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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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開闢~かいびゃく~sideD
こちらは、以前のHPで2005年1月23日にUPしたものです

拍手[1回]


◇◆◇

 運命の歯車が、また一つ動き出した。

 士官学校の季節の変わり目は、誰もが浮き足立っていた。
 この日、一番上の階級の学生たちの配属希望の調査書の提出日であった。つまり、その時点で配属先の希望を出さなければ、何処の局を受けることも出来ないと言うことになる。
 その日。彼は、士官学校の屋上にいた。

 屋上は、とても気持ちが良かった。
 ごろんと横になり、ぼんやりと空を見上げていた彼の耳に、屋上のドアを開ける音が聞こえた。そして。
「…やっぱりここにいた…」
 聞き慣れた声。けれど敢えて彼は声の主を見ようとはしなかった。
「…識者(せんせい)が捜してたぞ」
 声の主はそう言いながら、彼の隣へと腰を下ろす。
「話すことはないから」
 ぽつりと零した彼の言葉に、隣の悪魔は小さな溜め息を吐き出す。
「…何が不満なんだろうな?一流の一族の血を受け継いで、成績も優秀で、研修だって難なく熟して、何処の局だって諸手を上げて受け入れてくれるって言うのに…何も、白紙で出さなくたって…」
 それは、明らかに彼に対しての皮肉、である。
 彼は、隣の悪魔が言うように、一流の一族の血を受け継いでいた。そして、研修の結果も、士官学校のテストの成績も優秀。主席で卒業出来るだろうと評判で、何処の局でも彼を欲しがっていた。
 けれど、その期待をよそに…彼は、配属希望の調査書を白紙で提出していたのだ。
 当然、周囲は慌てふためいている。彼はその現状から逃げ出そうと、屋上へ来ていたのだ。
「全部」
 そう言いながら、彼はやっと身体を起こした。
「全部、って…お前ねぇ…」
「吾輩は、お前が言ったこと全部、欲しかった訳じゃないから。士官学校さえ卒業すれば、誰も文句は言わないだろうと思っただけだ」
「文句がない訳ないだろう?主席だぞ?わかってるのか?主席のお前が、何処の局も受けないだなんて、そんなこと有り得ないんだぞ?常識で考えろよっ」
「じゃあ、吾輩は非常識で良い」
「ちょっ…デーモンっ!」
 徐に立ち上がり、踵を返した彼を、慌てて引き留める悪魔。
「吾輩にそのつもりがないんだ。今更、何処を希望して、どんな仕事をしろと?」
「だから…」
「觜輝(しき)。お前は、吾輩の心配はしなくて良い。吾輩は、自分のことはちゃんと自分で出来るから」
「デーモン…っ」
 彼は、引き留める悪魔の手を振り解き、再び姿を消した。
 残された悪魔は…深い溜め息を吐き出すしかなかった。

 数年前。
 彼の一族は、何者かに長を殺害され、滅亡した。けれどどう言う訳か、一族の名を受け継いだ長の息子だけが生き残った。
 以来、彼は一族再建と言う重荷を背負うこととなった。
 けれど、彼の想いはそうではなかった。
 勿論、表面上はそれらしく振舞う為に、全てにおいて彼は優秀な成績を残した。だがその心の深いところでは、一族の再建などまるで望みはしなかった。
 答えはただ一つ。
 彼は、一族に縛られたくはなかったから。
 その為に、彼は一歩を踏み出す覚悟を決めた。
 それが、白紙の配属希望調査表、だった。

