聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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覚醒 ~side X~2
俺はそのまま、自分の部屋まで真っ直ぐ帰って来た。
玄関をくぐり、ドアを閉めた瞬間、脱力……。
思わず玄関で座り込んでしまった俺の頭上から、声が降って来た。
《…どうした?大丈夫?》
「…気持ち悪い…」
つぶやいた瞬間、猛烈な吐き気を覚え、慌ててトイレへと駆け込む。
そして暫し。
漸く吐き気が治まると、やっとベッドへと倒れ込んだ。
《大丈夫…?》
改めて、そう声が聞こえた。
「…何とか…」
ぐったりとしてそうつぶやくと、ちょっと間を置いて再び声が聞こえた。
《…随分、気が乱れてるね。何かに当てられた…?》
「…わからないけど…ちょっと、いつもと違う雰囲気にやられたかな…って、何でお前そんなことわかるの?」
ごく普通に会話してしまったけど…いつの間にか、夢の中だけじゃなくて通常でも俺に話しかけて来るようになった"ゼノン"。
《俺、医者だし》
「…聞いてないし…」
《人間に効くかわからないけど、体調悪そうだからちょっとだけ…ね》
そう言うと、身体がほんのりと暖かくなる。そして、もやもやしていた頭がすっきりした気がする…。
《…どう?》
「…ちょっと良くなったけど…お前何者…?文化局の局長じゃなかったのかよ…?」
《…そう聞かれると、説明するのが難しいんだけど…》
顔を見て話せば直ぐに判明するんだろうが…声だけでも、"ゼノン"は困っているんだろうとわかる。
と言うより、俺の方が困惑してるよ…。
まぁ、"ゼノン"の話を要約すると、局長と言う名の雑用兼医務局の医師として働いていたらしい。
何だろう、この無秩序さ…。それじゃ何でも屋じゃないか…と思わざるを得ない…。
「お前、絶対、良い様に使われてただろ…」
《…そんなこともないよ。俺も好きでやっていたことだし…》
「…あ、そう…」
なら文句も言わないけど。
《…で、何処でそんなに強い気浴びて来たの…?》
改めて問いかけられる。
「何処でって…バンドの練習だよ?湯沢くんが体調不良で倒れて…医務室運んで、暫く様子見て…清水さんが来たから俺はお役御免で戻って来たんだけど…その頃からかな?急に具合が悪くなって…」
《…湯沢と、清水と…他に誰かに会った?》
「…学校の玄関出て、浜田さんに……」
《…そう…》
"ゼノン"は暫く考えているようだったけど…
「…って言うか、お前俺の交友関係聞いてわかるの?湯沢くんの話はしたかも知れないけど…清水さんや浜田さんのことは…」
《知ってる》
俺の言葉を断ち切るように、"ゼノン"は言葉を発した。
「…は?」
《…知ってるよ。浜田も清水も。あの人たちは…悪魔だから》
「……はい?」
何だって……?
悪魔、って……。
「…何で…?」
《何でと言われても困るんだけど…浜田さんは、魔界の皇太子殿下の"ダミアン殿下"だ。そして多分…当てられた気の強さから言って、清水は情報局長官の"エース"だ》
「………」
"エース"の名前は初めて聞いた。けれど、情報局長官の役職は聞いたことがある。
《俺は、この場所(家)から離れてないから、"ダミアン様"も"エース"も、お前が俺の媒体だって気づいたかどうかはわからない。でも…媒体じゃない全くの真人間なら、そこまで悪魔の"気"に当てられないと思うから、それに気づいていれば…それに関して、お前に何かしらの接触をして来るかも…》
「…それって、浜田さんと清水さんには喋っちゃっても良いの?"ライデン"に見つけて貰うことがあんたの覚醒の条件だけど、浜田さんと清水さんに接触するな、とは言われてないよね?」
その辺の関係性が良くわからないんだけど…
その問いかけに、"ゼノン"も少し考えていたようだけど、やがて答えが返って来た。
《……接触禁止ではないからね。それは構わないと思うよ。向こうも事情はわかっているから、"ライデン"に関してはあんまり突っ込んだことはして来ないと思うけど…》
…ホント、面倒臭い…。本当なら、多分もう覚醒出来る状況なんだろうけど…
…って言うか…
「…ねぇ、"ゼノン"…ところで、浜田さんと清水さんがあんなに悪魔の"気"を強く持ってることってなかったんだけど…それってどう言う事なんだろう…?」
《…多分…湯沢の覚醒待ちだったんだと思うよ…》
「…やっぱり……そうなのかな…」
でも、誰の媒体なんだろう…?
