"ダミアン"。お前を、誘いに来た」
「……"ダミアン"…?映画に出て来る、あのオーメンの……?」
 思わず、口をついて出た言葉に、向こうにいる清水先輩が吹き出していた…。それは扠置き。
「…ん~、そうだと言えばそうかも知れないが…違うっちゃ違うんだよな。まぁ、全くの別悪魔だけれどね」
「……その声は…浜田先輩……?」
 確かに、聞き覚えのある声だ。間違えるはずはない…っ!
「…どう言うことです?また、俺をからかってるんですか…っ?!」
 そう声を上げると、清水先輩が声を上げて笑った。
「…さっすがだな~。この緊張感の中で、お前凄いわ~」
 その瞬間、金髪男はぱっと後ろを振り返る。
「…こら、"エース"。黙ってろ」
「…御意…」
 未だ肩を揺すって笑っている清水先輩を制するように、金髪男は咳払いを一つ。そして改めて俺の方を向いた。
 そして、俺の眉間に人差し指を押し当てる。
「…お前の魂を誘う」
 その瞬間、目の前がぐらっと揺らめき…俺は、意識を失った……。

◇◆◇
 何もない空間。
 気がつくと、俺はそこに座っていた。
「…何だ?ここ…」
 思わずつぶやいた時、背後から声がした。
《…湯沢、こっちこっち》
「……?」
 名前を呼ばれて振り返れば…そこには、白い顔に赤い紋様。右の頬に赤い稲妻模様の、黄色い頭の男。
「…派手だね…」
 思わずつぶやいた声に、くすくすと笑いを零した。
《そりゃ仕方ないわ。生まれつきなモンでね》
 それは、幾度か聞いた声。幻聴だと思っていたのは、こいつの声だったんだ。
「…あんた誰?」
 問いかけた声に、俺と目線を合わせるように、その男は座り込んだ。
《俺はライデン。これでも雷神界の皇太子ね》
「……は?」
----皇太子…?そうは見えない……
 心の声が聞こえたのか… "ライデン"と名乗った男は、ちょっと口を尖らせる。
《この右頬の稲妻が、王位継承の証なの…っ!だから、俺はれっきとした皇太子っ》
「…だから何だよ…俺と、何か関係あんの…?」
《…直接は関係ないけどさぁ…》
----何だこいつ…
 状況がさっぱり見えない上に、この"ライデン"と言う男の登場…さて、俺の身に、何が起こるのやら…
 と、妙に冷静になっていたりするんだが…
 "ライデン"は…と言うと、多分、俺の表情を読み取ったんだろう。咳払いをして、雰囲気を立て直す。
《…で、大事な話なんだけど…》
「あ、はい…」
 改めて真剣な顔をされ、俺もちょっと姿勢を正して…思わず正座なんかしてしまったり…。
 で、"ライデン"は…と言うと、真剣な表情のまま、俺の目を真っ直ぐに見つめた。
《あんた、悪魔になるから》
「…はい?」
 悪魔?その言葉を聞いた瞬間、清水先輩を思い出した。
 背中の黒い翼。あれは…まさか……
「…清水先輩も…そうなの…?俺と同じように、変な声が聞こえるとか言ってたし…っ!浜田先輩はっ?!あの金髪男は浜田先輩なんでしょ…っ?!」
《…まぁ落ち着けよ…》
 捲くし立てた俺を宥めるかのように、手を伸ばして肩をぽんぽんと叩いた。
《まぁ…さぁ。あそこまでやって、清水が無関係だ、とは言えないし、ダミ様だって"エース"って名前呼んじゃってるから?そう考えりゃ普通は仲魔だと思うよな》
「…黒い翼が見えた。背中に…」
《それだけ見えりゃ上等》
 くすくすと笑いながら、"ライデン"は話を続ける。
《あんたが言う通り、清水は俺たちの仲魔になった。悪魔の名前は"エース"。地獄情報局の長官。で、浜田は魔界の皇太子殿下の"ダミアン殿下"の媒体。そしてあんたは…俺の媒体になる訳》
「………媒体って…?」
《俺たちが人間界で活動する間、俺たちが身体を貸して貰うってこと。その間、あんたの魂は眠って貰う。その反対に、あんたが何かをする時は、俺たちはあんたの中で眠っているって訳》
「…つまり、一つの身体を二人で使う、ってこと?」
《まぁ、言ってしまえばそう言う事。理屈は簡単だろ?》
「…理屈は、ね…」
