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聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。

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AMNESIA 2
こちらは、本日UPの新作です
 4話完結 act.2

拍手[1回]


◇◆◇

 夕方の日差しが差し込んで来た頃、部屋のドアがノックされた。
「ちょっといいかな?」
 そう言って顔を出したのは、ゼノンだった。その手には包帯と、お湯の入った洗面器を持っていた。
「包帯、取り替えたいんだけど…」
「あぁ…うん」
 動けることは動けるけど、頭にも、背中にも怪我をしていた俺は、まだ傷が直り切っていなかったんだ。
 上着を脱ぎ、巻かれた包帯を解いて貰うと、お湯で絞ったタオルで背中を拭いて貰う。
「だいぶ良くなったね。傷も綺麗になって来たし、もう少しかな」
 薬を塗られ、再び包帯を巻かれる。頭の包帯も取り替えて貰うと、やっと一息つけた。
「シャワー、浴びたいでしょ?」
「…まぁ、ね」
「明日ぐらいになれば大丈夫かな。今日はもう一日我慢してね」
 にっこりと微笑むゼノン。確か、魔界では医者でもあったと聞いた覚えがある。だから、その心得はある訳だ。
 ほうっと息を吐き出した俺を、ゼノンは見つめていた。
「…まだ、不安?」
 そう、問いかけられる。思わず視線を向けると、まだ微笑んだままのゼノン。
「気持ちはわかるよ。そりゃ、不安だよね。こんな、得体の知れない俺たちの中に抛り込まれたようなモンだもんね。でも…わかって欲しいな。俺たちは、御前の仲魔だってこと」
「……」
「みんな…心配してるんだ。御前が、不安そうな表情を浮かべる度に…俺たちも不安になるよ。多分…御前の中に、"悪魔"は存在していないんだよね。でも…俺たちは、ここにいる。実存してる。まだ、受け入れられないかも知れないけど…俺たちの現実は、ここにあるんだ。だから…」
「受け入れろ、っての?」
「…受け入れてくれたら嬉しいよ。無理に、とは言わないけどね」
 そうは言うものの、自分たちの存在を押しつけてることには変わりない。少なくとも、俺にはそうとしか取れないから。
「悪魔なんて、信じない。悪魔を肯定する理由がないから否定する。それが、俺だよ」
「ルーク…」
「俺はルークじゃない」
「……」
 思わず言い放った言葉に、困ったような表情を浮かべたゼノン。
 そう、俺はルークじゃない。だから…そう呼ばれたくはない。
「…わかった。御免ね、"篁"」
「…"篁"…?」
 首を傾げた俺に、ゼノンは再び笑ってみせた。
「篁って、君の媒体の苗字だよ。そう、呼んでたんだ。ここにいるみんな、昔からの知り合いだから」
「…そう」
 また一つ、何かを押しつけられたような気がした。でも、ルークと呼ばれるよりは、余程良い。
「もうすぐご飯だからね」
「うん」
 じゃあね。
 そう言って、ゼノンは部屋から出ていった。
 また一人になった俺は…溜め息を吐かずにはいられなかった。

◇◆◇

 食事が終わった後、裏の木立ちの中の大きな木下に、ぼんやりと座っている姿が一つ。
「…何してるんだ?こんなところで」
「…デーモン…」
 背後から声をかけられ、振り返れば、そこにデーモンが立っていた。
「そこは、エースの指定席だと思ってたが…まさか、ゼノンも気に入ってるとはな」
「…別に、指定席の名前が書いてある訳じゃないからね」
「まぁ、な」
 くすっと、小さな笑いが零れた。
「ルークに…こっぴどく言われたんだろう?」
「…まぁね。流石に、ちょっと応えたかな」
 ゼノンも小さく笑いを零したものの、その笑いはいつもとは違う。寂しそうで…ショックを受けているのは明らかだった。
「わかってる…つもりだったんだよ、ルークの…いや、篁の気持ちはね。でも…完全に否定されちゃったから」
「切ないよな。現実にいるのに、否定されるのは」
 デーモンも、ゼノンの隣へと腰を降ろす。
「多分…覚醒前は、みんな同じ気持ちだったんだろうな。吾輩とダミ様は、意識を持って生まれたから、余り悩むことはなかったが…御前はどうだった?」
 問いかけられ、ゼノンはちょっと考えてみる。
「そうだね…石川は、俺を拒否したな。受け入れてくれるまで、随分かかった。今はその時の気分と同じだね。覚醒するまでは色々あったから…正直、不安ばっかりだったよ。でも覚醒してからは、御前たちの姿を先に見てたから、そんなに不安はなかった。篁は、そこまでルークを否定してないみたいだったから、大丈夫だと思ってたんだけど…やっぱり違ったんだね」
「繊細過ぎるからな。彼奴は」
「御免ね、図太くて」
「なぁに、御前だって医者としては図太いかも知れないが、本当は繊細だろうが。吾輩が図太いだけだ」
 くすくすと笑うデーモン。
「御前は、不安にならない?」
 今度は反対に、ゼノンがデーモンに問いかけた。
 するとデーモンは、今まで通り、笑っていた。
「心配はしてる。だが、不安ではないな。ルークは…必ず帰って来る。彼奴が…いつまでも、篁を放っておく訳、ないだろう?」
「…まぁ、ね」
「信じて待っていよう。な?」
 デーモンのその言葉に、ゼノンも頷くしかなかった。
 今は、待つしかないのだから。