「…"ライデン"ではないの?」
もし、そうであったら…割合、簡単なことなんだけど…。
でも"ゼノン"は、小さく溜め息を吐き出す。
《…御免…俺にはわからない…》
…そう。"ゼノン"は、"ライデン"のことに関しては、酷く消極的。それが、この数ヶ月で判明したこと。
その気になれば、幾らでも俺にくっついて外出して、捜す事だって出来たはず。"ゼノン"の気配があれば、"ライデン"だって、きっと見つけてくれるだろうに…それをやろうとはしない。俺の部屋に留まったまま、動こうとしない。
その理由ははっきりしないけど…本気で捜して貰いたいのかどうかも怪しくなって来る。
「…ちょっと…顔見て話がしたんだけど」
俺も溜め息を一つ。
表情が見えないと、本心が見えない。そんな気がしてそう言ったのだけれど、"ゼノン"はそれには素直に応じた。
《鏡を…》
「鏡?」
周りを見回すが、よくよく考えると鏡がない…ので、仕方なく洗面所の鏡の前へ行く。
「…で?」
《鏡に手を当てて、名前を呼んで》
「…鏡に手を…ね」
言われた通り、鏡に手を当てる。そして。
「…"ゼノン"」
呼んだ瞬間、映っていたはずの俺の顔が"ゼノン"に変わる。
「おぉ~」
何か手品みたいでちょっと面白かったんだけど…"ゼノン"の表情は暗く落ち込んでいた。
「…じゃ、改めて…」
一つ咳払いをすると、俺は思っていることを口にした。
「…何が不満?捜して貰わないと覚醒出来ないって言いながら、あんたは何もしないよね?それどころか、この部屋から出ようともしない。ホントは覚醒したくないの?"ライデン"会いたいんじゃなかったの…?」
《…会いたいよ。だけど……怖いんだ》
「…怖い?」
"ゼノン"の表情が更に暗くなる。
《…もし…"ライデン"と巡り合えなかったら…?運良く巡り合えたとしても、俺を覚えていなかったら?俺のことを忘れてしまっていたら?》
「…そんな…考え過ぎだよ」
《そんなことないよ。みんながみんな、きちんと覚醒出来るって言う保障は何処にもない。ただでさえ、俺は他の悪魔と違う覚醒のルートだから…"ライデン"に忘れられてしまったら、もうずっとこのまま。覚醒出来ない。魂だけの状態では、魔界に帰れるかどうかも怪しい。俺は元々そんなに活動的じゃないし…どうして良いのか、ホントにわからないんだ…》
切々とそう語る"ゼノン"。出会った時よりもネガティブになったように思うのは…俺だけなんだろうか?
