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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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a new day 2
こちらは、以前のHPで2008年10月2日にUPしたものです
  4話完結 act.2

拍手[1回]


◇◆◇

 その日の夜。職務を終えたゼノンは、デーモンの屋敷へと足を運んでいた。
 しかし、そこで出迎えてくれたデーモンから、思いがけない報告を聞く事となった。
「……え?ライデンがいないって…どう言うこと…?」
 思わず聞き返したゼノンの言葉に、デーモンは溜め息を吐き出した。
「その言葉の通りだ。夕方の少し前に帰って来たかと思ったら、直ぐに荷物を纏めて雷神界に帰ったそうだ。吾輩にも事後報告だ。使用魔たちも驚いていたそうだ。まぁ…お前に全てを預けてしまった吾輩にも責任はあるんだろうが…それにしても、唐突過ぎやしないか?」
「………」
 驚きとショックの余り、呆然とするゼノンを前に、デーモンも溜め息を吐き出すしかなかった。
「…何があったか、なんて、野暮な事は聞かないつもりだ。だが…今のままの状態では、ライデンは不安定過ぎる。あのままでは、今度の任務には連れて行けないんだ。心と身体が不安定な状態では、覚醒に耐えられない。だからこそ、お前に託したんだ。お前なら、その不安定なバランスを整えられるんじゃないかとの判断でな。それが間違っていたか…?」
 ゆっくりと言葉を紡ぐデーモン。
 勿論、ゼノンにもデーモンの想いはわかっているつもりだった。だが、どうにもならないと言うジレンマ。
 唇を噛み締めたまま、口を噤んでしまったゼノン。その姿を前に、デーモンも溜め息を吐き出す。
「…出発まで、あと一週間だ。それまでに何とかならなければ、ライデンは置いて行く。その方が良いと言うなら、このままでも構わない。焦ることはない。ライデンもまだ迷っているようだし、無理強いするつもりはない。お前も、もう一度、ゆっくり考えてみれば良いさ」
「………」
 相変わらずのゼノンの肩を、デーモンはポンポンと軽く叩く。
 ゼノンの抱えている悩みは、デーモンもわかっていた。だからこそ、それ以上何も言えない。
 お節介を焼ければ、どれだけ気が楽だろう。だが、今は何をしてやることも出来ない。
 双方の想いがわかるからこそ…デーモンは胸が痛かった。

 デーモンの屋敷から自分の屋敷に戻って来たゼノン。けれど、何処をどう歩いて戻って来たのか、全く記憶になかった。だが、屋敷に着いた時には既に真夜中だったことを思えば、何処かを彷徨っていたことだけは間違いなさそうだった。
 心配する使用魔たちをあしらい、自室のベッドに倒れ込む。
 デーモンから言われた言葉の意味はわかった。だが、それをどう処理したら良いのかがわからず…途方に暮れていた。
 ベッドに横になっても、少しも眠くはない。
 胸の中に渦巻いているのは、"不安"と"後悔"。
 吐き出す溜め息は、酷く重たかった。

