聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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ALLEGORY 後編
2.黄色の扉・月の虜
気が付くと、そこは闇に閉ざされた竹林だった。
「…ったく…今度は何だよ…」
多分、残りの2つの扉のどちらかなのだろう。手を開けてみれば、握っているのは白い鍵が1つだった。
「と言うことは、黄色の扉を開けたのか」
思いがけずに飛ばされた世界には、静寂だけがあった。
先程までいた世界の余韻を引き摺る余裕もなく、俺は当たりを見回していた。
その耳に聞こえたのは、静寂の中の、一瞬の泣き声。
「…誰かいるのか…?」
問いかけると、帰って来たのは沈黙。
「…?」
一瞬聞こえたと思ったのは、俺の勘違いだったのだろうか…そう思ったのも束の間。
「……助けて…」
微かな声が聞こえた。
声のした方へと足を向けると、竹藪の陰にうずくまった一つの姿が見えた。
黒い長い髪に潤んだ黒い瞳。艶やかな着物を着た、それは紛れもなく少女だった。
「御前か?助けを乞うのは…」
何処か奇妙な感覚に浸りつつ、俺はそう声をかけた。
するとその少女は、不意に立ち上がって、俺の首へと腕を回した。
「ちょっ…」
突然抱きつかれて、戸惑わない訳がない。
だって、どう考えたって、俺の管轄外の……
「怖いの…」
耳元に届いた声に、ドキッとする。
---管轄外、管轄外、管轄外………
こんなことを自分に言い聞かせなければならなくなるとは…その無意識さが妙に情けなかったが…これはまぁ仕方がない。
意識的に少女を引き離すと、その顔を改めて覗き込んでみる。
「何が、怖いんだ?」
そう問いかけながら、観察する。
少女は、その漆黒の眼差しを真っ直に俺に向け、そして震えるような細い声が、その赤い唇から零れた。
「月が……見てる…」
「…月?」
思わず、空を降り仰ぐ。
闇の中には、青白い月。幾度も見たことのある月が、この日はどうもいつもと違うような気がしてならない。
まさに、少女の言う通り。見ているのだ、俺たちを。
いや、見ていると言う表現には、語弊がある。
正確に言うならば…
「…狙われて…いるのか?」
独言のようにつぶやいた声に、少女は再び怯えたように俺の胸へと顔を埋めた。
この時点で、俺の中にあるこの少女に対して抱いた思いは、管轄外、と言う言葉ではない。
少女は既に、女だった。
男に媚びる術を知っている、一人前の、大人の女。
ふと、俺の脳裏に過ったのは、この少女…もとい、女に対しての、危険信号だった。
俺の腕の中で、不意に女の纏う気配が変わった。
「…貴方…名前は?」
「…エース…」
「変わった名前ね」
くすくすと、小さな笑いが零れた。
「そう言うあんたは?」
問いかけた声に、僅かに戸惑いが感じられた。だが、この女は、そのままその名前を口にした。
「…赫映(かぐや)…」
「…赫映姫(かぐやひめ)…か」
全く。先程の眠り姫と言い、今度の赫映姫と言い…何処まで俺をロマンティック路線で現実逃避せようって言うんだか…
小さな溜め息を吐き出した俺の顔を、赫映姫はくすくすと笑いながら見つめていた。
「ねぇ…私を助けて」
先程助けを乞うた顔とは、全く違う。それは、明らかに俺を挑発して、誘惑している顔だった。
「…何をすれば、助かるんだ?」
興味本位で問いかけてみると、赫映姫はその口元に妖艶な笑みを浮かべた。
「あの月が…見えなくなるところへ連れて行って。明日、夜が明けるまで…傍にいて」
その言葉の意味するところは、深く追求しなくても明らかに理解り切っていることだった。
こんな少女に、誘惑されるとは…
「そうやって、何人の男を喰ったんだ…?」
「……」
一瞬、赫映姫の顔色が変わった。
「確か…帝の求愛を受けていたんだよな。それから、他に5人の求愛者がいたはずだ。その全てを…喰ったのか?」
「貴方…誰?」
そこにあるのは、さっきまで俺を誘惑しようとしていた女の顔ではなかった。
ただ、目の前の現実に怯える女の顔。
「言っただろう?"エース"だと」
「何者なのって聞いてるのよ!」
赫映姫は、既に俺の腕の中から逃れていた。そして、その漆黒の眼差しは、怒りと恐怖に満たされている。
「そう躍起になるな。俺は別に、正義を気取るつもりはない」
「だったら…っ」
「落ち着け」
俺は、ポケットの中から煙草を取り出した。それを口に銜え、火をつける。
その一部始終を、赫映姫は黙って見つめていた。
「月が、御前を狙っている訳だ。これ以上、御前が男を喰らうのを見ていられなかったんだろうな。何せ御前は…あの月の、女神だもんな」
「……」
赫映姫の頬に、ぽろりと一雫、涙が零れ落ちた。
月は、赫映姫をどうこうしようと思って、狙っていた訳じゃない。
本当に、大切だと思ったからこそ…これ以上、見ていられなかったんだろう。
だからこそ、俺をここへ呼んだのかも知れない。