そう思うと…ちょっと腹立たしくなる…。
大きく息を吐き出す。
今日は…色んなことが起こって…俺も限界だ。
「…何だよ…その後ろ向きさ。何の為に俺がいる?あんたの媒体じゃないのか?あんたは俺に何て言った?俺を大切にしてくれるんじゃないのか?俺を、護ってくれるんじゃないのか…?その想いに、俺だってちょっとキュンとしちゃったから…考えてやろうって、歩み寄ったんじゃないか。それなのに、いざとなったら自分の恋悪魔一人見つける気もない。逃げてばっかりで、自分で何もしようとしない。そんなヤツ、どうして信じられる?そんなヤツ…俺は絶対に受け入れない。馬鹿にするな!」
思わず鏡を一発殴る。そしてそのまま部屋を飛び出した。
金も、鍵も…全部置きっぱなし。ホントに、着の身着のまま。
最後に見た"ゼノン"の顔は…とても悲しそうだった。でも…自業自得だと俺は思う。
少なくとも、俺はそう思った。
他の媒体が、主たる悪魔とどんな関係を築いたかなんて知らないけれど…少なくとも俺は、今の状況が続くなら"ゼノン"を受け入れるつもりはなかった。
俺の頭が固いと言うのならそうなんだろうし…頑固だと言うのならそうなんだろう。でも、それで良い。
気持ちを落ち着かせるように、大きく深呼吸しながら夜の街を歩く。
何にも持ってないから、当然店にも入れない。ただ、歩くだけ。
湯沢くんのこと…浜田さんや清水さんのこと…まだ見ぬ"ライデン"のこと…そして、"ゼノン"のこと。
色んなことが頭の中をぐるぐる回って…気分は最悪…。
幾度目かの大きな溜め息を吐き出した時…思いがけず、背後から声をかけられた。
「…石川?」
「……?」
ギクッとして振り返ると…そこには、バンド仲間の一人が立っていた。
「…小暮…」
にっこりと笑った表情に、思わず溜め息が零れた。
「どうした?」
「…何でもない…」
ちょっと、ほっとした。ここで、清水さんや浜田さんに会ったら、俺は多分…逃げ出していたと思う。
「暇だったら、晩飯付き合ってくれないか?」
小暮はそう言って笑う。よくよく考えれば…今日はまだ夕食を食べていなかった。
でも…。
「…俺、お金持ってない…」
思わず零した言葉に、小暮は小さな笑いを零す。
「それぐらい、奢ったるよ」
「…ホントに?」
「あぁ、勿論」
「…じゃあ…」
正直…怒り過ぎて、おなか空いた…。
小暮と連れ立ってやって来たのは、そこそこ混んでる居酒屋だった。
「ま、飲もうや」
取り敢えず乾杯をして、小腹を満たす。
それを見計らって、小暮が口を開いた。
「…で?何で金も持たずにうろうろしてたんだ?」
「………」
まぁ…奢って貰ったし…誰かに話してすっきりしたいのは確かだし。
おなかが満たされて来ると、反対に怒りは収まって来たし。
俺は、つまみに箸を付けながら少しずつ話し始めた。
「…"友達"とね…喧嘩したんだ。それで、俺が怒って飛び出したって訳で…」
俺の主となる悪魔と…なんて言える訳ないし…敢えて"友達"と言ったんだけど、それが小暮の興味を引いたらしい。
「友達?湯沢か?」
「…いや、違うけど…何で?」
「ほら、最近良く一緒にいるだろう?」
「…だからって、喧嘩はしないよ」
「そうか?で、お前がそこまで怒るなんて、原因は何だったんだ?」
「…やけに食いついて来るね…」
興味津々の眼差しを向けられ、ちょっと躊躇う…。すると、小暮は小さく苦笑いをした。
「実はな、俺も今日は置いてけぼり食らったんだ。で、暇だったから誰かいないかな~と思ってたら、お前がいた、って訳。俺の奢りだし、食べて飲んで吐き出して、すっきりして帰ればいいじゃん?」
「…まぁ…」
それはそうなんだけど…小暮が置いてけぼりを食らった、って言うのも、ちょっと面白かったりする…。
それは扠置き。
「…"友達"がね……好きな人に忘れられるのが怖い、って、外に出ようとしないんだ。そんなこと、あるかどうかもわからないのにだよ?あんまりにもネガティブ過ぎて…ちょっとイラッとして…つい怒っちゃった訳…」
溜め息混じりに吐き出した言葉。
「…そうか。で…お前、恋人は?」
不意に問いかけられる。
「は?…今はいないけど…何で?」
質問されている意味がわからなくて問い返すと、小暮はグラスの中身をぐいっと空け、もう一杯注文すると、真っ直ぐ俺を見つめた。
「俺は、好きな人がいる。でも、相手にもされてない……と言うか、はっきり言って、嫌われてる」
「…えっと…」
何の告白だ…?どう返せば良いのか…と思っていると、小暮は小さく笑って言葉を続けた。
「でも俺は、諦めない。嫌われているって言うことは、少なからず俺を見てくれているって言うことだからな。でも…完全に無視されて、いないことにされてしまったら…きっと俺でも心は折れてしまう。つまり、そういう事だ」
「…御免、ちょっとわからないんだけど…」
「だから、忘れられる、って言うことは、嫌われるよりも辛いんだ。それが一番好きな人なら尚更。それを恐れるって言うことは…昔、何かあったのかも知れないな。お前がイライラする気持ちはわかる。だが、多分お前が怒ったところで…根本は何も変わらない。お前がその"友達"と一番近いところにいるのなら…お前が一番、わかってやらなきゃいけないんじゃないのか?」
「…お説教はいらないよ…」
「説教じゃないさ。あくまでも"一般論"、な」
「…"一般論"ね…」
そう言われて…ちょっと、胸が痛い。
確かに…今の"ゼノン"には、話し相手は俺しかいない。
"ゼノン"は、俺の文句は聞いてる。でも俺は…"ゼノン"の愚痴は殆ど聞かない。俺がぶーぶー言った時にちょっと言うだけ。
"ゼノン"は…一方的に怒る俺を…どう思っているんだろう?