◇◆◇

 雷神界は、とても天気が良かった。
 子供の頃から良く登っていた大きな木の枝に腰を降ろし、ぼんやりと空を見上げているのは、他ならぬ皇太子、ライデン。
「……殿下。ライデン殿下」
 自分を呼ぶ声にハッとして、一瞬息を飲む。だが直ぐに、それが宮廷官吏の声だと気が付いた。
「…あ、何?」
 慌てて視線を向けると、自分を見上げる視線とかち合った。
「魔界のデーモン閣下から、連絡が入っておりますが…如何致しますか?」
「…デーさんから…」
 待ち悪魔では、なかった。だが、今更そんなことを気にしても仕方がない。
 切り捨てたのは、自分なのだから。
「…今行くよ」
 小さな溜め息を吐き出し、ライデンは木の上から降りる。そして、自室へと向かう。
「…大丈夫ですか?夕べは、殆ど寝てらっしゃらないのでは…」
 いつもの元気な顔が見られないことで、宮廷官吏たちも心配しているようだ。
「大丈夫だよ。そんな顔しなくても平気だから」
 そう言って、にっこりと笑ってみせる。
 余計な心配をかけてはいけない。そんな思いで、ライデンは微笑んだ。けれど、その笑顔が寧ろ痛々しくさえ見えた。
 自室に戻って来ると、通信回線を繋ぐ。すると、コンピューターの画面に見慣れた顔が映った。
『…大丈夫か…?』
 相手からの第一声はそれだった。
「大丈夫だよ。そんなに変な顔してる?」
 努めて気丈に、笑って見せた。だが、相手は一つも笑わなかった。
『夕べ…泣いただろう?そう言う顔、してるぞ』
「………」
 きっぱりとそう言われてしまったら、成す術もない。
 ライデンは大きな溜め息を一つ吐き出す。
「…そっか。バレちゃ仕方ない。ごめんね、色々心配かけて…」
『いや…吾輩はまだ良いが…ゼノンは、相当困惑してたぞ』
「…そう…」
『連絡は?何か言って来たか?』
「……ううん。何にも…」
 そう言葉を返すと、大きな溜め息が返って来た。
『まぁ…あいつも相当堪えたみたいだからな。まだ混乱してるんだろう。出発までには、何かしらは…』
「別に、もう良いんだ。俺が、拘らなければ良いだけの話だから」
『ライデン…』
 思いがけない言葉を返されて、相手は困惑した表情を浮かべた。
「心配して貰ってることは、良くわかってるよ。だけど、俺は、これ以上ゼノンに迷惑かけたくないんだ。困らせたくないんだ。だから…もう良いんだ。出発までには、何とか体裁を整えるから。こんな俺でも、慕ってくれてる奴は一杯いるから、相手には困らないしね。だから…ダミ様にも、そう言っておいて」
 夕べ…思いきり泣いて、ケジメは付けたつもりだった。だから…諦めはついた。
 だが、端から見れば、それが強がりだと容易にわかる。
 ライデンが小さな吐息を吐き出す。けれど、それよりもずっと大きな溜め息が帰って来た。
『あんまり…馬鹿なことを言うなよ。そんなやり方で、本当に良い結果が得られるとでも思っているのか?そんな強引なやり方じゃ、何の解決にもならない。全くの無駄、だ。やめておけ』
「…デーさん…」
 眉根を寄せ、不機嫌そうな表情を見せるライデン。けれど…デーモンの言う意味はわかっている。
 確かに、何の解決にもならない。単なる、強がりでしかない。
『まだ、時間はある。もし、我々と一緒の出発に間に合わなくとも、お前の準備が整えばいつでも出発出来るんだ。だから、無茶はするな。ゆっくり考えて、本当にそれで良いと思う決断をしてくれ。いいな?』
 強く念を押されては、頷くしかなかった。
 しかし、だからと言って、ライデンに打開策があるはずもなく。
 いつ出発出来るかわからない。もしかしたら、今回の任務には、もう参加出来ないかも知れない。
 そんな想いが、ライデンの胸の中にあった。

