聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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闇に咲く 雪の花 後編
その日の昼下がり、ゼノンはデーモンの屋敷へと足を運んでいた。
その理由はただ一つ。ライデンの機嫌を直す為。
玄関のドアをノックすると、顔を覗かせたのは使用魔の要たるアイラ。
ゼノンの顔を見た瞬間、理由も聞かずににっこりと微笑む。
「閣下より、連絡は受けております。どうぞお入りになってくださいませ」
促され、アイラの後を追うように玄関をくぐり、廊下を歩いて二階へと進む。
そして、一つのドアの前で立ち止まった。
「夕べより、一歩もお出にならないのです。食事もお部屋で…。心配しておりましたの。宜しくお願い致しますね」
ゼノンの性格を良く知っているアイラならではの対応だった。
溜め息を吐き出したゼノンは、諦めてそのドアをノックする。
すると、返って来た声。
「…誰?」
この時間、デーモンが屋敷にいるはずもなく。それを心得ているライデンの声が、警戒の色を載せていたのは当然だった。
「俺…ゼノンだけど…」
「…何の用?」
声は返って来るものの、そのドアは開く様子もない。
ちらっとアイラに視線を向けると、アイラは既に踵を返していて、その視界には映らなかった。
他には、誰もいない。その意識が、僅かにゼノンの心に安堵感を与えたのかも知れない。
「あの…ね。話を、聞いてもらいたくて…。ドアは、開けなくてもいいから。聞いて」
ライデンからの答えは、何も返って来ない。だが、微かな気配で、ドアの近くにいるであろう事は察することが出来た。
ゼノンは、大きく息を吐き出して、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「正直、なんて…言ったらいいのか、良くわからないんだ。ただ…俺も、御前と同じ気持ちだったと言うことは、伝えられると思うよ」
「………」
「友達にね、なりたかったんだ。だから、護らなきゃ、って思った。みすみす、大切な友達を失いたくないもの。だから、護ることは義務じゃないよ。俺の気持ちの問題だから、それは任意だと、思ってたんだ」
そう。護るのは、義務ではなく、任意でありたい。それは、常々思っていること。
大切だから、護りたい。だから、義務ではないのだ。
その思いを、ライデンに伝えたくて。
ゼノンは、目の前のドアにそっと手を触れた。だが、それを開けようと言うことではない。ただ、自分の思いを、届けたいだけで。
「…御免ね」
たった一言。それ以上は、言葉が思い付かなかった。
暫しの沈黙。その間に、ゼノンは踵を返していた。
ドアの向こうでは…そこに寄りかかったライデンが、唇を噛み締めていた。
「…ゼノン…御免ね」
その言葉は、届かなかった。ただ、気持ちは伝わっていたのかも知れない。
数日間、ライデンから何の音沙汰もないまま時間だけが過ぎていた。
ただ、その間もデーモンからの呼び出しもなかった為、ゼノンにしてみれば、何となく落ち着かない時間だったことだろう。
その日、珍しく遅くまで局に残っていたゼノンは、帰り支度を始めた時、既に誰もいないはずの廊下に何かを感じた。
「……?」
怪訝そうに眉根を寄せ、執務室のドアを開けてみる。
「…ライデン…」
「…よぉ…」
そこに立っていたのは、予期せぬ来客、ライデンだった。
「どうしたの?こんな時間に…デーモンが心配するよ?」
思わず口を突いて出た言葉に、ライデンは僅かにその眼差しを伏せた。
「だって…屋敷に行ったら、帰ってないって言われたから…どうせ、誰もいない時間だろうと思って…」
「忍び込んだ訳?」
「……御免…」
まさか、ライデンがこんなに大胆な行動をするとは思ってもみなかったゼノンにしてみれば、当然溜め息、である。
だが、訪ねて来てくれたことに対しては、嬉しさもあった。
「…まぁ、無事で良かったよ。とにかく入ったら?お茶ぐらい淹れるよ」
「うん」
素直に頷き、執務室に踏み込むライデン。先日、怒っていたのがまるで嘘のように、機嫌は良いみたいだった。
「デーモンには、ちゃんと言ってきたの?」
