聖飢魔Ⅱです。(face to ace、RXもあり…) 完全妄想なので、興味のある方のみどうぞ。
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Angel Smile 2
彼がエースの屋敷に来てから、三日程が経った。
彼の熱は思いの他長引き、傷もなかなか塞がらなかった。だが熱が下がるにつれ、体調も良くなって来たのだろう。若いだけあって気力が上昇すれば回復も早かった。
その日、片目を覆っている包帯はそのままだったが、背中の包帯は解かれた。彼はエースに浴室へと連れていかれ、暖かい湯の中に身体を沈めた。
「気持ち良いか?」
バスタブ越しに、傍観していたエースが問いかける。小さく頷きを返すと、微笑みが返って来た。
「後で、少し話をしよう」
そう言い残すと、後の世話を使用魔であるティムに任せ、先に浴室を出て行く。
その背中を見つめながら、彼は小さく溜め息を吐き出した。
この三日間、気がつくといつもエースが傍にいた。あたかも、それが当然であるかのように。
自分の傍に、常に誰かがいてくれた。そんなことは、今までの彼の記憶には皆無に等しかった。だからこそ、奇妙な感覚だったことも事実だった。
----僕は…いつまでここにいるの…?
そんな意識が過る。
ここは、自分の居場所ではない。彼にはそれがわかっていた。
天界人は、悪魔の敵。悪魔は、天界人の敵。お互いを必要とはしない。敵とは、そう言うもの。
だからこそ、皆剣を持ち、戦うのだと。
彼が唯一教わったのは、それだけだった。
そして彼は、自分の中の悪魔を切り放す為に、剣を握ったのだ。
一番大事な人に…愛されたくて。必要と、されたくて。
それなのに…どうして自分は、ここにいるのだろう?
理由が、まるでわからない。
再び、意識が混濁する。
自身の身体が、湯の中に沈み始める。
「あらあら、大変」
慌てたティムが彼をバスタブから引き上げてくれた。
タオルで身体を拭かれ、柔らかい衣服に包まれる頃、やっと意識がはっきりして来た。
「ちょっと、長湯をしてしまったかしら」
ティムは、そう言って小さく笑った。
これは、単なる湯あたりだったらしい。これから、御風呂での考え事はやめよう。
彼は、ぼんやりとそんなことを考えていた。
そう。何も考えなければいいのだ。
そうすれば…何れ、迎えに来てくれる。
それが、ささやかな期待だった。
ティムに抱えられ、彼はエースの自室へとやって来た。
自分が与えられた部屋から出たことがなかった彼には、この屋敷の何処もが初めての場所だった。
その部屋には、エースともう一名の姿があった。
「初めまして。俺はゼノン。エースの仲魔で、一応医者だよ。心配しないで」
その悪魔は、そう名乗った。彼のことを見て貰う為に、わざわざ人間界から呼び寄せたのだ。
「背中の傷は大丈夫みたいだね。俺の出番はもうないんじゃない?」
ゼノン彼の背中の傷を見ると、エースに向かってそう言葉を発する。その口調は笑いを含んでいて、安堵感さえ感じた。
「まだ残ってるだろ?メンタル面での治療が」
窓際に座って紫煙を吐き出していたエースは、銜えていた煙草を揉み消すとそう言って彼を抱き上げた。
「心配、するなよ。御前を傷つけやしない。ただちょっと、読み取らせて貰うが…いいか?」
視線を合わせ、そう問いかけるエース。
彼には、その言葉の意味するところが、良くわからなかった。
僅かに首を傾げると、ゼノンがくすっと小さく笑いを零す。
「その説明じゃ、理解出来ないと思うけど?」
「じゃ、御前が説明しろよ」
「良いよ」
ゼノンは彼をソファーに座らせ、視線を合わせた。
「声が、出ないんだってね」
問いかけられ、彼は頷く。
「言葉での会話が無理みたいだから、ちょっと頭の中の声を聞かせてくれる?君は、頭の中で直接考えるだけで良い。俺たちが、それを読ませて貰うから。意識を閉ざさないでくれればそれで良いから」
そう説明されれば、理解出来た。
話がしたい?一体、何の話をするのだろう?