 時同じ頃。こちらは魔界。
 情報局の長官の執務を訪れた姿があった。
「…何だ、その酷い顔は…夕べ、寝てないんだろう?」
 訪ねて来た姿を視界に入れるなり、主たるエースはそう言って溜め息を吐き出した。
「…まぁ…」
 溜め息混じりにそう零したのは、他ならぬゼノン。
 幾分いつもよりやつれた表情。何より、目の下に出来たクマが、寝不足を物語っていた。
「…で、どうした?話があるとか言っていたが…?」
「…うん…」
 話しながらも、エースも世話しなく動いている。
 一週間を切った任務への出発の為に、執務室の片付けをしているのだ。
 一応、身位は保留のままなので、ここはエースの執務室のままなのだが、長期間留守にすることもあって、律義に片付けていたりする。
 そんな姿をぼんやりと眺めつつ、ゼノンは小さな溜め息を吐き出す。
「実は…頼みがあるんだ」
 ゆっくりと紡ぎ出した声は、心なしか掠れているようにも思えた。
「頼み?」
 この忙しい時に何を…とでも言わんばかりに、エースは眉根を寄せる。
 だが、相手の姿を見れば、酷く真面目な顔をしているのだから、無下にすることも出来ない。
 結局は、話を聞くしかないのだ。
「…何だよ、頼みって…」
 ゼノンをソファーに促しつつ、エースも片付けの手を休めると、ゼノンの向かいに腰を降ろした。
「えっとね……」
 そう切り出したものの、ゼノンもなかなか言葉を続けることが出来ない。
 夕べ、ずっと考えていたこと。それは、ライデンのことだった。
 どうしたら、一歩を踏み出せるだろう。
それは、ゼノンに与えられた課題。
 そんな緊張を感じ取ったエースは、無言でソファーから立ち上がると、部屋の隅へ行ってお茶を淹れ始めた。
 暫しの沈黙。
 エースは両手にお茶を持って戻って来ると、そのカップの一つをゼノンの前に置いた。
 ゆっくりとカップから立ち上る湯気を眺めている内に、ゼノンも覚悟を決めたようだった。
 大きく息を吐き出し、ゆっくりとエースの視線に向き合う。
 そして。
「あの…さぁ……エース、制御ピアスの予備…持ってるよね?あれ、貸してくれないかな…」
「…は?制御ピアスって…」
 ゼノンの思いがけない言葉に、エースは思わず自分の左耳に触れる。
 そこには、つい最近填めたばかりのピアスが二つ。感情制御と魔力制御。
 これから参加する任務で、自分自身と…それから、エースの内に秘めた想い悪魔を護る為のモノ。
 勿論、エースもゼノンのピアスの意味は聞いている。そして、ゼノンが今抱えている"課題"のことも。
「…ごめんね、変な事言い出して…一晩中探したんだけど、俺のは見当たらなくて……レプリカに頼んだんだけど、直ぐに手に入らないらしくて…お前以外は、他に思い当たらなくて…」
 申し訳なさそうにそう言うゼノン。
 確かに、その効力故に、簡単には手に入らない代物ではある。だからこそ、使用している悪魔は必ずと言っても良い程、予備を持ち合わせている。
 その貴重な予備をなくすとは…。
 思わず、溜め息と共に愚痴を零しそうになったが、そこはお茶と一緒にぐいっと飲み込んだ。
 必要とするには、それなりの事情がある。それがわかっているが故に、拒否も出来なかった。
 不安そうな表情を浮かべるゼノンを前に、エースは徐ろに立ち上がると、執務机の引き出しを開ける。
 そして、引き出しの中から小さな箱を一つ取り出すと、ゼノンへと放り投げる。
「…高いんだからな。後で返せよ」
「……それは勿論。有難う」
 小箱の中身を確認したゼノンの、ほっとしたような表情。それだけで、どれだけそれを必要としていたかが伺える。
 別に、エースも本当に返して貰おうとは思っていない。そこまで非情ではないつもりだった。
「…つけてやろうか?」
 ゼノンの様子を伺うように僅かに首を傾げ、斜めに眺める。
 本来なら、それは自分の役目ではない。ただ、相手が近くにいないのならば、代役を務めることも必要かと思って。
 エースの申し出を、ゼノンは暫く考えていた。
 そして。
「…お願いするよ」
 エースの気持ちは、痛いほど胸に染み入る。
 エースはゼノンへと歩み寄ると、ゼノンの持っていた小箱から小さなピアスを取り出すと、床に膝を折り、ゼノンの左耳を露わにした。
 そこには、既に二つのピアスが填められている。エースと同じ、感情制御と魔力制御。それは全て、愛しい悪魔の為。そこに更にもう一つ増やそうと言うのだから、それだけでゼノンの心の負担が感じられた。
 逃れようとしているのは…残虐性を秘めた自分自身の能力から。
 そうして、護ろうとするモノがある。
 そうしなければ、護れないモノがある。
「行くぞ」
 エースの声に、ゼノンはぐっと奥歯を噛み締めてその痛みへの耐性を高める。
 その準備を見届けると、エースは迷うことなくピアスをその耳へと突き刺した。
「…っつ…」
 鋭い痛みに、ゼノンは一瞬顔を歪める。だが、その痛みは長くはなかった。
「感情(こころ)で、良いんだろ?」
 ゼノンの答えを確認せず、エースは呪を唱え始めた。
 止血の為にしっかりと耳たぶを押さえたエースの指先が光を灯し、それと同時にほんのりと暖かくなる。
 何かを奪われていくような感覚。その喪失感にも似た感覚を堪えるべく、固く目を閉じたゼノン。
 流れるように紡がれる呪。エースは呪を結ぶ為にゼノンの耳元に唇を寄せたが、ふと思い立って顔を離すと、空いている手の指先を己の唇に当て、その指先でピアスへと触れる。
 呪は、エースの唇から指先を伝い、やがて封を結んだ。
「…終わったぞ」
 エースの声に、ゼノンは呼吸を整えるかのように、大きく息を吐き出した。
「気分は?」
 ポットの湯でタオルを濡らし、ゼノンの耳にこびり付いている血を拭き取りながら、エースは問いかける。
「…大丈夫…」
 未だ背筋を伝う感覚に耐えながら、ゼノンは呼吸と共にそう言葉を吐き出した。
 気分は、悪くない。
 エースのことだから、遠慮も容赦もせず、しっかりと呪を結んでくれたのだろう。そう思うと、エースを頼って来て正解だったと思う。
 大きく深呼吸をしながら、エースに手渡されたピアスの止め具を填める。
「これからどうするんだ?」
 ゼノンの様子を眺めつつ、エースはソファーに腰を降ろしてお茶のカップに口をつける。
「うん……一応、デーモンのところに顔を出してから、雷神界に行こうと思う。ライデンに…ちゃんと向き合わないと」
 早速ピアスの効果もあってか、ゼノンも冷静にそう考えることが出来た。
 逃げていては、問題は何も解決しない。それは、最初からわかっていたことなのだから。
「そうか。まぁ、それが良いだろうな」
 エースも、ゼノンの判断には賛成を唱えた。
「…色々、有難うね」
 ゼノンは一息吐くと、ソファーから立ち上がる。
「…何だよ、今更…」
 その、余りにもよそよそしい態度に、エースは思わず苦笑する。
「見送りには、行かないから。任務、頑張ってね」
 暫く会えなくなる仲魔。それでも、またいつか会えることを信じているから。
 エースも、その想いはちゃんとわかっていた。
「お前も、しっかりな」
 そう声をかけると、ゼノンはにっこりと微笑んだ。
「じゃあ、ね」
 そう言葉を残し、ゼノンは踵を返し、執務室を後にする。
 その背中を見送ったエースは、小さな吐息を一つ。
 中途半端に片付けたままの部屋を見回し、うんざりした表情を覗かせる。
「…さて、片付けの続きでもやるか…」
 諦めの言葉と共にソファーから立ち上がるエース。だが、その表情は幾分和らいでいた。
 次にゼノンに会う時には…もう少し成長しているだろう。そう思うと、知らず笑いが込み上げて来た。
「…そんな楽しみがあっても良いか…」
 それは、エースのささやかな楽しみでもあった。