俺は…"ゼノン"に大事にされる、って言う事に胡坐をかいて、"ゼノン"のことは何も考えてなかったんじゃないか……
悪魔と媒体の関係。俺にしてみれば、悪魔は後から来て俺の人生を奪う厄介者だけど…悪魔にして見れば、媒体は最初から決まっている。間借りする代わりに、大事に護ってくれるって言っているのに…体調が悪いのも治してくれたのに……誰にも優しくないのは、俺だ。
かなり反省…。
大きな溜め息を吐き出した俺の表情で、小暮はその胸の内を察してくれたんだろう。
テーブル越しに、俺の頭をぽんぽんと軽く叩いた。
「よしよし」
「…あのねぇ…」
恥ずかしいじゃないか…っ。
でも…ちょっと嬉しかったりする…。いやいや。喜んでる場合じゃない…。
「謝ったら…許してくれるかな…?」
「…大丈夫だ。お前の"友達"なら、ちゃんとお前のことをわかってくれるさ」
「…だと良いけど…」
まぁ…"ゼノン"のことは、あとでゆっくり考えよう。
気になるのは、もう一つ…。
「…ねぇ…関係ないけど…湯沢くんって、恋人いるのかな…?」
「…は?どうした?急に…」
「いや……」
何処をどう話したら良いか…余計なことを言わないように考えながら、掻い摘んで話をする。
一応…清水さんと浜田さんのことは言わなかったけど。
一通り話したところで、小暮は小さく笑った。
「湯沢の恋人の話は聞いたことないな。まぁ、良い夢でも見てたんだろう?現実で起こったことだけが夢に出て来る訳じゃない。昔のことだったり、願望であったり…色々あるだろう?」
「…まぁ…ね」
はっきりとした答えではないけど…ちょっとだけ、すっきりした気がしたのは…何だろう。
「…何だ、嫉妬か~?」
「…何でさ…俺はノーマルだけど?」
「今までは、だろう?彼奴、あぁ見えてモテるぞ?あんなにパワフルで、生命力に溢れた"音"を出せるヤツはそうそういないからな」
……モテる、って…ドラムの話?
でも確かに…湯沢くんの"音"は、隣で聞いてて心地良いんだよね。
「…湯沢のドラムに、石川のベース…良いコンビだと思うぞ?」
「…そこに誰のギター入れたい?」
興味本位で聞いてみる。
「…そうだな……」
想いを巡らせるように、腕を組んで天井を見上げる小暮。
その表情は、とても楽しそうで。
好きな"音"に乗せて、好きな"歌"を歌える。多分、小暮にとっては、それが一番楽しいんだろうな。
「…歌詞も覚えてくれると助かるんだけどね…」
思わずつぶやいた言葉に、小暮は苦笑する。
「覚えてはいるんだぞ?出て来ないだけで」
「それを覚えてないって言うんだよ…」
俺も、つい笑いが零れた。
前向きで、真っ直ぐ進む小暮の姿は、俺にも真似出来ない。そんな姿を見ているのは、俺もちょっと楽しい。
「…因みにさ、今日は誰に置いてかれたの…?」
思い出したように聞いてみる。
「あ?あぁ、浜田さんと清水先輩にな~」
「……っ」
その瞬間、息が止まった気がした。
「そう言えば、あとで浜田さんが来るって言ってたが…そろそろじゃないかな?……って、大丈夫か?急に顔色悪くなったが…」
浜田さんと清水さんの件は、話していない。だから、途中まで俺も一緒にいたとは知らない。
そして、"ゼノン"から聞いたあの話…それを考えると…もしかして、小暮も……?