「…貴方は…誰?」
ふとつぶやいた、赫映姫の声。
「俺?言っただろう?"エース"だって」
「"エース"…」
「そう。尤も俺も、まともな人間じゃないけどな。だからこそ…月の警告が聞こえたんだ。あんたがその気なら…幾らだって、返れるさ」
俺だって、まともな人間じゃない。だから、それに関して、何を諭すつもりはない。
ただ……その時に脳裏を過っていく何かは、いつも同じことだったから…それ以上は、自分自身の問題だろう。
「…そう…ね。有り難う、"エース"」
「……」
何が起こったのか、良く理解らなかった。
ただ…一瞬、頬に触れた温もりが、記憶に残っているだけで…
その後のことは、どうなったのか良く理解らない。
目の前が真暗になって…また、何処かへ連れていかれるような感覚に包まれていた。
3.白の扉・幻惑
「…ス…」
「ん…」
誰かに呼ばれた気がした。
「…エース」
はっきり呼ばれてるじゃないか。
うっすらと目を明けてみれば、見慣れた自分の部屋の中だった。
そして、俺の顔を覗き込むかのように、こちらに視線を向ける、愛しい姿…
「…デーモン?」
呼びかけると、にっこりと微笑む。
「朝飯、食べるだろう?もう出来てるぞ」
「あぁ…」
現状が良く理解らない…
戸惑い気味の俺をそこに残し、デーモンは部屋を出て行く。
その背中を見送った俺は、溜め息を一つ。
気が付けば、手のひらに残っていた最後の鍵は、そこになかった。
果たして…今までのは夢だったのだろうか?
もう一つの扉を残したまま、俺は夢から覚めてしまったと言うのだろうか…?
現実逃避から始まったはずの、あの夢物語。だが、それにしては、覚め方が異様に早いような気がするのは、俺だけだろうか…
それとも俺は、まだあの夢物語の中を漂っているのだろうか?
今が夢なのか、現実なのか。そのどちらにいるのかさえ、わからないとは。どうやら今は思考が全てを拒否しているようだ。
これは、自分の目で確かめるしかない。
俺はデーモンが待っているダイニングへと向かった。
リビングへやって来ると、そこにはデーモンの姿しかない。
「…他の奴らは?」
「あぁ、みんな出かけてるんだ。吾輩と御前の2名だけ居残りだ」
「そう…」
くすくすと小さな笑いを零したデーモン。
だが…何かがいつもと違うような気がする。
「…どうした?」
そう声をかけられ、ふと我に返ると、目の前にデーモンの顔がある。
「いや、別に……」
何でもない。そう言いたかったのだが…その言葉はデーモンの唇によって遮られてしまった。
「ちょっ……何だよ、朝から…っ」
予想外のキスに、当然俺は焦った訳だ。だがデーモンはくすくすと笑うだけで。
「御前…何考えてるんだよ…」
「御前に、キスしたかったからしたんだ。御前こそ、何を今更赤くなってるんだ?初めてじゃあるまいし」
くすくすと、笑いが絶えないデーモン。
何かが、違う。
再び、俺の脳裏にその言葉が過っていた。
ここは…現実の世界じゃないのかも知れない。
そんな意識が俺の思考の中に生まれた。
と言う事は…ここにいるデーモンも、勿論偽者なのだろう。
「どうした?」
俺の視線に気が付いたのか、首を傾げる姿。
その仕種も眼差しも、俺の知っているデーモンと変わらないのに、別者かも知れないだなんて…なんだか納得の行かない話だ。
「御前は…誰、だ?」
思わず問い掛けた声。
「誰って…吾輩は"デーモン"だろ?御前の良く知っている」
当然のように返って来る答え。
「あぁ、良く知ってるさ。だが、御前じゃない。御前は、俺の知ってる"デーモン"じゃない」
「どうしてそう言い切れる?」
そう言われてしまうと、説明するのが大変なのだが…
「"デーモン"は…御前みたいなキスはしない」
取り敢えず、俺が感じた違和感の最初は、そこにあったのだから。
その答えに、当然だろう。デーモンは、くすくすと笑いを零していた。
「キスぐらいで別物だと判断したのか、御前は」
「…悪いな。俺はそう言う感覚には敏感なんだ。なんなら…邪眼を開いてもいい。御前が別者だと言う自信はある」
そう言葉を放ち、俺は額に手を当て、邪眼を開く準備をする。
しかし、デーモンは笑ったままだった。
「面白そうな余興だな」
「御前…」
別者であると言う自信はあるはずだった。だがしかし、どうして目の前にいるデーモンの態度が全く変わらないのだろう。
その時ふと思い出したこと。
そうだ、最初から敵意は感じていなかったじゃないか。
つまり、俺の目の前にいるのは、確かにデーモンなのだ。ただ、俺の知っているデーモンではなく…多分、俺の認識外の……
溜め息が、一つ零れる。
「どうした?邪眼を開くんじゃなかったのか?」
俺の行動を見越したように言葉を放つデーモン。
デーモンであるはずなのに、デーモンではない。
俺が、ここに来た理由を、今また考えなくてはならないのだ。
「…俺が…作った世界、か」
「…エース?」
デーモンの表情から、笑いが消えた。
「俺の現実外の世界だもんな。俺の見知ったデーモンが出てくるはずはないか」