ライデンをソファーに促し、お茶の用意をしながらそう尋ねてみる。
「…デーさん、忙しいし…余計な心配、かけちゃいけないと思って…」
「思って?」
「………」
「黙って来たの?」
「………」
ゼノンに向けられたライデンの眼差しは、まるで叱られた子供のようであった。ので、ゼノンもつい、笑いが込み上げる。
「ま、いっか。でも、どうしてここに?」
再び問いかけた声。
「…御免ねが言いたくて」
「…え?」
「この前、あんたが来てくれた時…俺、何も言えなかったから。ちゃんと聞いてたよ。でも、言葉を選べなかった。言いたいことは沢山あったのに、思いつかなかったんだ。だから、ちゃんと言おうと思って」
「ライデン…」
「御免ね。勝手に怒ったりして」
「その為に、わざわざ…?」
「うん」
流石のゼノンも、このライデンの行動には、思わず絶句だった。
しかしながら、未だゼノンの中では未知数でしかないこのライデンと言う存在が、少しずつ心の中に染み込んでいることもまた、確かだった。
くすっと、ゼノンの口から笑いが零れた。
「有り難う」
そう返すと、ライデンはにんまりと笑った。
そして、語られた思い。
「俺ね、ゼノンのこと、好きだよ」
「…え?」
にこにこと笑うライデン。多分、その言葉の指す通り、好きと言う感覚なのだろう。それ以上の深い意味は、ないはずである…今のところは。
「どう言うところが?まだ、二回しか顔を合わせてないのに」
それを尋ねたのは、興味本位。
「どう言うって…優しいところかな」
微笑みながらそう告げたライデンの声に、ゼノンは再び呆然とする。
あくまでも彼は、"鬼"の種族なのである。その気になれば、誰よりも冷酷無比になれる"鬼面"を持っているのだ。尤も彼は…滅多に使いはしないが。
「優しいって…」
「だってほら、鳥と戯れてたでしょ?精神の歪んだヤツは、鳥となんか戯れないと思うんだ」
「……」
よくよく考えてみれば、かなり無理のある理屈であるが…ライデンは、自分のその判断に満足しているようである。
「…でもね、安易にヒトを信じちゃいけないよ。悪いヤツも大勢いるから…」
溜め息を一つ吐き出したゼノンは、そう告げる。
それは、せめてもの警告だった。
そして、自身にも促した警告。全てを伝えるか否かは…まだ、心に決めてもいなかった。
「わかった。気をつける」
素直に頷いたライデン。
幼く見える反面、しっかりとした精神も持っている。だからこそ、かえって心配なのだ。
まだまだ気を抜けないと、ゼノンはもう一つ溜め息を吐き出していた。
そして、これをきっかけに、この二名は更に親交を深めていくことになった。
そんなことから、半年ばかりが過ぎた頃だっただろうか。
ライデンの素性については上層部には紹介したものの、例の噂については、僅かではあるが、未だその足を留めていた。
やはり、『人の噂も七十五日』と簡単にはいかないようである。
ましてや、強大な能力を手に入れようと躍起になっている悪魔たちを相手に、そう簡単に消える噂ではないことぐらい、当然と言えば当然であったのだ。
そして再び、その噂が引き合いに出された。
ある日、ゼノンの執務室に、ルザックが現れた。
いつも以上に神妙な顔。それを怪訝に思いつつ、ゼノンは、最近はあまり脱走もしていないはずだけど…と、一悪魔思案に暮れていたのだった。
「どうしたの?」
問いかけた声に、ルザックはゼノンを見つめていた。
「俺ね…知ってるんだ。あんたの秘密」
そう切り出したルザックに、ゼノンは更に首を傾げた。
「秘密…?」
「そう」
にやりと、その口元に笑いが零れた。だがそれは、楽しんだ笑いではなく、嘲りにも近い笑いであり、ゼノンはそれが酷く不快だった。
「恋悪魔、囲ってるでしょ?」
「…恋悪魔?そんなのはいないよ」
思い当たる節がないと言う表情を見せたゼノンに、ルザックはくすくすと笑いを零した。
「あぁ、愛悪魔(あいじん)と言えばわかる?」
「…口が悪いな。言いたいことははっきり言えよ」
そろそろゼノンも焦れったくなってきたようだ。はっきりとしない言い回しが、更に不快感を高めていく。
そして…もしかしたらの疑惑も生まれつつあった。
ルザックは、知っているのかも知れない。
自分が…好きになりかけている相手のことを。