◇◆◇

 俺の記憶が戻らぬまま、更に数日が経った。
 この数日間、屋敷には俺と、奴らのうちの二名が残っているだけで、後の二名は、ルークを陥れた天界人を探しているとのことだった。
 その頃になると、既に奴らは俺を"篁"の名で呼ぶようになっていた。
 俺に接する奴らの、悪魔とは信じられないくらいの温かさに、俺も少しばかり警戒を解いてはいたものの…それでも、俺の中のルークを肯定することは出来なかった。
 そして、その日。
「篁、入るよ」
 そう言って部屋に入って来たのは、エースだった。
 外出用の服を着たエースは、明らかに何処かへ行くようだった。
「何?」
 問い返すと、エースは小さく笑った。
「ちょっと、付き合ってくれないか?」
「…は?」
「買い出し係、なんだ」
「……」
「いいだろ。ほら、支度、支度」
 促されるままに、俺はどう言う訳か、外出の支度をしていた。そして、そのままエースに連れ出されたのである。
「…ちょっ…外出禁止、じゃなかったの?」
 危険だからと言って、俺の外出は禁止されているはずだった。なのにこのエースは、俺の腕を取り、平然と敷地の外へと出たのだ。
「大丈夫、大丈夫。何の為に俺が一緒にいると思ってるんだ?屋敷の結界よりも役に立つガードマンじゃないか」
 くすくすと笑いながら、エースはすたすたと歩いて行く。エースに腕を取られているのだから、当然俺もがしがしと歩いて行かざるを得ない。
 買い出しと聞いていたから、てっきり近くのスーパーか何かに行くのかと思いきや…エースはそのまま駅へ行き、電車に乗って、着いたのは某デパート…
「…どう言うこと…?」
 エースの行動の意味がわからず、眉を潜めた俺に、エースは平然とその答えを返した。
「買い出し、だよ。御前の服」
「…服?」
「そう。丁度バーゲンだから」
 好きだろう?
 くすっと、小さな笑いが零れた。
 余りにも無邪気なその笑顔に、俺は暫し茫然……
「さ、遅れを取るな!行くぞっ」
「ちょっ……」
 エースに連れられ…結局俺は、そのバーゲンに参戦していた…

「いい気分転換になっただろう?毎日屋敷の中と裏の林じゃ、身体が腐っちまうよな」
 バーゲンの後、喫茶店に入った俺たちは、コーヒーを前に向かい合っていた。当然、俺の隣には、数個の紙袋も…エースに上手く乗せられてしまった…。
「ホントにいいの?他の奴ら、心配してるんじゃ…」
 流石に罪悪感を感じた俺は、そうエースに問いかけてみる。すると。
「出払ってるのは、小煩いデーモンと、心配性のゼノンだろ?ライデンはほら、ゲームに夢中になってるから」
「…そりゃそうだけど…」
「折角出て来たんだ。もう少しゆっくりして行こうぜ。ライデンには連絡入れたから、晩飯までに帰れば大丈夫」
 ホントにあっけらかんとそう言ってしまうエースを、俺はぼんやりと見ていた。
 エースが、頼りになるのかは、俺にはまだわからなかった。でも、今までの状況を見る限りでは、きっと頼りにはなるのだろう。
 小さく溜め息を吐き出した俺に、エースはコーヒーで喉を潤してから声をかけた。
「帰る前に、もう一カ所、付き合ってくれよ」
「まだ行くの?」
「そ。気分転換」
 にんまりと笑うエース。
 もぉ、勝手にして……。