「…ちょっと、悪酔いしたかな…そろそろ帰るよ…」
「…そうか?じゃあ、気をつけてな。俺は浜田さん待ってるから」
「…うん。今日はご馳走様。今度は俺が奢るから」
「あぁ、期待しないで待ってるから」
笑って手を振る小暮を残して、俺は居酒屋の外に出る。そして、大きく一息。
ほっと一安心…と思った瞬間。
「…石川?」
「…っ!……浜田さん…」
運の悪いことに…出くわしてしまった…。
「今日は良く会うね。どうしたんだい?」
にこにこと笑う浜田さん。そこに…悪魔の"気"はなかった。
「…小暮と食事してて……でももう帰るところなんで…」
変な緊張感の中、やっとで口を突いて出た言葉。
「そうか。俺はこれから合流なんだけど」
「…スミマセン…ちょっと、悪酔いしたみたいで…先に帰りますね」
「そう。具合も悪いみたいだったからね、気をつけて帰るんだよ」
浜田さんは俺の頭をなでなでして、居酒屋に入って行った…。
「……今のは…浜田さん、だよね…?」
嫌な感じはしなかった。と言うことは、"悪魔"ではない状態。
「…こんなに変わるモンなの…?」
思わず、溜め息を一つ。
とにかく…被害を受けないうちに帰ろう…。
…正直、帰るのも気が進まないけど……。
取り敢えず…家の前まで帰って来た訳だけど…さて、ここからどうやって入ろうか。
「…まず…ちゃんと謝らないとな…」
覚悟を決めて大きく息を吐き出し、ドアを開ける。
「…ただいま…」
小さく声をかけても、帰って来る声はない…。
「…"ゼノン"…?」
そっと名前を呼んだのだが…それにも返事はない。
----…ったく…
溜め息を吐き出しつつ、洗面所の鏡の前に立つ。
そこに映るのは、いつもと変わらない俺の顔。いや…色々あった所為か…いつもより、随分疲れてる。
俺は鏡にそっと手を当てると、目を閉じてゆっくりと想いを巡らせた。
小暮に言われたこと。それを、もう一度思い出す。
そして。
「…"ゼノン"…御免ね…俺が言い過ぎた……でもね、わかって欲しいのは…俺も、本気で"ライデン"を捜す気でいるってこと。お前が、俺の主たる悪魔になるのなら…俺にだって他人事じゃない。色々な葛藤はあるけど…でも…いずれ、一緒に生きて行くんだろう?だったら、俺は言いたいことは言うよ。そうしないと、俺は自分の気持ちをお前に伝えられない。その代わり…お前も遠慮しないで言って欲しい。そうじゃないと、対等じゃないだろう?怖いなら怖いって、もっと早く言って欲しかった。そうすれば俺だって…もう少し、お前の気持ちを考えられたと思う。だから…もう一度、ちゃんと話そう?ね?…"ゼノン"……」
一通り、自分の気持ちを吐き出す。
"ゼノン"が…そこにいるかはわからない。でも…伝えなければ。
大きく息を吐き出し、そっと目を開ける。
するとそこには…真っ直ぐに俺を見つめる碧の眼差しがあった。
「…ちゃんと…聞いてくれた?」
問いかけた声に、にっこりと微笑む悪魔。
《…うん。聞いたよ。有難うね》
「…もっとゆっくり話したい。鏡じゃ駄目だ。この体勢疲れるから…やっぱり、"あの場所で"…」
もっと…たくさん話をしよう。そうすれば…もっと、分かり合える。
《…じゃあ…》
"ゼノン"もくすっと笑う。
と言うことで…場所を改めることにした。
何もない空間。ホント、ここは夢なのか、現実なのか…そして何より何処なのか、疑問なんだけど…とにかく、そこに俺はいた。