 しかし、彼を取り巻く環境は、彼が予想もしていなかった方向へと変わっていたのだった。

◇◆◇

 数日後、デーモンは一名の識者に呼び出されていた。
 渋々職務室へとやって来たデーモンを、呼び出した識者は微笑で迎えていた。
「…何か…」
 怪訝そうに問いかける声に、識者は一枚の書類を差し出す。
「今朝、枢密院から届いた書類だ。君を、皇太子殿下の補佐として呼び入れたい、との申し出だ。勿論、断る理由はないだろう?」
「…皇太子殿下の…?」
「そうだ。差出は皇太子殿下の参謀であらせられるルシフェル参謀からだ。勿論、正式文書だ」
 デーモンにしてみれば、何の面識もない自分に、どうして白羽の矢が立ったのかもわからない。
 相変わらず怪訝そうな表情のデーモンに、識者は更に言葉を続けた。
「先日、君は白紙の配属希望調査表を出したね?それがルシフェル参謀の目に留まったようだ。あんな手段で目を引こうと思っていたにしろ、君は実に運が良い。皇太子殿下に気に入られさえすれば、一族の再建も夢ではないだろう」
「……」
 その言葉は、デーモンを不機嫌にさせるには十分だった。尤も、それを表情に出しはしなかったが。
「…では、決定権は皇太子殿下に…?」
 その問いかけを、識者は前向きな意見として捕らえたのだろう。にっこりと微笑んで頷いた。
「勿論だ。だがそれは最終的な決定権だがね。その前に、ルシフェル参謀との謁見があるだろう。そこでルシフェル参謀に気に入られれば、後押しをして貰えるはずだ」
「…そう、ですか…」
 何やら考え始めたデーモンの姿に、識者は期待を込めた眼差しを送る。
「君はまさに運が良い。白紙を認められるなど、本来は有り得ないことだからな。きっと、未来は開かれる」
「…失礼致します」
 期待の眼差しなど、嬉しくも何ともなかった。
 デーモンはさっさと踵を返すと、その足で士官学校を抜け出し、軍事局を目指したのだった。

 軍事局の参謀執務室。デーモンは、その部屋の前にいた。
 苛立ちの感情に任せ、ここまで来たものの…そこからどう踏み出して良いのかわからない。
 だが、いつまでもこうしていても仕方がない。
 デーモンは、意を決してその扉をノックする。
 その先の記憶は、酷く曖昧で…ただ、感情の赴くままに言葉を発し、相手の言葉に流されてしまったことだけは覚えていた。
 夕方、士官学校の寮に戻ってきたデーモンが、酷く疲れていたのは言うまでもない。
 ベッドに横たわり、ぼんやりと天井を見つめていると、彼の自室の扉をノックする音が聞こえた。
「…どうぞ」
 小さく声をかけると、ドアを開けて入って来たのは、友人たる悪魔。士官学校の屋上で彼の隣にいた、あの悪魔…觜輝。
「何処行ってたんだよ?午後の授業すっぽかして…」
 徐に開いた口は、そんな言葉を零した。
「…軍事局に行って来た」
 ベッドから上体を起こし、腰掛けた状態のデーモンは、小さな溜め息と共にそう言葉を吐き出した。
「軍事局?」
 觜輝が、首を傾げて問いかける。
「そう」
「…もしかして、あの噂、本当なのか…?」
「噂?」
 今度は、デーモンが觜輝に問いかけた。
「あぁ。お前が、皇太子殿下の補佐になる、って噂…また伝で聞いたんだけど…」
 様子を伺うような姿に、デーモンは今度は大きな溜め息を吐き出す。
「まだ補佐じゃない。単なる友達、だ」
「…は?」
 デーモンの言っている意味が良くわからない、と言った觜輝の表情。けれど、デーモンにもそれ以上説明出来ないのだ。
 彼自身、こんな状況に流されてしまうとは、思っても見ないことだったから。
「友達、って…皇太子殿下の?」
 觜輝も、信じられないと言うように目を丸くする。
「吾輩だって、信じられないさ…」
 溜め息を吐き出すデーモン。けれど、觜輝はそんなデーモンの姿を眺めつつ、小さな笑いを零していた。
「…ま、良かったんじゃないの?お前には、その道が相応しいよ」
「他悪魔事だと思って…」
 相も変わらず、溜め息を零すデーモン。
「そりゃ、他悪魔事だよ。でも、お前だから、そんな運にも恵まれたんじゃないの?まぁ、周りは興味本位で色々はやし立てるかも知れないけれど、そう言う奴等には勝手に言わせておけば良いんだよ。お前は、上を目指した方が良い。その素質は絶対あると思う。その為に、生き残ったんじゃないのかな?」
「…觜輝…」
 言葉を返せないデーモンに、觜輝はにっこりと微笑を返す。
 数年前、デーモン一族が滅んだ時、觜輝は一番にデーモンの顔を見に来てくれた。
 詳しいことは何も知らないはずだが、何処かで察してくれてはいたのだろう。
「一族の名前に縛られたくないって気持ちはわかるよ。でも、それはお前にとっての現実だから、受け留めなくちゃいけないと思う。だけどお前なら、そんなことに拘らないで生きていけると思うよ」
 それは、一番古い付き合いの觜輝だから言えた言葉だったのかも知れない。
「…吾輩には、自信はない。枢密院には、数多くの魔界貴族たちがいるんだぞ?若輩者の吾輩に、何が出来るって言うんだ?」
「きっと、若輩者には、それなりの期待しかしてないって。無理に気張らなくても良いんじゃないか?お前の出来ること、でさ」
「…吾輩に出来ること?」
「あぁ。だから、"友達"なんじゃないの?」
 にっこりと微笑む觜輝の姿に、デーモンは返す言葉を見つけることが出来なかった。
 確かに、ルシフェル参謀はデーモンに皇太子殿下の"友達"になって欲しいと言っていた。けれど、それをそのままの意で受け取って良いものかどうか、デーモン自身も躊躇していたのだ。
 だが、苦悩するデーモンをよそに、この觜輝は実に素直に、それを受け入れれば良いと言う。勿論、デーモンがそうすんなりと了解出来る頭ではないことぐらいわかってはいただろうが、そうすることが、デーモンにとっては一番良い道であると思ったのだ。
 溜め息を吐き出すデーモン。
「まだ、時間はあるんだから。まぁお前のことだから、考えれば考えるだけ深みに填まるんだろうけど」
 デーモンの性格を実に良く理解している觜輝は、くすくすと笑った。
 けれど、この觜輝がデーモンの背中を押してくれたことは言うまでもない。