 何だこいつ…。ホント、皇太子に見えない…。
「…で、何の為にあんたたちがやって来た訳?悪魔だけに、破壊工作?人類でも滅亡させようって訳?」
 問いかけた声に、"ライデン"は表情を引き締めた。
《…そう。人類を、滅ぼす為。この地球を、護る為に》
「…ビンゴかい…」
 思わず溜め息を一つ…。
「…俺の親はさ、自分の息子を人類滅亡の黒幕として育てたつもりはないと思うんだけど…?」
《…まぁ、そうだろうね。でも、あんたが生まれた時から俺の媒体になることは決まっていたんだ。勿論それは、あんたの親も知らない。別に、許可を得た訳でもないしね》
「罪悪感とかはない訳?」
《罪悪感?まだ何もしてないのに?だったら、俺も聞くけど、あんたたち人間は、地球の生命を縮めてることに罪悪感を感じる…?》
「…いや…心当たりはないね…」
《でしょ?結局のところ、何に対して罪悪感を感じるかって言ったら、直接的に悪いな~って言う感覚を持って、自分たちが手を下した物に対してでしょ?俺たちは、人類滅亡の為の布石を撒きに来た。でも、撒くだけであって、直接手を下して惨殺しに来た訳じゃない。寧ろ、地球を護る為。放って置いたって、人類はそのうち滅亡する。それが、ほんの少し早くなるだけ。悪魔だから罪悪感なんてない、って思われるのは心外だから、それだけは言っとく。俺たちは、あんたたちが持っていない能力を持ってる。ただそれだけで、罪人扱いされるのは御免だ。その存在が善か悪かなんて、誰かが決め付けて良いことじゃない。俺たちだって、人助けだってするし…誰かを好きになることもある》
「まぁ…そうだね。あんたの言葉に異論はないよ。尤もだ。でも、だからって俺が素直にそれに応じると?」
《…応じてくれないと困る。媒体は、一悪魔につき一人だけ。あとにも先にも…俺の媒体はあんたしかないんだ。だからと言っちゃ何だけど…あんたの身体を借りる間は、あんたのことは全力で護る。誰よりも大事にする》
「…プロポーズかよ…」
 再び溜め息を吐き出す。
 "ライデン"の言っている意味はわかる。善悪なんて、誰か一人の感覚で決めて良いものではないし、何処からが悪か、何て言うのも人の感覚一つ。悪魔が悪いだなんて…決め付けちゃいけないのか。
「…で、俺は今すぐどうにかなっちゃう訳?」
 逃れられないのなら仕方がない。でも、今すぐどうにかなってしまうなら…心残りも沢山ある訳で…。
《…いや、俺たちの活動自体、今すぐどうこうなる訳じゃない。ただ…それとは別に、あんたに協力して貰いたいことがあるんだけど…》
 急に、"ライデン"が低姿勢になった…。
「…何?」
 問いかけると、小さな咳払いを一つ。
《…悪魔を…捜しているんだ。協力して欲しい》
「…協力、って…具体的に何を?」
《…それが……俺にも良くわからないんだけど…》
「………は?」
 どう言う事?
 疑問符が浮かんだ俺の顔を、"ライデン"は困ったような表情で見つめた。
《…俺が見つけてやらないと、そいつは覚醒出来ない。そう約束しちゃったんだよね…勿論、見つけられる自信はあるんだけど…どの辺にいるのか…媒体になるヤツは誰なのか…その辺が全く見当も付かないんだ》
「…で、あんたが見つけられないってのに、どうして俺が見つけられるのさ?…ってか、何でそんな約束しちゃったのさ…」
 ちょっと呆れる…。
 "ライデン"は、俺の問いに気まずそうにちょっと口篭る。
《…だってさ…俺の方が先にこっちに来ることが決まったから…だったら、待ってるから必ず来てよ!って気持ちでさ…》
「…何、捜し悪魔って、あんたの恋悪魔か何か…?」
 そう問いかけると、その頬がほんのり染まる。
《…まぁ…》
「…何だよ、初々しい顔しやがって…」
《だって、俺の初恋だよ?!実らせるのにどれだけ大変だったか…っ》
 真っ赤になって声を上げる姿。確かに、そんな姿は悪魔だろうが人間だろうが変わりない。
 好きな人の為に一生懸命な姿は…応援してやらなきゃ、って思うよな?