俺の向かいには"ゼノン"。二人で向かい合って座っている。
「…改めて向かい合うと…変に緊張するね…」
思わず零した声に、"ゼノン"は小さく笑った。
《ホントだね》
笑う姿に、俺はちょっとほっとした。
今まで…お互いにぴりぴりした空気を醸し出していた感じだったけど、今はとても穏やかで。これが、本来の"ゼノン"なのだとしたら…実に平和だけれど。
「ねぇ…"ライデン"って、どんなヤツなの?」
問いかけた声に、"ゼノン"はちょっと首を傾げる。そして、想いを巡らせているのか…暫しの沈黙。
《…どんな、って言われても……そうだね……純粋って言うのかな?》
「……純粋、ね…」
ホント…悪魔らしからぬ…。
《良くも悪くもとにかく真っ直ぐでね。時に融通が利かなくなって心配になることもあるけれど、芯はしっかりしてるから結局のところぶれないんだ。色んなことがあってもその純粋さを失わずにいられることが、多分"ライデン"の強さなんだと思う》
「へぇ。だから、あんたの覚醒も抑えちゃった訳ね」
《…そういう事だね》
成程ね。暴走しちゃった訳だ。
「で、馴れ初めは?」
興味本位で、話を広げてみる…。
その問いかけには少し間を置き、"ゼノン"は言葉を続ける。
《俺は…見ての通り、"鬼"なんだ。"鬼"には"鬼面"と言うものがあって、それを被ると鬼本来の姿に戻る。とても残虐で…俺は、自分自身が嫌いだった。自然発生だから、親はいない。生まれながらの"鬼"は、愛されることを知らない。だから当然…愛し方も知らない》
「でも、"ライデン"とは恋悪魔同士なんだろう?」
思わず口を挟んだ俺に、"ゼノン"は小さく頷く。
《今はね。でもそうなるまでには時間がかかったよ。"ライデン"に好意を向けられていることはわかったけど…それにどう答えたら良いのかわからなかった。俺は…"血を好み、肉を喰らう"種族の"鬼"だから…肉体的な関係を持てば、その後はその相手を喰らってしまう。でも相手は雷神界の皇太子で…そんなことをすれば、全面戦争になることは目に見えてわかっている。そんな相手だもの。躊躇うのは当然でしょ?でも…結局はないもの強請りなんだろうね。俺は、真っ直ぐに気持ちをぶつけて来る"ライデン"に引かれて行った。でも本来の俺では"ライデン"を殺してしまう…だから、ある程度の魔力と感情を制御することで、やっと触れ合うことが出来るようになった》
「…へぇ…」
その辺の話は…俺にはちょっとついていけない…まだ、想像つかないからだと思うけど。
「…で、その後どうなったの?」
《…その後って言っても、それ以上盛り上がる話じゃないよ。お互いの想いが同じ方向を向いたのは…"ライデン"が人間界へ出発するほんの数日前。だから…まだ確証がないんだ。勿論、"ライデン"のことは信じているよ。でも…"絶対大丈夫"と言うことはないんだ。みんながみんな、きちんと覚醒出来るとは限らないんだ。当然、何かが欠けてしまうこともある。それは、俺たち自身にはどうにも出来ない。それに…さっきも言った通り…俺はみんなと違う覚醒のルートを通ってる。だから、"ライデン"以外の誰かに頼ることが出来ないんだ。それに…"忘れられる"だけじゃない。もしかしたら、故意的に"忘れてしまう"ことも…可能性がないとは言えないんだ》
「…どう言う事?」
"ゼノン"の言っている意味がイマイチ良くわからない。
故意的に、って……?