◇◆◇

 時は流れ、士官学校の卒業式を目前にしたある日のこと。
 その日デーモンは、数日後に予定されている枢密院の入局に備え、自分の剣を仕立てて貰う為に文化局へとやって来ていた。
 地下の研究室へと通されると、そこで主任らしき男と、デーモンと同じ士官学校の制服に身を包んだ一名の"鬼"が、彼を出迎えた。
「私が担当主任のアンヴィです。こちらは、私の補佐をして貰うゼノン」
 主任が紹介した"鬼"は、デーモンに向けて一礼をする。その襟元の章は、デーモンと同じ。つまり、その"鬼"もまた、数日後には士官学校を卒業して、恐らくこの文化局へと入局が決まっているのだろう。卒業前に主任の補佐に当たると言うことは、相当期待されている証なのだろう。
「わたしはデーモンと申します。宜しくお願い致します」
 デーモンが口を開き、一礼をする。すると主任はくすっと笑いを零した。
「それ程堅くなる必要はないでしょう。貴君の担当はこのゼノンが致します。まだ研修生ですが、腕は確かですから、御心配なく」
 そう言うと、主任は"鬼"の肩をポンと叩くと、笑いながら研究室を後にした。
 デーモンはその背中を見送ると、担当者であると言う"鬼"…ゼノンへと視線を移した。
 同じ階級だと言うのに、デーモンはゼノンを見たことがなかった。尤も、必要以上に周囲との接触を受け入れようとしなかったデーモンの視界に入らなかっただけのこと。ゼノンもまた、優秀な成績は有名だった。
 物腰はとても落ち着いている。どうやら、初めての担当ではないようだった。既にそれだけ実績を積んでいるのだろう。
「…では、始めましょうか」
 そう言葉を発したゼノンは、にっこりと微笑む。
 碧色の眼差しが微笑む。それが、デーモンにとても奇妙な感覚を覚えさせた。
 初対面であるはずなのに、不思議と安心する。それは、ゼノンが元来から持っていた"癒し"の能力だったのかも知れない。
「…宜しく」
 口を開いたデーモンに、ゼノンは再び微笑を零す。
 この時デーモンは、将来このゼノンが自分の力になってくれるとは想像もしていなかった。
 勿論、ゼノンも同じこと。
 出会いは、ほんの些細なきっかけに過ぎなかった。

◇◆◇

 歯車がまた一つ噛み合った。
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