その理由はわからなかったが、彼は小さく頷いていた。
目の前のゼノンが…エースが、優しく微笑むから。
「君の、名前は?」
改めて、問いかけられる。
一瞬、思いを巡らせた彼は、それを伝えた。
----知らない…
「知らない…?」
声を上げたのは、エース。
「どうして知らないの?」
問いかけたのは、ゼノン。
----…呼ばれたことがないから、知らない…
「……」
エースとゼノンは、顔を見合わせている。二名とも、怪訝に思っているようだ。
「誰も…君の名前を、呼ばなかったの?」
----そう。
何の為に、そんなことを聞くのだろう。
名前など、何の訳に立つと言うのだろう。名前があれば、愛して貰えるの?
多分それは、子供らしくない考えだと思う。彼にもそれはわかっていた。だが、そう考えることしか出来なかった。
彼は多分、他の同年代の子供に比べ、色々なことを考えただろう。
考えることしか、やることがなかったのだ。
食事を運ばれる以外、誰も来ない。誰も、彼に呼びかけない。彼も、誰にも、呼びかけない。声を出すことも、必要とはしなかった。
物心ついた時から、薄暗い部屋に、彼はいつも独り。だから、身の回りのことも自分で全部出来る。
誰にも会わないから、名前は必要ないと思っていたのかも知れない。
そんな思考まで、彼らは読み取ったのだろうか。彼らが浮かべている表情は、とても複雑である。
「翼を切った時…痛かった?」
今度は、そう問いかけられた。
----何も…感じなかった。
そう。痛みなど、感じている暇はなかったはず。それよりももっと、大切なことがあったから。
「失った君の翼と瞳は、何色だったの?」
問いかける声に、彼は思いを巡らせた。
----母様が…嫌いな色。
彼は、それだけ告げた。それ以上、何も考えなかった。
考えれば考えるだけ…胸が、痛くなるから。
肉体的な痛みは感じないのに、胸が痛いと思う感覚もまた、わからなかった。
エースとゼノンから、小さな溜め息が零れた。
「それ以上、話したくないんだね。わかったよ。もう聞かないから」
意識をシャットアウトしたことで、それを感じ取ったのだろう。ゼノンはそう口を開き、暫く口を噤んでいた。
エースはその間、火の付いていない煙草を銜えたまま、じっと彼を見つめていた。
暫しの沈黙の後、ゼノンは彼に、にっこりと笑いかけた。
「エースは優しい?」
突然変わった質問に、彼は一瞬息を飲んだ。そして、エースへと視線を巡らせる。
エースはと言うと…僅かに頬を染め、ゼノンを睨み付けていた。
僅かに、思いを巡らせる。
そして、小さく頷いた。
「そう。良かったね。良い悪魔に助けられたね」
ゼノンは、その掌で彼の頭を撫でた。
その手は…エースと同じように、暖かかった。
ティムが彼を寝室へと連れて行くと、エースとゼノンは向き合ってソファーに腰を降ろした。
「御前には、何が見えた?」
エースの問いかけに、ゼノンは一つ間を置いて答える。
「捨てられたんだね、きっと」
「やっぱり、そう思うか?」
「多分…常識で考えるなら、ね」
そう言って、淹れたばかりのコーヒーに口を付ける。
「彼が言っていたことを一つ一つ当て填めていくと、そう言う結論に辿り着くんじゃない?彼が切った翼の色。潰した瞳の色。今ではわからないけれど、きっと…悪魔の色、だったんだろうね」
「堕天使、か…」
エースが見つけた時には既に、失くした翼の色はわからなかった。そして、潰した瞳の色も。だが、彼が伝えた言葉が、それを明らかにしていたのだ。
母様が、嫌いな色。
悪魔を疎む、天界人らしい答えだった。
「でも、珍しいね。翼の半分と瞳の半分以外は、ちゃんと天界人だよ。普通、堕天使だったら、全部染まっていそうなものだけれど…」
遺伝子の優劣から言って、悪魔の遺伝子の方が天界人よりも強いことは、良くわかっていた。だからこそ、ほんの僅かしか現れていない"悪魔の色"の意味が、複雑なのだ。
「親の出身が、良いんだろ?若しくは…それにプラスして、"悪魔の種"を保有する誰かと、天界人との間に出来た子か…」
「成程ね。多分、その両方を兼ね備えた結果、なんだろうね」