「用がそれだけなら、さっさと帰って任務に戻れ。俺は、出かけるから」
出来上がったばかりの書類を手に立ち上がったゼノン。
だが、ルザックはまるで立ちはだかるかのように、ゼノンの前に立った。
「機嫌が悪いみたいだね。あんたがそう言う口調になる時は、いつも機嫌が悪い」
「誰の所為だと思ってるんだ?変な言いがかりばかりつけて…」
そう言いかけて、ふとルザックの眼差しに息を飲んだ。
いつもの眼差しとは程遠い…鋭い色を見せる眼差しは、ゼノンの胸のうちまで全て見透かしているかのようだった。
「言いがかり?冗談じゃないよ。俺は、事実を言ってるだけ。はぐらかしているのは、あんた、だ」
「…ルザック…」
「知ってるよ。雷帝の嫡子のこと。随分、親しくしてるみたいじゃない?いい身分だよね、あんたは。可愛がって懐かせておいて、後は思う存分楽しみながら能力を手に入れられるんだもんね」
「…貴様…」
ふと、ゼノンの纏う気が変わった。
鋭い眼差しと共に、無意識に差し伸べた掌に浮かんでいるのは、紛れもない"鬼面"だった。
「それ以上愚弄すれば、只じゃ済まないことぐらい、わかってるよな?」
「わかってるよ。わかってて言ってるんじゃない」
にやりと笑ったルザック。
「でも…俺を殺しても、もう遅いかもね」
「…どう言うことだ」
問いかけた声は、低い。
「雷帝の子息…ライデンって言ったっけ?頬に稲妻の紋様があったから見分けられたようなものの…ガキみたいに単純で、どう見たって嫡子には見えないね。あんたにあぁ言う趣味があったとは、俺も知らなかったよ」
その言葉に、ゼノンはどきっとして息を飲んだ。
知るはずもない、ライデンのことを、どうしてこのルザックは知っているのだろう。
酷く、胸騒ぎがする。
「…どうして、ライデンのことを…」
ゼノンの動揺が、ルザックの嘲笑を更に駆り立てた。
「俺が、堕としたからね」
瞬間、何かが弾けた。
一瞬のうちにルザックの胸倉を掴み上げ、壁際へと叩き付けた。
「彼奴に何をした…っ!?」
叩き付けられたショックで幾度か咳き込んだルザックだったが、やがてその眼差しを上げ、ゼノンを見据えた。
ゼノンの顔には、"鬼"の形相があった。
「皆まで言わせるつもり?あんただって、その言葉が何を指すかぐらい、わかってるでしょ?」
「事と次第によっては、御前を殺す。それをわかってて、俺に告白してるんだな?」
口調こそ幾分の落ち着きを取り戻したものの、その気は明らかにいつものゼノンではなかった。
"鬼"としての本来のゼノンが、そこにいる。
だが、ルザックもそれを承知でいるのか、怯むことはなかった。
「殺せる?御優しいあんたに、他悪魔が殺せるのかよ!それともあんたは、彼奴の為なら"鬼"になることも厭わないんだな!?」
「…俺は、元々"鬼"だ」
そう言ったゼノンの声に、ルザックは小さな吐息を一つ、吐き出した。
「…初めて見たよ、あんたが取り乱すところ。絶対、感情に左右されないあんたが、まさかこんなことで"鬼"を取り戻そうとはね」
挑発するような言葉に、ゼノンは再びルザックの胸倉を掴み上げた。
「こんなこと?御前が何をしたのか、自分の胸に手を当てて良く考えてみろ!御前は、ライデンを…あんな子供を傷つけて…っ!」
「子供じゃない。あんただって、わかってるだろ?よっぽどの初心でない限りは、その行為にどんな意味があるかぐらいはわかってる」
「…っ」
その言葉が、ゼノンを正気に戻したのかも知れない。
ルザックの胸倉を掴んでいた腕を離し、震える腕を、もう片方の腕で抱き締めていた。
その顔に、最早"鬼面"は見当たらず、瞳を伏せた表情は、酷く苦しそうだった。
そんなゼノンを見つめつつ、ルザックは呼吸を整えた。
「まさか…あんたが、何もしていないとは思わなかったよ。彼奴に聞くまでは…ね。てっきり、あんたが一番に堕としたんだとばかり思ってたよ」
「…俺は…」
言葉が、続かない。
ライデンが、自分とたいして変わらない年齢であることは、最初から知っていたことだった。だが、その幼さ故に、ずっと子供扱いしてしまったのは、確かに自分だった。
理性を、保つ為に。ライデンを…壊してしまわないように。
「…話して、ないんだろ?あんたの本性のこと」
「……」