「…じゃあ…そいつの媒体を捜せば良いってこと?」
 この際仕方がない。協力してやろうじゃないか。
《…多分…でも、媒体と悪魔の容姿がそっくり似てる、って訳でもないから…半分は勘なんだけど…傍に彼奴がいれば、絶対わかるんだけど…覚醒してないからな…》
 …要は、簡単じゃない、ってことか…まぁ、仕方ない。
「じゃあ…地味~に捜すしかないって訳ね」
《…そうだね…》
 恋悪魔なら直ぐにでも会いたいだろうに…と思ったところで、一つの疑問にぶち当たった。
「…ねぇ、"ライデン"…無事にあんたの恋悪魔が見つかったとして…だ。俺はどうなる訳?俺も、あんたたちの関係に巻き込まれるとか…?」
《…それは心配しないで良いから。別に、俺の恋悪魔の媒体だからって、あんたがその相手を好きになる必要はないよ。それとこれとは別問題。だから、あんたはあんたでちゃんと恋人作って良いからね》
「…恋人、ね…」
 今のところ、何の気配もないけれど…。
「…ま、ゆっくり行こうや」
 そう言って、小さく笑う。
 他人と違う運命も、また面白いかも知れない。
 いつか…そこに、運命の相手がいれば、もっと良いとは思う。
《OK》
 "ライデン"も、にっこり笑った。
 そして。
----有難うな。
 "ライデン"は俺の肩を正面から掴んで、そっと口付けた。
「…なっ…っ?!」
 慌てた俺に、くすっと笑いが零れた。
《御免ね、これが契約の儀だから》
「…はぁ…」
 正直、びびった…。でも…俺は多分、こいつと出会えて良かったんだろう。
 悪魔の媒体として生きること。
 普通ではない人生も…まぁ、それもまた一興。
 面白くなるといいな。
 その思いは、きっと"ライデン"にも伝わっているはず。
 俺の、媒体としての運命は回り始めた。

◇◆◇

 コーヒーの良い匂いがする…
 目蓋の裏が眩しくて…ゆっくり目を開けてみると、そこには見慣れた天井。
「…あれ?…」
「おぉ、目が覚めたか?」
「………」
 状況がイマイチ良くわからないんだけど…どうやら、自分の部屋のベッドに寝ていたようだ。
 で、キッチンにはコーヒーを入れる清水先輩…
「…あれ…?俺、どうなって…」
「…まぁ…コーヒーでも飲むか?」
「…あ…うん…」
 カップに入れたコーヒーを受け取ると、清水先輩ももう一つのカップにコーヒーを注ぎ、ベッドの端へと腰掛けた。
「ちゃんと家まで送る、って言ったろ?覚えてるか?」
「…そう言えば…」
 そう。夕べ…貧血で倒れた俺を、清水先輩がタクシーで送ってくれる、って言ってたな……浜田先輩のお金で。
 それで……あんなことになった訳だ…。
「…落ち着いたか?」
「…まぁ…」
 ちょっと気まずい…って言うか…何でこの人も、朝まで俺の部屋にいるんだろうか…。
 暫し、二人とも無言でコーヒーを啜る。
 で。その沈黙を破ったのは清水先輩だった。
「…"ライデン"とは…ちゃんと契約したんだろ?」
「…はい…」
「そう…か」
 そこで、再び沈黙…。
「あの…」
 今度は俺が口を開いた。
「清水先輩……ですよね?」
「…そうだけど?」
 俺の問いかけに、一瞬面食らったような表情を見せ、その後くすくすと笑い出した。
「別にさ、悪魔と契約したからって、常に悪魔でいる訳じゃないから」
「じゃあ、夕べは?」
「あれは…半分俺で、半分"エース"」
「…そんなことも出来るんだ…」
「まぁ…慣れればな」
「…清水先輩は、俺が悪魔の媒体だって知ってたんですか?」
 一つ尋ね始めたら、質問は止まらない。
 清水先輩は俺の許可を得て煙草を取り出すと、一本銜えて火をつけた。
「そうかな?って思ったのは…お前が、俺の部屋に相談に来た時があったろ?変な声が聞こえる、って。あの時かな」
「…そう言えば、そんなことも…」
「あの時な…俺も、今のお前と同じ。覚醒したばかりだったんだ。まぁ、自分がそうだったから…って言うのもあるんだが…契約した以上、俺たちには色んなことが付き纏うと思う。でも、俺は"エース"を信じているし、"ダミアン様"のことも信頼している。今はまだ、仲魔の覚醒を待つ時期であって、活動を始める時期じゃないから、大してやることもないんだけどな。強いて言えば…サークル活動の延長?」
「…サークル活動って…バンドでもやるんですか?」
「…多分」
「…はぁ…」
 どうもピンと来ないけど…まぁ、それは扠置き。
 ゆっくりと紫煙を吐き出すその姿は…前よりも随分、落ち着いて見えた。
 急に、今までの性格が変わる訳じゃないとは思うけど…ちょっとは、主たる悪魔の性格も出て来るんじゃないかと思う。
 俺は、"ライデン"に頼まれたことを思い出し、清水先輩に聞いてみた。