エースの的確な答えに、ゼノンも納得した。
悪魔の能力を抑えるだけの能力を持つ親ならば、きっとそれも説明が付くだろう。
即ち、彼は、下級の天界人ではないのだ。だからこそ…隔離され、捨てられたのだろう。
忌み嫌われる…堕天使として。
「ルークに…逢わせてみる?」
ふと、ゼノンがそれを口にした。
「彼の心開くには、それが一番の近道だと思うけど…」
「それで、ルークが納得するか?」
エースの機嫌は、宜しくないらしい。そう言う事で引き合いに出されることが、ルークが一番嫌がることだとわかっているから。
「…納得はしないとわかってるよ。でも、同族でしょ?一番、安心出来る場所だと思うけどな、俺は」
「同族だから、慰め合えるってことか?下劣な思考だな」
「傷を嘗め合う訳じゃないよ。立ち直る為の術を見つけるんだ。多分彼は…自分が捨てられたのだと、気がついていない。ここにいる理由が、わからないんだ。だから、そのうち迎えが来ると思ってるかも知れない。そんな期待だけを抱かせて、その後絶望を味合わせる程、俺は下劣じゃないつもりだよ」
今のゼノンの思考は、あくまでも医師としての思考。だからこそ、時には酷な意見も平然と口にする。
大きく溜め息を吐き出し、エースは自分のカップに口を付けた。
いつものように、美味しいと感じない。自分の舌が可笑しいのだろうか?否、可笑しいのは、思考だ。
常に、冷静さを保っていたはずのエースの思考が、迷走しているようだった。
「らしくないよ、エース。そんなことで迷うだなんて」
くすっと、ゼノンが笑った。
そう、らしくない。
「吸わせて貰うぞ」
エースは煙草に火を付け、紫煙を燻らせた。
「美味しい?」
ゼノンが問いかける。彼は、煙草の煙を抹殺したいくらい、嫌いなはずだった。
「精神安定剤だからな。御前にはわからないだろうけど」
「わからないね。わかりたくもない」
そう言って、ソファーから立ち上がり、窓を開けるゼノン。
「露骨だな。ライデンにもいつもそうやってるのか?」
彼の恋悪魔であり、同じヘビースモーカーのライデンを、エースはこの時ばかりは少し不憫に思った。
「仄かな残り香は嫌いじゃないよ。煙自体が許せないだけ。煙草を吸うこと自体に、文句はつけてないでしょ?まぁ、吸わないでいてくれるに越したことはないけど」
「…何とでも。御前に喫煙者の気持ちはわからないだろうよ。煙の出ない煙草じゃ、雰囲気も出やしない。流行の線香じゃあるまいし…」
「そうだね。きっとわからないよ。線香を吸おうとは思わないしね」
他合いもない会話。だが、エースの思考は、その会話の途中でしっかりとした意識を取り戻していた。
「ルークに、会わせてみるか」
そう、決断すると、ゼノンは小さく笑った。
「きっと今頃、譜面起こすので忙しいと思うよ。御前が帰って来るのと、デーモンとルークが一曲ずつ曲を書くのと、どっちが早いか試してる最中だからね」
「…ヒトがいないのを良い事に、そんなことに利用してんのか…それをわかってて言い出すんだもんな。良い性格だよ、御前も」
小さな溜め息を吐き出したエース。まぁ、帰った時に新曲が二曲もあれば、それはそれで助かるのだが。
「今、新曲が出来ていれば助かると思ったでしょ?良い性格はお互いサマ、じゃない」
「…うるせぇな…新曲があれば、俺たちは助かるだろうが」
「まぁね」
くすくすと笑いながら、ゼノンは飲みかけのコーヒーを煽ると、踵を返した。
「じゃあ、取り合えず帰るよ。ルークには話しておくから。何かあったら呼んで」
「あぁ」
軽く手を上げ、ゼノンは部屋から出て行った。
残されたエースは、小さな溜め息を零していた。
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プロフィール
HN:
如月藍砂(きさらぎ・あいざ)
性別:
非公開
自己紹介:
がっつりA宗です。(笑)
趣味は妄想のおバカな物書きです。
筋金入りのオジコンです…(^^;
但し愛らしいおっさんに限る!(笑)
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