「どうして、素直に言わなかったんだ?」
そう問いかけられ、ゼノンは大きな溜め息を吐き出した。
「…言える訳、ないだろ?慕ってくれてるのに……俺は"鬼"だから…他悪魔を喰らう本性がある、だなんて…」
血を好む種族がいることは、多分ライデンも知っているだろう。だが、その種族にもいろいろなタイプがあることを知ってるかどうかは、定かではない。
ゼノンは正しく、血を好み、その身を喰らう種族の"鬼"だった。肉体的な関係を持ってしまえば、喰らわずにはいられない。それは、"血"による呪縛でもあった。
その"血"を押さえる為に、ゼノンは必要以上に"鬼面"を使うことを嫌った。だからこそ、文化局で呑気な局長の座に甘んじていられたのだ。
ルザックは、大きな溜め息を吐き出した。
「一つ…いいことを教えてやるよ。ライデンに逢ったことは事実。彼奴を堕とそうと思ったことも事実。でも…何もしてない。出来なかった」
「…ルザック…」
ふと、眼差しを上げたゼノン。
真っ直に自分を見つめるルザックの眼差しに、先程までの狂気の色は、もう見えなかった。
「切々とあんたへの想いを語るヤツを相手に、俺がそこまで冷酷になれたと、本気で思ってた訳?少なくとも俺は、そこまで…馬鹿じゃない。彼奴を堕としたが最後、あんたに引き裂かれることは目に見えてたもん」
苦笑にも似た笑いを零したルザック。
「…俺を、試したのか?」
問いかけた声。
「いや。ただ、あんたが本気になればなる程、傷つくのはあんただと思ってね。それを伝えてやろうと思っただけ。上司思いのいい部下じゃない」
「……」
くすくすと笑う声を聞きながら、ゼノンは自分が酷く無器用に思えてならなった。
だからこそ…常に冷静でいようと、感情を殺して来たと言うのに。いざとなったらこのザマ、では、今までの苦労は何だったのかと呆れてしまう。
溜め息を吐き出したゼノンに、ルザックは小さな輝きをポケットから取り出し、その手に握らせた。
「置き土産。きっと、あんたを守ってくれる」
「…?」
掌を開いてみれば、そこには淡く輝くピアスが一つ。それは明らかに、封印を施せる呪がかけてあった。
「あんたの感情を制御するお守りだ。それを填めて、さっさとライデンを捜しに行きな。迷子になってるかも知れないぜ」
「…御前…」
「じゃあ、ね」
ゆっくりとドアに足を向けたルザック。ドアを開け、外に出たルザックは、振り向き様に小さく言葉を送った。
「…好き、だったよ。あんたが。でも俺には…あんたを手懐ける自身がない」
「………」
ぱたんとドアが閉まる。
執務室に一悪魔残されたゼノンは、大きく息を吐き出した。
多分、ルザックは、ゼノン自身よりもゼノンのことをわかっていたのかも知れない。
「…御免」
消化出来ない思いは、幾つもあった。だが、まず何をしなければならないのかと言う順位をつけるならば、優先的に促されることは決まっていた。
息を詰め、歯を食いしばって、左の耳朶に無理矢理ピアスを突き刺す。
鋭い痛みは一瞬だった。数滴の血が滴り落ちたが、そんなことに気を留めていられる程の時間はなかった。
素早く呪を施し、ゼノンは執務室を飛び出した。
床に散らばった書類は、既にゼノンの心から消えていたのは言うまでもない。
行く宛が、あった訳じゃない。
ただ、気がついたら足が森へ向かっていたのだ。
暫く森の中を走り、ゼノンはそこに辿り着いた。
「…ライデン…」
ゼノンの予想が的中したかのように、ライデンはそこで待っていた。
冷え冷えとした空は鈍色。良く見れば、はらはらと雪が舞い落ちて来ていた。
その寒空の中、ライデンはゼノンと最初に逢ったあの場所で、木に凭れてぐったりと座り込んでいた。
「…ライデン」
もう一度名を呼ぶと、閉じていた瞳がうっすらと開いた。
「…ゼノ…?」
「大丈夫?」
「…うん」
そうは言うものの、顔は赤く、呼吸も荒い。
「熱があるんじゃない?」
額に手を当ててみれば、酷く熱い。
「帰ろう、送って行くよ」
立ち上がることも出来ないライデンを抱き上げ、ゼノンはデーモンの屋敷へと踵を返した。
その道すがら。
「…ゼノ…心配、した?」
尋ねた、ライデンの声。
「…したよ」
「…御免ね…」
そう零した声の後は、呼吸の音しか聞こえなかった。