「俺…"ライデン"に、恋悪魔の媒体捜しを頼まれたんですけど…どうやったらわかるんですかね…?」
「あぁ…それな。"ライデン"が言い張っちゃったから、彼奴が見つけるまで"ゼノン"が覚醒出来ない、ってことになったんだが…正直、俺にも媒体が誰か、なんてのはわからないんだ。"ダミアン様"が召集かけてるから、近くにはいるんだとは思うが…"ゼノン"が媒体とどの程度接触しているかにもよるしな。流石に、表立って接触していないと、"ダミアン様"にもなかなか見つけられないらしいしな…」
「…"ゼノン"、って言うんですか?"ライデン"の恋悪魔」
「…お前、名前も聞かなかったのか?」
「…忘れてました…」
「…お前なぁ…」
「……スミマセン…」
 うぅっ…今日の清水先輩、口調が強い……。
「…とにかく、見つけられるのはお前だけだ。近くにいるヤツを、特に気をつけてみろ。"ゼノン"の媒体だから…多分お前と波長の合うヤツだ」
「…名前からして、男ですか…?」
「勿論」
「……俺、男色の気はないんですけど…」
「誰もお前にそっちにいけとは言ってないが…」
「……まぁ、そうなんですけどね…」
 確かにそうなんだけど…ちょっと、想像出来ないと言うか、何と言うか…。
 俺の表情を見て何かを察したのか、清水先輩は言葉を続けた。
「…悪魔ってのは、どうやら両性具有らしい。男であって、女でもある。勿論、見た目はどちらかの性別に分かれるみたいだが、中身はどっちでも良いみたいだ。だから、彼奴らは男だの女だの、ってのは全く気にしていない。俺たちの常識だけでは、着いていけないところも結構あるな」
「そうなんだ…」
 そう。"ライデン"も言ってたじゃないか。一つの感覚で決め付けちゃいけない、って。まさにそういう事だよな。
 そう考えると…人間って、何て無粋なんだろうと思う。
 自分たちの為に、他のものを犠牲にする。でも、犠牲にして良いモノと駄目なモノがあると言うこと事態、誰かが決め付けたこと。
 勿論、俺もその中の一人として平然と生きて来たのだから、ちょっと残念と言うか…。
 このままでは、"人間"に幻滅してしまいそうだ…。
 そんなことをぼんやりと考えていると、清水先輩は吸い終わった煙草を灰皿に捨てたところだった。
「お前が考えていること…何となくわかるよ。俺たちが思っている以上に、悪魔は純粋で気高い。そして、真っ直ぐだ。彼奴らが俺たちの全てを支配したら…きっと、俺たちは生きているのが嫌になる。でも、俺たちは"ここ"で生きているんだ。だから…全てを支配しないんだと思う。俺たちが、ちゃんと"ここ"で、生きていけるように。彼奴らは、俺たちの人生に間借りはするが、それが全てにならないように考えているんだと思う」
「…俺もそう思う」
 そう。媒体としての俺たちを大切にしてくれる。それが、俺たちがこの世界で、幻滅せずにちゃんと生きていく為に選んだ手段なんだと思う。
「…悪魔って、何だか奥深いですね」
 俺がつぶやいた言葉に、清水先輩は小さく笑った。
「噛めば噛む程味が出る、ってな。こんなこと言ったら、スルメじゃねぇ、って"エース"に怒られそうだな」
「…ホントに」
 俺もくすくすと笑った。
 まぁ…これから色々あるだろうけど、俺は独りじゃないし。仲間たちと…"ライデン"と、一緒に乗り越えて行けるように頑張ろう。

◇◆◇

 当然…"ライデン"の恋悪魔の媒体捜しは簡単なモノではなく…暫くは、何の進展もないまま、時間だけが過ぎていく訳で…。
 俺の覚醒から数ヵ月後。
 "ダミアン様"から、地球任務に関する正式な詔勅を頂いた時…そこに、"ゼノン"の姿はなかった。
 俺は…まだ、見つけられずにいた。
 けれど…運命の針は、ちゃんと回っていた。
PR
COMMENT
NAME
TITLE
MAIL (非公開)
URL
EMOJI
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
COMMENT
PASS (コメント編集に必須です)
SECRET
管理人のみ閲覧できます
 
  
プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
バーコード
ブログ内検索
Copyright ©  -- A's ROOM --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Material by petit sozai emi / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]