《…つまり、意識的に「忘れてしまおう」って言う事。覚醒をきっかけにして”忘れて"しまえば…そいつは、一生戻っては来ない。魔界からも…人間界からも、容易に排除出来る》
「……それって…要するに、その存在が抹殺される、ってこと?」
《…そう言う事になるね》
「………」
成程。そう言う事なんだ。
《…勿論…俺は、"ライデン"を信じているよ。でも…そこは"ライデン"の意思だけじゃない。もしかしたら、第三者が…俺を排除する為に、"ライデン"を利用することだって出来る》
「…考えすぎじゃない…?」
《…考えられる可能性がある限り、それはゼロじゃないんだ。それが…生命をかけていることなら尚更》
「……そう…か…」
そうだ。"ライデン"以外、"ゼノン"を呼び出すことは出来ないのなら…そのルートがつぶれてしまえば、もうどうにもならないんだ。
もし、それが第三者につぶされてしまったら…もう一生、俺としか関われない。そして俺が死んだら……。
「…そりゃ…怖くもなるか…」
俺は…当事者じゃない。だから、その恐怖の深さは憶測でしかない。でも…もしかしたら一生ここに閉じ込められるのではないか、と言う恐怖は感じる。
俺は、小さな溜め息を一つ。
「…あんたの気持ちはわかった。でも…"ライデン"を信じてるんでしょ?もし…あんたのことを見つけられなかったら…俺が生きている間は、俺があんたを背負ってやるから…だから、少しは外に出よう?見つけて貰おう?ね?」
媒体になると一度は決意をしたのだから。"ゼノン"が俺を護ってくれるのなら…"ゼノン"のことは、俺が護ってやらなければ。
《石川…》
"ゼノン"の碧の瞳が、真っ直ぐ俺を見つめた。
自分でも…何でこんなに必死になって説得しているのか良くわからないけど…でも、俺のこれからにも影響はある訳だし…
「…一足飛びにどうこうって言う訳じゃないけどさ…少しずつでも…」
俺がそこまで言った時、"ゼノン"は大きく息を吐き出した。
《…わかってるよ。俺がいつまでもこうしているのは、お前にも迷惑かけるってことは。でも…見つけて貰わないとね…》
それは、意を決した眼差し。やっと…一歩を踏み出せるかも知れない。
「…大丈夫。もしもの時は、俺が一生相手してやるから」
《…石川…》
「俺を信じろ?」
"ゼノン"が俺に言った言葉。それを模した言葉に、"ゼノン"は小さく笑った。
《…そうだね。信じるよ》
俺も、ちょっと笑った。
《…お前で良かった》
そう言った"ゼノン"の言葉。
「俺で良かったの?結構辛辣なこと言ったけど?」
《うん。良かったよ?だって、それがお前の本心でしょ?ちゃんと、それを伝えてくれたんだもの。黙って受け入れられても、後から文句言われて関係が悪くなるんだったら、俺は事前に全部ぶちまけて貰った方が良いしね》
「…そうですか…」
ここに来て、俺、再び照れる…。
まぁ…本心を打ち明けられなければ、お互いに落ち着かないだろうし。これで、いいのかも知れない。
《…で、本当は合意した後契約の儀なんだけど…》
"ゼノン"は照れる俺を前に、そう言葉を続けた。
「…契約の儀…?何かするの?」
《…うん、まぁ…でも、契約しても覚醒出来ないんだけど…》
「…じゃあ…仮契約?」
《…と、言うことにしておこうか。仮契約しておけば、覚醒するのも確実かも知れないし》
「…その辺は勘?」
《…まぁ…ね》
「…流石…」
くすくすと笑う俺に、"ゼノン"は小さく咳払いを一つ。
そして。
《…契約の儀は…要はキス、なんだけど…》
「…はい?」
何でだよ…。
まぁ…結婚式の時も、誓いのキスとかあるけど…まさか、悪魔もそれに賛同しているとは。
《直ぐ済むから》
そう言うなり、手を伸ばす。そして、その指先で俺の顎の先に触れると、そっと顔を傾けてキスをした。
何がどう、とか言う問題ではなくて……。
男相手に…とは思ったものの、相手は悪魔だし…まぁ、余り深く考えないことにしようか…。
「…で、何がどうなったの…?」
《…今は特に何もないよ。本来なら覚醒する訳だけど、俺たちは仮契約な訳だし。この後、"ライデン"に見つけて貰えれば、この手順を踏まなくても覚醒出来る、ってだけで》
「…そう、か…」
だったら、これ必要か?…とは思ったものの、多分、必要だったんだろうと思えたのは…もっと先。実際にその状況になってから。
まぁ…しょうがないか…。
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プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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