「…ライ?」
視線を向けてみれば、瞳はしっかりと閉じられている。どうやら、眠ってしまったようだった。
「…御免ね…」
ライデンを抱く力を僅かに強め、ゼノンもそう、零していた。
そして、そのままデーモンの屋敷へと無言のまま歩いていた。
暖かくて、柔らかな感触に、その意識は不意に引き戻された。
目を明けてみれば、傍らに眠る姿が映る。
「…ゼノン?」
小さく声をかけてみれば、ゼノンはハッとしたように顔を上げた。
「あぁ、気がついた?」
そう言って、ゼノンは額に手を乗せた。
「だいぶ下がったかな。もう少し安静ね」
「うん」
目覚めた時に、一番に目に入ったのがゼノンであったことが、ライデンには嬉しかったようだ。思ったよりも機嫌良く答えた。
だが、その表情がふっと曇る。
「…どうしたの?」
その意味がわからず、首を傾げたゼノンに、ライデンはすっと左耳を指さす。
「…それ…」
「…え?あぁ、これね」
左耳に、無造作に填められたピアス。まだ完全に封印が完成してはいないものの、それでもゼノンの気持ちを落ち着けるには十分の役割を果たしていた。
「…説明、しなきゃね」
大きく息を吐き出し、ゆっくりと事の全てを話す決意を固めたゼノン。
今回、ライデンに起こった事件の発端から、自分が血を喰らう"鬼"であると言うことまで。余すことなく、全てを吐き出したゼノンの声を、ライデンは黙って聞いていた。
そして最後に吐き出した想い。
「…このピアスは、ライデンが術を結んでくれて初めて封印が完成するんだ。お願いしても…いいかな?」
これからの関係を、壊したくはないから。
そんな想いで紡いだ言葉に、ライデンは小さく微笑んだ。
「考えて、くれたんだ。俺とのこと」
「…まぁ、ね。いつまでもこのままじゃいけないし…かと言って、壊す訳にもいかないから。折角、ルザックが敷いてくれた道だからね。有効利用させて貰う事にするよ」
そう。自身の想いを犠牲にして、道を示してくれたルザックの為にも、無駄にすることは出来ない。
そんな想いを、ライデンはわかってくれたようだった。
まだ僅かに熱の残っている身体をベッドから起こし、ゼノンを引き寄せる。
頬を寄せながら、封印の呪を詠唱して、ピアスにそっと口付け、術を結んだ。
「これでもう…俺をおいて何処にも行かない?」
ふと問いかけた声に、ゼノンは微笑んだ。
「一緒にいようね」
「…うん」
にっこりと微笑んだライデン。そして初めて、唇を合わせた。
やっと、報われた想いの陰で…ルザックはこの日を最後に、姿を消した。
全て、愛する悪魔の為に。
すやすやと微かな寝息を吐き出すライデンの姿に、エースはくすっと小さな笑いを零した。
「倖せそうな顔して寝てるわ。何の夢、見てるんだか」
「さぁね。夢の中までは見られないから」
エースが買って来たばかりの氷を氷嚢に入れて持って来たゼノンも、小さく笑いを零す。まさか、自身がその夢に出て来ているとは、想像もしていないようだ。
あの日の事件がなかったら、今のこうした関係ではいられなかっただろう。もしかしたら、ライデンを喰らっていたかも知れないのだから。
「まぁ…これのおかげかな」
左耳に填っているピアスを軽く指で振れ、笑いを零す。
あの時付けた一つのピアスは、今となっては、感情制御二つと魔力制御一つの三つに増えているが、全てライデンを護る為に必要としたこと。
そして、くすくすと笑っているエースの耳にも、感情制御一つと魔力制御一つの、合わせて二つのピアス。これも、愛しい悪魔を護る為であるが。
「お、雪になったぞ。暖かくしてやれよ」
窓の外に目を向けたエースが、空から落ちる白い破片を見てそう声をかけた。
「わかってる」
微笑むゼノン。その笑顔は、昔と変わらずにいた。
それはまるで…雪のように、純真な微笑み。
それは、闇にあるからこそ、美しく見えるのかも知れなかった。
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COMMENT
プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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