 ゼノンはエースの執務室を出ると、その足でデーモンの執務室へと向かった。
 そして、謁見の許可を得ると、執務室の中へと入る。
「…どうした?」
 先程、エースの執務室を訪れた時とは打って変わって、すっきりした表情のゼノンに、デーモンはきょとんとしている。
 尤も、デーモンはエースの執務室を訪れた時のゼノンの顔は知らないが。
 それは扨置き。
「お願いがあるんだけど…」
 徐ろにそう口にしたゼノン。
「お願い?」
 怪訝そうに眉を寄せるデーモン。
「そう。あのね…雷神界に行きたいんだけど」
「………は?」
 夕べの様子からは、想像もつかないゼノンの姿であったが…一晩の間に、何かがあったのだろう。まぁ、先程のライデンの様子を見る限りでは、早めにゼノンを雷神界に行かせた方が良いことは間違いなさそうだった。
「…どう言う風の吹き回しかは知らないが……まぁ、お前がそう決めたのなら、吾輩は別に何も言わないがな。雷神界には、吾輩から連絡を入れて置くから心配しないで行って来い」
 今はとにかく、背中を押すしかない。
 そんな思いも込めて、デーモンはそう答えた。
 するとゼノンはにっこりと微笑んだ。
 その、態度の急変には驚くべきところだが…まぁ、それはそれで由としよう。
 デーモンも、そう割り切ったらしい。
 くすっと、小さな笑いを零した。
「頑張れよ」
「有難う。じゃあ……行って来るよ」
 その言葉が、ゼノンの思いの全てだった。
 踵を返したゼノンは、そのまま雷神界へと向かったのだった。
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趣味は妄想のおバカな物書きです。
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