そうだ。俺が逃げ出した世界と同じ存在が、ここにあるはずはない。全て俺が否定したのだから。
なのに…今目の前にいるデーモンを、デーモンだと認めたくない自分がここにいると言う事実。
再び、溜め息が零れる。
俺は、何から逃げ出そうとしたのだろう。何を、忘れようとしたのだろう。
「馬鹿だな、俺も。結果、同じ世界に来るとは」
自分自身が妙に馬鹿らしく思えて、思わず笑いが込み上げてきた。
目の前のデーモンは、俺のその一部始終を見つめている。その澄んだ、透明な眼差しで。
「御免。俺が悪かった」
「エース…」
「喧嘩なんて、日常茶飯事にはずなのにな。今更御前を忘れることが出来るはずなどないのに」
俺は、目の前のデーモンに向かって、そうつぶやいていた。
そう。それは、本来は俺の見知っているデーモンに言うべき言葉。それを口にしたのは…きっと、俺の想いは、何処にいてもデーモンに伝わると思ったから。
「…どうして喧嘩をするか、知っているか?」
不意に、目の前のデーモンが問いかけた。
「さぁ。どうしてかな。たまに、素直になれない自分がいる。御前の言っていることが尤もだとわかっているのに、否定したくなる。その自分がわからないな」
俺の答えに、デーモンはくすっと笑う。
「素直になれないのは、もっと自分を見てもらいたいと言う想いがあるからだ。本当に嫌いなら、喧嘩なんかしない。喧嘩をするのは、相手を想っているからだ。好きだから。愛しているから。もっと傍にいたいから。だから、相手の気を引こうとする。我侭を言ったり、相手の言うことを否定したり。そうやって、自分に目を向けさせようとするんだ」
「…成程な」
御尤もだ。良く言うじゃないか。『喧嘩するほど仲が良い』って。
デーモンは俺を見つめたまま、微かに笑ってみせる。
「吾輩も、御前にもっと見てもらいたかったのかもな。だから、御前に否定されると、もっと自分の言い分ばかり口にする。御前に、そうじゃないと言われる度に、御前がもっと傍に来るような気がする。そうやって…距離を縮めていたのかもな」
くすくすと笑う声。それはまるで、俺の見知っているデーモンのようで……
ちょっと待てよ。今、吾輩も、って……
「御前、まさか……」
嫌な予感。もしかして俺は…
思わず息を呑んだ途端、手のひらに違和感を感じた。
急いで手を開いてみれば、そこには鍵が一つ、乗っていた。
「やられた…」
途端に、俺の口から零れたのは大きな溜め息。
今、目の前にいるデーモンは…俺が良く見知っているデーモン。
その当のデーモンはと言うと…大口開けてげらげら笑っているじゃないか。
「だましやがったな、御前…」
「だましてないぞ。吾輩はちゃんと、デーモンだと言ったじゃないか。御前が信用しなかっただけだぞ。まぁ、きっかけを作ったのは吾輩だがな」
…確かにそうだ。俺が、デーモンじゃないと思っただけだ。こいつは確かに、デーモンだと言ったのだから。
デーモンと思わず告白した自分の想いに、俺は思わず赤面…。
するとデーモンは笑いを収め、再び俺を見つめた。
「まぁ、吾輩もいけなかったんだ。だから、御前に吾輩の想いを伝えようと思ってな。ちょっと手は込んでしまったが…」
「…じゃあ、あの"眠り姫"と"赫映姫"は?」
そうだ。それが引っかかってるんだ。
「あれは、単なる通過点だったに過ぎない。元々御前を、あいつらに合わせようと思った訳じゃないんだ。ただ、あそこのマスターと、ちょっと知り合いだったもんでな。マスターの余興を利用させてもらったんだ」
「あのマスターは一体…?」
「夢魔、だ。尤も、悪意は持たない。それは御前も良くわかっていただろう?」
まぁ…な。夢魔の手に落ちたと言うことは、俺もまだまだだってことか。
くすりと、俺の口からも笑いが零れた。
こんな日もある、か。
「…エース?」
怪訝そうに眉を寄せたデーモン。
「ま、いっか」
その言葉には、デーモンも小さく笑いを零した。
喧嘩しても尚、気になるのは、それだけ相手を想っているから。
それがわかれば、まぁ気分も悪くない。
「急がば回れって、良く言うじゃないか。回り道をしても尚、得られるものがあれば、それでいいじゃないか。時には回り道も必要さ」
くすくすと笑うデーモン。
そう。これでいいんだ。あのマスターには、感謝しなければ。
俺は、手のひらの鍵を、きつく握り締めていた。
この想いを、忘れない為に。
そして…あの"眠り姫"…もとい、"仁慧"と"赫映姫"にも("眠り姫”は、結局起きなかったからな…)、ささやかな幸せが届くように。
想いは、何物にも勝る。それを痛感させられた出来事だった。
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プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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