◇◆◇

 次にエースに連れて来られたのは、普通のマンションだった。
 とある部屋の前に立ったエースは、おもむろに俺に向かって手を差し出す。
「…何?」
 訳がわからずに問いかけると、エースの一言。
「鍵」
「…は?」
「鍵だよ。持ってんだろ?」
「鍵って…だって、誰の家だかわからないのに…」
 困ってそう口にした俺に、エースは無言でその部屋の表札を指さした。
 フルネームは書いていなかったけれど…それを見た俺は、ドキッとして息を飲んだ。
 そこには、『篁』と書かれていたのだ。
「御前の部屋。鍵ぐらい、持って来てるだろう?」
 もう一度そう言われる。俺の手は、無意識にポケットを探っていて…そして、上着の内ポケットに入っていたキーケースの幾つかの鍵の中から、無意識に一つの鍵を選び出し、鍵穴に差し込んでいた。
 カチリと小さな音がして、ロックが解けたことがわかった。
「ほら、入ってみな。遠慮するな」
 ドアを開けられ、その中へと押し込まれる。
 その瞬間、懐かしい空気がそこにあった。
「良い部屋、だろう?」
 開けたドアに寄りかかるように、エースは小さくつぶやいた。
「…どうして…?」
 篁のマンションを、誰も教えてくれなかった。
 それなのに、エースはどうして…
「あの屋敷の部屋よりも、御前にはこっちが合ってると思ってな。御前が悪魔を否定するのなら…居場所はこっちだろう?」
「……」
 エースの声を背中に聞きながら、俺は靴を脱いで、部屋の中へと歩いて行った。
 思い出すモノはないものの…懐かしい空気が心地良かった。
 確かに、エースの言う通り…
「…あんたは入らないの?」
 戸口から中へ入ろうとしないエースに向け、思わずそう声をかける。
「御前の部屋、だからな」
 遠慮してるのは、エースの方。それがわかると、この悪魔の思いはわかる気がした。
「入ったら?遠慮しないで」
 思わず、くすっと笑いが零れた。
 俺が笑うと、エースも小さく笑った。そして、部屋の中へと入って来た。
 改めて、部屋の中へと目を向ける。すると、その部屋の隅に立てかけられたモノに、目が向いた。
「御前のギターだ」
「…俺の…?」
「そう。悪魔になる前から、夢中だったんだぜ」
「……」
 確か…ルークはギタリストだと聞いた。このエースと共に、人気があったと。
 でも、あの屋敷の部屋にはギターはなかったから、俺もそんなに気に留めずにいたんだけど…まさか、ここにあったとは。
「弾いてみるか?」
 ふと、エースがそう口にした。
 ギターの数々を見つめていた俺は、その言葉に溜め息を一つ。
「…弾けないよ、俺には…」
「じゃ、ちょっと借りるな」
 そう言うと、俺の返事など聞かずに、エースはギターの一つを取り上げた。そして、ベッドの上に座ると、おもむろにそのギターを弾き始めた。
 突然部屋の中に響いたのは、とても柔らかい音。優しくて…穏やかで…とても心地良い音。
 初めて聞いたエースのギターの音に、俺は暫し酔い痴れていた。
 しかし。
「あ、一つ外れた」
「……ぷっ」
「あっ…」
 無意識に聞いていたのは、音が外れたところ。どう言う訳か、それを口走ってしまった為…エースが噴き出したのだ。
「ちゃんとわかってるじゃん」
「……」
 わざと、だったんだろうか…。そう思うと、顔が赤くなる…。
 聞いたこともない曲だったはずなのに…どうしてそれを、指摘してしまったのだろう…
 俺が思案に暮れていると、エースは弦を弾きながら、ぽつりと言葉を紡いだ。
「今のは…俺が知ってる限り、御前が…否、ルークが、初めて作った曲だぜ」
「……」
「耳は、正直だよな。知らないと思っている曲でも、音が外れればそれを指摘出来る。意識して探そうと思ったって、知らない曲じゃ難しい。それだけ御前は、この曲を聞き慣れてたんだ。無意識にでも…耳は、音を追えるんだ。どうしてだと思う?」
「どうしてって…言われても…」
 悪魔だから、と言う答えを期待しているのかも知れないが…俺の中では、その答えは、見つからない。
 するとエースは、くすっと笑った。
「ギターが好きだから。じゃないか?根っからのギタリストだと思うぜ。悪魔であろうと、人間だろうと…な」
「……」
 微笑む、エース。
 俺の知らない俺を、知っているエース。
 いつもは不快に思うはずなのに…どうして今は、嬉しく思うのだろう?
 心地の良い音が、俺を包み込んでいた。
 だが、その音が不意に途切れる。
「…?」
 エースに視線を向けてみれば、眉を寄せて溜め息を吐き出している。
「…どしたの?」
 思わず問いかけると、ゆっくりと上げられた眼差し。
「ライデンからの意識波。デーモンとゼノンが帰って来たってさ。しょうがない。俺たちも帰るか」
「…うん」
 ちょっと勿体無い気がした。もっと、ギターの音を聞いていたかったのに…と思ったのも束の間。エースは持っていたギターをケースに仕舞い込むと、おもむろに俺に差し出した。
「持ってけ」
「だって…」
「良いから。持っていかないと、後悔するぞ」
 俺の胸のうちを見透かしているかのようなエースの声に、逆らうことは出来なかった。
 俺は、バーゲンの紙袋とギターを担ぐと、エースと共にあの屋敷へと戻った。
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